説明

ヘルパーT細胞が媒介する免疫応答の調節方法

【課題】自己免疫疾患、炎症性疾患及びアレルギー関連疾患の新規な治療方法の提供。
【解決手段】Th1免疫系の構成因子に対するヒトsmIgDの結合による抑制的な効果を応用することを特徴とする、異常なヘルパーT細胞(Th)により媒介される、及び/又は単球系細胞により媒介される免疫応答(炎症性反応を含む)によって生じる疾患の治療及び/又は診断のための方法、並びに、患者の疾患に対する感受性を測定し、患者の治療に対する反応をモニターし、ヘルパーT細胞により媒介される、及び/又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調整する能力を有する候補分子をスクリーニングするための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常なヘルパーT細胞(Th)又は単球細胞性免疫応答によって生じる疾患の治療及び/又は診断のための方法、組成物並びにキットに関する。更に本発明は、患者の疾患に対する感受性を測定し、患者の治療に対する反応をモニターし、ヘルパーT細胞又は単球により媒介される免疫応答を調整する候補分子の能力をスクリーニングするための方法、組成物及びキットに関する。
【0002】
(関連出願)本願は、2006年4月27日に出願の、オーストラリア仮特許出願第2006902180号の優先権を主張し、その全開示内容を本願明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
ヘルパー(Th)細胞への天然のCD4T細胞への分化は、ヒトの病原性及び非自己抗原に対してなされる免疫応答のタイプを左右するにあたり、重要かつ決定的な役割を果たす、中心的なプロセスである。2種類の主要な免疫応答(すなわちタイプ−1:Th1、及びタイプ−2:Th2)が存在する。それらは、これらの反応が生じさせるサイトカインプロファイル、及び免疫応答に関与するTh細胞の種類をベースとして分類される。
【0004】
Th1細胞は主に、インターロイキン2(IL−2)、インターフェロン−ガンマ(IFN−γ)、粒状マクロファージ−コロニー形成刺激因子(GM−CSF)及び腫瘍壊死因子−α(TNF−α)を分泌する。これらのサイトカインは、細胞毒のCD8T細胞、ナチュラル−キラー(NK)細胞、単球及びマクロファージの活性化を含む、細胞媒介性免疫を開始させるための必須因子である。Th1免疫ではまた、T細胞受容体(TCR)を介したシグナル伝達による、天然のCD8細胞毒性−細胞(Tc)の直接的な活性化が行われ、それにより、抗原提示細胞(APC)上の主要組織適合複合体クラスI(MHC−I)により提示される非自己又は病原性抗原を認識する。それらが活性化した後、天然のCD8Tc−細胞は長期のTc−エフェクタ及びTc−記憶細胞に分化し、病原体の細胞毒性的な殺傷を行う。
【0005】
Th2細胞は主に、体液性免疫応答の開始に関与する、主にIL−4、IL−5、IL−10及びIL−13を生じさせる。
【0006】
天然のCD4Th−細胞の分化は、APC上のMHC−クラスII組織(MHC−II)に結合する抗原に、それらのTCRが会合するときに開始される。共刺激経路の活性化と連動して、TCRの刺激により、プロテインキナーゼC(PKC)経路の活性化により媒介されるシグナルが伝達され、その結果、天然のCD4T細胞のTh−前駆細胞への分化が促進される。この分化段階では、元のTh−細胞は、サイトカイン条件に応じて、Th1若しくはTh2細胞に分化できる。IL−12、IL−18、IL−23、IL−27又はIFN−γに対する曝露により、Th−前駆細胞はTh1へ分化が誘導され、一方、IL−4又はIL−10の存在下で、Th−前駆細胞はTh2へ分化される。
【0007】
Th1及びTh2サイトカインが、各々交叉抑制作用を有することも注目に値する。Th1とTh2シグナルとの間のこの相互調節作用は、特定の方向への分化のバランスを保つための機構であると考えられる。
【0008】
Th1免疫の適切な誘導は、細菌及びウィルス病原体の侵入による感染に対する防御にとり重要である。Th1サイトカインの産生は、病原体の防御、更には腫瘍監視に関与する機構として、Th1免疫機能において重要な役割を果たす。
【0009】
幾つかの転写因子が、Th1系統の発達における重要なレギュレータとして同定されている。例えば、STAT−1、STAT−4、NF−kB、IRF−1、T−bet(又はTbx21)及びEtファミリーのメンバーなどが挙げられる。
【0010】
しかしながら、Th1サイトカインの生産過剰は自己免疫疾患を伴う。すなわち、Th1免疫は「サイトカインストーム」を制御する鍵となる要因でもあり、重度の感染症(例えば肺炎及び「鳥インフルエンザ」など)においてはしばしば死に至らしめることもある。自己免疫疾患の病理機構及び炎症症状では、Th1サイトカインの産生や、CD4Th細胞、CD8Tc細胞、ナチュラル−キラー(NK)細胞、並びに免疫系の他の因子(例えばマクロファージ)の活性化及び補充などが行われる。したがって、T−bet及びTh1−サイトカインの高い発現は、多くの自己免疫疾患、急性及び慢性の炎症症状、臓器移植における拒絶、骨髄移植における移植片対宿主病、IVF後の胚体内移植の拒絶及び他の疾患及び病理などの、病理学的プロセスにおいて主要な役割を果たす。
【0011】
現在では、多くの免疫抑制剤/抗炎症剤、及び様々な治療法が存在し、それらはTh1関連の疾患及び臓器移植において臨床的に使用され、また、前臨床段階における有望な治療可能性を示すことが知られている。かかる例としては、ステロイドホルモン及びそれらのアナログ(エストロゲン、プロゲステロン、ヒト成長ホルモン、糖質コルチコイド、デキサメタゾン)、小分子物質、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、サイクロスポリン、ラパマイシン、スルファサラジン、メトトレキセート、カルシニューリン阻害剤、COX−2阻害剤、特定のサイトカインを認識する抗体及びそれらの受容体(抗TNFα抗体[インフリキシマブ]、抗共刺激分子抗体、抗IL−2受容体抗体[ダクリツマブ]、抗IL12抗体)などが挙げられる。しかしながら、これらの免疫抑制剤の使用には多くの課題が存在する。
【0012】
第1に、これらの薬剤は特に、慢性的な使用により顕著な副作用を生じさせる。例えば、カルシニューリン阻害剤の使用により腎毒性を生じさせ、またコルチコステロイドの使用により高血圧及び心臓血管の疾患を生じさせる。ステロイドホルモンの使用により乳癌及び卵嚢癌の危険率を著しく増加させ、インフリキシマブの慢性的な使用により血液癌の発達及び腎疾患の危険率を増加させ、またメトトレキセート及びラパマイシンの使用により細胞毒性の危険率を増加させる。
【0013】
第2に、これらの薬剤への長期間にわたる暴露により、長期移植片の維持及び慢性的な移植片の拒絶において、課題や懸念を生じさせる。このことは、免疫抑制剤の使用により、大部分の臓器移植において、1年間における移植生存率は45%から約80〜90%にまで改善するが、長期間(5年以上)における移植生存率はほとんど変化せず、50〜60%程度に留まったという事実により明らかとなる。他の例としては、骨髄移植におけるGVH病の防止に、サイクロスポリンを使用することが挙げられる。その使用は臨床的に非常に効果的である。しかしながら、ドナーの骨髄による移植対白血病アクションに対するサイクロスポリンの抑制作用のため、患者においてしばしば再発する。また、サイクロスポリンの慢性的使用と関連する細胞傷害効果及び腎障害の危険性も挙げられる。これにより、白血病患者における骨髄移植の臨床的利益も損なわれる。また、これらの免疫抑制剤は定期的に投与する必要があり、その期間は長期にわたる。
【0014】
また、何千人ものボランティアからの血清免疫グロブリンのプール(別名イントラガム)の静脈注射も、免疫関連障害の治療に広範囲にわたり用いられている。しかしながら、この治療方法は、大量の血清プールを必要とし、何万人というオーダーのドナーからの血清免疫グロブリンの単離を必要とするため、非効率的かつ高コストである。かかる治療において使用する免疫グロブリンはヒト血清から分離するため、ドナーから患者への伝染性疾患の危険性も存在する。すなわち、かかる治療の臨床的な利益とコストパフォーマンスは以前制限されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上より、自己免疫疾患、炎症性疾患及びアレルギー関連疾患の治療に対する新規なアプローチに対するニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、例えば抗IgD抗体を用いた膜表面IgD(smIgD)の特異的結合を応用することにより、末梢血単核細胞フラクションに存在する細胞、及びJurkat T細胞株による、Th1サイトカインのGM−CSF、TNF−α及び転写因子T−Bet(Th1の成長に関与する主要なレギュレータ)の、PMA/イオノマイシン−誘導による発現を阻害できるという、予想外の驚くべき発見に基づくものである。また、膜表面smIgDへの結合により、CD14+細胞による、リポ多糖により誘導される末梢血単核細胞フラクション(単球系の細胞であると考えられる)からのTNF−αの発現が阻害されることも見出した。
【0017】
Th1免疫系の構成因子(免疫応答を誘導する経路に関与する。また、広範囲にわたる自己免疫疾患の病理と密接な関連性を有する。)に対するヒトsmIgDの結合による抑制的な効果を応用することにより、異常なヘルパーT細胞(Th)により媒介される、及び/又は単球系細胞により媒介される免疫応答(炎症性反応を含む)によって生じる疾患の治療及び/又は診断のための新規な方法、並びに、患者の疾患に対する感受性を測定し、患者の治療に対する反応をモニターし、ヘルパーT細胞により媒介される、及び/又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調整する能力を有する候補分子をスクリーニングするための新規な方法が提供される。
【0018】
本発明の第1の態様は、ヘルパーT細胞若しくは単球系細胞のいずれか、又は両方により媒介される、患者の免疫応答の調節方法の提供に関する。詳細には当該方法は、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に括着する化合物を、有効量で、患者に投与することを含んでなる。
【0019】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞による免疫応答としては、自己免疫疾患、炎症性反応又はアレルギー疾患などが挙げられる。
【0020】
上記化合物としては、抗smIgD抗体、抗IgD抗体、抗Igδ鎖抗体、抗原、タンパク質、無機化合物又はそれらのあらゆる組み合わせなどが挙げられる。上記抗原は自己抗原であってもよい。上記自己抗原は細胞の表面に発現されてもよい。上記細胞は患者に内因性のものであってもよい。
【0021】
一実施形態では、上記膜表面IgDはヘルパーT細胞に存在する。他の実施形態では、上記膜表面IgDは単球系の細胞(例えば単球又はマクロファージ)に存在する。上記化合物のsmIgDへの結合により、smIgDと、細胞上の他のsmIgD若しくは細胞上の他の分子との架橋が形成される。それに加えて、又はその代わりに、上記化合物のsmIgDへの結合により、smIgDを担持する細胞の活性化がもたらされる。上記化合物がsmIgDに結合する結果、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現が抑制される。上記の少なくとも1つの分子の発現の抑制の結果、Th1免疫応答の抑制がなされる。更に、上記の少なくとも1つの分子の発現の抑制の結果、Th2免疫応答の活性化がなされる。
【0022】
上記の方法は更に、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する分子を投与することを更に含んでなってもよい。
【0023】
本発明の第2の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞のうちの少なくとも1つ以上により媒介される細胞性免疫疾患を診断する方法の提供に関する。当該方法は以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)上記サンプルにおける膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量化するステップ。smIgDの発現レベルは、ヘルパーT細胞性の免疫疾患の有無の指標となる。
【0024】
本発明の第3の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞のうちの1つ以上により媒介される、細胞性の免疫疾患の診断方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と上記生体サンプルを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップ。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の有無の指標となる。
【0025】
本発明の第4の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の1つ以上により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性を測定する方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)上記サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量化するステップ。smIgDの発現レベルは、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性の指標となる。
【0026】
本発明の第5の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の1つ以上により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性を測定する方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と上記生体サンプルとを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップ。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性の指標となる。
【0027】
本発明の第6の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応をモニターする方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)上記サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量化するステップ。smIgDの発現レベルは、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応の指標となる。
【0028】
本発明の第7の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の1つ以上により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応をモニターする方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と、上記生体サンプルとを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップ。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、患者におけるヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応の指標となる。
【0029】
本発明の第8の態様は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞のうちの1つ以上により媒介される免疫応答を調整する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)生体サンプルと少なくとも1つの候補分子とを接触させるステップと、
(b)上記サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に対する、少なくとも1つの候補分子の結合のレベルをアッセイするステップ。smIgDに対する少なくとも1つの候補分子の結合のレベルは、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答の調節における、当該少なくとも1つの候補分子の能力の指標となる。
【0030】
本発明の第9の態様は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞のうちの1つ以上により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング方法の提供に関する。当該方法は、以下のステップを含んでなる:
(a)生体サンプルと少なくとも1つの候補分子とを接触させるステップと、
(b)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップ。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、当該少なくとも1つの候補分子の能力の指標となる。
【0031】
本発明の第10の態様は、薬理学的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と共に、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞のうちの1つ以上により媒介される免疫応答の調節に用いられる、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物の提供に関する。
【0032】
本発明の第11の態様は、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物の提供に関する。当該化合物は、
(a)ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に罹患する患者の診断、
(b)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性の測定、又は、
(c)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応のモニタリングに用いられる。(a)、(b)又は(c)のステップは、薬理学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバントと共に、患者から得た生体サンプル中における、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイすることにより行われる。
【0033】
本発明の第12の態様は、上記第1から第7の態様に係る方法への、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物の使用の提供に関する。
【0034】
本発明の第13の態様は、上記第1から第7の態様に係る方法への、第8若しくは第9の態様に係る方法でスクリーニングされた分子の使用に提供に関する。
【0035】
本発明の第14の態様は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するためのキットの提供に関する。当該キットは、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物を含んでなる。
【0036】
本発明の第15の態様は、
(a)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患を診断するための、
(b)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性を測定するための、又は、
(c)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する反応をモニターするためのキットの提供に関する。当該キットは、
(a)患者から生体サンプルを得るための手段と、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量化するための手段を含んでなる。上記膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルは、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の指標、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患に対する感受性の指標、又は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される細胞性の免疫疾患の治療に対する応答の指標となる。
【0037】
本発明の第16の態様は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング用のキットの提供に関する。当該キットは、
(a)生体サンプルと少なくとも1つの上記候補分子とを接触させるための手段と、
(b)上記サンプルの膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に対する少なくとも1つの上記候補分子の結合レベルをアッセイするための手段を含んでなる。smIgDに対する少なくとも1つの上記の候補分子の結合レベルは、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する、少なくとも1つの上記候補分子の能力の指標となる。
【0038】
本発明の第17の態様は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング用のキットの提供に関する。当該キットは、
(a)生体サンプルと少なくとも1つの上記候補分子とを接触させるための手段と、
(b)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするための手段を含んでなる。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する、少なくとも1つの上記候補分子の能力の指標となる。
【0039】
略語
Ab:抗体。
APC:抗原提示細胞。
GM−CSF:顆粒白血球マクロファージ・コロニー形成刺激因子。
IFN:インターフェロン。
IL:インターロイキン。
IVF:生体外受精。
NK細胞:ナチュラルキラー細胞。
PBMC:末梢血単核細胞。
PBS−E:エンドトキシンフリーのリン酸緩衝生理食塩水。
PKC:蛋白質キナーゼC。
PMA:ホルボールミリスチン酸酢酸。
RT−PCR:逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応。
smIgD:膜表面免疫グロブリンD。
T−Bet:T細胞において発現するT−box(別名Tbx21)。
細胞:T細胞毒性細胞。
TGF−β:腫瘍増殖因子−β。
Th細胞:ヘルパーT細胞。
TNF−α:腫瘍壊死因子−α。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
定義
本願明細書中の「・・・を含んでなる」という用語は、「・・・を主な成分として含有するが、必ずしもそれのみからなるわけではない」という意味を有する。更に「・・・を含んでなる」という用語の各種の活用形も、同様の意味を有する。
【0041】
本発明における用語「治療すること」及び「治療」とは、症状又は兆候を直し、症状又は疾患の発症を防止するか、又は症状若しくは疾患若しくは他の望ましくない兆候の進行を何らかの形で防止し、妨害し、遅延させ、改善させ若しくは逆転させることを意味する。
【0042】
本発明では、用語「有効量」には、所望の効果を得るのに十分な薬剤又は化合物の量という意味が含まれる。特定の実施形態では、有効量とは、実質的に毒性がない一方で、所望の効果を得るのに十分な量のことを指す。必要となる正確な量は、例えば治療しようとする生物種、患者の年齢及び健康状態、投与しようとする特定の薬剤、及び投与様式などの様々な要因により変化しうる。すなわち、具体的な「有効量」を特定することは不可能である。しかしながら、いかなる場合においても、適切な「有効量」は、当業者であればルーチン試験に基づいて容易に決定できる。
【0043】
本明細書で用いられる「抗体」の用語には抗体フラグメントも包含され、例えば限定されないが、重鎖、軽鎖、可変領域、定常領域、Fab、Fc、Fc受容体、単鎖(scFV)抗体、相補性決定領域(CDR)、並びに抗体又はその一部を含有するいかなるタンパク質、ポリペプチド又はペプチドなどが挙げられる。
【0044】
本発明において、免疫応答に関して「調節」という用語を用いる場合には、免疫応答の活性化、開始若しくは増強であるか、又は免疫応答の阻害、抑制、ブロック又は低下のことを意味する。
【0045】
本発明において、IgDに関して用語「可溶」を用いる場合には、リガンドと結合する能力を保持するが、膜結合型ではない、あらゆる形態のIgDのことを指す。「膜表面IgD」又は「smIgD」とは、細胞の原形質膜に結合している形態のIgDのことを指す。それは、膜結合型のIgDであってもよく、又は原形質膜に結合する、分泌されたIgDの形態であってもよい。smIgDは、細胞により発現されてもよい。他の実施形態では、当該smIgDは、例えば細胞により原形質膜上に発現されたFc受容体を介して細胞の原形質膜に結合する、細胞外由来の物質であってもよい。本発明の例示的な実施形態を、図を参照しながら記載する。
【0046】
(本発明を実施するための最良の形態)
本発明者は、ヒトの膜表面IgD(smIgD)の結合の後に、プロテインキナーゼC経路を介した、細胞活性化の予想外かつ驚くべき抑制が行われることを見出した。特に本発明者は、ヒトPBMCにおける、抗smIgD抗体によるsmIgDの結合が、Th1サイトカインのGM−CSF、TNF−α及び転写因子のT−Bet(Th1反応の主要なレギュレータ)の、PMA/イオノマイシンによる誘導発現を阻害することを見出した。更に、抗smIgD抗体に対する曝露により生じたPBMC集団に由来する、おそらく単球系細胞の細胞である、CD14標識された細胞による、LPS刺激による炎症誘発性サイトカインであるTNF−αの発現の抑制が生じることも見出した。抗体とヒトsmIgDとの結合により、ヒト免疫細胞の活性化の際に通常上方制御される、中心的な制御因子、及びヒトTh1免疫応答の構成要素の発現が抑制されうる。これらのTh1免疫構成要素上に存在するヒトsmIgDへの抗体の結合により生じる抑制的な効果(広範囲にわたる自己免疫疾患の病理と密接な関係を有する)を応用することにより、ヘルパーT細胞(Th)により媒介される免疫応答の異常な誘導によって生じる疾患の治療及び/又は診断のための新規な方法、並びに、患者の疾患に対する感受性を測定し、患者の治療に対する反応をモニターし、ヘルパーT細胞性免疫応答を調整する能力を有する候補分子をスクリーニングするための新規な方法が提供される。
【0047】
免疫細胞(B細胞、マクロファージ及び樹状細胞などを含む)の活性化は、プロテインキナーゼC(PKC)経路により媒介される。かかる経路は、ヒト免疫応答を様々な態様に調節するという基本的な役割を有する。本願明細書に記載のように、PKCアイソフォームの強力なパンアクチベータであるPMA及びイオノマイシンを用いて、免疫細胞の活性化、及びサイトカイン遺伝子の発現誘発のための人工的な刺激因子とすることができる。9PMA及びイオノマイシンは、モデル動物において、炎症誘発剤及びTh1免疫の強力な誘導物質として機能する。
【0048】
本発明で示されるように、Th1免疫の中心的なレギュレータ、及び幾つかの古典的Th1サイトカインの発現(その発現は広範囲にわたり、自己免疫疾患の臨床的な重篤度及び病原性の進行と関連していることが示されている)は、smIgDに特異的な抗体の投与により抑制される。この抗体は、smIgDに結合することによって、免疫的な活性化によるT−Bet、TNF−α及びGM−CSFの発現誘導を抑制するシグナルに関与するか又は活性化させる。すなわち、本発明者は、免疫細胞の活性化の間におけるT−betの発現誘導により伝達されるTh1シグナルの増強が、特異的に抑制されることを見出した。それらはまた、古典的Th1サイトカインであるTNF−α及びGM−CSFの特異的な抑制することにより、炎症性及び免疫的な症状の病理に対するこれらのサイトカインの関与をブロックすることも明らかとなった。
【0049】
一実施形態では、当該方法、組成物及び/又はキットを用いて、プロテインキナーゼC経路を介した免疫細胞の活性化の間における、T−betの発現誘導により伝達されるシグナルの増強を抑制できる。
【0050】
他の実施形態では、当該方法、組成物及び/又はキットを用いて、Th1免疫の過度の活性化に関与する、2つの鍵となるTh1サイトカイン(TNFα及びGM−CSF)を抑制できる。
【0051】
以上より、本願明細書で開示される方法、組成物及び/又はキットでは、抗smIgD抗体を使用することによりT−Bet、TNF−α、GM−CSFが抑制され、それによりTh1免疫応答の過度の活性化が抑制される。T−betにより伝達されるシグナル増強を抑制することにより、Th1反応を減少させ、同時にTh2反応を促進することができる。TNF−α及びGM−CSFの抑制により、Th1免疫応答のエフェクター機能を抑制できる。更に、本願明細書で開示される方法、組成物及び/又はキットでは、抗smIgD抗体を使用することにより炎症反応(単球の活性化を伴う炎症)を抑制することができる。
【0052】
以上より、本願明細書で開示される方法、組成物及び/又はキットは、Th1免疫応答の抑制、及びTh2免疫応答の促進(抗体産生を含む)の用途に応用できる。
【0053】
方法:
本発明は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により伝達される、患者の免疫応答及び/又は炎症性反応の調節方法の提供に関する。当該方法は、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物を、有効量で患者に投与することを含んでなる。
【0054】
ヘルパーT細胞により媒介される免疫性又は炎症性疾患としては、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患などが挙げられる。上記自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患としては、アテローム性動脈硬化症、1型真性糖尿病、多発性硬化症、脳脊髄炎、甲状腺炎、関節炎(慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎)、皮膚炎(アトピー性皮膚炎、湿疹様の皮膚炎)、喘息、ざ瘡、乾癬、ブドウ膜炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、潰瘍、結膜炎、慢性膵炎、慢性肝炎、川崎病、大脳マラリア、全身性エリテマトーデス、結膜炎、腎炎、喘息、介在性肺線維症、慢性気管支炎、「鳥インフルエンザ」及び肺炎に対する感染時の肺組織の破壊、移植片対宿主病、臓器移植拒絶、子癇前症、自然流産及びIVF体内移植の拒絶からなる群から選択できる。
【0055】
単球系細胞により媒介される免疫性又は炎症性疾患には、単球からのTNF−αの放出が包含される。そのようなものとしては、慢性関節リウマチ、骨髄炎、変形性関節症、潰瘍性大腸炎、炎症性病巣、皮膚感染、クローン病、肺線維症、サルコイドーシス、全身性硬化症、器官移植拒絶、紅斑性狼瘡、腎炎、皮膚炎症、アテローム性動脈硬化症、子癇前症、妊娠中の高血圧、敗血症によって生じる慢性的な炎症及び症状からなる群から選択できる。
【0056】
上記の化合物は、抗smIgD抗体、抗原、タンパク質、無機化合物又はそれらの任意の組み合わせを含有してもよい。上記の抗原は自己抗原であってもよい。上記の自己抗原は細胞表面に発現されてもよい。上記の細胞は患者に内因性の細胞であってもよい。したがって、上記の化合物は、治療しようとする患者に内因する細胞の表面に発現される自己抗原を含んでなってもよい。かかる化合物は当業者に周知の標準的な技術を用いて得ることができ、当該技術としては、限定されないが自己細胞移入又は養子免疫細胞移入が挙げられ、例えば治療しようとする患者にT細胞、B細胞、樹状細胞又は他の内因性の抗原提示細胞を移入する方法が利用できる。
【0057】
上記化合物がsmIgDに結合することにより、smIgDの架橋がなされる。化合物がsmIgDに結合することにより、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現が抑制される。上記の少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th1免疫応答が抑制される。更に、上記の少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th2免疫応答が活性化される。
【0058】
上記の方法では、更に別の分子を投与することを含んでなってもよく、その更なる分子は、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節できる分子であってもよい。かかる更なる分子は、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患(例えば上記の疾患のいずれか)の治療に供されるものとして従来公知のいかなる化合物であってもよい。
【0059】
本発明はまた、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患を診断する方法、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定する方法、並びに、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターする方法の提供に関する。当該方法は、患者から生体サンプルを得るステップと、当該サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するステップを含んでなり、当該smIgDの発現レベルが、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の有無の指標、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の指標、又は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応の指標となることを特徴する。
【0060】
また、患者の免疫性及び/又は炎症性疾患を診断するための他の方法も本発明に包含され、例えば、ヘルパーT細胞及び/又は単球細胞により媒介される免疫性及び/又は炎症性疾患に対する患者の感受性を測定する方法、並びに、治療に対する患者の反応をモニターする方法が挙げられる。当該方法は、患者から生体サンプルを得るステップと、当該生体サンプルを、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)と結合する化合物と接触させるステップと、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなる。当該方法では、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルが、患者における、ヘルパーT細胞及び/又は単球系細胞により媒介される免疫性及び/又は炎症性疾患の有無の指標、患者における当該疾患に対する感受性の指標、又は、患者における当該疾患の治療に対する反応の指標となる。
【0061】
本発明は更に、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング方法の提供に関する。当該方法は、生体サンプルと少なくとも1つの候補分子を接触させるステップと、当該サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に対する当該少なくとも1つの候補分子の結合レベルをアッセイすることを含んでなる。当該方法では、smIgDに対する少なくとも1つの候補分子の結合レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、当該少なくとも1つの候補分子能力の指標となる。
【0062】
本発明にはまた、ヘルパーT細胞及び/又は単球により媒介される免疫性及び/又は炎症性の反応を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニングための、他の方法も包含される。当該方法は、生体サンプルと、少なくとも1つの候補分子とを接触させるステップと、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなる。当該方法では、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルが、ヘルパーT細胞及び/又は単球系細胞により媒介される免疫性及び/又は炎症性の反応を調節する、少なくとも1つの候補分子の能力の指標となる。
【0063】
化合物及びその用途
本発明はまた、薬理学的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と共に、患者のヘルパーT細胞により媒介される免疫応答の調節に用いたときに、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)と結合する化合物の提供に関する。
【0064】
本発明はまた、薬理学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバントと共に、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の診断、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の測定、又は、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応のモニタリングに用いたときに、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)と結合する化合物の提供に関する。なお、これらの用途においては、患者から採取した生体サンプル中の、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップが含まれる。
【0065】
本発明は更に、本願明細書に記載のように、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物の使用方法の提供に関する。
【0066】
本発明は更に、本願明細書に記載の方法でスクリーニングされた分子の、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答の調節への使用、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の測定への使用、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される免疫疾患の診断への使用、並びに、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞性により媒介される、本願明細書に記載のような免疫疾患の治療に対する反応のモニタリングへの使用の提供に関する。
【0067】
上記の化合物は、本願明細書に記載のように、抗smIgD抗体、抗原、タンパク質、無機化合物又はそれらの任意の組み合わせを含んでなってもよい。
【0068】
膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に対する抗体
本発明の具体的な実施形態は、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)を免疫源として調製した1つ以上の抗体の使用の提供に関する。当該抗体はポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体であってもよく、抗原として、smIgD又はその抗原性断片若しくは部分を用いて調製してもよい。適当な抗体としては、限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント及びFab発現ライブラリなどが挙げられる。
【0069】
適切な抗体は、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の離散領域又は断片から調製することができる。抗体の適切な調整方法は、当業者に公知である。例えば、抗smIgDモノクローナル抗体は、典型的にはFab部を含んでなり、それらは例えば“Antibodies−A Laboratory Manual,Harlow and Lane,eds.,Cold Spring Harbour Laboratory,N.Y.(1988)”に記載のハイブリドーマ技術を使用して調製できる。実際には、smIgD、その断片若しくはアナログと反応するモノクローナル抗体の調製においては、細胞株の連続培養によって抗体分子を産生させるためのいかなる技術を用いてもよい。これらの技術としては、Kohlerらのハイブリドーマ技術及びトリオーマ技法(Nature,256:495−497(1975))、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術[Kozborら、Immunology Today,4:72(1983)]、及びEBV−ハイブリドーマ技術によるヒトモノクローナル抗体の産生[Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,pp.77−96,Alan R.Liss,Inc.,(1985)]が例として挙げられる。不死化した抗体産生細胞株は、細胞融合以外の技術により作製することもでき、例えば腫瘍形成DNAによるBリンパ球の直接的な形質転換、又はエプスタイン−バー−ウイルスによるトランスフェクションなどが挙げられる。M.Schreierら、”Hybridoma Techniques”(1980)、Hammerlingら、”Monoclonal Antibodies and T−cell Hybridomas”(1981)、Kennettら、”Monoclonal Antibodies”(1980)を参照。
【0070】
本発明の実施にとり有用なモノクローナル抗体は、適当な抗原特異性を有する抗体分子を分泌するハイブリドーマを含む、栄養含有培地において、モノクローナルハイブリドーマの培養を行うことにより調製できる。当該培養は、培地への抗体分子の分泌に適する条件下で、ハイブリドーマを一定期間培養することにより実施される。次に抗体を含有する培地を回収する。更に周知の技術を用いて、抗体分子を単離することができる。
【0071】
同様に、ポリクローナル抗体からの、smIgD又はその断片若しくはアナログの調製に使用できる様々な手順が、当該技術において公知である。ポリクローナル抗体の調製においては、限定されないが、ウサギ、マウス、ネズミ、ヒツジ、ヤギなどの様々な宿主動物を用いて、IgDポリペプチド又はその断片若しくはアナログを注射して免疫する。更に、IgDポリペプチド又はその断片若しくはアナログは、免疫原性の高い担体(例えばウシ血清アルブミン(BSA)又はキーホールリンペットヘモシニアン(KLH))とコンジュゲートさせてもよい。また、様々なアジュバントを用いてもよく、例えば、限定されないがフロイント(完全及び不完全)のアジュバント、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ミネラルゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性物質(例えばリソレシチン)、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油脂乳化剤、キーホールリンペットヘモシニアン、ジニトロフェノール及び有用なヒトアジュバント(例えばBCG(桿菌のCalmette−Guerin)及びトリネバクテリウム・パルヴァム(Corynebacterium parvum))などを用いて免疫応答を増強させることもできる。
【0072】
所望の抗体のスクリーニングは、公知の様々な技術により実施できる。抗体が有する免疫学的な結合特異性に関するアッセイとしては、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合イムノアッセイ)、サンドイッチイムノアッセイ、イムノラジオアッセイ、ゲル内拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、in situイムノアッセイ、ウエスタン及びドットブロッティング、沈降反応、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫蛍光アッセイ、プロテインAアッセイ及び免疫電気泳動アッセイ、バイオセンサーなど(例えばAusubelら編、1994、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、ジョン・ワイリー社、ニューヨークを参照)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
抗体結合の検出
抗体の結合は、抗−膜表面免疫グロブリンD(smIgD)一次抗体の検出可能な標識により検出できる。あるいは、抗smIgD抗体は、適切な標識を有する二次抗体、又は検出を可能にするための試薬と結合させることにより検出されうる。イムノアッセイにおいて結合を検出するための様々な方法が公知であり、いずれも本発明の範囲内に包含される。例えば、smIgDレベルの測定は、例えば酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、サンドイッチイムノアッセイ、競争的イムノアッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫電気泳動アッセイ、in situイムノアッセイ、免疫拡散アッセイ、免疫蛍光アッセイ、ウエスタンブロット、リガンド結合アッセイ、バイオセンサーなどの、公知の多くの技術のいずれかを用いて実施できる。
【0074】
GM−CSF、TNF−α及びT−Betの発現の検出
目的の遺伝子(例えばGM−CSF、TNF−α及びT−Bet)の発現レベルを測定するため方法が本願明細書に例証されており、かかる方法としては、限定されないがリン光イメージング、RT−PCR、半定量的PCR又はリアルタイムRT−PCRなどが挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
【0075】
smIgD、GM−CSF、TNF−α及びT−Betレベルの測定
smIgD、GM−CSF、TNF−α及びT−Betのレベルを測定するための本発明の方法は、目的の患者(例えば自己免疫疾患、炎症性疾患若しくはアレルギー疾患、又はそれらの素因を有すると考えられる個人)から得られたサンプルのsmIgDのレベルを、1つ以上のコントロールサンプルにおけるsmIgDのレベルと比較するステップを含んでなってもよい。典型的には、コントロールサンプルは、標準的なsmIgDレベルを有し、及び/又は自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患を有しないことが明らかな個人に由来するサンプルであってもよい。
【0076】
キット
本発明はまた、smIgDレベルの測定用のキットの提供に関し、当該キットの使用により、本発明の方法がより効率的に実施できる。
【0077】
具体的には、本発明は、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫応答を調節するためのキットの提供に関し、当該キットは、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物を含んでなることを特徴とする。
【0078】
本発明はまた、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患を診断し、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定し、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターするためのキットの提供に関する。当該キットは、患者から生体サンプルを得るための手段と、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するための手段を含んでなる。上記の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルは、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患の治療の指標、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の指標、又は、患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患に対する反応の指標となる。
【0079】
本発明は更に、ヘルパーT細胞により媒介される免疫応答を調整する能力を有する少なくとも1つの候補分子のスクリーニング用のキットの提供に関する。当該キットは、生体サンプルと、少なくとも1つの候補分子とを接触させるための手段と、サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に対する、少なくとも1つの候補分子の結合レベルをアッセイするための手段を含んでなる。smIgDに対する少なくとも1つの候補分子の結合レベルは、ヘルパーT細胞により媒介される免疫応答を調整するための、当該少なくとも1つの候補分子の能力の指標となる。
【0080】
本発明は更にヘルパーT細胞により媒介される免疫応答を調整する能力を有する、少なくとも1つの候補分子のスクリーニング用のキットの提供に関する。当該キットは、生体サンプルを少なくとも1つの候補分子と接触させるための手段と、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするための手段を含んでなる。GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルは、ヘルパーT細胞により媒介される免疫応答を調整するための、当該少なくとも1つの候補分子の能力の指標となる。
【0081】
典型的には、本発明の方法を実施するためのキットは、当該方法を行うために必要な全ての試薬を含んでなる。例えば、一実施形態では、当該キットはsmIgDと反応する捕捉抗体を含む第一容器と、smIgDと反応する検出抗体を含む第二容器を含んでなってもよい。抗smIgD捕捉抗体は、固相表面(例えばマイクロタイタープレートのウェル又はビーズ)上へ固定化させてもよい。
【0082】
抗smIgD検出抗体は、標識分子(例えばビオチン)とコンジュゲートさせてもよい。
【0083】
典型的には、上記のキットは、例えば洗浄用の試薬及び/又は細胞に結合した抗体の存在を定量的に検出できる他の試薬などを含む、他の1つ以上の容器を含んでなってもよい。例えば、ストレプトアビジンペルオキシダーゼなどのシグナル発生物質を用いて検出抗体と結合させ、2,2’−アジノ−ビス−(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)又はテトラメチルベンジジン(TMB)などの基質を当該シグナル発生物質に結合させることが可能である。
【0084】
それに加えて、又はその代替として、本発明のキットは、IgDを固相表面へ固定化することを特徴とする、競争的ELISA用のキットであってもよい。固定化されたIgDは更に、抗−smIgD抗体との結合において、測定用サンプル中に存在する内因性のsmIgDと競争する。それに加えて、又はその代替として、当該抗smIgD抗体は、シグナル発生物質(例えばストレプトアビジンペルオキシダーゼ)との結合に適する標識(例えばビオチン)を有してもよい。
【0085】
本発明においては、コンパートメント化されたキットは、試薬が別々の容器に含まれるいかなるキットであってもよく、例えば小型のガラス容器、プラスチック容器又はプラスチック製若しくは紙製のストリップなどであってもよい。かかる容器の使用により、サンプル及び試薬の交叉汚染を回避しつつ、1つのコンパートメントから他のコンパートメントへの試薬の効果的な移動が可能となり、また、1つのコンパートメントから他方のコンパートメントへの、各容器中に含まれる試薬若しくは溶液の、一定量における添加が可能となる。かかるキットはまた、測定用サンプルを受容する容器、分析に使用する1つ以上の抗体を含む容器、洗浄試薬(例えばリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液など)を含む容器、並びに検出試薬を含む容器などを含んでなってもよい。
【0086】
典型的には、本発明のキットはまた、適切な方法の実施のために、キット内容物の取扱説明書を含んでなってもよい。
【0087】
本発明に係るキット及び方法は、複数のサンプル及び/又は複数のバイオマーカの分析が可能な自動分析装置及びシステム(例えばビーズベースのBioRad BioPlex 2200多重アナライザなどの自動分析装置)と組み合わせて使用してもよい。例えば、自動分析装置を用いることによりsmIgD、GM−CSF、TNF−α及びT−Betのレベルを測定でき、そのレベルを用いて、自己免疫疾患、炎症性疾患若しくはアレルギー疾患、又はその素因を示す指標とすることができる。
【0088】
本発明の方法及びキットは、いかなる動物にも等しく適用でき、例えば限定されないがヒト、更にはヒト以外の霊長類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、トリ、ネコ及びイヌなどに適用できる。したがって、本発明のキットを一種類準備して様々な種へ適用してもよく、又は、異なる種類のキット(例えば個々の種に特有の試薬を含有するキット)を準備してもよい。本発明の方法及びキットは、smIgD、GM−CSF、TNF−α及びT−Betのレベルを測定することが望ましい全ての状況において有用性を発揮することができ、かかるレベルを測定することにより、自己免疫疾患、炎症性疾患若しくはアレルギー疾患、又はそれらの素因を示す指標とすることができる。
【0089】
治療用の組成物及び方法
本願明細書に記載の方法に用いられる抗体又は他の化合物は、治療用又は予防用の組成物として投与できる。医療用途においては、当該組成物は、上記の疾患及びその合併症を治療又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量で、上記疾患に罹患する患者に投与する。当該組成物は、効果的に患者を治療するのに十分な量の化合物又は薬剤を提供する態様である必要がある。
【0090】
一般的に、適切な組成物は当業者に公知の方法に従って調製でき、薬理学的に許容できる担体、希釈剤及び/又はアジュバントを含有させてもよい。
【0091】
投与可能な組成物を調製するための手法は当業者にとり自明であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,15th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(本願明細書に援用する)において更に詳細に記載されている。
【0092】
本願明細書において提供される組成物は通常、非経口投与用(例えば静脈内注射用)に調製される。製剤方法、及び静脈内注射若しくは持続的注入による、治療的若しくは予防的抗体の臨床的若しくは実験的投与のための方法は公知である。
【0093】
上記組成物は、1つ以上の薬理学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバント、並びに任意に他の治療用成分と共に、有効成分を含有する局所投与用製剤として調製してもよい。局所投与に適する製剤としては、治療が必要とされる部位の、皮膚内への浸透に適する液体又は半液体状の調製物(例えば目、耳又は鼻への投与に適する塗布剤、ローション剤、クリーム、軟膏又はペースト及びドロップ)が挙げられる。
【0094】
本発明に係るドロップは、滅菌水若しくは油脂中の溶液又は懸濁液であってもよい。これらは、抗菌剤及び/又は抗真菌剤及び/又は他の適切な防腐剤を含有する水溶液中に有効成分を溶解し、任意に界面活性剤を含有させることにより調製できる。得られる溶液を更に濾過して清澄にし、適切な容器へ移し、滅菌する。滅菌処理は、1/2時間、90℃〜100℃でオートクレーブするか、又は濾過滅菌を行い、無菌操作によって容器へ移すことにより行われる。ドロップへの添加に適する抗菌剤及び抗真菌剤の例としては、硝酸フェニル水銀又は酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)及びクロルヘキシジンアセタート(0.01%)が挙げられる。好適な油状溶液の調製に用いられる溶媒としては、グリセロール、希釈アルコール及びプロピレングリコールが挙げられる。
【0095】
本発明によるローション剤は、皮膚又は目への投与に適するものである。点眼剤は、任意に殺菌剤を含有する滅菌水中の溶液を含んでなってもよく、ドロップの調製と同様の方法により調製できる。皮膚への投与用のローション又はリニメント剤はまた、乾燥を促進し、皮膚を冷却するための薬剤(例えばアルコール又はアセトン)、及び/又はモイスチャライザー(例えばグリセロール)、あるいは油脂(例えばヒマシ油又は落花生油)も含有する。
【0096】
本発明によるクリーム、軟膏又はペーストは、有効成分を含有する、半固体状の外用製剤である。それらは、微粒子状若しくは粉末状の形態の有効成分を、それ単独で、又は水若しくは非水性の液体中の溶液若しくは懸濁液の状態で、グリース状若しくは非グリース状のベースと混合することにより調製できる。当該ベースは、炭化水素(例えば硬質、柔質若しくは流動パラフィン)、グリセロール、黄蝋、金属ソープ、粘質物、天然の油脂(例えばアーモンド、穀物、アラキス、キャスタ又はオリーブの油脂)、羊毛脂又はその誘導体、又は脂肪酸(ステアリン酸若しくはオレイン酸など)とアルコール(プロピレングリコール又はマクロゴールなど)との化合物などが挙げられる。
【0097】
上記組成物は、適切な界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性若しくは非イオン性の界面活性剤(例えばソルビタンエステル又はそのポリオキシエチレン誘導体)などを含有してもよい。天然ガム、セルロース誘導体等の懸濁剤、又はケイ質ケイ砂等の無機物質、及びラノリン等の他の成分を含有してもよい。
【0098】
組成物は、リポソームの形で投与してもよい。リポソームは通常、リン脂質又は他の脂質物質から調製され、水性溶媒中に分散された状態で、単一層状若しくは多層状の液体液晶として形成される。リポソームを形成できる、あらゆる無毒性の生理的に許容できる、代謝可能な脂質が使用できる。リポソーム形の組成物は、安定化剤、保存剤、賦形剤などを含有してもよい。好ましい脂質は、リン脂質及びホスファチジルコリン(レシチン)(天然及び合成)である。リポソームの調製方法は、従来技術において公知であり、例えば、Prescott,Ed.,Methods in Cell Biology,Volume XIV,Academic Press,New York,N.Y.(1976),p.33 et seq.などが挙げられる(本願明細書に援用する)。
【0099】
投与量
特定の患者における治療的に有効な投与レベルは、様々な要因に応じて変化しうる。例えば、治療しようとする障害及び障害の重篤度、使用する化合物又は薬剤の活性、使用する組成物、患者の年齢、体重、健康状態、性別及び食事、投与の時間、投与経路、薬剤又は化合物の投与速度、治療期間、組み合わせる若しくは併用する薬剤、並びに医学分野で周知の他の要因などが挙げられる。
【0100】
当業者であれば、ルーチン試験によって、目的の疾病の治療に必要となる薬剤又は化合物の有効量、無毒性量を決定することができる。
【0101】
有効量は通常、24時間あたり、kg体重あたり約0.0001mg〜約1000mgの範囲である。典型的には、24時間あたり、kg体重あたり約0.001mg〜約750mg、24時間あたり、kg体重あたり約0.01mg〜約500mg、24時間あたり、kg体重あたり約0.1mg〜約500mg、24時間あたり、kg体重あたり約0.1mg〜約250mg、24時間あたり、kg体重あたり約1.0mg〜約250mgである。より典型的には、有効量は、24時間あたり、kg体重あたり1.0mg〜約200mg、24時間あたり、kg体重あたり約1.0mg〜約100mg、24時間あたり、kg体重あたり約1.0mg〜約50mg、24時間あたり、kg体重あたり約1.0mg〜約25mg、24時間あたり、kg体重あたり約5.0mg〜約50mg、24時間あたり、kg体重あたり約5.0mg〜約20mg、24時間あたり、kg体重あたり約5.0mg〜約15mgである。
【0102】
あるいは、有効量は最高約500mg/mであってもよい。有効量は通常、約25〜約500mg/m、好ましくは約25〜約350mg/m、より好ましくは約25〜約300mg/m、更に好ましくは約25〜約250mg/m、より更に好ましくは約50〜約250mg/m最も好ましくは約75〜約150mg/mの範囲である。
【0103】
典型的には、臨床用途においては、疾病状態の間に治療が行われる。
【0104】
更に、当業者にとり明らかなように、個々の投与量の最適量及び間隔は、治療しようとする疾病の性質及び状態、投与の形態、ルート及び部位、並びに特定の患者の体質などにより決定される。また、かかる最適条件は、従来の技術で決定できる。
【0105】
また当業者にとり明らかなように、治療の最適コース(例えば所定の日数における、1日あたりの組成物の投与回数)は、従来公知の治療方法決定のための試験により、当業者が決定することができる。
【0106】
投与経路
本発明の組成物は、標準的な投与経路から投与できる。上記組成物は通常、非経口的(例えば静脈内、髄腔内、皮下、筋肉内)、経口的、局所的な経路から投与できる。典型的には、上記投与は静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内投与である。上記組成物は、滑膜性の関節又は炎症部位に直接注入してもよい。
【0107】
担体、希釈剤、賦形剤及びアジュバント
担体、希釈剤、賦形剤及びアジュバントは、組成物中の他の成分と適合性を有するという意味で「許容できる」ものであることが必要であり、その受容者に有害であってはならない。かかる担体、希釈剤、賦形剤及びアジュバントを用いることにより、本発明の組成物の形態保持及び半減期の長期化が可能となる。これらを用いることにより、本発明の組成物の生物的活性の強化若しくは保護が可能となる。
【0108】
薬理学的に許容できる担体又は希釈剤の例としては、脱イオン水若しくは蒸留水、食塩水、植物ベースの油(例えば落花生油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、又はヤシ油)、ポリシロキサン(例えばメチルポリシロキサン、フェニルポリシーロキサン及びメチルフェニルポリシロキサン)を含むシリコーンオイル、揮発性シリコーン、鉱油(例えば流動パラフィン、柔質パラフィン又はスクアラン)、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、低級アルカノール(例えばエタノール又はイソプロパノール)、低級アルカノール、低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール又はグリセリン)、脂肪酸エステル(例えばイソプロピルパルミテート、イソプロピルミリステート又はオレイン酸エチル)、ポリビニルピロリドン、寒天、トラガント又はアカシアゴム及びワセリンなどが挙げられる。典型的には、上記担体は組成物に対して10%〜99.9重量%を占める。
【0109】
他の担体としては、本発明の化合物をコードするDNAを標的細胞に直接輸送できるウィルスベクターが挙げられる。
【0110】
上記の担体は、本発明の化合物に共有結合する融合タンパク質又は化学物質であってもよい。かかる生物学的及び化学的な担体を用いることにより、化合物の標的部位への輸送の促進や、又は化合物の治療的活性の強化が可能となる。融合タンパク質の産生のための方法は従来技術において公知であり、例えばAusubelら、(In:Current Protocols in Molecular Biology.Wiley Interscience,ISBN 047 150338,1987)及びSambrookら、(In:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York,Third Edition 2001)に記載されている。
【0111】
本発明の組成物は、注入に適した形態、経口投与に適する製剤(例えばカプセル、錠剤、カプレット、エレキシルなど)、局所投与に適する軟膏、クリーム又はローション剤の形態、点眼液としての使用に適する形態、吸入による投与に適するエアゾールの形態(例えば鼻腔内吸入又は経口吸入)、又は、非経口的適用(すなわち皮下、筋肉内若しくは静脈内注射)に適する形態であってもよい。
【0112】
注射可能な溶液又は懸濁液として投与を行う際、無毒性の非経口的に使用可能な希釈剤又は担体としては、リンガー液、等張の食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール及び1,2プロピレングリコールが挙げられる。
【0113】
経口投与に使用される、適切な担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバントの若干の例としては、落花生油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチン及びレシチンなどが挙げられる。更に、これらの経口製剤は適宜調味料及び着色料を含有してもよい。カプセル形態で使用する場合、当該カプセルに対して、例えば崩壊を遅延させるモノステアリン酸グリセリン又はグリセリルジステアラート化合物などをコーティングしてもよい。
【0114】
典型的なアジュバントとしては、Freundのアジュバント、緩和剤、乳化剤、増粘剤、保存料、抗菌剤及び緩衝剤などが挙げられる。
【0115】
固体状の経口投与剤には、ヒト及び獣医学用途に使用できる結合剤、甘味料、崩壊剤、希釈剤、調味料、コーティング剤、保存料、潤滑剤及び/又は遅延剤などを含有してもよい。好適な結合剤としては、アラビアゴム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース又はポリエチレングリコールが挙げられる。好適な甘味料としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテーム又はサッカリンが挙げられる。好適な崩壊剤としては、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸又は寒天が挙げられる。好適な希釈剤としては、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、カオリン、セルロール、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム又はリン酸二カルシウムが挙げられる。好適な芳香剤としては、ハッカ油、ウィンターグリーン油、サクランボ、オレンジ又はラズベリーのフレーバーが挙げられる。好適なコーティング剤としては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はそれらのエステルのポリマー又はコポリマー、ワックス、脂肪アルコール、ゼイン、セラック又はグルテンなどが挙げられる。好適な保存料としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α−トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン又は亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。好適な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム又はタルクが挙げられる。好適な遅延剤としては、モノステアリン酸グリセリン又はグリセリルジステアラートが挙げられる。
【0116】
投与用の製剤には、上記の薬剤に加えて、液体担体を含有させてもよい。好適な液体担体としては、水、油脂(例えばオリーブ油)、落花生油、ゴマ油、ひまわり油、サフラワー油、落花生油、ヤシ油、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリド又はそれらの混合物が挙げられる。
【0117】
経口投与用の懸濁液は更に、分散剤及び/又は懸濁剤を更に含有してもよい。好適な懸濁化剤には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム又はアセチルアルコールが含まれる。適切な分散剤としては、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールのモノ又はジオレイン酸、ステアリン酸又はラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンのモノ又はジオレイン酸、ステアリン酸又はラウリン酸エステルなどが挙げられる。
【0118】
経口投与用のエマルジョンは、1つ以上の乳化剤を更に含有してもよい。好適な乳化剤としては、上記で例示した分散剤、又は天然のガム(例えばグアーガム、アラビアゴム又はトラガント)が挙げられる。
【0119】
複合療法
当業者であれば、上記の組成物が、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー関連疾患の治療に対する、複合治療アプローチの一部として投与できることを理解するであろう。その際、かかる治療用の他の治療手段との組み合わせで、本願明細書に開示される1つ以上の組成物が使用される。かかる複合治療においては、当該成分を同時に、任意の順番で順次、又は異なるタイミングで投与して、所望の治療効果を得ることが有効である。別個に投与する場合には、当該成分は同じ投与経路により投与されるのが好ましいが、それが必須ではない。あるいは、単一の投与単位中に当該成分を組合せて用いて製剤化してもよい。本発明の組成物との組み合わせで使用できる適切な約剤は、当業者に公知である。
【0120】
治療のタイミング
当業者であれば、上記の組成物を、それ単独で、又は複合治療アプローチの一部として、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー関連の疾患の治療のために、診断の際、又はその後の処置(例えばフォローアップ治療若しくは強化療法を、実際に行っている治療と並行して行う処置)において投与してもよいことは自明である。あるいは、上記の組成物を、遺伝的に、又は環境的にかかる疾患に罹患しやすい患者の予防のために投与してもよい。
【0121】
以下の具体的な実施例を参照しながら本発明を説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0122】
実施例1:
材料及び方法:
1.1: PBMCの単離
取り扱い説明書の説明に従い、Ficoll−Paque Plus法(Amersham Bioscience)を用いてヒト末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。簡潔には、最初に、ボランティアからの全血を、血液凝固防止剤を含むチューブ内に回収した。回収したサンプルを、冷却したエンドトキシンフリーのリン酸緩衝液食塩水(PBS−E)中で、1:1(体積:体積)の比率で希釈した。当該希釈した血液サンプルを、3:4(フィコール体積:血液サンプル体積)の比率になるように、慎重にフィコール−Paque Plus溶液上に積層させた。次にサンプルを密度勾配により、16〜20℃で20〜30分間、400gで遠心分離し、PBMCを血漿及び赤血球から分離した。PBMCを含有する層を回収し、冷却したPBS−Eで3回洗浄した。トリパンブルーにより生細胞数をアッセイした。上記の技術を用いて分離されるPBMCは、循環T細胞、B細胞、単球及びマクロファージ及びナチュラル−キラー(NK)細胞を含むと考えられる。
【0123】
1.2: 細胞培養
単離されたPBMC及びJurkat T細胞に由来する細胞を、10%のウシ胎仔血清、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び抗生物質(100U/mLのペニシリン及び100U/mLのストレプトマイシン)を添加したRPMI−1640培地中で培養した。細胞を、37℃及び5%のCOの、加湿インキュベータで培養した。細胞を、1.5〜2×10細胞/ウェルで播き、実験開始前に一晩培養した。
【0124】
1.3: 半定量的RT−PCRによる遺伝子発現の解析
PBMC及びJurkat T細胞からの細胞を、1.5〜2×10細胞/ウェルで播き、一晩培養した。細胞を、50μg/mLの抗ヒトsmIgD抗体(Serotec社製)又は溶媒(コントロール)で、0、3、24時間処理し、更に4時間、20ng/mlのPMA及び1μg/mLのイオノマイシン(Sigma Aldrich社製)で処理した。PMA/イオノマイシン処理後、細胞を回収し、PBS−Eで一度洗浄した。全mRNAを、製造業者の取扱説明書に従い、Trizol法(Invitrogen社)により分離した。0.5〜1μgのmRNAのサンプルを、MMLV逆転写酵素(Bioline社製)を使用してcDNAに変換させた。cDNAの3μLのサンプルを、遺伝子に特異的なプライマーを使用してPCR増幅した。遺伝子に特異的なプライマーの配列、それらのPCR産物のサイズ及びPCR条件を表1に示す。PCR産物を1%のアガロースゲル電気泳動で分離し、エチジウムブロミドで染色した。DNAのバンドをUV下で視覚化し、BioRad Gel Docシステム及びQuantityOneソフトウェア(BioRad社製)を用いてデンシトメトリによって定量した。
【0125】
表1:半定量的RT−PCR分析の際の配列及びPCR条件
【表1】

【0126】
実施例2:抗ヒトsmIgD抗体による免疫細胞の刺激による、PMA/イオノマイシン誘導によるTh1−サイトカイン遺伝子発現及びその転写制御因子T−Betのブロック:
図1及び2に示される結果は、抗ヒトsmIgD抗体(クローンSTAR94、Serotec、オックスフォード、英国)によるJurkat T細胞及びPBMCの24時間(3時間ではない)にわたる処理により、GM−CSF、TNF−α及びT−BetのPMA/イオノマイシン−誘導によるmRNA発現がブロックされたことを示す。しかしながら、それはPMA/イオノマイシンにより誘導されたIFN−γ及びIL−2の遺伝子発現を抑制する効果を示さなかった(図1及び2)。
【0127】
予想通り、Jurkat T細胞及びPBMCの刺激により、古典的なTh1関連サイトカインの伝令RNA及びその転写性因子(IFN−γ、IL−2、GM−CSF、TNF−α及びT−Bet、図1及び2のレーン2)の発現が、溶媒(コントロール、図1及び2のレーン1)と比較し、顕著に増加していた。抗ヒトsmIgD抗体のみによる24時間の治療は、これらの遺伝子(図1及び2、レーン3)の全てのベースラインのmRNA発現に対して、顕著な影響を及ぼさなかった。Jurkat T細胞(図1、レーン5及び6)及びPBMC(図2、レーン4)の、24時間にわたる抗ヒトsmIgD抗体による前処理、及びPMA/イオノマイシンによる刺激により、PMA/イオノマイシンによるGM−CSF、TNF−α及びT−BetのmRNA発現の誘導が完全にブロックされたが、PMA/イオノマイシン誘導性のIFN−γ及びIL−2のmRNA発現の阻害は見られなかった。PMA/イオノマイシン刺激前の、抗ヒトsmIgD抗体によるPBMCの3時間にわたる前処理、又は抗ヒトsmIgD抗体との同時添加のいずれの場合においても、試験した全ての遺伝子(IFN−γ、IL−2、GM−CSF、TNF−α及びT−Bet)のPMA/イオノマイシン誘導性のmRNA発現の阻害は見られなかった(図1及び2、レーン5及び6)。
【0128】
これらの結果は、PMA/イオノマイシン誘導性のGM−CSF、TNF−α及びPBMCのT−BetのmRNA発現に対する抗ヒトsmIgD抗体の抑制効果が、時間依存的であることを示す。TGF−β1の添加により、PMA/イオノマイシン誘導性のGM−CSF発現に対する抗ヒトsmIgD抗体の抑制的な効果が強化されたが、PMA/イオノマイシン誘導性のIFN−γ及びIL−2発現に大しては抑制的な影響を及ぼさなかった。
【0129】
すなわちこのデータは、抗ヒトsmIgD抗体による処理により、特にTh1免疫の中心レギュレータ(T−bet)の、PMA/イオノマイシン誘導性の発現がブロックされ、T−betによるTh1シグナルの増幅が抑制されうることを示す。また、抗ヒトsmIgD抗体による処理により、2つの古典的なTh1サイトカインであるTNF−α及びGM−CSF(多くの自己免疫疾患の病理において重要な役割を果たす)の誘導が抑制される。
【0130】
上記の結果はまた、ヒトsmIgDを介して伝達される負の若しくは抑制的なシグナルが、PKC経路の下流に伝達され、PKC−により媒介される免疫応答の差動的効果を生じさせることを示唆するものである。
【0131】
まとめると、上記のデータは、抗ヒトsmIgD抗体による処理が、特に免疫細胞の活性化の間、T−Bet、TNF−α及びGM−CSFの誘導を抑制することを示唆する。抗ヒトsmIgD抗体が、PBMCにおいて、PMA/イオノマイシン誘導性のIFN−γ及びIL−2の発現の抑制効果を示さなかったことは、それが全てのTh1免疫応答を完全に抑制するのではなく、Th1免疫性を弱めることを示唆するものである。
【0132】
実施例3:PMA/イオノマイシン誘導性のGM−CSF、TNF−α及びT−Betの発現に対する、抗ヒトsmIgD抗体の抑制的な効果は、PBMCのサブ集団における細胞毒性選抜に起因するものではない
本発明者は、抗ヒトsmIgD抗体による処理がPBMCの細胞死を誘発し、それ故、不完全なPKC活性化経路を有するPBMCの細胞集団を試験するため、各処理の直後に生菌数を測定した。
【0133】
生存するPBMCの計測は、培養時、及び処理後におけるトリパンブルー染色により行った。実施例1で説明したように、PBMCを分離し、培養した。細胞を、12−ウエルプレート中に1.5×10細胞/ウェルで播いた。50μg/mL抗ヒトsmIgD抗体で24時間処理した後、20ng/mlのPMA及び1μg/mLのイオノマイシンで4時間した後のPBMC数は、異なる処理に用いた細胞の初期の細胞密度と比較しても、重要に減少していなかった。
【0134】
この結果は、試験した投与量における、抗ヒトsmIgD抗体によるPBMCのin vitro処理によっても、ヒトPBMCに対して細胞傷害性の効果が現れず、また観察された抑制的な効果は非生存細胞の選抜に起因するものではないことを示唆するものである。更に、PKC活性化経路は、これらの細胞において、PBMCにおけるPMA/イオノマイシンによるIFN−γ及びIL−2の通常の誘導により示されるとおり、機能を有し、完全であった。
【0135】
実施例4:ヒト末梢血単核細胞上でのsmIgDの発現
smIgDがヒト免疫細胞の異なる集団に発現されているか否かを解析するため、実施例1にて説明したフィコール−Paque Plus法により、4人のボランティア患者からの血液からヒトPBMCを単離し、smIgD及び細胞マーカで二重標識した。簡潔には、PBMCを種特異的な血清でプレインキュベートして抗体との非特異的な結合をブロッキングし、更に蛍光コンジュゲートした抗体とインキュベートした。単球及びT細胞の、Th1−サイトカイン産生及び免疫応答に対する重要な役割に関して、これらの細胞上でのsmIgDの発現を、smIgDによる単球(CD14)及びT細胞(CD3)標識の共染色により解析した。ヤギFITCコンジュゲート抗ヒトIgD抗体(クローンSTAR94F)を、Serotec社(オックスフォード、英国)から購入した。PEコンジュゲート抗ヒトCD 14及びCD3抗体を、ダコ社(CA、USA)から購入した。抗体を、細胞と共に、氷上で1時間、ブロッキング血清の存在下でインキュベートした。また細胞を、非特異的なアイソタイプ結合をコントロールするため、適当な抗体アイソタイプでインキュベートした。フローサイトメトリを使用し、CellQuestプログラム(Becton−Dickinson社製)により細胞を分析した。
【0136】
図3A及び3Bはそれぞれ、単球標識(CD14)若しくは単純T細胞(CD3)と、及びsmIgDによる二重標識を使用した場合の結果を示す。約10%のCD3+T細胞でsmIgDが発現していた。ドットプロットの右上領域に存在するセルに示す(図3A)。約54%のCD14+細胞(単球系細胞の細胞を示す)でsmIgD(図3B)が発現していた。これらのドットプロットは、ボランティア患者からの代表的なデータである。
【0137】
このデータは予想外にも、B細胞以外のヒト血液細胞(一部の単純なT細胞及び一部の単球系細胞の細胞を含む)が、細胞膜上にIgDを担持しており、ゆえに、smIgDに結合する化合物(例えば抗体)を使用して目標とすることができることを示す。炎症性症状の病理における、単球及びT細胞の重要な役割、並びにそれらによるTh1サイトカイン産生に関して、このデータは、これらの細胞が抗smIgD抗体による処理における潜在的な標的であること証明する。
【0138】
実施例5:ヒトPBMCにおけるPMA/イオノマイシン誘導性のT−Betタンパク質の発現に対する、抗ヒトsmIgDの抑制的効果
図2に示す結果は、PBMCにおいて、抗ヒトsmIgD抗体による処理により、PMA/イオノマイシン誘導性T−Bet発現が、mRNAのレベルで抑制されることを示す。抗ヒトsmIgD抗体による処理がT−Betタンパク質産生を抑制できるか否かを解析するため、実施例1に記載されている方法で調製したヒトPBMCを、抗ヒトsmIgD抗体(クローンSTAR94、Serotec、オックスフォード、英国)50μg/mLで24時間処理し、その後、又はと並行して、それぞれ20ng/ml及び1μg/mLの濃度のPMA/イオノマイシン(P/I)で6時間処理した。
【0139】
PMA/イオノマイシンによる処理後、細胞を回収し、PBS−Eで一度洗浄した。RIPA方法により処理後の細胞から全蛋白を抽出し、ウエスタンブロッティングを行い、T−Betタンパク質レベルを解析した。タンパク質サンプル(30μg)を、変性条件下で、10%のアクリルアミドゲル電気泳動により分離させた。次にタンパク質のバンドをニトロセルロース膜に転写し、更に非特異的結合を防止するため、PBS/10%脱脂乳/0.1%BSAでブロッキングした。ウエスタンブロット膜を、抗ヒトT−Bet抗体(クローン4B10、Santa Cruz Biotech.Inc、USA)/PBS/3% 脱脂乳/0.1% BSA+0.3% Tween−20と、4℃で一晩反応させた。次に膜を洗浄し、HRPコンジュゲート二次抗体と反応させた。タンパク質のバンドを、X線フィルムで視覚化した。ハウスキーピング遺伝子であるアクチンの発現を、ウエスタンブロット法のためのローディングコントロールとして用いた。
【0140】
図4は、T−Betタンパク質の発現レベルを示す、ウエスタンブロッティングの結果を示す。未処理ヒトPBMCにおける、T−Betタンパク質のベースラインの発現を、図4のレーン1に示す。予想通り、T−Betタンパク質発現は、抗−ヒトsmIgD抗体治療の非存在下で、PMA/イオノマイシンによる刺激後6時間において、ヒトPBMCにおいて誘導されていた(レーン2)。レーン3は、24時間抗ヒトsmIgD抗体の50μg/mLのみで処理したとき、ヒトPBMCにおけるT−Betタンパク質発現が、T−Betタンパク質発現の基礎レベルと比較し変化がなかったことを示す。レーン4は、抗ヒトsmIgD抗体によるヒトPBMCの処理を、6時間のPMA/イオノマイシン処理と並行して行うことにより、PMA/イオノマイシン誘導性のT−Bet発現の抑制がなされなかったことを示す。
【0141】
図2に示されるデータから、抗smIgD抗体に曝露されたヒトPBMCにおいては、PMA/イオノマイシン誘導性のT−Bet発現の抑制が、mRNAレベル及びタンパク質レベルにおいて並行してなされることが証明された。
【0142】
実施例6:ヒト単球細胞における、LPS誘導によるTNF−αの発現に対する抗ヒトsmIgD抗体の抑制的な効果
図2に示す結果は、抗ヒトsmIgD抗体によるヒトPBMCの処理によって、mRNAレベルで、PMA/イオノマイシン誘導性TNFα発現の抑制が生じることを証明している。抗ヒトsmIgD抗体による処理がタンパク質レベルでのTNF−αの抑制をもたらすか否かを解析するため、ヒトPBMCをLPS(リポポリサッカライド)による刺激の前に抗ヒトsmIgD抗体に24時間曝露し、細胞内のTNF−αタンパク質発現を解析した。LPSをTNF−α産生の生理的刺激として用いるのは、それがToll様受容体経路を介して作用し、多くの自己免疫疾患の病理に関与することが公知だからである。単球系細胞の細胞はLPS刺激に直接影響されるが、一方T細胞はそうではない。
【0143】
PBMCを実施例1のように分離し、抗ヒトsmIgD抗体(クローンSTAR94、Serotec、オックスフォード、英国)50μg/mLで24時間インキュベートし、その後、又はそれと並行して、最終濃度10ng/mlのLPSで刺激した。次に細胞を、10ng/mlのLPS(Sigma Aldrich社、シドニー、オーストラリア)で刺激し、TNF−α産生を誘導した。
【0144】
処理の後、PBMCを、蛍光標識とコンジュゲートした特異的な抗体を用いて、単球の標識であるCD14及び細胞内のTNF−αに関して染色した。1×10個の細胞を、PBS/0.1%BSA 50μL中に懸濁し、氷上で45分間、FITCコンジュゲート抗ヒトCD14抗体(Dako社、USA)50μg/mLでインキュベートした。次に細胞を一晩、1%のベフェルジンAで固定した。次に細胞を、氷上で20分間、PBS/0.1%サポリン/0.1%BSAでインキュベートして浸透させた。次に細胞を、氷上で45分間、50μLのPBS/0.1%サポリン/0.1%BSA中のPEコンジュゲート抗ヒトTNF−α抗体50μg/mLでインキュベートして染色し、細胞内のTNF−αタンパク質発現を解析した。フローサイトメトリ分析前に、PBSで細胞を二度洗浄した。TNF−αを発現する単球を、フローサイトメトリを使用して、CellQuestプログラム(Becton Dickinson)で検出した。
【0145】
この試験の結果を図5に示す。図5の各図は、ヒト単球における、抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)後の、TNF−α産生に関する、代表的なフローサイトメトリ分析の結果を示す。パネルAは、未処理の単球サンプルの代表的なドットプロット分析である(図5の右上部分)。この結果は、刺激されないヒト単球では、細胞内においてTNF−αがほとんど発現しないことを示す。10ng/mlのLPSで4時間の刺激したとき、約25%のヒトの単球細胞において細胞内でのTNF−αの発現が示され(パネルB(図5)の右上部分)、すなわちLPSによりヒト単球細胞におけるTNF−α産生が誘導されたことを示す。抗ヒトsmIgD抗体のみによる24時間の処理により、ヒト単球においてTNF−αの産生が誘導されなかった(パネルC(図5)の右上部分)。LPSと共に抗ヒトsmIgD抗体で4時間処理することにより、ヒトの単球細胞の約26%において細胞内TNF−α産生が誘導された。すなわち、抗ヒトsmIgD抗体及びLPSによる並列処理により、ヒト単球において、LPS誘導性のTNF−α産生が抑制されなかったことを示す(パネルD(図5)の右上部分)。しかしながら、LPS刺激の前の、24時間にわたる抗ヒトsmIgD抗体による処理により、細胞内でTNFαを発現している単球細胞の比率が劇的に減少した(5%)(パネルE(図5)の右上部分)。
【0146】
これらのデータは、抗smIgD抗体による前処理により、ヒト単球におけるLPS誘導によるTNF−α産生が抑制されうることを示すものである。Th1関連の炎症症状における、単球及びそれらによるTNF−α産生が重要な役割であることを鑑みると、これらのデータは、かかる症状において、抗ヒトsmIgD抗体で処理することによりTNF−α産生が抑制されうることを示す。
【0147】
実施例7:コラーゲン誘導による関節炎(CIA)のモデルマウスにおける、抗IgD抗体による処理により、関節炎の重篤度が軽減された
コラーゲン誘導による関節炎(CIA)に罹患するDAB/1Jマウスを用いて、抗mIgD抗体の全身投与による、関節炎の予防及び軽減効果を解析した。DAB/1JマウスのCIAモデルは、Th1関連の炎症症状のin vivoモデルとして確立され、一般的によく用いられている。そのモデルでは、生理学的及び病理学的にヒトの炎症症状の多くの特徴(CD4+T細胞の関与、及びTh1サイトカインの過剰生産など)を反映している。
【0148】
抗mIgD抗体の投与により治療的作用及び副作用を試験するため、マウスを以下の3つの投与群に分けた:
(1)CIA誘導、
(2)CIA誘導前の抗mIgD抗体処理、及び
(3)抗mIgD抗体処理前のCIA誘導。
各群には、6〜7週齢のオスのDAB/1Jマウス10匹(Gore Hill Animal Laboratory、UTS)を含めた。全ての実験動物の行動をモニターし、王立北海岸病院及びシドニー工業大学ACECのガイドラインに従い全ての実験を実施した。
【0149】
4mg/mlの結核菌抗原(Sigma Aldrich)を添加した200μLのフロイントアジュバント(CFA)溶液(Sigma Aldrich)中の、4mg/mlのウシII型コラーゲン(BII)で、マウス尾部の付け根の皮下に注射し、CIA誘導した。21日後にBII/CFA溶液で第2の注射(二次免疫)を行い、CIAの発症を促進した。未処理の動物においては、関節炎の発症は通常、二次免疫の3〜4日後に観察可能であった。
【0150】
CIAの臨床的な重篤度を、以下の確立された評価法を用いて評価した:0ポイント=膨張なし。1ポイント=1桁の腫張及び発赤、又は軽度の浮腫。2ポイント=2桁の中程度の腫張及び発赤。3ポイント=3桁の中程度の腫張及び発赤。4ポイント=全ての足及び足関節における4桁の膨張及び発赤、又はワイヤー製のグリッドにしがみつくことが出来ない状態。
【0151】
CIAの炎症に対する、抗mIgD抗体の予防効果を検討するために、マウスに対して、BIII/CFAの二次注射の前の3日間、ヤギ抗マウスmIgD抗体(クローンAMS−9.1、BD Pharmigen、USA)を、10mg/kg体重により毎日静脈注射した。治療群のマウスの場合にも予防群と同様の抗mIgD抗体処理を行ったが、炎症の最初の観察可能な徴候が見られた後に3日間処理を行った点で異なる。
【0152】
CIAの臨床的重篤度を、BII/CFAの第2次注射の後、11日にわたり毎日評価した。全てのマウスは、抗mIgDの投与による副作用が観察されることなく、生存した。当該処理に関して何も知らない研究者及び独立したオブザーバの評価に基づき、臨床スコア及び関節炎の発病率を解析した。
【0153】
図6は、各治療群(n=10)における、個々のマウスの臨床スコアを示す。統計的解析を行った結果、対照群、予防群及び治療群における臨床スコア平均及び標準偏差は、それぞれ7.5±1.1、5.3±1.3及び3.5±1.3であった。重度の疾患を>5(図5で点線として示す)のスコアとして定義した場合、対照群では1/10(10%)の動物が5以下の臨床スコアであったが、予防群及び治療群ではそれぞれ4/10(40%)及び6/10(60%)であった。
【0154】
このデータは、抗smIgD抗体による予防及び治療により、重度の炎症の発病率が、それぞれ25%及び50%減少したことを示す。対照群と、予防群及び治療群の複合群との間のカイ二乗試験の結果、P値<0.05であった。すなわち、重度の炎症の発病率の統計学的な有意差が、対照群と抗smIgD抗体投与群との間に存在することが示された。この結果は、重度の炎症の発病率を低下させる際に、抗smIgD抗体が、in vivoでの治療に使用できることを示すものである。
【0155】
実施例8:投与用の組成物
注射用の組成物は、本願明細書に開示されるように、10mL〜2Lの1%のカルボキシメチルセルロース中に、0.05mg〜5gの適切な薬剤又は化合物を添加して調製することができる。同様に、本願明細書に開示されるように、静脈内注入用の組成物は、滅菌済のリンガー液250ml中に、0.05mg〜5gの適切な薬剤又は化合物を添加して調製することができる。
【0156】
カプセル形態の適切な薬剤又は化合物は、標準的な2個の硬質ゼラチンカプセル中に、粉末形状の500mgの薬剤又は化合物、100mgのラクトース、35mgのタルク及び10mgのステアリン酸マグネシウムを充填することにより調製できる。
【0157】
本願明細書に記載の、本発明の実施のための最良の形態に従い、好ましい組成物を具体的に例示した。但し、それらの組成物は単なる例示的な実施態様であり、いかなる形であれ、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】抗ヒトsmIgD抗体及びPMA/イオノマイシンによる処理後の、Jurkat T細胞株における、Th1関連のサイトカインmRNAの発現を示す、代表的なRT−PCR分析の結果を示す。細胞を、PMA及びイオノマイシンによる4時間にわたる処理の前に、抗ヒトsmIgD抗体で、様々な時間にわたり刺激した。レーン1:コントロール(溶媒)。レーン2:20ng/mlのPMA及び500ng/mlのイオノマイシン(4時間)。レーン3:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体(24時間)。レーン4:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体及びPMA/イオノマイシン(4時間)。レーン5:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体(24時間)、及びPMA/イオノマイシン(4時間)。レーン6:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体及び50ng/mlのTGF−β1(24時間)、並びにPMA/イオノマイシン(4時間)。βM遺伝子の発現を、内部コントロールとして用いた。この図は、独立に行った2つ以上の実験の典型的な結果を示す。
【図2】抗ヒトsmIgD抗体及びPMA/イオノマイシンによる処理後の、PBMCにおける、Th1関連の遺伝子発現を示す、代表的なRT−PCR分析の結果を示す。細胞を、PMA及びイオノマイシンによる4時間にわたる処理の前に、抗ヒトsmIgD抗体で、様々な時間にわたり刺激した。レーン1:コントロール(溶媒)。レーン2:20ng/mlのPMA及び500ng/mlのイオノマイシン(4時間)。レーン3:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体のみ(24時間)。レーン4:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体(24時間)及びPMA/イオノマイシン(4時間)。レーン5:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体(3時間)、及びPMA/イオノマイシン(4時間)。レーン6:50μg/mlの抗ヒトsmIgD抗体及びPMA/イオノマイシン(4時間)。βM遺伝子の発現を、内部コントロールとして用いた。この図は、2人の異なるボランティア由来のPBMCを用いた、独立した2つ以上の実験の典型的な結果を示す。
【図3A】CD3+T細胞(A)及びCD14+単球(B)における、IgD標識のフローサイトメトリ分析結果を、ドットとしてプロットした図を示す。サンプルあたり10,000個の細胞を計数した。IgD標識の蛍光強度を各プロットのX軸とした(単位:任意対数)。CD3標識(A)又はCD14標識(B)の蛍光強度を各プロット線のY軸とした(単位:任意対数)。smIgDを発現するT細胞又は単球のパーセンテージは、各パネルの右上領域の細胞集団の数として算出した。
【図3B】同上。
【図4】実施例3に記載の、ウエスタンブロッティング実験の結果を示す。T−Betの発現に関するウエスタンブロットのレーン構成:未処理のヒトPBMCにおける基礎発現レベルを示す(レーン1)。PMA/イオノマイシンによる6時間の刺激後の高い発現量(レーン2)。抗smIgD抗体単独による培養後、基礎発現レベルからの変化なし(レーン3)。抗smIgD抗体及びPMA/イオノマイシンを共添加し、6時間培養した後の高い発現量(レーン4)。抗smIgD抗体による前処理、更にPMA/イオノマイシンによる刺激による、発現増加の抑制(レーン5)。アクチン発現に関するブロッティングを、内部コントロールとして用いた。
【図5A】抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)による処理後のヒト単球におけるTNF−α産生を表す、フローサイトメトリ分析のドットプロットの代表的な結果を示す。各ドットプロットのX軸は、CD14標識の蛍光強度に対応し、各プロット線のY軸は、TNF−α標識の蛍光強度に対応する。両方の軸は、同じ任意対数単位で示される。Aは、未処理単球サンプルの代表的なドットプロット分析(右上部分は、TNF−α陽性のCD14標識細胞)の結果を示す。
【図5B】抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)による処理後のヒト単球におけるTNF−α産生を表す、フローサイトメトリ分析のドットプロットの代表的な結果を示す。各ドットプロットのX軸は、CD14標識の蛍光強度に対応し、各プロット線のY軸は、TNF−α標識の蛍光強度に対応する。両方の軸は、同じ任意対数単位で示される。Bは、10ng/mlのLPSで4時間刺激した単球サンプルの代表的な分析結果を示す。
【図5C】抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)による処理後のヒト単球におけるTNF−α産生を表す、フローサイトメトリ分析のドットプロットの代表的な結果を示す。各ドットプロットのX軸は、CD14標識の蛍光強度に対応し、各プロット線のY軸は、TNF−α標識の蛍光強度に対応する。両方の軸は、同じ任意対数単位で示される。Cは、抗ヒトsmIgD抗体で24時間処理した単球サンプルの代表的な分析結果を示す。
【図5D】抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)による処理後のヒト単球におけるTNF−α産生を表す、フローサイトメトリ分析のドットプロットの代表的な結果を示す。各ドットプロットのX軸は、CD14標識の蛍光強度に対応し、各プロット線のY軸は、TNF−α標識の蛍光強度に対応する。両方の軸は、同じ任意対数単位で示される。Dは、LPSと共に抗ヒトsmIgD抗体を用いて4時間処理した単球サンプルの代表的な分析結果を示す。
【図5E】抗ヒトsmIgD及びLPS刺激(n=3)による処理後のヒト単球におけるTNF−α産生を表す、フローサイトメトリ分析のドットプロットの代表的な結果を示す。各ドットプロットのX軸は、CD14標識の蛍光強度に対応し、各プロット線のY軸は、TNF−α標識の蛍光強度に対応する。両方の軸は、同じ任意対数単位で示される。Eは、LPS刺激の前に、抗ヒトsmIgD抗体で24時間処理した単球サンプルの代表的な分析結果を示す。
【図6】実施例7に記載のコラーゲン誘導による関節炎実験の結果を示すグラフ。それぞれのポイントは、11日目における単一の動物の臨床スコアリングの結果を示す。各群の臨床スコアの平均値を、短い水平のバーとして示す。臨床スコア5のレベルの点線は、高度の疾患(線より上)と低度の疾患(線より下)との間の移行点を示す。
【図7】コラーゲン誘導による関節炎モデル動物における、対照群、抑止群及び治療群における臨床スコアの変化を示すグラフ。矢印は、抗smIgDの予防的及び治療的投与のための注射を行った時間を示す。値は、平均臨床スコア±SEM(各群あたりn=10)として表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される1つ以上の免疫応答を調節する方法であって、前記患者に膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物を有効量で投与することを含んでなる方法。
【請求項2】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞の細胞により媒介される前記免疫応答が、自己免疫疾患、炎症性反応又はアレルギー疾患からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患を診断する方法であって、
(a)前記患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)前記生体サンプルの膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するステップを含んでなり、smIgDの前記発現レベルがヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の有無の指標である、前記方法。
【請求項4】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患を診断するための方法であって、
(a)前記患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と前記生体サンプルとを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなり、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の前記発現レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の有無の指標である、前記方法。
【請求項5】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定する方法であって、
(a)前記患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)前記生体サンプルの膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するステップを含んでなり、smIgDの前記発現レベルが、前記患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の指標である、前記方法。
【請求項6】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定する方法であって、
(a)前記患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と前記生体サンプルとを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなり、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の前記発現レベルが、前記患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性の指標である、前記方法。
【請求項7】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターする方法であって、
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)前記生体サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するステップを含んでなり、smIgDの前記発現レベルが、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応の指標である、前記方法。
【請求項8】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターするための方法であって、
(a)患者から生体サンプルを得るステップと、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物と前記生体サンプルとを接触させるステップと、
(c)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなり、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の前記発現レベルが、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応の指標である、前記方法。
【請求項9】
前記化合物が、抗smIgD抗体、抗原、タンパク質、無機化合物及びそれらの2つ以上の組み合わせ、からなる群から選択される、請求項1、2、4、6又は8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
smIgDに対する前記化合物の結合により、smIgDの架橋が形成される、請求項1、2、4、6、8又は9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
smIgDに対する前記化合物の結合により、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現が抑制される、請求項1、2、4、6、8、9又は10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th1免疫応答が抑制される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th2免疫応答が活性化される、請求項11又は請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヘルパーT細胞により媒介される前記免疫疾患が、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患からなる群から選択される、請求項3から13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記方法が更なる分子を投与するステップを含んでなり、前記更なる分子により、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答が調節される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項16】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子をスクリーニングする方法であって、
(a)生体サンプルと前記少なくとも1つの候補分子を接触させるステップと、
(b)前記生体サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)と、前記少なくとも1つの候補分子との結合レベルをアッセイするステップを含んでなり、前記smIgDに対する前記少なくとも1つの候補分子の結合レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、前記少なくとも1つの候補分子の能力の指標である、前記方法。
【請求項17】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子をスクリーニングする方法であって、
(a)生体サンプルと前記少なくとも1つの候補分子を接触させるステップと、
(b)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップを含んでなり、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される前記少なくとも1つの分子の発現レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、前記少なくとも1つの候補分子の能力の指標である、前記方法。
【請求項18】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される前記免疫応答が、自己免疫疾患、炎症性反応又はアレルギー疾患からなる群から選択される、請求項16又は請求項17記載の方法。
【請求項19】
薬理学的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と共に、患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答の調節に用いたとき、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物。
【請求項20】
膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物であって、
(a)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患を診断するため、
(b)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定するため、又は、
(c)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターするために用いられ、
前記(a)、(b)又は(c)のステップが、薬理学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤及び/又はアジュバントと共に、患者からの生体サンプル中における、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするステップによって実施される、前記化合物。
【請求項21】
請求項1、2、4、6又は8から15のいずれか1項記載の方法への、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物の使用。
【請求項22】
請求項1、2、4、6又は8から15のいずれか1項記載の方法への、請求項16から18のいずれか1項記載の方法によってスクリーニングされた分子の使用。
【請求項23】
患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するためのキットであって、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)に結合する化合物を含んでなる前記キット。
【請求項24】
前記化合物が、抗smIgD抗体、抗原、タンパク質、無機化合物及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項23記載のキット。
【請求項25】
smIgDに対する前記化合物の結合により、smIgDの架橋がなされる、請求項23又は請求項24記載のキット。
【請求項26】
smIgDに対する前記化合物の結合により、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現が抑制される、請求項23から25のいずれか1項記載のキット。
【請求項27】
前記少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th1免疫応答が抑制される、請求項26記載のキット。
【請求項28】
前記少なくとも1つの分子の発現の抑制により、Th2免疫応答が活性化される、請求項26又は請求項27記載のキット。
【請求項29】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子をスクリーニングするためのキットであって、
(a)生体サンプルと前記少なくとも1つの候補分子とを接触させる手段と、
(b)前記生体サンプル中の膜表面免疫グロブリンD(smIgD)と前記少なくとも1つの候補分子との結合レベルをアッセイするための手段を含んでなり、smIgDに対する前記少なくとも1つの候補分子の結合レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、前記少なくとも1つの候補分子の能力の指標である、前記キット。
【請求項30】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節する能力を有する少なくとも1つの候補分子をスクリーニングするためのキットであって、
(a)生体サンプルと前記少なくとも1つの候補分子とを接触させるための手段と、
(b)GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の発現レベルをアッセイするための手段を含んでなり、GM−CSF、TNF−α及びT−Betからなる群から選択される少なくとも1つの分子の前記発現レベルが、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫応答を調節するための、前記少なくとも1つの候補分子の能力の指標である、前記キット。
【請求項31】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される前記免疫応答が、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患からなる群から選択される、請求項23から30のいずれか1項記載のキット。
【請求項32】
(a)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患を診断するための、
(b)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患に対する感受性を測定するための、又は、
(c)患者における、ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する反応をモニターするためのキットであって、
(a)前記患者から生体サンプルを得るための手段と、
(b)膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の発現レベルを定量するための手段を含んでなり、膜表面免疫グロブリンD(smIgD)の前記発現レベルが、
前記患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患の指標、
前記患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患の治療に対する感受性の指標、又は、
前記患者における、ヘルパーT細胞により媒介される免疫疾患に対する反応の指標である、前記キット。
【請求項33】
ヘルパーT細胞又は単球系細胞により媒介される前記免疫疾患が、自己免疫疾患、炎症性疾患又はアレルギー疾患からなる群から選択される、請求項32記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−536924(P2009−536924A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506861(P2009−506861)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000379
【国際公開番号】WO2007/124529
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506322499)
【出願人】(500026418)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (13)
【Fターム(参考)】