説明

ベンゾトリフェニレノフラン化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】高効率及び長寿命発光を実現する有機発光素子の提供。
【解決手段】下記一般式[1]に示されることを特徴とする有機化合物。


一般式[1]においてR乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。ただし、R乃至Rのうち少なくとも一つは前記アリール基又は前記複素環基である。前記複素環基はジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゾトリフェニレノフラン化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は陽極と陰極と、それら両電極間に配置される有機化合物層とを有する素子である。有機発光素子は、前記各電極から注入させる正孔(ホール)及び電子が有機化合物層内で再結合することで励起子が生成し、励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。有機発光素子は有機エレクトロルミネッセント素子、あるいは有機EL素子とも呼ばれる。有機発光素子の最近の進歩は著しく、駆動電圧が低く、多様な発光波長、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0003】
燐光発光素子は前記有機化合物層中に燐光発光材料を有し、その三重項励起子由来の発光が得られる有機発光素子である。高性能の燐光発光素子を提供するにあたり、これまでに新規な有機化合物の創出が盛んに行われている。
【0004】
例えば、トリフェニレンは励起三重項(T)エネルギーが高いため、燐光発光素子用ホスト材料の基本骨格として多く用いられている。
【0005】
一方、トリフェニレンにインデンが縮合した化合物が非特許文献1に記載されている。ここでは、この化合物を化合物1と呼ぶ。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of Organic Chemistry,71,6822(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トリフェニレンを基本骨格に有する化合物は、Tエネルギーが高いが、ガラス転移温度が低いので、結晶化しやすい。
【0009】
一方で、非特許文献1には化合物1が蛍光を発する化合物として開示されている。
【0010】
しかし、Tエネルギーについては記載がないため、燐光発光素子に用いた場合の有用性が明らかではない。
【0011】
本発明は、緑色燐光素子に十分な高いTエネルギー及び高いガラス転移点(Tg)を有するベンゾトリフェニレノフラン化合物を提供することを目的とする。また、そのようなベンゾトリフェニレノフラン化合物を有する発光効率が高く素子寿命が長い優れた有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾトリフェニレノフラン化合物。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式[1]においてR乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0015】
ただし、R乃至Rのうち少なくとも一つは前記アリール基又は前記複素環基である。
【0016】
前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基のいずれかである。
【0017】
前記複素環基はジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基のいずれかである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、緑色燐光素子に十分なTエネルギー及び高いガラス転移温度を有するベンゾトリフェニレノフラン化合物を提供できる。そして、それを有する発光効率が高く、かつ素子寿命が長い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】有機発光素子とこの有機発光素子に接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾトリフェニレノフラン化合物である。
【0021】
【化3】

【0022】
一般式[1]においてR乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0023】
ただし、R乃至Rのうち少なくとも一つは前記アリール基又は前記複素環基である。
【0024】
前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基のいずれかである。
【0025】
前記複素環基はジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基のいずれかである。
【0026】
乃至Rで示される上記のフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基は置換基をさらに有してよい。
【0027】
その置換基とは、炭素数1以上4以下のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基等のアリール基、ジベンゾフラニル基またはジベンゾチエニル基のいずれかである。
【0028】
前記置換基が有してもよい置換基のうちアリール基、ジベンゾフラニル基およびジベンゾチエニル基は、炭素数1以上4以下のアルキル基をさらに有してよい。
【0029】
(ベンゾトリフェニレノフラン骨格の性質について)
ベンゾトリフェニレノフラン骨格とは下記構造式1で示される骨格である。つまり、一般式[1]において、R乃至Rの置換基がすべて水素原子の場合である。
【0030】
【化4】


構造式1
【0031】
ベンゾトリフェニレノフラン骨格は平面構造であるため、分子同士が重なりやすい。これにより固体状態における分子間のキャリア移動が効率的に起こる。
【0032】
この性質から、ベンゾトリフェニレノフラン化合物を有機発光素子に用いる場合、キャリア輸送層や発光層のホストとして好適に用いることができる。
【0033】
ベンゾトリフェニレノフラン骨格を有する化合物を発光層のホスト材料として用いた場合、有機発光素子の駆動電圧を低電圧化できると考える。
【0034】
なぜならば、ベンゾトリフェニレノフラン骨格が有する高い平面性により、電子輸送層またはホール輸送層から注入されたキャリアは、この発光層内を効率的に移動できるためである。
【0035】
また、ベンゾトリフェニレノフラン骨格はTエネルギーが高い。
【0036】
一般に、発光層がホスト材料とゲスト材料とを有し、ゲスト材料が主な発光を発する場合、ホスト材料のTエネルギーはゲスト材料のTエネルギーよりも高いことが好ましい。
【0037】
構造式1で示される化合物の希薄トルエン溶液を77Kにおいて燐光スペクトル測定し、0−0バンドからTエネルギーを求めた。
【0038】
測定には、日立製F−4500を用いた。
【0039】
その結果、Tエネルギーは2.68eV(462nm)であり、この値は緑色や赤色の発光エネルギーよりも十分エネルギーが高い。
【0040】
ここで、本実施形態における緑色とは、発光スペクトルの最大ピーク波長が500nm以上530nm以下の光であり、赤色とは、発光スペクトルの最大ピーク波長が600nm以上620nm以下の光である。
【0041】
すなわち、ベンゾトリフェニレノフラン骨格は、赤色を発する発光材料や、緑色を発する発光材料よりもTエネルギーが高い。
【0042】
したがって、ベンゾトリフェニレノフラン骨格を有する化合物は、緑色から赤色の燐光発光材料を用いた燐光発光素子において発光層のホストとして好適に適用できる可能性がある。
【0043】
そして、ベンゾトリフェニレノフラン骨格を有する化合物は高いTエネルギーを有するので、高い発光効率で発光材料を発光させることができる。
【0044】
(本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物について)
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は、ベンゾトリフェニレノフラン骨格の特定の位置に置換基を設けることで、溶媒に対する溶解性や真空蒸着時の昇華性、薄膜状態のアモルファス性を向上させることができる。つまり、これら置換基を有さない場合は、溶媒に対する溶解性、真空蒸着時の昇華性及び薄膜状態のアモルファス性が向上しない。
【0045】
したがって、ベンゾトリフェニレノフランは、置換基を有することが好ましい。
【0046】
一方で、化合物のTエネルギーは、化合物が有する置換基のTエネルギーに影響を受ける。
【0047】
そこで、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物が有してよい置換基のTエネルギーに注目した。
【0048】
表1に主な芳香環の単体でのTエネルギー(波長換算値)を示す。この中で好ましく用いられる置換基はベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、フルオレン、トリフェニレン、クリセン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピレンである。
【0049】
さらに、燐光発光材料が緑色を発する材料である場合、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物のR乃至Rのいずれかに結合する好ましい置換基はベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、フルオレン、トリフェニレン、クリセン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンである。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物に置換基を設ける位置については、ベンゾトリフェニレノフラン骨格上の電子密度が高い炭素原子に置換基を設けることが好ましい。
【0052】
ベンゾトリフェニレノフラン骨格における電子密度が高い位置とは一般式[1]で示したR乃至Rである。このR乃至Rは求電子反応を受けやすい。
【0053】
したがって、一般式[1]におけるR乃至Rのうち少なくとも一つに置換基を有することが好ましい。
【0054】
また、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は、求電子反応により酸素原子を攻撃されて炭素−酸素結合が開裂するのを抑制するために、Rに置換基が設けられることが好ましい。
【0055】
なぜならば、Rに置換基を設けた場合、立体障害により、炭素−酸素結合を攻撃されにくくなるためである。
【0056】
に置換基を設けた場合、化合物内の電子密度が変化し、RおよびRは電子密度が高い位置ではなくなる。
【0057】
さらに、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は、Rに置換基が設けられ、かつR乃至Rが水素原子であることがより好ましい。化合物の昇華性が高いからである。
【0058】
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物が置換基を有することで得られる効果は、上記の置換基がアルキル基をさらに有することで効果がさらに高い。アルキル基は炭素数が1以上4以下であることがより好ましい。昇華性が低下しないからである。
【0059】
また、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は一般式[1]におけるR乃至Rのうち少なくとも一つに置換基を設けることで薄膜状態での安定性も向上する。
【0060】
有機化合物の薄膜状態での安定性はガラス転移温度を測定することで測ることができる。ガラス転移温度が高いほど、その薄膜の安定性が高い。
【0061】
表2に無置換のベンゾトリフェニレノフラン及び本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物である例示化合物A−5のガラス転移温度(Tg)を示す。置換基を設けることでTgが73℃上昇し、薄膜安定性が向上した。
【0062】
薄膜の安定性が高い化合物は、有機発光素子の層に用いた場合、素子寿命が長いので好ましい。
【0063】
したがって、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物を発光層のホスト材料として用いることで、有機発光素子の長寿命化が可能となる。
【0064】
【表2】

【0065】
(本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物の例示)
以下に本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物をA群乃至C群として例示する。
【0066】
【化5】

【0067】
【化6】

【0068】
【化7】

【0069】
(例示した化合物のそれぞれの性質)
A群に示す例示化合物は、一般式[1]におけるRのみに置換基を設けた化合物である。これらは、化学的安定性、薄膜安定性、昇華性のバランスが良く、ベンゾトリフェニレノフラン骨格が有する高いTエネルギーが維持される構造である。
【0070】
したがって、緑色を発する燐光発光素子の発光層のホスト材料として特に好適に用いることができる。
【0071】
B群に示す例示化合物は、一般式[1]におけるRまたはRのいずれか一つに置換基を設けた化合物である。これらは、置換基の位置や種類を様々に変化させることで物性値の細かい調節が可能である。また、活性部位であるRに置換基を有するため、化合物として安定である。
【0072】
C群に示す例示化合物は、一般式[1]におけるR乃至Rのうち置換基を2つ以上設けた化合物である。これらは、活性部位を結合や立体障害で保護しているため、化学的に特に安定である。
【0073】
(合成ルートの説明)
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物の合成ルートの一例を説明する。以下に合成スキームを記す。
【0074】
まず、市販の4−ジベンゾフラニルボロン酸と1,2−ジハロゲノベンゼン(X,X=I,Br,Cl)を用いて鈴木カップリングし、モノハロゲン中間体を合成する。
【0075】
次いで、金属触媒反応またはリチオ化反応によりボロン酸誘導体(R=Hまたはアルキル基)を合成する。
【0076】
【化8】

【0077】
さらに、ボロン酸誘導体と1,2−ジハロゲノベンゼンをカップリングすることでベンゾトリフェニレノフランの前駆体が合成できる。
【0078】
そして、この前駆体をHeck反応により環化することで、ベンゾトリフェニレノフランが得られる。
【0079】
【化9】

【0080】
ベンゾトリフェニレノフランにアルキルリチウム試薬を作用させると、一般式[1]におけるRの位置が選択的にリチオ化される。
【0081】
この中間体を経由して、ハロゲン化体、ボロン酸誘導体が得られる。
【0082】
そしてこのハロゲン化体、ボロン酸誘導体を用いれば、鈴木カップリングにより容易に置換基を設けることができる。
【0083】
【化10】

【0084】
一方、既に反応性官能基や芳香環を有する置換基を有したジベンゾフラン誘導体を用いて、後からベンゾトリフェニレノフラン骨格を合成する方法もある。
【0085】
例えば、2−または3−クロロジベンゾフランを出発原料に用いれば、一般式[1]においてそれぞれRまたはRの位置に塩素原子を有するベンゾトリフェニレノフランが得られる。
【0086】
【化11】

【0087】
上記基本反応を様々に組み合わせることにより、一般式[1]においてR乃至Rの任意の位置に所望の置換基を設けることができる。
【0088】
なお、上記の反応式の複数の矢印は不図示の多段階の反応を示している。不図示の反応の内容は前述の反応を組み合わせることを意味する。
【0089】
(本実施形態に係る有機発光素子の性質について)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0090】
本実施形態に係る有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置されている有機化合物層とを少なくとも有する有機発光素子である。
【0091】
前記有機化合物層のうち燐光発光材料を有する層が発光層である。そして本発明に係る有機発光素子は、前記有機化合物層が一般式[1]で示されるベンゾトリフェニレノフラン化合物を含有する。
【0092】
本実施形態に係る有機発光素子が有する有機化合物層は単層であっても複数層であってもよい。複数層とは、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、発光層、ホールブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、励起子拡散阻止層等から適宜選択される層である。
【0093】
もちろん、上記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。例えば、一対の電極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を有する有機発光素子が挙げられる。
【0094】
また、発光層を複数有し、それぞれの素子が異なる発光色を有していてもよい。
【0095】
複数の発光層を有する発光素子は、一対の電極の間に複数の発光層を有してもよい。例えば、陽極と陰極との間に赤色緑色青色をそれぞれ発する発光層を積層する構成が挙げられる。
【0096】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0097】
その場合の素子形態は、基板とは逆側から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0098】
本実施形態に係る有機発光素子はベンゾトリフェニレノフラン化合物を何れの層に有していてもよい。特にホール輸送層、電子輸送層、あるいはホール・エキシトンブロッキング層、発光層として使用することが好ましい。より好ましくは、発光層のホスト材料に用いられる。
【0099】
本実施形態に係る有機発光素子の発光層は、複数種の有機化合物から構成されていてよい。複数種の有機化合物とは、例えばホスト材料とゲスト材料等が挙げられる。
【0100】
ここで、ホスト材料とは、発光層を構成する有機化合物の中で、重量比が最も大きい化合物である。ゲスト材料とは、発光層を構成する有機化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく、主な発光をする化合物である。アシスト材料とは、発光層を構成する有機化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく、ゲスト材料の発光を助ける化合物である。アシスト材料は、第2ホスト材料と呼ぶこともできる。
【0101】
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物はホスト材料として用いることができる。ホスト材料が2種以上の場合、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は他のホスト材料と比べて重量比が小さい方であってもよい。つまり、アシスト材料であってもよい。
【0102】
本実施形態に係る有機発光素子が有する発光層のホスト材料に対するゲスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上20wt%以下である。さらに好ましくは、10wt%以下である。これは、濃度消光を抑制するためである。
【0103】
またゲスト材料はホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0104】
このとき燐光発光材料の発光色は、その最大発光ピーク波長が500nm以上620nm以下の範囲にある緑色から赤色であることが好ましい。より好ましくは、500nm以上530nm以下の範囲にある緑色である。
【0105】
燐光発光素子では、ホスト材料のTから非放射失活による発光効率の低下を抑制するために、ホスト材料のTエネルギーはゲスト材料である燐光発光材料のTエネルギーよりも高いことが好ましい。
【0106】
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物はその中心となるベンゾトリフェニレノフラン骨格のTエネルギーが462nmである。
【0107】
この値は緑色を発する燐光発光材料のTエネルギーよりも高い。したがって、これを緑色から赤色の燐光発光素子の発光層に用いると発光効率の高い燐光発光素子を得ることができる。
【0108】
本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物が発光層のホスト材料として用いられる場合、ゲスト材料として用いられる燐光発光材料は、例えばイリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0109】
なかでも燐光発光性の強いイリジウム錯体であることが好ましい。また、励起子やキャリアの伝達を補助することを目的として、発光層が複数の燐光発光材料を有していてもよい。
【0110】
以下に本発明の燐光発光材料として用いられるイリジウム錯体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
【化12】

【0112】
本実施形態に係る有機発光素子は、本発明の化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の化合物を使用することができる。
【0113】
より具体的にはホール注入性化合物あるいは輸送性化合物あるいはホスト材料あるいは発光性化合物あるいは電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0114】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0115】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。
【0116】
ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0117】
本発明のベンゾトリフェニレノフラン化合物以外のホスト材料を用いる場合のホスト材料としては、m−フェニレン誘導体、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、トリフェニレン誘導体、フェナントレン誘導体、クリセン誘導体)、フラン誘導体、チオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アリールシラン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0118】
主に発光に関わる発光材料としては、前述の燐光発光ゲスト材料、もしくはその誘導体以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0119】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。
【0120】
電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0121】
陽極材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。
【0122】
例えば金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。
【0123】
またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。
【0124】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0125】
一方、陰極材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。
【0126】
例えばマグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0127】
本実施形態に係る有機発光素子において、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物を有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。
【0128】
有機化合物層を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)が挙げられる。
【0129】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0130】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0131】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0132】
(本実施形態に係る有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。
【0133】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子を有する。スイッチング素子は、この有機発光素子の陽極または陰極と薄膜トランジスタのドレイン電極またはソース電極とが接続されている。
【0134】
表示装置はPC、ヘッドマウントディスプレイ、携帯電話等の画像表示装置として用いることができる。表示される画像は、二次元画像、三次元画像を問わない。
【0135】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。
【0136】
画像出力装置は、画像入力部をCCDセンサ等の撮像素子とし、撮像光学系を有するデジタルカメラであってもよい。
【0137】
表示装置は、出力されている画像に触れることで入力できる入力機能を有していてもよい。例えば、タッチパネル機能等が挙げられる。
【0138】
また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0139】
本実施形態に係る有機発光素子は照明装置に用いられてもよい。この照明装置は、本実施形態に係る有機発光素子と有機発光素子に接続されたインバータ回路とを有する。
【0140】
本実施形態に係る照明装置の照明光の色は、白色でも、昼白色でも、その他の色でもよい。
【0141】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を有する表示装置について図1を用いて説明する。
【0142】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0143】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極である。符号4はゲート絶縁膜であり、符号5は半導体層である。
【0144】
薄膜トランジスタ8は、半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。薄膜トランジスタ8の上部には絶縁膜9が設けられ、コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。
【0145】
表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方と薄膜トランジスタソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0146】
有機化合物層12は本図では簡略化して1つの層として図示しているが、実際には多層の有機化合物層からなってもよい。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0147】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、トランジスタやMIM素子を用いてよい。トランジスタは単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、アモルファスシリコン型のトランジスタ素子等を用いてもよい。薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0148】
有機発光素子はスイッチング素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0149】
また、Si基板上にアクティブマトリクスドライバーを作製し、その上に有機発光素子を設けて制御することも可能である。
【0150】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設ける方が好ましい。
【0151】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、安定な長時間表示が可能になる。
【実施例】
【0152】
以下、実施例を説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
(実施例1)
[中間体1の合成]
【0154】
【化13】

【0155】
以下に示す試薬、溶媒を200mlナスフラスコに投入した。
2−ブロモヨードベンゼン(東京化成工業株式会社製):5.0g(18mmol)
4−ジベンゾフラニルボロン酸(シグマアルドリッチ製):3.8g(18mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):1.0g(0.90mmol)
トルエン:50ml
エタノール:10ml
2M炭酸ナトリウム水溶液:23ml
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら80℃で6時間加熱した。反応終了後、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過を行った。
【0156】
得られたろ液の溶媒を減圧留去して、生じた粘体をシリカゲルカラム(クロロホルム:ヘプタン=1:3)によって精製し、中間体1を3.9g得た(収率68%)。
【0157】
[中間体2の合成]
【0158】
【化14】

【0159】
以下に示す試薬、溶媒を100mlナスフラスコに入れた。
中間体1:3.9g(12mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:3.4g(13mmol)
[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド ジクロロメタン付加物:0.98g(1.2mmol)
酢酸カリウム:2.1g(22mmol)
1,4−ジオキサン(脱水):40ml
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら5時間加熱還流させた。反応終了後、析出した塩をろ過によって除いた。得られたろ液の溶媒を減圧留去して、析出した固体をシリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘプタン=1:5)によって精製し、中間体2を3.4g得た(収率76%)。
【0160】
[中間体3の合成]
【0161】
【化15】

【0162】
以下に示す試薬、溶媒を100mlナスフラスコに投入した。
2−ブロモヨードベンゼン:2.6g(9.1mmol)
中間体2:3.4g(9.1mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.53g(0.46mmol)
トルエン:30ml
エタノール:6ml
2M炭酸ナトリウム水溶液:12ml
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら80℃で5時間加熱した。反応終了後、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過を行った。得られたろ液の溶媒を減圧留去して、生じた粘体をシリカゲルカラム(クロロホルム:ヘプタン=1:3)によって精製し、中間体3を2.1g得た(収率59%)。
【0163】
[ベンゾトリフェニレノフランの合成]
【0164】
【化16】

【0165】
以下に示す試薬、溶媒を100mlナスフラスコに投入した。
中間体3:2.1g(5.4mmol)
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU):8.2g(54mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.62g(0.54mmol)
DMF(脱水):15ml
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら160℃で18時間加熱した。反応終了後、室温下で水を加えて固体を析出させた。ろ過により得られた固体を水、メタノールで洗浄したのちシリカゲルカラム(クロロホルム:ヘプタン=1:3)によって精製し、ベンゾトリフェニレノフランを1.0g得た(収率65%)。
【0166】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のMである318.1を確認した。
【0167】
さらに、H−NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl,500MHz) δ(ppm):9.93(1H,dd),8.79−8.71(4H,m),8.24(1H,d),8.10(1H,d),7.87−7.82(2H,m),7.78−7.74(1H,m),7.73−7.68(2H,m),7.58−7.54(1H,m),7.47−7.43(1H,m)
【0168】
また、以下の方法でTエネルギーの測定を行った。
ベンゾトリフェニレノフランの希薄トルエン溶液(1×10−5M)について、Ar雰囲気下、77K、日立製F−4500を用いて励起波長350nmにおいて燐光スペクトルの測定を行った。得られた燐光スペクトルの0−0バンド(第一発光ピーク)のピーク波長からTエネルギーを求めると波長換算値で462nmであった。
【0169】
また、ベンゾトリフェニレノフランのガラス転移点(Tg)をNETZSCH製「DSC 204 F1」を用いて測定したところ、46℃であった。
【0170】
[中間体4の合成]
【0171】
【化17】

【0172】
以下に示す試薬、溶媒を100mlナスフラスコに投入した。
ベンゾトリフェニレノフラン:0.60g(1.9mmol)
THF:25ml
EtO:20ml
この反応溶液に、窒素下0℃で1.6Mのn−BuLi溶液(ヘキサン)を3.5ml滴下した。溶液を室温に戻して1時間撹拌したところ、溶液は深緑色に変化した。
【0173】
再度溶液を0℃にして、2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランを1.3ml(6.6mmol)加えた。
【0174】
生じた白色のけん濁溶液をさらに室温で30分間撹拌したのち、トルエン20mlと水20mlを加えて2層抽出を行った。有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過を行った。
【0175】
得られたろ液の溶媒を減圧留去して、析出した固体をシリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘプタン=1:5)によって精製し、中間体4を0.61g得た(収率72%)。
【0176】
[中間体5の合成]
【0177】
【化18】

【0178】
実施例1で用いられる2−ブロモヨードベンゼン及び4−ジベンゾフラニルボロン酸を、それぞれ1,3−ジブロベンゼン(東京化成工業株式会社製)及び4−ジベンゾチエニルボロン酸(シグマアルドリッチ製)に変更する以外は中間体1の合成と同様の方法で中間体5を得た。
【0179】
[例示化合物A−5の合成]
【0180】
【化19】

【0181】
以下に示す試薬、溶媒を30mlナスフラスコに投入した。
中間体4:0.30g(0.68mmol)
中間体5:0.23g(0.68mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.079g(0.068mmol)
トルエン:4ml
エタノール:0.8ml
2M炭酸ナトリウム水溶液:0.9ml
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら8時間加熱還流した。反応終了後、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過を行った。
得られたろ液の溶媒を減圧留去して、生じた粘体をシリカゲルカラム(クロロホルム:ヘプタン=1:3)によって精製し、例示化合物A−5を0.32g得た(収率81%)。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである576.2を確認した。
【0182】
さらに、H−NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl,500MHz) δ(ppm):9.79(1H,d),8.78−8.66(4H,m),8.56(1H,bs),8.28(1H,d),8.23(2H,d),8.21(1H,d),8.12(1H,d),7.95(1H,d),7.85−7.80(3H,m),7.73(1H,d),7.72−7.66(2H,m),7.64−7.53(3H,m),7.51−7.44(2H,m),7.22(1H,t)
また、例示化合物A−5のTgをベンゾトリフェニレノフランと同様にして測定したところ、119℃であった。
【0183】
(実施例2−6)
[例示化合物A−2、A−3、A−4、A−10、A−11の合成]
実施例1;例示化合物A−5の合成で用いられる中間体5を表3に示すハロゲン化合物に変更する以外は実施例1と同様の方法で各例示化合物を得た。
【0184】
またMALDI−TOF MSにより各例示化合物の同定を行った。
【0185】
【表3】

【0186】
(実施例7)
[有機発光素子の作製]
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/ホールブロッキング層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0187】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで成膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。
【0188】
このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。
【0189】
このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(40nm):HTL−1
発光層(30nm) ホスト材料:A−5、ゲスト材料:Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング(HB)層(10nm):HBL−1
電子輸送層(30nm):ETL−1
金属電極層1(0.5nm):LiF
金属電極層2(100nm):Al
【0190】
【化20】

【0191】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0192】
得られた有機発光素子について、電流電圧特性をケースレー社製・電流計2700で測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7―fastで測定した。
【0193】
ITO電極を正極、Al電極を負極にして、5.3Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が49cd/Aで、輝度2000cd/mの緑色発光が観測された。
【0194】
またこの素子においてCIE色度座標は、(x,y)=(0.32,0.63)であった。
【0195】
さらに40mA/cm通電時の素子寿命(初期輝度が20%減少した時間)を評価したところ、85時間であった。
【0196】
<実施例8−12>
実施例7においてホスト材料を代えた他は、実施例7と同様の方法で素子を作製した。
【0197】
また得られた素子について実施例7と同様に評価を行ったところ、いずれも緑色発光が観測された。2000cd/m時の発光効率、印加電圧及び40mA/cm通電時の素子寿命(初期輝度が20%減少した時間)を表4に示す。
【0198】
【表4】

【0199】
この様に、本発明に係るベンゾトリフェニレノフラン化合物は燐光発光素子において、ホスト材料として用いることで良好な発光効率及び素子寿命を得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾトリフェニレノフラン化合物。
【化1】


一般式[1]においてR乃至Rは水素原子、置換あるいは無置換のアリール基又は置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。
ただし、R乃至Rのうち少なくとも一つは前記アリール基又は前記複素環基である。
前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基のいずれかである。
前記複素環基はジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基のいずれかである。
【請求項2】
前記一般式[1]において、Rは前記アリール基又は前記複素環基であり、
乃至Rは水素原子であることを特徴とする請求項1に記載のベンゾトリフェニレノフラン化合物。
【請求項3】
陽極及び陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置されている有機化合物層とを有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層は請求項1または2に記載のベンゾトリフェニレノフラン化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層を有し、前記発光層が前記ベンゾトリフェニレノフラン化合物を有することを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層は、ホスト材料とゲスト材料とを有し、前記ホスト材料は前記ベンゾトリフェニレノフラン化合物であり、前記ゲスト材料は燐光発光材料であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
画像を表示するための表示部と画像情報を入力するための入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。
【請求項9】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたインバータ回路とを有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−10703(P2013−10703A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143203(P2011−143203)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】