説明

ペルフルオロポリエーテル誘導体

分解しにくく、使用時に劣化の問題がなく、潤滑油またはコーティング剤として有用な新規なペルフルオロポリエーテル誘導体を提供する。
下式(1)で表される化合物。


ただし、mは3〜200の整数、p、q、r、およびsはそれぞれ独立に0〜100の整数を示す。p、q、r、およびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、これらの単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、潤滑剤およびコーティング剤等として有用な、式(1)で表される化合物、すなわち新規なペルフルオロポリエーテル誘導体に関する。
【背景技術】
ペルフルオロ化されたポリエーテル化合物は、潤滑油またはコーティング剤等として広く使用される化合物である。該化合物のうち、末端基が−CHOHである誘導体は特に有用であることが知られている。たとえば、下式(A)で表される化合物(ただし、式(A)中のaおよびbはそれぞれ1以上の整数を示す。)が知られている(たとえば、特開平6−44557号公報(第2頁)およびC.Tonelliら、J.Fluorine Chem.、95巻、1999年、51−70頁参照)。

しかし、式(A)で表される化合物は、分子構造中に−(CFO)−単位に由来する−OCFO−単位を必須とするため、該単位に基づく分解反応が起り、劣化の原因になりうる等の問題があった(たとえば、W.Fongら、IEEE Transactions on Magnetics、35巻2号、1999年3月、911−912頁、J.Scheirs著、Modern Fluoropolymers、John Wiley & Sons Ltd.,1997年、466−468頁、およびP.H.Kasai、Macromolecules、25巻、1992年、6791頁参照)。
−OCFO−単位が存在しない化合物としては、式(A)の末端基(−CHOH)が−COOH基である化合物が知られている。しかし、末端が−COOH基である化合物は、高温条件下におかれると、極性の末端基(−COOH)が容易に脱カルボニル化することによって喪失してしまうために、表面被覆性が短時間で回復する性質(自己修復性ともいう。)が低下する欠点があった。また−COOH基の酸性が大きいために、腐食性の原因となりうる欠点があった。
また下式(B)で表される一般式が、界面活性剤として記載される文献がある(特開平9−111286号公報(第1頁)参照)。しかし、該文献にはqが0である式(B)で表わされる化合物の記載はない。また具体的に開示される化合物は、いずれも公知のペルフルオロポリエーテル系界面活性剤であり、これらはqが1以上である化合物に該当する。

ただし、式(B)で表される化合物における、RはFまたは親水性基を、RはFまたはCFを表わす。Rは親水性基を表わす。e、fは0〜1000の整数であり、そのうち1つは0でもよい。また括弧内に示される各オキシパーフルオロ基は、この順に並んでいる必要はなく、ランダム重合でもよい。また各オキシパーフルオロ基が交互に配列する交互重合であってもよい。
【発明の開示】
本発明は、上記の問題を解決する目的でなされたものであり、分解しにくく、使用時に劣化の問題がなく、潤滑油またはコーティング剤として有用な、式(1)で表される化合物、すなわち新規なペルフルオロポリエーテル誘導体の提供を目的とする。
本発明は、下式(1)で表される化合物、および該化合物の2種以上からなるペルフルオロポリエーテル誘導体組成物を提供する。

ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し3〜200の整数、rおよびsはそれぞれ独立に−(CHCHO)−単位の数を示し0〜100の整数、pおよびqはそれぞれ独立に−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示し0〜100の整数である。rおよびpがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、または、qおよびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
また本発明は、下式(1−1)で表される化合物、および該誘導体の2種以上からなるペルフルオロポリエーテル誘導体組成物を提供する(ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し、3〜200の整数である。)。

さらに本発明は、下式(1)で表される化合物および有機溶媒を含む溶液組成物を提供する。

ただし、式中の記号は前記と同じ意味を示す。
本発明によれば、分解しにくく、使用時に劣化や腐食の問題がなく、潤滑油またはコーティング剤として有用な新規なペルフルオロポリエーテル誘導体が提供される。本発明のペルフルオロポリエーテル誘導体は、安価で入手容易な原料から製造できる化合物である。また本発明によれば、ペルフルオロポリエーテル誘導体と有機溶媒を含む溶液組成物が提供される。該溶液組成物は、表面処理剤等として有用である。この表面処理剤を基材表面に塗布し、つぎに乾燥してなる処理基材の表面には、ピンホールなどの欠陥がなく、透明であり、屈折率が低く、耐熱性、耐薬品性に優れた被膜が形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
本明細書の以下の説明においては、特に記載しない限り、式(1)で表される化合物に関する説明は、式(1−1)で表される化合物においても同様に適用される。
本発明は、下式(1)で表される化合物、および式(1−1)で表される化合物を提供する。

ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し3〜200の整数、rおよびsはそれぞれ独立に−(CHCHO)−単位の数を示し0〜100の整数、pおよびqはそれぞれ独立に−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示し0〜100の整数である。rおよびpがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、または、qおよびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
式(1)で表される化合物において−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位とが連結した構造が存在する場合、これらの単位の並び方は特に限定されない。たとえばrおよびpが1である場合(またはqおよびsが1である場合)の末端の水酸基側に存在する単位は、−(CHCHO)−単位であっても−(CHCH(OH)CHO)−単位であってもよい。
また、rおよびpのいずれか一方が2以上であり、他方が1以上である場合の−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位との並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。同様にqおよびsの一方が2以上であり、他方が1以上である場合の−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位との並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
式(1)で表される化合物、および式(1−1)で表される化合物においては、mは3〜100の整数であるのが好ましく、特に3〜70の整数であるのが好ましく、5〜50の整数であるのがとりわけ好ましい。
式(1)で表される化合物は、−(CHCHO)−単位および/または−(CHCH(OH)CHO)−単位が存在する化合物、これらの単位が存在しない場合の式(1−1)で表される化合物に分類できる。
−(CHCHO)−単位および/または−(CHCH(OH)CHO)−単位が存在する式(1)で表わされる化合物においては、rとsとはそれぞれ独立に1〜100の整数、および/または、pとqとはそれぞれ独立に1〜100の整数である。
−(CHCHO)−単位を示すrおよびsは、それぞれ独立に1〜10の整数が好ましく、1〜2の整数が特に好ましく、とりわけ1が好ましい。−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示すpおよびqは、それぞれ独立に1〜10の整数が好ましく、1〜2の整数が特に好ましく、1がとりわけ好ましい。
−(CHCHO)−単位および/または−(CHCH(OH)CHO)−単位が存在する式(1)で表わされる化合物においては、−(CHCHO)−単位のみが存在する下式(1c)で表される化合物、または−(CHCH(OH)CHO)−単位のみが存在する下式(1d)で表される化合物が好ましい。

ただし、m、r、s、p、およびqは前記と同じ意味を示し、好ましい態様も前記のとおりである。さらに式(1c)においてはrとsが同時に1である化合物が好ましく、式(1d)においてはpとqとが同時に1である化合物が好ましい。
−(CHCHO)−単位および−(CHCH(OH)CHO)−単位が存在しない場合の式(1−1)で表される化合物においては、mが前記の好ましい範囲にある化合物が好ましい。
本発明における式(1)で表される化合物は、1種の化合物としても存在しうるが、m、r、s、p、およびqの値が、それぞれ異なる2種以上の化合物からなる組成物としても存在し、入手しやすさの点からは、後者であるのが好ましい。
すなわち、本発明は式(1)で表される化合物の2種以上からなるペルフルオロポリエーテル誘導体組成物を提供する。該組成物は下式(1b)で表される平均分子式で示されうる。
また式(1−1)で表される化合物が2種以上からなる組成物は、下式(1−1b)で表される平均分子式で表すことができる。

ただし式(1b)において、wは−(CFCFO)−単位数の平均値を示し、3〜200の正数であり、3〜100の正数が好ましい。jおよびkは−(CHCHO)−単位数の平均値を示し、それぞれ独立に0〜100の正数であり、1〜10の正数が好ましく、1〜2の正数が特に好ましい。xおよびyは−(CHCH(OH)CHO)−単位数の平均値を示し、それぞれ独立に0〜100の正数であり、1〜10の正数が好ましく、1〜2の正数が特に好ましい。また式(1b)中に−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位とが連結した構造を有する場合、これらの単位の並び方は特に限定されない。また、−(CHCHO)−単位および−(CHCH(OH)CHO)−単位のいずれかが2単位以上存在し、他方が1単位以上存在する場合の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
式(1−1b)において、tは−(CFCFO)−単位数の平均値を示し、3超200未満の正数を示す。tの範囲は、3超100以下の正数であるのが好ましく、3超70以下の正数であるのが特に好ましく、5〜50の正数であるのがとりわけ好ましい。
本発明の式(1)で表される化合物は、−OCFO−で表される単位が実質的に存在しない化合物である。−OCFO−で表される単位が実質的に存在しない化合物とは、式(1)で表される化合物の構造中に−(OCFO)−単位が実際に存在しない化合物であるか、または該単位が仮に存在したとしても、−(OCFO)−単位を検出しうる通常の分析手法(たとえば、19F−NMR等。)を用いて定量しようとしても、検出できない量であることを意味する。
式(1−1)で表される化合物は、該化合物に対応する炭素骨格を有するポリエチレングリコールから本発明者によるWO02/4397等に記載される方法と同様の方法で製造できる。ポリエチレングリコールは種々の分子量のものが安価に市販されており、容易に入手できる。また式(1)で表される化合物におけるr、p、q、およびsがそれぞれ独立に1以上である化合物は、式(1−1)で表される化合物から後述する方法で製造できる。
すなわち、式(1−1)で表される化合物の製造方法は、下式(a)で表されるポリエチレングリコールを下式(b)で表されるペルフルオロアシルフルオリドと反応させて下式(c)で表される部分フッ素化エステルを得て、該部分フッ素化エステルを液相でフッ素と反応させて式(d)で表される化合物とし、該式(d)で表される化合物のエステル結合を分解させることによって、下式(e)で表される化合物を得る。つぎに式(e)で表される化合物をエステル化することによりRがアルキル基である式(f)で表される化合物を得る。または、式(e)で表される化合物を加水分解することによってRが水素原子である式(f)で表される化合物を得る。さらにこれらの方法で得た式(f)で表される化合物を還元する方法、が挙げられる。該方法で製造した化合物(1−1)は、実質的に−OCFO−単位が存在しない化合物である。

ただし式中において、mは前記の意味と同じ意味を示す。kはm以上の整数を示し、Rはペルフルオロ化された1価の有機基を示し、ペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基が好ましい。Rはアルキル基または水素原子を示す。
また、Rがアルキル基である式(f)で表される化合物は、前記方法によって得た式(d)で表される化合物と式R−OH(ただし、RはRに対応するアルキル基を示す。)で表されるアルコール化合物とをエステル交換することにより得る方法でも得られる。
式(c)で表される化合物のフッ素化反応においては、炭素−炭素結合の切断反応が起こりうることから、式(a)および式(c)における−(CHCHO)−単位の数(k)は、mと同じ整数であるか、またはmより多い整数である。該製造方法の出発物質である式(a)で表される化合物は、通常の場合、−(CHCHO)−単位の数が異なる2種以上の混合物であるものが入手しやすいことから、式(1−1)で表される化合物もまた、対応する−(CFCFO)−単位の数が異なる2種以上の化合物として製造するのが、製造しやすさの点で好ましい。
上記の反応において、式(a)で表される化合物のエステル化反応、式(b)で表される化合物のフッ素化反応、式(c)で表される化合物のエステル結合の分解反応は、WO02/4397等に記載される方法にならって実施できる。また式(e)で表される化合物の式(f)で表される化合物への変換(エステル化反応、加水分解反応)は、公知の方法にしたがって実施できる。
化合物(f)の還元反応は、特開平10−72568号等に記載される方法にしたがって実施できる。該還元反応は、NaBH、ボラン−THF、リチウムアルミニウムヒドリド等の還元剤を用いて実施するのが好ましい。
さらにrおよびsがそれぞれ独立に1以上である式(1)で表される化合物は、式(1−1)で表される化合物にエチレンカーボネートまたはエチレンオキシドを付加反応させることにより製造できる。また、pおよびqがそれぞれ独立に1以上である式(1)で表される化合物は、式(1−1)で表される化合物に2,3−エポキシ−1−プロパノールを付加反応させることによって製造できる。エチレンカーボネート、エチレンオキシド、および2,3−エポキシ−1−プロパノールの付加反応は、目的とする化合物の構造にあわせて、これらの化合物を任意の量、任意の順序で付加反応させる方法によって実施できる。
これらの付加反応は、公知の方法にしたがって実施できる。また付加反応は、溶媒の存在下で実施しても、不存在下で実施してもよく、式(1−1)で表される化合物と、エチレンカーボネート、エチレンオキシド、および2,3−エポキシ−1−プロパノールとの相溶性を改善できることから溶媒の存在下で行なうのが好ましい。溶媒としては、炭化水素系エーテル、およびハイドロクロロフルオロカーボンが好ましく、(t−ブチル)メチルエーテルが特に好ましい。ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、公知のハイドロクロロフルオロカーボン類が挙げられ、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、2,2,2−トリフルオロ−1,1−ジクロロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
上記付加反応によれば、式(1−1)で表される化合物の両末端に存在する水酸基に、−(CHCHO)−単位または−(CHCH(OH)CHO)−単位が1単位ずつ付加した生成物が収率よく得られる。その理由は、式(1−1)で表される化合物の水酸基と、付加反応によって生成する水酸基(すなわち、−CHCHOHまたは−CHCH(OH)CHOHとして存在する水酸基)とは、酸性度等の性質が異なることから、付加反応によって生成する水酸基に対しては、さらなる付加反応が起こりにくいためと考えられる。
該方法で製造された式(1)で表される化合物は、通常の場合、目的に応じた精製処理を行って目的とする用途に用いるのが好ましい。
本発明が提供する式(1)で表される化合物は、低屈折率性、耐熱性、潤滑性、接着性、防眩性、防湿性、防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐摩耗性、および耐静電気性等の機能を基材表面に付与する表面処理剤、または潤滑油等の用途に有用に用いうる化合物である。
該用途に用いる場合には、通常、式(1)で表される化合物は有機溶媒との溶液組成物として用いるのが好ましい。すなわち本発明は式(1)で表される化合物および有機溶媒を含む溶液組成物を提供する。該組成物中に含まれうる式(1)で表される化合物としては、1種類であっても2種以上であってもよく、2種以上であるのが好ましい。有機溶媒としては、特に限定されず、該誘導体の分散液、懸濁液、乳化液または溶液を形成しうる有機溶媒が挙げられ、後述する理由から溶液を形成しうる有機溶媒が好ましい。
有機溶媒としては含フッ素有機溶媒を必須とするのが好ましい。含フッ素有機溶媒の具体例としては、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の含フッ素ベンゼン類;ペルフルオロメチルデカリン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン等のペルフルオロアルカン類(商品名:フロリナートFC−72等);(ポリまたはペル)フルオロジアルキルエーテル、アルキル(ペルフルオロアルキル)エーテル等の(ポリまたはペル)フルオロモノエーテル類(商品名:フロリナートFC−75、フロリナートFC−77等);ペルフルオロポリエーテル類(商品名:クライトックス、フォンブリン、ガルデン、デムナム等)、クロロフルオロカーボン類;ハイドロクロロフルオロカーボン類;ハイドロフルオロカーボン類;クロロフルオロポリエーテル類;ハイドロクロロフルオロポリエーテル類;ハイドロフルオロポリエーテル類;ペルフルオロトリアルキルアミン(たとえば、ペルフルオロ(t−ブチル)アミン、ペルフルオロ(t−プロピル)アミン)等のペルフルオロアルキルアミン類等が挙げられる。さらに有機溶剤としては、含フッ素ベンゼン、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロアルキルアミン類、ペルフルオロポリエーテル類、ペルフルオロモノエーテル類が好ましく、ペルフルオロアルキルアミン類が特に好ましい。
また式(1)で表される化合物中に−(CHCHO)−単位および/または−(CHCH(OH)CHO)−単位が存在する場合には、該単位の数を多くなると、溶媒に対する溶解性、分子末端水酸基の酸性度、化合物の粘度、化合物の沸点、等が変化する。たとえば、これらの単位が多い化合物は、非フッ素系有機溶媒に対する溶解性が増加する傾向がある。よって、溶液組成物とする場合には、前記含フッ素有機溶媒に非フッ素系溶媒を添加して式(1)で表わされる化合物の溶解性を調節するのが好ましい。非フッ素系有機溶媒としては、炭化水素系溶媒(たとえば、ヘキサンなどのアルカン。)、(t−ブチル)メチルエーテルなどの炭化水素系エーテル。)、が挙げられる。
式(1)で表される化合物および有機溶媒を含む溶液組成物はコーティング剤等の表面処理剤として用いてもよい。該溶液組成物から形成された被膜が表面に形成された処理基材は、その表面には前記の機能が付与されうる。
基材の材質としては、無機材料、有機材料、これらの組み合わせが挙げられる。無機材料および有機材料は、それぞれ1種であっても2種以上であってもよい。
無機材料としては、金属、セラミックス、ガラス等が挙げられ、有機材料としては樹脂(たとえば、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等。)等が挙げられる。また無機材料と有機材料の組み合わせとしては、無機材料と有機材料との複合材料や積層材料が挙げられる。
表面処理剤として用いる場合には、組成物中の式(1)で表される化合物の濃度は、0.01〜50質量%が好ましく、0.01〜20質量%が特に好ましい。
有機溶媒としては、式(1)で表される化合物を良好に溶解して溶液を形成する溶媒が好ましく、具体的にはペルフルオロ(t−ブチル)アミン、ペルフルオロ(t−プロピル)アミン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ペルフルオロメチルデカリン、ペルフルオロメチルシクロヘキサンが挙げられる。これらの溶媒を用いた場合には、厚さむらのない均一な被膜を、基材表面に形成させうる。
表面処理剤には、式(1)で表される化合物と有機溶媒以外の成分(以下、他の成分という。)が含まれていてもよい。他の成分としては、該溶液組成物の用途に応じて任意に選択できる。たとえば、基材と式(1)で表される化合物の接着性向上のためシラン系、エポキシ系、チタン系、アルミニウム系のカップリング剤を配合してもよい。また潤滑剤として用いる場合には、他の成分としてラジカルスカベンジャー(DowChemicals社製商品名:X−1p)等が含まれていてもよい。
表面処理剤として用いる場合には、基材表面に溶液組成物を種々の方法で塗布した後に、乾燥によって処理するのが好ましい。また基材表面には、あらかじめ他の表面処理剤が処理されていてもよく、また物理的な処理がなされていてもよい。処理方法としては塗布方法が好ましく、たとえばロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、ラングミュア・プロジェット法等の方法が挙げられる。塗布方法により処理を行う場合には、処理のしやすさ、乾燥のしやすさ等を考慮して、溶液組成物中の有機溶媒の物性(たとえば、沸点や粘度等。)を適宜選択するのが好ましい。たとえば、ディップ法を用いる場合の、有機溶媒はペルフルオロ(t−プロピル)アミン、ペルフルオロ(t−ブチル)アミンを用いるのが好ましい。
表面処理剤を前記方法によって処理し、乾燥した基材表面には、表面処理剤が乾燥してなる被膜が表面に形成される。前記の好ましい濃度に調製した表面処理剤を塗布した場合には、通常の場合、該被膜の厚さは0.001〜50μm程度になる。該被膜の厚さは用途に応じて適宜変更されうる。
本発明は、該被膜が表面に形成された処理基材も提供する。該処理基材は種々の用途に用いうる。また、処理基材から被膜を剥離させて得た薄膜を種々の用途に用いてもよい。
本発明により提供される溶液組成物は以下の用途に用いることによって、有用な処理基材および薄膜を提供する。たとえば、ハードディスク記録媒体の潤滑膜等の潤滑剤;半導体素子用接着剤(リードオンチップ(LOC)テープ用接着剤、ダイボンド用接着剤、ペリクル膜固定用接着剤など)等の接着剤;光導波路材料用、レンズ材料用、およびディスプレイ用反射防止膜用のコーティング剤、ペリクル膜(KrF用、ArF用など)またはレジスト用反射防止膜形成用の組成物、等の光学材料;撥インク剤(塗装用、インクジェットなどの印刷機器用など)、電線被覆材用組成物、半導体用保護膜形成用(バッファコート膜、パッシベーション膜、半導体素子α線遮蔽膜、防湿コート剤など)組成物、層間絶縁膜形成用(半導体素子用、液晶表示体用、多層配線板用など)組成物等の電気電子材料;等が挙げられる。
式(1)で表される化合物および有機溶媒を含む溶液組成物を表面処理剤として用いた場合には、長期間安定した機能を基材に付与する効果を有する。
【実施例】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下において、テトラメチルシランをTMS、CClFCClFをR−113、CClFCFCClFをR−215ca、ジクロロペンタフルオロプロパンをR−225、CClFCFCFHClをR−225cb、CClFCFCClCFCFをR−419と記す。
また、平均分子量は数平均分子量(M)、質量平均分子量(M)で表し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと記す。)によって測定した。GPCの測定方法は、特開2001−208736に記載する方法にしたがった。具体的には、アサヒクリンAK−225SECグレード1(旭硝子社製、商品名)を移動相として用い、PLgel MIXED−Eカラム(ポリマーラボラトリーズ社製、商品名)を2本直列に連結して分析カラムとした。分子量測定用標準試料として、M/Mで表される分子量分布が1.1未満である分子量が2000〜10000のペルフルオロポリエーテル4種および分子量分布が1.1以上である分子量が1300のペルフルオロポリエーテル1種を用いた。移動相流速は1.0mL、カラム温度は37℃、検出器は、示差屈折検出器または蒸発光散乱検出器を用いた。
(例1)CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)C(O)OCHCHO(CHCHO)CHCHOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(pの平均値は20.4)の製造例
市販のポリオキシエチレングリコール(10g)(HOCHCHO(CHCHO)CHCHOH(pの平均値は20.4)とR−225(20g)、NaF(1.2g)、ピリジン(1.6g)をフラスコに入れ、内温を25℃に保ちながら激しく撹拌して、窒素ガスをバブリングさせた。そこにFCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(15g)を、内温を25℃以上に保ちながら1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間、その後、室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。さらに粗液を減圧濾過し、その後、回収液を真空乾燥機(100℃、666.5Pa)で12時間乾燥した。ここで得た粗液をR−225(100mL)に溶解し、飽和重曹水(1000mL)で3回水洗を行い、有機相を回収した。さらに、回収した有機相に硫酸マグネシウム(1.0g)を加え、12時間撹拌を行った。その後、加圧濾過を行って硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターにてR−225を留去し、室温で液体のポリマー(18.5g)を得た。H−NMR、19F−NMRの結果、得られたポリマーは標記化合物であり、Mが1960であることを確認した。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):3.4〜3.8,4.5。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−76.0〜−81.0,−81.0〜−82.0,−82.0〜−82.5,−82.5〜−85.0,−128.0〜−129.2,−131.1,−144.7。
(例2)CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)C(O)OCFCFO(CFCFO)CFCFOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
(例2−1)反応溶媒にR−113を用いた製造例
500mLのハステロイ製オートクレーブに、R−113(312g)を加えて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−20℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−20℃に保持した冷却器からは、凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで10%に希釈したフッ素ガス(以下、10%フッ素ガスと記す。)を、流速19.2L/hで1時間吹き込んだ。
つぎに、10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1で得た生成物(3.0g)をR−113(150g)に溶解した溶液(以下、R−113溶液という)を5時間かけて注入した。
つぎに、10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、R−113溶液を6mL注入した後に、窒素ガスを1.0時間吹き込みながら反応を継続させた。
反応終了後、溶媒を真空乾燥(60℃、6.0h)にて留去し、室温で液体の生成物(4.85g)を得た。該生成物を分析した結果、標記化合物の生成を確認した。なお、GPCから求まる平均分子量(M)は3650であった。標記化学式中のqは、本実施例の条件で測定するMが3690となりうる値である。また、例2で得た生成物は、例1で得た生成物中の水素原子の99.9モル%以上がフッ素原子に置換された化合物であることを確認した。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−77.5〜−86.0,−89.5,−90.0〜−92.0,−120.0〜−139.0,−142.0〜−146.0。
(例2−2)反応溶媒にR−419を用いた製造例
例2において用いたR−113をR−419に変えた以外は、同様に反応を行った。生成物を分析した結果、例2−1の生成物と同一の生成物が得られたことを確認した。
(例3)FC(O)CFO(CFCFO)CFCOFの製造例
スターラーチップを投入した50mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した。該丸底フラスコに1,1,3,4−テトラクロロヘキサフルオロブタン(13.4g)、KF(0.13g)および、例2−1で得た生成物(3.7g)を加えて激しく撹拌し、120℃に保った。丸底フラスコ出口には、20℃に保持した冷却器、およびドライアイス−エタノール冷却管を直列に設置し、窒素シールを行った。
8時間後、内温を室温まで下げ、続いて冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、溶媒および反応副性物を留去した。3時間後、室温で液体の生成物(2.7g)を得た。
生成物を分析した結果、例2−1で得た生成物中のエステル結合の総数の99%以上が−COFに置換され、標記化合物(ただし、qは前記と同じ意味を示す。)が生成していることを確認した。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):12.7,−78.1,−89.5,−90.0〜−92.0,−135.0〜−139.0。
(例4)CHOC(O)CFO(CFCFO)CFCOOCHの製造例
(例4−1)エステル化反応による製造例
例3の生成物が入った丸底フラスコにR−113(1.0g)を投入し、内温を25℃に保ちながら激しく撹拌した。さらに、メタノール(6.0g)を内温を25℃以上に保ちながらゆっくりと滴下した。
8時間後、撹拌を停止し、粗液を加圧濾過器にて濾過し、KFを除去した。続いて、エバポレーターにてR−113、および過剰のメタノールを完全に除去して室温で液状の生成物(2.1g)を得た。
分析の結果、例3で得た生成物中に存在する−COF基の全てがメチルエステル化され、標記化合物が生成していることを確認した。なお、生成物の平均分子量(M)は2484であった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):3.95,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−78.3,−89.5,−90.0〜−92.0,−135.0〜−139.0。
(例4−2)エステル交換反応による製造例
スターラーチップを投入した50mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した。例2−1と同様の方法で得た生成物(3.6g)とメタノール(7.1g)を加えて、室温にてバブリングを行いながら、激しく撹拌した。丸底フラスコ出口は窒素シールを行った。
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、過剰のメタノール、および反応副性物を留去した。3時間後、室温で液体の生成物(2.4g)を得た。
生成物を分析した結果、例2で得た生成物中に存在するエステル結合の数に対して99.8%がメチルエステルに変換され、標記化合物が生成していることを確認した。生成物の平均分子量(M)は2200であった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):3.95,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−78.3,−89.5,−90.0〜−92.0,−135.0〜−139.0。
(例5)HOCHCFO(CFCFO)CFCHOHの製造例
例4−1の方法で得たCHOC(O)CFO(CFCFO)CFCOOCH(40.0g、qは前記と同じ意味を示す。)とR−225(240mL)とテトラヒドロフラン(200mL)とを混ぜ、ボラン・テトラヒドロフラン錯体(40mL)を窒素気流下で加え、室温で一夜撹拌した。溶媒をエバポレーターで留去し、残存物に2mol/Lの塩酸を加えて、R−225で抽出し、抽出物を濃縮して粗生成物(35.02g)を得た。粗生成物をシリカゲルカラム(溶離液:R−225/ヘキサフルオロイソプロピルアルコール)で精製し、HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(15.5g)を得た。19FNMRによって化合物中に−(CFO)−単位が実質的に含まれていないことを確認した。なお、GPCを測定した結果、平均分子量(M)は1241であった。生成物のNMRスペクトルを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):3.94。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−80.1,−88.2。
(例6)HOCHCHOCHCFO(CFCFO)CFCHOCHCHOHの製造例
(例6−1)エチレンカーボネートを付加させた製造例
例5で得たHOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(8.0g、qは前記と同じ意味を示す。)、参考例2で得たR−419(10mL)、およびエチレンカーボネート(1.3g)を丸底フラスコ(50mL)に入れて撹拌した。つぎに窒素雰囲気下でポタジウムフルオリド(0.8g)を加え、フラスコ上部に20℃に冷却した還流装置を設置し、装置出口を窒素で置換した状態で150℃に加熱しながら、36時間撹拌して反応粗液を得た。該液をフィルター(孔径0.1μm、PTFE製)を通して加圧濾過して、ろ別して得たろ液の溶媒をエバポレーターで留去すると、25℃で液体の薄黄色化合物(8.4g)を得た。
該化合物をH−NMRおよび19F−NMRで分析した結果、HOCHCHOCHCFO(CFCFO)CFCHOCHCHOHの生成が確認された。生成物は2種以上の混合物であり、原料(HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH)中の水酸基の85%にエチレンカーボネートの付加反応がおこっていた。また19F−NMRによって、該化合物中に−(OCFO)−単位が実質的に含まれていないことを確認した。なお該化合物のGPCを測定した結果、平均分子量(M)は1300であった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):4.31、3.9,3.76。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−77.0,−88.2。
(例6−2)エチレンオキシドの付加反応による例
窒素雰囲気下のオートクレーブ(100mL)に例5と同様の方法で得たHOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(10.0g、qは前記と同じ意味を示す。)、およびt−ブタノール(8.2g)を投入し、均一混合するまで撹拌した。オートクレーブには出口を窒素ガスで置換した20℃の還流管を設置した。つぎにt−ブトキシドカリウム(0.22g)をオートクレーブに投入し、70℃に加熱して30分間撹拌した。さらに内温を70℃に保持して、エチレンオキシド(2.1g)を2時間かけて滴下し、12時間撹拌した。オートクレーブを25℃に冷却し窒素ガスで置換してから、0.2g/Lの塩酸(50mL)を滴下すると2層分離液を得た。有機層を回収してR−225(50mL)を加えた溶液を、蒸留水(500mL)で2回洗浄し硫酸マグネシウムで脱水してから、エバポレーターで溶媒を留去すると、25℃で液体の薄黄色化合物(10.5g)を得た。
該化合物をH−NMRおよび19F−NMRで分析した結果、HOCHCHOCHCFO(CFCFO)CFCHOCHCHOHの生成が確認された。生成物は2種以上の混合物であり、原料(HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH)中の水酸基の95%にエチレンオキシドの付加反応がおこっていた。また19F−NMRによって、該化合物中に−(OCFO)−単位が実質的に含まれていないことを確認した。なお該化合物のGPCを測定した結果、平均分子量(M)は1300であった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):4.31、3.9,3.76。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−77.0,−88.2。
(例7)HOCHCH(OH)CHOCHCFO(CFCFO)CFCHCHOCHCH(OH)CHOHの製造例
窒素雰囲気下の丸底フラスコ(250mL)に例5と同様の方法で得たHOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(10g、qは前記と同じ意味を示す。)、および2−メチル−2−プロパノール(5.0g)を投入し、均一混合するまで撹拌した。丸底フラスコ出口に20℃の出口を窒素ガスで置換した還流管を設置した。つぎにt−ブトキシドカリウム(0.22g)をオートクレーブに投入し、70℃に加熱して30分間撹拌した。さらに内温を70℃に保持して、2,3−エポキシ−1−プロパノール(1.62g)を2時間かけて滴下し、12時間撹拌した。丸底フラスコを25℃に冷却し窒素ガスで置換してから、0.2g/Lの塩酸(50mL)を滴下して2層分離液を得た。該液の有機層を回収しR−225(50mL)を加えた溶液を、蒸留水(500mL)で2回洗浄し硫酸マグネシウムで脱水してから、エバポレーターで溶媒を留去すると、25℃で液体の薄黄色化合物(9.7g)を得た。
該化合物をH−NMRおよび19F−NMRで分析した結果、HOCHCH(OH)CHOCHCFO(CFCFO)CFCHCHOCHCH(OH)CHOHの生成が確認された。生成物は2種以上の混合物であり、原料(HOCHCFO(CFCFO)CFCHOH)中の水酸基の90%に、2,3−エポキシ−1−プロパノールの付加反応がおこっていた。また19F−NMRによって、該化合物中に−(OCFO)−単位が実質的に含まれていないことを確認した。該化合物のGPCを測定した結果、平均分子量(M)は1350であった。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS)δ(ppm):3.45,3.67,4.67。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−77.1,−88.2。
(例8)HOCHCFO(CFCFO)CFCHOHのコーティング例
例5で得たHOCHCFO(CFCFO)CFCHOH(1g)およびペルフルオロ(t−ブチル)アミン(99g、トクヤマ社製、IL−263)をガラス製フラスコ中に投入し2時間撹拌して無色透明な均一溶液を得た。該溶液をスピン速度700rpmのアルミ板表面に20秒スピンコートし、80℃で1時間加熱処理した。アルミ板表面に厚さが0.05μmの透明の膜が形成した。アルミ板表面の摩擦係数は著しく低下していた。
(例9)HOCHCFO(CFCFO)CFCHOHの安定性試験例
窒素雰囲気(100mL/min)下、10℃/minの割合で25℃から500℃まで昇温した際の、表記化合物(25mg、qは前途同じ意味を示す。)の質量減少を示差熱天秤上で測定した。質量減少プロフィールは一定であり、優れた安定性を示した。
さらに、γ−アルミナ微粉(0.5g、日揮化学社製、N−611N)を存在させた場合の、表記化合物(25mg)の安定性試験を行った。質量減少プロフィールは一定であり、優れた安定性を示した。
比較例として公知のペルフルオロポリエーテル(アウジモント社製、フォンブリンZ DiOL4000)を用いて、同様の方法で安定性試験を行った結果、該エーテルはγ−アルミナが存在すると250℃で全量が一瞬に分解し、低分子量化合物となって気化した。
(例10)R−215caの製造例(参考例1)
活性炭触媒(250mL、灰分含有量1.2質量%、武田薬品工業社製、白鷺C2X)を充填したU字型反応管(内径2.54cm、長さ600cm、インコネル600製)を油浴内に浸漬し、油浴を200℃に保持した。反応管の出口には水トラップを設置した。該反応管に窒素ガスを100mL/min、および塩素ガスを600mL/minで6時間供給し、活性炭上の不必要な官能基を除去した。つぎに油浴を250℃にし、ガス化させたR−225cbを240mL/min、および塩素ガスを360mL/minで該反応管に供給して接触反応し、水トラップを通り酸分が除去された反応ガスを得た。該ガスの組成をFIDガスクロマトグラフィーで分析した結果、99.9モル%のR−215caの生成を確認した。R−225cbの転化率は97%であった。
(例11)R−419の製造例(参考例2)
活性炭触媒(250mL、灰分含有量1.2質量%、武田薬品工業社製、白鷺C2X)を充填したU字型反応管(内径2.54cm、長さ600cm、インコネル600製)を油浴内に浸漬し、油浴を200℃に保持した。酸分および過剰の塩素を除去するために、該反応管にはKOHを溶解したアルカリ性の水トラップ、および−78℃に冷却したガラストラップを設置した。該反応管に窒素ガスを100mL/min、および塩素ガスを600mL/minで6時間供給し、活性炭上の不必要な官能基を除去した。
つぎに油浴を250℃にし、R−225cbを120g/h、および塩素ガスを360mL/minで該反応管を20時間に供給して接触反応させた結果、水トラップには水層と有機層に2層分離した液が、ガラストラップには有機層からなる液が捕集された。
水トラップの有機層、およびガラストラップの有機層を回収してあわせることによって、反応粗液(2660g)を得た。該反応粗液をFIDガスクロマトグラフィーで分析した結果、90モル%のR−215caの生成を確認した。R−225cbの転化率は97%であった。該反応粗液を蒸留精製して、R−215ca(2530g)を得た。
続いてオートクレーブ(内容積2L、ハステロイC製)に、AlCl(20g)を加え脱気してから、R−215ca(2500g)を加え、オートクレーブを65℃に加熱した。温度を65℃、圧力を0.8MPa(ゲージ圧)に保持しながらテトラフルオロエチレン(以下、TFE)を連続的に供給して反応を行った。TFEを870g(8.7モル)加えて供給を停止し、さらに1時間撹拌を続けてから反応を終了した。反応液を25℃まで冷却した後に、反応液から触媒をろ別して反応粗液(3250g)を得た。該反応粗液の組成をFIDガスクロマトグラフおよび19F−NMRを用いて分析した結果、R−215caの反応率は90%であり、R−419の選択率は53%であることを確認した。該反応粗液を蒸留した結果、99.9モル%のR−419(1330g)を得た。
19F−NMR(282.65MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl)δ(ppm):−61.6,−76.1,−105.4,−112.3。
【産業上の利用可能性】
本発明が提供するペルフルオロポリエーテル誘導体は、潤滑油またはコーティング材として有用な化合物である。たとえば、磁気ディスク用の潤滑剤として有用である。また、表面処理剤として有用であり、低屈折率性、耐熱性、潤滑性、接着性、防眩性、防湿性、防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐摩耗性、および耐静電気性等の機能を基材表面に付与する。またこれらの性質を有する薄膜を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物。

ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し3〜200の整数、rおよびsはそれぞれ独立に−(CHCHO)−単位の数を示し0〜100の整数、pおよびqはそれぞれ独立に−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示し0〜100の整数である。rおよびpがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、または、qおよびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
【請求項2】
rおよびsがそれぞれ独立に1〜100の整数である、またはpおよびqがそれぞれ独立に1〜100の整数である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
rおよびsが1でありかつpおよびqが0である、またはpおよびqが1でありrおよびsが0である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
下式(1−1)で表される化合物(ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し、3〜200の整数である。)である請求項1に記載の化合物。

【請求項5】
mが3〜100の整数である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
下式(1)で表される化合物の2種以上からなるペルフルオロポリエーテル誘導体組成物。

ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し3〜200の整数、rおよびsはそれぞれ独立に−(CHCHO)−単位の数を示し0〜100の整数、pおよびqはそれぞれ独立に−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示し0〜100の整数である。rおよびpがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、または、qおよびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
【請求項7】
式(1)で表される化合物の2種以上が下式(1−1)で表される化合物の2種以上である請求項6に記載のペルフルオロポリエーテル誘導体組成物(ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し、3〜200の整数である。)。

【請求項8】
mが3〜100の整数である請求項6または7に記載のペルフルオロポリエーテル誘導体組成物。
【請求項9】
下式(1)で表される化合物および有機溶媒を含む溶液組成物。

ただし、mは−(CFCFO)−単位の数を示し3〜200の整数、rおよびsはそれぞれ独立に−(CHCHO)−単位の数を示し0〜100の整数、pおよびqはそれぞれ独立に−(CHCH(OH)CHO)−単位の数を示し0〜100の整数である。rおよびpがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、または、qおよびsがそれぞれ独立に1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は特に限定されない。また、rおよびpの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、または、qおよびsの一方が2以上の整数であり他方が1以上の整数である場合、−(CHCHO)−単位と−(CHCH(OH)CHO)−単位の並び方は、ブロック状であってもランダム状であってもよい。
【請求項10】
溶液組成物中の式(1)で表される化合物の濃度が0.01〜50質量%である請求項9に記載の溶液組成物。
【請求項11】
有機溶媒が含フッ素有機溶媒を必須とする請求項9または10に記載の溶液組成物。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の溶液組成物からなる表面処理剤。
【請求項13】
請求項12に記載の表面処理剤を基材表面に塗布し、つぎに乾燥してなる処理基材。

【国際公開番号】WO2004/035656
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【発行日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544982(P2004−544982)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013313
【国際出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】