説明

ペプチドおよびタンパク質定量法

【課題】微量に含まれる特定のタンパク質やペプチドを、精度が高く、簡便に、しかも、高価な試薬を使用せずに定量することのできる測定方法を提供する。
【解決手段】
測定対象とするペプチド、タンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたペプチドやタンパク質を内部標準物質として、LC/MS/MSによりタンパク質、ペプチドを定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量に含まれる特定のタンパク質やペプチドを、精度が高く、簡便に、しかも、高価な試薬を使用せずに定量することのできる測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微量に含まれる測定試料中の特定のタンパク質を定量する方法としては、特定のタンパク質に対する抗体を用いたELISA等がある。しかし、抗体を調製するためには、抗原となるペプチドまたは、タンパク質を高純度に調製し、さらに動物に投与して、抗血清を調製しなければならず、大変手間がかかる。また、抗体は相同性の高いタンパク質とも反応する可能性があることから、特定のタンパク質だけを測定できているのか検証が必要である。
また、タンパク質は、熱変性等によって抗体との反応性が変化するため、食品のような殺菌加工されたものの中では、特定のタンパク質の測定を上記のELISAで測定しても正確なタンパク質含量を求めるのは不可能である。
【0003】
近年、目覚しく発達したタンパク質の定性的な解析法のひとつに高速液体クロマトグラムタンデム型質量分析装置(以下、LC/MS/MS)を使用した方法がある。多種類のタンパク質を含むサンプルを2次元電気泳動法などにより分離し、そのスポットを酵素処理などにより得られるペプチドをLC/MS/MS測定することによりタンパク質を同定する方法が開発されてきた。LC/MS/MSを用いると、従来、GC/MSでは必要であった誘導体化が不要なため、前処理の手間が軽減でき、またタンパク質やペプチドなどの高分子化合物を測定できるという利点がある。LC/MS/MSによりタンパク質を特定する方法としては、試料タンパク質から特定のタンパク質分解酵素によって生じるペプチド断片を1段目のMSにより、そのペプチドの質量を同定し、さらにそのペプチドをフラグメント化して2段目のMSを行うことで、そのペプチドのアミノ酸配列を予想し、すべてのペプチド予想配列をデータベースと照らし合わせることでタンパク質を同定することが可能となってきている。
【0004】
このLC/MS/MSを使用したタンパク質の定量法としては、目的とするペプチド中のアミノ酸を重水素ラベルし、これを測定する方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、この方法では、内部標準物質として重水素ラベルしたアミノ酸を用いているが、重水素ラベルしたアミノ酸は非常に高価であり希少であるため、これを用いてペプチド合成を行うには利用が限られてしまう。
また、LC/MS/MSを使用して、複雑な混合物中の動物由来のタンパク質を検出する方法が開示されているが(例えば、特許文献1参照。)、妨害物除去や低夾雑物レベルの維持などに特徴があり、しかも煩雑な操作を必要とする。
【0005】
微量に含まれる特定のタンパク質やペプチドを、精度が高く、簡便に、しかも、高価な試薬を使用せずに定量することのできる測定方法が求められている。
【特許文献1】特公表2005-513481号公報
【非特許文献1】David R. Barnidgeら, Analytical Chemistry , Vol. 75, No.3,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高価な試薬を使用せずに、簡便に、より精度の高いタンパク質やペプチドの定量を行なうことのできる測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、より精度の高いタンパク質やペプチドの定量を行なうことのできる測定方法を探索してきた。その結果、Aというタンパク質を測定する場合、まずタンパク質Aを酵素で分解し、Bというペプチドを得る。このペプチドBのアミノ酸配列を一部入れ替えて作ったCというペプチドを内部標準としてLC/MS/MSを用いて測定するという方法を見出した。また、測定試料中からタンパク質Aを分離後に酵素分解する場合には、分離操作による回収率補正のためにタンパク質Aの内部標準として、Aと類似の性質を示すタンパク質が必要となる。そのためタンパク質Aの配列Bの部分をCのペプチドに置き換えることによってタンパク質Aにより近くてAではないDというタンパク質が出来る。このタンパク質Dを内部標準にすれば、ペプチドBを測定するのにペプチドCを使うのと同じことが出来るという方法を見出した。
このようにして、本発明者らは、測定対象とするタンパク質の特定のペプチド中のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を一部入れ替えることにより、元のペプチドとほとんど性質を変えることがなく、この入れ替えたペプチドを内部標準物質として用いて、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質やペプチドの定量を行なうことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
測定対象とするタンパク質の特定のペプチド中のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えることにより、1段目のMSでは、測定対象とするタンパク質の特定のペプチドと内部標準ペプチドとが同じ分子量の物質として挙動し、2段目のMSによりアミノ酸配列の違いから二つを分離することができる。2段目のMSによるそれぞれのペプチドに由来するシグナル強度の比から、測定対象とするタンパク質の濃度を定量することができる。また、1段だけのMSに比べると、質量による選択が2段階になるので、測定の精度を上げることができる。また、2段目のMSにより、常にアミノ酸配列について情報を得ることも可能なので、特定のタンパク質だけを測定していることが確認できる。また、重水素ラベル化したアミノ酸を含むペプチドを内部標準とする従来技術の場合、1段目のMSで、目的のペプチドと内部標準のペプチドとを測定を切り替えながら行わなくてはいけないので、測定の精度が低下する。それに対して、本発明の方法は、目的のペプチドと内部標準のペプチドの分子量が同一なため、正確に測定することが可能となる。このように、本発明の方法は、アミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えるだけでよいので、分析方法が簡便であるばかりか、高価な試薬を使用することなく測定することができ、また、内部標準ペプチド作成には現行のペプチド合成装置を利用すればよく、従来の測定方法よりもコスト的にも優れている。
【0009】
また、遺伝子工学の発展により遺伝子レベルでの入れ替えを行えば、アミノ酸配列を入れ替えたタンパク質の調製は非常に簡単である。アミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたタンパク質を内部標準として用いることができれば、測定対象物との挙動は内部標準としてほぼ同一であると考えられるので、より精度の高い測定をすることができる。
本発明では、測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするペプチドを定量する方法であり、また、測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法であり、また、測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたタンパク質を内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法である。本発明では、測定に使用するトリプシンなどの酵素で切断されないアミノ酸重合体をペプチドと定義する。また、本発明では、酵素で切られるペプチド結合を含むアミノ酸重合体をタンパク質と定義する。
【0010】
したがって、本発明は、下記の構成からなる発明である。
(1)測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするペプチドを定量する方法。
(2)測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法。
(3)測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたタンパク質を内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法。
(4)測定対象とするタンパク質がウシラクトフェリン、ウシラクトパーオキシダーゼ、ウシアンジオジェニン、ウシシスタチンCのいずれか1種であるタンパク質を定量する方法。
【発明の効果】
【0011】
遺伝子レベルでの入れ替えを行えば、アミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたタンパク質やペプチドの調製は非常に簡単であり、測定対象物と内部標準としてアミノ酸配列を入れ替えたタンパク質やペプチドとの挙動は、ほぼ同一であると考えられるので、より精度の高い測定をすることができる。
また、1段だけのMSに比べると、本発明の方法は、質量による選択が2段階になるので、測定の精度と特異性を向上することができる。また、2段目のMSにより、常にアミノ酸配列について情報を得ることが可能であり、特定のタンパク質だけを測定していることを確認することができる。また、重水素ラベル化したアミノ酸を含むペプチドを内部標準とする従来技術の場合、2段目のMSで、目的のペプチドと内部標準のペプチドとを測定を切り替えながら行わなくてはいけないので、測定の精度が低下する。それに対して、本発明の方法は、目的のペプチドと内部標準のペプチドの質量が均一なため、正確に測定することが可能となる。このように、本発明の方法は、アミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えるだけでよいので、分析方法が簡便であるばかりか、高価で希少な試薬を使用することなく測定することができ、また、内部標準ペプチド作成には現存のペプチド合成装置を利用すればよく、従来の測定方法よりコスト的にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質としてLC/MS/MSにより測定対象とするペプチドを定量する方法であり、また、測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質としてLC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法であり、測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えたタンパク質を内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法である。
本発明の方法では、まず、測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定し、決定したペプチドを作製する。
【0013】
内部標準となるペプチドを決めるに当り、以下の条件を満たすものが適当である。
(1)タンパク質を酵素反応が可能な条件の変成剤で可溶化し、望ましくはトリプシンやリジルエンドペプチダーゼのような特定のアミノ酸に対して特異性の高いエンドペプチダーゼで分解して生成されるペプチドであること。
この理由は、特異性の低いペプチダーゼで分解した場合、測定試料が複合系であると、反応効率が変化して、測定対象とするペプチドの生成量が変化する場合も考えられるので、特異性の高いものを望ましいものとしたことによる。
【0014】
(2)前記(1)のペプチドのうち、LC/MSによりイオン化されるペプチドならばどれでも良い。望ましくは、LC/MSでディテクトした際に、切断したタンパク質のペプチドの中でイオン化効率が高くて、検出感度の高いものが良い。
この理由は、測定対象を最も検出感度の高いものとすると、次の(3)の条件を満たすものができない可能性があるため、検出できるペプチド全てを対象としたことによる。
【0015】
(3)さらに内部標準とするには、前記(2)のペプチドのアミノ酸配列の一部を入れ替えたものならばどれでも良い。望ましくは、LC/MSによる分離の際に、同じリテンションタイムで溶出されるペプチドが良い。
この理由は、リテンションタイムが違うもの、および全く別の物質を内部標準として測定する場合もあるため、必ずしもリテンションタイムが同じでなくても良いと思われるが、MS/MSに際してのイオン化およびフラグメント化が同時に行われるのが望ましいためである。
【0016】
以上の他に内部標準となるペプチドを決めるにあたり、以下の条件を満たすものが望ましい。
・リン酸化や、糖鎖による修飾を受けない。
・システイン(Cysteine)を含有しない。
・クロマトグラフィーで、開始および終了時点間際に溶出しない。
・多価イオンを生じにくい。
【0017】
さらに測定に際しては、次の注意点を満足させることが望ましい。
(A)測定対象となるタンパク質の一部の配列が前記(3)のペプチドと同じ配列をもつタンパク質を内部標準として用いて測定することがより望ましい。この理由は、複合系で測定する場合、しばしば抽出等の操作が必要となるものの100%回収ということは実際困難なため、一部配列を置き換えたタンパク質ならば分子量は均一であり、分離能に優れた電気泳動等での挙動もほぼ同一になるためである。なお、測定対象となるタンパク質と内部標準物質となるタンパク質は酵素処理等の影響が変わらないようにするとよい。
(B)測定する場合は、MS/MSで生成されるペプチドを対象とする。その際もなるべく検出感度が高いペプチドが良く、さらに対象とするペプチドと分子量の異なるものを測定対象とする。
【0018】
測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドを作製する。ペプチドの作製に当たっては、固相ペプチド合成法等、一般的な方法で調製できる。なお、Boc固相法(ABI 431A)、Fmoc固相法(ABI433A) などの既存のペプチド合成装置を利用すれば良い。ペプチドの合成方法もペプチド合成装置を用いる際に行なう通常の方法で良い。
【0019】
測定対象とするタンパク質の特定のペプチド中のアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えることにより、1段目のMSでは、測定対象とするタンパク質の特定のペプチドと内部標準ペプチドとが同じ分子量の物質として挙動し、2段目のMSによりアミノ酸配列の違いから二つを分離する。2段目のMSによるそれぞれのペプチドに由来するシグナル強度の比から、測定対象とするタンパク質の濃度を定量する。本発明で、LC/MS/MSによる定量は、次のように行なうが、これも、LC/MS/MSを用いる際の通常の方法であり、本発明の方法を行なうにあたって特別の操作方法をとるわけではない。
ペプチドの分離は、HPLCシステムを用いてグラジェント溶出させる。
ペプチドの分離は、カラム5μlペプチドトラップつきMAGIC C18 0.2mmID×50mmを用い、流速は2μL/minでMAGIC2002のHPLCシステムを用いて行った。これをA溶液:2%アセトニトリル−0.05%ギ酸、B溶液:90%アセトニトリル−0.05%ギ酸を用いて、B溶液を2%から65%まで20分間かけてグラジェント溶出させた。測定対照イオンは、ペアレントイオンがm/z 853.8、MS/MSターゲットイオンがm/z 876.4、内部標準ターゲットイオンがm/z 862.4であり、MS/MSのターゲットレンジは、860.9〜877.9で行った。MSにはLCQ Advantageを用いた。
【0020】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明について、より詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、実施例中に記載する内部標準ペプチドの中の下線を付したアミノ酸は、入れ替えたアミノ酸を示す。
また、実施例中に記載するSRM(selected reaction monitoring)は、LC/MS/MSより生成される2次イオンを対象として測定することを意味し、LC/MSにより生成される1次イオンを測定対象とするSIM(selected ion monitoring)に対する言葉と対をなすものである。
SRM ターゲット(SRM target)は、実際に測定対象としているペプチドのことであり、1回目のMSで、酵素で切り出されたペプチドが検出され、さらに2回目のMSを行うと電気的エネルギーによりペプチドがある長さのところで分かれる。そのペプチドを測定して値を求めている。SRM ターゲットの下線は、生成される2次イオンを対象として測定するアミノ酸配列部分を示す。
m/zは、実際にLC/MSの検出器で観測されるイオンの質量mを荷電数zで除した値である。ペプチドはMS計の中でそれぞれ電荷の状態が異なるが、実際のペプチド質量(分子量M)は、M = ((m/z)-1)*zとなる。なお、monoは天然で存在比率の最も高い同位体質量で組成式を計算して得られるモノアイソトピック質量(分子量)を示す。
【実施例1】
【0021】
(ウシラクトフェリン内部標準ペプチドの作製)
ウシラクトフェリンを定量するに当たり、ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドをペプチド合成装置(Fmoc固相法(ABI433A))で次の様に作製した。

・測定対象ペプチド(LFP01);MW 1305.645(mono); m/z 653.83 mono +2
Glu Thr Thr Val Phe Glu Asn Leu Pro Glu Lys
式(1)
SRMターゲット; m/z 876.4 mono +1
Glu Thr Thr Val Phe Glu Asn Leu Pro Glu Lys
式(1)
リテンションタイム(min)10.29
・内部標準ペプチド(LFP02); MW 1305.645(mono), m/z 653.83 mono +2
Glu Thr Thr Leu Phe Glu Asn Val Pro Glu Lys
式(2)
SRMターゲット; m/z 62.4 mono +1
Glu Thr Thr Leu Phe Glu Asn Val Pro Glu Lys
式(2)
リテンションタイム(min); 10.28
【実施例2】
【0022】
(ウシラクトパーオキシダーゼ内部標準ペプチドの作製1)
ウシラクトパーオキシダーゼを定量するに当たり、ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドをペプチド合成装置(Fmoc固相法(ABI433A))で次の様に作製した。
・測定対象ペプチド1; MW 1497.765 (mono)、 m/z 749.89mono +2
Ser Trp Glu Val Gly Cys Gly Ala Pro Val Pro
Leu Val Lys 式(3)
SRMターゲット;m/z 652.4 mono +1
Ser Trp Glu Val Gly Cys Gly Ala Pro Val Pro
Leu Val Lys 式(3)
リテンションタイム(min);12.10
内部標準ペプチド1
Ser Trp Glu Leu Gly Cys Gly Ala Pro Val Pro
Val Val Lys 式(4)
SRMターゲット;m/z 638.4 mono +1
Ser Trp Glu Leu Gly Cys Gly Ala Pro Val Pro
Val Val Lys
式(4)
リテンションタイム(min);12.15
【実施例3】
【0023】
(ウシラクトパーオキシダーゼ内部標準ペプチドの作製2)
ウシラクトパーオキシダーゼを定量するに当たり、ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドをペプチド合成装置(Fmoc固相法(ABI433A))で次の様に作製した。
測定対象ペプチド2; MW 1466.799 (mono)、 m/z 734.408mono +2
Ile His Gly Phe Asp Leu Ala Ala Ile Asn Leu
Gln Arg 式(5)
SRMターゲット; m/z 754.4mono +1
Ile His Gly Phe Asp Leu Ala Ala Ile Asn Leu
Gln Arg 式(5)
リテンションタイム(min);11.42
内部標準ペプチド2 ; MW 1466.799 (mono); m/z 734.408mono +2
Ile His Ala Phe Asp Leu Ala Gly Ile Asn Leu
Gln Arg 式(6)
SRMターゲット; m/z 768.4mono +1
Ile His Ala Phe Asp Leu Ala Gly Ile Asn Leu
Gln Arg 式(6)
リテンションタイム(min);11.36
【実施例4】
【0024】
(ウシアンジオジェニン内部標準ペプチドの作製)
ウシアンジオジェニンを定量するに当たり、ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドをペプチド合成装置(Fmoc固相法(ABI433A))で次の様に作製した。
測定対象ペプチド; MW 1534.757 (mono)、 m/z 768.386mono +2
Tyr Ile His Phe Leu Thr Glu His Tyr Asp Ala
Lys 式(7)
SRMターゲット;m/z 1122.6mono +1
Tyr Ile His Phe Leu Thr Glu His Tyr Asp Ala
Lys 式(7)
リテンションタイム(min);9.99
内部標準ペプチド; MW 1534.757 (mono); m/z 768.386mono +2,
Tyr Ala His Phe Leu Thr Glu His Tyr Asp Ile
Lys 式(8)
SRMターゲット;m/z 1164.6mono +1
Tyr Ala His Phe Leu Thr Glu His Tyr Asp Ile
Lys 式(8)
リテンションタイム(min);9.94
【実施例5】
【0025】
(ウシシスタチンC内部標準ペプチドの作製)
ウシシスタチンCを定量するに当たり、ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の結合順序を入れ替えた内部標準となるペプチドを決定した後、内部標準となるペプチドをペプチド合成装置(Fmoc固相法(ABI433A))で次の様に作製した。
測定対象ペプチド; 1825.903(mono)、 m/z 913.96 mono 2+
Gln Val Val Ser Gly Met Asn Tyr Phe Leu Asp
Val Glu Leu Gly Arg 式(9)
SRMターゲット;m/z 948.5 mono +1
Gln Val Val Ser Gly Met Asn Tyr Phe Leu Asp
Val Glu Leu Gly Arg 式(9)
リテンションタイム(min);11.60
内部標準ペプチド; MW 1825.903(mono)、 m/z 913.96 mono 2+,
Gln Gly Val Ser Gly Met Asn Tyr Phe Leu Asp
Val Glu Leu Val Arg 式(10)
SRMターゲット;m/z 990.6 mono +1
Gln Gly Val Ser Gly Met Asn Tyr Phe Leu Asp
Val Glu Leu Val Arg 式(10)
リテンションタイム(min);11.58
【実施例6】
【0026】
(ペプチドの定量)
実施例1のウシラクトフェリン測定対象ペプチド(LFP01)の濃度を0.25〜500fmol/uLの範囲で変化させ、ウシラクトフェリン内部標準ペプチド(LFP02)(10fmol/uL)を用いて検量線を作成した。測定方法はそれぞれのペプチドを各濃度になるように0.1%ギ酸、0.02%トリフルオロ酢酸(TFA)、2%アセトニトリル―水溶液に溶解し、各2uLをLC/MS/MSに供した。LC/MS/MSの条件は、ペプチドの分離は、カラム5μlペプチドトラップつきMAGIC C18(0.2mmID×50mm、Michrom Bioresources, Inc.,USA)を用い、流速は2μL/minでMAGIC2002のHPLCシステム(Michrom Bioresources,Inc.,USA)を用いて行った。これをA溶液:2%アセトニトリル−0.05%ギ酸、B溶液:90%アセトニトリル−0.05%ギ酸を用いて、B溶液を2%から65%まで20分間かけてグラジェント溶出させた。測定対象イオンは、MSイオンがm/z 653.8、MS/MSターゲットイオンがm/z 876.4、内部標準ターゲットイオンがm/z 862.4であり、MS/MSのターゲットレンジは860.9〜877.9で行った。MSにはLCQ Advantage(Thermo Electron Co.,USA)を用いた。得られたクロマトグラムから各ペプチドのピーク面積を求め、各ペプチドの面積の比率を求めた。各面積の比率を表1に示す。また、測定対象ペプチド(LFP01)と内部標準ペプチド(LFP02)の濃度比と、そのときの面積比を図1に示す。
【0027】
図1は、横軸に測定対象ペプチド(LFP01)と内部標準ペプチド(LFP02)のモル比を示し、縦軸にLC/MS/MSにより得た各ペプチドの比を示しているが、2000倍の範囲で直線性が保持されていた。また、傾きは、ほぼ1を示した。以上から、イオン化以降の反応で測定対象ペプチドと内部標準ペプチドが同一物質に近い挙動、すなわち、イオン化率やフラグメント生成率もほぼ一致していることが判明した。
【0028】
【表1】

【実施例7】
【0029】
(脱脂粉乳中ラクトフェリンの測定)
同一日に脱脂粉乳の秤量を5回行い測定試料とした。13〜15mg/mlの脱脂粉乳水溶液を調製し、これに1/1000量のギ酸を添加し、試料溶液とした。溶液10μlをドライアップ後8M尿素および1mMトリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)を含む0.1M重炭酸アンモニウム20μlに溶解し、56℃、30分間加温した。室温に戻した後、100mM ヨードアセトアミド溶液5μlを添加して、遮光下で30分反応させた。54μlの超純水を添加後、0.1μg/mlトリプシン10μlおよび0.1μg/mlリシルエンドペプチダーゼ10μlを添加し37℃、16時間反応させた。1μlのギ酸を添加して、反応を停止し、測定試料用ペプチド溶液とした。各試料溶液を10fmol/μlの内部標準ペプチド溶液(LFP02)(含0.1%ギ酸、0.02%トリフルオロ酢酸(TFA)、2%アセトニトリル)で6倍に希釈し、希釈した溶液2.5μlをLC/MS/MSにて分析を行った。
【0030】
得られたクロマトグラムから各ペプチドのピーク面積を求め、各ペプチドの面積の比率を求めた。面積比より、図1の検量線から各ペプチドのモル比を求めた。LC/MS/MSで測定した際のLFP02の濃度は、10fmol/μlを5/6倍した値となり、脱脂乳サンプルは、酵素処理の過程で10倍に、内部標準溶液で6倍に希釈されることから、targetペプチドの濃度=各ペプチドのモル比×5/6×10×60となる。ラクトフェリンの分子量を80,000とした時、targetのモル濃度から、重量濃度が導かれる。計量した脱脂粉乳量から、脱脂粉乳中のラクトフェリン含量を求めることができた。測定結果を表2に示した。CVは、標準偏差(SD)を平均で割って%に直した変動係数であり、分析精度を表す。
表2に示されるように、CV値は約8.9%で満足できる変動率であった。
【0031】
[表2]
脱脂粉乳中ラクトフェリン分析
[ラクトフェリンmg/100g脱脂粉乳]
試験1
1 105.87
2 102.20
3 95.37
4 106.92
5 121.23
平均 106.3
標準偏差(SD) 9.5
分析精度(CV)% 8.9
【実施例8】
【0032】
(脱脂粉乳中ラクトフェリンの測定)
脱脂粉乳の秤量を5回行い測定試料とした。
実施例1のウシラクトフェリン内部標準ペプチド(LFP02)と同一の配列を含む変異型ウシラクトフェリンを作製した。この変異型ウシラクトフェリンを内部標準として対象とする脱脂粉乳中ラクトフェリンの測定を行った。
方法は、15〜16mg/mlの脱脂粉乳水溶液を調製し、1/1000量のギ酸を添加し、試料溶液とした。試料溶液10μlに30μg/ml変異型ウシラクトフェリン10μlを添加し、ドライアップ後8M尿素および1mM トリス(カルボキシエチル)フォスフィン(TCEP)を含む0.1M重炭酸アンモニウム20μlに溶解し、56℃30分間加温した。室温に戻した後、100mMヨードアセトアミド溶液5μlを添加して、遮光下で30分反応させた。54μlの超純水を添加後、0.1μg/mlトリプシン10μlおよび0.1μg/mlリシルエンドペプチダーゼ10μlを添加し37℃16時間反応させた。1μlのギ酸を添加して、反応を停止し、測定試料用ペプチド溶液とした。各試料溶液を0.1%ギ酸、0.02%トリフルオロ酢酸(TFA)、2%アセトニトリル―水溶液で10倍に希釈し、希釈した溶液2.5μlをLC/MS/MSにて分析を行った。
ペプチドの分離は、カラム5μlペプチドトラップつきMAGIC C18 0.2mmID×50mmを用い、流速は2μL/minでMAGIC2002のHPLCシステムを用いて行った。これをA溶液:2%アセトニトリル−0.05%ギ酸、B溶液:90%アセトニトリル−0.05%ギ酸を用いて、B溶液を2%から65%まで20分間かけてグラジェント溶出させた。測定対照イオンは、ペアレントイオンがm/z 853.8、MS/MSターゲットイオンがm/z 876.4、内部標準ターゲットイオンがm/z 862.4であり、MS/MSのターゲットレンジは、860.9〜877.9で行った。MSにはLCQ Advantageを用いた。
【0033】
得られたクロマトグラムから各ペプチドのピーク面積を求め、各ペプチドの面積の比率を求めた。面積比より図1の検量線から各ペプチドのモル比を求めた。変異型ウシラクトフェリンとウシラクトフェリンは分子量が同一であり、添加した変異型ウシラクトフェリンの濃度は、30μg/mlであることから、脱脂粉乳溶液中のラクトフェリン濃度=各ペプチドのモル比×30である。計量した脱脂粉乳量から、脱脂粉乳中のラクトフェリン含量が求めることができた。測定結果を表3に示した。
【0034】
[表3]
脱脂粉乳中ラクトフェリン分析 [ラクトフェリン mg/100g-脱脂粉乳]
試験 1

1 116.65
2 107.74
3 112.26
4 97.76
5 98.24
平均 106.5
標準偏差(SD) 8.4
分析精度(CV) % 7.9
【0035】
その結果、脱脂粉乳中のラクトフェリン含量は、106.5mg/100g-脱脂粉乳であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】測定対象ペプチド(LFP01)と内部標準ペプチド(LFP02)の濃度比とそのときの面積比を示す。(実施例6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象とするペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするペプチドを定量する方法。
【請求項2】
測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたペプチドを内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法。
【請求項3】
測定対象とするタンパク質のアミノ酸配列中のアミノ酸結合順序を入れ替えたタンパク質を内部標準物質として、LC/MS/MSにより測定対象とするタンパク質を定量する方法。
【請求項4】
測定対象とするタンパク質がウシラクトフェリン、ウシラクトパーオキシダーゼ、ウシアンジオジェニン、ウシシスタチンCのいずれか1種である請求項 1から3のいずれかに記載のタンパク質を定量する方法。



【図1】
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【公開番号】特開2008−164511(P2008−164511A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356161(P2006−356161)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】