説明

ペルフルオロジアシルフルオリド化合物の製造方法

本発明は、安価で入手容易な出発物質を用いて、短い工程で、種々のフッ素樹脂の製造原料として有用な化合物を高収率で得る方法を提供する。
下記化合物(1)と下記化合物(2)とを反応させて下記化合物(3)とし、該化合物(3)を液相中でフッ素化して下記化合物(4)とし、次に該化合物(4)のエステル結合の分解反応により化合物(5)、または化合物(5)および化合物(6)を得る。
HOCH−Q−O−(CH−OH・・・(1)、
CRCOX・・・(2)、
COOCH−Q−O−(CH−OCOR・・・(3)、
BFCOOCF−Q−O−(CF−OCORBF・・・(4)、
FCO−Q−O−(CF−COF・・・(5)、
BFCOF・・・(6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、工業的に有用な化合物である−COF基を分子の両末端に有するジアシルフルオリド化合物の製造方法に関する。また、本発明は、フッ素樹脂原料の前駆体として有用なペルフルオロジアシルフルオリド化合物の製造に有用な新規な中間体に関する。
【背景技術】
ペルフルオロジアシルフルオリド化合物は、耐熱性かつ耐薬品性のフッ素樹脂の原料モノマーを製造する上で重要な前駆体である。たとえば、イオン交換膜の原料モノマーとして有用である分子中にカルボキシル基を有するペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、CF=CF−O(CFCOOCH、CF=CF−OCFCF(CF)O(CFCOOCH、CF=CF−O(CFCHCOOCH等が知られている(特開昭52−153897)。
該ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、ペルフルオロジアシルフルオリド類を経由して製造される(J.Fluorine Chem.,94,65−68(1999)参照)。特に、機械的強度の強いイオン交換膜の原料モノマーとして有用であるCF=CF−O(CFCOOCHは、FCO(CFO(CFCOFまたはFCOCF(CF)O(CFCOFから誘導される。
ジアシルフルオリド類の一般的な製造方法としては、ヨウ素や発煙硫酸を使用する下記方法が知られている。
CF=CF + I → ICFCF
ICFCFI + CF=CF → ICFCFCFCF
ICFCFCFCFI + SO → FCOCFCFCOF
また本発明者らは、液相中でフッ素を用いてフッ素化を行う方法(液相フッ素化法)により、ジオールから、ペルフルオロ(ジアシルフルオリド)類を製造する方法を提供している(WO02/4397号明細書参照)。
一方、C−H部分をC−Fにフッ素化する方法としては、フッ素(Elemental Fluorine)を用いてフッ素化する方法が知られている。
分子の両末端にフッ化ビニルを有する化合物の製造方法としては、片末端にCF=CF−を有し、他末端に−COFを有する化合物のCF=CF−を塩素ガス等のハロゲンを付加させた後に、−COF末端を熱分解してCF=CF−とし、さらに脱ハロゲン化によりCF=CF−を再生する方法が提案されている(特開平1−143843号公報)。
しかし、テトラフルオロエチレンを原料とする従来のペルフルオロジアシルフルオリド化合物の製造方法は、原料の価格が高く、経済的に不利である問題があった。また、ヨウ素や発煙硫酸等を使用することから、装置が腐食する問題や、反応試薬の取り扱いが難しい問題があった。
【発明の開示】
本発明は、安価で入手容易な原料化合物から短工程でペルフルオロジアシルフルオリド化合物を製造する方法の提供を目的とする。
また、本発明は、フッ素樹脂原料の前駆体として有用なペルフルオロジアシルフルオリド化合物の製造に有用な新規な中間体の提供を目的とする。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
<1>下記化合物(1)と下記化合物(2)とを反応させて下記化合物(3)とし、該化合物(3)を液相中でフッ素化して下記化合物(4)とし、次に該化合物(4)のエステル結合の分解反応により化合物(5)、または化合物(5)および化合物(6)を得ることを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
HOCH−Q−O−(CH−OH・・・(1)、
COX・・・(2)、
COOCH−Q−O−(CH−OCOR・・・(3)、
BFCOOCF−Q−O−(CF−OCORBF・・・(4)、
FCO−Q−O−(CF−COF・・・(5)、
BFCOF・・・(6)。
ただし、
Q:−CH(CH)−または−CHCH−。
:−CF(CF)−または−CFCF−。
X:ハロゲン原子。
:含フッ素1価有機基。
BF:Rと同一の基またはRがフッ素化された基。
<2>Xがフッ素原子である化合物(2)として、エステル結合の分解反応で得た化合物(6)を用いる<1>に記載の製造方法。
<3>化合物(3)のフッ素含量が30〜76質量%であり、かつ分子量が200超〜1000である<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>Qが−CHCH−であり、Qが−CFCF−である<1>、<2>、または<3>に記載の製造方法。
<5>下式で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物。
BF1COOCH−Q−O−(CH−OCORBF1・・・(3−1)
BF1COOCF−Q−O−(CF−OCORBF1・・・(4−1)
ただし、
Q:−CH(CH)−または−CHCH−。
:−CF(CF)−または−CFCF−。
BF1:ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル基)、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基。
<6>RBF1が、炭素数2〜20のペルフルオロアルキル基、または炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロアルキル基である<5>に記載の化合物。
<7>下式で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物。
(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CF・・・(3−12)、
(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CF・・・(4−12)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(3−13)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(4−13)。
<8>下式(5−12)で表わされる化合物にヘキサフルオロプロピレンオキシドをCsFの存在下に反応させて下式(5−2)で表わされる化合物とし、該式(5−2)で表わされる化合物を熱分解して下式(5−3)で表わされる化合物とし、該式(5−3)で表わされる化合物にメタノールを反応させることを特徴とする下式(5−4)で表わされる化合物の製造方法。
FCO(CFO(CFCOF・・・(5−12)、
FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF・・・(5−2)、
CF=CFO(CFO(CFCOF・・・(5−3)、
CF=CFO(CFO(CFCOOCH・・・(5−4)。
<9>式(5−12)で表わされる化合物が、<4>に記載の製造方法によって得た化合物である<8>に記載の製造方法。
<10>下式で表わされる化合物から選ばれるいずれかの化合物。
FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF・・・(5−2)
CF=CFO(CFO(CFCOF・・・(5−3)
CF=CFO(CFO(CFCOOCH・・・(5−4)
【発明を実施するための最良の形態】
本明細書における有機基とは、炭素原子を必須とする基をいい、飽和の基であっても不飽和の基であってもよい。フッ素化される有機基としては、炭素原子に結合する水素原子を有する基、炭素−炭素不飽和結合を有する基等が挙げられる。本発明における有機基は、フッ素化反応時に用いる液相への溶解性の観点から、その炭素数が1〜20であるのが好ましく、特に炭素数が1〜10であるのが好ましい。
1価有機基としては、1価炭化水素基、ヘテロ原子含有1価炭化水素基、ハロゲン化1価炭化水素基、またはハロゲン化されたヘテロ原子含有1価炭化水素基が好ましい。
1価炭化水素基としては、1価飽和炭化水素基が好ましく、アルキル基、シクロアルキル基、または環部分を有する1価飽和炭化水素基(たとえば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、またはビシクロアルキル基、脂環式スピロ構造を有する基、またはこれらの基を部分構造とする基)等が挙げられ、アルキル基が特に好ましい。
本明細書におけるハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、フッ素原子、塩素原子、または臭素原子が好ましい。また、フッ素化された基、すなわちフルオロ基とは、フッ素原子が1つ以上基中に導入された基をいい、水素原子が存在する基であっても、存在しない基であってもよい。部分フッ素化された基とは、フッ素化されうる部分の一部がフッ素化された基をいい、通常は水素原子が存在する基である。ペルフルオロ化された基とは、フッ素化されうる部分の実質的に全てがフッ素化された基をいい、通常は水素原子が存在しない基である。
本発明によれば、化合物(1)を原料として、従来は入手が困難であった化合物(5)を製造できる。
式(1)で表される化合物とは、下記化合物である。これらの化合物は、公知の化合物、または、公知の化合物から公知の方法により容易に合成できる化合物である。
HO(CHO(CHOH、
HOCHCH(CH)O(CHOH
本発明においては、まず、化合物(1)と化合物(2)を反応させて化合物(3)を得る。
化合物(2)中のRは、含フッ素1価有機基であり、後述するRBFと同一の基またはフッ素化反応によってRBFになる基である。Rは、得られる化合物(3)のフッ素含量(フッ素含量とは、化合物の分子量に対するフッ素原子の割合をいう。)が30質量%以上となるように、その構造を調節するのが好ましい。
の炭素数は2〜20が好ましく、2〜10が特に好ましい。Rの炭素数は2以上であるのが、化合物(6)の回収をし易いため好ましい。Rは直鎖構造であっても、分岐構造であっても、環構造であっても、部分的に環を有する構造であってもよい。
としては、フッ素原子またはフッ素原子と塩素原子でハロゲン化されたアルキル基、または該アルキル基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が導入された基が好ましい。さらにRとしては、ペルフロオロ化された基が好ましく、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル基)、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基がとりわけ好ましい。
が上記以外の基である場合、目的とするRBF中の炭素−炭素単結合の1つ以上を、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合に置換した基が挙げられる。炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子には、水素原子やフッ素原子が結合しているのが好ましく、水素原子が結合しているのが好ましい。不飽和結合を形成する炭素原子には、液相中でのフッ素化反応によって、フッ素原子が付加し、水素原子はフッ素原子に置換される。このようなRの具体例としては、シクロヘキセニル基、フェニル基、アルケニル基、またはアルキニル基等が挙げられる。
本発明におけるRは、フッ素原子を含む基であるので、後述する連続プロセスを実施しやすい利点がある。さらに、RはRBFと同一の基であるのが後述する連続プロセスを実施する上で特に好ましく、その点でRおよびRBFは、ペルフルオロ化された1価有機基であるのが特に好ましい。
化合物(2)のXは、ハロゲン原子を示し、塩素原子またはフッ素原子が好ましく、後述する連続プロセスを実施する上では、フッ素原子であるのが好ましい。化合物(2)は、市販品を用いてもよく、また、本発明の方法で生成する化合物(6)を用いてもよい。さらに化合物(2)はRが下記RBFである化合物(6)が好ましく、とりわけRがRBF1である化合物(6A)が好ましい。
BFCOF・・・(6)、
BF1COF・・・(6A)。
ただし、RBF1は、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル基)、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基であり、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(部分クロロアルキル)基、ペルフルオロ(アルコキシアルキル)基、またはペルフルオロ(部分クロロアルコキシアルキル)基が挙げられ、ペルフルオロアルキル基または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロアルキル基が好ましい。RBFおよびRBF1の炭素数は2〜20が好ましく、2〜10が特に好ましい。
BFの例としては、−CFCF、−CFCFCF、−CFCFCFCF、−CFCFCl、−CFCFBr、−CFCFClCFCl、−CF(CF、−CFCF(CF、−CF(CF)CFCF、−C(CF、−CF(CF)OCFCFCF、−CF(CF)OCFCFCFClCFCl、−CF(CF)OCFCFBr、−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF等が挙げられる。
化合物(2)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CFCFCOF、
(CFCFCOF、
CFClCFClCFCOF、
CFClCFCFClCOF、
CFCFCFOCF(CF)COF、
CFClCFClCFCFOCF(CF)COF、
CFClCFCOF、
CFBrCFCOF、
CFBrCFOCF(CF)COF、
CFClCFClCFCF(CF)OCF(CF)COF、
CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COF、
CHCHCHOCF(CF)COF、
CFCFCFOCFCFCOF。
化合物(2)は公知の化合物であるか、公知の化合物から公知の製造方法により製造できる。たとえば、CFCFCFOCF(CF)COFは、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)の中間体として容易に入手できる。
化合物(1)と化合物(2)との反応は、公知の反応方法および条件を適用して実施できる。たとえば公知のエステル化反応の条件により実施できる。エステル化反応は、溶媒(以下、エステル化反応溶媒という。)の存在下に実施してもよいが、エステル化反応溶媒の不存在下に実施するのが容積効率の点から好ましい。
エステル化反応溶媒を用いる場合には、ジクロロメタン、クロロホルム、トリエチルアミン、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)、またはトリエチルアミンとテトラヒドロフランとの混合溶媒が好ましい。エステル化反応溶媒の使用量は、化合物(1)と化合物(2)の総量に対して50〜500質量%とするのが好ましい。
化合物(1)と化合物(2)との反応では、HXで表される酸が発生する。化合物(2)として、Xがフッ素原子である化合物を用いた場合にはHFが発生するため、アルカリ金属フッ化物(NaF、KFが好ましい。)やトリアルキルアミン等をHF捕捉剤として反応系中に存在させてもよい。HF捕捉剤は、化合物(1)または化合物(2)が酸に不安定な化合物である場合には、使用したほうがよい。また、HF捕捉剤を使用しない場合には、HFが気化しうる反応温度で反応を行い、かつ、HFを窒素気流に同伴させて反応系外に排出するのが好ましい。HF捕捉剤は化合物(2)に対して1〜10倍モルを用いるのが好ましい。
エステル化反応において、化合物(1)に対する化合物(2)の量は1.5〜10倍モルが好ましく、特には2〜5倍モルが好ましい。化合物(1)と化合物(2)との反応温度の下限は−50℃であるのが好ましく、上限は+100℃および溶媒の沸点のうち低い温度とするのが好ましい。また、反応時間は原料の供給速度と、反応に用いる化合物量に応じて適宜変更されうる。反応圧力は0〜2MPa(ゲージ圧。以下、圧力はゲージ圧で記載する。)が好ましい。
化合物(1)と化合物(2)との反応から生成する化合物(3)のフッ素含量が高いと、フッ素化反応の液相中への溶解性が格段に優れ、かつ、フッ素化反応の操作性がよく、高い反応収率の反応を達成できるので、化合物(3)のフッ素含量は30質量%以上であることが好ましい。フッ素含量は上記したようにRの構造により調節でき、フッ素化反応に用いる液相の種類に応じて適宜変更するのが好ましく、通常はフッ素含量を30〜86質量%にするのが好ましく、30〜76質量%にするのが特に好ましい。さらに、化合物(3)は、次工程の液相中でのフッ素化反応において、化合物(3)の気化や分解反応を防止し反応を円滑に行うため、また、取り扱いや精製を容易とするため、その分子量が200超〜1000であるのが好ましい。
化合物(3)としては、下記化合物(3−1)が好ましい。
BF1COOCH−Q−O−(CH−OCORBF1・・・(3−1)
ただし、
Q:−CH(CH)−または−CHCH−。
BF1:ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル基)、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基を示す。
BF1としては、ペルフルオロアルキル基または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2〜20の該基が特に好ましく、炭素数2〜10の該基がとりわけ好ましい。
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CF
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
化合物(1)と化合物(2)との反応で生成した化合物(3)を含む粗生成物は、目的に応じて精製を行っても、そのまま、つぎの反応等に用いてもよく、次の工程におけるフッ素化反応を円滑に行う観点から、精製するのが好ましい。
精製方法としては、粗生成物をそのまま蒸留する方法、粗生成物を希アルカリ水などで処理して分液する方法、粗生成物を適当な有機溶媒で抽出した後に蒸留する方法、シリカゲルカラムクロマトグラフィ等が挙げられる。
つぎに本発明においては、該化合物(3)をフッ素化する。フッ素化反応は、電解フッ素化、気相フッ素化によっても実施できるが、本発明では液相中でのフッ素化によって実施する。液相中でのフッ素化は、化合物(3)の分解反応を防ぎ、高収率で化合物(4)を生成させることのできる優れた方法である。
液相フッ素化法は、化合物(3)とフッ素とを液相中で反応させる方法である。液相は、反応の基質や生成物から形成されてもよく、通常は溶媒(以下、フッ素化反応溶媒という。)を必須とするのが好ましい。フッ素としては、フッ素ガス、または、不活性ガスで希釈したフッ素ガスを用いるのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガスが好ましく、経済的に有利である点から窒素ガスが特に好ましい。窒素ガス中のフッ素ガス量は特に限定されず、10vol%以上であるのが効率の点で好ましく、20vol%以上であるのが特に好ましい。
フッ素化反応溶媒としては、C−H結合を含まずC−F結合を必須とする溶媒が好ましく、ペルフルオロアルカン類、または、塩素原子、窒素原子、および酸素原子から選ばれる1種以上の原子を構造中に有する公知の有機溶剤をペルフルオロ化した有機溶剤が特に好ましい。また、フッ素化反応溶媒としては、化合物(3)の溶解性が高い溶媒を用いるのが好ましく、特に化合物(3)を1質量%以上溶解しうる溶媒が好ましく、5質量%以上溶解しうる溶媒が特に好ましい。
フッ素化反応溶媒の例としては、後述する化合物(5)、化合物(6)、ペルフルオロアルカン類(ミネソタ・マイニング・マニュファクチュアリング社製(以下、3M社製と記載する。)商品名:FC−72等)、ペルフルオロエーテル類(3M社製商品名:FC−75、FC−77等)、ペルフルオロポリエーテル類(3M社製商品名:クライトックス、デュポン社製商品名:フォンブリン、アウジモント社製商品名:ガルデン、ダイキン社製商品名:デムナム等)、クロロフルオロカーボン類、クロロフルオロポリエーテル類、ペルフルオロアルキルアミン(たとえば、ペルフルオロトリアルキルアミン等)、不活性流体(3M社製商品名:フロリナート)等が挙げられ、ペルフルオロトリアルキルアミン、化合物(5)、または化合物(6)が好ましい。特に化合物(5)または化合物(6)を用いた場合には反応後の後処理が容易になる利点があり好ましい。
フッ素化反応溶媒の量は、化合物(3)に対して、5倍質量以上が好ましく、特に10〜100倍質量が好ましい。
フッ素化反応の反応形式は、バッチ方式または連続方式が好ましい。またフッ素ガスは、バッチ方式で実施する場合においても、連続方式で実施する場合においても、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して使用するのが好ましい。
フッ素化反応においては、化合物(3)中の水素原子に対して、フッ素(F)の量が常に過剰量になるようにするのが好ましく、フッ素量は1.1倍当量以上(すなわち1.1倍モル以上)であるのが好ましく、特に1.5倍当量以上(すなわち、1.5倍モル以上)であるのが選択率の点から好ましい。フッ素の量は、反応の最初から最後まで過剰量であるのが好ましいことから、反応当初に反応器にフッ素化溶媒を仕込む際には、該フッ素化溶媒に充分量のフッ素を溶解させておくのが好ましい。
フッ素化反応は、−CHOCO−の切断反応を防止する条件で実施するのが好ましく、反応温度の下限は−60℃であるのが好ましく、上限は化合物(3)の沸点が好ましい。さらに、反応収率、選択率、および工業的実施のしやすさの点から、反応温度は−50℃〜+100℃が特に好ましく、−20℃〜+50℃がとりわけ好ましい。フッ素化反応の反応圧力は特に限定されず、大気圧〜2MPaが、反応収率、選択率、工業的な実施のしやすさの観点から特に好ましい。
さらに、フッ素化反応を効率的に進行させるためには、反応系中にC−H結合含有化合物を添加する、および/または、紫外線照射を行ってもよい。これらはフッ素化反応後期に行うのが好ましい。これにより、反応系中に存在する化合物(3)を効率的にフッ素化できる。
C−H結合含有化合物としては、化合物(3)以外の有機化合物であるのが好ましく、特に芳香族炭化水素が好ましく、とりわけベンゼン、トルエン等が好ましい。該C−H結合含有化合物の添加量は、化合物(3)中の水素原子に対して0.1〜10モル%であるのが好ましく、特に0.1〜5モル%であるのが好ましい。
また、C−H結合含有化合物は、フッ素が存在する反応系中に添加するのが好ましい。さらに、C−H結合含有化合物を加えた場合には、反応系を加圧するのが好ましい。加圧時の圧力としては、0.01〜5MPaが好ましい。紫外線照射は、公知の紫外線ランプなどを用い、0.1〜3時間行うのが好ましい。
化合物(3)を液相中でフッ素化する反応において、化合物(3)中の水素原子がフッ素原子に置換された場合には、HFが副生する。副生したHFを除去するには、反応系中にHF捕捉剤を共存させる、または反応器ガス出口でHF捕捉剤と出口ガスを接触させるのが好ましい。該HF捕捉剤としては、前述のものと同様のものが用いられ、NaFが好ましい。
反応系中にHF捕捉剤を共存させる場合の量は、化合物(3)中に存在する全水素原子量に対して1〜20倍モルが好ましく、1〜5倍モルが特に好ましい。反応器ガス出口にHF捕捉剤をおく場合には、(a)冷却器(10℃〜室温に保持するのが好ましく、特には約20℃に保持するのが好ましい。)(b)NaFペレット充填層、および(c)冷却器(−78℃〜+10℃に保持するのが好ましく、−30℃〜0℃に保持するのが好ましい)を(a)−(b)−(c)の順に直列に設置するのが好ましい。なお、(c)の冷却器からは凝集した液を反応器に戻すための液体返送ラインを設置してもよい。
化合物(3)のフッ素化反応では、化合物(4)が生成する。化合物(4)中のRBFはRと同一または異なる含フッ素1価有機基であり、異なる場合にはRがフッ素化された基である。たとえば、化合物(3)のRが、水素原子を有する基であり、かつ、該水素原子がフッ素化反応によりフッ素原子に置換された場合のRBFは、Rと異なる基である。一方、Rが水素原子を有しない基(たとえば、ペルフルオロ化された基等のペルハロゲン化基である場合)である場合のRBFは、Rと同一の基である。このうちRBFは、ペルフルオロ化された基であるのが好ましい。
BFの具体例としては、ペルフルオロ化された基である場合のRと同様の例が挙げられる。
化合物(4)におけるQはQがペルフルオロ化された基であり、Qが−CHCH−である場合のQは−CFCF−であり、Qが−CH(CH)−である場合のQは−CF(CF)−である。
化合物(4)としては、下記化合物(4−1)が好ましい。
BF1COOCF−Q−O−(CF−OCORBF1・・・(4−1)
ただし、
:−CF(CF)−または−CFCF−。
BF1:ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル基)、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基。RBF1としては、ペルフルオロアルキル基または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2〜20の該基が特に好ましく、炭素数2〜10の該基がとりわけ好ましい。
化合物(4)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CF
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF
フッ素化反応で得た化合物(4)を含む粗生成物は、そのまま次の工程に用いてもよく、精製して高純度のものにしてもよい。精製方法としては、粗生成物をそのまま常圧または減圧下に蒸留する方法等が挙げられる。
本発明においては、つぎに化合物(4)のエステル結合の分解反応により化合物(5)、または化合物(5)および化合物(6)を得る。エステル結合の分解反応は、−CFOCO−結合が切断し、1個の該結合から2個の−COF基が形成する反応である。
化合物(4)のエステル結合の分解反応は、熱分解反応、または求核剤もしくは求電子剤の存在下に行う分解反応により実施するのが好ましい。該反応により両末端に−COFを有する化合物(5)が生成する。また、通常の場合には、化合物(5)とともに化合物(6)も生成する。
熱分解反応は、化合物(4)を加熱することにより実施できる。熱分解反応の反応形式としては、化合物(4)の沸点とその安定性により選択するのが好ましい。
たとえば、気化しやすい化合物(4)を熱分解する場合には、気相で連続的に分解させて、化合物(5)を含む出口ガスを凝縮、回収する気相熱分解法を採用しうる。
気相熱分解法の反応温度は50〜350℃が好ましく、50〜300℃が特に好ましく、とりわけ150〜250℃が好ましい。また、該反応には直接は関与しない不活性ガスを反応系中に共存させてもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、二酸化炭素ガス等が挙げられる。不活性ガスは化合物(4)に対して0.01〜50vol%程度を添加するのが好ましい。不活性ガスの添加量が多いと、生成物の回収量が低減することがある。
一方、化合物(4)が気化しにくい化合物である場合には、反応器内で液のまま加熱する液相熱分解法を採用するのが好ましい。この場合の反応圧力は限定されない。通常の場合、化合物(5)を含む生成物は、より低沸点であることから、生成物を気化させて連続的に抜き出す反応蒸留形式による方法で得るのが好ましい。また加熱終了後に反応器中から一括して生成物を抜き出す方法であってもよい。この液相熱分解法の反応温度は50〜300℃が好ましく、特に100〜250℃が好ましい。
液相熱分解法で熱分解を行う場合には、無溶媒で行っても、溶媒(以下、分解反応溶媒という。)の存在下に行ってもよく、無溶媒または液相フッ素化と同一溶媒中で行うのが好ましい。分解反応溶媒としては、化合物(4)と反応せず、かつ化合物(4)と相溶性のあるもので、生成する化合物(5)と反応しないものであれば特に限定されない。また、分解反応溶媒としては、精製時に分離しやすいものを選択するのが好ましい。分解反応溶媒の具体例としては、ペルフルオロトリアルキルアミン、ペルフルオロナフタレンなどの不活性溶媒、クロロフルオロカーボン類等のなかでも高沸点であるクロロトリフルオロエチレンオリゴマーが好ましい。また、分解反応溶媒の量は化合物(4)に対して0.10倍〜10倍質量が好ましい。
また、化合物(4)を液相中で求核剤または求電子剤と反応させてエステル結合の分解反応を行う場合、該反応は、無溶媒で行っても、分解反応溶媒の存在下に行ってもよく、無溶媒または液相フッ素化と同一溶媒中で行うのが好ましい。求核剤としてはFが好ましく、特にアルカリ金属のフッ化物由来のFが好ましい。アルカリ金属のフッ化物としては、NaF、NaHF、KF、CsFなどがよく、これらのうち経済性からNaFが特に好ましい。エステル結合の分解反応を無溶媒で行うことは、化合物(4)自身が溶媒としても作用し、反応生成物中から溶媒を分離する必要もないため特に好ましい。
また、Fを求核剤とするエステル結合の分解反応を行う場合には、化合物(4)のエステル結合中に存在するカルボニル基にFが求核的に付加し、RBFCFが脱離するとともに化合物(5)が生成する。RBFCFからはさらにFが脱離して化合物(6)が生成する。脱離したFは別の化合物(4)の分子と同様に反応する。したがって、反応の最初に用いる求核剤は触媒量であってもよく、過剰に用いてもよい。F等の求核剤の量は化合物(4)に対して1〜500モル%が好ましく、1〜100モル%が特に好ましく、とりわけ5〜50モル%が好ましい。反応温度は、−30℃〜溶媒の沸点または化合物(4)の沸点までの間が好ましく、−20℃〜250℃が特に好ましい。液相熱分解法も、蒸留塔をつけた反応装置で蒸留をしながら実施するのが好ましい。
化合物(5)とは、下記化合物である。
FCO(CFO(CFCOF、
FCOCF(CF)OCFCFCOF。
また、化合物(6)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CFCFCOF、
(CFCFCOF、
CFClCFClCFCOF、
CFClCFCFClCOF、
CFCFCFOCF(CF)COF、
CFClCFClCFCFOCF(CF)COF、
CFClCFCOF、
CFBrCFCOF、
CFBrCFOCF(CF)COF、
CFClCFClCFCF(CF)OCF(CF)COF、
CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COF、
CFCFCFOCFCFCOF。
本発明の製造方法の好ましい態様としては、RおよびRBFが、(CFCF−またはCF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−である場合の方法が挙げられる。
化合物(3)および化合物(4)のRおよびRBFが、それぞれ上記の基である下記化合物は新規な化合物である。
(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CF・・・(3−12)、
(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CF・・・(4−12)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(3−13)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(4−13)。
本発明方法により得られる化合物(5)においては、末端の−CFCOF部分および−CF(CF)COF部分は、それぞれ公知の熱分解反応(Methods of Organic Chemistry,4,Vol.10b,Part 1,p.703.およびJ.Fluorine Chem,,94,65−68(1999),J.Org.Chem.,34,1841(1969)等)によって、−CF=CFに変換されうる。
たとえば、化合物(5)は熱分解反応により、フッ化ビニル基を2個有する下記化合物(7)に変換され得る。
CF=CF−O−CF=CF・・・(7)。
また、化合物(5)の末端の−COF基を−COOR(Rは1価有機基であり、アルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。)に変換した後に熱分解することにより式CF=CFO(CFCOOCHで表される化合物が導かれる。該化合物は有用なフッ素樹脂原料である。
また、化合物(5)の片末端の−COF基にヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)を反応させ、つぎに前記と同様の方法で−COORに変換することによって、CF=CFO(CFO(CFCOOCH(下記化合物(5−4))等の有用なフッ素樹脂原料に導くこともできる。化合物(5−4)から得られるフッ素樹脂は、イオン交換膜用のフッ素樹脂として有用であり、従来の方法よりも経済的に有利かつ工業的に有利な方法で入手でき、かつ従来よりも優れた耐久性をフッ素樹脂である。
上記方法の例としては、下記化合物(5−12)にHFPOをCsFの存在下に反応させて下記化合物(5−2)とし、該化合物(5−2)を熱分解して下記化合物(5−3)とし、該化合物(5−3)にメタノールを反応させることにより下記化合物(5−4)を製造する方法が挙げられる。
FCO(CFO(CFCOF・・・(5−12)、
FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF・・・(5−2)、
CF=CFO(CFO(CFCOF・・・(5−3)、
CF=CFO(CFO(CFCOOCH・・・(5−4)。
上記製造方法における化合物(5−2)、化合物(5−3)および化合物(5−4)は、文献未記載の新規化合物である。化合物(5−4)の繰返単位を含むフッ素樹脂は、耐久性に優れたフッ素樹脂になりうる。
本発明の製造方法において、RとRBFが同一構造である場合には、化合物(6)と化合物(2)は同一化合物になる。この場合には、化合物(6)を回収して化合物(1)と反応させる化合物(2)として用いることにより化合物(5)を製造することがでる。該製造の方法は連続プロセスとして実施できるより効率的な方法である。化合物(6)を回収する場合には、RBFの炭素数は2以上にするのが好ましく、特に2〜20にするのが好ましく、とりわけ4〜10にするのが好ましい。
本発明の製造方法によれば、安価に入手できる原料から、短い工程かつ高い収率でジアシルフルオリド化合物(5)が製造できる。また、該化合物(5)の末端−COF基の反応性を利用して、重合性のフッ化ビニル基を有する種々の化合物が製造できる。さらに、本発明によれば、ジアシルフルオリド化合物(5)の製造に有用な新規な化合物が提供される。
【実施例】
以下に本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。なお、以下においてガスクロマトグラフィをGCと記す。また、GCのピーク面積比より求まる純度をGC純度、NMRスペクトルのピーク面積比より求まる純度をNMR純度、NMRから求まる収率をNMR収率と記す。19F−NMRの定量には、内部標準試料としてペルフルオロベンゼンを用いた。また、テトラメチルシランはTMSと記す。また、NMRスペクトルデータは、みかけの化学シフト範囲として示した。
【実施例1】
(例1−1)(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CFの製造例
HO(CHO(CHOH(10g)をオートクレーブに入れて密閉状態で撹拌し、FCOCF(CF(36.95g)を室温で7時間かけて注入した。その間、時々注入を止めて密閉系を開放して窒素ガスをバブリングした。注入終了後、室温で1時間撹拌し、密閉系を開放して窒素ガスをバブリングした。反応液をNaHCO飽和水溶液(100mL)で中和し、R−225(100mL)で2回に分けて抽出した。有機相をNaHCO飽和水溶液(50mL)で洗浄し、さらにNaCl飽和水溶液(50mL)で洗浄した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、粗液36.13gを得た。
粗液の一部(9.07g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:R−225)で精製して、下記NMRスペクトルで同定される標記化合物を得た(8.02g)。NMR収率は81%であった。GC純度は98%であった。生成物のNMRスペクトル
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.99(m,4H),3.48(t,4H),4.51(t,4H)。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−74.4(12F),−180.8(2F)。
(例1−2)(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CFの製造例
500mLのニッケル製オートクレーブに、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下、R−113と記す。)(323g)を加えて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には−10℃に保持した冷却器を設置した。窒素ガスを1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20vol%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を13.22L/hで1時間吹き込んだ。
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1−1で得た(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CF(5g)をR−113(50g)に溶解した溶液を1.5時間かけて注入した。反応器内の温度を25℃から40℃にまで昇温すると同時に、内圧を0.15MPaに調節し、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、ベンゼンを0.01g/mL含むR−113溶液(9mL)を注入した。温度を40℃に保ちながら、15分後に上記のベンゼン溶液(6mL)を注入した。さらに15分後に上記のベンゼン溶液(6mL)を注入した。ベンゼンの注入総量は0.215g、R−113の注入総量は21mLであった。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で1時間吹き込んだ後、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物は標記化合物を主生成物とし、NMR収率は92%であった。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
19F−NMR(376.0MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−74.6(12F),−83.8(4F),−86.8(4F),−129.4(4F),−181.6(2F)。
(例1−3)液相中でのエステル結合の分解反応によるFCO(CFO(CFCOFの製造例
例1−2で得た(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CFとCF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COFの7:5(モル比)混合物(342g)のKF粉末(4.8g)とともにフラスコに仕込み、激しく撹拌を行いながらオイルバス中で80℃で3時間加熱した。蒸留装置に変えて、沸点100℃以下の留分を集めて、液状サンプル(75g)を回収した。NMRスペクトルより、標記化合物が主成分であることを確認した。標記化合物のNMR収率は34%であった。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):24.8(2F),−85.8(4F),−121.6(4F)。
(例1−4)HFPOの付加反応によるFCOCF(CF)O(CFO(CFCOFの製造例
ハステロイC製の2Lのオートクレーブに、脱水乾燥したCsF(30g)を仕込んだ後、反応器内を脱気した。この反応器中に例1−3の方法で得たFCO(CFO(CFCOF(1245g)とテトラグライム(153g)を仕込み、反応器を−20℃に冷却して、反応温度が0℃以上に上がらないように供給量をコントロールしながらHFPO(674g)を連続的に供給した。反応終了後、分液ロートによりフルオロカーボン層(下層)(1836g)を回収した。フルオロカーボン層に含まれる化合物がFCOCF(CF)O(CFO(CFCOFであることを19F−NMR、GC−Massスペクトル(EI検出)解析により決定した。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):26.4(1)、24.6(1F)、−78.5(1F)、−81.6(3F)、−82.2(2F)、−85.0(2F)、−86.0(1F)、−120.7(2F)、−128.3(2F)、−130.1(1F)。
EI−MS;313、166。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):26.4(1F)、24.6(1F)、−78.5(1F)、−81.6(3F)、−82.2(2F)、−85.0(2F)、−86.0(1F)、−120.7(2F)、−128.3(2F)、−130.1(1F)。
EI−MS;313、166。
(例1−5)FCOCF(CF)O(CFO(CFCOFの熱分解反応によるCF=CFO(CFO(CFCOFの製造例
ガラスビーズ(3500ml、中心粒度160μm、比重1.47g/mL)を充填した流動層の管型反応器(内径100mm、高さ500mm、SUS製)を、筒型マントルヒーターを用いて内温275℃に加熱した。管型反応器の出口には、ドライアイスで冷却したガラストラップを設置した。
つぎに、窒素ガス(14.7mol/h)と、例1−4で得た原料FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF(0.94mol/h、447g/h)と、蒸留水(1.5g/h)を混合し、150℃に加熱することで気化させ、その混合ガスを管型反応器の底部より導入し、ガラスビーズと接触させて反応させた。この反応を4時間続け、原料1788gを供給した後、原料と蒸留水の供給を停止し窒素のみを流通させ、ガラスビーズの空焼きを実施した。空焼きを実施した後、ガラストラップに留出した液体(1364g)を回収した。液体をガスクロマトグラフ、19F−NMR、EI−MSで分析した結果、収率71.0%で標記化合物の生成を確認した。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):24.6(1F)、−83.4(2F)、−85.2(2F)、−85.3(2F)、−112.5(1F)、−120.8(2F)、−121.0(1F)、−128.5(2F)、−134.7(1F)。
EI−MS;410(M)。
(例1−6)CF=CFO(CFO(CFCOFにメタノールを付加させることによるCF=CFO(CFO(CFCOOCHの製造例
ハステロイC製の2Lのオートクレーブに、例1−5の方法で得たCF=CFO(CFO(CFCOF(2200g)を入れた。反応器を冷却して、常圧で内温が30℃以下に保たれるようにゆっくりとメタノール(190g)を導入した。同時に充分に撹拌しながら、窒素ガスをバブリングさせ、反応により生じたHFを系外に追い出した。メタノールの全量を投入後、30℃でさらに12時間、窒素ガスをバブリングさせ、2260gの生成物を得た。生成物がCF=CFO(CFO(CFCOOCHであることを19F−NMR、13C−NMR、C−F2次元NMR、GC−Massスペクトル(EI検出、CI検出)解析により決定した。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−84.1(2F、tt、12.2Hz、6.1Hz)、−85.7(2F、m)、−85.9(2F、t、12.2Hz)、−114.3(1F、dd、85Hz、66Hz)、−122.0(2F、s)、−122.3(1F、ddt、113Hz、85Hz、6Hz)、−129.5(2F、s)、−135.9(1F、ddt、113Hz、66Hz、6Hz)。
13C−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CDCl)δ(ppm):54.1、106.5、107.2、115.7、116.2、116.3、129.8、147.4、158.9。
各ピークの帰属はC−F2次元NMRも併用して行った。
CI−MS(メタン);423(M+1)。
EI−MS;325(M−CFCFO)。
【実施例2】
(例2−1)TsOCH(CH)CHOC(CH(ただし、Tsはp−トルエンスルホニル基を示す。以下同様。)の製造例
4つ口フラスコにHOCH(CH)CHOC(CH(400.54g)を仕込み、ピリジン(1000mL)を加えて撹拌した。氷浴で冷却し、内温を5℃に保ちながらp−トルエンスルホン酸クロリド(605.82g)を2時間かけて少しずつ加えた。反応液を水(1L)に加えて、クロロホルム(500mL)で2回抽出し、2層に分離した液を分液した。有機層を水(1L)で洗浄し、NaHCO(1L)で2回洗浄し、さらに水(1L)で7回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。濾液をエバポレーターで濃縮して、約9%のピリジンを含む標記化合物(909.93g)を得た。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.03(s,9H)、1.33(d,J=6.3Hz,3H)、2.43(s,3H)、3.34(m,2H)、4.58(m,1H)、7.31(m,2H)、7.81(m,2H)。
(例2−2)HO(CHOCH(CH)CHOC(CHの製造例
ジオキサン(3L)に水酸化カリウム(274.27g)およびHO(CHOH(371.93g)を加え、例2−1で得たTsOCH(CH)CHOC(CH(700g)を少量ずつ加えた。16時間加熱還流し、放冷後、反応液を氷(500g)に注ぎ、2N塩酸で中和し、濃縮後析出した塩を濾過した。濾液をジクロロメタン(250mL)で抽出し、有機層を水(500mL)で洗浄し、その操作を17回繰り返した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、濾液をエバポレーターで濃縮して、これをシリカゲルクロマトグラフィで精製して、標記化合物(203.77g)を得た。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.15(d,J=6.2Hz,3H)、1.19(s,9H)、1.81(m,2H)、3.2(bs,1H)、3.24−3.36(m,2H)、3.54−3.68(m,2H)、3.75−3.86(m,3H)。
(例2−3)HO(CHOCH(CH)CHOHの製造例
丸底フラスコに例2−2で得たHO(CHOCH(CH)CHOC(CH(203.39g)を仕込み、5N塩酸(1L)を加え、室温で43時間撹拌した。反応液をエバポレーターで濃縮し、最後にトルエンを加えて、エバポレーターで濃縮して標記化合物(131g)を得た。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.12(d,J=6.2Hz,3H)、1.85(m,2H),3.45(m,1H)、3.54−3.88(m,6H)、4.55(bs,2H)。
(例2−4)CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCFの製造例
オートクレーブにCF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COF(120.69g)を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、例2−3で得たHO(CHOCH(CH)CHOH(15.1g)を内温を30℃以下に保ちながら2時間でフィードした。その後、窒素ガスを吹き込みながら室温で一夜撹拌し、氷が入った飽和NaHCO水溶液(500mL)に反応液を加えた。
得られた粗液をR−225(250mL)で2回抽出し、下層を飽和NaHCO水溶液(250mL)で2回洗浄し、さらに飽和NaCl水溶液(250mL)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、エバポレーターでの濃縮により粗液を得た。粗液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/R−225=3:2(体積比))で精製して標記化合物(86.3g)を得た。GC純度は99%であった。NMR収率は75%であった。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.18(d,J=6.3Hz,3H),1.90〜1.98(m,2H),3.45〜3.71(m,3H),4.18〜4.53(m,4H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79(2F),−80.2(6F),−81(10F),−82(6F),−85(2F),−129.5(4F),−131(2F),−145(2F)。
(例2−5)CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCFの製造例
500mLのニッケル製オートクレーブに、R−113(323g)を加えて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット、−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。窒素ガスを1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを9.90L/hで1時間吹き込んだ。
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例2−4で得たCF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF(25g)をR−113(250g)に溶解した溶液を7.0時間かけて注入した。反応器内の温度を25℃から40℃にまで昇温すると同時に、内圧を0.15MPaに調節し、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、ベンゼンを0.01g/mL含むR−113溶液(9mL)を注入した。注入後、ベンゼン溶液注入口を閉め、温度を40℃に保ちながら15分攪拌した。次に内圧0.15MPa、内温40℃に保ちながら、上記のベンゼン溶液(6mL)を注入した後、注入口を閉め、15分攪拌した。更に同様の操作を1回行った。ベンゼンの注入総量は0.215g、R−113の注入総量は21mLであった。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で1時間吹き込んだ後、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物は標記化合物を主生成物とし、NMR収率は84%であった。生成物のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
19F−NMR(376.0MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79.0〜81.3(11F),−81.9〜82.7(16F),83.5〜86.0(4F),−86.5〜89.0(4F),−129.3(2F),−130.2(4F),−131.9(2F),−145.6(3F)。
(例2−6)液相中でのエステル結合の分解反応によるFCOCF(CF)O(CFCOFの製造例
例2−5で得たCF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF(748.25g)をKF粉末(3.11g)とともにフラスコに仕込み、激しく撹拌を行いながらオイルバス中で100℃で5時間加熱した。フラスコ上部には90℃に温度調節した還流器を通して液状サンプル(115.23g)を回収した。NMRスペクトルより、標記化合物が主成分であることを確認した。さらに、反応残留物より蒸留して標記化合物28%を含む留分115.71gを回収した。合計収率は78%であった。
19F−NMR(376MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):26.6(1F),25.0(1F),−80.0〜−80.6(1F),−81.4(3F),−87.7〜−88.3(1F),−120.3(2F),−130.2(1F)。
【産業上の利用可能性】
本発明の方法によれば、安価で入手容易な出発物質を用いて、短い工程で、フッ素樹脂の製造原料として有用な化合物を高収率で得ることができる。また、本発明によれば、フッ素樹脂の製造原料として有用な新規な化合物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(1)と下記化合物(2)とを反応させて下記化合物(3)とし、該化合物(3)を液相中でフッ素化して下記化合物(4)とし、次に該化合物(4)のエステル結合の分解反応により化合物(5)、または化合物(5)および化合物(6)を得ることを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
HOCH−Q−O−(CH−OH・・・(1)、
COX・・・(2)、
COOCH−Q−O−(CH−OCOR・・・(3)、
BFCOOCF−Q−O−(CF−OCORBF・・・(4)、
FCO−Q−O−(CF−COF・・・(5)、
BFCOF・・・(6)。
ただし、
Q:−CH(CH)−または−CHCH−。
:−CF(CF)−または−CFCF−。
X:ハロゲン原子。
:含フッ素1価有機基。
BF:Rと同一の基またはRがフッ素化された基。
【請求項2】
Xがフッ素原子である化合物(2)として、エステル結合の分解反応で得た化合物(6)を用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
化合物(3)のフッ素含量が30〜76質量%であり、かつ分子量が200超〜1000である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
Qが−CHCH−であり、Qが−CFCF−である請求項1、2、または3に記載の製造方法。
【請求項5】
下式で表わされる化合物から選ばれるいずれかの化合物。
BF1COOCH−Q−O−(CH−OCORBF1・・・(3−1)
BF1COOCF−Q−O−(CF−OCORBF1・・・(4−1)
ただし、
Q:−CH(CH)−または−CHCH−。
:−CF(CF)−または−CFCF−。
BF1:ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロ(モノまたはジクロロアルキル)基、またはこれらの基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基。
【請求項6】
BF1が、炭素数2〜20のペルフルオロアルキル基、または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロアルキル基である請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
下式で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物。
(CFCFCOO(CHO(CHOCOCF(CF・・・(3−12)、
(CFCFCOO(CFO(CFOCOCF(CF・・・(4−12)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCHCH(CH)O(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(3−13)、
CF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOCFCF(CF)O(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF・・・(4−13)。
【請求項8】
下式(5−12)で表わされる化合物にヘキサフルオロプロピレンオキシドをCsFの存在下に反応させて下式(5−2)で表わされる化合物とし、該式(5−2)で表わされる化合物を熱分解して下式(5−3)で表わされる化合物とし、該式(5−3)で表わされる化合物にメタノールを反応させることを特徴とする下式(5−4)で表わされる化合物の製造方法。
FCO(CFO(CFCOF・・・(5−12)、
FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF・・・(5−2)、
CF=CFO(CFO(CFCOF・・・(5−3)、
CF=CFO(CFO(CFCOOCH・・・(5−4)。
【請求項9】
式(5−12)で表わされる化合物が、請求項4に記載の製造方法によって得た化合物である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
下式で表わされる化合物から選ばれるいずれかの化合物。
FCOCF(CF)O(CFO(CFCOF・・・(5−2)
CF=CFO(CFO(CFCOF・・・(5−3)
CF=CFO(CFO(CFCOOCH・・・(5−4)

【国際公開番号】WO2004/080940
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503471(P2005−503471)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001971
【国際出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】