説明

ベンジルホスホニウム塩を含む高分子微粒子およびその製造法

【課題】分子の自己組織化を利用して、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの無毒化剤、アルデヒドおよびケトン化合物の固定化剤、浄水化剤、イオン交換剤、薬物運搬剤、低刺激性カチオン型抗菌剤、建築用塗料、抽出・分離剤等の構成材料としの用途も見込まれる、ナノオ−ダ−の高分子微粒子を提供すること、及び電池用の電気化学的デバイスなどへの応用展開が見込まれる自己組織化による新しい高分子微粒子の製造技術の提供。
【解決手段】ベンジルホスホニウム塩含有の高分子をセグメント成分として含むブロック共重合体を、特定有機溶媒に溶かすことにより、該共重合体の一部が凝集することにより数十〜数百ナノメ−トルの微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−とポリスチレン誘導体とからなるブロック共重合体の自己組織化により形成される高分子微粒子およびその製造法に関する。該高分子微粒子は、ナノオ−ダ−のミセル状の高分子凝集体であり、該ブロック共重合体を溶かす溶媒の種類によって、凝集体の構造がリバ−シブルに変化する特徴をもつ。また、カルボニル化合物を固定化する機能も有しており、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの無毒化剤、アルデヒドおよびケトン化合物の固定化剤、浄水化剤、イオン交換剤、薬物運搬剤、低刺激性カチオン型抗菌剤、建築用塗料、抽出・分離剤等の構成材料としての用途が見込まれる。さらに、ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−は高分子電解質であるため、電池用の電気化学的デバイスとしの用途も見込まれる。
【背景技術】
【0002】
以前から、カルボニル固定化試薬の前駆体や光潜在性カチオン重合開始剤、カチオン性抗菌剤などとしてホスホニウム塩が用いられてきた。
【0003】
しかし、ホスホニウム塩はカルボニル固定化反応に用いると、反応後に、多くの溶媒に溶解するホスフィンオキシドが生成し、そのため生成物との分離にカラムクロマトグラフィを用いなければならないなど、生成物との分離に手間がかかるという問題がある。また、ホスホニウム塩を抗菌剤として用いる場合には、繊維やフィルムとしての高分子にホスホニウム塩を担持させて、ホスホニウム塩の流出や脱落を防ぐ必要がある。これらの問題を解決するために、架橋によってゲル化させた高分子ゲルにホスホニウム塩を担持する方法がある。しかし、この方法では、高分子ゲルが溶媒に不溶であるため、反応の効率が低下してしまうという新たな問題が生じる。また、高分子ゲルは膨潤以外の構造的な変化が乏しいために工業的用途が限られるという問題もある。さらに、高分子ゲルは形状やサイズの制御が困難であり、ましてナノオ−ダ−でのサイズのコントロ−ルはほとんど不可能であるなどの問題点を含んでいる。
【特許文献1】特許公開公報 特開平2005−190732
【特許文献2】特許公開公報 特開平2005−14419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明で解決しようとする課題の第1は、ゲル化剤を用いない方法でホスホニウム塩を高分子構造体に担持すること、そのための方法として課題の第2は、高分子の自己組織化による凝集を用いて高分子構造体を製造すること、さらに課題の第3は、高分子構造体の構造を自在に変化させること、そして課題の第4は、高分子構造体のサイズをナノオ−ダ−で制御するための製造方法を提供することを目指すものである。
【0005】
上記課題の第1は、高分子構造体の構造を自在に変化させることを可能にすることを目的とし、課題の第2は、自己組織化の即時的な反応を用いることにより、高分子構造体を製造するための時間を短縮をすることを目的としており、さらに課題の第3は、高分子構造体の構造を種々の用途に合わせて構造の最適化を図ることを目的としており、そして課題の第4は、高分子構造体のもつ機能をナノオ−ダ−で制御するための方法を提供することを目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ベンジルホスホニウム塩を側鎖官能基として含むポリマ−とポリスチレン誘導体のポリマ−からなるブロック共重合体を合成し、この共重合体を特定の有機溶媒に溶かすと、ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントあるいはポリスチレン誘導体セグメントの一方が自己組織化により凝集し、数十〜数百ナノメ−トルの高分子微粒子を形成することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
下記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−と下記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体とからなるブロック共重合体を特定の有機溶媒中に溶かすだけで、ナノオ−ダ−の球状高分子微粒子が形成されることにより達成される。
一般式(1)
【化1】

ここで、上記一般式(1)中、Rはラジカル重合開始剤残基、Rはアリ−ル基もしくはアルキル基のいずれかを表す。XはClもしくはBrである。※は下記一般式(2)で示されるポリマ−との結合部位を示す。mは重合度で、50〜400の整数である。
一般式(2)
【化2】

ここで、上記一般式(2)中、Rは精密ラジカル重合の重合制御剤残基、Rは精密ラジカル重合の重合制御剤残基、Rは水素原子もしくはアルキル基のいずれかを表す。※は上記一般式(1)で示されるポリマ−との結合部位を示す。nは重合度で、400〜2000の整数である。
【0008】
また本発明のさらに好ましい態様は、前記一般式(1)で示されるポリマ−セグメントの重合度であるmと前記一般式(2)で示されるポリマ−セグメントの重合度であるnの割合が、n/m=4〜40であるジブロック共重合体を特定の有機溶媒に溶解させることにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易に合成が可能なブロック共重合体を用いて、比較的粒径分布の揃った数十〜数百ナノメ−トルの高分子微粒子を製造することができる。また、その粒径は、前記一般式(1)で示されるポリマ−セグメントの重合度であるmや、前記一般式(2)で示されるポリマ−セグメントの重合度であるn、およびそれらの割合の選択や、特定の有機溶媒の種類を選択することによって、ナノスケ−ルの範囲で厳密にコントロ−ルすることが可能である。
【0010】
さらに本発明は、前記一般式(1)で示されるホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントが、特定の有機溶媒の種類の選択によって、該高分子微粒子の外殻を形成したり、あるいは逆に、該高分子微粒子の核を形成したりする構造にすることができ、しかもこれらの構造を可逆的に行わせることができるので、用途の目的に応じてその構造の最適化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
下記一般式(1)で示されるホスホニウム含有ポリマ−と下記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体からなるジブロック共重合体を、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素に溶かして所定の温度(10〜40℃、好ましくは20〜30℃)で10分間放置すると、粒径が数十〜数百のミセル状に凝集した高分子微粒子を溶液状態で得る。

一般式(1)
【化1】

ここで、上記一般式(1)中、Rはラジカル重合開始剤残基、Rはアリ−ル基もしくはアルキル基のいずれかを表す。XはClもしくはBrである。※は下記一般式(2)で示されるポリマ−との結合部位を示す。mは重合度で、50〜400の整数である。
一般式(2)
【化2】

ここで、上記一般式(2)中、Rは精密ラジカル重合の重合制御剤残基、Rは精密ラジカル重合の重合制御剤残基、Rは水素原子もしくはアルキル基のいずれかを表す。※は上記一般式(1)で示されるポリマ−との結合部位を示す。nは重合度で、400〜2000の整数である。
【0012】
該共重合体を構成する上記一般式(1)で示されるポリマ−の重合度mと一般式(2)で示されるポリマ−の重合度nの割合はn/m=4〜40であることが望ましい。
【0013】
ここで、該共重合体がベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素中で該高分子微粒子を形成するメカニズムを図1に基づいて説明する。前記一般式(1)で示されるホスホニウム塩含有ポリマ−(1)と前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体(2)からなる該共重合体(3)をベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素に溶かすと、前記一般式(1)で示されるホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントはこれらの溶媒には溶解しないので、該ホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントがファンデルワ−ルス力(4)によって凝集する。一方、凝集に関わらない前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体セグメントは外側に位置するので、図1のような高分子凝集体の微粒子(5)となる。
【0014】
上記の方法によって、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素中で形成された高分子微粒子は、これらの該高分子微粒子の溶液に塩素系有機溶媒であるクロロホルムもしくは塩化メチレンを加えていくと、高分子の凝集が解けて該共重合体の単量体になる。このように単量体になった該共重合体は、カルボニル化合物の固定化反応の溶媒に用いることで、反応の効率を向上させることができる。
【0015】
また、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素中で、上記の方法によって形成された高分子微粒子は、これらの該高分子微粒子の溶液に極性有機溶媒であるアセトニトリルを加えていくと、該高分子微粒子を形成している該ポリマ−セグメントの構造が反転した高分子微粒子に変化する。
【0016】
ここで、該高分子微粒子の構造がアセトニトリル中で構造を反転させるメカニズムを図2に基づいて説明する。ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素中で形成された、前記一般式(1)で示されるホスホニウム塩含有ポリマ−セグメント(1)が微粒子の内側を形成した構造をしている該高分子微粒子(5)のベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素溶液に極性有機溶媒であるアセトニトリルを加えていくと、該ホスホニウム塩含有ポリマ−セグメント(1)はアセトニトリルに溶けるので、高分子の凝集が解けて該共重合体は一旦、単量体(3)になるが、アセトニトリルの量をさらに増やしていくと、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体セグメント(2)がアセトニトリルに溶けないので、該ポリスチレン誘導体セグメントがファンデルワ−ルス力(4)により凝集する。一方、該ホスホニウム塩含有ポリマ−セグメント(1)は凝集に関わらないので、微粒子の外側に位置した高分子微粒子(6)を形成する。
【0017】
前記一般式(1)で示される該ホスホニウム塩含有ポリマ−と前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体とからなる共重合体のカルボニル化合物の固定化剤としての反応を、次に説明する。
ジメチルスルホキシドに水素化ナトリウムを加えて70℃のオイルバス中で水素が出なくなるまで撹拌し、水素が出なくなったら室温で放冷する。このジメチルスルホキシドの反応物に、該共重合体を溶媒としてのジメチルスルホキシドに溶解した溶液を加え撹拌する。この混合物に、前記一般式(3)で示されるカルボニル化合物のジメチルスルホニウム溶液を室温で加え、70℃のオイルバス中で一定時間(好ましくは19時間)撹拌する。この混合物の溶液を室温で放冷後、1リットルの水(好ましくは超純水)に加えると、反応によって生成したポリマ−が析出する。この生成ポリマ−が析出した溶液を遠心分離装置にかけてポリマ−を沈澱させる。この沈殿ポリマ−をろ過により分離し、真空乾燥を行うと、該カルボニル化合物が該共重合体中に固定化されたポリマ−を得る。
【0018】
一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−の具体例は次の通りである。
【化5】

【0019】
一般式(3)で示されるカルボニル化合物の具体例は次の通りである。
【化6】

【0020】
一般式(4)で示されるポリマ−セグメントの具体例は次の通りである。
【化6】

【実施例1】
【0021】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなるジブロック共重合体の合成について説明する。
水素化カルシウム存在下での減圧蒸留によって禁止剤を除いた、前記一般式(2)で示される化合物でRがクロロベンジル基である4−ビニルベンジルクロリドの19.5グラムと過酸化ベンゾイルの390ミリグラム、および4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピぺリジン−1−オキシル360ミリグラムを重合管に入れ、脱気後封管する。この混合物を125℃のオイルバス中で5時間重合を行う。この重合管を液体窒素中に入れることにより重合を停止させた後、重合管の封管を切り、重合管に塩化メチレンを注いで重合生成物を塩化メチレンに溶解させる。この重合生成物の塩化メチレン溶液をメタノ−ルに滴下し、沈澱物をろ過により単離する。この単離した重合生成物を真空中で乾燥させることにより、ポリ(4−ビニルベンジルクロリド) (数平均分子量1,7000)の16.4グラムを得た。
次に、このようにして得られたポリ(4−ビニルベンジルクロリド) (数平均分子量1,7000)2.39グラムとスチレン6.36グラムを重合管に入れ、脱気封管する。この混合物を125℃のオイルバス中で14時間重合させる。この重合管を液体窒素中に入れることで重合を停止させた後、封管を切り塩化メチレンを注ぎ込んで重合生成物を塩化メチレンに溶解させる。この重合生成物の塩化メチレン溶液をメタノ−ルに滴下し、沈澱物をろ過により単離する。この単離した重合生成物を真空中で乾燥させることにより、ポリ(4−ビニルベンジルクロリド)−block−ポリスチレンのジブロック共重合体と、未反応のポリ(4−ビニルベンジルクロリド)の混合物を得る。この混合物を、ベンゼンとシクロヘキサンの割合が体積比で10:1である混合溶媒を溶離剤として、フラッシュカラムクロマトグラフィを行うことで未反応のポリ(4−ビニルベンジルクロリド)を除去する。このフラッシュカラムクロマトグラフィによって分取したポリ(4−ビニルベンジルクロリド)−block−ポリスチレンのジブロック共重合体のベンゼン−シクロヘキサン混合溶液をエバポレ−タ−で濃縮後、メタノ−ル中に注いで共重合体を沈澱させる。この沈殿物をろ過により単離し真空乾燥すると、ポリ(4−ビニルベンジルクロリド)−block−ポリスチレンのジブロック共重合体(ポリスチレンの数平均分子量が10,5000)7.38グラムを得た。
次に、このポリ(4−ビニルベンジルクロリド)とポリスチレンのジブロック共重合体から、前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなるジブロック共重合体を合成する方法について説明する。
上記の方法で合成したポリ(4−ビニルベンジルクロリド)とポリスチレンのジブロック共重合体500ミリグラムをクロロホルム20ミリリットルに溶かし、完全に溶けたのを確認後、トリフェニルホスフィン5.865グラムを加える。この混合物をオイルバス中で48時間環流する。放冷後、エバポレ−タ−で濃縮し、反応混合物をヘキサン1リットルに滴下する。析出して沈澱した生成ポリマ−をろ過により集め、7時間真空乾燥を行うと、前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなるジブロック共重合体625ミリグラムを得た。該共重合体が得られたことの確認は、共重合体の核磁気共鳴スペクトルにより確認した。
【実施例2】
【0022】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなるジブロック共重合体の1mgを7mLのベンゼンに溶解した。その溶液を室温で1時間放置後、シリンジを用いてミクロポ−ラスフィルタ−を通した。この溶液を光散乱で20℃、角度90°の条件で測定した結果、流体力学的直径133ナノメ−トルの微粒子が形成された。形成の確認は、光散乱解析による粒子径の散乱強度分布で確認した。この散乱強度分布図を図3に示す。また、前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−が該高分子微粒子の内側を形成していることは、該高分子微粒子の重水素化ベンゼン中での核磁気共鳴測定で、ポリスチレンセグメントのフェニル基のシグナルが観察されたのに対し、リン原子に結合しているフェニル基のシグナルが観察されなかったことにより確認した。
【実施例3】
【0023】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量49,000)からなるジブロック共重合体の10mgを0.7mLのアセトニトリルに溶解した。ジブロック共重合体が完全に溶解したのを目視で確認後、この溶液にベンゼン6.3mLを加えた。この溶液を室温で1日間放置後、光散乱で20℃、角度90°の条件で測定した。その結果、流体力学的直径48.5ナノメ−トルの微粒子が形成された。形成の確認は、光散乱解析による粒子径の散乱強度分布で確認した。また、前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−が該高分子微粒子の内側を形成していることは、実施例2の解析方法と同様に、該高分子微粒子の重水素化ベンゼン中での核磁気共鳴測定で、リン原子に結合しているフェニル基のプロトンシグナルが観察されなかったのに対し、ポリスチレンセグメントのフェニル基のプロトンシグナルが観察されたことにより確認した。
【実施例4】
【0024】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量49,000)からなるジブロック共重合体の10mgを7mLのアセトニトリルに溶解した。この溶液を室温で1時間放置後、光散乱で20℃、角度90°の条件で測定した。その結果、流体力学的直径100.7ナノメ−トルの微粒子が形成された。形成の確認は、光散乱解析による粒子径の散乱強度分布で確認した。また、前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−が該高分子微粒子の内側を形成していることは、該高分子微粒子の重水素化ベンゼン中での核磁気共鳴測定で、リン原子に結合しているフェニル基のプロトンシグナルが大きな強度で観察されたのに対し、リン原子に結合していないフェニル基のプロトンシグナル強度が小さな強度で観察されたことにより確認した。
【実施例5】
【0025】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量49,000)からなるジブロック共重合体が実施例4の方法で形成した、該ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントが微粒子の外殻を形成している高分子微粒子のアセトニトリル溶液にベンゼンを添加していくと、該共重合体が一旦の単量体になり、さらにベンゼンの添加を続けると微粒子の構造が反転し、該ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントが微粒子の核を形成した微粒子に変化した。該高分子微粒子が解離して単量体になり、さらにベンゼンの添加量の増加によって構造が反転した構造をもつ微粒子になったことの確認は、光散乱および核磁気共鳴解析により行った。解析に用いた流体力学的直径に対する光散乱強度の重量換算分布図を図4に示す。また、ベンゼンを添加していったときの該共重合体の核磁気共鳴スペクトルの変化を図5に示す。該ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−セグメント中のリン原子に結合しているフェニル基のプロトンシグナルの強度が、ベンゼンの添加量の増加とともに減少していくのがわかる。それと同時に、リン原子に結合していないフェニル基のプロトンシグナルの強度が増加していくのが観察された。
【実施例6】
【0026】
前記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−で、Rがフェニル基、XがCl、すなわち前記化合物No.1であるポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)と、前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなる該ブロック共重合体の100mgを2mLのジメチルスルホキシドに溶解した。
ジメチルスルホキシド1ミリリットルに水素化ナトリウム87ミリグラムを加えて70℃のオイルバス中で水素が出なくなるまで撹拌した後、室温で放冷した。このジメチルスルホキシドの反応物に、ポリ(4−スチリルベンジルホスホニウムクロリド)(数平均分子量45,000)とポリスチレン(数平均分子量105,000)からなるジブロック共重合体の100mgを2mLのジメチルスルホキシドに溶解した溶液を加え、室温で30分間撹拌した。この混合物に、前記一般式(3)で示されるカルボニル化合物でRがアントラセニル基、Rが水素原子、すなわち前記化合物No.17である9−アントラセンカルバルデヒド(7)747ミリグラムをジメチルスルホキシド2ミリリットルに溶かした溶液を加え、70℃のオイルバス中で19時間撹拌した。この混合物の溶液を室温で放冷後、1リットルの超純水に加え、生成したポリマ−を析出させた。この生成ポリマ−が析出した溶液を遠心分離装置にかけてポリマ−を沈澱させ、この沈殿ポリマ−をろ過により分離し、真空乾燥を7時間行うと、生成物105ミリグラムを得た。この生成物を塩化メチレンに溶解し、メタノ−ルで再沈殿を繰り返し行うことで未反応の9−アントラセンカルバルデヒドとジメチルスルホキシドを除去した。最終的に、該ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−セグメントが、前記一般式(4)で示されるポリマ−メグメントで、Rがアントラセニル基、Rが水素原子、すなわち前記化合物No.26であるポリマ−セグメントと前記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体で、Rが水素原子であるポリスチレン(数平均分子量105,000)からなる共重合体33ミリグラムを得た。9−アントラセンカルバルデヒド(7)が該ベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−中に担持されたことの確認は、核磁気共鳴スペクトルで行った。そのスペクトルを図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、この製造法で形成される高分子微粒子は、リバ−シブルに構造を変化させるナノサイズの粒子で、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの無毒化剤、アルデヒドおよびケトン化合物の固定化剤、浄水化剤、イオン交換剤、薬物運搬剤、低刺激性カチオン型抗菌剤、建築用塗料、抽出・分離剤等の構成材料、さらに、対アニオンを交換することにより、電池用の電気化学的デバイスなどとしてのさまざまな用途が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に基づく高分子微粒子形成の説明
【図2】本発明に基づく高分子微粒子形成の説明
【図3】実施例2に関わる高分子微粒子の光散乱強度分布図
【図4】実施例5に関わる高分子微粒子の重量換算分布図
【図5】実施例5に関わる高分子微粒子の解離と再形成に基づく核磁気共鳴スペクトル
【図6】実施例6に関わるカルボニル化合物が固定化された生成ポリマ−の核磁気共鳴スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるベンジルホスホニウム塩含有ポリマ−と下記一般式(2)で示されるポリスチレン誘導体とからなるブロック共重合体が形成する高分子微粒子。
一般式(1)
【化1】

ここで、上記一般式(1)中、Rはラジカル重合開始剤残基、Rはアリ−ル基もしくはアルキル基のいずれかを表す。XはClもしくはBrである。※は下記一般式(2)で示されるポリマ−との結合部位を示す。mは重合度で、50〜400の整数である。
一般式(2)
【化2】

ここで、上記一般式(2)中、Rは精密ラジカル重合の重合制御剤残基、Rは水素原子もしくはアルキル基のいずれかを表す。※は上記一般式(1)で示されるポリマ−との結合部位を示す。nは重合度で、400〜2000の整数である。
【請求項2】
請求項1に記載の該共重合体において、上記一般式(1)で示されるポリマ−の重合度mと一般式(2)で示されるポリマ−の重合度nの割合がn/m=4〜40であることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項3】
請求項1に記載の該共重合体が、有機溶媒中で自己組織化することによって形成することを特徴とする高分子微粒子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機溶媒がベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、もしくは四塩化炭素である高分子微粒子。
【請求項5】
請求項1に記載の該共重合体が、請求項4に記載の有機溶媒中で自己組織化によってミセル状の凝集体を形成することを特徴とする高分子微粒子。
【請求項6】
請求項1に記載の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で形成する請求項5に記載の凝集体が球状であることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項7】
請求項1の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で形成する請求項5に記載の凝集体の粒径が、20〜200ナノメ−トルの範囲にあることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項8】
請求項1に記載の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で、一般式(1)で示されるポリマ−セグメントを核に、一般式(2)で示されるポリマ−セグメントを外殻にもつ構造の請求項5に記載の凝集体を形成することを特徴とする高分子微粒子。
【請求項9】
請求項1に記載の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で請求項5に記載の凝集体を形成することを特徴とする高分子微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で形成した請求項5に記載の凝集体が、塩素系極性有機溶媒中で解離して単量体になることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項11】
請求項10に記載の塩素系極性有機溶媒がクロロホルムもしくは塩化メチレンであることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項12】
請求項1に記載の該共重合体が請求項4に記載の有機溶媒中で形成した請求項8に記載の構造をもつ凝集体が、極性有機溶媒中で構造を反転させることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項13】
請求項12に記載の極性有機溶媒がアセトニトリルであることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項14】
請求項1に記載の該共重合体が請求項13に記載の極性有機溶媒中で形成する凝集体が、一般式(1)のポリマ−セグメントを外殻に、一般式(2)のポリマ−セグメントを核にもつ構造の凝集体であることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項15】
請求項1に記載の該共重合体が請求項13に記載の極性有機溶媒中で形成する凝集体がミセル状であることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項16】
請求項1に記載の該共重合体が請求項13に記載の極性有機溶媒中で形成する凝集体が球状であることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項17】
請求項1に記載の該共重合体が請求項13に記載の極性有機溶媒中で形成する凝集体の粒径が50〜400ナノメ−トルの範囲にあることを特徴とする高分子微粒子。
【請求項18】
請求項1に記載の該共重合体が請求項13に記載の極性有機溶媒中で請求項14に記載の凝集体を形成することを特徴とする高分子微粒子の製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載の該共重合体において、一般式(1)で示されるポリマ−セグメントのベンジルホスホニウム塩部分がWittig試薬として機能することを特徴とする高分子微粒子。
【請求項20】
請求項1に記載の該共重合体において、一般式(1)で示されるポリマ−セグメントが下記一般式(3)で示されるカルボニル化合物とWittig反応を起こして、下記一般式(4)で示される構造のポリマ−セグメントに変換されることを特徴とする高分子微粒子。
一般式(3)
【化3】

ここで、一般式(3)中、RおよびRは水素原子、アルキル基もしくはアリ−ル基のいずれかを表す。RおよびRは、同じであっても異なっても構わない。
一般式(4)
【化4】

ここで、一般式(4)中、Rはラジカル重合開始剤残基、RおよびRは水素原子、アルキル基もしくはアリ−ル基のいずれかを表す。RおよびRは同じであっても異なっても構わない。※は前記一般式(2)で示されるポリマ−との結合部位を示す。mは重合度で、50〜400の整数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−62415(P2009−62415A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229259(P2007−229259)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】