説明

ペオニフロリンの医薬用途

本発明は、以下のような化学構造を持つペオニフロリンの医薬用途を提供する。より詳しくは、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防におけるペオニフロリンの応用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非プリンアデノシン受容体-1(Adenosine Receptor-1, A1R)の選択性アゴ
ニスト、ペオニフロリンの医薬用途に関する。具体的には、選択的にA1R受容体に刺激を
与え、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防の効果を発揮し、同時に従来のプリン系A1Rアゴニストの心臓血管における強い副作用を除去できる化合物に関す
る。
【背景技術】
【0002】
ペオニフロリン(paeoniflorin)は天然の活性化合物であり、キンポウゲ科植物である白い芍薬、赤い芍薬と牡丹の根から由来する。源植物の中でその含有量は豊富であり、例えば、中国山東省曹県で産する白い芍薬には、該活性単量体の成分が1.95%に達し、さらに牡丹根の中で、ペオニフロリンの含有量は7%までに達している。また、その源植物は
広い地域に分布して、人工栽培しやすいので、大規模な産業的栽培に適している。薬理学研究により当該物質は鎮痛、鎮静、鎮痙、抗炎症、抗潰瘍、冠状動脈の拡張、急性心筋虚血の拮抗、および血小板の凝集の抑制といった多方面の薬効を持ち、かつ安全範囲も幅広いことが知られている。
【0003】
多くの研究により、A1R受容体アゴニストがシナプス前のA1R受容体を活性化させ、グルタミン酸などの興奮性アミノ酸の放出を抑え、細胞の興奮毒性とCa2+の超負荷を緩和する一方、シナプス後のA1R受容体に作用し、Kチャネルのコンダクタンスを増加させ、細胞膜の脱分極を制限することによりニューロンの興奮を抑え、したがって、顕著な神経保護効果を発揮することがすでに明らかになっている(Heron A, Lekieffre D, Le Peillet E, Lasbennes F, Seylaz J, Plotkine M, Boulu RG., Effects of an A1 adenosine receptor agonist on the neurochemical, behavioral and histological consequences of ischemia. Brain Res. 1994; 641(2): 217-24., Goldberg MP, Monyer H, Weiss JH, Choi DW., Adenosine reduces cortical neuronal injury induced by oxygen or glucose deprivation in vitro. Neurosci Lett. 1988; 9(3): 323-7., Mori M, Nishizaki T, Okada Y., Protective effect of adenosine on the anoxic damage of hippocampal slice. Neuroscience. 1992; 46(2): 301-7., Von Lubitz DK, Beenhakker M, Lin RC, Carter MF, Paul IA, Bischofberger N, Jacobson KA., Reduction of postischemic brain damage and memory deficits following treatment with the selective adenosine A1 receptor agonist. Eur J Pharmacol. 1996; 302(1-3): 43-8.)。しかし、A1R受容体アゴニストの心臓血管における強い副作用は、その臨床応用範囲を大きく制限している(Collis MG, Hourani SM., Adenosine receptor subtypes. Trends Pharmacol Sci. 1993; 14(10): 360-6. Review., Daval JL, Nehlig A, Nicolas F., Physiological and pharmacological properties of adenosine: therapeutic implications. Life Sci. 1991; 49(20): 1435-53. Review.)。近年、各国の医薬業界は大量の人力、物資を投入し、神経保護作用が適切で、且つ心臓血管への副作用が小さい選択性A1R受容体アゴニストの研究を重ねている。
【0004】
脳卒中、パーキンソン病などの神経系疾患は、人類の健康を脅かす最も危険な疾患の一つであり、老年層の中で罹患率と身体障害率は高いのが現状である。脳卒中を例に挙げると、45〜89歳の集団の中で、その発生率が約0.35%であり、その中で、約20%脳卒中患者の生存期間は1ヶ月より短い。生存期間が6ヶ月を超える患者の中で、30%以上の患者は
自立できない。そのため、個人、家庭と社会は、大変な心理と経済の2重の負担を受けて
いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1. 本発明は、ペオニフロリンが一種の非プリン系A1受容体選択性アゴニストであるこ
とを提示することを目的としている。
2. 本発明は、また脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の予防と治療に応用可
能なペオニフロリンを提供することを目的としている。
【0006】
本研究は、リガンド(配位子)−受容体の競争性結合実験のハイスループットスクリーニングに基き、初めてペオニフロリンがA1R受容体と選択的に競争結合し、その化学構造
が従来のA1R受容体アゴニストと異なり、一種の新型非プリン系のA1R受容体選択性アゴニストであることを見出した。典型的な実験動物モデルにおいて、ペオニフロリンは、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防効果を有することが実証された。さらに研究を進めたところ、該化合物の心臓血管への副作用は小さく、臨床応用の価値を持っていることが証明された。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患を治療、予防することが可能な新型の薬物を提供し、大きな社会的効果と経済効果を持っているといえる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、化学方法によりキンポウゲ科植物の白い芍薬、赤い芍薬と牡丹の根から、天然活性化合物であるペオニフロリンを抽出分離し、さらに、薬理学的実験により、ペオニフロリンは一種の非プリン系アデノシン受容体-1の選択性アゴニストとして、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の予防と治療に有効な薬物の調製に応用できることを見出した。
【0009】
本発明は、白い芍薬、赤い芍薬と牡丹の根を原料として用い、その調製手順は以下の通りである。
白い芍薬、赤い芍薬と牡丹の根をアルコールで還流抽出させ、乾燥エキスを得た。エキスに水を加えて十分に溶解させた後、水溶離を糖反応が陰性になるまでマクロ孔樹脂に通し、2倍カラム体積のアルコールを添加して溶離した後、得られたエキスをシリカゲルの
カラムクロマトグラフィーにより単離し、化合物としてのペオニフロリンを得た。
【0010】
ペオニフロリンの化学構造は以下の通りである。
【0011】
【化2】

【0012】
その分子式はC23H28O11、分子量は480.48であり、化学名称はβ-D-Glucopyranoside,56
-[(benzoyloxy)methyl]tdtrahydro-5-hydroxy-2-methyl-2,5-methano-1H-3,4-dioxacyclobuta[cd]Pentalen-la(2H)-yl,[lar-claα,2β,3aα,5α,5aα,5bα]]である。
【0013】
ペオニフロリンの精製方法は文献(金継曙 都述虎 種明才 マクロ孔吸着樹脂による白い芍薬の総ヘテロシドの分離、中国中薬雑誌1994年01期 1994. VOL.19 NO. 1:31)を参照した。
【0014】
本発明は、前記の方法により精製して得られたペオニフロリンに対し、関連の薬理薬効の実験を行なった。
一. ペオニフロリンのリガンド―受容体の競争性結合実験:
実験ではラットの大脳皮質のシナプス膜を利用した。ラットの断頭処置後、大脳皮質を分離し、1:15(W/V)の蔗糖溶液の中で、充分にホモジネートして遠心分離した後、上澄液を取り遠心分離した。上澄液を捨てた後、1:30(W/V)のTris-Hcl緩衝液(50 mM、PH 7.4)で再び懸濁沈殿し、ホモジネート洗浄してから再び遠心分離した。洗浄手順を三回
繰り返した後、もう一度1:5(W/V)のTris-Hcl緩衝液(50 mM、PH 7.4)で再び懸濁沈殿し、分けて−80℃で保存した。また、Bradford法により、蛋白質の濃度を測定し(Bradford MM. A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of proteins utilizing the principle of protein-dye binding. Anal Biochem. 1976;72:248-254.)、前記の操作はすべて4℃で行なった。
【0015】
前記のモデルでは、ペオニフロリンがそれぞれA1R及びA2aR受容体混合型アゴニスト[3H]-エチルアミドアデノシン([3H]-NECA)と、及びA1R受容体選択性アゴニスト[3H]-CCPA
と競争結合することを実証している。
【0016】
また実験では、ペオニフロリンが[3H]-CCPAと競争結合し、同時に[3H]-NECAの競争結合に対し、典型な二つの部位競争特性(EC501=13.9nM、EC502=5.00μM)を有することが示
された。実験結果は、ペオニフロリンが同時にA1R及びA2AR受容体と結合でき、さらに、
高い選択性(EC502/ EC501=360倍)を有し、低い濃度で選択的にA1Rと結合し、高い濃度
でA2ARと結合することを示している。
二.脳卒中の予防と治療におけるペオニフロリンの薬効実験:
可逆性ラットの中大脳動脈塞栓法を用い、それぞれ一時性と永久性の二つの局所脳虚血モデルを作り(Belayev L,Alonso OF, Busto R, Zhao W, Ginsberg MD. Middle cerebral
artery occlusion in the rat by intraluminal suture. Neurological and pathological evaluation of an improved model. Stroke, 1996; 27: 1616-22., Takano K, Tatlisumak T, Bergmann AG, Gibson DG 3rd, Fisher M. Reproducibility and reliability of
middle cerebral artery occlusion using a silicone-coated suture (Koizumi) in rats. J Neurol Sci. 1997; 153: 8-11.)、脳虚血ラットの神経欠損徴候と大脳損傷の体積に対する、ペオニフロリンの影響をそれぞれ分析した。腹腔からクロラロースを注射して麻酔させ、右大腿動脈の挿管で血圧を監視し、36.5〜37.5℃の肛門体温を維持しながら、頸部から切開して、外頸動脈を分離し、電気凝固でその分枝動脈を切った上、遠端で結紮した。頸頭部が太鼓のばち状を呈する4〜0番の単糸ナイロン線を取り、外頸動脈から内頸動脈を経て前大脳動脈に挿入して中大脳動脈の開始端を遮断すると同時に、大脳の前、後動脈と内頸動脈の副行血流も遮断した。一時性MCAOモデルグループは、1.5hr虚血してか
ら上記の線を抜き出し、さらに22.5hr灌流し、虚血後15分と6時間で、それぞれ生理食塩
水、異なった投与量のペオニフロリンを皮下注射した。永久性MCAOモデルグループは、該線を抜き出さないまま連続的に24hr虚血し、虚血後15分と6時間で、それぞれ生理食塩水
、ペオニフロリン、及びDPCPX+ペオニフロリンを皮下注射し、その中で虚血前15分に予めDPCPXを与えた。
【0017】
Syderff神経欠損徴候の判別法に基き、総合等級の採点を行なった(Sydserff SG,Borel
li AR,Green AR,Cross AJ., Effect of NXY-059 on infarct volume after transient or
permanent middle cerebral artery occlusion in the rat; studies on dose, plasma concentration and therapeutic time window. Br J Pharmacol. 2002;135(1):103-12.)。前肢の曲がり、自発回転及び他側の掻き刺激に対する反応の損失程度により、それぞれ0−2点(0=正常、2=厳重)で判定する。それ以外に、肢体の他側の回転するトルクも1つの単独指標として、0−2点(0=大きいトルク、2=小さいトルク)で判定する。そのため損傷の採点値は0−8の間である。
【0018】
実験の結果から、ペオニフロリンは、中投与量の濃度(5mg.kg-1s.c.)において、一時性中大脳動脈塞栓ラットの神経症状を顕著に改善でき、同時に虚血により引き起こされた大脳皮質下の核団と大脳皮質の損傷を著しく低下することが示された。虚血により引き起こされた大脳皮質下の核団と大脳皮質の損傷をペオニフロリンが低下する機能は、投与量に依存しており、且つこの機能は選択性A1R受容体の拮抗物質DPCPXに拮抗されることが可能である。ペオニフロリンは、A1R受容体を活性化することにより、神経保護効果を発揮
し、脳卒中の臨床治療と予防に使用できることを示している。
三.パーキンソン病(PD)の予防と治療におけるペオニフロリンの応用:
N-メチルフェニルテトラヒドロピリジン( 1-methyl-4-phenyl- 1,2,3,6-tetrahydro-pyridine, MPTP)に誘導されたマウスのPDモデルを用い、ペオニフロリンは、PDモデルマウスのさお登り能力と中脳黒質ドパミンニューロンの損失に対する影響をそれぞれ測定した。20-25g雄のC57Bl/6Jマウスを使用し、実験開始前にマウスのさお登り時間を測定し、さお登り時間により無作為で5組に分け、8匹ずつ一組にした。低投与量と中投与量のペオニフロリンで、それぞれ連続11日間皮下注射で投与し、実験の8日目2時間おきに N-メチルフェニルテトラヒドロピリジン( 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydro -pyridine, MPTP)を腹腔から4回注射し(ip)、マウスのPDモデルを誘導した。
【0019】
次に、さお登り法によりマウスの運動能力を測定した。マウスの頭を下向きにさせ、表面が荒い垂直の竿(長さ55cm、直径8mm)の上に置かれたマウスは竿から下に向いて、そ
の四肢がすべて地面に接触するまでの時間を記録した(Hamaue N, Minami M, Terado M, Hirafuji M, Endo T, Machida M, Hiroshige T, Ogata A, Tashiro K, Saito H, Parvez SH. Comparative study of the effects of isatin, an endogenous MAO-inhibitor, and selegiline on bradykinesia and dopamine levels in a rat model of Parkinson's disease induced by the Japanese encephalitis virus. Neurotoxicology. 2004 Jan;25(1-2):205-13.)。
【0020】
実験結果から、ペオニフロリンの中投与量組(5mg.kg-1s.c.)は、MPTPにより引き起こされた運動機能の障害を著しく改善でき、またMPTPによる誘発したドパミンニューロンの損失を抑制できることが示された。また、ペオニフロリンはパーキンソン病の臨床治療と予防に使用できることを示している。
四.覚醒ラットの血圧におけるペオニフロリンの影響
覚醒ラットを研究対象として、尾部センサーを用いて、圧力パルスを光電トライオードへ伝え、それに対応する血圧と心拍数に転換した。ラットが落ち着いた後に、その血圧と心拍数を記録し、基礎値とする。その後尾静脈を通じ、それぞれ生理食塩水、異なった投与量のペオニフロリンとレセルピン(reserpine)を注射した。
【0021】
投与前 (0 min)と投与後 (5minから2hrまで)の血圧と心拍数の変化を記録した。
実験の結果から、異なった投与量のペオニフロリン(10, 40, 160mgkg-1, i.v.)は、
すべてラットの血圧と心拍数に影響を与えないことが示された。該化合物は、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防効果を発揮できる治療投与量の範囲内で、心臓血管への著しい副作用がないことが明らかになった。
【0022】
前記の実験から、本発明が提供した化合物ペオニフロリンはA1R受容体と競争結合でき
、且つ高い選択性を有することが分かる。その化学構造は、従来のA1R受容体アゴニスト
と異なり、新型の非プリン類のA1R受容体アゴニストである。ペオニフロリンは、関連の
動物実験によって、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患に対して治療と予防効果を有することが確認された。さらに研究を進めたところ、その心臓血管への副作用が小さく、臨床応用の価値を持っていることも確認され、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防において応用できると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施例]
【実施例1】
【0024】
ペオニフロリンは一種の非プリン系A1受容体の選択性アゴニストである
1.1. ラットの大脳皮質シナプス膜の調製
ラットの断頭処置後、直ちに大脳皮質を分離し、冷生理食塩水に置いた。その後、1:15(W/V)の蔗糖溶液(0.32 mol/L)の中で充分にホモジネートして、遠心分離(1,000×g、10分間)を行い、上澄液を取ってから遠心分離(30,000×g、30分間)した。上澄液を
捨てた後、1:30(W/V)のTris-Hcl緩衝液(50 mM、PH 7.4)で再び懸濁沈殿し、ホモジ
ネート洗浄してから再び遠心分離した(48,000×g、10分間)。この洗浄手順を三回繰り
返した後、もう一度1:5(W/V)のTris-Hcl緩衝液(50 mM、PH 7.4)で再び懸濁沈殿し、小分けして−80℃で保存した。また、Bradford法により、蛋白質の濃度を測定し、前記の操作はすべて4℃で行なった。
1.2. リガンド―受容体の競争結合
A1R とA2aR受容体混合型アゴニスト[3H]-NECA(NEN; 15.3 Ci/mmol=0.57 TBq/mmol)、及びA1R受容体選択性アゴニスト[3H]-CCPA(NEN; 30 Ci/mmol=2.9 PBq/ mol)を使用し、ペオニフロリンのA1R 、A2aR受容体との結合を分析した。反応系は200μLであり、その中、予備実験の薬物は5μLで、それぞれペオニフロリン、A1R選択性アゴニスト(CPA)とA2aR受容体選択性アゴニスト(CV-1808)であり、最終濃度は0, 10-10 から10-4 mol /Lま
でである。大脳皮質シナプス膜の懸濁液は20μLであり、25nmol/Lの[3H]-NECA或いは0.2nmol/Lの[3H]-CCPAは 20μLであり、分析用緩衝液(50 mmol/L Tris-HCl, 1 mmol EDTA, 0.5% BSA, pH 7.4)は155μLである。サンプルを25℃で3時間インキュベートした後、細胞収集器を用いて反応液をサッキングし、それにGF/Cろ過隔膜を通させ、反応を停止した。更にろ過の緩衝液(50 mmol/ L Tris-HCl, 0.1% BSA, pH 7.4)で三回ろ過隔膜を洗い流
した後、40℃で1時間乾燥させた。ろ過隔膜を密封袋に入れ、5mL のMicroScint 20を添加し、均質にした後密封して、放射活性の計数(Micro β, PerkinElmer)を行なった。統
計処理の結果は二つの部位競争モデルにより適合を行なった。
1.3. 実験の結果
ペオニフロリンは、[3H]-CCPAと競争結合でき、それがEC50=19.8nMであり、同時に[3H]-NECAの競争結合に対して、典型な二つの部位競争特性(EC501=13.9nM、EC502=5.00μM)を持った。結果から、ペオニフロリンが同時にA1R及びA2AR受容体と結合でき、また高い
選択性(EC502/ EC501=360倍)を有し、低い濃度でA1Rと選択的に結合し、高い濃度でA2ARと結合することが示された。
【実施例2】
【0025】
脳卒中の予防と治療におけるペオニフロリンの応用
2.1. 動物モデル及び投与方法
可逆性ラットの中大脳動脈塞栓法を用い、それぞれ一時性と永久性の二つの局所脳虚血モデルを作った。腹腔から350mg ・ kg -1のクロラロースを注射して麻酔させ、右大腿動脈の挿管で血圧を監視し、36.5〜37.5℃の肛門体温を維持しながら、頸部から切開して、外頸動脈を分離し、電気凝固でその分枝動脈を切った上、遠端で結紮した。頸頭部が太鼓
のばち状を呈する4〜0番の単糸ナイロン線を取り、外頸動脈から内頸動脈を経て前大脳動脈に挿入して、中大脳動脈の始めるところを遮断すると同時に、大脳の前、後動脈と内頸動脈の副行血流も遮断した。一時性MCAOモデルグループは、1.5時間虚血してから上記の
線を抜き出し、さらに22.5時間灌流し、虚血後15分と6時間で、それぞれ生理食塩水(2 mL・ kg -1)、ペオニフロリン(2.5 mg・kg -1 , 5 mg・kg -1)を皮下注射した。永久性MCAOモデルグループは、その線を抜き出さないまま24時間連続的に虚血し、虚血後15分と6時間で、それぞれ生理食塩水(2 mL・ kg -1)、ペオニフロリン(2.5 mg・kg -1 , 5 mg・kg -1, 10 mg・kg -1)、及びDPCPX(2.5 mg・kg -1)+ペオニフロリン(10 mg・kg -1)
を皮下注射し、その中で虚血前15分に予めDPCPXを与えた。
2.2 指標の測定
2.2.1神経欠損の評価基準
Syderff神経欠損徴候の判別法により、総合等級の採点を行なった。前肢の曲がり、自
発回転及び他側の掻き刺激に対する反応の損失程度により、それぞれ0−2点(0=正常、2=厳重)で判定する。また、肢体の他側の回転するトルクも1つの単独指標として、0−2点(0=大きいトルク、2=小さいトルク)で判定する。そのため損傷の採点値は0−8の間である。
2.2.2 脳虚血の機能性酵素の組織化学染色―TTC染色
ラットの断頭処置後、直ちに大脳を取り出し、−20℃で15分間保存し、連続的に冠状切片(切片の厚さは2mm)を得た。脳の切片は1%TTC(PH7.2)に入れて染色し、37℃で10分間インキュベートしてから、染色液を除去して、4%ホルムアルデヒド溶液に固定させた
。デジタルカメラで写真を撮り、脳切片の皮質と皮質下の損傷区に対し、ピクセルスキャン(Adobe ImageReady 7.0)を行った。皮質の損傷区、皮質下の損傷区及び総損傷区が占めた面積のパーセンテージを計算し、更に、全脳の体積を参照して、皮質の損傷区、皮質下の損傷区及び総損傷区の体積を推算した。
2.3. 実験の結果
実験の結果から、ペオニフロリン(5mg.kg-1s.c.)は、顕著に一時性MCAOのラットの神経症状を改善でき、同時に虚血により引き起こされた大脳皮質下の核団と大脳皮質の損傷を著しく低下することが示された。ペオニフロリン(2.5, 5, 10 mg・kg -1s.c.)が虚血により引き起こされた大脳皮質下の核団と大脳皮質の損傷を低下する作用は、投与量に依存しており、且つこの作用は選択性A1R受容体の拮抗物質DPCPXに拮抗されることが可能である。ペオニフロリンは、A1R受容体を活性化することにより、神経保護効果を発揮し、
脳卒中及び後遺症の臨床治療と予防に使用可能なことが示唆された。
【実施例3】
【0026】
パーキンソン病の予防と治療におけるペオニフロリンの応用
3.1. 動物モデル及び投与方法
実験では20-25g雄のC57Bl/6Jマウスを使用した。実験開始前にマウスのさお登り時間を測定し、さお登り時間により無作為で5組に分け、8匹ずつ一組にした。連続11日間皮下注射でペオニフロリン(2.5 mg・kg -1 , 5 mg・kg -1)を投与し、実験の8日目2時間おき
に、N-メチルフェニルテトラヒドロピリジン(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydro-pyridine,MPTP)を腹腔から4回注射し(ip)、マウスのPDモデルを誘導した。投与方法は
以下のとおりである。
【0027】
【表1】

【0028】
3.2 指標の測定
3.2.1 さお登り法によるマウス運動能力の測定
マウスの頭を下向きにさせ、表面が荒い垂直の竿(長さ55cm、直径8mm)の上に置かれ
たマウスが竿から下に向いて、その四肢がすべて地面に接触するまでの時間を記録した。3.2.2 中脳黒質ドパミンニューロンの免疫蛍光染色―チロジンヒドロキシラーゼ(Tyrosine hydroxylase, TH)染色
心臓から4%のパラホルムを灌流して予備固定を行なった後、大脳を取り出し、4%のホルムアルデヒド溶液で1週間後固定をした。−20℃で連続的に冠状切片(切片の厚さは30m)した。チロジンヒドロキシラーゼ(Tyrosine hydroxylase,TH)をドパミンニューロン
の特異性標識とした。第一抗体は単クローンのマウスのTH抗体(1:1000, Sigma)であり
、第二抗体はAlexa fluor 488 蛍光標識のヤギ抗マウス(1:1000, Molecular Probes)である。蛍光顕微鏡(Olympus DP70)で写真を撮り、また黒質TH陽性細胞に対して計数した。
3.3. 実験の結果
ペオニフロリン(5mg.kg-1s.c.)は、MPTPにより引き起こされたドパミンニューロンの損失と運動機能の障害を拮抗でき、パーキンソン病の臨床治療と予防に使用できることを示唆している。
【実施例4】
【0029】
ペオニフロリンは覚醒ラットの血圧に影響しない
4.1 動物モデル及び投与方法
覚醒ラットを研究対象として、尾部センサーを用いて、圧力パルスを光電トライオードへ伝え、それに対応する血圧と心拍数に転換した。ラットが落ち着いた後、その血圧と心拍数を記録し、基礎値とした。その後尾静脈を通じて、それぞれ生理食塩水、ペオニフロリン(10, 40, 160mgkg-1)とレセルピン(reserpine)を注射した。
4.2 指標の測定
投与前 (0 min)と投与後 (5minから2hrまで)の血圧と心拍数の変化を記録した。
4.3. 実験の結果
実験で、ペオニフロリン(10, 40, 160mgkg-1, i.v.)は、ラットの血圧と心拍数に影
響しなかった。即ち、該化合物は、脳卒中及びパーキンソン病などの神経系疾患の治療と予防効果を発揮できる治療投与量の範囲内では、心臓血管への著しい副作用がないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1−1】図1.1は、それぞれ異なった濃度のペオニフロリン(PF)、CPA(選択性A1R受容体アゴニスト)とCV−1808(選択性A2AR受容体アゴニスト)を用い、ラット大脳皮質のシナプス膜上の[3H]-NECA(A1RとA2ARの混合型アゴニスト)の結合部位を拮抗することを示した図である。その結果から、ペオニフロリンは、投与量に依存し、ラット大脳皮質のシナプス膜上の [3H]-NECAの結合部位を拮抗し、また、二つの部位競争特性(EC501=13.9nM、EC502=5.00μM)を持つことが示された。
【図1−2】図1-2は、それぞれ異なった濃度のペオニフロリンを用い、ラット大脳皮質のシナプス膜上の[3H]-CCPA(選択性A1R受容体アゴニスト)の結合部位を拮抗することを示した図である。その結果から、ペオニフロリンは、投与量に依存し、ラット大脳皮質のシナプス膜上の[3H]-CCPAの結合部位を拮抗することが示された(EC50=19.8nM)。
【図2−1】図2-1(a)は、ペオニフロリン(2.5 mg・kg -1, 5 mg・kg -1)が一時性のMCACOラットの神経症状に対する改善効果を示した図である(n=6, *p<0.05, **p<0.01 vs Sal)。 図2-1(b)は、ペオニフロリン(2.5 mg・kg -1, 5 mg・kg -1)が一時性のMCACOラットの皮質下核団と皮質に対する保護作用を示した図である(n=6, *p<0.05, **p<0.01 vs Sal)。
【図2−2】図2-2は、ペオニフロリン(2.5 mg・kg -1, 5 mg・kg -1, 10 mg・kg -1 s.c.)が一時性のMCACOラットの皮質下核団と皮質を保護し、且つDPCPX (0.25 mg・kg -1 s.c.)がペオニフロリンの保護作用を阻害することを示した図である(n=6, * p<0.05, ** p<0.01 vs Sal; # p<0.05 vs ペオニフロリン10 mg・kg -1 s.c.)。
【図3−1】図3-1は、ペオニフロリン(PF)(2.5 mg・kg -1, 5 mg・kg -1 s.c.)が、MPTPにより引き起こされたマウスの運動弛緩に対する影響を示した図である。“control”はコントロールである。
【図3−2】図3-2は、ペオニフロリン(PF)(2.5 mg・kg -1, 5 mg・kg -1 s.c.)が、」MPTPにより引き起こされたドパミンニューロンの損失、及び線条体のドパミン神経繊維の減少に対する影響を示した図である。“control”はコントロールである。
【図4−1】図4-1は、ペオニフロリン(10, 40, 160mg kg-1, i.v.)が覚醒ラットの血圧に影響を与えない(n=6; * p<0.05, ** p<0.01)ことを示した図である。
【図4−2】図4-2は、ペオニフロリン(10, 40, 160mg kg-1, i.v.)が覚醒ラットの心拍数に影響を与えない(n=6; * p<0.05, ** p<0.01)ことを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キンポウゲ科植物の白い芍薬、赤い芍薬または牡丹の根の中から、抽出分離された以下の化学構造を持つペオニフロリンの医薬用途であって、
【化1】

非プリン系A1受容体選択性アゴニストとして、薬物中での用途を有することを特徴とするペオニフロリンの医薬用途。
【請求項2】
神経系疾患の治療と予防に用いる薬物の調製に使用されることを特徴とする請求項1に記載のペオニフロリンの医薬用途。
【請求項3】
脳卒中及び脳卒中の後遺症の治療と予防に用いる薬物の調製に使用されることを特徴とする請求項2に記載のペオニフロリンの医薬用途。
【請求項4】
パーキンソン病及びその関連神経退行性病変の治療と予防に用いる薬物の調製に使用されることを特徴とする請求項2に記載のペオニフロリンの医薬用途。


【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公表番号】特表2008−505128(P2008−505128A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519597(P2007−519597)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【国際出願番号】PCT/CN2005/000929
【国際公開番号】WO2006/002589
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506201884)中国科学院上海薬物研究所 (9)
【Fターム(参考)】