説明

ベンゾオキサジン環構造を有する熱硬化性樹脂を含有する溶液

【課題】ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制することのできる溶液を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I
)で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させた溶液。


(一般式(I)において、
Ar1は、4価の芳香族基を示す。
1は、炭化水素基を示す。
nは、2〜500の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させた溶液、及びベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させて、熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂は注目されている。前記熱硬化性樹脂のベンゾオキサジン環部位が開環重合した、ポリベンゾオキサジンは、耐熱性や難燃性はもちろん、寸法安定性、電気絶縁性、低吸水性等、他の熱硬化性樹脂には見られない優れた特性を有するため、積層板や半導体封止材等のエレクトロニクス材料、摩擦材や砥石等の結合材として用いられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の溶液をキャストし、乾燥して得られたフィルムを熱処理することで開環重合させて、ポリベンゾオキサジンのフィルムが得られることが開示されている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献2には、キャスト溶液を調製する際の単独の溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド等が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−64180号公報
【非特許文献1】T. Takeichi, T. Kano, T. Agag, Polymer, Vol.46, p.12172-12180 (2005)
【非特許文献2】有働将, 高分子学会予稿集, Vol.55, No.1, 2Pb148, (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1、2に開示されているような単独溶媒によるキャスト溶液を用いると、以下のような問題が生じ得る。
例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いる場合、人体や環境への影響があること、また、熱処理中に過酸化物が生成し、爆発する危険性があることが懸念される。
キャスト溶液として、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒や、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒を用いる場合、高沸点であるため、乾燥や熱処理によって溶媒を完全に揮発させることが難しいこと、また、熱硬化させたポリベンゾオキサジンとして、極性溶媒の残存により電気特性が悪化することが懸念される。
キャスト溶液として、非極性溶媒である、ベンゼンを用いる場合、発ガン性を有するため、人体や環境への影響が懸念され、クロロホルムやジクロロメタン等の含ハロゲン系溶媒を用いる場合、人体や環境への影響があることが懸念される。
【0007】
また、前記熱硬化性樹脂には、それ自身の組成によって、硬化前のガラス転移温度が低くなるものがあることが分かった。ガラス転移温度が低くなることにより、前記熱硬化性樹脂の合成後の粉体化が困難となるか、粉体化が可能だとしても、非常に手間やコストがかかる。
【0008】
そのため、前記熱硬化性樹脂の中には、溶液での保存が好ましいものがある。
しかし、上記懸念されることに加え、前記熱硬化性樹脂は溶液中において、加熱しなくても徐々に開環重合が進行し、分子量が増加してしまい、溶液粘度の増加や最終的には溶液のゲル化を引き起こすという問題があることもわかった。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の溶液での保存において、前記熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制することのできる溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、下記手段にて、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下のとおりである。
[1]
下記一般式(I)で示され
るベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させた溶液。
【化1】


(一般式(I)において、
Ar1は、4価の芳香族基を示す。
1は、炭化水素基を示す。
nは、2〜500の整数を示す。)
[2]
前記非極性溶媒が、芳香族系非極性溶媒である、前記[1]に記載の溶液。
[3]
前記非極性溶媒が、トルエン及び/又はキシレンである、前記[1]又は[2]に記載の溶液。
[4]
前記極性溶媒が、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒及びケトン系溶媒からなる群から選択される極性溶媒である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の溶液。
[5]
前記極性溶媒が、アミド系溶媒である、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の溶液。
[6]
全溶媒に対する、前記極性溶媒の含有量が1〜50質量%である、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の溶液。
[7]
前記溶液に対する、前記熱硬化性樹脂を含む固形分濃度が10〜70質量%である、前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の溶液。
[8]
下記一般式(I)で示され
るベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させて、前記溶媒中での前記熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制する方法。
【化2】


(一般式(I)において、
Ar1は、4価の芳香族基を示す。
1は、炭化水素基を示す。
nは、2〜500の整数を示す。)
[9]
前記熱硬化性樹脂を前記非極性溶媒に溶解して、次いで、前記極性溶媒を添加することによる、前記[8]に記載の方法。
[10]
前記熱硬化性樹脂を前記非極性溶媒中で製造して、次いで、前記極性溶媒を添加することによる、前記[8]に記載の方法。
[11]
前記極性溶媒の添加量が、全溶媒に対して1〜50質量%である、前記[8]〜[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]
前記熱硬化性樹脂を含む固形分濃度が、前記溶液に対して10〜70質量%である、前記[8]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]
周囲温度が−50〜50℃である、前記[8]〜[12]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の分子量増加を、極性溶媒の添加により抑制することが可能であり、溶液の粘度増加やゲル化が防止できるので、溶液の保存安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態において使用するベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂(以下、単に「熱硬化性樹脂」と記載する場合がある。)の構造を以下に示す。
【0015】
【化3】


前記一般式(I)において、Ar1は、4価の芳香族基であり、R1は、炭化水素基であり、nは、2〜500の整数である。
【0016】
Ar1は、4価の芳香族基であれば、特に限定はされないが、炭素数6〜150の4価の芳香族基であることが好ましく、以下に示す構造(II)〜(IV)である基であることがより好ましい。
【0017】
【化4】

各構造中、*印は一般式(I)における酸素原子への結合部位、もう一方はベンゾオキサジン環4位のメチレン基への結合部位を示す。
各構造におけるベンゼン環又はナフタレン環上の水素は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換フェニル基で置換されていてもよい。
構造(II)におけるXは、直接結合手(原子もしくは原子団が存在しない)、−O−、−S−、−SO−又は−SO2−を示すか、ヘテロ原子若しくは官能基を含んでいてもよい炭素数1〜138の脂肪族炭化水素基又は芳香環基を示す。
【0018】
前記脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和であってもよく、直鎖又は分岐していてもよいアルカン、アルケン又はアルキン構造を有する基等が挙げられる。前記脂肪族炭化水素基としては、シクロアルカン構造を有する基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基がアルカンである場合に、例えば、ベンゼン環又はナフタレン環上の水素が脂肪族炭化水素基により置換されている場合には、該基はアルキル基を意味し、構造(II)におけるXが脂肪族炭化水素基である場合には、該基はアルキレン基を意味する。
脂肪族炭化水素基は、酸素原子、窒素原子等の炭素原子以外のヘテロ原子が1つ以上挿入されていてもよく、また、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、カルボネート結合、カルバメート結合等の炭素原子と酸素原子又は窒素原子等の炭素原子以外の原子とで形成される種々の結合を1つ以上有していてもよい。また、ポリブタジエン等の1種以上の単量体化合物が重合したポリマー構造であってもよい。
官能基又は置換基としては、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン基、アルキルアミノ基等が挙げられ、1種以上の単量体化合物が重合したポリマー構造であってもよい。
【0019】
前記芳香環基としては、分子内に置換基を有する若しくは無置換のベンゼン環、ナフタレン環等のアリール環構造を有する基、又は分子内に置換基を有する若しくは無置換のヘテロアリール環構造を有する基が挙げられ、アリール環又はヘテロアリール環が、直接結合又は脂肪族炭化水素基を介して結合している構造であってもよい。
【0020】
前記構造(II)におけるXは、例えば、下記群Aから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0021】
群A:
【化5】

式中、*印は、前記構造(II)におけるベンゼン環への結合部位を示す。
【0022】
前記構造(II)におけるXは、例えば、下記群Bから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0023】
群B:
【化6】




式中、*印は前記構造(II)におけるベンゼン環への結合部位を示し、mは、1〜30の整数を示す。
2及びR3は、それぞれ独立して、炭化水素基を示す。前記炭化水基としては、特に限定されないが、例えば、飽和又は不飽和であってもよく、直鎖又は分岐していてもよいアルカン、アルケン、アルキン構造が挙げられる。また、シクロアルカン構造等の脂環式脂肪族構造も挙げられる。脂肪族部分は、酸素原子、窒素原子等の炭素原子以外の原子が1つ以上挿入されていてもよく、また、脂肪族部分がエステル結合、エーテル結合、アミド結合、カルボネート結合、カルバメート結合等の炭素原子と酸素原子又は窒素原子等の炭素原子以外の原子とで形成される種々の結合を1つ以上有していてもよい。また、1種以上の単量体化合物が重合したポリマー構造も含まれる。R2及びR3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
前記一般式(I)において、R1は、炭化水素基であれば、特に限定はされないが、例えば、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又は芳香環基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和であってもよく、直鎖又は分岐していてもよいアルカン、アルケン又はアルキンである基等が挙げられる。また、前記脂肪族炭化水素基としては、シクロアルカン構造を有する基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基は、酸素原子、窒素原子等の炭素原子以外の原子が1つ以上挿入されていてもよく、また、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、カルボネート結合、カルバメート結合等の炭素原子と酸素原子又は窒素原子等の炭素原子以外のヘテロ原子とで形成される種々の結合を1つ以上有していてもよい。また、1種以上の単量体化合物が重合したポリマー構造も含まれる。
【0025】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,18−ジアミノオクタデカンのジアミノ部分以外の2価の基が挙げられる。
【0026】
前記脂環式炭化水素基としては、例えば、下記群Cから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0027】
群C:
【化7】



式中、*印は前記一般式(I)におけるNへの結合部位を示す。
【0028】
芳香環基としては、例えば、分子内に置換基を有する又は無置換のベンゼン環、ナフタレン環等のアリール構造を有する化合物、置換基を有する又は無置換のヘテロアリール構造を有する化合物が挙げられ、それらのアリール環又はヘテロアリール環が、直接結合又は脂肪族炭化水素基を介して結合している構造であってもよい。
芳香環基としては、例えば、下記群Dから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0029】
群D:
【化8】


式中、*印は前記一般式(I)におけるNへの結合部位を示す。
【0030】
本実施の形態において、前記一般式(I)で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法は、特許文献1等に開示されている公知の方法にしたがって行うことができる。
例えば、HO−Ar2−OHと、H2N−R1−NH2と、パラホルムアルデヒドやホルマリン等のホルムアルデヒドと、を反応させることにより、製造することができる。
1は前記で記載したとおりであり、Ar2は、2価の芳香族基であれば、特に限定されないが、Ar1のうち、酸素原子への結合部位に該当する部位がフェノール性水酸基であり、ベンゾオキサジン環4位のメチレン基への結合部位に該当する部位がHである基を意味する。
HO−Ar2−OHと、H2N−R1−NH2はそれぞれ1種を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0031】
本実施の形態において、前記一般式(I)で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を溶解させた溶液における、分子量増加を抑制するための溶媒としては、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒であれば、特に限定されない。
本実施の形態において、極性溶媒とは、ヒドロキシル基、エーテル基、ケトン基、アミド基等の親水性基(極性基)を有する溶媒を意味する。
極性溶媒としては、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミド基系溶媒、ケトン基系溶媒を含むことが好ましい。極性溶媒としては、前記熱硬化性樹脂の溶解性および分子量増加の抑制効果が特によいことから、アミド系溶媒がより好ましい。
【0032】
本実施の形態の前記硬化製樹脂を含む溶液は、前記熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶液に、溶解させて得られる溶液であり、非極性溶媒と極性溶媒との組み合わせにより、溶液中での前記熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制することができる。
【0033】
熱硬化性樹脂を溶解する溶媒における、非極性溶媒としては、前記親水性基(極性基)を有さない溶媒を意味し、特に限定されないが、芳香族系非極性溶媒として、キシレン、トルエン、ベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、クメン、シメン等の炭素数6〜10の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられ、含ハロゲン系溶媒として、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。人体や環境への影響、汎用性やコストの面から、キシレン又はトルエン等の芳香族系溶媒が好ましい。非極性溶媒は、1種を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
アルコール系溶媒の例としては、アルコール基(ヒドロキシル基)を一つ以上有していれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0035】
エーテル系溶媒の例としては、エーテル基を一つ以上有していれば特に限定されないが、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0036】
アミド系溶媒の例としては、アミド基を一つ以上有していれば特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド等が挙げられる。
【0037】
ケトン系溶媒の例としては、ケトン基を一つ以上有していれば特に限定されないが、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0038】
また、親水性基(極性基)を2種類以上有していてもよく、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が例として挙げられる。
【0039】
極性溶媒としては、1種を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
前記極性溶媒の含有量は、全溶媒に対して、極性溶媒の質量%が1質量%以上50質量%以下であることが好ましい、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
極性溶媒の質量%を、全溶媒中で1質量%以上とすることにより、熱硬化性樹脂の分子量増加抑制効果を高めることができる。50質量%以下とすることにより、熱硬化性樹脂の溶液として得ることができる。また、熱硬化性樹脂の溶液をキャスト溶液として用いると、硬化後のフィルムへの極性溶媒の残存量を低減することができるので、極性溶媒が起因となって起きる電気特性の低下を低減することができる。
【0041】
熱硬化性樹脂の濃度は、溶液中の固形分濃度として、溶液に対して、熱硬化性樹脂を含む固形分の質量%が、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
熱硬化性樹脂を含む固形分の質量%が、溶液中の10質量%以上とすることにより、溶液の粘度を、フィルム作成時にキャストすることができる粘度に制御することができる。70質量%以下とすることにより、極性溶媒による分子量増加抑制効果を高めることができ、また、溶液の粘度をキャストすることができる粘度に制御することができる。
熱硬化性樹脂を含む固形分としては、熱硬化性樹脂であることが好ましく、この場合、溶液に対して、熱硬化性樹脂の質量%が、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
溶液を保存するときの周囲温度は、−50℃以上50℃以下であることが好ましく、−20℃以上30℃以下であることがより好ましい。
−50℃以上とすることにより、温度環境の維持を容易にすることができる
50℃以下とすることにより、熱硬化性樹脂の開環重合の進行を抑制することができ、極性溶媒による分子量増加抑制効果を高めることができる。
【0043】
本実施の形態において、前記一般式(I)で示される、
ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を溶媒に溶解する方法は特に限定されない。
例えば、マグネチックスターラーやディスパーの使用、シェイカーの使用等が挙げられる。
溶解させるときの温度は特に限定されないが、0〜40℃で溶解させることが好ましく、10〜30℃がより好ましい。
0℃以上で溶解させることにより、熱硬化性樹脂の溶解性を向上させることができ、40℃以下で溶解することにより熱硬化性樹脂の開環重合が進行を抑制することができ、分子量増加抑制効果を高めることができる。
【0044】
本実施の形態において、前記一般式(I)で示される、
ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を溶解させた溶液を調製する際の混合順は特に限定されない。
例えば、非極性溶媒に熱硬化性樹脂を溶解させた後に、極性溶媒を添加してもよく、非極性溶媒と極性溶媒を混合させた後に熱硬化性樹脂を溶解させてもよい。極性溶媒に熱硬化性樹脂を溶解させてから、非極性溶媒を添加する方法も考えられるが、極性溶媒量が少量である場合は、熱硬化性樹脂が完全に溶解しない可能性がある。
熱硬化性樹脂を、溶液中で分子量増加を抑制するためには、熱硬化性樹脂を非極性溶媒に溶解させ、次いで、極性溶媒に添加して、前記溶液中での熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制することが好ましい。
【0045】
本実施の形態において、前記一般式(I)で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒中で公知の方法により製造した後に、極性溶媒を添加して、溶液中での熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制させることもできる。
【0046】
本実施の形態の熱硬化性樹脂の溶液は、熱硬化性樹脂、非極性溶媒、及び極性溶媒を含む溶液であれば、特に限定されない。熱硬化性樹脂を溶解させた溶液をキャスト液として調製する際には、必要に応じて、硬化促進剤、難燃剤、無機充填材、離型剤、接着性付与剤、界面活性剤、着色剤、カップリング剤、レベリング剤、その他の熱硬化性樹脂等を添加して、前記一般式(I)で示されるベンゾオキ
サジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物とすることができる。
熱硬化性樹脂を、溶液中で分子量増加を抑制するためには、熱硬化性樹脂の溶液としては、熱硬化性樹脂と、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒との2成分のみからなることが好ましい。前記溶媒も、非極性溶媒と極性溶媒のみを含む溶媒であることがより好ましい。
また、熱硬化性樹脂としては、前記一般式(I)で示されるベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を製造する際の原料を含まない精製後の熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、例えば、熱硬化性樹脂を製造した際に、反応溶液をアルコール系溶媒等の溶媒に注ぎ、析出させ乾燥させた熱硬化性樹脂を用いることがより好ましい。
【0047】
本実施の形態において、熱硬化性樹脂、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒のみを含む溶液を作成し、キャスト溶液として使用する際には、前記硬化促進剤等を添加してキャスト溶液としてもよい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例における測定方法は以下のとおりである。
【0049】
[Mw(重量平均分子量)の測定]
メーカー:SHOMADZU、型番:228−35150−91、装置名:CTO−10ASVP
カラム:Shodex KF804L(排除限界分子量400,000)×2(直列)、カラム温度:40℃
流量:1ml/min.、eluent:THF(和光純薬製、安定剤不含、HPLC用)
サンプル:0.7質量%、圧力:2.4MPa、検出器:RI
分子量計算方法:標準ポリスチレン換算
(Mw(Mw/Mn))がそれぞれ354,000(1.02)、189,000(1.04)、98,900(1.01)、37,200(1.01)、17,100(1.02)、9,830(1.02)、5,870(1.05)、2,500(1.05)、1,050(1.13)、500(1.14)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、計算によりMwを求めた。
【0050】
[粘度の測定]
メーカー:東機産業株式会社、型番:TV−22、装置名:マルチレンジ粘度計、測定温度:25℃
コーンロータ:標準、コーンロータ回転速度:10rpm
サンプル量:1.1ml
モーター回転開始1分後の数値を記録した。
【0051】
(実施例1)
ビスフェノールA、1,12−ジアミノドデカン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、パラホルムアルデヒドから、以下に記載の方法により、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を合成した。
トルエン2550mL、イソブタノール450mLを還流管、コック付きの等圧滴下ロート及びジムロート冷却器がセットされた10Lのフラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、その後、ビスフェノールA274.0g(1.2mol)、1,12−ジアミノドデカン136.3g(0.66mol)、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカントリシクロデカン129.2g(0.66mol)、フェノール34.2g(0.36mol)を前記フラスコ内に室温下で一括して添加混合した。その後、パラホルムアルデヒド(91.60%)259.5g(7.92mol)を、前記フラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、全ての原料が混合された混合媒体を得た。前記混合媒体を90℃に加温し、攪拌することで反応を進行させた。還流開始から5時間後に、得られた反応溶液を室温まで冷却した。得られた反応溶液を、15Lのメタノールが入った容器中に注ぎ入れ、反応物を沈殿析出させた。析出した白色沈殿固体を減圧乾燥することで、白色粉末状のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂550gを得た。
得られた熱硬化性樹脂52.4gをトルエン40.7gに溶解させ、固形分濃度56.3質量%の溶液を調製し、DMAcを2.2g添加し(全溶媒量に対する添加溶媒量5.1質量%)、固形分濃度が55.0質量%となる溶液Bを調製した(表1)。
【0052】
(比較例1)
DMAcに代えてトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により溶液Aを調製した(表1)。
【0053】
【表1】

【0054】
溶液Aと溶液Bの入ったガラス瓶をそれぞれ密栓し、25℃中で7日間保存し、重量平均分子量Mw及び粘度の経時変化を測定した。結果を表2、表3、図1、図2に示した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
(実施例2)
4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスアニリン、1,12−ジアミノドデカン、パラホルムアルデヒドから、以下に記載の方法により、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を合成した。
トルエン2850mL、イソブタノール150mLを還流管、コック付きの等圧滴下ロート及びジムロート冷却器がセットされた10Lのフラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、その後、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスフェノール728.5g(2.1mol)、1,12-ジアミノドデカン109.6g(0.55mol)、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチル−エチリデン)]ビスアニリン564.4g(1.64mol)、フェノール16.0g(0.17mol)を前記フラスコ内に室温下で一括して添加混合した。その後、パラホルムアルデヒド(91.60%)365.0g(11.14mol)を、前記フラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、全ての原料が混合された混合媒体を得た。前記混合媒体を110℃に加温し、攪拌することで反応を進行させた。反応中生成する水は、トルエンと共沸させることで除去した。還流開始から7時間後に、得られた反応溶液を室温まで冷却した。得られた反応溶液を、10Lのメタノールが入った容器中に注ぎ入れ、反応物を沈殿析出させた。析出した白色沈殿固体を減圧乾燥することで、白色粉末状のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂1300gを得た。
得られた熱硬化性樹脂17.3gをトルエン42.4gに溶解させ、固形分濃度29.0質量%の溶液を調製し、DMAcを9.4g添加し(全溶媒量に対する添加溶媒量18.1質量%)、固形分濃度が25.0質量%となる溶液Dを調製した(表4)。
【0058】
(比較例2)
DMAcに代えてトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により溶液Cを調製した。(表4)
【0059】
【表4】

【0060】
溶液Cと溶液Dの入ったガラス瓶をそれぞれ密栓し、25℃中で16日間保存し、重量平均分子量Mwの経時変化を測定した。結果を表5、図3に示した。
【0061】
【表5】

【0062】
(実施例3〜6)
ビスフェノールA、1,6−ジアミノヘキサン、パラホルムアルデヒドから、以下に記載の方法により、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を合成した。
トルエン2550mL、イソブタノール450mLを還流管、コック付きの等圧滴下ロート及びジムロート冷却器がセットされた10Lのフラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、その後、ビスフェノールA274.0g(1.2mol)、1,6-ジアミノヘキサン153.4g(1.32mol)、フェノール34.2g(0.36mol)を前記フラスコ内に室温下で一括して添加混合した。その後、パラホルムアルデヒド(91.60%)259.5g(7.92mol)を、前記フラスコ内に、室温下で一括して添加混合し、全ての原料が混合された混合媒体を得た。前記混合媒体を90℃に加温し、攪拌することで反応を進行させた。還流開始から5時間後に、得られた反応溶液を室温まで冷却した。得られた反応溶液を、15Lのメタノールが入った容器中に注ぎ入れ、反応物を沈殿析出させた。析出した白色沈殿固体を減圧乾燥することで、白色粉末状のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂450gを得た。
得られた熱硬化性樹脂12.5gをトルエン37.5gに溶解させ、固形分濃度25.0質量%の溶液を5つ調製した。各トルエン溶液に、溶液F〜Iの極性溶媒として、DMAc、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1−ブタノール(nBuOH)、エチレングリコールモノメチルエーテル(EGME)をそれぞれが12.5gずつ添加し(全溶媒量に対する添加溶媒量25.0質量%)、固形分濃度が20.0質量%となる溶液F、G、H、Iを調製した(表6)。
【0063】
(比較例3)
DMAcに代えてトルエンを用いた以外は、実施例3と同様の方法により溶液Eを調製した(表6)。
【0064】
各溶液E〜Iの入ったガラス瓶をそれぞれ密栓し、25℃中で10日間保存した。保存開始時(initial)と、10日後の重量平均分子量Mwを測定した。結果を表7、図4に示した。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
以上の結果から、本発明によれば、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の分子量増加を、極性溶媒の添加により抑制することが可能であり、溶液の粘度増加やゲル化が防止できるので、溶液の保存安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1及び比較例1の重量平均分子量Mwの経時変化測定結果を示す。
【図2】実施例1及び比較例1の粘度の経時変化測定結果を示す。
【図3】実施例2及び比較例2の重量平均分子量Mwの経時変化測定結果を示す。
【図4】実施例3〜6及び比較例3の重量平均分子量Mwの測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示され
るベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させた溶液。
【化1】


(一般式(I)において、
Ar1は、4価の芳香族基を示す。
1は、炭化水素基を示す。
nは、2〜500の整数を示す。)
【請求項2】
前記非極性溶媒が、芳香族系非極性溶媒である、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記非極性溶媒が、トルエン及び/又はキシレンである、請求項1又は2に記載の溶液。
【請求項4】
前記極性溶媒が、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒及びケトン系溶媒からなる群から選択される極性溶媒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
前記極性溶媒が、アミド系溶媒である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
全溶媒に対する、前記極性溶媒の含有量が1〜50質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
前記溶液に対する、前記熱硬化性樹脂を含む固形分濃度が10〜70質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項8】
下記一般式(I)で示され
るベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を、非極性溶媒と極性溶媒を含む溶媒に溶解させて、前記溶媒中での前記熱硬化性樹脂の分子量増加を抑制する方法。
【化2】

(一般式(I)において、
Ar1は、4価の芳香族基を示す。
1は、炭化水素基を示す。
nは、2〜500の整数を示す。)
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂を前記非極性溶媒に溶解して、次いで、前記極性溶媒を添加することによる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂を前記非極性溶媒中で製造して、次いで、前記極性溶媒を添加することによる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記極性溶媒の添加量が、全溶媒に対して1〜50質量%である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂を含む固形分濃度が、前記溶液に対して10〜70質量%である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
周囲温度が−50〜50℃である、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−209213(P2009−209213A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51284(P2008−51284)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】