説明

ヘリコバクター・ピロリ菌感染症治療のための医薬組成物

【課題】副作用の少ない、ヘリコバクター・ピロリ菌感染症治療のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】白檀の抽出物及びその抽出物より単離されたセスキテルペンアルコール類が抗ピロリ菌活性を有し、臨床上待望されている抗ピロリ剤として有望であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白檀含有成分を有効成分とし、抗菌作用、特にヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下ピロリ)菌に対して高い抗菌作用を有する医薬組成物に関する。本発明は、更に、白檀含有成分であるセスキテルペンアルコールを有効成分とし、ピロリ菌に対して高い抗菌作用を有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において、ピロリ菌は、中高年層を中心に高い割合で感染が確認されており、二、三十代の感染率は20-40%、五十歳以上では70-80%と年齢とともに高くなる。胃炎、消化器系潰瘍、胃がんなどの発症や再発因子の一つとして考えられており、日本人の早期胃がんの95%以上にこの菌が存在するといわれている。七十五歳までに胃がんになる率はピロリ菌の有無で6倍も異なり、除菌により、胃がんのリスクは平均で1/3以下に下がる。 現在、除菌にはアモキシシリン(AMPC)、クラリスロマイシン(CAM)およびランソプラゾール(LPZ)を用いた3剤併用療法が推奨されている。3剤併用療法は多くのピロリ菌感染に対して有効であるが、除菌による副作用や薬剤耐性ピロリ菌の出現などが報告されている。
【0003】
白檀は、主にインド、インドネシア、マレーシア、中国に分布しているビャクダン科(Santalaceae)の植物であり、健胃、鎮痛薬として、また現在では一般に薫香料の白檀油製造原料として用いられている。白檀は、精油を1.6〜6.0%含み、その主成分は、α/β-サンタロール(約90%)である。しかし、白檀またはα/β-サンタロールが抗ピロリ菌活性を有するとの報告は、未だない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にCAM耐性ピロリ菌は近年増加しており、除菌率を著しく低下させる要因となっている。このような理由から、より少ない投与量で臨床上十分なピロリ除菌作用を示すとともに、副作用の少ない、医薬製剤として優れた性質を有する抗菌剤の開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、白檀抽出物および該抽出物より単離されたセスキテルペンアルコール類が抗ピロリ菌活性を有し、臨床上待望されている抗ピロリ剤として有望であることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【発明の効果】
【0006】
白檀抽出物および該抽出物より単離された成分の抗ピロリ菌活性を以下の試験例により示す。
試験例1
ピロリ菌に対する抗菌活性のスクリーニングはディスク拡散法により行った。供試菌としてピロリ標準株ATCC43504、臨床分離株SS-1を用いた。ピロリ菌は5容量%ウマ血清を含むブルセラブロスで、微好気環境下(Anaeropak ヘリコ、三菱ガス化学)、37℃、4日間培養し、終濃度1 x 107 〜 1 x 108 CFU(コロニーフォミングユニット)/mLとなるように滅菌生理食塩水で希釈した。この菌液を、10容量%ウマ脱繊維素血液を含むISO SENSI TEST寒天平板に滅菌コットンスワブを用いて一様に塗抹し、滅菌したディスク(Whatman AA ディスク、φ 6.0mm)を置いた。このディスクに、被験試料10μl(試料濃度、100μg/ディスク)を吸収させ、37℃で4日間培養後、阻止帯形成の有無を確認した。陽性対象としてはアモキシシリンを用いた。
白檀抽出物(後記実施例1参照)の試験結果を表1に示す。
【0007】
【表1】

白檀のメタノール抽出物は供試したピロリ株に対して大きな阻止円を形成し、強い抗ピロリ活性があること、及び酢酸エチル層、n-ブタノール層、水層の各分配層での結果から、活性の主要な部分が酢酸エチル層に分配される成分によるものであることが示された。
【0008】
次に、白檀抽出物の分画物(後記実施例2参照)についての試験結果を表2に示す。
【表2】

【0009】
白檀のメタノール抽出物の酢酸エチル層分配物から単離された成分にも、抗ピロリ活性が認められた。実施例に示したとおり、BKD0501は(Z)-α-サンタロール、BKD0503は(Z)-β-サンタロール、BKD0601は(Z)-ランセオール、BKD1602はα-サンタルジオール、BKD1613はβ-サンタルジオール、BKD1211とBKD1205はそれぞれ、(Z)-カンフレン-2α,13-ジオールおよび(Z)-カンフレン-2β,13-ジオール、BKD1101は(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール、BKD1106は(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオール、BKD1303とBKD1401はそれぞれ、(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオールおよび(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオールである。
【0010】
次に、近年問題となっているCAM耐性ピロリ菌に対する効果を試験した。
試験例2
(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、及び(Z)-ランセオールについて、日本化学療法学会の定める寒天平板希釈法に従って最小発育阻止濃度(MIC)を判定した。測定用培地として、5容量%ヒツジ脱繊維素血液を含むミューラーヒントン寒天培地で試験物質を2倍段階希釈したもの(終濃度、1,000〜0.1 μg/mL)を用いた。供試菌としてピロリ標準株ATCC43504、臨床分離株SS-1、Sa-1、Sa-2、Sa-3、TPH30、及びCAM耐性株TS281、TS648を用いた。ピロリ菌は10容量%ウマ脱繊維素血液を含むISO SENSI TEST寒天平板で、微好気環境下、37℃、4日間培養したのち、形成されたコロニーを集菌し、終濃度1 x 107 〜 1 x 108 CFU(コロニーフォミングユニット)/mLとなるように滅菌生理食塩水で希釈した。この菌液を、ミクロプランター(佐久間製作所)を用いて測定用培地に接種し、微好気環境下、37℃、4日間培養したのち、完全に発育が阻止された最小濃度をもってMIC値とした。結果を表3に示す。
【0011】
【表3】

【0012】
上記に示したように、(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、及び(Z)-ランセオールのMIC値は、それぞれ、7.8〜31.3μg/mL、7.8〜31.3μg/mL、及び31.3〜125μg/mLであった。特に(Z)-α-サンタロールと(Z)-β-サンタロールは、近年その増加が問題となっているCAM耐性株に対しても、他の試験菌株と同様に強い抗菌活性を示した。また、その活性はCAMと同程度、若しくはCAMよりも有効であることが認められた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は白檀抽出物または該抽出物に含まれる成分を有効成分とする、ピロリ菌感染症治療のための医薬組成物である。
ここで白檀抽出物とは白檀を適当な有機溶媒又は水で抽出したものをいう。ここで使用される白檀は、ビャクダン(Santalum alubum L.)の心材を乾燥したものである。適当な有機溶媒としては例えばメタノール、エタノールを使用することができ、水との混液であってもよい。また、白檀のメタノール抽出物を酢酸エチル、ブタノール、水の三層に分配し(後記実施例1参照)その酢酸エチル層分配物を白檀抽出物として使用することもできる。更に該分配物を各種カラムを用いて分画し、得られた抗ピロリ菌活性画分(例えば、活性画分I〜X、後記実施例参照)を使用してもよい。
【0014】
本発明者らは当該活性画分中に(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、(Z)-ランセオールの他、α-サンタルジオール、β-サンタルジオール、(Z)-カンフレン-2α,13-ジオールおよび(Z)-カンフレン-2β,13-ジオール、(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール、(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオール、(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオールおよび(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオールが含まれることを明らかにした。これらの各化合物又はその混合物を有効成分とするピロリ菌感染症治療のための医薬組成物も、本発明に包含される。
【0015】
化学構造が明らかにされたこれら各化合物は、白檀から抽出して用いる他、白檀以外の植物から抽出し又は化学合成(半合成を含む)したものを用いることもできる。これら化合物は、その溶媒和物(水和物を含む)、プロドラッグも含めて本発明に使用することができる。
本発明の医薬組成物は、ヒト等の哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ラット、マウス、ウマ、ウシ等)に経口的又は非経口的に投与することができるが、一般に、経口的な投与が望ましい。経口投与する場合の剤型の例としては、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(硬ゼラチンカプセル剤及び軟ゼラチンカプセル剤)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。また、非経口的に投与する場合の剤型としては、例えば注射剤、注入剤、点滴剤、坐剤等が挙げられる。
【0016】
本発明の医薬組成物を上記の剤型に製造する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、通常、常法に従って調製され、必要に応じて、その剤型に製する際に製剤分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を適宜、適量含有させて製造することができる。また、一般に非毒性及び医薬的処方に用いられる薬学的に非活性な物質を含んでいてもよい。例えば、本発明の医薬組成物を錠剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を含有させて製造することができ、丸剤及び顆粒剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤等を含有させて製造することができる。また、散剤及びカプセル剤に製する場合には、賦形剤等を、シロップ剤に製する場合には、甘味剤等を、乳剤及び懸濁剤に製する場合には、懸濁化剤、界面活性剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0017】
賦形剤の例としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、でんぷん、蔗糖、微結晶セルロース、カンゾウ末、マンニトール、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。結合剤の例としては、5〜10重量%デンプン液、10〜20重量%アラビアゴム液又はゼラチン液、1〜5重量%トラガント液、カルボキシメチルセルロース液、アルギン酸ナトリウム液、グリセリン等が挙げられる。崩壊剤の例としては、デンプン、炭酸カルシウム等が挙げられる。滑沢剤の例としては、シリカ、精製タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。甘味剤の例としては、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、単シロップ等が挙げられる。界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等が挙げられる。懸濁化剤の例としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ベントナイト等が挙げられる。乳化剤の例としては、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0018】
また、注射剤を調製する場合には、必要により主薬にpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、溶解補助剤などを添加し、常法により皮下、筋肉内、静脈内用注射剤とする。
pH調整剤、緩衝剤の例としては、クエン酸、酢酸、リン酸のナトリウム塩等が挙げられる。安定化剤の例としては、L-システイン、L-メチオニン、L-ヒスチジン等が挙げられる。溶解補助剤の例としては、エタノール、プロピレングリコール、塩酸アルギニン等が挙げられ、さらには等張化剤、防腐剤、無痛化剤等を添加することも可能である。
【0019】
本発明の医薬組成物は、安定かつ低毒性であり、安全に使用することができる。その1日の投与量は、患者の重症度、年齢、体重、投与経路等によって異なるが、ヘリコバクター・ピロリ感染に起因する胃潰瘍などの疾患の患者に対して経口投与する場合には、成人(体重60kg)1日当たりの投与量は、有効成分であるセスキテルペンアルコール化合物に換算して、1mg〜5gの範囲であり、約3mg〜1gが好ましい。これを1日当たり1〜数回に分けて投与する。上記の投与量の範囲では、毒性は見られない。また、非経口投与する場合には、成人(体重60kg)1日当たりの投与量は、有効成分であるセスキテルペンアルコール化合物に換算して、1mg〜5gの範囲であり、約3mg〜1gが好ましい。これを1日当たり1〜数回に分けて投与する。
以下に、本発明の医薬組成物に含有されるセスキテルペンアルコール化合物の抽出法を示した実施例、その抗菌活性を示した試験例、及びその製剤例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載により限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
粉砕した白檀2.8kgをメタノール(20L)で、2時間温浸抽出し、温時に自然濾過後、濾液は、減圧下に濃縮した。この操作を3回行い、濃縮したメタノール抽出物を、酢酸エチル、ブタノール、水で分配した。各分配層を減圧濃縮して得られた残渣を、それぞれ酢酸エチル層分配物、ブタノール層分配物および水層分配物とした。
【実施例2】
【0021】
実施例1の酢酸エチル層を50℃で減圧濃縮し、茶色の油状物質(178.0g)を得た。酢酸エチル層は、シリカゲルを充填したガラスカラムに重層し、n-ヘキサン−酢酸エチル(8:2〜0:10)及び酢酸エチル−メタノール(8:2〜0:10)で分画し、抗菌活性を有する画分I、IIを得た。
【実施例3】
【0022】
(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、及び(Z)-ランセオールの単離
実施例2の活性画分I50.5gのうち300mgをGPC(クロロホルム)で分画し、画分III、IVを得た。III、IVはさらにSiO2HPLCを用いn-ヘキサン:酢酸エチル(4:1)で精製し、IIIからBKD0501とBKD0503を、IVからBKD0601をそれぞれ無色油状物質として得た(収量:60.0mg、38.0mg、及び8.0mg)。これらの物質は、それぞれ(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、及び(Z)-ランセオールと同定された。以下に得られた化合物のEI-MS、1H-NMR、及び13C-NMRの結果を示す。
【0023】
(Z)-α-サンタロール
EI−MS: m/z 220 [M]+
1H-NMR (400MHz,CDCl3) δ:5.32(1H, t, H-10), 4.15(2H, s, H-13), 1.80(3H, s, H-12), 1.00(3H, s, H-15), 0.83(3H, s, H-14) J(Hz):9,10 = 7.2.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ:10.6(C-15), 17.5(C-14), 19.5(C-6), 19.5(C-2), 21.2(C-12), 22.9(C-9), 27.4(C-1), 31.0(C-5), 31.5(C-3), 35.0(C-8), 38.2(C-4), 45.9(C-7), 61.6(C-13), 129.5(C-10), 133.7(C-11).
【0024】
(Z)-β-サンタロール
EI−MS: m/z 220 [M]+
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ:5.30(1H, t, H-10), 4.75(1H, s, H-14), 4.47(1H, s, H-14), 4.15(2H, s, H-13), 2.68(1H, brs, H-1), 2.11(1H, brs, H-4), 1.80(3H, s, H-12), 1.05(3H, s, H-15) J(Hz):9,10 = 7.6.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 21.2(C-12), 22.6(C-15), 23.2(C-9), 23.7(C-5), 29.7(C-6), 37.1(C-7), 41.5(C-8), 44.7(C-4), 44.8(C-3), 46.8(C-1), 61.6(C-13), 99.7(C-14), 129.0(C-10), 133.9(C-11), 166.2(C-2).
【0025】
(Z)−ランセオール
EI−MS: m/z 202 [M−H2O]+
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 5.42(1H, brs, H-2), 5.33(1H, t, H-10), 4.80(1H, s, H-15), 4.75(1H, s, H-15), 4.16(2H, s, H-13), 1.82(3H, s, H-12), 1.67(3H, s, H-14) J(Hz):9,10 = 7.2.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ: 21.3(C-12), 23.4(C-14), 26.4(C-9), 28.3(C-5), 30.7(C-6) 31.4(C-3), 35.0(C-8), 39.8(C-4), 61.6(C-13), 107.5(C-15), 120.7(C-2) 128.1(C-10), 133.8(C-1), 134.5(C-11), 153.9(C-7).
【実施例4】
【0026】
実施例2で得た活性画分II25.0gをシリカゲルを充填したガラスカラムに重層し、クロロホルム:メタノール(10:0〜9:1)で分画し、抗菌活性を有する画分を得た。次にTOYOPEARL HW-40を充填したガラスカラムに重層し、クロロホルム:メタノール(2:1)で分画し、更にシリカゲルを充填したガラスカラムに重層し、n-ヘキサン:酢酸エチル(3:1〜0:1)で分画し、画分V、VI、VIIを得た。
【実施例5】
【0027】
(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール、及び(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオールの単離
SiO2HPLCを用いて、画分V353mgを、n-ヘキサン:酢酸エチル(2:1)で分画し、BKD1101とBKD1106を得た(収量:61.0mg、及び8.0mg)。これらの物質は、それぞれ(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール、及び(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオールと同定された。以下に得られた化合物のEI-MS、1H-NMR、及び13C-NMRの結果を示す。
【0028】
(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール
[α]D = −2.3°(c 1.9, CHCl3)
IR (KBr):3375cm-1(水酸基)
HR FABMS m/z 261.1852 [M+Na] + (calcd for C15H26O2Na, 261.1830)
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ:5.30 (1H, t, H-10), 4.16 (1H, d, H-13), 4.09 (1H, d, H-13), 3.30 (1H, s, H-2β), 2.07 (1H, m, H-9), 1.80 (3H, s, H-12), 1.76 (1H, m, H-4), 1.66 (1H, m, H-5α), 1.42 (1H, m, H-7), 1.09 (3H, s, H-14), 0.71 (3H, s, H-15) J(Hz):9, 10 = 7.4, 13, 13 = 11.6.
13C-NMR(100MHz, CDCl3) δ:16.7 (C-15), 19.5 (C-14), 21.4 (C-12), 22.6 (C-9), 25.5 (C-6), 26.2 (C-5), 40.9 (C-7), 42.2 (C-3), 42.7 (C-8), 46.6 (C-4), 48.9 (C-1), 61.4 (C-13), 83.4 (C-2), 129.3 (C-10), 133.9 (C-11).
【0029】
(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオール
[α]D = +8.5°(c 0.9, CHCl3)
IR (KBr):3398cm-1(水酸基)
HR FABMS m/z 261.1821 [M+Na] + (calcd for C15H26O2Na, 261.1830)
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ:5.35 (1H, brs, H-10), 4.21 (1H, d, J = 11.6, H-13), 4.00 (1H, d, J = 11.6, H-13), 2.14(1H, m, H-9), 1.80 (3H, s, H-12), 1.57 (1H, m, H-5α), 1.21 (3H, s, H-14), 0.89 (3H, s, H-15) J(Hz):13, 13 = 11.6.
13C-NMR(100MHz, CDCl3) δ:19.9 (C-15), 21.8 (C-12), 22.3 (C-14), 23.2 (C-6), 24.0 (C-5), 24.7 (C-9), 34.2 (C-7), 38.1 (C-8),46.2 (C-3), 47.6 (C-4), 52.2 (C-1), 61.7 (C-13), 81.3 (C-2), 129.5 (C-10), 134.0 (C-11).
【実施例6】
【0030】
(Z)-カンフレン-2α,13-ジオール、及び(Z)-カンフレン-2β,13-ジオールの単離
SiO2HPLCを用いて、実施例4で得た活性画分VI704mgをn-ヘキサン:酢酸エチル(1:1)で分画し、BKD1205(12mg)、BKD1211(収量:12.0mg、及び65mg)と画分VIII、IXを得た。これらの物質は、それぞれ(Z)-カンフレン-2α,13-ジオール、及び(Z)-カンフレン-2β,13-ジオールと同定された。以下に得られた化合物のEI-MS、1H-NMR、及び13C-NMRの結果を示す。
【0031】
(Z)-カンフレン2α,13-ジオール
EI−MS: m/z 238 [M]+
[α]D = −11.5°(4.0, CHCl3)
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ :5.32 (1H, t, H-10), 4.15 (2H, s, H-13), 4.08 (1H, d, H-2), 1.80 (3H, s, H-12), 0.80 (3H, s, H-14), 0.69 (3H, s, H-15) J (Hz) : 10, 11 = 7.2.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ :13.4 (C-15), 16.6 (C-14), 21.3 (C-12), 23.8 (C-9), 26.1 (C-6), 28.0 (C-5), 32.8 (C-8), 38.8 (C-3), 42.0 (C-4), 50.4 (C-1), 51.3 (C-7), 61.5 (C-13), 77.4 (C-2), 129.1 (C-10), 134.0 (C-11).
【0032】
(Z)-カンフレン-2β,13-ジオール
[α]D = +1.1°(c 1.4, CHCl3)
IR (KBr) 3323cm-1(水酸基)
HR EIMS m/z 238.1919 [M] + (calcd for C15H26O2, 238.1933)
1H−NMR (400MHz, CDCl3) δ:5.35 (1H, t, H-12), 4.15 (1H, d, H-13), 4.09 (1H, d, H-13), 3.65 (1H, dd, H-2α), 1.58 (3H, s, H-12), 1.02 (1H, m, H-5α), 0.92 (1H, m, H-6α), 0.82 (3H, s, H-15), 0.66 (3H, s, H-14) J(Hz):9, 10 = 7.4, 13, 13 = 11.8.
13C-NMR(100MHz, CDCl3) δ:11.4 (C-15), 16.8 (C-14), 21.4 (C-12), 23.3 (C-9), 27.1 (C-5), 33.6 (C-8), 34.4 (C-6), 39.9 (C-3), 41.9 (C-4), 49.3 (C-1), 50.0 (C-7), 61.3 (C-13), 79.7 (C-2), 129.4 (C-10), 133.9 (C-11).
【実施例7】
【0033】
α-サンタルジオールの単離
実施例4で得た活性画分VII634mgをSiO2HPLCを用い、n-ヘキサン:酢酸エチル(1:2)で分画し、BKD1602(収量:75mg)と画分Xを得た。この物質は、α-サンタルジオールと同定された。以下に得られた化合物のEI-MS、1H-NMR、及び13C-NMRの結果を示す。
【0034】
α-サンタルジオール
EI−MS: m/z 218 [M−H2O]+
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 5.55 (1H, t, H-10), 4.30 (2H, s, H-13), 4.17 (2H, s, H-12), 0.99 (3H, s, H-15), 0.83 (3H, s, H-14) J(Hz) : 9, 10 = 7.0.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ:10.6 (C-15), 17.5 (C-14), 19.4 (C-6), 19.5 (C-2), 22.8 (C-9), 27.4 (C-1), 31.0 (C-5), 31.5 (C-3), 34.5 (C-8), 38.1 (C-4), 45.9 (C-7), 59.7 (C-13), 67.4 (C-12), 132.1 (C-10), 136.4 (C-11).
【実施例8】
【0035】
(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオール、(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオール、及びβ-サンタルジオールの単離
実施例6で得た活性画分VIII、IX、及び実施例7で得た活性画分Xを、それぞれGPC(メタノール)で分画し、VIIIからBKD1303、IXからBKD1401、XからBKD1613(収量:3mg、 4mg、及び10mg)を得た。これらの物質は、それぞれ、(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオール、(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオール、β-サンタルジオールと同定された。以下に得られた化合物のEI-MS、1H-NMR、及び13C-NMRの結果を示す。
【0036】
(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオール
[α]D = −5.0°(c 0.4, CHCl3)
IR (KBr) 3375cm-1(水酸基)
HR EIMS m/z 234.1648 [M] + (calcd for C15H22O2, 234.1620)
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ:7.32 (2H, d, H-3, 5), 7.17 (2H, d, H-2, 6), 5.28 (1H, t, H-10), 4.01 (2H, s, H-13), 2.36 (3H, s, H-14), 2.07 (1H, m, H-9), 1.76 (3H, s, H-12), 1.55 (3H, s, H-15) J(Hz):9, 10 = 7.0, 2, 3 = 8.0, 5, 6 = 8.0.
13C-NMR(100MHz, CDCl3) δ:21.0 (C-14), 21.4 (C-12), 22.6 (C-9), 30.8 (C-15), 43.8 (C-8), 61.5 (C-13), 74.9 (C-7), 124.7 (C-3), 124.7 (C-5), 128.4 (C-10), 128.9 (C-2), 128.9 (C-6), 134.6 (C-11), 136.2 (C-1), 144.7 (C-4).
【0037】
(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオール
[α]D = −3.0°(c 0.5, CHCl3)
IR (KBr) 3373cm-1(水酸基)
HR EIMS m/z 220.1826 [M−H2O] + (calcd for C15H24O, 220.1827).
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ:5.33 (1H, t, H-10), 4.82 (1H, s, H-15), 4.72 (1H, s, H-15), 4.14 (2H, s, H-13), 1.82 (1H, m, H-4α), 1.81 (3H, s, H-12), 1.56 (1H, m, H-5α), 1.45 (1H, m, H-6α), 1.25 (3H, s, H-14) J(Hz):9, 10 = 6.8.
13C-NMR(100MHz, CDCl3) δ:21.3 (C-12), 26.4 (C-9), 27.4 (C-3), 27.4 (C-5), 31.4 (C-14), 34.9 (C-8), 38.9 (C-2), 38.9 (C-6), 43.6 (C-4), 61.6 (C-13), 69.0 (C-1), 107.6 (C-15), 128.1 (C-10), 134.5 (C-11), 153.9 (C-7).
【0038】
β-サンタルジオール
[α]D =−2.3°(c 1.9, CHCl3)
IR (KBr): 3367cm-1 (水酸基)
HR FABMS: 261.1852 (C15H26O2Na, calcd. for 261.1830)
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 5.30 (1H, t, H-10), 4.16 (1H, d, H-13), 4.09 (1H, d, H-13), 3.30 (1H, s, H-2), 1.80 (3H, s, H-12), 1.20 (3H, s, H-14), 0.74 (3H, s, H-15) J(Hz) : 9, 10 = 7.4; 13, 13 = 11.6.
13C-NMR (100MHz, CDCl3) δ:16.7 (C-15), 19.5 (C-14), 21.4 (C-12), 22.6 (C-9), 25.5 (C-6), 26.2 (C-5), 40.9 (C-7), 42.2 (C-3), 42.7 (C-8), 46.6 (C-4), 48.9 (C-1), 61.4 (C-13), 83.4 (C-2), 129.3 (C-10), 133.9 (C-11).
【実施例9】
【0039】
製剤例1 錠剤
1錠(250mg)に、白檀抽出物を75mg、又は白檀に含まれるセスキテルペンアルコールのうち1種を25mg含む。添加物として、ラクトース98mg又は148mg、トウモロコシデンプン50mg、ステアリン酸マグネシウム2mg、及びセルロース25mgを含み、常法に従って錠剤を調製する。
【0040】
製剤例2 硬ゼラチンカプセル剤
硬ゼラチンカプセル1カプセル(340mg)に、白檀抽出物を100mg、又は白檀に含まれるセスキテルペンアルコールのうち1種を30mg含む。添加物として、ラクトース115mg又は185mg、トウモロコシデンプン70mg、ステアリン酸マグネシウム5mg、及びセルロース50mgを含み、常法に従ってカプセル剤を調製する。
【0041】
製剤例3 顆粒剤
顆粒剤1gに、白檀抽出物を300mg、又は白檀に含まれるセスキテルペンアルコールのうち1種を100mg含む。添加物として、ラクトース320mg又は520mg、トウモロコシデンプン300mg、及びセルロース80mgを含み、常法に従って顆粒剤を調製する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
白檀抽出物及び/または白檀に含まれる上記化合物は、生体内において、抗菌作用、特にピロリ菌に代表されるヘリコバクター属菌に対する強い抗菌活性を有するために、本発明の医薬組成物はピロリ菌感染に起因する疾患である「十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃炎(慢性胃炎を含む)、胃がんなど」の予防又は治療に有効である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
白檀含有成分を有効成分とする、ピロリ菌感染症治療のための医薬組成物。
【請求項2】
白檀含有成分が白檀(Santali Lignum)からの抽出物である、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
白檀含有成分が(Z)-α-サンタロール、(Z)-β-サンタロール、(Z)-ランセオール、α-サンタルジオール、β-サンタルジオール、(Z)-カンフレン-2α,13-ジオール、(Z)-カンフレン-2β,13-ジオール、(Z)-2α-ヒドロキシアルブモール、(Z)-2β-ヒドロキシ-14-ヒドロ-β-サンタオール、(Z)-3,4,5,6-テトラデヒドロ-7-ヒドロキシランセオールおよび(Z)-1β-ヒドロキシ-2-ヒドロランセオールよりなる群から選択されるセスキテルペンアルコール又はその混合物である、請求項1の医薬組成物。

【公開番号】特開2006−124296(P2006−124296A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312557(P2004−312557)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(596003214)
【出願人】(393031450)アルプス薬品工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】