説明

ペルオキシジカーボネートの製造方法及びモノマーのラジカル重合におけるその使用

【課題】第1に、少なくとも一つの無機ペルオキシドを少なくとも一つのアルカリ金属ヒドロキシドと反応させて少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを製造することを含む、ペルオキシジカーボネートの製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを少なくとも一つのハロホルメート、少なくとも一つの分散剤及び水の混合物に添加する。全反応を通じて混合物を均一化してペルオキシジカーボネートを製造する。水性混合物中でペルオキシジカーボネートを1〜10μmの小滴として分散させる。エチレン系不飽和モノマーを含む重合反応槽に全混合物を添加する。ペルオキシジカーボネートはフリーラジカル開始剤として作用し、モノマーを重合させる。ペルオキシジカーボネートは有機溶媒及び可塑剤を実質的に含まない。得られたポリマーは高品質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
重合の分野、特にエチレン系不飽和モノマー、例えば塩化ビニルの重合において、フリーラジカルを生成する開始剤として使用することは、ペルオキシジカーボネートに関して重要である。ペルオキシジカーボネートは典型的には大きなバッチで製造され、原液のまま又は希釈生成物として純粋な形態で市販されている。ポリマーの製造業者は現在、重合工程で使用するために大量のペルオキシジカーボネートを貯蔵している。これらの材料は不安定で熱及び衝突による衝撃に敏感で、ある条件下で爆発の可能性があるので、これらの材料を貯蔵し、取り扱う場合には予防措置をとらなければならない。これらの材料を取り扱うための安全上の要件を全て満たすと、ポリマーの製造業者が利用するにはペルオキシジカーボネートは非常に高価になる。
【背景技術】
【0002】
この問題の種々の解決策が米国特許第4,359,427号で提案されており、その一つは重合の場所でペルオキシジカーボネートを連続して製造及び精製し、使用まで希釈した相で貯蔵する方法である。示唆されている他の解決策は、重合可能なモノマーを添加する前に大きな重合槽でペルオキシジカーボネートを製造することである。ペルオキシジカーボネートを大きな槽で製造することにより、製造されたポリマーについていくつかの理由により品質上の問題が生じた。その理由の一つは、大きな反応槽中では少量の反応物を適切に混合できないことである。混合が適切でないと、ペルオキシジカーボネートを製造する反応が効率的でなくなり生成するペルオキシジカーボネートの収量が変化し、ペルオキシジカーボネートを使用する重合反応の反応時間が変化する。容量を大きくするために希釈剤、例えば溶媒及び水を使用することが多い。これらの希釈剤を使用すると反応物の転換が少なくなりその結果大量の望ましくない副生物が生じ、これらの副生物が大きな反応槽中に残存して、反応槽中で最終的に生成するポリマーを汚染する。溶媒の希釈剤を使用すると除去しなければならない溶媒が存在し、これが未反応モノマーを回収する回収システムを汚染する。さらに、大きな重合槽中でペルオキシジカーボネートを製造すると生産性が低下し、それはポリマーの各バッチが生成される前にペルオキシジカーボネートの合成工程によって重合槽が占められるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
英国特許第1,484,675−A号は、反応物の適切な混合を得るために溶媒の存在下に重合槽の外部でペルオキシジカーボネートを製造することによって、この問題を解決することを提案している。この方法が望ましくないのは、溶媒の除去が必要なことであり、そうしないとそれは重合工程における汚染物となり、重合工程のモノマー回収システムを汚染する。
WO 97/27229は、重合反応槽の外部において二段階工程でペルオキシジカーボネートを製造し、水不溶性液体のジアルキルアルカンジカルボキシレートを添加することによってこの問題を解決することを提案している。ジアルキルアルカンジカルボキシレートは得られたポリマーの可塑剤であり、ポリマーの固体の適用にとって望ましくない。さらに二段階工程は取り扱いにくく余分な装置が必要である。
米国特許第4,359,427−A号、英国特許第1,484,675−A号及びWO 97/27229の全てが、クロロホルムをアルカリ金属オキシドと反応させることによってペルオキシジカーボネートが製造可能であることを教示している。
米国特許第4,359,427−A号及びJ. Am. Chem. Soc., 1950, 72, 1254-1263は、アルカリ金属ペルオキシドをクロロホルメートと反応させることによってペルオキシジカーボネートを製造する方法を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一つの観点に従うと、以下の工程を含むペルオキシジカーボネートの製造方法が提供される:
(a)少なくとも一つの無機ペルオキシドを少なくとも一つのアルカリ金属ヒドロキシドと反応させる工程、
(b)均一化手段と冷却手段を備えた第2の反応槽に、少なくとも一つのハロホルメート、少なくとも一つの分散剤及び水を仕込む工程、
(c)第2の反応槽の内容物の混合を開始する工程、及び
(d)第1の反応槽中で生成した少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽に供給し、実質的に全てのアルカリ金属ペルオキシドがハロホルメートと反応してペルオキシジカーボネートを生成するまで第2の反応槽の内容物を均一化する工程。
【発明を実施するための形態】
【0005】
好ましくはペルオキシジカーボネートは以下の式を有する:
【化1】


式中、R及びR1は同一又は異なる2〜16の炭素原子を含む有機基である。
該ペルオキシジカーボネートのR及びR1は、2〜8の炭素原子を含む同一の有機基であることが便宜である。
有利には、該ペルオキシジカーボネートのR及びR1をエチル、n−プロピル、及び第2ブチルから成る群から選択する。
好ましくは、ペルオキシジカーボネートのR及びR1はエチル基である。
ペルオキシジカーボネートはジ−エチルペルオキシジカーボネートであることが便宜である。
有利には、ハロホルメートはクロロホルメートである。
好ましくは、アルカリ金属ヒドロキシドは水酸化ナトリウムである。
無機ペルオキシドは過酸化水素であるのが便宜である。
【0006】
有利には、分散剤を加水分解したポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート及びポリアクリル酸から成る群から選択する。
好ましくは、分散剤は加水分解が約70%〜約90%である加水分解したポリ酢酸ビニルである。
第2の反応槽の内容物を40℃より低い温度に保持することが便宜である。
第2の反応槽の内容物を22℃より低い温度に保持することが有利である。
第2の反応槽の内容物を約0℃〜約10℃の温度に保持することが好ましい。
アルカリ金属ペルオキシドを、約2分〜約20分の期間にわたって計量して第2の反応槽に供給することが便宜である。
好ましくは、第2の反応槽に存在するハロホルメートの各2モルに対して、1モルのアルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽に供給する。
好ましくは、第2の反応槽に撹拌機を取り付けてペルオキシジカーボネートを撹拌する。
アルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽に供給する前に、アルカリ金属ペルオキシドを約0℃〜約10℃の温度まで冷却することが便宜である。
【0007】
有利には、ペルオキシジカーボネートは有機溶媒及びポリマーの可塑剤を実質的に含まない。
第2の反応槽の内容物を、いずれかのアルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽に供給する前に、部分的に均一化することができる。
本発明の他の観点に従うと、以下の工程を含む少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーの重合法が提供される:
(a)上記の方法で少なくとも一つのペルオキシジカーボネートを製造する工程、
(b)重合反応槽に少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマー、水、分散剤及び(a)で製造したペルオキシジカーボネートを添加する工程;
(c)エチレン系不飽和モノマーの転換が所望の程度になるまで重合反応を行いポリマーを形成する工程;
(d)重合反応槽からポリマーを取り出す工程;
(e)ポリマーからエチレン系不飽和モノマーをストリッピングする工程、及び
(f)ポリマーを脱水及び乾燥して流動性の粉末形態とする工程;
ここで、第1の反応槽及び第2の反応槽を重合反応槽の外部に配置する。
【0008】
好ましくは、第2の反応槽の内容物を全て重合反応槽に仕込む。
エチレン系不飽和モノマーが塩化ビニルモノマーであることが便宜である。
好ましくは、ペルオキシジカーボネートは有機溶媒及びポリマーの可塑剤を実質的に含まない。
本発明に従う好ましい方法において、アルカリ金属ヒドロキシドは水酸化ナトリウムであり、無機ペルオキシドは過酸化水素であり、分散剤は加水分解が約70%〜約90%である加水分解したポリ酢酸ビニルである。第2の反応槽の内容物の温度を約0℃〜約10℃に保持し、アルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽へ供給する前にその温度を約0℃〜約10℃に冷却することが好ましい。
【0009】
本発明の他の観点に従うと、同一反応槽内で、以下の工程を含む、二つ又はそれより多くの異なるペルオキシジカーボネートを製造する方法であって、請求項1ないし20のいずれか1項に記載の方法で第1のペルオキシジカーボネートを製造することを含み、この場合ハロホルメートはクロロホルメートであり、さらに、該第1のペルオキシジカーボネートが製造された後で、該方法がさらに以下の工程を含む方法が提供される
(e)第2のクロロホルメートを第2の反応槽へ放出し、追加量のアルカリ金属ペルオキシドを計量して第2の反応槽へ供給して第2のペルオキシジカーボネートを生成し、一方実質的に全ての第2のクロロホルメートがアルカリ金属ペルオキシドと反応して第2のペルオキシジカーボネートを生成するまで第2の反応槽の内容物を連続して均一化する工程、及び
(f)それぞれ所望の追加のペルオキシジカーボネートに対して工程(e)を反復する工程。
【0010】
本発明のさらなる観点に従うと、上記の方法でペルオキシジカーボネートを製造することを含み、以下の工程を含む、少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーの重合方法が提供される:
(a)冷却手段及び直列の均一化手段を取り付けたラインであって、該ラインが重合反応槽に結合しているライン中に、少なくとも一つのハロホルメート、少なくとも一つの分散剤及び水を注入する工程、
(b)少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを計量してラインに供給する工程、
(c)ライン中で混合物を均一化してペルオキシジカーボネートを製造する工程、
(d)ライン中のペルオキシジカーボネートを、エチレン系不飽和モノマー、分散剤及び水を含む重合反応槽へ注入する工程、
(e)重合反応槽中で所望の程度までモノマーの重合を行ってポリマーにする工程、
(f)重合反応槽からポリマーを取り出す工程、
(g)残渣モノマーをポリマーからストリッピングし、ポリマーを脱水し乾燥して流動性の粉末形態とする工程。
好ましくは、エチレン系不飽和モノマーは塩化ビニルモノマーである。
【0011】
ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートを、ジ−エチルペルオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジ−イソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルペルオキシジカーボネート及び第2ブチルペルオキシジカーボネートから成る群から選択することが便宜である。
有利には、重合を約40℃〜約70℃の温度で行う。
ペルオキシジカーボネートがジ−エチルペルオキシジカーボネートであり、アルカリ金属ペルオキシドが過酸化ナトリウムであり、かつペルオキシジカーボネートが1〜10μmの小滴を形成するのに十分な程度に均一化されていることが便宜である。
【0012】
重合反応槽の外部の重合部位においてペルオキシジカーボネート開始剤を製造することができ、エチレン系不飽和モノマーの重合にこれを使用すると高品質のポリマーが得られることが見出されたのは予期せざることであったことを認識すべきである。本発明のペルオキシジカーボネートを製造する方法は、アルカリ金属ヒドロキシドをペルオキシドと混合してアルカリ金属ペルオキシドを製造する第1の混合を含む。アルカリ金属ペルオキシドを、ハロホルメート、分散剤及び水の混合物に添加して所望のペルオキシジカーボネートを製造する。反応中反応混合物を均一化してペルオキシジカーボネートの小さい小滴を得る。得られたペルオキシジカーボネートは、溶媒又は可塑剤で希釈する必要がなく、精製する必要もない。得られたペルオキシジカーボネートを重合反応の直前に製造し、重合反応槽に仕込み、重合反応を行ってエチレン系不飽和モノマーから高品質のポリマーを得る。
本発明を例によって記載する。
【0013】
本発明によって製造したペルオキシジカーボネートは以下の一般式を有する:
【化2】

式中、R及びR1は同一又は異なって2〜16の炭素原子、好ましくは2〜10の炭素原子、より好ましくは2〜6の炭素原子を有する有機基である。最も好ましいペルオキシジカーボネートはRとR1が同一の基である。R及びR1の特定の例はアルキル基、例えばエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、第2ブチル、アミル、ヘキシル又は2−エチルヘキシル;アルケニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル又はシクロアルキル基であり、又は複素環式化合物から誘導した基、特にベンジル、シクロヘキシル、シンナミル、テトラヒドロフリルのような基、及びこれらの置換した誘導体である。最も好ましいペルオキシジカーボネートは、ジエチルペルオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジ−イソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ(第2ブチル)ペルオキシジカーボネート及びジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートである。
【0014】
ペルオキシジカーボネートを製造するのに使用するハロホルメートは以下の一般式を有する:
【化3】

式中、R2は2〜16の炭素原子を含む有機基であり、R3はハロゲン原子である。R2は、R及びR1について上記したものと同一の有機基である。R3はハロゲン、例えば塩素、フッ素、ヨウ素又は臭素である。好ましくはR3は塩素である。一又はそれより多くのハロホルメートを使用してペルオキシジカーボネートを製造することができる。
【0015】
ペルオキシジカーボネートの合成に少なくとも一つの分散剤、例えば加水分解したポリ酢酸ビニル、アルキル及びヒドロキシアルキルセルロースエーテル、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリアクリル酸及び類似の化合物を使用する。エチレン系不飽和モノマーの重合に使用する分散剤に類似するように分散剤を選択するのが好ましい。塩化ビニルモノマーを重合するのに好ましい分散剤は、加水分解が約70%〜約90%の範囲にある加水分解したポリ酢酸ビニルである。分散剤を好ましくは水溶液として添加する。分散剤の使用量を、ハロホルメートの水性乳剤を形成するのに十分な程度とすべきである。この程度は通常、ハロホルメートのグラム当たり約0.005〜0.2グラムの分散剤、好ましくはハロホルメートのグラム当たり約0.075〜0.1グラムの分散剤である。分散剤を水溶液として添加する。溶液は、水中に約1質量%〜約10質量%の分散剤を、好ましくは水中に約3質量%〜約8質量%の分散剤を有する。一度ペルオキシジカーボネートが生成する反応が完了すると、追加的な分散剤を添加して乳剤を安定化することができる。ペルオキシジカーボネートが製造された後短時間で使用されない場合には、乳剤を安定化することは特に重要である。
【0016】
本発明のペルオキシジカーボネートの合成に水も使用する。水は分散剤及び他の反応成分を分散させるのに必要である。水は、発熱反応から生じる熱を除去するのにも役立つ。好ましくは、使用する水は脱塩水である。使用する水の量は、分散剤を分散させ、かつアルカリ金属ヒドロキシド及びペルオキシドを溶解させるのに必要な量を使用しなければならないことを除き、臨界的ではない。アルカリ金属ヒドロキシド及びペルオキシドは水溶液として使用し、従って必要な水の部分を提供する。好ましくは、水の最小量は必要な冷却を得るために使用される。反応物を分散させかつ冷却を提供するのに必要な量を超えた過剰の水は、反応物をより緊密に接触させるために、反応中は避けるべきである。反応が完結した場合、追加的な水を添加することができる。反応に使用する水の量は通常、ハロホルメートのグラム当たり約5グラム〜約20グラムの水であり、好ましくはハロホルメートのグラム当たり約7グラム〜約12グラムの水である。水の大部分を、成分を水溶液として加える結果として添加する。
【0017】
少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを本発明のペルオキシジカーボネートの合成に使用する。好ましいアルカリ金属ペルオキシドは、過酸化ナトリウムである。アルカリペルオキシドを、無機ペルオキシド、例えば過酸化水素をアルカリ金属ヒドロキシドと反応させて製造し、アルカリ金属ヒドロキシドとしては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及びアルカリ金属ホスフェートがある。好ましいナトリウムペルオキシドを、水酸化ナトリウムと過酸化水素を反応させて製造する。2モルのアルカリ金属ヒドロキシドを各1モルの無機ペルオキシドに対して使用する。いずれの反応物も過剰に使用することができるが、好ましくはない。
【0018】
本発明のペルオキシジカーボネートを製造する一つの方法は、二つの反応槽を使用することである。これらの反応槽の形及び材質はいずれでもよいが、装置の形及び材質は冷却のために伝導性でなければならない。金属槽、例えばステンレス鋼のポット又はパイプは満足できるものである。一つの反応槽において、アルカリ金属ヒドロキシドを無機ペルオキシドと反応させてアルカリ金属ペルオキシドを製造する。アルカリ金属ヒドロキシドと無機ペルオキシドの混合物を、常用の機械的撹拌によって十分に混合し、アルカリ金属ペルオキシドを製造する。好ましいアルカリ金属ペルオキシドを製造する場合、水酸化ナトリウムを過酸化水素と混合してナトリウムペルオキシドを製造する。使用する好ましい水酸化ナトリウムは水酸化ナトリウムの水溶液である。水酸化ナトリウムの濃度は臨界的ではないが、好ましい濃度は水中における水酸化ナトリウムの5質量%〜35質量%溶液であり、好ましい濃度は水酸化ナトリウムの5質量%〜15質量%溶液である。使用する過酸化水素は、水中における過酸化水素の5質量%〜35質量%の範囲の溶液であり、好ましくは水中における過酸化水素の25質量%〜35質量%の範囲の溶液である。
【0019】
アルカリ金属ペルオキシドを製造するのに使用する混合物は、2モルのアルカリ金属ヒドロキシドと1モルの無機ペルオキシドである。好ましい成分についての可逆反応を以下のように示すことができる:
【化4】

反応温度をアルカリ金属ペルオキシドの分解温度より低くする必要がある。さらに、後でペルオキシドジカーボネートを製造するのに使用する熱を加えないように混合物を冷却すべきである。好ましいアルカリ金属ペルオキシドを製造するために、アルカリ金属ペルオキシドを28℃より低く、好ましくは0℃〜10℃の温度に冷却する。
【0020】
均一化装置又は均一化システム及び冷却手段を設けた第2の反応槽中で、ハロホルメート、分散剤及び水をまず混合する。ハロホルメート、分散剤及び水の得られた混合物を、第1の反応槽からのアルカリ金属ペルオキシドを加えつつ冷却しかつ均一化する。アルカリ金属ペルオキシドを加える前に均一化を開始し、全てのアルカリ金属ペルオキシドを添加するまで継続することが好ましい。第2の反応槽の混合物の温度を、形成されるペルオキシジカーボネートが分解する温度より低く保持することが必要である。好ましい反応物に対して、温度を40℃より低く、好ましくは22℃より低く、より好ましくは0℃〜10℃に保持すべきである。水が存在するので、副生物(塩)の存在により混合物中の水の凝固点は0℃より低いものの、混合物を水が凍結するまで低く冷却すべきではない。生成したペルオキシジカーボネートの分解温度より温度が高い場合、ペルオキシジカーボネートが分解するために効率が低下する。ペルオキシジカーボネートが分解するときの二酸化炭素の放出によって生じる発泡によって、分解を観察することができる。アルカリ金属ペルオキシドをある添加速度で第2の反応槽に添加することができ、その速度は、生成したペルオキシジカーボネートの分解温度を超えないように第2の反応槽を冷却する能力によって定まる。アルカリ金属ペルオキシドとハロホルメートとの反応はほとんど瞬時であるが、非常に発熱性である。高度に発熱性の反応であるため、第1の反応槽からアルカリ金属ペルオキシドを計量してハロホルメートを含む第2の反応槽へ、約2〜約20分かけて供給することが好ましい。アルカリ金属ペルオキシドの添加速度は反応を冷却する能力にのみ依存し、例えば形成されるペルオキシジカーボネートの分解温度より低く反応温度を維持する能力にのみ依存する。
【0021】
第2の反応槽のハロホルメート、分散剤及び水の混合物をアルカリ金属ペルオキシドを含む第1の反応槽に添加することができるが、ペルオキシジカーボネートの収率が低いのでこの方法は効率的ではない。
第2の反応槽で使用する反応物の量は、各2モルのハロホルメートに対してアルカリ金属ペルオキシド1モルである。好ましい反応物について反応を以下のように示すことができる:
【化5】

式中R2は、本発明の最も好ましい態様ではエチル基である。
【0022】
第2の反応槽における成分の均一化は非常に重要であり、かつ本発明の臨界的な特徴であり、その理由は、それによって反応物間の接触が緊密になり、その結果必要な反応物の量が減少するからである。少ない量の反応物を使用することによって、反応を溶媒又は可塑剤で希釈する必要がなくなり、その結果、エチレン系不飽和モノマーの重合方法において有害である副生物が減少する。均一化により、直径が10μmより小さい、好ましくは5μmより小さい、より好ましくは1〜4μmであるペルオキシジカーボネート小滴を得ることもできる。ペルオキシジカーボネートの小滴の大きさが小さいことは、ゲルの含量が低いポリマーを製造するのに有利である。
本発明の大規模反応に適していることが分かったホモジナイザー装置の型は、アルドバリンコ(Arde Barinko)ホモジナイザーである。この型のホモジナイザー装置は第2の反応槽の反応物中に伸びるシャフトを有している。シャフトの末端は固定したステーター中に狭いスリット(歯)を有しており、該ステーターはステーター中の歯に対して角度のある歯を有する回転ディスクを有していて、ステーター中の狭いスリットを通して反応物が導入されかつ繰り返して循環されている。実験室規模の小さい反応では、組織破砕機型のホモジナイザー、例えばフィッシャーシーンティック(Fisher Schientic)の#15-338-51を使用することができる。
【0023】
エチレン系不飽和モノマーからポリマーを製造する重合方法で使用する本発明のペルオキシジカーボネートを製造する他の方法は、インライン(in line)ホモジナイザーを使用する。インラインホモジナイザーを使用する場合、ハロホルメート、分散剤及び水をライン、例えばパイプに注入する。パイプはホモジナイザーに結合している。アルカリ金属ペルオキシドを計量してホモジナイザーの直前に注入するか、又は好ましくは均一化パスの間の再循環ラインに注入する。この方法により、アルカリ金属ペルオキシドを添加する前のハロホルメートの均一化及び全ての成分を合わせた後の均一化が行われる。適切なインラインホモジナイザーの例はManton Gaulinホモジナイザーの名称で市販されているものである。均一化させる成分を、所望の均一化が得られるまで、複数回ホモジナイザーを通過させることができる。本発明のペルオキシジカーボネートを製造する場合、ペルオキシジカーボネートの小滴の大きさが約1〜10μm、好ましくは約1〜約4μmとなるように、十分な均一化を行うことが必要である。ペルオキシジカーボネートを製造するラインは重合反応槽と結合しており、所望の時期に反応槽にポンプで移送される。ペルオキシジカーボネートを重合反応槽に仕込んだ後、ラインを水でフラッシュ洗浄する。
【0024】
重合で使用するために一を越えるペルオキシジカーボネートを製造することが望ましい場合は、第1のペルオキシジカーボネートを製造する反応を完結させた後で、第2のハロホルメート及び対応するアルカリ金属ペルオキシドを添加する必要がある。異なる二つのハロホルメートが混合され、アルカリ金属ペルオキシドが添加されると、三種類の異なる型のペルオキシジカーボネートが製造される可能性がある。二つの型は両端が同じ末端基を有して対称であるが、第3の型は両端の末端基が異なる。この型のペルオキシジカーボネート混合物は重合開始剤として作用はするが、最も望ましい混合物ではない。製造された異なる三つの型のペルオキシジカーボネートのそれぞれの特定の量を十分に制御することはできないと考えられ、かつバッチ毎に異なる可能性がある。このため、第2のペルオキシジカーボネートを製造する反応を開始する前に、第1のペルオキシジカーボネートの反応を完了させておくことが好ましい。第3の又は引き続くペルオキシジカーボネートが所望の場合、追加的に所望のペルオキシジカーボネートのそれぞれについて第3のペルオキシジカーボネート等を製造するためのハロホルメートを添加する前に、第2のペルオキシジカーボネートを完了する反応を完了させておくべきである。
【0025】
ペルオキシジカーボネートを製造する第2の反応槽における反応を、重合サイクルにおいてそれが必要となる直前に完了させる必要がある。ペルオキシジカーボネートの使用に予定外の遅延が生じる場合、ペルオキシジカーボネートを含む第2の反応槽中の水性混合物を撹拌する必要がある。第2の反応槽は均一化システムと同様、撹拌システムも含むことが好ましい。好ましいペルオキシジカーボネートは懸濁している水性塩混合物より重く、撹拌しないと時間の経過によって底に沈積するため、撹拌が必要である。ジ−エチルペルオキシジカーボネート以外の他のペルオキシジカーボネートの安定性は、その濃度が低いと大きいが、ペルオキシジカーボネートの使用が遅延することに備えて撹拌することが好ましい。ホモジナイザーを連続して作動させるより単純な撹拌が好ましいが、その理由はホモジナイザーがペルオキシジカーボネートの水性懸濁液に望ましくない熱を与えるためである。いずれの型の撹拌でも受容可能であり、ペルオキシジカーボネートが反応槽の底に沈積しない限り、例えば羽根付きのシャフト又は反応槽に不活性ガスを吹き込む装置が受容可能である。
【0026】
本発明の方法によって種々のペルオキシジカーボネートを製造することができる。製造された開始剤の本質又は構造は、特に反応に使用したハロホルメートに依存する。ペルオキシジカーボネートを、エチレン系不飽和モノマーの懸濁重合に使用することができる。エチレン系不飽和モノマーの例として、以下を挙げることができる:ハロゲン化ビニル、例えば塩化ビニル、臭化ビニル、等、ハロゲン化ビニリデン、例えば塩化ビニリデン等、アクリル酸;アクリル酸のエステル、例えはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シアノエチル、等;メタクリル酸;メタクリル酸のエステル、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、等;酢酸ビニル;アクリロニトリル;スチレン及びα−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ビニルナフタレンを含むスチレン誘導体;及び少なくとも一つのCH2=C<末端基を有する他のモノマー;これらの型のモノマーのいずれかの混合物及び当業者に公知の他の型のエチレン系不飽和モノマー。
【0027】
本発明のペルオキシジカーボネートは、塩化ビニルを懸濁重合してポリ塩化ビニル(PVC)を製造する場合に特に有用である。本発明はさらに塩化ビニルの水性懸濁重合においても記載される。
塩化ビニルモノマーからPVCを製造する水性懸濁方法において、重合方法は通常約0℃〜100℃の温度範囲で行われる。しかしながら、約40℃〜約70℃の温度範囲を採用することが好ましく、その理由はこの温度において最も有用な性質を有するポリマーが製造されるからである。重合反応の時間は約2〜約15時間、好ましくは3〜6時間の範囲で変化する。PVCを製造する水性懸濁方法は、塩化ビニルモノマーに加えて水、分散剤、フリーラジカル開始剤を含み、かつ任意に他の成分、例えば緩衝剤、重合停止剤等を含むことができる。PVCを製造する水性懸濁方法はバッチ式の反応方法であり、次いで反応槽を出た後は連続方式となる。工程の連続する部分は、PVCポリマーから残渣の塩化ビニルモノマーをストリッピングする工程及び引き続く重合でさらに使用するためにモノマーを回収する工程を含む。さらに、ポリマー粒子を脱水しかつ乾燥して流動性粉末とするが、これらは全て本技術分野でよく理解されている。
【0028】
PVC重合が所望の転換率に達すると、すなわち通常モノマーのポリマーへの転換率が約80〜94%に達すると、反応を停止し、反応槽の内容物をポンプで取り出して反応槽を空にする。空の反応槽を、水でフラッシュしかつ壁を被覆してポリマーの蓄積を阻止することによって、次の重合サイクルの準備をする。フラッシング及び被覆には約10〜20分間の時間を要し、これは次の重合サイクルで使用されるペルオキシジカーボネートを製造する反応を行うのに十分な時間である。
本発明で製造したペルオキシジカーボネートをペルオキシジカーボネートの製造反応の副生物と共にPVC反応槽に仕込んで塩化ビニルモノマーの重合を開始する。PVC反応槽に仕込む成分の順序は臨界的ではないが、反応槽の内容物が所望の重合温度に達した後でペルオキシジカーボネートを仕込むことが好ましい。所望の重合温度に達する前にペルオキシジカーボネートを添加すると、それのいくらかは低い温度で使用されてしまい、その結果重合のために存在する開始剤が少ないこととなる。これを補償するために過剰のペルオキシジカーボネートを添加することができるが、費用が増加することから望ましくない。
【0029】
本発明のペルオキシジカーボネート製造方法の収率は約90〜97%である。収率を決定する便宜な方法は、ペルオキシジカーボネートの所与の負荷に対するPVCの反応サイクル時間を測定し、理論時間に対する反応時間を比較することであり、本技術分野でよく理解されている。PVC反応サイクル時間は、本発明の方法で製造したペルオキシジカーボネートの収率が非常に再現性がよく、かつ少なくとも90%であることを示している。本発明で製造したペルオキシジカーボネートを理論的必要量より約10%過剰にPVC反応槽に仕込むことが便宜な方法である。これが100%より少ない収率を補償する。
PVC重合反応で使用する特定の型のペルオキシジカーボネートの量及び選択は、所望の反応温度及び所望の全反応サイクル時間に依存して変化する。所望の全反応サイクル時間を通常PVC反応から熱を除去することが可能な速度によって決定する。熱を除去する速度は、いくつかの因子、例えば冷却に利用可能な反応槽の表面積、冷却媒体の温度、及び熱転移の係数に依存する。PVC反応槽に還流冷却器を取り付けて冷却速度を増加させることができ、かつ反応槽ジャケット及びバッフルのような内部冷却表面に冷却水を使用することができる。
【0030】
ペルオキシジカーボネートがジ−エチルペルオキシジカーボネートである場合のペルオキシジカーボネートの使用量は通常、塩化ビニルモノマーの100質量部当たり0.20〜1質量部、好ましくは塩化ビニルモノマーの100質量部当たり0.030〜0.060質量部である。ペルオキシジカーボネートが異なれば必要量は異なり、その量は所与の反応温度においてそれが分解してフリーラジカルを形成する速度及びその分子量に依存し、全ては当業者に十分理解されている。常用のペルオキシジカーボネート又は他の開始剤を本発明のペルオキシジカーボネートと組み合わせて使用して特定の反応速度論を達成することができるが、本発明の方法によって同一反応槽中で多数のペルオキシジカーボネートを製造することができるので、このような使用は必要がない。
本発明の一つの重要な利点は、ペルオキシジカーボネートを製造する反応槽の全内容物を、PVC重合反応槽に仕込むことができることである。先行技術の方法で教示されているような、ペルオキシジカーボネートの精製又は溶媒若しくは可塑剤によるその希釈は不必要である。
必要に応じて、必要なときにバッチでペルオキシジカーボネートを製造することが好ましい。これにより、ペルオキシジカーボネートを貯蔵する必要がなくなる。当然のことながら、本発明によりペルオキシジカーボネートを製造し後で使用するために貯蔵することができるが、これは望ましくない。
ペルオキシジカーボネートを製造する方法及び高品質のPVCポリマーの製造に引き続き使用することを示すために以下の実施例を記載する。
【0031】
実施例1
本実施例では、本発明の方法によってジ−エチルペルオキシジカーボネートを製造する。ペルオキシジカーボネートの製造をドラフトチャンバー内で行う。アルドバリンコ(Arde Barinko)ホモジナイザーユニットを使用する。15リットルのビーカーを、約−10℃に保持したアセトン−ドライアイス冷却槽内に置く。さらに、エチレングリコール冷却コイルをビーカー内に設置する。適切な場所に取り付けたガラス温度計で、反応混合物と外部冷却槽の両者の温度を連続して監視する。冷却コイルを4℃〜10℃で操作する。1200mlの水を15リットルの鋼ビーカーに入れ、次いで72.5%加水分解したポリ酢酸ビニル分散剤を5質量%含む水1,000ml及び541ml(596グラム)のエチルクロロホルメートを入れる。この混合物をアルドバリンコ(Arde Barinko)ホモジナイザーで約1分間均一化して、エチルクロロホルメートの乳剤の形成を容易にする。
氷槽中に置いた別のガラスビーカーにおいて、5質量%の水酸化ナトリウムを含む水4154ml(4391グラム)を30質量%の過酸化水素を含む水280ml(311グラム)と混合した。ガラスビーカー中で機械的撹拌を行った。混合物を約5分間機械的に撹拌して、以下の式で表されるように過酸化ナトリウム(これは水酸化ナトリウムと過酸化水素から等量で製造される)の製造を容易にした:
【化6】

【0032】
次いで、過酸化ナトリウムを含む混合物を、エチルクロロホルメートを含む15リットルのステンレス鋼ビーカーの上に確実に取り付けたガラスの滴下ロートに入れた。鋼ビーカー内の温度は0℃であった。ペルオキシジカーボネートを製造する合成反応の間を通してホモジナイザーを動かした。
ガラスの滴下ロートから過酸化ナトリウムを滴々と加え、添加速度を手動で調整して反応温度が10℃を上回らないようにした。過酸化ナトリウムとエチルクロロホルメートの反応を以下の式で表すことができる:
【化7】

10〜15分後であった過酸化ナトリウムの添加の終了時に、72.5%加水分解したポリ酢酸ビニルを5質量%含む水3500mlを加えてさらに5分間反応混合物を均一化して、ジ−エチルペルオキシジカーボネート乳剤を安定化させた。
100%の収率は、製造されたジ−エチルペルオキシジカーボネート489グ
ラムになる。
【0033】
混合物はジ−エチルペルオキシジカーボネートの全てと72.5%加水分解したポリ酢酸ビニルを含み、これは塩化ビニルを重合する4.2m3の大きさの反応槽に対する分散した開始剤仕込み物を提供するのに必要である。
活性酸素ベースで同じ活性を達成するために、ジ−エチルペルオキシジカーボネート以外の異なるペルオキシジカーボネートを製造しようと望む場合、上記の手順において以下の表に従って異なる量のクロロホルメートが必要となる:

表1

他の成分(クロロホルメート以外)の量及び手順は、上記のジ−エチルクロロホルメートの製造の場合と同様である。
【0034】
実施例2
実施例1で製造したジ−エチルペルオキシジカーボネートを使用する塩化ビニルの懸濁重合を示すために、本実施例を記述する。
攪拌機及び冷却装置を取り付けた、清潔な4.2m3の重合反応槽に、1,479.86kgの塩化ビニルモノマー、2,013.278kgの高温の脱塩水、3.9173kgのメチルセルロース分散剤、2.5243kgの88%加水分解したポリ酢酸ビニル分散剤及び実施例1で製造した水性ジ−エチルペルオキシジカーボネート乳剤を添加した。反応を56.5℃で開始し、この温度で45分間保持した。45分後に、1分当たり0.038℃の率で185分間反応温度を低下させて、反応温度を49.5℃にした。圧力の低下が起こるまで、反応温度を49.5℃に保持した。開始剤の添加から312分後に圧力の低下が起こり、591.9グラムの重合停止剤を加えて反応を終了させた。PVCスラリーの残渣モノマーをストリップし、乾燥した。重合反応槽の内部金属表面を検査した結果、反応槽にはポリマーの蓄積が予期したほどはないことが分かり、このことは非常に有利である。
本実施例は、実施例1で製造したジ−エチルペルオキシジカーボネートが塩化ビニルモノマーの重合において非常に有効であることを示している。
【0035】
実施例3
市販の第2−ブチルペルオキシジカーボネートを使用する塩化ビニルの懸濁重合を標準的な対照として示すために、本実施例を記述する。同一の重合反応槽(4.2m3)を使用し、反応成分及び手順は実施例2と同様であるが、開始剤として669グラムの第2−ブチルペルオキシジカーボネートを使用した。開始剤の添加後291分で圧力の低下が起こり、重合停止剤を添加した。PVCスラリーの残渣モノマーをストリッピングして除き、乾燥した。内部表面の検査により、いくらかのポリマー蓄積があることが分かり、これはこの型の反応では通常のことである。本発明で製造したペルオキシジカーボネートを使用した実施例2の反応より、本実施例の反応の方がポリマー蓄積が多かった。
【0036】
実施例4
PVC反応槽でペルオキシジカーボネートを製造する先行技術の方法において使用されている方法に対して、本発明で製造したジ−エチルペルオキシジカーボネートを使用する方が優れていることを示すために実施例5及び6と比較して本実施例を記述する。本実施例は実施例5及び6に対する対照である。
撹拌及び冷却装置を取り付けた55リットルの重合反応槽中で、塩化ビニルの懸濁重合を行った。清潔な55リットルの反応槽に、以下の重合成分を添加した:

脱塩水 − 25.440 Kg
塩化ビニルモノマー − 18.544 Kg
PVA(72.5%) − 439.898 g
メチルセルロース − 68.681 g
PVA(88%) − 35.210 g
第2−ブチルペルオキシ − 8.396 g
ジカーボネート
【0037】
水を最初に加え、撹拌を開始した。VMCを加え、反応槽の内容物を56℃まで加熱した。次いで分散剤を加え、温度を56℃に保持しつつ10分間撹拌を続けた。この時点で、市販の開始剤、第2−ブチルペルオキシジカーボネートを加え、反応を開始した。反応温度を56℃に49分間保持した。実施例2と同様に、反応温度を197分間にわたって50℃になるまで徐々に低下させた。圧力低下が生じるまで温度を50℃に保持した。開始剤を添加してから272分後に圧力低下が生じ、この時点で3.709gの重合停止剤を加えて反応を停止させた。PVC樹脂スラリーの残渣モノマーをストリッピングし、乾燥した。
【0038】
実施例5
本発明の方法で製造したジ−エチルペルオキシジカーボネートを使用する塩化ビニルの懸濁反応が、重合反応槽中でジ−エチルペルオキシジカーボネートを製造する先行技術における方法(実施例6に示されている)より優れていることを示すために、本実施例を記述する。
実施例4と同様に、同じ55リットルの反応槽を本実施例で使用し、同一の反応成分で同一の手順を行ったが、8.396gの市販の第2−ブチルペルオキシジカーボネートを実施例1で製造したジ−エチルペルオキシジカーボネートに置き換え、8.56gのエチルクロロホルメートを使用した。開始剤の添加後274分で圧力低下が起こり、この時点で、実施例4と同様に重合停止剤を添加して反応を停止させた。PVC樹脂スラリーの残渣モノマーをストリッピングし、乾燥した。
【0039】
実施例6
重合の前に、重合槽中でジ−エチルペルオキシジカーボネートを製造する従来技術の方法を使用する塩化ビニルの懸濁重合を示すために、本実施例を記述する。
実施例4及び5と同様に、同じ55リットルの反応槽を本実施例で使用し、同じ反応成分を使用し同じ手順を行ったが、本実施例では、ジ−エチルペルオキシジカーボネートを反応槽中で製造し、かつ、反応槽中でペルオキシジカーボネートを製造することが効率的でないために、同等の圧力低下時間を得るのに約35%過剰の開始剤成分を使用した。
開始剤を反応槽中で製造するために、8.1Kgの水を最初に反応槽に仕込み(これは使用した水の全量の約32%である)、撹拌を開始した。開始剤を製造するための撹拌を得るのに、反応槽中で撹拌レベルより高い水の量が必要であった。分散剤(72.5%PVA、88%PVC及びメチルセルロース)を次いで反応槽に仕込み、次いで10.50グラムのエチルセルロース、15.4276グラムの水酸化ナトリウム、及び5.5628グラムの過酸化水素を仕込んだ。残りの水を仕込む前に成分を5分間混合した。次いで、塩化ビニルモノマーを仕込み、温度を56℃にした。温度変化は実施例4及び5の場合と同様であった。277分で圧力低下が起こり、実施例4及び5と同様に反応を停止させた。得られたPVC樹脂スラリーを脱水して乾燥した。
【0040】
実施例4、5及び6で製造したPVC樹脂をPVC樹脂にとって重要な性質について試験し、その結果を以下の表IIIに示す:

表III

【0041】
上記の試料から、反応槽中で製造した開始剤で製造したPVC樹脂(実施例6)の熱安定性及び初期の色(黄化指数)は、本発明に従って製造したPVC樹脂(実施例5)より劣っていることが理解できる。市販の第2−ブチルペルオキシジカーボネート開始剤を使用する対照(実施例4)と比較すると、本発明で製造した樹脂はより好ましい。従来技術の方法における黄化指数及び安定性(DTS)の問題は、反応槽中で製造されたペルオキシジカーボネートの収率が低いことによって生じると考えられ、その結果エチルカルボン酸への加水分解によってかなりの量のクロロホルメートがペルオキシジカーボネートに転換されないこととなり、かつ重合反応にこれらの汚染物が存在することによりPVC樹脂に有害な影響を与えることとなると考えられる。
本発明の上記の実施例及び記述は、例示した特定の材料又は行った実施例に限定されない。本発明は以下のクレームによってのみ限定されることを意図している。
本明細書において、“含む”は“包含する又はのみから成る”を意味する。
先の記述、特許請求の範囲又は添付の図面で開示し、特定の形態で、又は開示した作用、又は開示した効果を達成するための方法若しくはプロセスを実施するための手段によって表現した特徴は、適切に、独立して又はこれらの特徴のいずれかを組み合わせて、本発明を異なる形態で実現するのに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーの重合方法:
(a)少なくとも一つのハロホルメートの流れに分散剤の存在下における撹拌の操作を行って少なくとも一つのハロホルメートの小滴からなる少なくとも一つのハロホルメートの乳剤の流れを形成し、該少なくとも一つのハロホルメートの流れに少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドの溶液の流れを連続して混合して少なくとも一つのペルオキシジカーボネートの乳剤を含む流れを形成することによって、ペルオキシジカーボネートを連続的に製造してフリーラジカル開始剤を製造する工程、
(b)少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーを重合反応槽へ添加する工程、
(c)少なくとも一つのペルオキシジカーボネートの乳剤を重合反応槽へ添加する工程、(d)所望の転換の程度までエチレン系不飽和モノマーの重合反応を行ってポリマーを形成する工程、
(e)重合反応槽からポリマーを取り出す工程、及び
(f)エチレン系不飽和モノマーをポリマーからストリッピングする工程。
【請求項2】
以下の工程を含む少なくとも一つのペルオキシジカーボネートの連続製造方法:
(a)少なくとも一つのハロホルメートの流れに分散剤の存在下における撹拌の操作を行って少なくとも一つのハロホルメートの小滴よりなる少なくとも一つのハロホルメートの乳剤の流れを形成する工程;及び
(b)少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシド溶液を少なくとも一つのハロホルメートの該乳剤の流れに連続して混合して少なくとも一つのペルオキシジカーボネートの乳剤を含む流れを形成する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーの重合方法:
(a)冷却手段及び直列の均一化手段を取り付けたラインであって、該ラインが重合反応槽に結合しているライン中に、少なくとも一つのハロホルメート、少なくとも一つの分散剤及び水を注入する工程、
(b)少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを計量してラインに供給する工程、
(c)工程(a)及び(b)でライン中に導入した成分を均一化してペルオキシジカーボネートを製造する工程、
(d)ライン中のペルオキシジカーボネートを、エチレン系不飽和モノマー、分散剤及び水を含む重合反応槽へ注入する工程、
(e)重合反応槽中で所望の転換の程度までモノマーの重合を行ってポリマーにする工程、
(f)重合反応槽からポリマーを取り出す工程、
(g)残渣モノマーをポリマーからストリッピングし、ポリマーを脱水し乾燥して流動性の粉末形態とする工程。
【請求項4】
以下の工程を含む少なくとも一つのエチレン系不飽和モノマーの重合方法:
(a)冷却手段及び直列の均一化手段を取り付けたラインであって、該ラインが重合反応槽に結合しているライン中に、少なくとも一つのハロホルメート、少なくとも一つの分散剤及び水を注入する工程、
(b)少なくとも一つのアルカリ金属ペルオキシドを計量してラインに供給する工程、
(c)ライン中で混合物を均一化してペルオキシジカーボネートを製造する工程、
該重合方法は以下の工程をさらに含む:
(d)ライン中のペルオキシジカーボネートを、エチレン系不飽和モノマー、分散剤及び水を含む重合反応槽へ注入する工程、
(e)重合反応槽中で所望の転換の程度までモノマーの重合を行ってポリマーにする工程、
(f)重合反応槽からポリマーを取り出す工程、
(g)残渣モノマーをポリマーからストリッピングし、ポリマーを脱水し乾燥して流動性の粉末形態とする工程。
【請求項5】
エチレン系不飽和モノマーが塩化ビニルモノマーである、請求項4の方法。
【請求項6】
ジ−エチルペルオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジ−イソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルペルオキシジカーボネート及び第2ブチルペルオキシジカーボネートから成る群からペルオキシジカーボネートを選択する、請求項4又は5の方法。
【請求項7】
重合を約40℃〜約70℃の温度で行う、請求項4ないし6のいずれか1項の方法。
【請求項8】
ペルオキシジカーボネートがジ−エチルペルオキシジカーボネート、アルカリ金属ペルオキシドが過酸ナトリウムであり、かつ1〜10μmの小滴を形成するのに十分な程度にペルオキシジカーボネートを均一化する、請求項4ないし7のいずれか1項の方法。

【公開番号】特開2012−25962(P2012−25962A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203038(P2011−203038)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【分割の表示】特願2001−534766(P2001−534766)の分割
【原出願日】平成12年11月3日(2000.11.3)
【出願人】(500474826)オキシ ヴィニルス リミテッド パートナーシップ (1)
【Fターム(参考)】