説明

ベンラファキシン塩酸塩の制御放出性の医薬組成物、及びその調製方法

効果的な抗うつ剤であるベンラファキシン塩酸塩の制御放出性医薬組成物について、開示し、この組成物は、内部コアを有し、この上に活性本体が均一に層状とされており、順に、硬化剤及び親油性薬物を有する層がコーティングされている;上記の医薬組成物の調製方法についても、開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物の分野に係り、特に、ベンラファキシン塩酸塩の制御放出性のための新規の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンラファキシン、つまり、1−[2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−エチル]シクロヘキサノールは、うつ病の処置だけでなく、てんかん、パーキンソン病などのその他の神経疾患の処置に認知された活性を有するものである。
【0003】
この活性本体の推奨される日当たりの投与量は、一日当たり75〜350mgの範囲であって、2〜3回の回数で投与されるべきものである。このような頻繁な投与は、神経疾患に罹患している患者を考慮すると、特に複雑である。従って、頻繁な薬物投与を回避し得るとともに、ベンラファキシン塩の特定の薬物動態に適合した、ベンラファキシン又はその塩の制御放出性の組成物を創出する必要があることが明らかである。
【0004】
事実、ベンラファキシン塩酸塩は、高い溶解性を有するものであって、従って、適切に処方されていないと、非常に急速に放出され、結果として、投与後の短時間内で活性本体の血漿濃度が高く増加し、その後、投与後約12時間以内で治療レベル以下にまで低下してしまう。事実、このことが、多段の日投与を必要としており、このような投与計画を行っている患者の大部分で、吐き気や嘔吐などの全く所望しない副作用を惹起してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に説明したことについて、ベンラファキシン塩酸塩の種々の制御放出性の製剤が現在も創出されており、その活性本体は、内部コア上に層化され、放出を緩徐とするポリマー材料の1つ以上の層でコートされたものである。しかしながら、斯かる製剤は、均一且つ安定な医薬組成物を大規模で調製するのに適しない、複雑で高価な工程によって、一般的に調製されると言うべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、下記の通り、活性を有する化合物を前もって層化された内部コアに、親油性コーティングを適用することにより、投与後24時間まで活性本体の制御された放出が得られる、ベンラファキシン塩酸塩の放出特性を改変することが可能であることを見出した。
【0007】
このように製剤化した活性本体は、日当たり単一の投与計画を行い得るように、持続した医薬的効果に適したin vivoにおける血漿レベルを達成する、in vitroでの理想的な放出型を示した。
【0008】
さらに、本発明の調製方法は、ロット毎の良好な再現性を示すとともに、得た組成物の良好な安定性を示した。
【0009】
従って、本発明の主題は、ベンラファキシン塩酸塩の制御放出性のための医薬組成物であって、内部コアと、この上に適用した、活性本体であるベンラファキシン塩酸塩と、親油性化合物及び硬化剤を有する親油性コーティングとを有する。
【0010】
本発明のさらなる主題は、上記の医薬組成物の調製方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の特徴及び利点について、下記の通り、詳細に説明する。
【0012】
図1及び2において、記号■は、例2に述べたように調製した本発明の1カプセルを投与した後に得た曲線を示し、記号●は、先行技術において公知の、ベンラファキシン塩酸塩の徐放性カプセルを投与して得た参照曲線を示し、
t=0は、投与した時間である。
【0013】
本発明によると、親油性化合物と硬化剤との重量比は、例えば、1:1〜1:20であってもよく、好ましくは、親油性化合物と硬化剤との重量比は、1:10である。
【0014】
本発明の好適実施例によると、本発明の組成物は、この組成物の総重量に対して39.3〜54.0重量%の量のベンラファキシン塩酸塩と、この組成物の総重量に対して1.35〜2.10重量%の量の親油性コーティングとを有し、組成物のその他の部分は、内部コアにより構成される。
【0015】
好適な硬化剤は、セルロース誘導体、メタクリル酸及びその共重合体、ポリグリコール、ポリビニル、並びにこれらの混合物である。
【0016】
本発明において、表現「セルロース誘導体」は、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びセルロースアセトフタレートからなる群から選択されたものを意味する;一方、用語「ポリビニル」は、例えば、ポリビニル酢酸、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアセトフタレートから選択されるものを意味する。ポリエチレングリコールは、本発明によるポリグリコールの例である。
【0017】
エチルセルロースは、本発明による硬化剤として、特に好適なものである。
【0018】
本発明において使用可能な親油性化合物は、パラフィン、炭素数12〜20の脂肪酸及びこれらの混合物から選択され、ステアリン酸が好ましい。
【0019】
本発明のコアを調製するには、医薬的な用途の種々の不活性なペレットを使用してもよい;例えば、サッカロースやスターチからなるペレットを使用してもよい。好ましくは、本発明のペレットは、710〜1340μmの粒子径分布を有する。
【0020】
本発明の調製方法は、下記のステップを有する:
【0021】
i)ベンラファキシン塩酸塩の水溶液の噴霧(nebulization)により、不活性ペレット上に活性本体を適用するステップ;
ii)ステップi)に由来の活性本体を有するコア上に、親油性コーティングを適用するステップ。
【0022】
硬化剤と混合した親油性化合物の適用により、溶液状となる;溶解に用いる有機溶媒としては、例えば、アセトン、エタノール、塩化メチレン及びこれらの混合物からなる群から選択される。活性なコア上に適用される親油性化合物の溶液を調製するには、エタノール及びアセトンの混合物が好適な溶媒である。
【0023】
本発明による医薬組成物は、上記の活性本体及び親油性のコーティングの成分に加えて、医薬的に許容な賦形剤及び/又は希釈剤を有してもよく、経口投与での制御放出に適した組成物を達成するため、医薬組成物に一般的に用いられるものから選択される。
【実施例】
【0024】
本発明を示す目的で下記の例を提供するが、これらは、本発明の範囲を限定する意図を有するものではない。
【0025】
(例1)
活性本体のコアの調製
10kgの糖スフェアの中性ペレット(組成:80重量%のサッカロース、20%のスターチ)であって、710〜1000μmの粒子径分布を有するものを、自動システムGSモデルHP/M025に負荷する。
【0026】
これらの中性ペレットに、10kgの活性本体を10kgの精製水に溶解して調製したベンラファキシン塩酸塩の溶液を適用する。
【0027】
下記の表1は、適用用の動作条件、及び機器に設定した主要な動作パラメータ値を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
このようにして得たペレットを、1200μmのネットでふるいにかけ、60℃で12時間、乾燥する。
【0030】
(例2)
制御放出性のコーティングの調製
290gのエチルセルロース及び29gのステアリン酸を、2.7kgのアセトン及び2.7kgの96%エタノールに添加し、この混合物を、完全に溶解するまで、攪拌下におく。
【0031】
このようにして得た溶液を、上記例1に述べたように調製したペレット上への遅延フィルムの適用のために、用いた。
【0032】
少量の溶液の噴霧の間、添加するタルクの量を40gとして、添加する。
【0033】
下記表2は、遅延コートの適用用の動作条件、及び機器に設定した主要な動作パラメータの値を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
このようにして得たペレットを、1340μmのネットでふるいにかけ、60℃で12時間、乾燥する。乾燥の終期において、ペレットを「0」カプセルにカプセル化する。なお、これは、169.7mgのベンラファキシン塩酸塩に対応する150mgのベンラファキシンを有するものである。
【0036】
(例3)
活性本体のコアの調製
例1に述べたものと同じタイプの、2kgの糖スフェアの中性ペレットを、グラットフルイドベッドモデル(Glatt fluid bed model)GPCG3に負荷し、50%のベンラファキシン塩酸塩の溶液をこれに適用する。
【0037】
4kgの溶液の適用の終期において、ペレットを1200μmでふるいにかけ、同じフルイドベッドにおいて、60℃で30分、乾燥する。
【0038】
下記表3は、適用の動作条件、及び機器に設置した主要な動作パラメータの値を示す。
【0039】
【表3】

【0040】
(例4)
制御放出性のコーティングの調製
58gのエチルセルロース及び5.8gのステアリン酸を、0.54kgのアセトン及び0.54kgの96%のエタノールに添加し、この混合物を、完全に溶解するまで、攪拌下におく。
【0041】
このようにして得た溶液を、例3に述べたように調製したペレット上への遅延フィルムの適用に用い、Wurster挿入物(insert)を装備したフルイドベッドに再度おく。
【0042】
少量の溶液の噴霧に、全量8gのタルクを添加する。
【0043】
下記表4は、遅延コートの適用用の動作条件、及び機器に設定した主要な動作パラメータの値を示す。
【0044】
【表4】

【0045】
このようにして得たペレットを1340μmのネットでふるいにかけ、60℃で12時間、乾燥する。乾燥の終期において、ペレットを「0」カプセルにカプセル化する。なお、これは、169.7mgのベンラファキシン塩酸塩に対応する150mgのベンラファキシンを有するものである。
【0046】
(例5)
本発明の組成物の放出試験
上記例2及び4で述べたように調製したカプセルを、下記の方法により、分析した。
【0047】
装置:バスケット(Basket)100rpm
溶媒溶液:HO 900mL
【0048】
このように行った試験の結果を、下記表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
(例6)
本発明の組成物の生物学的な等価性試験
現在市販の徐放性のベンラファキシン150mgのカプセルを参照として、例2及び4の通り調製した本発明のカプセルについて、生物学的な等価性試験を行った。
【0051】
図1及び2に強調したこの試験の結果が示すように、本発明の製品は、活性本体であるベンラファキシンの速度及び吸収程度の点、並びにその主要な代謝物であるO−デスメチルベンラファキシンの速度及び形成の程度の点でも、市販の製品と同等である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ベンラファキシンの血漿レベルの時間プロフィールを示す。
【図2】ベンラファキシンの主代謝物であるO−デスメチルベンラファキシンの血漿レベルの時間プロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンラファキシン塩酸塩の制御放出性の医薬組成物であって、
内部コアと、この上に適用される活性本体であるベンラファキシン塩酸塩と、親油性化合物及び硬化剤を有する親油性コーティングとを有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記親油性コーティングにおける親油性化合物と硬化剤との重量比は、1:1〜1:20であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記の親油性化合物と硬化剤との重量比は、1:10であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、セルロース誘導体、メタクリル酸及びその共重合体、ポリグリコール、ポリビニル並びにこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記硬化剤は、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセトフタレート、ポリビニル酢酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセトフタレート、ポリエチレングリコール及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記硬化剤は、エチルセルロースであることを特徴とする請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記親油性化合物は、パラフィン、炭素数12〜20の脂肪酸及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記親油性化合物は、ステアリン酸であることを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記内部コアは、710〜1340μmの粒子径分布を有し、サッカロース及びスターチで構成される中性ペレットから本質的になることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
医薬的に許容な賦形剤及び/又は希釈剤をさらに有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
カプセルの形態であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
当該組成物に総重量に対して、39.3〜54.0重量%の量のベンラファキシン塩酸塩と、
当該組成物に総重量に対して、1.35〜2.10重量%の量の親油性コーティングと、
を有し、
組成物の残りの部分は、前記内部コア、並びに可能な医薬的に許容な賦形剤及び/又は希釈剤により、構成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
当該組成物の総重量に対して重量%で表した下記成分:
成分 重量%
ベンラファキシン塩酸塩 49.10
中性ペレット 49.16
エチルセルロース 1.40
ステアリン酸 0.14
タルク 0.20
を有することを特徴とする請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の医薬組成物の調製方法であって:
i)ベンラファキシン塩酸塩の水溶液の噴霧により、不活性コア上に活性本体であるベンラファキシン塩酸塩を適用するステップと;
ii)ステップi)に由来の活性本体を有するコア上に、親油性化合物及び硬化剤を有する親油性コーティングを適用するステップと;
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
ステップii)における親油性コーティングの適用は、ステップi)に由来のコア上に、適当な溶媒中に親油性化合物及び硬化剤を有する溶液を、噴霧により、行われることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒は、アセトン、エタノール、塩化メチレン及びこれらの混合物からなる群から選択される有機溶媒であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機溶媒は、1:1の重量比のエタノール及びアセトンの混合物であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
親油性化合物及び硬化剤を有する溶液の噴霧中に、タルクを添加することを特徴とする請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−510027(P2009−510027A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532796(P2008−532796)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066906
【国際公開番号】WO2007/039569
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(502044599)ヴァルファルマ ソチエタ アノニマ (2)
【Fターム(参考)】