説明

ヘテロ環含有重合性化合物およびその製造方法並びにそれを含む硬化性組成物

【課題】硬化性組成物として用いる場合に、単独での重合もしくは他の重合性化合物(アクリレート、メタアクリレート、スチレン等)との共重合において高い重合性を有するヘテロ環含有重合性化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを反応させて得られるヘテロ環含有重合性化合物と、(B)重合開始剤を含有することを特徴とする硬化性組成物により上記目的が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単独で若しくは他の重合性組成物との共重合において、高い重合性を有するヘテロ環含有重合性化合物、及びその製造方法、並びに前記重合性化合物を含む硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ環含有重合性化合物(モノマー)の例として、様々なヘテロ環含有ビニル化合物が知られている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
しかし、ヘテロ環含有ビニル化合物は、単独での重合性、あるいはアクリレート、メタクリレート、スチレン等の重合性化合物との共重合性が低く、特に非芳香族ヘテロ環含有ビニル化合物の場合には更に重合速度が遅くなる傾向が著しい。
従来、ヘテロ環を含む(メタ)アクリルアミド誘導体については非常に限られた種類の化合物が報告されている(非特許文献4、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】カナダ特許第993877号
【非特許文献1】Function Monomers Vol.2“Reactive Heterocyclic Monomers”, chapter 1, Marcel Dekker Inc. N.Y. (1974)
【非特許文献2】高分子データハンドブック(高分子学会編、共立出版)、p.175-184(1985)
【非特許文献3】高分子実験学2、単量体I(高分子学会編、共立出版)、p.340, 347, 378(1976)
【非特許文献4】J.Org.Chem.,, Vol32, 728-733(1967)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、重合性の高い、ヘテロ環含有重合性化合物を提供することである。特に、硬化性組成物として用いる場合に、単独での重合もしくは他の重合性化合物(アクリレート、メタクリレート、スチレン等)との共重合において高い重合性を有するヘテロ環含有重合性化合物、更にその製造方法、並びに前記重合性化合物を含有する硬化性組成物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物との反応を検討した結果、酸触媒の存在下で反応することにより、高収率でヘテロ環含有重合性化合物を得ることができることを見出し、更に得られたヘテロ環含有重合性化合物が、高い重合性を有しながら、ヘテロ環特有の機能を発現しえる、優れた重合性化合物であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0006】
本発明はすなわち、以下のとおりである。
<1>
(A)(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを反応させて得られるヘテロ環含有重合性化合物と、(B)重合開始剤を含有することを特徴とする、硬化性組成物。
<2>
前記(A)ヘテロ環含有重合性化合物が、下記一般式で表されることを特徴とする、上記<1>に記載の硬化性組成物。

0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、
1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基。
<3>
下記一般式で表されるヘテロ環含有重合性化合物。

0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、
1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基。
<4>
下記式で表される(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物又はアクリルアミド化合物とを、酸触媒存在下反応させることにより、上記<3>に記載のヘテロ環含有重合性化合物を製造する方法。

式中、R0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、である。

式中、R1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基、
である。
<5>
酸触媒が、塩酸、硫酸、塩酸ガス、リン酸、有機スルホン酸からなる群より選択される酸である、上記<4>記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヘテロ環含有重合性化合物は、従来知られているヘテロ環含有重合性化合物よりも、単独重合においても共重合においても高い重合性を有する。従って、ヘテロ環特有の機能(例えば重合時の希釈剤、柔軟性の付与)を発揮する重合体を効率良く得ることができる。
また、本発明の硬化性組成物は、ヘテロ環特有の機能を発揮し、かつ硬化性の高い組成物として、インク、インキ、接着剤、レジスト、印刷版、光学材料の分野において特に有用に用いることができる。
また、本発明のヘテロ環含有重合性化合物の製造方法は、公知の様々なヘテロ環含有化合物を利用して、高収率で、高い重合性を有するヘテロ環含有重合性化合物を製造することができる方法であり、工業的に非常に有用である。本発明の製造方法は、多様なヘテロ環含有重合性化合物に適用できる点においても従来の方法に比べ、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(A)ヘテロ環含有重合性化合物
本発明のヘテロ環含有重合性化合物は、(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物(以下「ヘテロ環含有ビニル化合物」ともいう)と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを反応させた生成物である。なお、本明細書において、アクリレート化合物とは、“アクリレート基”(CH2=CH-COO-またはCH2=C(R)-COO-(カルボキシル基のα位炭素にメチル基その他の置換基Rを有する構造も含む)、さらにチオアクリレート基(CH2=CH-COS-またはCH2=C(R)-COS-)を含む)を少なくとも一部に有する化合物を意味する。アクリルアミド化合物も同様に、“アクリルアミド基”(CH2=CH-CONR'-またはCH2=C(R)-CONR'-)を一部に有する化合物を意味する。
【0009】
(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物
分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物は、少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を含む化合物である。
本明細書において、ヘテロ環とは、2種またはそれ以上の元素の原子(炭素のほか、窒素、酸素、硫黄など)から環が構成されている環式化合物をいう。
具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、フラザン、あるいはこれらの水素化物等の5員環構造を有する化合物、ピラン,チオピラン、ピリジン、ピペリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、モルホリンあるいはこれらの水素化物等の6員環構造を有する化合物、そのほか、3員環、4員環、7員環、8員環構造を有する化合物も挙げられる。また、ピロリドンやγ−ラクトンのようなラクトン類、ラクタム類、あるいは上述したヘテロ環構造上にケトンを有する化合物もヘテロ環化合物の一種である。
また、ベンゾフラン、インドール、カルバゾール、ベンズイミダゾール、ナフチリジン、プリン、フェノキサジン、クロマン、キヌクリジンなど多環式の化合物もヘテロ環の一種である。
多環式ヘテロ環と単環式ヘテロ環を区別する場合には、それぞれ“多環式ヘテロ環”、“単環式ヘテロ環”と呼び、単に“ヘテロ環”という場合には両者を含む。
【0010】
本発明の(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物として、下記一般式(a)で表されるものが好ましい。

式中、R0は水素原子またはメチル基である。Xは、3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、からn個の水素原子を除いて誘導されるn価の基である。nは1〜8を表す。nは1または2が好ましく、1がもっとも好ましい。
【0011】
Xにおけるヘテロ環として好ましくは、窒素、酸素、硫黄から選択される少なくとも一つの原子を含むヘテロ環が好ましい。更に好ましくは、少なくとも1〜3の窒素元素を含むヘテロ環が好ましい。
また、ヘテロ環内の窒素原子とビニル基との付加反応抑制の観点から、ヘテロ環は塩基性が低いものが好ましい。好ましくは、少なくとも一つの窒素原子を含み、窒素原子に隣接して少なくとも一つのカルボニル基を有するヘテロ環が好ましい。より好ましくは、下記構造式で表されるm員環のヘテロ環である。

【0012】
上記式で表されるヘテロ環の更に具体例として、例えば、γ−ブチロラクタム環(ピロリジノン)、δ−バレロラクタム環、ε−カプロラクタム環、γ−ブチロラクトン環、δ−バレロラクトン環、ε−カプロラクトン環、イミダゾリドン、ピラゾロン、ヒダントイン、バルビツル酸、イサチン、キノロン、ピリドン、オキサゾリドン、ピロン、クマリン等が挙げられる。
【0013】
一般式(a)で示される分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物の具体例としては下記化合物が挙げられる。













































【0014】























【0015】
















【0016】

【0017】
このほか、高分子データハンドブック(高分子学会編、共立出版)、p.175-184(1985)に記載されているヘテロ環を有するビニル化合物も挙げることができる。
一般式(a)の変形として、一般式(a)'で表される化合物は、前述の高分子データハンドブック、Function Monomers Vol.2“Reactive Hterocyclic Monomers”, chapter 1, Marcel Dekker Inc. N.Y. (1974)等に記載される従来公知の方法により合成することができる。
【0018】
(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物
分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物としては、下記式(b)または(b’)で表される化合物が挙げられる。
【0019】

【0020】
一般式(b)及び(b’)において、各基の定義は以下のとおりである。
1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基(置換基としては、クロロ、フルオロ、ブロモ等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキルオキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、及び炭素数1〜10のアシルオキシ基からなる群より選択される基が挙げられる。)
2:置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基(アルキル基またはアリール基上の置換基としては、クロロ、フルオロ、ブロモ等のハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキルオキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、及び炭素数1〜10のアシルオキシ基からなる群より選択される基が挙げられる。)、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基。
【0021】
0の二価の連結基の例としては下記の基が挙げられる。
−(CH2n− (nは1〜12の整数)
−(C24O)m− (mは1〜9の整数)

上記式中、R4は、置換若しくは無置換の、炭素数1〜10のアルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基を表す。
【0022】
一般式(b)または(b')で表される化合物の具体例として、下記化合物が挙げられる。























【0023】

【0024】
本発明のヘテロ環含有重合性化合物は、上述した(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを、適当な溶媒中で、好ましくは酸触媒存在下に反応させて、目的のヘテロ環含有重合性化合物を製造する。
反応スキームを一般式で表すと以下のようになる。
【0025】
(反応スキーム)

【0026】
式中、X,Z,R0,R1、R2、L0の各定義は、一般式(a)あるいは(b)において述べたとおりである。なお、上記式において、式(a)においてn=1のものを例として記載したが、nが2以上の式(a)で表されるヘテロ環含有ビニル化合物も、上記スキームに従って、同様に反応を行うことができる。(a)中のビニル基の数nに応じて、反応させる(b)あるいは(b’)化合物のモル数を変化させてもよい。
【0027】
(酸触媒)
酸触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、塩酸ガス、有機スルホン酸等の、水酸基を活性化してビニル基と反応させるための酸性水素を与える酸化合物が挙げられる。
これらの酸触媒は、分子内に結晶水等の水を含まないことが好ましい。
特に好ましい酸触媒として、硫酸、塩酸ガス、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、若しくは1,5-ナフタレンスルホン酸が挙げられる。
【0028】
酸触媒の使用量は、(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物に対して、0.001〜1質量%、より好ましくは0.001〜0.1質量%、更に好ましくは0.005〜0.05質量%の範囲で添加することが好ましい。
これらの酸触媒を反応系に添加する時には、発熱が起こりやすいため、−10℃〜5℃程度に反応系を冷却した後、添加することが好ましい。特に、発熱反応による温度上昇は、10℃程度以下に抑えることが好ましい。
【0029】
(反応溶媒)
上記反応に用いられる溶媒としては、水酸基を有さない不活性溶媒が好ましい。不活性溶媒は、できるだけ水を含まないことが好ましく、水の含有率は1%以下であることがさらに好ましい。
適当な不活性溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリルが挙げられる。
【0030】
溶媒の使用量は、ヘテロ環含有ビニル化合物に対し4〜10質量倍が好ましい。より好ましくは、4〜6質量倍の範囲で用いられることが好ましい。
【0031】
(その他の添加剤)
上記反応において、アクリレート、アクリルアミドが重合しないように、反応系に重合防止剤または重合禁止剤等他の添加剤を添加することが好ましい。
重合防止剤としては、ヒドロキノン、4−t−ブチル−ヒドロキノン、2,4−ジ−t−ブチル−ヒドロキノン等のキノン類、2,4−t−ブチル−フェノール、4−メトキシフェノール等のフェノール類が挙げられるが、特に限定されない。添加量も反応系に応じて適宜決定することができる。添加量は、例えば、アクリレート、アクリルアミドの質量に対して、0.001〜1質量%程度である。
【0032】
(反応温度)
上記反応において反応温度は、特に限定されるものではないが、−10℃〜45℃の範囲が好ましく、特に−5℃〜25℃の範囲がより好ましい。
【0033】
(反応時間)
本発明の方法において反応時間は、ヘテロ環含有ビニル化合物、水酸基含有アクリル系化合物、酸触媒及び反応溶媒等の種類や組み合わせ、使用量に応じて、適宜設定すればよい。特に限定されるものではないが、凡そ6時間〜24時間で反応が終了するのが、副生成物の生成抑制の観点から好ましい。
【0034】
(反応終了の判断)
本発明の方法において、反応終了は、有機合成の分野で知られている様々な方法により判断して行うことができる。例えば、反応液中の(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物の量を、HPLCあるいはTLCあるいはガスクロマトグラフィー等の手段により検出して、ピークの消失により反応終了と判断してもよい。
【0035】
(反応手順)
本発明の方法において、上述した試薬を添加する順序等は特に限定されないが、例えば以下のような手順により反応を効率よく行うことができる。
(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを、反応溶媒に溶解あるいは懸濁し、溶液を任意に冷却し、攪拌下、酸触媒を添加する。反応液を適当な温度において、反応が終了するまで攪拌する。(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物、酸触媒の添加の順番は適宜変更してもよく、また化合物の当量数は、反応収率あるいは原料化合物の種類等によって適宜決定することができる。
【0036】
<反応液の処理>
上記反応終了後、反応液のpHを塩基等で中和あるいは適当なpHに調整し、減圧下、溶媒を留去してもよい。また、中和後、酢酸エチル等の有機溶媒で生成物を抽出してもよい。有機相はその後、乾燥、減圧濃縮する。
溶媒を留去した残渣あるいは、有機溶媒抽出液の減圧濃縮液は、更にシリカゲルクロマトグラフィー等の精製手段により精製して、目的物を得る。
【0037】
上記反応により得られる、本発明のヘテロ環含有重合性化合物は下記一般式(A)または(A’)で表される化合物である。

【0038】
上記式中、R1、R2、Z、L0、R0、Xの定義は、式(a)(b)について述べたとおりである。
本発明のヘテロ環含有重合性化合物(A)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。



































【0039】




【0040】

【0041】
上記化合物のうち、重合性能、重合時の希釈剤の観点から、特に、ヘテロ環にアミド部位を一個以上含有しているヘテロ環を有するものが好ましい。
【0042】
(B)重合開始剤
本発明の硬化性組成物は重合開始剤を含有する。重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができる。本発明において、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
本発明の硬化性組成物に使用する重合開始剤は、外部エネルギーを吸収して重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱及び放射線に大別され、それぞれ、熱重合開始剤及び光重合開始剤が使用される。従って、本発明の硬化性組成物は好ましくは、放射線硬化性組成物(光硬化性組成物)あるいは熱硬化性組成物である。
放射線には、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。
電子線を照射して重合性化合物を硬化させるときには、重合開始剤を使用しないでも硬化できる場合がある。
【0043】
(B−1)ラジカル重合開始剤
本発明で使用され得る好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)アシルフォスフィン化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、上記(a)〜(m)の化合物を単独若しくは組み合わせて使用してもよい。本発明におけるラジカル重合開始剤は単独もしくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
【0044】
(B−2)カチオン重合開始剤
本発明において、後述するように、カチオン重合性化合物を併用する場合には、カチオン重合開始剤を併用することが好ましい。
本発明で使用され得る好ましいカチオン重合開始剤(光酸発生剤)としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。本発明に好適なカチオン重合開始剤の例を以下に挙げる。
【0045】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C654-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-塩を挙げることができる。第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができる。第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができる。第4に、鉄アレン錯体を挙げることができる。
【0046】
本発明における重合開始剤は単独もしくは2種以上の併用によって好適に用いられる。これらの(B)重合開始剤は、(A)成分である重合性化合物100重量部に対して、或いは、任意成分としての(C)他の重合性化合物を併用する場合には、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは、0.1〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部の範囲で含有されるのが適当である。
【0047】
他の重合性化合物(C)としては、ラジカル重合系では重合可能な二重結合を有する(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、スチレン化合物等が挙げられる。カチオン重合系では、オキセタン化合物、エポキシ化合物、ビニル化合物等が挙げられる。本発明において、これらの重合性化合物は、単官能、多官能であってもよく、更に使用用途において、オリゴマーを添加してもよい。これらオリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、ウレタン基からなるオリゴマー等が挙げられる。
【0048】
本発明の硬化性組成物には、前記必須成分に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、物性向上などの目的で、他の成分を併用することができる。これら任意の成分について以下に説明する。
【実施例】
【0049】
〔実施例1〕
ヘテロ環含有重合性化合物A−1の合成
N−ビニルピロリドン(a−12)(45 g,0.405 モル)、ヒドロキシエチルアクリレート(b−1)(47 g,0.405 モル)、アセトニトリル(200 ml)の混合溶液を、0℃以下に冷却した中に、メタンスルホン酸(0.1 g)を、反応液の内温が+5℃以上にならない様に滴下速度を調整しながら、滴下した。滴下後、反応液の温度を室温(20℃〜25℃)に戻し、同温度で6時間反応を行った。N−ビニルピロリドンの消失をTLCによって確認し、反応を終了させた。
反応液の処理は、トリエチルアミンを反応系に加えて反応液を中和した後、減圧下、アセトニトリルを留去することにより行った。
反応濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで分離して、目的とするA−1化合物を無色オイルとして得た(69 g、収率 75%)。
1H-NMR δ(CDCl3)
6.43(d, 1H), 6.15(q, 1H), 5.86(d, 1H), 5.48(t, 1H), 4.27(m, 2H), 3.64(m, 2H), 3.37(m, 2H), 2.45(m, 2H), 2.05(m, 2H), 1.35(d, 3H)
【0050】
〔実施例2〕
ヘテロ環含有重合性化合物A−21の合成
実施例1の“ヒドロキシエチルアクリレート”の代わりに、γ−ヒドロキシメチル−シクロヘキシルアクリレート(b−16)(15.5 g、0.084 モル)、等モルのN-ビニルピロリドンを用いて、実施例1と同様に反応を行った。ただし反応は、N−ビニルピロリドンが消失するまで、10時間行った。
反応液を水にあけ、酢酸エチル(300 ml)を加えて抽出した。酢酸エチル相を水で二回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下、酢酸エチルを留去した。
反応濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで分離して、目的とするA−21化合物を無色オイルとして得た(17 g、収率 70%)。
1H-NMR δ(CDCl3)
6.27(s, 1H), 5.83(s, 1H), 5.50(t, 1H), 4.85(m, 1H), 4.13(q, 2H), 3.43(m, 2H), 2.45(m, 2H), 2.1-1.2(m, 15H)
【0051】
〔実施例3〕
表1に示す重合性化合物を、実施例1、2と同様の方法で合成し、重合性の評価及び経時安定性を評価した。
重合性の評価は、重合開始剤として“Irgacure1870”を、評価する重合性化合物に対して、モル比で3%濃度のモノマー反応液を調整し、深さ10μm鋳型に加え、Xeランプで46.7mW/cm2の照射量で2.8秒照射した。照射前後のRT−FTIRでの二重結合由来の吸収の変化をモニターし、重合度を算出した。
経時での安定性は、重合禁止剤を含まない重合性化合物を室温で2週間遮光、密閉容器に保存した後の形態を目視した。結果を表1に示す。




【0052】
【表1】

【0053】
M−1:


M−2:


M−3:

【0054】
本発明のヘテロ環含有重合性化合物の重合性は、ヘテロ環を含有しないアクリレートと同等以上の重合性を示した。一方、アクリレートを含有しない同等のヘテロ環含有ビニル重合性化合物は、殆ど重合性を示さなかった。(ただし、光照射後も重合の伸び(暗重合)が観測された。)
本発明のヘテロ環含有重合性化合物の経時での安定性は、ヘテロ環を含有しないアクリレートと同等の安定性性を示した。一方、アクリレート基を含有しない同等のヘテロ環含有ビニル重合性化合物は、経時で重合が起こり、ゲル化した。これは、重合性の評価で観測されたように、一端、ラジカルが発生するとラジカルモノマーの反応性が高く、暗重合が進行したものと考えられる。
【0055】
〔実施例4〕
本発明のヘテロ環含有重合性化合物(A-2)45部、Actilane 421(Akcros社製アクリレートモノマー)55部、光開始剤Irgacure184 4.0部、ベンゾフェノン(光開始剤)4.0部からなる組成物をポリ塩化ビニル製のシートに塗布し、紫外線ランプ(パワ−120W/cm)の光線下に40m/minの速度で数回通過させることによる照射で組成物を硬化させた。
硬化性は硬化後の硬化物を触診により評価し、硬化に必要な積算露光量を算出した。柔軟性の評価は、シートを10回折り曲げた後に硬化膜に生じた亀裂の程度によって評価した。この折り曲げ試験は、亀裂がまったく生じない状態を5点とした5段階評価で行い、3点以上を実用上問題のない状態と評価した。
【0056】
〔比較例4−1〕
本発明のヘテロ環含有重合性化合物の代わりにN−ビニルカプロラクタム45部を用いた他は、実施例4と同様の方法により組成物を得た。
【0057】
〔比較例4−2〕
本発明のヘテロ環含有重合性化合物の代わりにヘテロ環を含有しないアクリレートとして、ライトアクリレートL-A(共栄社化学製)45部を用いた他は、実施例4と同様の方法により組成物を得た。
これら組成物の硬化性、柔軟性を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
ヘテロ環を含有する重合性化合物では、柔軟性に優れているが本発明の重合性化合物に比べアクリレートを持たないビニル重合性化合物は硬化性が低い(硬化速度が遅い)。一方、ヘテロ環を含有しないアクリレート重合性化合物では、硬化性は十分であったが、折り曲げにより硬化膜に著しい亀裂が入り、実用上問題となるレベルであった。
【0060】
〔実施例5〕
実施例4のActilane421 55部の代わりにActilane200TP20(脂肪族ウレタンアクリレート、分子量1200、粘度8000-10000(CPS/25℃))15部、Actilane421 40部を用いた他は、実施例4と同様な方法により組成物を得た。
【0061】
〔比較例5−1)
実施例4−1のActilane421 55部の代わりにActilane200TP20(脂肪族ウレタンアクリレート、分子量1200、粘度8000-10000(CPS/25℃))15部、Actilane421 40部を用いた他は、比較例4-1と同様な方法により組成物を得た。
【0062】
〔比較例5−2〕
実施例4−2のActilane421 55部の代わりにActilane200TP20(脂肪族ウレタンアクリレート、分子量1200、粘度8000-10000(CPS/25℃))15部、Actilane421 40部を用いた他は、比較例4−2と同様な方法により組成物を得た。
【0063】
希釈剤としての効果を確認するために、粘度測定及び実施例4と同様の硬化性試験、折り曲げ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0064】

【0065】
ヘテロ環を含有する重合性化合物では、希釈効果、柔軟性に優れているが本発明の重合性化合物に比べアクリレートを持たないビニル重合性化合物は硬化性が低い(硬化が遅い)(比較例5−1)。一方、ヘテロ環を含有しないアクリレート重合性化合物では、硬化性は十分であったが、希釈の効果(粘度)は、ヘテロ環を含有する重合性化合物に比べ劣るものであり、また柔軟性も低かった(比較例5−2)。
【0066】
本発明のヘテロ環を有する重合性化合物(モノマー)は、ヘテロ環特有の機能を有しながら高い重合性を有し、さらに簡便な方法で合成でき、インク、インキ、接着剤、レジスト、印刷版、光学材料の分野において特に有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物またはアクリルアミド化合物とを反応させて得られるヘテロ環含有重合性化合物と、(B)重合開始剤を含有することを特徴とする、硬化性組成物。
【請求項2】
前記(A)ヘテロ環含有重合性化合物が、下記一般式で表されることを特徴とする、請求項1に記載の硬化性組成物。

0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、
1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基。
【請求項3】
下記一般式で表されるヘテロ環含有重合性化合物。

0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、
1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基。
【請求項4】
下記式で表される(a)分子内に少なくとも一つのヘテロ環と少なくとも一つのビニル基を有する化合物と、(b)分子内に少なくとも一つの水酸基を有するアクリレート化合物又はアクリルアミド化合物とを、酸触媒存在下反応させることにより、請求項3に記載のヘテロ環含有重合性化合物を製造する方法。

式中、R0:水素原子またはメチル基、
X:3員環〜8員環の単環式ヘテロ環、若しくは、ベンゼン環と3員環〜8員環の単環式ヘテロ環との組み合わせからなるベンゾヘテロ環、から水素原子を除いて誘導される一価の基、である。

式中、R1:水素原子、または置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、
2:水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、
Z:−O−、−S−、または−NR3−(R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖あるいは環状アルキル基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基である。)、
0:二価の連結基、
である。
【請求項5】
酸触媒が、塩酸、硫酸、塩酸ガス、リン酸、有機スルホン酸からなる群より選択される酸である、請求項4記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−84337(P2009−84337A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253440(P2007−253440)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】