説明

ヘリカル歯車の製造方法

【課題】歯の成形開始側に欠肉を生じさせることなく、また、歯の成形終了側に膨出部を生じさせることなく、精度の高いヘリカル歯車の製造方法を提供する。
【解決手段】ダイスの歯形部に予備歯車W3を一端側から圧入して前記予備歯車W3の外周にヘリカル歯部23を形成するヘリカル歯車の鍛造成形方法において、予備歯車W3の外径は最初にダイスの歯形部に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端側12aが歯部成形が終了する軸方向他端側12bより大径に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周にヘリカル歯形が形成されるヘリカル歯車の鍛造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】

従来、外周にヘリカル歯を有するヘリカル歯車を形成する場合、予め素材から円盤状又はリング状の鍛造品を鍛造にて成形後、ギヤシェービング又はホブ等切削加工にて鍛造品の外周にヘリカル歯を成形してヘリカル歯車を形成することが多く実施されてきた。
【0003】
しかし切削加工を行うと、工程の増加によるコスト高や製造時間が多くかかることなどから、鍛造によりヘリカル歯を成形する方法が求められている。その方法としては、鍛造装置のダイスの中にヘリカル歯車の素材を配置し、ダイスの一方側からパンチを押し込んで素材の一端側から加圧すると同時に、他端側から別のパンチによって加圧し、二つのパンチにより素材を挟み込んだ状態でダイスの歯形成形部を通過させてヘリカル歯を成形するという方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−28040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでヘリカル歯車においては、歯が傾斜しているため、歯の成形の進行に伴って抵抗が大きくなり、歯部成形が終了する軸方向他端側にかかる荷重が漸次増加する事象が発生する。すると、図7に示されるヘリカル歯車W104の如く、歯部成形が開始される軸方向一端112a側ではヘリカル歯部121の歯先に欠肉が発生する。また、歯の成形が終了する軸方向他端112b側では所望の径より膨出する膨出部が形成される。
【0006】
特許文献1記載の成形方法においても、筒状の歯車素材に加圧パンチで加圧し、ダイスの歯形成形部を通過させて歯形を成形しているが、歯形の成形が開始される歯車素材の他端側から一端側に向けて漸次抵抗が増加するため、一端側では歯先に欠肉が生じることが考えられる。
【0007】
本発明は、上記事情により鑑みなされたもので、歯形部が形成されたダイスに予備歯車を一端側から圧入して予備歯車の外周にヘリカル歯部を形成するヘリカル歯車の鍛造成形方法において、歯部成形が開始される軸方向一端側に欠肉を生じさせることなく、また、歯部成形が終了する軸方向他端側に膨出部を生じさせることなく、精度の高いヘリカル歯を成形することができるヘリカル歯車の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のヘリカル歯車の製造方法は、ダイスの歯形部に予備歯車を一端側から圧入して予備歯車の外周にヘリカル歯部を形成するヘリカル歯車の鍛造成形方法において、予備歯車の外径は最初にダイスの歯形部に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端側が、歯部成形が終了する軸方向他端側より大径に形成されていることを第一の特徴とする。
【0009】
本発明のヘリカル歯車の製造方法は、予備歯車の外周形状を切削加工で成形することを第二の特徴とする。
【0010】
本発明のヘリカル歯車の製造方法は、予備歯車をダイスに軸方向一端側から圧入して外周にヘリカル歯部を成形する第一成形工程と、外周にヘリカル歯部が成形された予備歯車の軸方向一端側端面をダイス内周に配置されるパンチで押圧する第二成形工程と、を有することを第三の特徴とする。
【0011】
本発明のヘリカル歯車の製造方法は、ヘリカル歯部が形成される第一歯部と、第一歯部から連続し、第一歯部の外径より大径の第二大径部を備えているヘリカル歯車を鍛造成形することを第四の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明における第一の特徴のヘリカル歯車の製造方法によれば、ダイスの歯形部に予備歯車を一端側から圧入して予備歯車の外周にヘリカル歯部を形成するヘリカル歯車の鍛造成形方法において、予備歯車の外径は最初にダイスの歯形部に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端側が、歯部成形が終了する軸方向他端側より大径に形成されているので、歯部成形開始側から歯成形予定部にかかる荷重が漸次高くなっても、予め歯成形終了側の軸方向他端側が小径なので、肉が多く流動したとしても、所望の歯先径より大きく膨出するのを防ぐことができる。また、歯先成形開始側である軸方向一端側においても、予め大径に形成されているので、歯先まで肉が流れて欠肉が生じるのを防ぐことができる。
【0013】
本発明における第二の特徴のヘリカル歯車の製造方法によれば、予備歯車の外周形状を切削加工で成形するので、外周形状を所望の形状に成形することができる。
【0014】
本発明における第三の特徴のヘリカル歯車の製造方法によれば、予備歯車をダイスに軸方向一端側から圧入して外周に歯を成形する第一成形工程と、外周にヘリカル歯部が成形された予備歯車の軸方向一端側端面をダイス内周に配置されるパンチで押圧する第二成形工程とを有するので、第一成形工程で形成された歯を更に歯形部内に拡張させることができ、より歯先の精度の高いヘリカル歯部を成形することができる。
【0015】
本発明の第四の特徴のヘリカル歯車の製造方法によれば、ヘリカル歯部が形成される第一歯部と、第一歯部から連続し、第一歯部の外径より大径の第二大径部を備えているヘリカル歯車を鍛造成形するので、ヘリカル歯部成形時に第一歯部を密閉して成形することができないが、歯部成形が終了する軸方向他端側に膨出部が発生することなく、第一歯部のヘリカル歯部を鍛造成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のヘリカル歯車の製造工程を表す断面平面図である。
【図2】本発明の予備歯車の要部拡大図である。
【図3】本発明の予備歯車の外周にヘリカル歯部を鍛造成形する工程を表し、左側が予備歯車の成形前、右側が成形中を表す部分断面平面図である。
【図4】本発明の予備歯車にヘリカル歯車を成形する前の状態を表す断面平面図である。
【図5】本発明の予備歯車の鍛造成形工程における第一工程の状態を表す断面平面図である。
【図6】本発明の予備歯車の鍛造成形工程における第二工程の状態を表す断面平面図である。
【図7】従来の成形方法で製造されたヘリカル歯車を表す断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0018】
まず、図1に基づいて本発明におけるヘリカル歯車W4の成形工程を説明する。線材を必要な長さに切断した円柱状の素材を、軸線方向に押圧することにより、図1の(ア)に示されるように円盤状の素材W0を熱間鍛造成形する。次いでこの素材W0を図1の(イ)に示されるように一方に開口3を有する予備大径部1と、予備大径部1から連続し予備大径部1より小径の外径を有し他方の底を塞ぐ底部4が形成された予備小径部2とよりなる予備形状素材W1を熱間鍛造で形成する。次にこの予備形状素材W1の底部4を打ち抜き、図1の(ウ)に示されるように貫通孔17を有する予備形状歯車W2を成形する。次いで図1の(エ)に示されるように予備形状歯車W2の予備小径部2の外周面を、旋盤による切削加工にて軸方向一端12a側より軸方向他端12b側の方が小径となるように形成して小径部12を成形し、予備歯車W3を成形する。最後に図1の(オ)に示す如く、冷間鍛造成形にて、予備歯車W3の小径部12の外周面にヘリカル形状のヘリカル歯部21を形成し、ヘリカル歯部21が形成される第一歯部23と第一歯部23より大径の外形を有する第二大径部22とを備えるヘリカル歯車W4を成形する。
【0019】
図1の(エ)に示される予備歯車W3について更に詳細に説明する。この予備歯車W3は、小径部12と小径部12より大径の外径を有する大径部11と、小径部12と大径部11を繋ぐ段部13とよりなる。この小径部12は、段部13から連続する軸方向他端12b側より軸方向一端12a側の方が、外径が大径に形成され、図2に示す如く、軸方向一端12aから軸方向他端12b側に向けてストレートに延びる最大径部12cと軸方向他端12b側から軸方向一端12aに向けてストレートに延び最大径部12cの内径より小径の内径を有する最小径部12dと、最大径部12cと最小径部12dを緩やかに繋ぐテーパ形状の連続部12eとからなっている。この小径部12の外径は、最も大径である最大径部12cの軸方向一端12a側端部の外径は、後述するダイス73の歯形部76の最大径部である歯形大径部76aの内径より大径に形成されているが、歯形大径部76a内径と同一或いは小径であることも可能である。また小径部12の最小径部12dの外径は、歯形部76の最小径部である歯形小径部76b内径より大径に形成されている。この小径部12にヘリカル歯部21が形成されたヘリカル歯車W4は、第二大径部22外周面に更に平歯部を形成し、変速機構に用いられるサンギヤーとなる。
【0020】
次に、予備歯車W3の小径部12の外周面にヘリカル部21を鍛造成形する鍛造成形装置について図3に基づいて説明する。
【0021】
図3に示す鍛造品成形装置51は、軸方向に対向して配置される可動型61及び固定型71より構成される。可動型61は、軸心に沿って貫通孔を有するパンチ62及びパンチ62を保持するパンチホルダー66を有する。パンチ62の内側には同心状にマンドレル65が配置される。このマンドレル65は、その外径が予備歯車W3の小径部12の内径と同径或いは予備歯車W3の小径部12の内径より小径に形成されている。またパンチ62の固定型側端部には、予備歯車W3の内周面と相似する形状を有する第一端部63と、第一端部63から連続し、予備歯車W3の軸方向他端端面14を押圧する第二端部64とが形成されている。
【0022】
固定型71は、内周にヘリカル歯車W3のヘリカル歯部21を成形する歯形部76を有するダイス73と、ダイス73の内周側に配置されるカウンターパンチ72と、カウンターパンチ72の内周に配置されるノックアウト77とを有する。ダイス72は上ダイス74と、上ダイス74を載置する下ダイス75とよりなる。上ダイス72は、予備歯車W3の小径部12の軸方向一端12a側の外径より小径の内径を有する歯形大径部76aと、予備歯車W3の小径部12のストレート部12bの外径より小径の小径歯形部76bとを備える歯形部76が形成され、上側端面は図示上の上から下に向けて小径となるテーパ形状のガイド部74aが形成される。下ダイス75はピン78に当接しており、図示せぬ油圧シリンダによりこのピン78を介してダイス75が軸線方向に移動可能である。
【0023】
次にこの鍛造装置51を用いて、予備歯車W3の小径部12の外周面にヘリカル歯部21を鍛造成形する方法を説明する。
【0024】
まず図3の左半部及び図4に示す如く、予備歯車W3を上ダイス74のガイド部74a上に載置する。続いてパンチ62とマンドレル65を一体に下降させ、マンドレル65は予備歯車W3の貫通孔17を挿通する。またパンチ62は、予備歯車W3と相似形状の第一端部63が予備歯車W3の内周面に当接すると同時に第二端部63が予備歯車W3の他端側端面14に当接した後、更に固定型71側へと移動する。パンチ62に押圧されて予備歯車W3は上ダイス74内へと移動し、図5に示す如く予備歯車W3の小径部12の外周面は上ダイス74内周面に形成された歯形部76内に圧入され、予備歯車W3の小径部12の外周面にヘリカル歯部21が形成される。
【0025】
予備歯車W3の小径部12外周面に所定のヘリカル歯部21の成形が終了すると同時に、予備歯車W3の小径部12と大径部11を繋ぐ外周段部13が上ダイス74に当接する。パンチ62とマンドレル65は一体となって更に下降を続け、予備歯車W3を介して押圧されてダイス73も下降を開始する。次いで予備歯車W3の小径部12の軸方向一端端面15がカウンターパンチ72と当接し、更に予備歯車W3は下降しカウンターパンチ72に下方から押圧される。図3の左半部及び図6に記載される如く、このカウンターパンチ72の押圧により予備歯車W3の小径部12の鍛造肉がヘリカル歯部21の外周側へ流動する。
【0026】
予備歯車W3の小径部12の外周面におけるヘリカル歯部21の形成が終了すると、パンチ62及びマンドレル65が上方に退避するとともにノックアウト77が上昇してヘリカル歯車W3に当接し、ヘリカル歯車W3はダイス73から取り出される。
【0027】
以上のように、本発明のヘリカル歯車の製造方法によれば、ダイスの歯形部に予備歯車を軸方向一端側から圧入して予備歯車の外周にヘリカル歯部を形成するヘリカル歯車の鍛造成形方法において、予備歯車の外径は最初にダイスの歯形部内に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端側が、歯部成形が終了する軸方向他端側より大径に形成されているので、歯部成形が開始する軸方向一端側から予備歯車の外周面にかかる荷重が漸次高くなっても、予め歯部成形が終了する軸方向他端側が軸方向一端側より小径なので、鍛造肉が多く流動したとしても、所望の歯先径より大きく膨出するのを防ぐことができる。また、歯部成形が開始する軸方向一端側においても、予め大径に形成されているので、歯先まで鍛造肉が流れて、欠肉が生じるのを防ぐことができる。
【0028】
また本発明のヘリカル歯車の製造方法によれば、予備歯車の外周形状を切削加工で成形するので、最初にダイスの歯形部内に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端側が、歯部成形が終了する軸方向他端側より大径に形成されるという所望の外周形状を容易に成形することができる。
【0029】
更に本発明のヘリカル歯車の製造方法によれば、予備歯車をダイスに軸方向一端側から圧入して外周に歯を成形する第一成形工程と、外周にヘリカル歯部が形成された予備歯車の軸方向一端側端面をダイス内周に配置されるパンチで押圧する第二成形工程とを有するので、第一成形工程で形成された歯を更に歯形部内に拡張させることができ、より歯先の精度の高いヘリカル歯部を成形することができる。
【0030】
また本発明のヘリカル歯車の製造方法によれば、ヘリカル歯部が形成される第一歯部と、第一歯部から連続し、第一歯部の外径より大径の第二大径部を備えているヘリカル歯車を鍛造成形するので、ヘリカル歯部成形時に第一歯部を密閉して成形することができないが、歯部成形が終了する軸方向他端側に膨出部が発生することなく、第一歯部のヘリカル歯部を鍛造成形することができる。
【0031】
なお、本実施例では、予備歯車をダイスに軸方向一端側から圧入して外周に歯を成形する第一成形工程と、予備歯車の軸方向一端側端面をパンチで押圧する第二成形工程とを有する場合について説明したが、第一工程のみでも、予め歯成形終了側の他端側が小径なので、鍛造肉が多く流動したとしても、所望の歯先径より大きく膨出するのを防ぐことができる。また、歯の成形開始側である一端側においても、欠肉が生じることなくヘリカル歯車を成形することができるのは言うまでもない。
【0032】
また、本実施例では、ヘリカル歯部が形成される第一歯部と、第一歯部から連続し、第一歯部の外径より大径の第二大径部を備えているヘリカル歯車を成形したが、第二大径部を有さないヘリカル歯車の成形においても可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
ヘリカル歯車は高いかみ合い率が求められる製品に適用され、本製造方法は外周にヘリカル歯が形成される歯車全てに適用可能である。一段式の歯車でも変速機構に使用される多段式の歯車でも、適用できる。
【符号の説明】
【0034】
11 大径部
12 小径部
12a 軸方向一端
12b 軸方向他端
15 軸方向一端側端面
21 ヘリカル歯部
22 第二大径部
23 第一歯部
63 パンチ
73 ダイス
76 歯形部
W3 予備歯車
W4 ヘリカル歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯形部76が形成されたダイス73に予備歯車W3を軸方向一端12a側から圧入して前記予備歯車W3の外周にヘリカル歯部21を形成されるヘリカル歯車W4の鍛造成形方法において、前記予備歯車W3の外径は最初に前記ダイス73の前記歯形部76に圧入して歯部成形が開始される軸方向一端12a側が、歯部成形が終了する軸方向他端12b側より大径に形成されていることを特徴とするヘリカル歯車の鍛造成形方法。
【請求項2】
前記予備歯車W3の外周形状を切削加工で成形することを特徴とする請求項1記載のヘリカル歯車の鍛造成形方法。
【請求項3】
前記予備歯車W3を前記ダイス73に軸方向一端12a側から圧入して外周にヘリカル歯部21を成形する第一成形工程と、外周に前記ヘリカル歯部21が形成された予備歯車W3の軸方向一端側12a端面を前記ダイス73内周に配置されるパンチ63で押圧する第二成形工程と、を有することを特徴とする請求項1及び請求項2記載のヘリカル歯車の鍛造成形方法。
【請求項4】
前記ヘリカル歯車は、ヘリカル歯部21が形成される第一歯部23と、該第一歯部23から連続し、前記第一歯部23の外径より大径の第二大径部22を備えているヘリカル歯車W4を鍛造成形することを特徴とする請求項1乃至請求項3記載のヘリカル歯車の鍛造成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245524(P2011−245524A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122101(P2010−122101)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000238360)武蔵精密工業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】