説明

ベンスジョーンズ蛋白質の検定法

電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。(1)ステップ1 電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ(2)ステップ2 イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ(3)ステップ3 M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断するステップ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、尿蛋白電気泳動法とイムノアッセイとを併用した尿中ベンスジョーンズ蛋白質の効率的な検定法に関するものである。
【背景技術】
イムノグロブリン重鎖と解離した状態のモノクローナルな遊離イムノグロブリン軽鎖(Free light chain:FLC)は、形質細胞異常などの血液疾患、特に多発性骨髄腫やマクログロブリン血症に見い出されるモノクローナル蛋白質(M蛋白質)の1つである(Br.J.Haematol.,1969,16,599−606)。
1847年、Henry Bence Jonesは患者尿の特異な熱凝集反応を発見し、その原因となったタンパク質をベンスジョーンズ蛋白質(Bence Jones protein:BJP)と命名した(Lancet,1847,2,88−92)。その本態は尿中のモノクローナルなFLCであることが、後に明らかとなった。
BJPは多発性骨髄腫などの有用な臨床マーカーであり、その検定は日常の臨床検査の1つの項目として実施されている。BJPは、分子量が小さく、糸球体を容易に通過し、そのほとんどが尿中に移行するため、実際の臨床検査の場においては、尿中のBJPを電気泳動法で検出している(DRG/PPS対応 臨床検査ガイドライン 第2次案,2000,p.78−82)。
電気泳動法によるBJPの測定を、一般に“スクリーニングアッセイ”もしくは単に“スクリーニング”と称している。通常、ヒト検体中のイムノグロブリンはポリクローナルな組成であるため、電気泳動を実施した場合、検体中のイムノグロブリンはブロードなバンドを示す。一方、M蛋白質は単一な電荷を持ち、シングルバンド(Mバンド)を示すため、電気泳動法により両者を識別することが可能である。
尿蛋白の電気泳動法はBJPのスクリーニング方法として広く採用されているものの、その検出感度や特異性は分析システムや尿の検査前濃縮の程度等に依存し、必ずしも満足できる方法とは言えない。たとえば、電気泳動の支持体として広く用いられているセルロースアセテート膜はイムノグロブリンの分解能が悪く、また、泳動後の蛋白検出用染色色素の種類によってもその検出感度は変化し、結果として電気泳動法は低感度とならざるを得ない。さらに、尿をサンプルとして使用するため、予め尿を濃縮する必要があるが、その場合の濃縮の程度も明確に定められていない。
したがって、電気泳動法を用いたBJPのスクリーニング方法は、施設間での検査精度の差が大きく、臨床検査としては様々な問題を内在している。実際、近年行われた各施設間のコントロールサーベイでは、60mg/dlのBJPがおよそ30%の施設で見逃されていることが明らかとなり、問題となっている。
加えて、上記電気泳動法ではイムノグロブリンの免疫表現型(サブクラス)を同定することができないため、免疫固定法(もしくは免疫電気泳動法)を用いて検出されたM蛋白質のサブクラス(BJP、IgG型M蛋白質、又はIgM型M蛋白質等)を確認する必要がある。また、これらの確認検査で用いる免疫固定法は、非常に煩雑で、かつ検査単価が高額であるため、臨床検査の場においては、最初に電気泳動法でM蛋白質をスクリーニングし、次いで免疫固定法でBJPを確定する手法をとらざるを得ないのが現状である。
【発明の開示】
このような現状を克服し、電気泳動法とイムノアッセイとの2種類の方法を使用し、検査の信頼性を向上させ、また確定検査にあたる免疫固定法の実施回数を少なくすることができるか否かに関し、検討した報告がある(Clin.Chim.Acta,1997,262,121−130)。すなわち、上記報告においては、電気泳動法、イムノアッセイ、免疫固定法のそれぞれの結果を対比し、インタクトなイムノグロブリンに結合している軽鎖も含めた、尿中のκ型軽鎖とλ型軽鎖との全体(total)量及びその量比(total量とκ/λ比)に異常がなく、かつ電気泳動法で異常なバンドが認められない場合には、BJP陰性と判断可能なことを示唆している。
しかし、上記検討には以下に示すような種々の問題があり、実際の臨床検査の場に置いて使用するに当たり、必ずしも信頼性できる結論とはなっていない。
(1)感度の問題
上記検討の結果、感度は100%であると結論付けているが、必ずしもBJP特異的とは言えない。すなわち、インタクトなイムノグロブリンに結合している軽鎖も含めた、尿中のκ型軽鎖とλ型軽鎖の全体(total)を定量し、その量と比を算出しているが、インタクトなイムノグロブリンM蛋白質(例えばIgG−κ−M蛋白質など)が尿中に存在する場合、FLC特異的でなく、軽鎖全量を測定するイムノアッセイではその量と比が必然的に異常となる。この量及び比の異常はBJP以外のイムノグロブリンM蛋白質の存在に由来する異常であり、必ずしもBJP特異的とは言えない。ここで感度とはBJPを伴う尿検体のうち、陽性の結果を示した検体の割合(%)をいう(実施例(4)を参照)。
また、上記検討で採用したイムノアッセイの測定感度は悪く、試験に供したサンプルの約半数は測定感度以下となって、以後の検討がなされておらず、信頼性のあるデータとはいえない。
(2)確認検査回数削減の問題
上記検討の結果、免疫固定法による確認検査の回数を52%削減できると結論付けているが、電気泳動法とイムノアッセイとの2種類の方法を組み合わせたメリットが全く示されていない。すなわち、上記報告では電気泳動法による検査結果をイムノアッセイで単に確かめただけであって、電気泳動でM蛋白質を示す検体はイムノアッセイの結果に係わらず、免疫固定法の確認検査を必要としており、従来の手法と変わるところがない。なぜ確認検査を52%削減できることの根拠が示されていない。
また、免疫固定法による確認検査において、電気泳動法でM蛋白質が検出されない場合であってもBJP陽性であるケースがあり、M蛋白質が確認されない場合、イムノアッセイの結果に係わらず、すべてBJP陰性(NO BJP)と結論付けるのは強引に過ぎ、科学的な信頼性も低い。
本発明者らは、より現実的で、効率的なBJPの検定法に関し、鋭意検討を重ねた結果、(1)イムノアッセイにおけるFLCのκ鎖とλ鎖の比(κ/λ比)を基に、BJP陽性を判定できること、(2)電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、電気泳動におけるM蛋白質の有無とイムノアッセイにおけるFLCのκ鎖とλ鎖の比(κ/λ比)を基に、一定の処理手順(アルゴリズム)により判断することで、効率的にBJPを検定することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の内容を包含する。
[1]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断するステップ
[2]ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、上記[1]記載の方法。
[3]ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、上記[1]記載の方法。
[4]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロプリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である場合にはBJP陽性と判断するステップ
[5]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である場合にはBJP陽性の疑いありと判断するステップ
[6]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である場合にはBJP陽性の疑いありと判断するステップ
[7]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のBJPを検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である場合にはBJP陰性と判断するステップ
[8]ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、上記[4]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、上記[4]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[10]電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質の有無とκ/λ比を指標に、ケースAの場合にはBJP陽性と判断し、ケースBとCの場合にはBJP陽性の疑いありと判断し、免疫固定法でBJPの有無をさらに確認し、ケースDの場合にはBJP陰性と判断するステップ
(ケースA)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースB)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
(ケースC)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースD)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
[11]ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、上記[10]記載の方法。
[12]ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、上記[10]記載の方法。
[13]イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求め、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断するベンスジョーンズ蛋白質(BJP)の検定法。
【図面の簡単な説明】
図1は、イムノアッセイにおけるFLC測定法の標準曲線の一例を示す図である。
図2は、尿中FLCの測定結果の一例を示す図である。図中、○;BJPκ陽性検体、△;BJPλ陽性検体、X;BJP陰性検体をそれぞれ示し、図中の線2本はROC解析で決定したκ/λ比のカットオフ値を示す。
図3は、FLC測定法と電気泳動法の組み合わせ時のBJP検定手法(アルゴリズム)の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で使用する試料は、尿検体であれば特に限定されず、具体的には臨床にて採取される尿採取形態(保存剤添加尿、1日尿、早朝第一尿など)を試料として使用することができる。
本発明は、上述したように、イムノアッセイによりBJP陽性を検定する方法(方法1)と、電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、特定のステップにより尿試料中のBJPを検定する方法(方法2)の2つの方法を包含するものである。
(方法1)
イムノアッセイによりBJP陽性を検定する方法としては、イムノアッセイにより尿試料中のFLCκ鎖とFLCλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求め、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合には、BJP陽性と判断するBJPの検定法である。
本発明で採用するイムノアッセイは、尿中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖とを測定できる方法であれば特に制限はない。具体的には、尿において微量に存在するFLCに対して十分な測定感度を有し、インタクトなイムノグロブリンに対する交差反応性をほとんど示さず(例えば1%以下)、尿中のFLC以外の成分の影響を受けない方法が好適であり、好ましくは本発明者らが開発した酵素免疫測定法を例示することができる(J.Immunol.Methods,2003,275,9−17)。
測定後、測定されたFLCのκ鎖とλ鎖との値を基に、その量比(κ/λ比)を算出し、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断する。
BJP陽性検体はκ/λ比が大きく変動していることから、後述実施例に示すように、指標として用いるκ/λ比は、受診者動作特性(ROC)分析(Clin.Chem.,1993,39,561−577)により、免疫固定法の結果と比較した場合でもBJP検定の陽性予測率が80%以上の数値となるように、0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上、好ましくは0.1±0.03以下又は5.5±1.65以上という基準を用いて判定することで、高い精度で診断することが可能となる。なお、陽性予測率とはBJP陽性結果を示した検体が実際にBJPを伴っている割合(%)をいう(実施例(4)を参照のこと)。
また、対象となる患者群によってこの比は変動する事があり得るため、上記範囲内を目安に、その都度臨床的に適切な比を設定する必要がある。
(方法2)
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、尿試料中のBJPを検定する方法は、以下のステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行うことが好ましいが、ステップ1とステップ2は順序が逆であってもかまわない。
(1)ステップ1
ステップ1は、電気泳動により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップである。
本発明で採用する電気泳動法とは、公知の方法であり、具体的には、セルロースアセテート膜やアガロースゲルなどを支持体とし、検体に含まれる蛋白質を電気的に泳動し、泳動された蛋白質を染色法並びに物理化学的に検出する方法をいう(High−Resolution Electrophoresis and Immunofixation,1994,第2章、Butterworth−Heinemann)。泳動後、Mバンドの有無によりM蛋白質の有無を判断する。
(2)ステップ2
ステップ2は、上述したイムノアッセイと同様の方法により尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖とのそれぞれの含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップである。
(3)ステップ3
ステップ3は、M蛋白質の有無とκ/λ比とを指標に、それぞれのケース毎にBJP陰性、BJP陽性、及び/またはBJP陽性の疑いありと判断するステップである。
BJP陽性のみを判定する目的では、上記イムノアッセイの時と同じ、0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上、好ましくは0.1±0.03以下又は5.5±1.65以上という数値をκ/λ比として採用し、ステップ1でM蛋白質が確認され、ステップ2で求めたκ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合には、BJP陽性と判断することができる。
なお、BJP陽性のみの判定は、上述したようにイムノアッセイ単独(方法1)でも可能であるものの、ステップ1の電気泳動によるM蛋白質の確認を追加し、これを加味して判断することで、より確実な判定を行うことができる。
次に、BJP陽性のみならず、陰性及び/又はBJP陽性の疑いありまで判定する目的では、受診者動作特性(ROC)分析(Clin.Chem.,1993,39,561−577)により、免疫固定法の結果と比較した場合でもBJP検定の診断正確度が80%以上、好ましくは90%以上の数値、具体的には、後述の実施例で示されているような、BJP陰性検体の測定値を効率よく排除できる数値である、0.2±0.1と1.67±0.84、好適には0.2±0.03と1.67±0.5範囲内の数値をκ/λ比として採用することができる。
この場合のBJPの判定は、ステップ1のM蛋白質の有無とステップ2のκ/λ比との結果から以下の4つのケースで判断する。すなわち、ケースAの場合にはBJP陽性と判断し、ケースBとCの場合にはBJP陽性の疑いありと判断し、免疫固定法でBJPの有無を更に確認し、ケースDの場合にBJP陰性と判断する。
(ケースA)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースB)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
(ケースC)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースD)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例]
(1)尿検体
BJPが疑われた患者287例より採取された尿287検体を用いた。すべての検体について日本臨床検査医学会のガイドライン(臨床病理,2002,50;438−439)に従い、連結不可能匿名化を行った。
(2)電気泳動法ならびに免疫固定法
電気泳動法ならびに免疫固定法はヘレナ社のキットを用いて実施した。免疫固定法に用いる抗血清はダコ社より購入した。尿検体は必要に応じて最大100倍まで濃縮した。
(3)FLC測定法
FLC測定法については文献(J.Immunol.Methods,2003,275,9−17)に従って行った。すなわち、モノクローナル抗体をコートした96穴マイクロプレート(Nunc)に検体あるいは標準濃度溶液を100μl毎加え、室温で2時間反応させた。洗浄した後、二次抗体として抗κ軽鎖型抗体ならびに抗λ軽鎖型抗体の西洋ワサビペルオキシダーゼ標識体を各100μl加え、37℃、30分反応させた。反応後、0.05% Tween20を含むPBSで洗浄し、発色液(OPD、Sigma)を100μl毎分注し発色させた。1N硫酸にて発色を停止後、492nmでの吸光度を測定した。なお、アッセイ用の緩衝液としては1%ウシ血清アルブミンを含む50mMトリス塩酸(pH7.5)を使用した。また、スタンダードとしては、尿中から単離精製したFLCを使用した。標準曲線の例を図1に示す。
(4)診断精度の評価
診断精度の評価は臨床検査分野において一般的に用いられている計算方法を用いた。すなわち、BJPの有無を対照とし、リファレンスの方法としての免疫固定法と評価対象としての本発明法により表1のように区分される。
[表1]

この区分に基づき、感度、特異度、陽性予想値、正確度を以下のように定義した。
感度:式a/(a+b)×100で算出され、BJP陽性検体の中で、陽性の検査結果を示した検体の割合を意味する。
特異度:式d/(c+d)×100で算出され、BJP陰性検体の中で、陰性の検査結果を示した検体の割合を意味する。
陽性予測率:式a/(a+c)×100で算出され、BJP陽性の検査結果を示した検体の中で、実際にBJPを伴う検体の割合を意味する。
正確度:式(a+d)/(a+b+c+d)×100で算出され、検査された検体のうち、BJPの陽性と陰性が正しく診断された検体の割合を意味する。
(5)統計解析
受診者動作特性(ROC)分析には統計解析ソフトウェアパッケージ(StatFlex)を用いた。
(6)結果
イムノアッセイの測定結果より、κ/λ比0.1又は5.5をカットオフとした場合、表2に示すように、該当する検体は287例中56例存在した。その中で、κ/λ比5.5以上に該当する全18例あり、そのうち16例がBJPκ陽性で、BJP以外の2例のうち1例は、免疫固定法でも分析不可能であった。一方、κ/λ比0.1以下で該当する全38例あり、そのうち29例がBJPλ陽性であった。残りの9例のうち、5例はインタクトイムノグロブリンM蛋白陽性、3例はBJP陰性、1例は免疫固定法で解析不能の検体であった。このように、κ/λ比0.1又は5.5を基準として評価することにより、免疫固定法で解析不能だった2検体を除いて計算すると、83.3%の陽性予測率(54例中45例)でBJP陽性と判定できる。
[表2]

次に、イムノアッセイ、電気泳動法ならびに免疫固定法の結果を表3に示す。表3から明らかなように、287臨床尿検体のうち免疫固定法により58例にBJPが同定され、14例にインタクトイムノグロブリンMタンパク質が検出された。また、尿蛋白の電気泳動法ではBJP陽性の58例中50例にMバンドが観察された。
[表3]

また、図2に示すように、BJP陽性検体のκ/λ比の中央値はBJPκ型で55.5、BJPλ型で0.0012であった。一方、BJP陰性検体では0.63であった。
これらのデータを基に、ROC分析によりカットオフ値を1.67(BJPκ用)と0.2(BJPλ用)とに定め、図3に示すアルゴリズムにより電気泳動とκ/λ比を組み合わせ、287尿検体について解析を試みた。その結果を表4に示す。
表4から明らかなように、尿蛋白の電気泳動法でMバンドが検出された62例のうち、53例をケースAと判断し、そのうち46検体(86.8%)がBJP陽性であった。
また、Mバンドが検出されなかった225例のうち、183例にκ/λ比の異常は見られなかった。このうち98.9%(183例中181例)がBJP陰性であった。
さらに、287例のうち50例はMバンドまたはκ/λ比の異常のどちらかを示した。このうち10例はBJP陽性であった。
このように、上記のようなカットオフ値を用いた本発明方法により、BJPを感度89.7%(58検体中52例)、特異度81.6%(229例中187例)、正確度84.3%(287例中242例)で検定できることが明らかとなり、BJPの可能性の高い検体を容易に抽出する事が可能となった。
[表4]

【産業上の利用可能性】
本発明の方法によれば、イムノアッセイ単独、もしくはイムノアッセイと電気泳動法を組み合わせ、一定の処理手順(アルゴリズム)により判断することで、簡便かつ信頼性の高いBJPの検定法を初めて提供することが可能となる。
また、本発明の方法では、尿中の遊離イムノグロブリンκ鎖と尿中遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比を求めることによって、BJPサブクラスの同定も同時に行うことが可能で、確認検査である免役固定法の検査数を約1/6程度に削減することが可能である。
なお、本出願は、日本で出願された特願2003−388617を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断するステップ
【請求項2】
ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である場合にはBJP陽性と判断するステップ
【請求項5】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である場合にはBJP陽性の疑いありと判断するステップ
【請求項6】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である場合にはBJP陽性の疑いありと判断するステップ
【請求項7】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である場合にはBJP陽性と判断するステップ
【請求項8】
ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気泳動法とイムノアッセイとを併用し、次のステップを実施することにより尿試料中のベンスジョーンズ蛋白質(BJP)を検定する方法。
(1)ステップ1
電気泳動法により尿試料中のM蛋白質の存在を確認するステップ
(2)ステップ2
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求めるステップ
(3)ステップ3
M蛋白質の有無とκ/λ比を指標に、ケースAの場合にはBJP陽性と判断し、ケースBとCの場合にはBJP陽性の疑いありと判断し、免疫固定法でBJPの有無をさらに確認し、ケースDの場合にはBJP陰性と判断するステップ
(ケースA)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースB)
M蛋白質が確認され、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
(ケースC)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1以下又は1.67±0.84以上である。
(ケースD)
M蛋白質が確認されず、κ/λ比が0.2±0.1超かつ1.67±0.84未満である。
【請求項11】
ステップ1、ステップ2、ステップ3の順で行う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ステップ2、ステップ1、ステップ3の順で行う、請求項10記載の方法。
【請求項13】
イムノアッセイにより尿試料中の遊離イムノグロブリンκ鎖と遊離イムノグロブリンλ鎖との含有量を測定し、その量比(κ/λ比)を求め、κ/λ比が0.1±0.05以下又は5.5±2.75以上である場合にはBJP陽性と判断するベンスジョーンズ蛋白質(BJP)の検定法。

【国際公開番号】WO2005/062044
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516435(P2005−516435)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017645
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】