説明

ペプチドを含むインテグリン結合モチーフと骨疾患の治療法

【課題】骨格系疾患の治療に有用なペプチドおよびその製剤を提供する。
【解決手段】10〜50 アミノ酸を含むペプチド配列を開示する。この配列は、RGD配列などのインテグリン結合モチーフ、グリコサミノグリカン結合モチーフ、およびカルシウム結合モチーフの少なくとも一つを含み、基質細胞外リン糖タンパク質のRGD配列に隣接する残りのアミノ酸を含むことを特徴とする。これらの配列は、注射用に製剤化することができるほか、練り歯磨きもしくは口内洗浄剤、または歯肉パッチ中に分散させることが可能であり、これを投与することで骨/歯の成長を促したり、および/または体内から尿中へのリン酸塩の過剰な喪失を抑えたりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、骨格系疾患の治療に有用なペプチドの分野、またより具体的にはペプチドおよびその製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨格組織および無機質代謝の障害が、数多くの健康上の大きな問題を世界的に生じていることは諸文献に詳しく記載されている。
【0003】
ヒトでは15〜40歳に最大骨量に達し、これは「ピーク骨量」と呼ばれる。ピーク骨量に至る年齢を迎えた後に、骨量は次第に減少し始め、骨の機械的強度はそれにしたがって低下してゆく。したがって、機械的強度があるレベルまで低下すると個体の骨折リスクは大きくなる。このような現象は、病因となるほど大きい場合には骨粗鬆症と呼ばれる。
【0004】
骨喪失が生じる速度には個人差があり、また特に性別によって異なる。女性における骨喪失の速度は閉経直後から加速する(図1参照)。これは、健康な骨代謝の維持に重要な役割を果たすホルモンの一種である利用可能なエストロゲンが大きく減少するためである。閉経後骨粗鬆症は、かなりの数の女性に影響を及ぼしていることから臨床上の大きな問題である。女性と男性の骨粗鬆症患者の比が3:1であることは特筆に値する。
【0005】
骨疾患の多くは、骨無機質の喪失、骨の脆弱化、および結果としての「病的骨折」と呼ばれる骨折の頻度および重症度の上昇を特徴とする。高齢者集団では、骨折者の多くが運動に障害があり、他の精神的機能および身体的機能の低下に至ることが少なからずあり、結果的に痴呆、筋力低下、および/または疲労の原因となることから社会的に大きな問題にもなっている。また、罹病および疼痛は、股関節または骨盤の骨折の結果として生じることがある肺塞栓症などの血栓症によりかなり増えている。
【0006】
米国だけで、2000年までに45歳以上の5,200人の女性が骨粗鬆症に罹患すると言われている。世界における骨粗鬆症人口は現在約2億人である。米国における病的骨折の年間発症率は約150万件である。骨粗鬆症患者のケアに必要な年間医療費は、米国で140億ドル、また世界で600億ドルに上ると推定されている。
【0007】
腎不全も、無機質代謝および骨格形成に関連する健康上の大きな問題であり、患者の数は急速に増えている。患者の腎機能は数年〜10年をかけて次第に低下してゆく。腎機能が健康なときのレベルの約4分の1になると、患者は慢性腎不全に分類される。また約6分の1になると透析を開始する必要があり、末期腎疾患(ESRD)と呼ばれる。慢性腎不全の患者では、カルシウムやリン酸塩などの重要な無機質の血清濃度が正常なホメオスタシスを失い、結果として骨格の奇形が生じる。これは腎性骨ジストロフィ(ROD)と呼ばれ、腎不全に起因する続発性骨粗鬆症である。RODも骨粗鬆症と同様に病的骨折を生じることがある。米国における末期腎疾患(ESRD)の有病率は急速に上昇しており、2000年には30万人に及ぶ勢いである。RODは多くのESRD患者に影響を及ぼしている。
【0008】
ぺージェット病、くる病、大理石骨病、副甲状腺機能亢進症などの、骨格組織および無機質代謝に影響する他のいくつかの疾患があり、多くの患者が罹患している。
【0009】
代謝的には、骨は活性の高い器官であり、骨吸収および骨形成が絶え間なく繰りかえされている(再構築)。骨吸収は、単球/マクロファージ系列の細胞から分化する溶骨細胞によって促進される。溶骨細胞が骨表面に付着し、酸および酵素を分泌して骨組織を破壊する。骨芽細胞は、破壊された骨組織に付着して、大半がカルシウムおよびリン酸塩により石灰化される骨基質タンパク質を分泌することで骨形成を促進する。骨芽細胞は分化して骨の細胞(骨細胞)となり、骨組織の一部となる。
【0010】
骨形成を加速させたり、骨吸収を低下させたりする多くの実験的アプローチが試みられている。例えば、BMP(骨形成因子)、TGFβ(トランスフォーミング成長因子β)、IGF(インスリン様成長因子)、および線維芽細胞成長因子(FGF)などの成長因子は、骨形成に強力な生物学的活性をもつことが知られている。特にBMP-2などのBMPの数種のサブファミリー分子は、硬組織に極めて強力な成長因子の一つとみなされている。しかし、これらの因子は、全身性骨疾患の治療薬として開発されていない。この理由は、いずれの成長因子も骨に選択的に輸送されないためであり、またBMPを始めとする数種の因子が軟組織を硬組織に変換してしまうためである。これは異所性石灰化と呼ばれ、全身的に使用される場合に無視できない副作用である。また骨の形成および再吸収の過程は極めて密接に関連しているので、骨形成の選択的な上昇、または骨吸収の選択的な抑制は極めて困難である。
【0011】
現在、骨喪失に有効な治療法が必要とされている。エストロゲン、カルシトニン、ビタミンD、フッ化物、イプリフラボン、ビスホスホネート、および他の数種の分子群などの治療薬は、満足のゆく治療手段とはなっていない(非特許文献1)。
【0012】
エストロゲン、およびその類似体は、閉経後骨粗鬆症の患者に投与されることが多い。エストロゲン補充療法では、閉経の直前、または更年期が開始した後にエストロゲンが投与される。しかし、ステロイドホルモンについてはたいていの場合、エストロゲンの長期使用が、乳癌を始めとする婦人科癌などの大きな副作用を生じている(非特許文献2)。
【0013】
甲状腺で作られる内因性ホルモンであるカルシトニンは、受容体を介して溶骨細胞に選択的に結合し、同細胞を不活性化する。溶骨細胞は骨組織を溶解する唯一の細胞なので、カルシトニンの結合は、溶骨細胞によって生じる骨の分解を抑制したり遅らせたりすることができる。しかし、溶骨細胞が同薬剤に比較的速やかに耐性を獲得することから、この生物学的機序は極めて短命である。したがって、カルシトニンの使用は有効な治療選択肢とはならない。
【0014】
フッ化物は、ヒトに投与された場合に骨量を増加させることが報告されている。しかし骨量が増加しても、機械的強度は高くならない。したがって、見かけ上の骨量が増加するにもかかわらず、骨折のリスクは変わらない(非特許文献3)。またフッ化物の投与は健康上のリスクが大きい。
【0015】
イプリフラボンは、一部の国々で骨粗鬆症の治療に使用されている。しかし、同化合物の実際の効力には疑問がもたれており、骨疾患の有用な治療薬として広く受け入れられてはいない。
【0016】
ビスホスホネートはピロリン酸の誘導体化合物である。合成には、2個のリン原子間に位置する酸素原子と炭素との置換、またさまざまな置換基による炭素の修飾が含まれる。ビスホスホネートは骨吸収を抑制することが知られているが、骨形成に及ぼす影響はほとんどない。またビスホスホネートは骨表面に付着して、同部位に長期にわたって留まることで、骨組織の代謝回転の長期低下をもたらす。骨組織は連続的に回転する必要があるので、代謝回転の低下は最終的に骨の劣化をまねく(非特許文献4、5)。
【0017】
上述の薬剤に関する別の大きな問題が、フッ化物およびイプリフラボンに関する例外事項であり、これらは経口投与に適しておらず、非経口的に投与しなければならない。骨障害は慢性であることが多く、長期の治療を要するので、治療薬は経口投与に適していることが望ましい。
【0018】
要約すると、骨喪失を予防または治療可能な治療薬の必要性は大きい。具体的には、骨吸収または軟組織に影響を及ぼすことなく骨形成を高め、および/または骨芽細胞の数を選択的に増やす新しい薬剤が極めて望ましい。
【0019】
骨格および無機質代謝に関する健康上の別の大きな問題が歯に関する問題である。米国だけで6,700万人が歯周疾患に罹患しており、治療に要する年間費用は2000年には約60億ドルに上ると推定されている。全人口の90%が人生のある時点でう蝕を生じると言われている。治療に要する年間費用は米国だけで500億ドルを上回る。
【0020】
う蝕は広くみられる疾患であり、小児および成人で発症する。一方、歯周疾患はほとんど成人、特に高齢者で発症する。多くの場合、患者の歯肉が炎症を起こして冒され、歯を支える歯槽骨が劣化する。歯根のコアを構成するセメント質も損なわれ、歯が抜け落ちることになる。歯の喪失の最も一般的な治療法の一つが歯科インプラントの使用である。人工インプラント(オッセオインテグレーテッド歯科インプラント)を歯が失われた空間に配置する。重症の場合は、義歯全体をインプラントで置換する。しかしインプラントは、歯槽骨上における固定が常に良好なわけではなく、緩んだり抜け落ちたりすることが多い。歯槽骨は、このような患者ではいくぶん損なわれているので、インプラントは常に歯槽骨によって良好に支持されるわけではない。歯槽骨が大きく損なわれている場合は自己骨移植が行われる。この場合、同じ患者の別の骨格組織から回収される骨移植片が、損傷を受けた歯槽領域に移植されることで硬組織が再生され、上顎洞が隆起する。このような治療は、生物学的適合性のある高価な材料、および/または高度の技術が必要なので、治療にかかる費用は通常極めて高い。
【0021】
う蝕は、口腔が酸性になることが原因であると考えられている。例えば、糖類は酸に変換されて歯の表面を溶かす。多くの場合、エナメル質および象牙質の一部のみが影響を受けるが、重症例の場合には損傷は歯髄腔に至り、激しい痛みを生じることがある。最も典型的な治療は、う蝕病変を金属や金属酸化物などの非分解性材料で埋める処置である。う蝕の治療は、歯科医師の用いる材料および技術によるところが大きく、これらは費用がかかることが多い。
【0022】
数種の治療薬が開発されて歯科領域で使用されているが、一般に抗炎症薬、鎮痛剤、抗生物質にとどまっている。歯周硬組織を直接改善する広く有効な治療薬はまだ開発されていない。
【0023】
無機質代謝における別の大きな臨床的問題が、身体からのリン酸(PO4)の過度の喪失または排泄である。リン酸塩は、あらゆる生物でさまざまな重要な役割を果たしている。脊椎動物ではリン酸塩は骨格の主要成分である。すべての動物において、リン酸塩は、ポリヌクレオチド鎖および細胞膜を構築する不可欠な成分である。糖およびヌクレオチドのリン酸化および脱リン酸化は、エネルギーの生成および消費における最も重要な反応であり、タンパク質、糖類、および脂質のリン酸化および脱リン酸化は細胞内のシグナル伝達に不可欠な反応である。したがって、リン酸塩が不足すると死に至る場合もある。
【0024】
哺乳類の体液中のリン酸塩濃度は、身体のすべての正常な生物学的機能を可能とする範囲に制御されている。腎臓は、身体のリン酸塩濃度を制御する最も重要な器官である。腎臓の糸球体は、リン酸塩を定常的に尿中に濾過し、近位尿細管は通常、濾過されたリン酸塩の約80%を再吸収する。この再吸収機能が損なわれると、過剰なリン酸塩が尿中に失われ、さまざまな臨床的問題が生じる。
【0025】
例えば腎移植患者の大半では、腎臓でのリン酸塩の過剰漏出がみられることがよく知られている。これは、移植された腎臓が、尿中のリン酸塩を循環系にわずかしか再吸収しないためである。移植腎の一部にみられる乏しい再吸収活性の理由は不明である。このため、栄養不良および続発性骨粗鬆症が患者に高頻度で生じることになる。この問題は、リン酸塩を体外から単に補給することでは対処できない。病理が不明の、同様の腎臓でのリン酸塩漏出は、小児医療で観察されることがあり、栄養障害や成長遅延などの転帰がみられる。
【0026】
循環性リン酸塩の不足に関連する健康上の問題はヒトに留まらない。乳牛には、乳の過剰産生により低リン酸塩血症(血中のリン酸塩濃度が過度に低下する状態)がみられることがある。これは乳の栄養の質に悪影響を及ぼすだけでなく、乳牛として使えなくなることがあることも意味する。これは酪農場では比較的一般的な問題である。
【0027】
歯槽骨および/または歯の再生を促す治療薬、象牙芽細胞/骨芽細胞の数を増やして活性を高めて歯組織形成の一助となる治療薬、および/または腎でのリン酸塩分泌を抑える治療薬が切実に求められていることは言うまでもない。
【非特許文献1】Gennariら、Drug Saf. (1994) 11(3):179〜95
【非特許文献2】Schneiderら、Int. J. Fertil. Menopausal Study (1995) 40(1):40〜53
【非特許文献3】Fratzlら、J. Bone Mineral Res. (1994) 9(10):1541〜1549
【非特許文献4】Lufkinら、Osteoporos. Int. (1994) 4(6):320〜322
【非特許文献5】Chapparelら、J. Bone Miner. Res. (1995) 10(1):112〜118
【発明の開示】
【0028】
発明の概要
骨の欠損または脆弱化に関連する状態の治療もしくは予防に有用な、および/または腎でのリン酸塩排泄を低下させる一群の化合物を開示する。これらの化合物は、10〜50個の単量体(例えばアミノ酸)ユニットを含むペプチドまたはその類似体である。このようなアミノ酸配列は、以下の一つまたは複数のモチーフを含む:インテグリン結合モチーフの配列、グリコサミノグリカン結合モチーフ;およびカルシウム結合モチーフ。アミノ酸は、D型またはL型の構造をとる。化合物に含まれる残りの単量体ユニット(前述のモチーフ以外の配列)はアミノ酸類似体の場合もある。モチーフがインテグリン結合モチーフの場合、残りの単量体ユニットは好ましくは天然のタンパク質である基質細胞外リン糖タンパク質中にRGD配列に近接するアミノ酸配列と実質的に同じ配列を有する天然のアミノ酸である(Roweら、Genomics (2000) 67:56〜68)。
【0029】
本発明の一つの局面は、一群のペプチド、および/またはペプチド類似体である。
【0030】
本発明の特徴は、本発明の化合物が、以下の一つまたは複数のモチーフを含むことである:インテグリン結合モチーフの配列;グリコサミノグリカン結合モチーフ;およびカルシウム結合モチーフ。アミノ酸はD型またはL型の構造をとりうる。
【0031】
本発明の利点は、本発明の化合物が骨格の成長を促すことである。
【0032】
本発明の別の利点は、本発明の化合物が、新しい骨格または歯の成長表面における骨芽細胞、またおそらくは象牙芽細胞の数を促進することである。
【0033】
本発明の別の利点は、本発明の化合物が、尿中へのリン酸塩(Pi)漏出の低下で示される、身体からのリン酸塩喪失を抑えることである。
【0034】
本発明の別の局面は、十分な濃度の本発明の化合物を含み、また歯根と歯肉の間にある空間の歯髄、または歯槽骨に投与して歯および/または歯槽骨の損傷を予防し、または損傷を受けた歯および/または歯槽骨の硬組織を再生させることが可能な治療に使用される製剤を提供することである。
【0035】
本発明の別の局面は、十分な濃度の本発明の化合物を含み、悪化がみられる領域における歯および/または歯槽骨の成長を促したり、またはこのような悪化を防いだりする練り歯磨きを提供することである。
【0036】
本発明のさらに別の局面は、十分な濃度の本発明の化合物を含み、悪化がみられる領域における歯および/または歯槽骨の成長を促したり、またはこのような悪化を防いだりする口内洗浄剤を提供することである。
【0037】
本発明のさらに別の局面は、十分量の本発明の化合物で被覆され、および/または本発明の化合物が含浸され、歯および/または歯槽骨への反復使用により、悪化がみられる領域における歯および/または歯槽骨の成長を促したり、または悪化を防いだりするデンタルフロスである。
【0038】
本発明の別の局面は、個体の歯肉組織に貼り付け、治療的有効量の本発明の化合物を含む小さな粘着性パッチである。このような化合物は、パッチから歯肉に緩やかに放出されることで、放出化合物が歯根ならびに歯槽骨、および/または顎骨に浸透することで、これらの骨の喪失を予防し、および/またはこれらの骨を再生する。
【0039】
本発明の目的の一つは、骨格系の骨喪失または歯科系の骨喪失を、本発明の任意の製剤/組成物の投与/外用によって治療したり予防したりする方法を提供することである。
【0040】
本発明の上記の目的および他の目的、利点、ならびに特徴は、以下に詳述する発明の詳細を読むことにより、当業者に明らかになると思われる。
【0041】
発明の詳細な説明
本発明のペプチド、類似体、製剤、および方法を記載するにあたり、本発明が、記載された特定の態様を限定しないことは明らかである。これらが変化するのは言うまでもない。また、本明細書で使用される用語が、特定の態様のみの説明を目的とし、添付の特許請求の範囲でのみ制限される本発明の範囲を限定する意図がないことは明らかである。
【0042】
値の範囲を記載する場合は、文中で明記しない限り、対象範囲の上限と下限の間にある、下限の10分の1までの個々の介在値も具体的に開示されていることは明らかである。記載範囲の任意の記載値、もしくは介在値の個々の小さい範囲、または記載範囲の他の任意の記載値もしくは介在値は本明細書に含まれる。このような狭い範囲の上限および下限は、範囲に独立に含まれたり除外されたりする場合がある。また、いずれかの限度、いずれでもない限度、または両方の限度がより狭い範囲に含まれる各範囲も、記載範囲における任意の特異的に除外される限度にしたがって本発明に含まれる。記載範囲が、一方または両方の限度を含む場合は、含まれる限度のいずれか、または両方を除く範囲も本発明に含まれる。
【0043】
特に明記した部分を除いて、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解される用語と同じ意味をもつ。本明細書に記載された方法および材料に類似の、または等価の方法および材料が、本発明の実施または検討に使用される場合があるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書で言及したすべての出版物は、引用する出版物に関連した方法および/または材料を開示および記載するために本明細書に参照として組み入れられる。
【0044】
本明細書、また添付した請求項に使用されているように、単数形の「一つの(a、an)」、および「その(the)」は、文中で特に断らない限り複数の対象を含むことを留意しなければならない。したがって例えば「一つのペプチド」という記述は複数のペプチドを意味し、「その方法」という記述は一つまたは複数の方法、および当技術分野において周知の同等のものを含む。その他の記述についても同様である。
【0045】
本明細書で言及された出版物は、開示目的でのみ本出願の出願日に先立って提供される。本明細書に記載された事項は、本発明が、先行発明により、それらの出版物を事前の日付にする権利を有することを了承したものとして制限されない。また出版日は、実際の出版日と異なる場合がある。これは別々に確認する必要がある場合がある。
【0046】
定義
「ペプチド」および「ペプチド化合物」という用語は、コードされたアミノ酸、またはコードされていないアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾されたアミノ酸、または誘導体化されたアミノ酸、L型もしくはD型のアミノ酸、修飾型ペプチドバックボーンを含むペプチド、およびアミノ酸類似体を含むペプチドを含む場合がある、約10〜約50アミノ酸のアミノ酸重合体を意味する用語として本明細書で互換的に用いられる。ペプチド化合物は以下の重合体の場合がある:(a)天然のアミノ酸残基;(b)非天然のアミノ酸残基、例えばN-置換グリシン、アミノ酸置換基など;または(c)天然および非天然のアミノ酸残基/置換基の両方。言い換えると、対象となるペプチド化合物はペプチドまたはペプトイドの場合がある。ペプトイド化合物およびその調製法は、参照として本明細書に組み入れられる国際公開公報第91/19735号に記載されている。
【0047】
「治療する(treat)」、「治療(treating)」、「治療(treatment)」などという表現は本明細書で互換的に用いられ、所望の薬理学的作用および/または生理学的作用を得ることを意味する。このような作用は、完全または部分的に疾患またはその症状を予防する際に予防的なものとなるほか、疾患に結びつけることができる疾患および/または副作用を部分的または完全に治癒する際に治療的なものとなる場合がある(例えばビタミンDの作用の促進)。本明細書で使用する「治療」という表現は、脊椎動物、特に哺乳類、また最も具体的にはヒトの疾患を治療する段階を含み、以下の段階を含む:
(a)対象疾患に罹患しやすい傾向があるが対象疾患であると未だ診断されていない被験体における疾患の発生を予防する段階;
(b)疾患を抑制する段階、すなわち疾患の進行を止める段階;または
(c)疾患を緩和する段階、すなわち疾患の改善を誘導する段階。
【0048】
本発明は特に、骨喪失がみられる患者、または骨喪失がみられることが予測される患者の治療を可能とするペプチドを対象とするので、特に骨喪失の作用を予防する段階、抑制する段階、または緩和する段階を対象とする。被験体は、骨成長の亢進、骨強度の増加、または当業者により骨に関連する疾患の治療に関して望ましいと一般に理解される他の特徴を含む多種多様な基準を元に測定可能な、治療的に検出可能で有益な作用が被験体にみられる場合に「治療」される。
【0049】
「抗体」という用語は、抗原に結合可能な免疫グロブリンタンパク質を意味する。本明細書で用いられる「抗体」という用語は、対象となる抗原または抗原断片に結合可能な抗体断片(例えばF(ab')2、Fab'、およびFab)を含むことを意図する。
【0050】
「特異的に結合する」という表現は、特定のペプチド、具体的には本発明のペプチドに対する、アビディティが高く、および/または親和性が高い抗体結合を意味する。特定の標的エピトープに対する抗体結合は、抗体と、ペプチド上の他のエピトープとの結合、または他のペプチド上の他のエピトープとの結合より強い。対象ペプチドに特異的に結合する抗体は、他のペプチドと弱いが検出可能なレベルで結合することができる(例えば対象ペプチドに対して10%またはそれ未満の結合)。このように弱い結合、またはバックグラウンドの結合は、対象ペプチドとの特異的な抗体結合と、例えば適切な対照を用いることで容易に識別することができる。
【0051】
「骨格の喪失」という用語は、骨格の重量、物質、もしくは基質、またはカルシウムやリン酸塩などの骨格成分が減少する状況、または骨が破壊耐性能力などに関して弱まる状態を意味する。
【0052】
「骨格」という用語は、骨および歯の両方を含む。同様に「骨格の」という表現は、骨および歯の両方を意味する。
【0053】
「骨粗鬆症」という用語は、骨量低下が関与する状況、すなわち何らかの原因によって生じる骨喪失または骨性物質が関与する状況を意味することを意図する。この疾患は特に、骨の脱塩、閉経後もしくは閉経期前後のエストロゲン量の減少、または神経損傷に起因する骨喪失を生じる。
【0054】
「被験体」、「個体」、「患者」、および「宿主」という用語は本明細書で互換的に用いられ、脊椎動物、特に哺乳類、また最も具体的にはヒトの被験体、家畜、および愛玩哺乳動物を含むことを意味する。
【0055】
ペプチド化合物
本発明のペプチド化合物は10〜50アミノ酸を含むペプチドである。アミノ酸は好ましくは、20種の天然のL型アミノ酸の一種である。しかし、アミノ酸類似体のようにD型アミノ酸が存在する場合がある。本発明のペプチドは、一つまたは複数の以下のアミノ酸配列モチーフを含む:RGD配列などのインテグリン結合モチーフ;グリコサミノグリカン結合モチーフ;およびカルシウム結合モチーフ。個々のアミノ酸は、L型またはD型のいずれかの状態で、しかし好ましくはL型の状態でペプチド中に存在する場合がある。本発明のペプチドは、そのC末端がアミド化される場合もされない場合もあるほか、N末端がカルボキシル化される場合もあればされない場合もある。本発明のペプチドは、SGDG配列(配列番号:41)などのグリコサミノグリカン結合モチーフをLイソ型またはDイソ型の状態で含む場合もあれば含まない場合もある。本発明の化合物は生物学的活性を特徴とする、すなわち骨格成長を促進すること、ならびに骨格成長の表面における骨芽細胞または象牙芽細胞の成長または動員を促進することをさらに特徴とする。
【0056】
本発明のペプチド化合物は、有効量が個体に投与された場合に以下の一つまたは複数の特徴を示す:(1)骨喪失の抑制;(2)骨量の増加;(3)骨強度の増加;(4)腎でのリン酸塩排泄の抑制;および(5)個体のリン酸塩喪失の抑制。
【0057】
本発明のペプチドの特異的な例は、7〜47残基のアミノ酸を、基質細胞外リン糖タンパク質の天然配列のRGD配列のいずれかの側に含む。したがって、以下の配列から抽出される配列を含み、太字で表したRGD配列を含む本発明のペプチドの例を以下に挙げる:

【0058】
末端配列としてRGD配列を含む本発明のペプチドの特異的な例を以下に挙げる:


【0059】
RGDを内部に含む本発明のペプチドの特異的な例を以下に挙げる:


【0060】
いくつかの態様では、本発明のペプチドはグリコサミノグリカン結合モチーフを含む。グリコサミノグリカン結合モチーフは、コンセンサス配列SGXG(配列番号:50;Xは任意のアミノ酸)を有する。いくつかの態様では、グリコサミノグリカン結合モチーフは配列SGDG(配列番号:41)を有する。
【0061】
他の態様では、本発明のペプチドはカルシウム結合モチーフを含む。いくつかの態様では、カルシウム結合モチーフは配列

を有する。また「カルシウム結合モチーフ」という表現は、配列番号:42と1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、7残基、または8残基のアミノ酸が異なるアミノ酸配列である。多くの態様で特に対象となるのは、配列番号:42のアミノ酸1位、3位、5位、7位、9位、および12位が保存されたモチーフである。したがっていくつかの態様では、本発明のペプチドはカルシウム結合モチーフとして配列

(Xは任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体)を含む。
【0062】
他の態様では、カルシウム結合モチーフは配列DX1X2X3X4X5X6X7X8X9X10X11X12を有する。この式で、
X1は任意のアミノ酸;
X2はD、N、もしくはS;
X3はI、L、V、F、Y、もしくはW;
X4はD、E、N、S、T、もしくはG;
X5はD、N、Q、G、H、R、もしくはK;
X6はG、もしくはP;
X7はL、I、V、M、C;
X8はD、E、N、Q、S、T、A、G、またはC;
X9およびX10はそれぞれ独立に任意のアミノ酸;
X11はD、もしくはE;また
X12はL、I、V、M、F、Y、もしくはWである。
【0063】
他の態様では、カルシウム結合モチーフは配列X1X2X3X4C(X5nC(X6mCX7X8X9X10X11X12X13X14Cを有する。この式でX1、X3、およびX4はそれぞれ独立にD、E、Q、またはNであり;
X2、X5、X6、X7、X9、X10、X11、X12、およびX14はそれぞれ独立に任意のアミノ酸であり;
nは3〜14であり;
mは3〜7であり;
X8はD、もしくはNであり;また
X13はF、もしくはYである。
【0064】
他の態様では、カルシウム結合モチーフは配列X1X2X3X4X5DX6X7X8X9X10X12X13X14X15X16X17X18X19X20X21を有する。この式でX1およびX2はそれぞれ独立にL、I、V、M、F、Y、またはWであり;
X3、X4、X6、X7、X8、X10、X11、X12、X15、X18、およびX19は独立に任意のアミノ酸であり;
X5はL、またはKであり;
X9はD、またはNであり;
X13はD、N、S、またはGであり;
X14はF、またはYであり;
X16はE、またはSであり;
X17はF、Y、V、またはCであり;
X20はL、I、V、M、F、またはSであり;
またX21はL、I、V、M、またはFである。
【0065】
他の態様では、カルシウム結合モチーフは配列DX1X2X3X4X5X6GX7DX8X9X10GGX11X12X13Dを有する、この式でX1、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X10、X11、X12、およびX13はそれぞれ独立に任意のアミノ酸であり、また
X2およびX9はそれぞれ独立にL、またはIである。
【0066】
カルシウム結合モチーフは当技術分野で周知であり、詳細に記載されている。これについては例えばシュプリンガー(Springer)ら(2000) Cell 102:275〜277;カワサキ(Kawasaki)およびクレツィンガー(Kretsinger)(1995) Protein Prof. 2:305〜490;モンクリーフ(Moncrief)ら(1990 J. Mol. Evol. 30:522〜562;ショーボー(Chauvaux)ら(1990) Biochem. J. 265:261〜265;バリロック(Bairoch)およびコックス(Cox)(1990) FEBS Lett. 269:454〜456;デイビス(Davis) (1990) New Biol. 2:410〜419;シェーファー(Schaefer)ら(1995) Genomics 25:638〜643;ならびにエコノム(Economou)ら(1990) EMBO J. 9:349〜354を参照されたい。任意の既知のカルシウム結合モチーフを、本発明のペプチド化合物に含めることができる。
【0067】
本発明のペプチドは、インテグリン結合モチーフ、グリコサミノグリカン結合モチーフ、およびカルシウム結合モチーフの一つまたは複数を含む場合がある。これらのモチーフは、ペプチド内に相互に任意の順序で存在する場合がある。またモチーフは相互に、1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、7残基、8残基、9残基、10残基、またはそれ以上のアミノ酸を間に挟む場合がある。また、あるモチーフが一つまたは複数の他のモチーフと重複する場合がある。一つの非制限的な例では、配列

を有するペプチドは相互に重複する3種すべてのモチーフを含む。
【0068】
上記配列のすべてまたは任意のアミノ酸はD型またはL型の構造をとる場合があり、同等の類似体で置換される場合がある。好ましい態様はL型構造の天然のアミノ酸を含む。
【0069】
すべて、または任意の上記配列は、C末端がアミド化されたりされなかったり、または他の様式で修飾されたりする場合があるほか、N末端がカルボキシル化されたりされなかったり、または他の様式で修飾されたりする場合がある。
【0070】
また、前述のペプチドの任意の多量体を提供する。多量体は、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体などを含む。したがって、長さが約10〜50アミノ酸の本発明のペプチドが介在性リンカーと選択的に多量体を形成し、対象となるペプチドが、2個、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上のコピーが直列に並んだものとなる。また2種またはそれ以上の異なる本発明のペプチドが互いに多量体化することで「ヘテロ多量体」を形成する場合がある。したがって例えば、ある多量体は、1〜10個のグリシン残基などのリンカー分子で選択的にペプチド結合により連結された第一のペプチドおよび第二のペプチドを含む場合がある。
【0071】
本発明のペプチド化合物は、例えば当技術分野で周知の手法である固相ペプチド合成法を含む任意の既知の方法で得られる。ペプチドを合成する方法は当技術分野で周知であり、多くの文献で詳述されている。これについては例えば「ペプチド合成の実際(The Practice of Peptide Synthesis)」、ボダンスキー(M. Bodanszky)およびボダンスキー(A. Bodanszky)編、(1994) Springer-Verlag;ならびにジョーンズ(Jones)、「ペプチドの化学合成(The Chemical Synthesis of Peptide)」(Clarendon Press、Oxford)(1994)を参照されたい。一般に、このような方法では、成長しつつあるペプチド鎖を結合させた固相に、活性化した単量体ユニットを連続的に付加してペプチドを作製する。参照として本明細書に組み入れられる開示の国際公開公報第94/06451号に記載されているように、固相合成におけるサブモノマーの使用も対象となる。
【0072】
固相合成の代わりに、本発明の対象ペプチド化合物を、ペプチド化合物をコードするポリヌクレオチドを含む発現系を発現させることで調製することができる。これについては任意の簡便な方法を使用することができる。この場合、使用される方法には、典型的には、対象ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子の調製、コード領域の発現用ベクターへの導入、宿主細胞のベクターによる形質転換、ならびに産物の発現および回収が含まれる。上述の各段階を達成するプロトコールは当技術分野で周知である。これについてはサンブルック(Sambrook)、フリッシュ(Fritsch)、およびマニアティス(Maniatis)、「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」(Cold Spring Harbor Press、 Inc.)(1989)を参照されたい。
【0073】
基質細胞外リン糖タンパク質は、骨軟化症を患者で生じたヒトの腫瘍からクローニングされており、特性が明らかにされている。腫瘍性低リン酸血症性骨軟化症(OHO)腫瘍と呼ばれる、この例示的なまれなタイプの腫瘍は、腎でのリン酸塩漏出、低リン酸塩血症(血清中のリン酸塩濃度が低下する状態)、低血清カルシトリオール(1,25-ビタミンD3)、および骨格石灰化の異常(骨軟化症)を生じることが知られている。OHO腫瘍の患者では、腫瘍を切除すると上記すべての症状が回復するので、OHO腫瘍から分泌される循環性のリン酸塩尿症因子が骨軟化症に重要な役割を果たしていると考えられている。基質細胞外リン糖タンパク質は、このようなリン酸塩尿症因子の候補の一つと考えられている(Roweら、Genomics (2000) 67:56〜68)。
【0074】
リン酸塩は、細胞に不可欠な多くの基礎的な過程および骨格の石灰化に中心的役割を果たしている。特に骨格の石灰化は、身体のリン酸塩およびカルシウムの調節に依存しており、またリン酸塩-カルシウムホメオスタシスが乱れると、骨の構造完全性に大きく波及することがある。腎臓では、リン酸塩は糸球体濾液中に受動的に失われ、ナトリウム(Na+)依存性のリン酸塩共輸送体を介して能動的に再吸収される。腸では、リン酸塩は食物から吸収される。ナトリウム(Na+)依存性のリン酸塩共輸送体は腸で発現することがわかっており、最近クローニングされた(Hilfiker、PNAS 95(24)(1998)、14564〜14569)。肝臓、皮膚、および腎臓は、ビタミンD3の、リン酸塩のバランスおよび骨格石灰化の維持に積極的な役割を果たす活性型代謝物であるカルシトリオールへの変換にかかわる。
【0075】
ビタミンDの欠乏は、小児でくる病の原因となり、また成人で骨軟化症の原因となる。いずれの状態も、骨格の基質である類骨が石灰化されないことを特徴とする。
【0076】
したがって、基質細胞外リン糖タンパク質による液性機能、例えば腎でのリン酸塩漏出、低リン酸塩血症(血清中のリン酸塩濃度が低下する状態)、低血清カルシトリオール(1,25-ビタミンD3)のいずれもが健康な骨格形成に有害に作用する。
【0077】
基質細胞外リン糖タンパク質は525アミノ酸からなり、短いN末端シグナル配列をもつ大型のポリペプチドである。したがって同分子は、産生細胞から体液中および循環系に分泌されている可能性が高い。525アミノ酸のうち、C末端に位置する23残基からなるアミノ酸モチーフは、オステオポンチン(OPN)、象牙質シアロリンタンパク質(DSPP)、象牙質基質タンパク質1(DMP1)、および骨シアロタンパク質II(IBSP)などの一群の骨-歯無機質の基質リン糖タンパク質に高度の類似性を示す。これらの骨-歯無機質基質リンタンパク質は、骨格石灰化に重要な役割を果たしていると考えられている。
【0078】
基質細胞外リン糖タンパク質に関する上述の観察にかかわらず、アミノ酸配列内に位置し、C末端配列から離れて位置し、他の骨-歯無機質基質リン糖タンパク質と高度の類似性を有するインテグリン結合モチーフを含む、より小さいペプチド配列は、極めて強力な骨格形成活性を示し、このような骨格形成表面における骨芽細胞の数を増殖させた。このような活性の力価は、線維芽細胞成長因子(FGF)の力価と等価であった。骨格に関する機能が損なわれている大きなタンパク質内に位置する小さなモチーフにおいて、強力な骨形成活性がみられたこと、また同モチーフが他の既知の骨-歯基質タンパク質に対して相同性を示す配列から離れて位置することは驚くべきことであった。
【0079】
別の驚くべき事実は、本発明の強力な骨格形成モチーフが、インテグリン結合モチーフ、具体的にはRGD配列を含むことであった。RGD配列を含む合成ペプチドが、ラット胎児の骨格石灰化器官培養系において骨形成および再吸収を抑制することが報告されている(Gronowiczら、Journal of Bone and Mineral Research 9(2):193〜201(1994))。これは、本発明の被験体の検討に使用されるものと極めて似た実験法である。
【0080】
また、小型の本発明のペプチドによって提供される骨格形成活性は、FGFなどの完全な成長因子と同程度に強力であった。
【0081】
治療法
本発明は、本発明のペプチド化合物を投与する段階を含む、骨格の骨喪失を抑える方法、腎でのリン酸塩漏出を抑える方法、骨量を増加させる方法、骨強度を高める方法、およびPi排泄を抑える方法を提供する。典型的には、本発明のペプチド化合物は、処置を必要とする個体へ輸送するための薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化される。
【0082】
本発明で用いられる、本発明のペプチド化合物の「有効量」は、適切な対照と比較したときに少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、または少なくとも約60%もしくはそれ以上の、骨喪失を抑える量、および/または骨強度を高める量、および/または骨量を増加させる量、および/またはリン酸塩喪失を抑える量、および/または腎でのリン酸塩排泄を抑える量である。実験動物の場合の適切な対照は、対象ペプチドが投与されていない動物、例えば溶媒を投与した動物、または無関係のペプチドを投与した動物である。ヒトの被験体の場合は、偽薬が投与されたヒト被験体、または本発明のペプチドが投与される前のヒト被験体である。
【0083】
いくつかの態様では、本発明のペプチド化合物の有効量は、腎でのリン酸塩排泄、したがって個体からのリン酸塩喪失を適切な対照と比較したときに少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、または少なくとも約60%もしくはそれ以上抑える量である。
【0084】
あるペプチドが、個体の骨喪失を抑えるか否か、および/または骨強度を高めるか否か、および/または骨量を増加させるか否か、および/またはリン酸塩の喪失を抑えるか否か、および/または腎からのリン酸塩排泄を抑えるか否かは、血清中および尿中のリン濃度(例えば比色アッセイ法を使用);血清および尿中のカルシウム濃度(例えば比色アッセイ法を使用);血清および尿中のクレアチニン濃度;骨の代謝回転マーカーの濃度(例えばデオキシピロジノリン(deoxypyrodinoline)およびオステオカルシン);骨密度(例えばインビボにおける骨密度測定を使用);骨の機械的強度の検討(例えば腰椎圧縮試験;大腿骨3点曲げ試験など);および他の方法を含むがこれらに限定されない、骨喪失の抑制、骨強度の増加、骨量の増加、リン酸塩喪失の抑制、および腎からのリン酸塩排泄の抑制の任意の一つまたは複数に関連する任意の既知のパラメータを測定する任意の既知のアッセイ法で決定することができる。以上の方法は、当技術分野で標準的な方法である。
【0085】
本発明の方法による治療に適した個体は、う蝕、骨粗鬆症、ぺージェット病、腎でのリン酸塩漏出、腎臓骨ジストロフィ、骨軟化症、他の原因による骨ジストロフィ、癌による骨溶解、骨折、および副甲状腺機能亢進症を含むがこれらに限定されない骨喪失、骨喪失に起因する疾患、または後遺症が骨喪失を含む障害のリスクがあると考えられる個体である。このような個体には、高齢者、閉経後の女性、腎移植のレシピエント、および前述の障害の任意の障害のみられる個体、またはそのリスクがある個体が含まれる。
【0086】
投与経路
本発明のペプチドは、インビボ法、エキソビボ法、ならびに全身投与経路、および局所投与経路を含む、任意の利用可能な方法、および薬剤輸送に適した経路で個体に投与される。
【0087】
従来の、また薬学的に許容される投与経路には、鼻腔内、筋肉内、気管内、皮下、皮内、局所投与、静脈内、直腸内、経鼻、経口、および他の非経口的投与経路などがある。投与経路は、望ましいならば組み合わせることができるほか、免疫調節性核酸分子、および/または免疫応答に及ぶ望ましい作用をふまえて調節することができる。本発明のペプチドは単回投与または複数回投与することができる。
【0088】
本発明のペプチドは、任意の利用可能な従来の方法、および従来の薬剤の輸送に適切な経路(全身経路または局所経路を含む)で被験体に投与することができる。一般に本発明で対象とされる投与経路は、経腸、非経口、または吸入による経路を含むが必ずしもこれらに限定されない。
【0089】
吸入投与以外の非経口投与経路には、局所、経皮、皮下、筋肉内、眼窩内、嚢内、髄腔内、胸骨内、および静脈内の経路、すなわち消化管を経由する以外の任意の投与経路などがあるが必ずしもこれらに限定されない。非経口投与を行うことで、本発明のペプチドの全身輸送または局所輸送に影響を与えることができる。全身に行き渡らせることが望ましい場合は、投与は典型的には、薬学的調製物の浸潤性または全身から吸収される局所的投与または粘膜投与とする。
【0090】
本発明のペプチドは腸から被験体に投与することもできる。経腸投与経路には、経口投与および経腸投与(例えば坐剤の使用)が含まれるが必ずしもこれらに限定されない。
【0091】
皮膚または粘膜を介する本発明のペプチドの投与法は、適切な薬学的調製物の局所投与、経皮伝達、注射、および表皮からの投与を含むが必ずしもこれらに限定されない。本発明のペプチドの輸送の対象には、本発明のペプチドを含むパッチもある。パッチは皮膚に貼り付けることができるほか、他の組織(例えば歯肉組織)に貼り付けることができる。経口投与に適した任意の既知のパッチ輸送系を使用することができる。これについては例えば米国特許第6,146,655号を参照されたい。
【0092】
本発明のペプチドは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を個体に投与することで個体に導入することもできる。「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」という用語は、任意の長さの重合体ヌクレオチドを意味する用語として本明細書で互換的に用いられる。このようなポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはこれらの類似体を含む場合がある。発現に関しては、発現カセットを使用することができる。発現ベクターは、コード領域が転写開始領域、および転写および翻訳の終結領域の転写制御下において機能的に連結される、誘導的または構成的とすることができる転写および翻訳の開始領域を提供する。このような制御領域は、対象ペプチドをコードする遺伝子に対して天然の場合もあれば、外因性の供給源に由来する場合もある。
【0093】
発現ベクターは一般に、プロモーター配列の近傍に位置して、異種タンパク質をコードする核酸配列の挿入を可能とする、利便性を考慮した制限酵素切断部位を有する。発現宿主において使用可能な選択マーカーを存在させることができる。発現ベクターを使用することで、外因性の融合ペプチドが、付加的な機能、すなわちタンパク質合成、安定性、特定の抗血清、酵素マーカー(例えばβ-ガラクトシダーゼなど)との反応性の上昇をもたらす融合タンパク質を産生することができる。
【0094】
発現カセットは、転写開始領域、対象遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含むように作製することができる。ベクターには、プラスミド;コスミド;ウイルスベクター;人工染色体(YACやBACなど);ミニ染色体などがあるがこれらに限定されない。ベクターに関しては例えば「分子生物学の簡単なプロトコール(Short Protocol in Molecular Biology)」、(1999) アウシュベル(F. Ausubel)ら編、Wiley & Sonsを含む当技術分野で周知の数多くの出版物に多くの記述がある。
【0095】
発現ベクターを使用して、対象ペプチドをコードする核酸分子を、個体の細胞に導入することができる。このようなベクターは一般に、プロモーター配列の近傍に位置する、利便性を考慮した制限酵素切断部位を有することで、核酸配列の挿入を可能としている。転写カセットは、転写開始領域、標的遺伝子またはその断片、および転写終結領域を含むように作製することができる。転写カセットは、例えばプラスミド;レトロウイルス(例えばレンチウイルス);アデノウイルスなどのさまざまなベクターに導入することができる。この場合、ベクターは細胞内に一過的に、または安定に、通常は少なくとも1日、より一般的には少なくとも約数日間〜数週間維持される。
【0096】
本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、ウイルス感染、マイクロインジェクション、またはベシクル融合を含む任意のいくつかの経路で宿主組織または宿主細胞に導入することができる。ファース(Furth)ら(1992)、Anal Biochem 205:365〜368に記載されているように、ジェット式注射を筋肉内投与に使用することもできる。金の微小発射体を発現ベクターで被覆して皮膚細胞に打ち込む手順について記載された文献(例えばTangら(1992)、Nature 356:152〜154を参照)に記載されているように、発現ベクターで金微粒子を被覆して、微粒子銃装置すなわち「遺伝子銃」を用いて皮内に輸送することができる。
【0097】
用量
用量は、達成すべき臨床上の目標に応じて変動するが、適切な用量範囲は、最大約1 μg、最大約1,000 μg、最大約10,000 μg、最大約25,000 μg、または約50,000 μgの本発明のペプチドを提供する範囲である。本発明のペプチドは、単回投与が可能であるほか、経時的に少量を複数回投与することもできる。あるいはペプチドの標的用量は、対象ペプチド投与直後の24〜48時間以内に採取した宿主血液試料中に約0.1〜1000 μM、約1〜500 μM、または約5〜250 μMとすることができる。
【0098】
骨喪失、骨強度、リン酸塩排泄、または他のパラメータに及ぼす作用は用量依存的に変動する場合がある。したがって、力価の規模を2倍に増強するためには、各単回用量の濃度を2倍にする。所望の治療目標を達成するためには高用量が必要な場合がある。したがって本発明は、複数回の投与によって、骨喪失、骨強度、リン酸塩排泄、または他のパラメータに影響を及ぼし、それを維持することを対象とする。複数の用量を投与する場合は、後続の用量を前回の投与から約16週以内、約12週以内、約8週以内、約6週以内、約4週以内、約2週以内、約1週以内、約5日以内、約72時間以内、約48時間以内、約24時間以内、約12時間以内、約8時間以内、約4時間以内、または約2時間以内またはそれ未満の期間以内に投与する。
【0099】
本開示で提供される説明に関して、臨床分野の当業者は、本発明によるペプチドの投与に関する適切なパラメータを熟知しているか、またはこのようなパラメータを容易に確かめることができる。
【0100】
製剤
一般にペプチドは、宿主輸送用の薬学的に許容される組成物中に調製される。本発明のペプチドとの使用に好ましい薬学的に許容される担体には、無菌性の水溶液または非水溶液、懸濁液、および乳濁液などがある。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある。水性担体には、水、アルコール/水溶液、乳濁液、または懸濁液(生理食塩水および緩衝用溶媒を含む)がある。非経口的な溶媒には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または不揮発性油などがある。静脈注射用の溶媒には、溶液、および栄養補充液、電解質補充液(例えばリンゲルデキストロース液を元にした溶液)などがある。本発明のペプチドを含む組成物は、当技術分野で周知の手段で凍結乾燥した後に、再構成して本発明に使用することもできる。また、リポソームを用いた輸送用の製剤、およびマイクロカプセル化されたペプチドを含む製剤も対象となる。
【0101】
一般に、このような薬学的組成物は、顆粒、錠剤、丸剤、座剤、カプセル、懸濁液、軟膏、ローションなどのさまざまな形状で調製することができる。本発明のペプチドの輸送が経口組織への投与の場合、いくつかの態様では、本発明のペプチドを、練り歯磨き、口内洗浄剤に製剤化することができるほか、デンタルフロスを被覆したり、デンタルフロスに含浸させることができる。製薬グレードの有機担体または無機担体、および/または経口使用および局所使用に適した希釈物を使用して、治療的に活性のある化合物を含む組成物を作製することができる。当技術分野で周知の希釈剤には、水性溶媒、植物油脂および動物油脂などがある。安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を変化させる塩類、または適切なpH値を保つ緩衝液、および経皮吸収促進剤を助剤として使用することができる。例えば抗病原体薬剤(例えば抗菌剤、抗細菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤など)、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスなどの保存剤および他の添加物も存在させることができる。
【0102】
本発明のペプチド化合物は、骨喪失を抑える他の任意の既知の薬剤とともに投与することができる。したがって併用療法が対象となる。本発明のペプチドとともに投与可能な他の薬剤は、エストロゲン、カルシトニン、ビタミンD、フッ化物、イプリフラボン、およびビスホスホネートを含むがこれらに限定されない。本発明のペプチドは、骨喪失を抑える別の薬剤と同時に(例えば混合したり、または別個の製剤として)投与することができるほか、骨喪失を抑える別の薬剤の約15分以内、約30分以内、約60分以内、約2時間以内、約5時間以内、約10時間以内、約12時間以内、約24時間以内、約36時間以内、約4日以内、約7日以内、またはそれ以上の期間以内に投与することができる。また、本発明の2種またはそれ以上のペプチドを同時に、または約15分以内、約30分以内、約60分以内、約2時間以内、約5時間以内、約10時間以内、約12時間以内、約24時間以内、約36時間以内、約4日以内、約7日以内、もしくはそれ以上の期間以内に相互に投与することができる。
【実施例】
【0103】
以下の実施例は、本発明の作製法および使用法を完全に開示して記載するために当業者に提供するために記載するものであって、発明者がその発明とみなす範囲を制限する意図はなく、下記に示す実験が実施されたすべてまたは唯一の実験であるという意図もない。使用された数値(例えば量や温度など)に関しては正確を期すよう努力したが、ある程度の実験誤差および偏差は考慮されねばならない。特に示された部分を除き、割合は重量の割合を、分子量は重量平均分子量を、温度は摂氏を、また圧力はほぼ大気圧である。
【0104】
実施例1
D-00001などの合成
6種の異なるペプチドを9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)法によりマニュアルで合成し、C末端をアミド型に調製した。6種のペプチドを以下に示す:

【0105】
アミノ酸誘導体および樹脂は、ベーカム(Bachem, Inc.)、Torrance、CA.、およびノババイオケム(Novabiochem)、La Jolla、CA.から購入した。個々のアミノ酸は、4-(2',4'-ジメトキシフェニル-Fmoc-アミノメチル)-フェノキシ樹脂を用いて段階的にマニュアルで濃縮した。合成時の溶媒にはN-メチルピロリドンを使用した。濃縮にはジイソプロピルカルボジイミド/N-ヒドロキシベンゾトリアゾールを使用し、Nα-Fmoc基の脱保護には20% ピペリジン(溶媒:N-メチルピロリドン)を使用した。以下の側鎖保護基を使用した:AsnおよびGln、トリチル;Asp、Glu、Ser、およびThr、t-ブチル;Arg、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル;ならびにLys、t-ブトキシカルボニル。結果として得られた保護されたペプチド樹脂を脱保護し、トリフルオロ酢酸-チオアニソール-m-クレゾール-エタンジチオール-H2O(80:5:5:5:5、v/v)を用いて20℃で2時間かけて樹脂から切断した。結果として得られた粗ペプチドを沈殿させ、エチルエーテルで洗浄後に、逆相高速液体クロマトグラフィーで精製した(Vydac 5C18カラム、および0.1% トリフルオロ酢酸を含む水/アセトニトリル勾配を使用)。すべてのペプチドは(最初の樹脂に対して)5〜20%の収率で得られた。ペプチドの純度は、分析目的の高速液体クロマトグラフィーで確認した。ペプチドの組成は、サイエックス(Sciex)API IIIE三連四重極イオンスプレー質量分析計で確認した。
【0106】
実施例2
胎児マウスの頭蓋冠アッセイ法
試薬
FGF-1はペプロテック(Peprotech Inc.)(Rocky Hill、NJ)から購入した。RGD-1、2、3、4、5、および6(本明細書ではD-00001、D-00002、D-00003、D-00004、D-00005、およびD-00006と呼ぶ)は、ノミズ(Nomizu)博士(北海道大学、日本)から供与された。
【0107】
マウス
妊娠状態のICRマウスを日本エスエルシー株式会社(SLC Japan Co. Ltd.)(静岡、日本)から購入した。
【0108】
マウス頭蓋冠の器官培養
マウス頭蓋冠の器官培養は、マンディ(Mundy G)ら、Science 286:1946〜1949、1999、およびトライアネデス(Traianedes K)ら、Endocrinology 139:3178〜3184、1998に記載された手順で実施した。4日齢のマウスの頭蓋冠を切除し、矢状縫合に沿って半分に切断した。頭蓋冠のそれぞれ半分を、12ウェル組織培養皿中のステンレス製グリッド(Asahi Glass Techno Corp.、船橋市、日本)上に置いた。各ウェルには、0.1% ウシ血清アルブミン(Sigma)および各化合物を添加した1.5 mlのBGj培地(Sigma、St. Louis、MO)を含むようにした。マンディらの記載にしたがってFGF-1を正の対照として使用した。培地は1日目と4日目に交換し、アッセイは7日目に終了した。
【0109】
組織形態学的分析
頭蓋冠を10% 中性緩衝ホルマリンで固定し、4.13% EDTAで脱灰し、パラフィンに包埋した。4 mm厚の切片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。新しい骨領域をイメージ・プロ プラス(Image-Pro Plus)(Media Cybernetics、Silver Spring、MD)で測定した。
【0110】
実施例1の6種のペプチドを対象に、実施例2に記載された方法で実施された試験法で骨成長の促進能力を試験した。RGD配列を含まないペプチドは陽性結果を示さなかった。他の4種のペプチドは陽性結果を示し、最良の結果は以下の配列で得られた:

【0111】
最良の結果を図3に示す(特に図3Cおよび3D)。これらの結果から得られたデータを図4に図示する。
【0112】
実施例3
インビボにおける骨形成試験
試薬
FGF-1はペプロテック(Peprotech Inc.)(Rocky Hill、NJ)から購入した。RGD-6(本明細書ではD-00006と呼ぶ)はCSバイオ(CS Bio)(San Carlos、CA)により、発明者の指示にしたがって合成した。

【0113】
マウス
4週齢のマウスを日本エスエルシー株式会社(SLC Japan Co. Ltd.)(静岡、日本)から購入し、3群に無作為に割り付けた(n=5)。
【0114】
マウス頭蓋冠の成長アッセイ法
D-00006(20 μg/kg/日)、FGF-1(12.5 μg/kg/日)、または溶媒(生理食塩水)を、試験動物の皮下から、頭蓋冠に隣接する軟組織内に注射した。試料の1日量をそれぞれ2つに分け、1日2回、5日間にわたって注射を行った。最終投与から15日後に頭蓋冠を切除し、矢状縫合に沿って半分に切断し、組織形態学的分析に使用した。
【0115】
組織形態学的分析
頭蓋冠を10% 中性緩衝ホルマリンで固定し、4.13% EDTAで脱灰し、パラフィンに包埋した。4 mm厚の断片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。新しい骨領域をイメージ・プロ プラス(Image-Pro Plus)(Media Cybernetics、Silver Spring、MD)で測定した。
【0116】
結果
FGF-1を投与した動物に由来する頭蓋冠切片では、溶媒投与群と比較して骨領域が有意な拡大が認められた。D-00006を投与した動物に由来する切片でも、溶媒投与群と比較して骨領域の有意な拡大が認められ、効率はFGF-1と同等であった。これらの結果から得られたデータを図5に図示する。
【0117】
実施例4
D-00006が腎でのリン酸塩排泄に及ぼす影響
実験デザインおよび投与
40匹の3か月齢の処女雌SDラット(Harlan Sprague Dawley, Inc.)を1週間にわたって順化した後に実験を開始した。順化期間に続き、ラットを表1で概説された投与群に初期体重で無作為化した。Ovx:卵巣摘出;LD:低用量;HD:高用量;Est:エストラジオール;

【表1】

【0118】
投与開始の1日前にラットをケタミン/キシラジン麻酔混合液で麻酔し、第2〜5群を対象に卵巣を摘出した。
【0119】
41日目に代謝ケージ内で尿を採取した。化学検査用および骨代謝回転マーカーアッセイ法用に、血液および尿の試料を41日間の投与期間の終了時に採取した。尿および血液の採取に先立ち、ラットを代謝ケージに収容し、18時間にわたって一晩絶食させた。尿試料を採取し、その容量を測定した。次に尿試料を冷却遠心機で約3000×g で10分間遠心した。また、試料を濾過して混入物を除いた。
【0120】
血清および尿の化学検査
総血清カルシウム濃度およびクレアチニン濃度は、血清カルシウムの若干の上昇を示したエストラジオール投与Ovx動物を除く全投与群で同じであった。D-00006投与群の血清中のリンには用量依存性の上昇が認められた。18時間かけて採取した総尿容量は全群で同じであった。得られた尿パラメータを図6に示す。
【0121】
18時間の尿採取のリンの総容量には、D-00006投与群で有意な減少がみられた。この結果、D-00006投与群では、リン酸塩のクリアランスが低く、尿細管でのリンの再吸収率が高かった。D-00006が、リンを体循環に保持する薬剤であることは明瞭であった。
【0122】
特定の態様に関して本発明を説明したが、本発明の真の意図および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を加えることができ、また同等物に置換されうることが当業者には理解されるべきである。さらに本発明の目的、精神、および意図に適合させるために、特定の状況、材料、組成物、プロセス、1つまたはそれ以上のプロセス段階、または段階に多くの修正が加えられる場合がある。これらすべての改変は、添付の特許請求の範囲に含まれることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】ヒトの骨量と骨年齢の関係を示すグラフである。
【図2】基質細胞外リン糖タンパク質の略図である。「A」領域は、本発明のペプチドとマッチする配列を含み、「B」領域は、オステオポンチン(OPN)、象牙質シアロリンタンパク質(DSPP)、象牙質基質タンパク質1(DMP1)、および骨シアロタンパク質II(IBSP)などの骨-歯系の基質リン糖タンパク質群と相同性が高いモチーフである。
【図3】対照(図3A)、線維芽細胞成長因子-1(FGF-1)(図3B)、ならびに2種の本発明のペプチド(D-00004およびD-00006、それぞれ図3Cおよび3D)の作用を示す(7日齢のマウスの頭蓋冠器官培養試験による)骨断面の写真である。
【図4】さまざまな化合物が頭蓋冠に及ぼす作用を比較したグラフである。
【図5】D-00006のインビボにおける作用を示すグラフである。
【図6】D-00006が尿中へのリン酸塩漏出に及ぼす作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列に約10〜約50アミノ酸を含むペプチド化合物であって、ペプチド化合物が骨成長を促し、各アミノ酸がD型またはL型構造をとることが可能であり、配列がインテグリン結合モチーフ、グリコサミノグリカン結合モチーフ、およびカルシウム結合モチーフからなる群より選択されるモチーフを含むペプチド化合物。
【請求項2】
インテグリン結合モチーフがRGD配列である、請求項1記載のペプチド化合物。
【請求項3】
グリコサミノグリカンモチーフが配列SGDGを有する、請求項1記載のペプチド化合物。
【請求項4】
カルシウム結合モチーフが配列

(Xが任意のアミノ酸)を有する、請求項1記載のペプチド化合物。
【請求項5】
カルシウム結合モチーフが配列

を有する、請求項4記載のペプチド化合物。
【請求項6】
請求項1記載のペプチドの多量体。
【請求項7】
担体;および請求項1記載の治療的有効量のペプチドを含む製剤。
【請求項8】
担体が生理食塩水であり、製剤が注射用である、請求項7記載の製剤。
【請求項9】
担体がペーストであり、製剤が練り歯磨きである、請求項7記載の製剤。
【請求項10】
担体が風味のついた水溶液であり、製剤が口内洗浄剤である、請求項7記載の製剤。
【請求項11】
請求項7記載の製剤を含む、化合物の経口投与用のパッチ。
【請求項12】
請求項1記載の有効量のペプチド化合物を個体に投与する段階を含む、骨喪失を抑える方法。
【請求項13】
請求項1記載の有効量のペプチド化合物を個体に投与する段階を含む、個体における腎でのリン酸塩排泄を抑える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−302673(P2007−302673A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128730(P2007−128730)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【分割の表示】特願2002−519497(P2002−519497)の分割
【原出願日】平成13年8月14日(2001.8.14)
【出願人】(502075928)アコロジックス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】