説明

ペリクル梱包用緩衝体および梱包方法

【課題】 本発明は、ペリクルの運搬中に輸送容器に生じる様々な振動、衝撃からペリクルおよびペリクルケースを防護し、それらの構成部品からの発塵を防止することにより、ペリクルを清浄な状態に保持したまま安全に運搬できるペリクル梱包用緩衝体およびこれを用いたペリクルの梱包方法を提供する。
【解決手段】 本発明のペリクル梱包用緩衝体1は、ペリクルの輸送容器内6で、ペリクルケース3の下面に配置する前記緩衝体1のペリクルケース3と接触する表面に凹凸2を設ける。この緩衝体1を用いたペリクルの梱包方法により、従来使用の平板状の緩衝体と比較して緩衝効果を大幅に高めることができるため、運搬時の振動、衝撃が減少し、ペリクルに異物が付着して汚染することがなく、清浄な状態を保って輸送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板あるいは液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用されるペリクル、特には液晶ディスプレイ製造に使用される大型のペリクルを対象とした梱包用緩衝体および梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの半導体デバイスあるいは液晶ディスプレイなどの製造においては、半導体ウエハーあるいは液晶用ガラス原板に光を照射してパターンを作製するが、その際に用いるフォトマスクあるいはレチクル(以下、フォトマスクという)にゴミが付着していると、このゴミが光を遮ったり、曲げたりしてしまうために、転写パターンが損なわれる。
【0003】
そのため、これらの作業は、通常、クリーンルーム内で行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しいため、フォトマスク表面にゴミよけとして、ペリクルを貼付する方法が採られている。
この場合、異物はフォトマスクの表面上には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
しかしながら、ペリクルには、マスクに貼付した後では、それらが形成する閉空間の外部から内部への異物侵入防止効果はあるが、ペリクル自体に異物が付着していて、かつそれが閉空間の内部にある場合には、フォトマスク表面への異物付着を防ぐことは困難である。
そこで、ペリクル自体に高い清浄性が求められることはもとより、保管、運搬に使用するペリクルの輸送容器にも、その清浄性を維持し得る性能が強く求められる。
【0005】
運搬中にペリクルの清浄性が損なわれる原因としては、ペリクルとそれを収納したペリクルケースの接触による発塵、ペリクルケースの蓋とトレイの擦れによる発塵および外力によるペリクルケースの変形に伴う異物侵入などが挙げられる。
したがって、ペリクルの運搬に用いられる輸送容器は、ペリクルおよびそれを収納したペリクルケースに振動や衝撃がかからないよう緩衝性を有し、なおかつ、ペリクルケースにかかる外力を防ぐ構造が要求される。
【0006】
従来、ペリクルを収納したペリクルケースの運搬に使用される輸送容器は、図4に示すように、輸送容器の底面に配置した平板状の緩衝体11上にペリクルケース12を載置していた。
もちろん、底面以外からの衝撃を防ぐために、ペリクルケース12の側面や上面にも側面用緩衝体13、上面用緩衝体14を配置しているが、輸送中の振動、衝撃は主として底面の緩衝体11が吸収していることになる。
そして、複数のペリクルケースを同一梱包に収納する場合には、例えば、前記緩衝体をペリクルケースの高さよりも深い平底の凹み形状として、その内部にペリクルケースを収納し、これを積み重ねて複数収納するといった方法が採られていた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−75428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した平板状の緩衝体は、適切な硬度のものを選択すれば、一辺が200mm程度の半導体用のペリクルケースや、液晶用であっても一辺が300mm程度の小型のペリクルケースの場合には実用に耐えうる衝撃吸収効果が得られていた。
しかし、近年、液晶用で用いられている一辺が500mmを超えるような大型のペリクルのペリクルケースに使用する場合には、如何に硬度の低いものを選択しても充分な衝撃吸収効果が得られず、運搬後にペリクルが損傷したり、汚染される場合があることが判明した。
【0008】
本発明の目的は、ペリクル、特にはペリクルケースの一辺が500mmを越えるような大型のペリクルの運搬中に輸送容器に生じる様々な振動、衝撃からペリクルおよびペリクルケースを防護し、それらの構成部品からの発塵を防止することにより、ペリクルを清浄な状態に保持したまま安全に運搬できるペリクル梱包用緩衝体およびこれを用いたペリクルの梱包方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のペリクル梱包用緩衝体は、ペリクルケースと接触する表面に凹凸を設けたことを特徴とする(請求項1)。前記個々の凹凸の高低差は、凹部または凸部の最大幅の0.5倍以上で、なおかつ20mm以上であると良い(請求項3)。さらに、この緩衝体において、ペリクルケースを載せた際の接触面積は、ペリクルケース底面全面積の30%以上70%以下であることが好ましい(請求項4)。
【0010】
本発明のペリクルの梱包方法は、輸送容器の内部底面に前記したペリクル梱包用緩衝体を配し、さらに全ての内部側面に厚さ20mm以上の緩衝体を配し、各緩衝体に囲まれた内部空間にペリクルケースを収容することを特徴とする(請求項5)。また、この梱包方法において、収容されたペリクルケースの上面に接触しない高さに緩衝材とは異なる材質の平板を配し、その上部に同様の構成にて各緩衝体を配置することで複数のペリクルケースを段積み収容すれば(請求項6)、ペリクルケース上面に荷重を掛けずに複数のペリクルケースを一つの輸送容器に収納することができる。
そして、平板はペリクルケース側面に配置される緩衝体の上面により支持されること(請求項7)とすれば、平板を支持するための特別な機構を輸送容器に設ける必要が無い。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペリクル梱包用緩衝体およびこれを用いた梱包方法によれば、大型のペリクルの保管、運搬時の振動、衝撃からペリクルを保護することができるため、ペリクルに異物が付着して汚染することがなく、清浄な状態を保って保管、運搬することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明者らは、輸送容器内に入れるペリクルケースが大型化し、ペリクルケースの底面と緩衝体との接触面積が大きくなると、ペリクル梱包用緩衝体がペリクルケースから受ける単位面積当たりの荷重が減少することに加え、緩衝体横方向の相互干渉により変位量が抑制されて所定の緩衝能力が発揮されなくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
以下、本発明について、添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明のペリクル梱包用緩衝体を用いて輸送容器にペリクルを収納した状態を示す模式的な断面図であり、図2は本発明のペリクル梱包用緩衝体の一例を示す模式的な斜視図である。
【0014】
図1、図2に示すように、本発明のペリクル梱包用緩衝体(以下、単に緩衝体という)1は、表面に凹凸2を設けた構成であり、ペリクル(図示しない)を収納したペリクルケース3を輸送容器に収納するに際し、ペリクルケース3の底面に緩衝体1の凹凸2を設けた表面が当接するように配置する。
【0015】
この緩衝体1の表面に設けられた凹凸2は、緩衝効果および発塵の少なさから、図2に示すように円錐形の凸部2を多数配置した形状、もしくはこれら凸部2同士の間隙に逆向き同形状の凹部を設けた形状とすることが好ましいが、この形状および配置は、緩衝能力や製造方法を適切に吟味すれば、他の形状とすることもできる。
【0016】
これらの形状、配置の例としては、図3(a)四角錐形状、図3(b)四角柱形状、図3(c)三角形断面の直線状配置、図3(d)矩形断面の直線状配置などが挙げられる。そして、これらはそれぞれ図示したような密集配置でなく、点在配置としても良い。
このとき、この個々の凹凸の高低差(図2中h)は、凹または凸部の最大幅(図2中w)の0.5倍以上とすることが好ましい。これ以下では緩衝能力が低下し、凹凸を付けた効果が少なくなる。また、この個々の凹凸の高低差hは20mm以上とすることが良い。20mm未満では所望の緩衝能力が得られないためで、特に好ましくは30mm以上である。
【0017】
さらに、ペリクルケースを載せた際の緩衝体の凸部接触面積の総和はペリクルケース底面全面積の30%以上70%以下であることが好ましい。
これが30%よりも少ない場合は、ペリクルケースの重量が掛かっているにもかかわらず凸部があまり変形していない状態、すなわち緩衝体の硬度がペリクルケース重量に対して硬すぎることを示し、実際に衝撃がかかった際にも所望の緩衝効果が得られないおそれがある。
反対に70%よりも大きいと、凸部は既にかなりの高さまで潰れていてそれ以上の変形が期待できないことになり、これもまた十分な緩衝効果が得られないおそれがある。
【0018】
以上のことから、緩衝体1に設ける凹凸2の形状、配置については、収納するペリクルケースの重量、面積に対して、上記の点を考慮して所望の緩衝効果が得られるように適宜決定することが必要である。
そして、緩衝体の材質は、ウレタン発泡体、ポリエチレン発泡体、ゴム発泡体、ラテックス発泡体などの発泡体から適宜選択することが良いが、適切な緩衝能力があれば良く、これらに限定されるものではない。
【0019】
以下、本発明による梱包方法において、輸送容器全体の構成について説明する。
図1に示すように、緩衝体1およびペリクルケース3の全ての側面には側面用緩衝体4、ペリクルケース3の上面には上面用緩衝体5が配置される。そして、その上にはペリクルケース3上面に接触しない高さに別のペリクルケースを段積みするための緩衝体とは異なる材質からなる平板7が配置される。
【0020】
この平板7上には下の段と同様の構成にして各緩衝体が配置され、上段のペリクルケースが収容される。この平板7とペリクルケースとの間隙には上面用緩衝体5が配置され、輸送中の衝撃でペリクルケース3が飛び跳ねて平板7にぶつからないように考慮されている。
そして、これら緩衝体1、4、5および平板7の最外殻には輸送容器6があり、その上部には天板8、その下部にはパレット9が配置される。そして、天板8、輸送容器6、パレット9の三つは複数本の結束バンド10で強固に締結される。
【0021】
側面用緩衝体4の厚みは側面衝突に備え、20mm以上とすることが好ましい。ペリクルケース3との接触面は緩衝体1と同様、凹凸を設けたものとしても良いが、通常、横方向には大きな衝撃が加わらないこと、およびペリクルケース3の側方面積は小さいため平板で当接しても十分な緩衝性が得られることから、通常、平板で良い。
平板7は側面用緩衝体4の上部に支持されるようにすることが望ましい。こうすれば、輸送容器6に平板支持部が不要となることに加え、側面用緩衝体4による緩衝効果が期待できる。
平板7は撓んで下段のペリクルケースに荷重を掛けないよう、十分な剛性を持つ必要があり、少なくとも10mm以上の厚みのある合板、強化ダンボール、プラスチック段ボール等が好ましい。
【0022】
上面用緩衝体5は、ペリクルケース3と平板7との間隙を埋めるものであれば良く、緩衝体1と同様な凹凸表面としても良いし、平面形状としても良い。ただし、平面形状とした場合は、ペリクルケース上面全体を覆ってはならず、その周囲を部分的に覆うだけにする。運搬中、事故により梱包容器が上下逆になった場合、ペリクルケースに多大な衝撃がかかるためである。
【0023】
天板8、輸送容器6、パレット9は十分な強度を持つ材質で構成されることが良く、プラスチック段ボール、強化段ボール、合板等の材質が好適に用いられる。
天板8は、上部に重量物を載せられた際にもペリクルケース3に外力を掛けないよう、特に剛性のある一体品を使用するのが望ましい。
結束バンド10はポリプロピレン製のものが一般的であるが、各構成部材の重量に応じて適宜選択することが良い。
【0024】
本発明のペリクル梱包用緩衝体およびこれを用いた梱包方法によれば、ペリクルの保管、運搬時の振動、衝撃からペリクルを保護することができるため、ペリクルに異物が付着して汚染することがなく、清浄な状態を保って運搬することができる。
また、上記したように、本発明は特に大型のペリクルに対して効果が大きいが、ケースの辺長が300mm以下の半導体用ペリクルや小型の液晶用ペリクルケースに対して適用しても、従来の平板状緩衝体を用いた輸送容器よりも優れた緩衝能力が期待できる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図2に示すような形状のウレタン発泡材からなる緩衝体を製作した。この緩衝体の大きさは、670×890mm、厚さ(底面−凸頂部)70mmとし、凸部の高さは35mmとした。
凸部は円錐形状で、基底(最大径)部の直径は約60mm、夫々の頂点の間隔も約60mmで緩衝体全面に隙間なく配列されている。また、この材料の硬度は、約13kgf(JIS
K 6400試験方法による)。
【0026】
この緩衝体1を図1に示すような輸送容器に配置し、その上に膜上の異物をチェックした清浄なペリクル(図示しない)を収納したペリクルケース3を載置した。
ペリクルケース3の大きさは、860×640×高さ50mm、ペリクルを含めた重量は約3kgである。側面用緩衝体4は幅80mm、長さ840mm、高さ200mmとし、ペリクルケース3の周囲に4個配置した。上面用緩衝体5は、ペリクルケース3の底面に配置した緩衝体1と同一のものを上下逆に、すなわち凹凸面がペリクルケース3の上面全面に接触するように配置した。
【0027】
側面用緩衝体4の上部には強化段ボール(厚さ約10mm)製の平板7を載置し、その上に全く同じ構成にて別のペリクルケースを収納し、輸送容器全体としては合計三個のペリクルケースを収納する構造とした。
また、外側の輸送容器6は強化段ボール(厚さ約10mm)、天板8は強化段ボール(厚さ約15mm)、パレット9も強化段ボール製(上下板の厚さ約15mm)とした。これらを締結する結束バンド10はポリプロピレン製とし、井桁状に4本のバンドで強固に締結した。
【0028】
また、ペリクルケースにかかる衝撃を測定するため、梱包した各ペリクルケースの上面には粘着テープにてショックセンサー(富士フィルム製)を強固に取付けておいた。
この輸送容器の性能を評価するために、実際の輸送テストに替えて空中からの落下試験を行った。この輸送容器全体を高さ1.1mに吊り上げ、底面全体が同時に着地するように自由落下させた後、直ちに開梱してペリクルを取出し、クリーンルーム内の暗室で膜上の異物数をチェックした。
【0029】
その結果、収納していた三枚のペリクルのうち二枚は異物の増加が全く見られず、残り一枚は20μm程度の異物2個が付着していたがこれはエアブローにて容易に除去することができた。また、ショックセンサーの値はいずれのペリクルケースにおいても20G以下であった。
【0030】
[比較例]
上記実施例と全く同様の構造にして、緩衝体1の表面形状だけをフラットに変更したものについて、同様の実験を行った。その結果、収納していた三枚のペリクル全てにおいて、数μm〜100μm程度の異物が数百個付着しており、これは全く使用に耐えないものであった。また、ショックセンサーの値は約60Gを示していた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のペリクル梱包用緩衝体を用いた輸送容器にペリクルケースを収納した状態を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明のペリクル梱包用緩衝体の一例を示す模式的な斜視図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明のペリクル梱包用緩衝体の凹凸形状および配置の例を示す模式的な部分斜視図である。
【図4】従来の輸送容器の一例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ペリクル梱包用緩衝体
2 凹凸
3 ペリクルケース
4 側面用緩衝体
5 上面用緩衝体
6 輸送容器
7 平板
8 天板
9 パレット
10 結束バンド
11 平板状の緩衝体
12 ペリクルケース
13 側面用緩衝体
14 上面用緩衝体
15 輸送容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルの保管、運搬に際して、ペリクルケースの下面に配置する緩衝体において、ペリクルケースと接触する表面に凹凸を設けたことを特徴とするペリクル梱包用緩衝体。
【請求項2】
個々の凹凸の高低差は、凹部または凸部の最大幅の0.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のペリクル梱包用緩衝体。
【請求項3】
個々の凹凸の高低差は20mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のペリクル梱包用緩衝体。
【請求項4】
ペリクルケースを載せた際の接触面積がペリクルケース底面全面積の30%以上70%以下であることを特徴とする請求項1ないし3に記載のペリクル梱包用緩衝体。
【請求項5】
輸送容器の内部底面に上記請求項1ないし4の何れかに記載のペリクル梱包用緩衝体を配し、さらに全ての内部側面に厚さ20mm以上の緩衝体を配し、各緩衝体に囲まれた内部空間にペリクルケースを収容することを特徴とするペリクルの梱包方法。
【請求項6】
上記請求項5に記載のペリクルの梱包方法において、収容されたペリクルケースの上面に接触しない高さに緩衝体とは異なる材質の平板を配し、その上部に同様の構成にて各緩衝体を配置することで複数のペリクルケースを段積み収容することを特徴とするペリクルの梱包方法。
【請求項7】
平板はペリクルケース側面に配置される緩衝体の上面により支持されることを特徴とする請求項6に記載のペリクルの梱包方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−100733(P2008−100733A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285326(P2006−285326)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】