説明

ペルフルオロ三級アミン溶媒中における二酸化窒素によるセルロース酸化

本発明は、一つまたはそれ以上の過フッ素化3級アミン溶媒中の二酸化窒素の溶液を用いたセルロースを酸化する方法に関する。本発明は、縫合糸、止血剤、創傷の被覆、および接着予防デバイスのような医学用途のために、効果的に酸化セルロースを生体吸着性酸化セルロースにするための、二酸化窒素を用いた、ペルフルオロ3級アミンの使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つまたはそれ以上の過フッ素化3級アミン溶媒中の二酸化窒素の溶液を用いたセルロースを酸化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セルロースは50年以上にわたり技術的に知られている。生体に吸収される能力は酸化セルロースを縫合糸、止血剤、創傷カバー、および癒着防止デバイスのよいな医療用途として、魅力ある物質にする。メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、およびニクロム酸塩を含むいくつかの酸化剤がセルロースを酸化するために用いられる。しかし、生体吸収性で、適当な物理的性質を保持する物質を調製する適当な方法は二酸化窒素を用いた酸化によるものである。
【0003】
生体吸収性セルロースを生産するためのセルロースの酸化に関する初期の研究は、テネシー・イーストマンのW.O.Kenyonおよびその他により行われた(例えば、1947年7
月8日付けKenyonらへの米国特許第2,423,707号、およびR.H.Hasekら、「セルロースの酸化」、Ind. & Eng. Chem.、第41巻、第2ページ(1949年)参照)。これらの先駆的酸化方法において、彼らはセルロースがガス状の二酸化窒素または二酸化窒素の溶液のいずれかを用いて、四塩化炭素のような塩素化炭化水素溶媒中で酸化されることを見いだした。
【0004】
四塩化炭素は、二酸化窒素とともにセルロースの酸化における不活性溶媒としてケニヨンにより最初に研究された。この分野の科学者により他の溶媒もまた試験された。米国特許第3,364,200号に、W.H.Ashtonらはフレオン113(CCl2FCClF2)およびフレオン11(CCl3F)のような非水性溶媒中での酸化セルロースの調製方法を開示する。塩素化炭化水素および塩素化フルオロカーボン(CFCs)の使用が、米国特許第4,347,057号にB.G.Yasnitskyにより開示された。
【0005】
これらの溶媒の成功は、酸化剤との相互作用できなかったことに依存する。酸化方法にとって、溶媒が酸化剤(二酸化窒素)と反応しないことは重大であり、さもなければ溶媒は壊され、酸化剤はセルロース材料よりむしろ溶媒との反応に費やされる。炭素水素結合を含む有機溶媒は全て二酸化窒素との反応に影響を受けやすい。二酸化窒素に関して不活性な溶媒のこの必要性は、この反応に用いることができる有機溶媒の数を厳しく制限する。
【0006】
さらに、この方法において用いられる不活性有機溶媒に関連する問題があった。塩素化炭化水素および塩素化過フッ化炭化水素(フレオン型溶媒)は高度におけるオゾン層の減少に関して環境問題をもたらすことが見出された。これらの分子の炭素塩素結合(C-Cl)は、成層圏において、オゾンを破壊し続ける塩素ラジカルを生産するために破壊される。炭素フッ素結合(C-F)は、炭素塩素結合より強く、成層圏における放射線により破壊されず、それゆえ過フッ化炭化水素はオゾン層を激減させることがない。
【0007】
セルロースを酸化し、有機溶媒に関する問題を最小限にするための努力において、Boardmanらの米国特許第5,180,398号は、ペルフルオロ炭化水素溶媒中で二酸化窒素の溶液を用いたセルロースを酸化する方法を教示する。用いられる過フッ化炭化水素溶媒は、二酸化窒素に対して不活性であり、おそらく地球のオゾン層を破壊しない。Kosowskiらの米国特許第5,914,003号はまた、二酸化窒素を用いた効果的にセルロースを酸化する方法を開示するが、ヒドロフルオロエーテル溶媒の溶液を用いている。しかし、この著者により引用されるヒドロフルオロエーテル溶媒は、完全なフッ化物ではないが、事実、炭素水素結合を含み、それゆえ全体的に酸化剤に対して不活性ではない。
【0008】
発明の要約
本発明は、セルロース物質を二酸化窒素およびペルフルオロ3級アミン類(perfluorinated tertiary amines)から選択される非水性溶媒と混合する(combining)ことを含む生体吸着性酸化セルロースを調製する方法に関する。本発明はまた、溶媒を容器に入れ、溶媒をセルロース材料に循環させ、必要量の溶媒とセルロースを含む前記容器に二酸化窒素を添加し、反応温度を調節しながら7から24時間溶液を循環させ、酸化された材料を分離することからなるセルロース材料を酸化する方法に関する。好ましくは、酸化産物の分離は、冷却水での酸化セルロース材料の最初の洗浄、続いて水性アルコール溶液を用いた数回の酸化セルロース材料の洗浄、その後100%アルコールを用いた数回の物質の洗浄、および最終的には酸化材料を乾燥させることがある。
【0009】
本発明は、ペルフルオロ3級アミンが生体吸着性酸化セルロースを形成するためのセルロースの酸化における二酸化窒素の効果的な溶媒であることを見出した。ペルフルオロ3級アミンは、透明、無色、無臭、不燃性の液体である。それらは目や皮膚に刺激物ではなく、実用的には経口的に無毒である。それらは炭素水素結合を含まない。それらはまた、非常に低い急性で亜慢性の吸入毒性を示す。ペルフルオロ3級アミンはオゾン減少ゼロの可能性を有し、揮発性有機化合物として分類されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
縫合糸、止血剤、創傷カバー、および癒着阻止デバイスのような医学用途のための効果的にセルロースを生体吸収性酸化セルロースに酸化するための二酸化窒素とともにペルフルオロ3級アミンを用いた方法を提供する。ペルフルオロ3級アミンの分類はxが1−10の整数である化学式N(CxF2x+1)3を有する。特に、3M社からFC-3283として得られるx=3のペルフルオロトリプロピルアミンが好ましい。この方法は塩素化炭化水素やクロロフルオロ炭化水素(CFC’s)またはペルフルオロエーテルのような炭素水素結合を含む環境的に望ましくない溶媒の使用を避けるものである。
【0011】
酸化のための溶媒としてのアミンを使用することは、それらが二酸化窒素を中和すると信じられていたので、以前は認識されていなかった。事実、以前の技術は酸化反応におけるアミン溶液の使用を避けるように教示している。ロシア人の文献と思われる論文(M.M.Pavlyuchenkoら、「二酸化窒素を用いたセルロースの相互作用における有機溶媒の性質の影響」、Zh. Prikl. Khim.、第48巻、第8号、(1975))に、Pavlyuchenkoはエーテルおよびアミンのような極性溶媒は酸化に効果的でないと述べている。しかし、本発明は脂肪族3級アミンが二酸化窒素を酸化し、酸化に対して効果をなくすが、ペルフルオロ3級アミンは二酸化窒素を中和しない。ペルフルオロ3級アミンは例外的な化合物である。それらは脂肪族3級アミンとして強塩基ではない。むしろ、ペルフルオロ3級アミンは中性で、二酸化窒素と相互作用せず、それゆえ二酸化窒素を用いたセルロースの酸化にとって効果的な溶媒である。
【0012】
本発明で見出されたように、ペルフルオロ3級アミンの中性的性質は、フッ素原子の強い求電子性に起因する。ペルフルオロ3級アミンの窒素原子における遊離ペアの電子は、フッ素原子に向かって窒素原子から電子を強く引き寄せるフッ素原子の環境に囲まれている。その結果として、ペルフルオロ3級アミンのアミン窒素のルイス塩基性は、このクラスの化合物が実際、アミン、電子供与体、または塩基のような特性を示さない中性である程度まで弱まっている。
【0013】
セルロースの酸化における二酸化窒素に対する溶媒としてのペルフルオロ3級アミンの使用のいくつかの利点が本発明により特定されている。例えば、ペルフルオロ炭化水素に比べて低い蒸気圧は、その揮発性とロスを減少し、回収を経済的にする。さらに、ペルフルオロ炭化水素化合物は一般的に、他のペルフルオロ化合物を除く殆どの物質に対して芳しくない溶媒である。しかし、ペルフルオロ3級アミンは二酸化窒素に対して良い溶媒であり、その結果として、酸化反応の間、二酸化窒素は溶媒に十分に溶解でき、酸化がセルロースの物理的性質のロスを最小限にする穏やかな方法で進行する。二酸化窒素に対する良い溶媒は、ソフトで、柔軟な酸化繊維をもたらすセルロースの温和な酸化をもたらす傾向があり、一方二酸化窒素に対して低溶解度を示す溶媒はざらざらした、堅い酸化繊維を生産する傾向がある。
【0014】
本発明は、本方法による酸化に適したセルロース材料(cellulose material)を特定する。セルロース材料は、粉末、スポンジ、綿、レーヨンまたはライオセル繊維で作られたニット、織布および不織布、およびN-メチルモルフォリン-N-オキシド溶液から紡がれたセルロース織物繊維の総称を含むセルロースの形態から選択される。この酸化方法が適応できるタイプのセルロースに含まれるものとしては、セルロースフィルム、セルロース紙、綿又はレーヨンのボール(rayon balls)、綿又はレーヨン又はライオセルの繊維、またはAcetobacter xylinumにより生産されるセルロースの菌体膜(pellicle)がある。
【0015】
酸化方法は最初にセルロース物質を反応容器に導入することにより行われる。溶媒が容器に添加され、セルロース全体に循環される。二酸化窒素がその後必要量添加され、溶液が一般に7から24時間、適当な時間循環される。反応温度はコントロールされ、−20℃から60℃、好ましくは25℃と50℃の間に調整される。温度は酸化工程の間一定に保たれ、望みの値より高く、また低く調整される。反応は圧力容器または大気に通気した容器で行われる。
【0016】
望みの程度の酸化に達するには、溶媒中の二酸化窒素濃度および温度および反応期間を変化せせることが含まれる。二酸化窒素の低溶液濃度は長い反応時間をもたらす。一方、高濃度の二酸化窒素は、セルロースに対して物理的ダメージを引き起こし、堅い、あるいは分解された物質をもたらす。一般に、5−15%の二酸化窒素濃度が好ましい。二酸化窒素のセルロースに対する割合は0.5から5、好ましくは0.8から3である。
【0017】
酸化された材料の分離は容器から溶液を除去し、未反応の二酸化窒素を中和する希釈水酸化ナトリウムの水溶液をそこに加えることにより行われる。ペルフルオロ3級アミンは、水から分離され、再利用のために回収される容器の底に沈む。酸化セルロース物質は全ての残存二酸化窒素を除去するために冷水で洗浄され、その後、付加酸およびペルフルオロ溶媒を除去するためにアルコールの水溶液で洗浄される。水性アルコールによる数回の洗浄の後、酸化物質は、イソプロピルアルコール、エチルアルコールまたはメチルアルコールのような100%アルコールで水分を除去するために洗浄され、乾燥される。
【0018】
好ましい実施態様の要約
他に特定しない限り、ここで用いられる「a」または「an」は「一つまたはそれ以上」を意味する。
【0019】
本発明はさらに、以下の数字の実施態様を含む。
【0020】
1.セルロース材料を二酸化窒素とペルフルオロ3級アミン類から選ばれる非水性溶媒を混合することを含む生体吸収性酸化セルロースの調製方法。
【0021】
2.ペルフルオロ3級アミン類の化学式がN(CxF2X+1)3で、Xが1−10の整数である実施態様1の方法。
【0022】
3.ペルフルオロ3級アミン類の化学式がN(CxF2X+1)3で、Xが3である実施態様2の方法。
【0023】
4.セルロース物質が粉末、スポンジ、ニット、織布および不織布からなる群から選択される実施態様1の方法。
【0024】
5.不織布が綿、レーヨンまたはライオセル繊維からなる群から選ばれる実施態様4の方法。
【0025】
6.セルロース物質がセルロースフィルム、セルロース紙、綿、またはレーヨンボール、綿またはレーヨンまたはライオセルの繊維、またはAcetobacter xylinumにより生産されるセルロースの菌膜からなる群から選択される実施態様1の方法。
【0026】
7.二酸化窒素のセルロースに対する割合が約0.5から5である実施態様1の方法。
【0027】
8.決められた量の二酸化窒素のセルロースに対する割合が約0.8から3である実施態様7の方法。
【0028】
9.二酸化窒素が5−15%の濃度を有する、実施態様1の方法。
【0029】
10.それぞれの実施態様のセルロースが好ましくは微生物セルロース、より好ましくはAcetobacter xylinum由来の微生物セルロースである、実施態様1の方法。
【0030】
11.適当量のペルフルオロ化3級アミン類の非水性溶媒を適当量のセルロース材料を含む容器に導入し、溶媒をセルロース材料に循環させ、適当量の二酸化窒素を溶媒とセルロース材料を含む前記容器に加え、反応温度をコントロールしながら溶液を7から24時間溶液を循環させ、酸化材料を分離することからなるセルロース材料を酸化する方法。
【0031】
12.容器の残りの溶液が好ましくは希釈水酸化ナトリウムの水溶液に添加される、実施態様11の方法。
【0032】
13.酸化セルロースの分離に続いて、好ましくはさらに、まず冷水で酸化セルロース物質を洗浄し、続いて酸化セルロース物質を水性アルコール溶液で数回洗浄し、その後溶液を100%アルコールで数回洗浄し、最後に酸化物質を空中で、オーブン中で、または超臨界流体を用いて乾燥させることにより処理される、実施態様11の方法。
【0033】
14.溶媒中の二酸化窒素濃度、および温度および反応期間を変化させることによりセルロース物質がその望みの酸化程度に達する、実施態様10の方法。
【0034】
15.反応温度が-20℃から60℃、又はより好ましくは25℃から50℃で、一定に保たれるか、変化できる、実施態様10の方法。
【0035】
16.反応期間の時間が二酸化窒素の低濃度溶液のを用いることにより変化させられる、または引き伸ばされる、実施態様10の方法。
【0036】
17.容器が圧力容器または通気孔をつけた容器である、実施態様10の方法。
【0037】
18.二酸化窒素およびセルロースの混合の適当量が0.5から5の比率である、実施態様10の方法。
【0038】
19. 二酸化窒素およびセルロースの混合の適当量が0.8から3の比率である、実施態様10の方法。
【0039】
20.溶媒中の二酸化窒素の濃度が変化する、実施態様10の方法。
【0040】
21.アルコールがイソプロピルアルコール、エチルアルコールまたはメチルアルコールからなる群から選択される、実施態様10の方法。
【0041】
発明は以下の実施例に限定されない方法によってさらに具体化される。
実施例
【実施例1】
【0042】
ペルフルオロトリブチルアミン溶媒中での綿ペレットの酸化
6グラムの綿ペレットを500mlの樹脂ケトル中に入れた。氷浴中で、175グラムのペルフルオロトリブチルアミン(FC-40、沸点155℃、3M社製)を冷却した。二酸化窒素15グラムを、ペルフルオロトリブチルアミン溶媒中の二酸化窒素の冷却した溶液をレジンケトルに添加する前に、この冷却溶媒に添加した。レジンケトルを水浴中に入れ、温度を30℃まで上げた。漏れた二酸化窒素を中和するために、コースティックトラップを取り付けたコンデンサーを用いた。反応液をレジンケトルに付随するオーバーヘッドスターラにより20時間ゆっくり撹拌し、その時間で水浴を取り除き、ペルフルオロトリブチルアミン溶媒中の二酸化窒素の溶液を、希釈水酸化ナトリウムに注ぐことにより除去した。綿ペレットをレジンケトルから取り出し、100 mlの冷却蒸留水中に5分間入れ、続いて冷却蒸留水で2回目の洗浄を行った。
【0043】
綿ペレットをその後50:50の水:イソプロピルアルコール100 mlに入れ、10分間緩やかに撹拌した。綿ペレットを50:50の水:イソプロピル洗浄溶液から濾別し、別の新たな50:50のイソプロピルアルコール:水洗浄液100 mlに入れ、10分間撹拌した。合計4回の50:50イソプロピルアルコール:水洗浄を行った。綿ペレットをその後、100 mlの100%イソプロピルアルコール中に入れ、水分を除去するために10分間撹拌した。この100%イソプロピルアルコール洗浄を繰り返した後、合計3回、ペレットを取り出し、風乾した。
【0044】
乾燥ペレット1グラムをオーブン中で1時間70℃でさらに乾燥させた。乾燥ペレットの重量を測り、その後10 mlの0.50N 水酸化ナトリウム溶液に溶解し、100 mlの蒸留水で希釈した。わずかに黄みがかった透明の溶液得られた。溶液をフェノールフタレイン終点まで飽和0.1N 塩酸を用いて滴定した。ブランクについてはまた、水酸化ナトリウム溶液のみを用いて行われた。水酸化ナトリウムの逆滴定から計算される綿ペレットのカルボキシル含量は16.5%であった。
【実施例2】
【0045】
ペルフルオロトリアミルアミン溶媒中での不織レーヨン繊維の酸化
本発明は、限定される方法ではないが、以下の実施例によりさらに示される。
【0046】
500 mlレジンケトル中に5グラムの不織レーヨン繊維を入れた。150グラムの冷却したペルフルオロトリアミルアミン(3M社製、FC-70、沸点215℃)に、10グラムの二酸化窒素を添加した。この冷却溶液をレジンケトルに添加した。レジンケトルに付随したコンデンサーは苛性溶液に連通しており、レジンケトルから逃れた全ての二酸化窒素ガスを中和する。レジンケトル下の水浴は30℃まで引き上げられ、18時間保たれた。反応の間に、ペルフルオロトリアミルアミン溶液から生じる気泡が観察された。18時間の最後に、二酸化窒素溶液を注意深く数リットルの希釈水酸化ナトリウムに注ぎ、未反応の二酸化窒素を中和し、ペルフルオロトリアミルアミン溶媒を回収した。酸化レーヨン繊維をレジンケトルから取り出し、200 mlの冷却した蒸留水で10分間洗浄した。布をその後、50:50イソプロピルアルコール:水150 mlで4回洗浄した。これに150 mlの100%イソプロピルアルコールによる3回の洗浄を続けた。酸化布をその後風乾した。
【0047】
乾燥した布1グラムをオーブン中で1時間70℃でさらに乾燥した。乾燥した布の重量を測り、その後10 mlの0.50N水酸化ナトリウム溶液に溶解し、100 mlの蒸留水で希釈した。透明でわずかに黄みがかった溶液が得られた。その溶液は飽和0.1N塩酸を用いて、フェノールフタレイン終点まで滴定された。ブランクはまた、水酸化ナトリウム溶液のみを用いて実施された。水酸化ナトリウムの逆滴定から計算された「レーヨン布のカルボキシル含量は14.5%であった。
【実施例3】
【0048】
Acetobacter xylinumにより生産されるセルロースのペルフルオロトリプロピルアミン溶媒中での酸化
マグネティック撹拌子を備えた500 mlのレジンケトル中に、7x7 cm四方に切られたAcetobacter xylinum由来の乾燥セルロース菌膜6個を入れた。乾燥菌膜は全部で3.0グラムの重量であった。19グラムの二酸化窒素を、140グラムのペルフルオロトリプロピルアミン溶媒(3M社製FC-3283、沸点128℃)に溶解した。二酸化窒素溶液をレジンケトルに添加した。レジンケトルに付随するコンデンサーはコースティックバスに連通し、ケトルから逃れるガスを中和する。レジンケトルを水浴中で、30℃を保つように熱っした。反応を22.5時間行った。
【0049】
この時間の最後に、過剰の二酸化窒素を中和し、ペルフルオロトリプロピルアミン溶媒を回収するために、1リットルの希釈水酸化ナトリウム溶液に、注意深く注いだ。菌膜を250 mlの冷蒸留水中に10分間入れ、その後2番目の冷水洗浄に10分間供した。菌膜を冷水洗浄から取り出し、200 mlのイソプロピルアルコール:水溶液50:50に10分間浸した。この洗浄を合計3回、それぞれの洗浄で新鮮な溶媒を用いて繰り返した。最後に、酸化菌膜を200 mlの100%イソプロピルアルコール中に10分間水を除去するために入れた。この100%イソプロピルアルコール洗浄を合計3回繰り返した。菌膜を風乾した。
【0050】
乾燥酸化セルロース菌膜1グラムをさらにオーブンで70℃、1時間乾燥した。乾燥菌膜の重量を測り、その後10 mlの0.50N 水酸化ナトリウム溶液に溶解し、100 mlの蒸留水で希釈した。わずかに黄みかがった透明な溶液が得られた。フェノールフタレイン終点まで、標準0.1N 塩酸を用いて、溶液は滴定された。ブランクはまた、水酸化ナトリウム溶液のみを用いて行われた。水酸化ナトリウムの逆滴定から計算される酸化菌膜のカルボキシル含量は14.8%であった。
【実施例4】
【0051】
2つの異なる溶媒を用いて生産された酸化セルロースの比較
これらの実験の目的は、ペルフルオロ炭化水素溶媒で酸化された菌膜とペルフルオロ3級アミン溶媒で酸化された菌膜の物理的および化学的性質の違いを調べるためであった。
【0052】
さらに、本実験はまた、優れた吸収性をもつ菌膜の酸化と溶媒乾燥菌膜での以前の酸化、および相当する酸化菌膜を乾燥するための超臨界CO2の使用を評価するようにデザインした。
【0053】
優れた吸収性をもつ菌膜を、3.7cmのディスク状に切り取った。酸化反応のための溶媒は、沸点128℃をもつ、3M社製FC-3283であるペルフルオロ−トリプロピルアミンおよび、沸点56℃の、また3M社製PF-5060であるペルフルオロヘキサンであった。
【0054】
22枚のディスクを一つの100 mlレジンケトルに入れ、別の22枚のディスクを第二の100 mlレジンケトルに入れた。それぞれのレジンケトルには、底にマグネティックスターラバーを入れた。第一のレジンケトル中のディスクの重さは1.36 gであった。第二のレジンケトル中の22の菌膜の重さは1.27 gであった。
【0055】
それぞれのレジンケトルは二酸化窒素の蒸気を捕らえるため、コースティックトラップにゴム管でつながっている出口をもつ。反応は室温(〜80°F)で23時間行った。溶媒を予めアイスバスで冷却した。136 gのペルフルオロ3級アミン溶媒(FC-3283)に対して、16 gの液体二酸化窒素を添加した。この溶液を急速にレジンケトル1番に注ぎ、マグネティックスターラを回し始めた。菌膜は溶媒中に浮かび、22の菌膜を液体下に軽く押すように一番上の菌膜にガラスストッパーを置くことが必要であった。
【0056】
溶液が室温まで温めるに連れ、レジンケトル中に泡を生じた。
FC-3283:菌膜の重量比=136/1.36=100:1
N2O4:菌膜重量の比=16/1.36=11.7:1
N2O4濃度=16/136×100=11.7%
【0057】
予め冷却したPF-5060溶媒127グラムに対して、16グラムの二酸化窒素液を添加した。この溶液を急激に第二のレジンケトルに加え、ディスクのカラムを溶液下に沈めるために、一番上の菌膜にグラスストッパーが置かれた。マグネティックスターラを回し始め、溶液が室温まで温められた。酸化が始まったことを示す泡がレジンケトルに上がることが観察された。
PF-5060:菌膜の重量比=127:1.27=100:1
N2O4:菌膜重量比=16:1.27=12.6:1
N2O4濃度=16/127×100=12.6%
【0058】
両反応の酸化条件は非常に類似しており、菌膜の化学的または物理的性質の違いが溶媒に起因し、酸化条件に起因しない。
【0059】
超臨界CO2が菌膜を乾燥し、それらの多孔性を維持するために用いられた。
【0060】
二つの溶媒を用いて調製された試料の評価
カルボキシル基含量の測定
両方の反応を23時間で止めた。菌膜をレジンケトルから除去し、100 mlのメチルアルコールを入れたビーカーに置いた。菌膜はアルコールがデカンテーションされ、新鮮なアルコールに置き換えられる時間の20分間アルコールに浸された。この手順は2つのバッチの菌膜で合計3回のアルコール洗浄が繰り返された。試料はメタノールに浸され、超臨界液抽出器に置かれた。
【0061】
菌膜をそれぞれのバッチから無作為に選択し、一定の重量まで軽く熱っして乾燥した。菌膜を0.5N 水酸化ナトリウム10 mlに入れ、0.1N HClで滴定した。
【0062】
滴定の結果は、ペルフルオロアミン溶媒を用いた酸化レベルはペルフルオロカーボン(15.0%)と比較してわずかに高い(15.8%)ことを示した。それゆえ、酸化溶液中で11.7%のわずかに低い濃度を有するペルフルオロアミン溶媒が、ペルフルオロ炭素溶媒よりもわずかによく試料を酸化できた(12.6%)。
【0063】
(物理的評価)
二つの試料群の菌膜をランダムに選択し、それらの引っ張り強度を試験機械SSTM-2KNを用いて測定した。それぞれの群から4つの試料が試験され、それぞれの平均引っ張り強度(N)と伸長度(%)は以下のとおりである;
【0064】
ペルフルオロアミン溶媒試料は、平均引っ張り強度2.56 Nおよび伸長度5.72%を有していた。一方、ペルフルオロ炭素溶媒試料は平均引っ張り強度5.85 Nおよび伸長度6.14%を有していた。
【0065】
これらの知見に基づいて、ペルフルオロアミン試料はペルフルオロ炭素試料よりも低い引っ張り強度を有し、同一作業条件下で、わずかに高い程度の酸化に起因するものである。
【0066】
(分解性)
二つの試料群の菌膜をランダムに選択し、緩衝溶液中での時間に対するその分解を測定した。それぞれの試料を20 mlのリン酸緩衝溶液、pH 7.4に浸し、上清の一定部分が、分光光度計であるUV-Vを用いて波長240 nmの吸収を測定した。試料の物理的観察もまたそれぞれの時間点において記録された。異なる時間点での吸収が以下に示されている。
(表1)
試料 6時間 24時間 48時間 72時間
PFA緩衝液A 0.046 0.376 0.6 1.16
PFA緩衝液B −0.05 0.352 0.529 0.946
PFC緩衝液A −0.91 0.18 0.268 0.399
PFC緩衝液B −0.074 0.216 0.264 0.461
【0067】
観察されるように、試料の分解速度の間接的な測定である吸収はフルオロ炭素試料と比べてフルオロアミン試料(PFA)のより速い分解を示している。試料の物理的観察もまたPFC試料と比較して72時間後の緩衝溶液中でのPFA試料のわずかに速い分解を示した。これらの結果はおそらくPFA溶媒を用いて得られる酸化がPFC試料よりも高いことによる。それゆえ、これら全ての評価の結果は、ペルフルオロアミン溶媒がペルフルオロ炭素溶媒よりも四酸化窒素に対する少し良い溶媒であり、より速い分解をもたらす少し高い程度の酸化をもたらす結果を支持する。
【0068】
前述は特に好ましい実施態様に言及しているが、本発明はそれほど限定されないことが理解されるであろう。各種の修飾が開示された実施態様に対してなされ、そのような修飾が本発明の範囲を意味するものであることが、当業者になされるものである。
【0069】
ここに引用される全ての出版物および参考文献はその全体を参照して、それぞれが個々に参照して取り込まれる同様の程度まで、取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース、二酸化窒素および過フッ素化三級アミンからなる群から選ばれる非水性溶媒を混合することを含む、生体吸収性酸化セルロースを製造する方法。
【請求項2】
請求項1の生体吸収性酸化セルロースを製造する方法であって、
a.セルロース材料を反応容器に導入し;
b.溶媒を工程(a)の反応容器に導入し;
c.前記セルロース材料中溶媒を循環させ;
d.必要量の二酸化窒素を前記溶媒と前記セルロース材料を含む前記反応容器に加え、溶液 を作り;
e.反応温度を調節しながら、ある時間の間、前記溶液を循環させ;および
f.望みの酸化程度に達した後、前記セルロース材料を分離する方法。
【請求項3】
前記溶媒が、化学式N(CXF2X+1)3である過フッ素化三級アミンの群から選択され、ここでxが1から10の整数である、請求項2の方法。
【請求項4】
前記xが3である、請求項3の方法。
【請求項5】
前記セルロースが微生物セルロースである、請求項2の方法。
【請求項6】
前記微生物セルロースがアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)により生産される、請求項5の方法。
【請求項7】
前記セルロース材料が粉末、スポンジ、ニットの織物、織物、および不織布からなる群から選択される、請求項2の方法。
【請求項8】
前記不織布が綿、レーヨン、ライオセル(lyocell)繊維、または他のセルロースまたは多糖に基づく繊維からなる群から選択される、請求項7の方法。
【請求項9】
前記セルロース材料がセルロースフィルム、セルロース紙,綿ボール、レーヨンボール、綿繊維、レーヨン繊維、ライオセル繊維、またはアセトバクター・キシリナムにより生産されるセルロース菌体膜からなる群からなる、請求項7の方法。
【請求項10】
窒素濃度、反応温度、反応期間、またはこれらの要素の組み合わせからなる群から選択される要素を変化させることにより望みの程度の酸化を達成する、請求項2の方法。
【請求項11】
二酸化窒素の適当な量が5%から15%の範囲である、請求項2の方法。
【請求項12】
二酸化窒素の適当な量が、二酸化窒素のセルロースに対する割合で0.5から5の範囲である、請求項2の方法。
【請求項13】
前記割合が0.8から3の範囲である、請求項12の方法。
【請求項14】
前記溶液中の二酸化窒素の量が反応の期間を通して変化する、請求項2の方法。
【請求項15】
前記温度が-20℃と60℃の間にある、請求項2の方法。
【請求項16】
前記温度が25℃と50℃の間にある、請求項2の方法。
【請求項17】
前記温度が酸化工程中一定である、請求項2の方法。
【請求項18】
前記温度が酸化工程中調整される、請求項2の方法。
【請求項19】
前記溶液が6時間から24時間循環される、請求項2の方法。
【請求項20】
前記溶液が8時間から12時間純化される、請求項21の方法。
【請求項21】
酸化程度が反応期間を変化せせることにより達成される、請求項2の方法。
【請求項22】
前記容器が圧力容器である、請求項2の方法。
【請求項23】
前記容器が大気とつながっている、請求項2の方法。
【請求項24】
酸化された材料が
a.前記酸化セルロース材料を取り出し;
b.その材料を水溶液中に入れ;
c.前記水溶液からその材料を取り出し;
d.前記酸化セルロース材料の最初の洗浄を行い;
e.前記酸化セルロース材料の2回目の洗浄を行い;
f.前記酸化セルロース材料の3回目の洗浄を行い;
g.前記酸化セルロース材料を乾燥させる
ことを含むこと方法によって分離される、請求項2の方法。
【請求項25】
前記水溶液が0.5N NaOH以下の濃度からなる希釈水酸化ナトリウム溶液である、請求項24の方法。
【請求項26】
前記1回目の洗浄が20℃以下の水を用いて行われる、請求項24の方法。
【請求項27】
前記2回目の洗浄がアルコールのパーセンテージが50%に等しいかあるいはそれ以上からなるアルコールの水溶液を用いて行われる、請求項24の方法。
【請求項28】
前記アルコールがイソプロピル、エチルまたはメチルアルコールからなる群から選択される、請求項27の方法。
【請求項29】
前記2回目の洗浄が少なくとも2回、または少なくとも試料中に四酸化窒素の目に見えるサインがなくなるまで行われる、請求項27の方法。
【請求項30】
前記3回目の洗浄が100%アルコールで行われる、請求項24の方法。
【請求項31】
前記アルコールがイソプロピル、エチルまたはメチルアルコールからなる群から選択される、請求項30の方法。
【請求項32】
試料中の残存する水が1%未満になるまで3回目の洗浄が行われる、請求項30の方法。
【請求項33】
空気乾燥、オーブン乾燥、超臨界流体乾燥からなる群から選択される方法により、酸化セルロース材料が乾燥される、請求項24の方法。
【請求項34】
前記超臨界流体がCO2である、請求項33の方法。
【請求項35】
請求項1の方法により生産される医用素材として用いるための生体吸収性酸化セルロース材料。
【請求項36】
請求項2の方法により生産される医用素材として用いるための生体吸収性酸化セルロース材料。
【請求項37】
請求項24の方法により生産される医用素材として用いるための生体吸収性酸化セルロース材料。
【請求項38】
医用材料が縫合糸、止血剤、創傷カバー、移植可能組織代用品、組織工学マトリックス、または付着予防デバイスからなる群から選択される、請求項35の生体吸収性酸化セルロース材料。
【請求項39】
医用材料が縫合糸、止血剤、創傷カバー、移植可能組織代用品、組織工学マトリックス、または付着予防デバイスからなる群から選択される、請求項36の生体吸収性酸化セルロース材料。
【請求項40】
医用材料が縫合糸、止血剤、創傷カバー、移植可能組織代用品、組織工学マトリックス、または付着予防デバイスからなる群から選択される、請求項37の生体吸収性酸化セルロース材料。



【公表番号】特表2008−509253(P2008−509253A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525029(P2007−525029)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/027885
【国際公開番号】WO2006/017729
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(506060421)ザイロス コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】