説明

ペンダント型高分子化合物、ペンダント型高分子化合物を用いた色変換膜、および多色発光有機ELデバイス

【課題】長期間に亘って十分な変換光強度を維持することが可能な緑色および赤色変換膜および長期にわたって安定した発光特性を示す多色発光有機ELデバイスを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び一般式(2)、(6)または(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(2)、(6)または(7)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であることを特徴とするペンダント型高分子化合物、該高分子化合物を含有してなるフィルム、該高分子化合物を含有してなる色変換膜、該高分子化合物と低分子色素化合物を含有することを特徴とする色変換膜、有機EL素子と、前記色変換膜とを含むことを特徴とする色変換発光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体薄膜状態で蛍光を有し、塗布プロセスによる加工が可能な、高い色変換効率を有するペンダント型高分子化合物に関する。さらに、本発明は、該ペンダント型高分子化合物を用いて形成される色変換膜に関する。さらに、本発明は、該色変換膜を用いて形成される多色発光有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光関連技術の進歩に伴い、有機蛍光性化合物は有機エレクトロルミネッセンス用発光材料、色素レーザー、バイオイメージング等の幅広い分野で注目されている。該有機蛍光性化合物は特に、特定の波長を吸収し、所望の波長で発光させる色変換技術に応用が可能であり、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池、液晶ディスプレイ、農業用フィルム、発光ダイオード等の各種用途における色変換フィルムとして実用化が積極的に検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機エレクトロルミネッセンス素子あるいは電子写真感光体として有用なジアリールアミン誘導体が開示されており、特許文献2には、有機電界素子に有用なポリエステル樹脂が開示されている。また、特許文献3には、有機電子デバイスに利用可能な縮合芳香族基を有するジアミン化合物重合体が開示されており、特許文献4には、トリアリールアミン系ポリマー及びそれを用いた高分子発光素子が開示されている。
【0004】
また、特許文献5には、470nm〜520nmまたは570nm〜610nmに最大吸収波長を示し、380nm〜470nm、520nm〜570nmまたは610nm〜700nmの範囲に最大蛍光波長を示す染料を含有する光拡散性樹脂組成物及び該組成物を用いた画像表示装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献6には、投入光の短波長成分を吸収して長波長成分に変換して発光する蛍光体よりなることを特徴とする色変換器及び該色変換器を配置した植物育成装置が開示されており、特許文献7には、発光ダイオードに用いうる有機蛍光体を用いた色変換フィルム及び画像表示装置が開示されている。
【0006】
有機EL素子は実用化に向けての研究が活発に行われている。有機EL素子は低電圧で高い電流密度が実現できるために高い発光輝度および発光効率を実現することが期待され、特に高精細なマルチカラーまたはフルカラー表示が可能な有機多色ELディスプレイへの応用が期待されている。有機ELディスプレイのマルチカラー化またはフルカラー化の方法の1例として、特定波長領域の光を透過させる複数種のカラーフィルタを用いる方法(カラーフィルタ法)がある。カラーフィルタ法を適用する場合、用いられる有機EL素子は、多色発光して、光の3原色(赤色(R)、緑色(G)、青色(B))をバランスよく含む、いわゆる「白色光」を発光することが求められる。
【0007】
多色発光有機EL素子を得るための別法として、単色発光の有機EL素子と色変換膜とを用いる色変換法が提案されている(例えば、特許文献8参照。)。ここで用いられる色変換膜は、短波長の光を吸収して、長波長への光へと変換する1つまたは複数の色変換物質を含む層である。
【0008】
しかしながら、単一の色変換物質を用いて色変換膜を形成すると、吸収したエネルギーが同一分子間の移動を繰り返すうちに発光を伴わずに失活する、濃度消光と呼ばれる現象が発生する。この現象を抑制するために、色変換物質を何らかの媒体中に溶解または分散させて濃度を低下させ色変換物質同士の接触を抑制する媒体分散型の色変換膜が提案されている(例えば、特許文献9参照。)。
【0009】
色変換膜を低コストの塗布プロセスで作製するためには、色変換物質は可溶であることが求められる。さらに、プロセス上の観点からは、使用する装置に適した粘度調整が容易に行えることが望ましい。かかる目的には、可溶な溶媒の選択範囲が広く、かつ分子量を変えることで溶液の粘度調整が容易に行える高分子材料から成る色変換物質を用いることが望ましい。
【0010】
従来、高分子材料を用いた色変換膜としては、共役系高分子材料を含む色変換膜が提案されている。具体的には、高分子ELの発光材料として知られる、ポリアリーレンビニレン誘導体(例えば、特許文献10参照。)、およびポリフルオレン誘導体(例えば、特許文献11参照。)を含む色変換膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平08−053397号公報
【特許文献2】特開2004−196910号公報
【特許文献3】特開2005−53958号公報
【特許文献4】特開2007−162009号公報
【特許文献5】特開2008−133443号公報
【特許文献6】特開2008−181771号公報
【特許文献7】特開2009−311064号公報
【特許文献8】特開2002−075643号公報
【特許文献9】特開2000−230172号公報
【特許文献10】特開2000−026852号公報
【特許文献11】特開2004−362910号公報
【特許文献12】特開2007−157550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、媒体分散型色変換膜において、色変換物質の濃度を低下させると、吸収すべき光の吸光度が減少し、十分な変換光強度が得られない。この問題に関して、色変換膜を厚くして吸光度を高め、色変換の効率を維持することが行われている。このように厚い色変換膜(膜厚10μm程度)を用いた場合、段差部での電極パターン断線の発生、高精細化の困難さ、膜中への水分または溶媒の残留(有機EL素子と組み合わせた場合に、残留水分または溶媒により有機EL層が変質し、表示欠陥となる)などの問題点が存在する。
【0013】
さらに、上記のような媒体分散型の色変換膜においては、時間経過と共に色変換物質が媒体中を拡散移動して互いに凝集し、その結果、濃度消光を引き起こすという現象がしばしば発生する。したがって、このような色変換膜においては、長期間に亘って高い色変換効率を維持することは困難である。
【0014】
したがって、厚さを増大させることなしに、長期間に亘って十分な変換光強度を維持することが可能な色変換膜を実現させるためには、適切な吸収および発光スペクトルを持ち、かつ材料の蛍光量子収率が高く、かつ薄膜化したときに濃度消光を起しにくい材料が望まれる。
【0015】
厚さを増大させることなしに、高効率の色変換膜を実現させるための別法として、ホスト/ゲスト間のフェルスター型エネルギー移動を利用すること(アドバンストCCM技術)が提案されている(特許文献12参照)。この方法では、色変換膜はバックライト(青色)を吸収して励起するホスト材料と、その励起エネルギーを受け取り、所望の発光色で発光するゲスト材料から構成されている。
【0016】
このアドバンストCCM技術は、赤色変換膜を実現する場合に、とりわけ有用である。青色発光を吸収して、赤色で発光するためには、色変換材料は、極めて大きなストークスシフトを持つことが要求される。このような材料は、蛍光寿命が長いものとなり、非発光性の失活をする機会が増えるために、蛍光量子収率が大きくなることはとうてい望めない。したがって、単一材料から成る色変換膜で、高効率の赤色発光を実現することは、極めて困難だからである。
【0017】
また、これまで報告されているポリアリーレンビニレン誘導体やポリフルオレン誘導体の薄膜状態での蛍光量子収率はたかだか40%程度であり、色変換膜として用いるには不十分であった。
【0018】
また、ポリフルオレン誘導体の発光色は青色、ポリアリーレンビニレン誘導体の発光色は黄緑色−赤色であり、これらの材料は緑色発光の色変換材料としては用いることが出来なかった。
【0019】
これらの材料を赤色発光を実現するためのホスト材料として用いることも考えられる。しかしながら、調査の結果、これらの共役系高分子材料をホスト、低分子の赤色発光色素をゲストとして用いた色変換膜は、多くの場合寿命が低くなる傾向があり、実用に供することはできなかった。十分にメカニズムが解明された訳ではないが、寿命が低下する原因としては、ホスト中をゲスト分子が拡散して、互いに凝集したことなどが考えられる。
【0020】
さらに、これらの共役系高分子材料は、溶媒に溶かした際に、固有粘度が高くなる傾向がある。そのため、インクの濃度を上げると、インクの粘度が増大してしまうという欠点があった。このことは、インクジェット等による印刷の際に、インクの着弾精度の低下といった悪影響を及ぼす。あるいは、粘度を抑制するために、インクの濃度を小さくすると、規定膜厚まで塗布するのに、多数回の重ね塗りが必要となり、スループットの低下を招く。
【0021】
本発明の目的は、厚さを増大させることなしに、長期間に亘って十分な変換光強度を維持することが可能な緑色および赤色変換膜を提供することである。さらに、本発明の目的は、低コストのウェットプロセスで作製可能なかかる色変換膜を提供することである。また、本発明の別の目的は、該色変換膜を用いた多色発光有機ELデバイスを提供すること、視野角依存性に優れ、駆動時間の経過あるいは通電電流の変化に伴う色相変化がなく、長期にわたって安定した発光特性を示す多色発光有機ELデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
鋭意研究の結果、濃度消光を引き起す傾向の小さいアリールアミノアントラセン誘導体を、ポリスチレン誘導体から成る高分子鎖に導入した、ペンダント型高分子化合物とすることで、十分な色変換効率を持ち、塗布プロセスによる薄膜形成が可能な緑色変換材料となることを見出した。さらに、これらペンダント型高分子化合物は、赤色変換膜のホスト材料として用いた場合、低分子ゲストを劣化させる傾向が小さく、長寿命の赤色変換膜を実現できることを見出した。また、主鎖高分子として固有粘度の小さいポリスチレン誘導体を用いると、粘度を極端に上昇させることなしに、インクの濃度を増大させることができることを見出した。これにより、パネル印刷時の印字精度の向上と、スループット短縮の効果が生まれる。
【0023】
本発明者らは、このような研究成果に基づき、本発明に到達した。即ち、本発明のペンダント型高分子化合物の第1の実施形態は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(2)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(2)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であることを特徴とする。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20の複素環基、(置換)アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、Xは、直接結合又は下記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される連結基を表し、pは1〜5の数であり、qは1〜4の数であり、R1及びR2で表される炭素原子数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−又は−CH=CH―で中断されていてもよく、R’は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表す。)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、R3、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20の複素環基、(置換)アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、Yは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−、−CH=CH−、置換基を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルケニレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリーレン基を表し、Z1、Z2及びZ3は、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−N=CH−、−CH=CH−、置換基を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルケニレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリーレン基を表し、r、s及びtは、それぞれ独立に1〜4の数であり、a、b及びdは、それぞれ独立に0又は1の数であり、R3、R4及びR5で表される炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基及びZ1、Z2及びZ3で表される炭素原子数1〜20のアルキレン基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−又は−CH=CH−で中断されていてもよく、R’は、上記一般式(1)及び(2)と同じである。)
【0029】
本発明のペンダント型高分子化合物の第2の実施形態は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(6)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(6)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であることを特徴とする。
【0030】
【化4】

【0031】
また、本発明のペンダント型高分子化合物の第3の実施形態は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(7)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であることを特徴とする。
【0032】
【化5】

【0033】
(式中、Z3及びdは上記一般式(5)と同じである。)
【0034】
本発明のフィルムは、前記第1〜3のいずれか1つの実施形態のペンダント型高分子化合物を含有してなる。
【0035】
本発明の色変換膜の第1の実施形態は、第1〜3のいずれか1つの実施形態のペンダント型高分子化合物を含有してなる。
【0036】
また、本発明の色変換膜の第2の実施形態は、第1〜3のいずれか1つの実施形態のペンダント型高分子化合物と低分子色素化合物を含有することを特徴とする。
【0037】
本発明の色変換発光デバイスは、有機EL素子と、前記2つのうちいずれかの実施形態の色変換膜とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明においては、濃度消光を引き起す傾向の小さいアリールアミノアントラセン誘導体を、ポリスチレン誘導体から成る高分子鎖に導入した、ペンダント型高分子化合物を用いることで、薄膜状態での蛍光量子収率を向上させ、色変換膜として用いるのに十分な色変換効率を得ることが可能になる。さらに、これらペンダント型高分子化合物は、アドバンストCCM赤色変換膜のホスト材料として用いた場合、低分子ゲストを劣化させる傾向が小さく、長寿命の赤色変換膜を実現することが可能である。また、主鎖高分子として固有粘度の小さいポリスチレン誘導体を用いることで、粘度を極端に上昇させることなしに、インクの濃度を増大させることができ、印刷時の印字精度とスループットを向上させる効果が得られる。
【0039】
これにより、ペンダント型高分子化合物を単独で用いた場合は緑色変換材料として、適当な赤色発光色素と組み合わせた場合は、赤色変換膜のホスト材料として、高い色変換効率を維持することが可能となる。また、適当な溶媒を選択することにより、低コストの塗布プロセスによって形成することができる色変換膜を提供することができる。また、そのような色変換膜を用いて形成される多色発光有機ELデバイスは、視野角依存性が少なく、駆動時間の経過または通電電流の変化に伴って色相が変化することがなく、長期にわたって安定した発光特性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の多色発光有機ELデバイスの構成例を示す図であり、(a)〜(d)は各構成例を示す図である。
【図2】実施例9、10、比較例1で作製した膜のPLスペクトルを示す図である。
【図3】実施例11、比較例2で作製した膜の耐光寿命試験の結果を示す図である。
【図4】実施例9、比較例1で用いた色変換材料の溶液粘度と濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
多くの有機蛍光材料においては、例え希薄な溶液状態において高い蛍光量子収率を持つ場合であっても、固体薄膜を形成すると分子間の強い相互作用に基づく濃度消光の効果のために、蛍光量子収率が大きく低下することが一般的である。しかしながら、詳細な調査の結果、ある種のアリールアミノアントラセン誘導体は、固体薄膜状態においても、60%以上の高い蛍光量子収率を持つことを見出した。
【0042】
これらの化合物は、比較的嵩高い置換基を備えており、そのことが分子間の相互作用を抑制し、濃度消光を起し難くしたものと考えられる。さらに、このように見出されたアリールアミノアントラセン誘導体の中には、最大発光波長が500−530nmに位置しているものも含まれており、緑色変換材料の有望な候補と成り得るものであった。即ち、我々は、緑色変換材料の候補として有望な、アリールアミノアントラセン誘導体を見出した。
【0043】
ところで、製造コストを下げるという観点から、色変換膜は塗布プロセス(インクジェット印刷、ディスペンサー塗布、スクリーン印刷、スプレー成膜等)によって作製することが好ましい。しかしながら、上記の材料は各種の溶媒に対する溶解性が低いという問題があり、塗布プロセスによって作製することは困難であった。また、これらのアリールアミノアントラセン誘導体は、いずれも分子量が1000以下の、いわゆる低分子化合物であった。低分子化合物は、例えそれがある種の溶媒に溶解したとしても、基板上に塗布すると、溶媒が蒸発する前に分子同士が集合・凝集してしまい、粉体状の固体となって、アモルファス性の連続薄膜が形成され難いという問題がある。
【0044】
これらの問題を解決し、高い色変換効率を持ちながら、低コストの塗布プロセスで作製可能な、色変換膜を得るための手段として、これらの低分子アリールアミノアントラセン誘導体を高分子化することが考えられる。
【0045】
低分子化合物を高分子化するには、該低分子化合物に適当な重合反応性置換基を導入して、それらをモノマーとして重合させ、高分子化させるという方法が考えられる。しかしながら、このように低分子化合物をモノマーとして重合させる方法は、重合反応性置換基の導入や重合反応によって、電子状態が初めの低分子化合物とは大きく変化することが多い。その結果、該低分子化合物が本来有していた、色変換膜にとって良好な吸収および発光スペクトルが、高分子化の後には保持されないおそれがある。
【0046】
これを解決するための手段として、該低分子化合物を適当な連結基を介して他の高分子に連結させた、いわゆるペンダント型高分子とすることが挙げられる。ペンダント型高分子では、光の吸収と発光に主として寄与するのは、連結された低分子化合物部位である。したがって、高分子化した後も、色変換膜にとって良好な吸収および発光スペクトルが保持されることが期待される。
【0047】
上記ペンダント型高分子としては、濃度消光を引き起す傾向の小さいアリールアミノアントラセン誘導体をポリスチレン誘導体から成る高分子鎖に導入した構造である、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び上記一般式(2)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(2)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100である高分子化合物を用いることができる。
【0048】
上記一般式(1)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5における置換基を有してもよい(即ち、置換または無置換の)炭素原子数1〜10のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二級ブチル、第三級ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三級アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、ヘプチル、イソヘプチル、第三級ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三級オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル等が挙げられる。上記一般式(I)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5における置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントラセン−1−イル、フェナントレン−1−イル等が挙げられる。
【0049】
上記一般式(I)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5における置換基を有してもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基としては、ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロピル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等が挙げられる。
【0050】
上記一般式(1)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5における置換基を有してもよい炭素原子数2〜20の複素環基としては、ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペラジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリジル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、ユロリジル、モルフォリニル、チオモルフォリニル、2−ピロリジノン−1−イル、2−ピペリドン−1−イル、2,4−ジオキシイミダゾリジン−3−イル、2,4−ジオキシオキサゾリジン−3−イル、カルバゾイル等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(1)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5におけるアミノ基としては、アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、クロロフェニルアミノ、トルイジノ、アニシジノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ,ナフチルアミノ、2−ピリジルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、ホルミルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ等が挙げられ、前記の第四級窒素を持つアンモニオ基はアニオンと塩を形成していてもよい。
【0052】
上記一般式(1)中のR1及びR2並びに上記一般式(3)〜(5)中のR3、R4及びR5におけるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0053】
上記一般式(3)中のY並びに上記一般式(4)及び(5)中のZ1、Z2及びZ3における置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、イソプロピレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、3−オキサペンチレン、2−ヒドロキシトリメチレン等が挙げられる。
【0054】
上記一般式(3)中のY並びに上記一般式(4)及び(5)中のZ1、Z2及びZ3における置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のシクロアルキレン基としては、1,2−シクロプロピレン、1,2−シクロペンチレン、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン、2−メチル1,4−シクロヘキシレン、3−メチル1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘプチレン、1,5−シクロオクチレン、1,5−シクロノニレン、1,6−シクロデカニレン等が挙げられる。
【0055】
上記一般式(3)中のY並びに上記一般式(4)及び(5)中のZ1、Z2及びZ3における置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のシクロアルケニレン基としては、1,2−シクロヘキセニレン、1,3−シクロヘキセニレン、1,4−シクロヘキセニレン、2−メチル−1,4−シクロヘキセニレン、1,4−シクロヘプテニレン、1,5−シクロオクテニレン、1,5−シクロノネニレン、1,6−シクロデカネニレン等が挙げられる。
【0056】
上記一般式(3)中のY並びに上記一般式(4)及び(5)中のZ1、Z2及びZ3における置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリーレン基としては、1,2−フェニレン、2−メチル−1,3−フェニレン、4,5−ジメチル−1,2−フェニレン、2,5−ナフチレン等が挙げられる。
【0057】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び上記一般式(2)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(2)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100である高分子化合物の中でも、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び上記一般式(6)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(6)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100である高分子化合物、あるいは上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び上記一般式(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(7)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であるペンダント型高分子化合物が、溶解性及び成膜性がよいので好ましい。
【0058】
従って、本発明のペンダント型高分子化合物の具体例としては、下記化合物(C−1)〜(C−12)を挙げることができる。
【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
本発明のペンダント型高分子化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(6)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(6)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100である高分子化合物である場合には、例えば下記スキーム1に示すように、化合物(8)にポリスチレンポリマー(C−13)を反応させて目的のペンダント型高分子化合物を得ることができる。
【0063】
【化9】

【0064】
また、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(7)のモル比がm:nでn/(m+n)=1/100〜100/100であるペンダント型高分子化合物であって、dが0である場合には、例えば下記スキーム2に示すように、化合物(8)に化合物(10)を反応させて化合物(11)を得、得られた化合物(11)とポリスチレンポリマー(C−13)を反応させて目的のペンダント型高分子化合物(C−15)を得ることができる。
【0065】
【化10】

【0066】
また、上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(7)のモル比がm:nでn/(m+n)=1/100〜100/100であるペンダント型高分子化合物であって、Z3が−O−R”−O−(R”は置換基を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基)、dが1である場合には、例えば下記スキーム3に示すように、4−ヨードフェノール(化合物(13))とジヨードアルキル(化合物(14))を反応させて得られた化合物(15)と、上記スキーム2で得られた化合物(8)を反応させて化合物(16)を得、得られた化合物(16)とポリスチレンポリマー(C−13)を反応させて目的のペンダント型高分子化合物(C−16)を得ることができる。
【0067】
【化11】

【0068】
上記スキーム1〜3に示した製造方法は、得られたペンダント型高分子化合物の分子量を制御するのが容易であるため好ましい。
【0069】
上記スキーム1〜3に示した製造方法において、例えば1)アリールアミンとハロゲン化アリールとのクロスカップリング反応、2)鈴木カップリング反応、3)アルコール(フェノール)とハロゲン化アルキルとのエーテル化反応(Williamson合成)を用いることができるが、特に限定されず種々の反応を用いることができる。以下、1)〜3)の反応について詳細に説明する。
【0070】
1)は、触媒及び塩基の存在下適当な溶媒中で、有機アミノ化合物とハロゲン化アリールのクロスカップリング反応により芳香族アミノ誘導体を得る方法であり、反応温度20℃〜300℃、より好ましくは50℃〜150℃、反応時間数分間〜72時間、より好ましくは1〜10時間の条件で行うことができる。触媒としては、有機パラジウム化合物又は銅粉等を用いることができる。
【0071】
上記パラジウム化合物としては、特に限定されないが、例えばパラジウム前駆体を少なくとも1種類の適切な配位子と反応させたものを用いることができる。
【0072】
パラジウム前駆体としては、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価のパラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)等の2価パラジウム化合物類;トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、テトラキス(トリブチルホスフィン)パラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等の0価パラジウム化合物等を挙げることができる。
【0073】
上記配位子としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−t−ブチル−ホスフィン、トリ−t−ブチル−ホスホニウムテトラフルオロホウ酸塩、トリス−オルト−トリル−ホスフィン、トリス−シクロヘキシル−ホスフィン、2−ジ−t−ブチルホスフィノ−1,1’−ビスフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピル−1,1’−ビスフェニル、(2−ビフェニル)ジ−t−ブチルホスフィン、R(−)−ジ−t−ブチル−[1−[(S)−2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン、ラセミ体ジ−t−ブチル−[1−[2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン、(R)−1−((S)−2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン、ラセミ体1−(2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセニル)エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン、R−1−[(S)−2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、ラセミ体1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、R(+)−2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、ラセミ体2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1’−ビフェニル、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリド、1,2−ビス(1−アダマンチル)イミダゾリウムクロリド、t−ブチル−ジ−1−アダマンチルホスフィン、R−1−[(S)−2−(2’−ジフェニルホスフィノフェニル]フェロセニル)エチル−ジ−t−ブチルホスフィン、2−ジ−t−ブチルホスフィノ−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1’−ビフェニル、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物が挙げられる。
【0074】
上記触媒の量は、有機アミノ化合物1モルに対し、0.001〜0.5モルが好ましい。
【0075】
上記塩基としては、ナトリウム、カリウムの炭酸塩やアルカリ金属アルコキシド等の無機塩基及び第三級アミン等の有機塩基から選択すればよく、特に制限するものではない。上記塩基として、より好ましくは、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド等のようなアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。該塩基量は任意の量で用いる事ができるが、一般的には有機アミノ化合物1モルに対し、0.5〜20モルが好ましく、1〜10モルがより好ましい。
【0076】
上記溶媒としては不活性溶媒を用いるのが好ましい。該不活性溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等を例示することができる。より好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒である。該溶媒の使用量は、通常は使用する原料の0.1〜90質量部、好ましくは2〜30質量部になるような割合で使用する。
【0077】
本反応は、常圧下、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で実施することが好ましいが、たとえ加圧条件であっても実施する事ができる。
【0078】
2)は、触媒及び塩基の存在下、芳香族ホウ素化合物とハロゲン化アリールとのクロスカップリング反応により非対称ビフェニル誘導体を得る方法であり、反応温度0℃〜150℃が好ましく、反応時間は反応温度などの条件で変わるが、通常、1〜500時間の条件が好ましい。
【0079】
上記触媒としては、例えば、パラジウム[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、[トリス(ジベンジリデンアセトン)]パラジウム、パラジウムアセテートなどのパラジウム錯体、ニッケル[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル、[ビス(1,4−シクロオクタジエン)]ニッケルなどのニッケル錯体等の遷移金属錯体と、必要に応じ、更にトリフェニルホスフィン、トリ(t−ブチルホスフィン)、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルホスフィリノプロパン、ジピリジルなどの配位子からなる触媒が挙げられる。
【0080】
この触媒としては、あらかじめ合成したものを用いることもできるし、反応系中で調製したものを用いることもできる。
【0081】
この触媒は任意の量で用いることができるが、一般的には有機アミノ化合物1モルに対し触媒量は0.01〜300モルであることが好ましく、0.1〜20モルであることが更に好ましい。
【0082】
上記塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、リン酸三カリウムなどの無機塩基、フッ化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の有機塩基が挙げられる。
【0083】
上記塩基は任意の量で用いる事ができるが、一般的には有機アミノ化合物1モルに対し、塩基量が0.5〜20モルであることが好ましく、1〜10モルであることがより好ましい。
【0084】
2)の反応は、必要に応じて溶媒を用いた状態で行なってもよい。使用する溶媒としては、水、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、これらの二種以上を混合して用いても良い。
【0085】
溶媒の使用量は、通常は用いる原料1質量部に対して0.1〜90質量部になるような割合で使用する。好ましくは、原料1質量部に対して2〜30質量部の割合で使用する。
【0086】
該溶媒としては、用いる化合物や反応によっても異なるが、一般的に副反応を抑制するために、溶媒中に含まれる酸素を除去しておくことが望ましい。
【0087】
3)は、アルコール(フェノール)とハロゲン化アルキルをアルカリの存在下に反応させて(非)対称エーテルを得る方法である。3)の反応においては、反応温度50〜150℃、反応時間1〜20時間の条件が好ましい。
【0088】
上記アルカリとしては、粒子状水酸化ナトリウム、粒子状水酸化カリウム、20〜50質量%の水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。上記アルカリにテトラブチルアンモニウム塩等の相関移動触媒を添加してもよい。
【0089】
上記溶媒としては不活性溶媒を用いるのが好ましい。該不活性溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド、水等を例示することができる。該溶媒の使用量は、通常は使用する原料の0.1〜90質量部、好ましくは2〜30質量部になるような割合で使用する。
【0090】
本発明のペンダント型高分子化合物の構造としては、ペンダント部を除いた高分子化合物はランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、あるいはグラフト共重合体のいずれでもよく、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等による共重合によって製造することもできる。本発明のペンダント型高分子化合物の重量平均分子量は、3000〜3000000であることが好ましい。
【0091】
本発明のペンダント型高分子化合物は、後述の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの他、色素レーザー、バイオイメージング、太陽電池、液晶ディスプレイ、農業用フィルム、発光ダイオード等の各種用途における色変換フィルムとして有用である。
【0092】
本発明のフィルムは、前記第1〜3のいずれか1つの実施形態のペンダント型高分子化合物を含有してなる。本発明のフィルムは、本発明のペンダント型高分子化合物、または本発明のペンダント型高分子化合物及びバインダーとを含む混合物を、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法あるいはエクストルージョンコート法によって支持体上に塗布することにより形成することができる。本発明のフィルムは支持体上に形成した状態で用いてもよい。また、本発明のフィルムは自立性であってもよく、その場合には上記の方法にて塗布したフィルムを支持体から剥離することによって自立フィルムを得ることができる。
【0093】
あるいはまた、本発明のペンダント型高分子化合物と下記に示す高分子材料とを含む混合物を押出成形、キャスト成形またはロール成形して、直接的に自立フィルムを形成してもよい。用いることのできる高分子材料は、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン;ノルボルネン樹脂等を含む。
【0094】
本発明者らは鋭意研究の結果、濃度消光を引き起す傾向の小さいアリールアミノアントラセン誘導体を、ポリスチレン誘導体から成る高分子鎖に導入した、ペンダント型高分子化合物を用いると、薄膜状態での十分な色変換効率を持ちながら、低コストの塗布工程で作製可能な、緑色変換膜を実現できることを見出した。即ち、本発明の色変換膜の第1の実施形態は、第1〜3のいずれか1つの実施形態のペンダント型高分子化合物を含有してなる。
【0095】
さらなる調査の結果、上記ペンダント型高分子化合物は、赤色変換膜のホスト材料としても優れた性能を有することが明らかとなった。
【0096】
上述した様に、赤色変換の実現は、単一材料から成る色変換膜では困難であり、ホスト/ゲスト構成を有するアドバンストCCM色変換膜を用いることが有効である。塗布プロセスによって形成可能な、かかるアドバンストCCM色変換膜としては、ホストとして高分子化合物を、赤色ゲストとして低分子化合物を用いることが考えられる。しかしながら、かかる構成のアドバンストCCM色変換膜は、例え形成初期に高い色変換効率を有するような場合であっても、時間の経過とともに急速にその効率が低下することが多い。一般に、高分子膜は大きな自由体積を有しており、その中に存在する低分子化合物は容易に膜中を拡散・移動する。上記構成のアドバンストCCM色変換膜では、低分子の赤色ゲスト分子が、時間の経過と共に膜中を拡散して凝集し、濃度消光を起すことが効率低下の原因と推定される。
【0097】
ところが、上記ペンダント型高分子化合物は、赤色変換膜のホスト材料として、低分子ゲスト材料と組み合わせて用いた場合に、長時間に亘って高い変換効率を維持し続けることが明らかとなった。上記ペンダント型高分子に導入した、アリールアミノアントラセン誘導体は嵩高い置換基を有している。これらの置換基が、低分子ゲストの拡散の障害となり、濃度消光が抑制された結果、高い変換効率が維持されたのではないかと推定される。
【0098】
本発明の色変換膜は、3000nm(3μm)以下の膜厚を有する。本発明の色変換膜においては、上記ペンダント型高分子化合物の蛍光量子収率が薄膜状態においても高いレベルで維持されているために、このように薄い膜厚においても十分な色変換膜効率を有する。
【0099】
色変換膜を塗布プロセスによって作製するためには、色変換材料(本発明のペンダント型高分子化合物)が良好な可溶性を有することに加えて、インク濃度および粘度の制御が重要となる。インクの濃度が低いと、1回の塗布工程によって形成される膜は薄いものとなり、所望の膜厚に達するまでに複数回の塗布が必要となる。したがって、塗布プロセスによって薄膜を形成するためには、膜の特性を劣化させない範囲で、所望の膜厚に対応した、高濃度のインクを用いることが望ましい。しかしながら、溶液の濃度を上げることは、通常、溶液粘度の上昇を伴う。溶液粘度の増大は、塗布装置において配管内における抵抗の増大や詰りなどの弊害をしばしばもたらす。
【0100】
色変換材料としてペンダント型高分子を用いることの他の効果は、溶液の粘度制御が容易となることである。かかるペンダント型高分子の粘度は、主として主鎖高分子の粘度によって決定される。低分子化合物を連結させる高分子主鎖は、該低分子化合物の特性を劣化させない限りにおいて、何を用いても良い。したがって、該高分子鎖として、固有粘度の小さい材料を採用することにより、上記ペンダント型高分子の固有粘度を小さくすることができる。このような、高分子の一例として、ポリスチレンを挙げることができる。このように、固有粘度の小さい高分子を主鎖として採用することにより、色変換膜としての高い性能を保持しつつ、塗布プロセスにとって好ましい、高濃度でありながら粘度の抑制されたインクを調整することが可能となる。
【0101】
色変換材料のみで色変換膜を作製する場合、本実施形態の色変換膜は、該ペンダント型高分子化合物溶液を塗布することによって作製することができる。あるいはまた、後述するように、他の要素とともに適切な透明支持体上に該ペンダント型高分子化合物溶液を塗布して色変換フィルタを作製してもよい。
【0102】
透明支持体として用いることができる材料は、ガラス、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、 ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタ レート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等の アクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン;ノルボルネン樹脂などの高分子材料であってもよい。
【0103】
高分子材料を用いる場合、透明支持体は剛直であっても可撓性であってもよい。透明支持体は可視光に対して80%以上の透過率を有することが好ましく、86%以上の透過率を有することがさらに好ましい。
【0104】
本発明の色変換膜は、その色変換特性に悪影響を与えない程度の量で、酸素吸収剤を含有させてもよい。該共役系高分子重合体は、酸素の存在下で光を照射された場合に酸化されやすく、蛍光量子収率が低下する恐れがある。これに対し、本発明では、酸素吸収剤を含有することにより、酸化を防止でき、蛍光量子収率の低下を防止することができる。
【0105】
酸素吸収剤としては、例えば、鉄、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、亜鉛、バリウムなどの金属、酸化第一銅や塩化第一鉄等の無機化合物、ヒドロキノン、アニリン等の有機化合物があげられる。
【0106】
本発明の色変換膜はその表面に、変換した光を十分に透過させることのできる酸素遮断膜を設けることができる。酸素遮断膜は、該色変換膜に対して大気中の酸素を遮断することができ、色変換膜の酸化を防止して、蛍光量子収率の低下を防止することができる。
【0107】
酸素遮断膜としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のプラスチックフィルム、アルミ箔、酸化ケイ素膜、チッ化ケイ素膜、または上記プラスチックフィルムにアルミや酸化ケイ素膜、チッ化ケイ素膜を形成したフィルム等があげられる。
【0108】
本発明の色変換発光デバイスは、有機EL素子と、第2の実施形態の色変換膜とを含み、該有機EL素子は、少なくとも一方が透明である一対の電極と、該一対の電極に挟持される有機EL層とを含むことを特徴とする。
【0109】
図1(a)〜(d)に本発明の色変換発光デバイスの構造例を示す。図1(a)のデバイスは、透明基板10/色変換膜20/有機EL素子30aの構成を有し、ここで有機EL素子30aは、透明電極31、有機EL層32および反射電極33を含む。図1(a)のデバイスは、色変換膜20と透明電極31とが接触する構成を有し、透明基板10の側に光を放射するいわゆるボトムエミッション方式のデバイスである。
【0110】
図1(b)のデバイスは、基板11/有機EL素子30b/色変換膜20の構成を有する。ここで有機EL素子30bは、素子30aと同様に透明電極31、有機EL層32および反射電極33を含むが、その積層順序が反対である。図1(b)のデバイスは、色変換膜20と透明電極31とが接触する構成を有し、基板11の反対側に光を放射するいわゆる トップエミッション方式のデバイスである
【0111】
図1(a)および(b)のデバイスにおいては、一対の電極の一方が透明電極31であり、有機EL層32で発光された光(EL光)は、直接的または反射電極33における反射により透明電極31の方向に放射され、色変換膜20に入射する。EL光の一部は第1色素に吸収され、第2色素へのエネルギー移動を経て、異なる波長分布を有する光(フォトルミネセンス光、PL光)として放射される。そして、色変換膜20に吸収されなかったEL光とPL光とにより、多色に発光する有機ELデバイスとして機能する。
【0112】
一方、図1(c)のデバイスは、透明基板10/有機EL素子30a/色変換膜20/反射層40の構成を有し、ここで有機EL素子30cは、第1透明電極31a、有機EL層32および第2透明電極31bを含む。図1(c)のデバイスは、ボトムエミッション方式のデバイスである。図1(d)のデバイスは、基板11/反射層40/色変換膜20/有機EL素子30cの構成を有する。図1(d)のデバイスは、トップエミッション方式のデバイスである。
【0113】
図1(c)および(d)のデバイスにおいては、一対の電極の両方が透明電極31(a,b)であり、有機EL層32で発光したEL光の一部は、色変換膜20を経由することなしに外部(図1(c)においては、透明基板10の方向、図1(d)においては第2透明電極31bの方向)へと放射される。EL光のうち、色変換膜20の方向に向かった光は、その一部が色変換膜20に吸収されPL光に変換される。さらに、色変換膜20を通過した光は反射層40にて反射され、再び色変換膜20に入射して波長分布変換を受け、さらに有機EL素子30cを通過して外部へと放射される。
【0114】
図1(a)〜(d)のデバイスのいずれにおいても、色変換膜20は透明電極31(第1および第2透明電極31a、31bを含む)と接触して配置されている。この配置は、有機EL層32と色変換膜20との距離を最小限にして、EL光の色変換膜20への入射効率を向上させると同時に、視野角依存性を低減させるのに有効である。
【0115】
上記のいずれの構成を採用するかについては、所望されるデバイスの用途、デバイスに要求される色相などに依存して決定される。以下に、本発明の色変換発光デバイスの構成要素のそれぞれについて述べる。
【0116】
透明基板10および基板11は、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、および寸法安定性に優れていることが好ましい。図1(a)および(c)のボトムエミッション型構成において用いられる透明基板10の材料は、ガラスなどの無機材料であってもよいし、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン;またはノルボルネン樹脂などの高分子材料であってもよい。高分子材料を用いる場合、透明基板10は剛直であっても可撓性であってもよい。透明基板10は可視光に対して80%以上の透過率を有することが好ましく、86%以上の透過率を有することがさらに好ましい。
【0117】
一方、図1(b)および(d)のトップエミッション型構成において用いられる基板11は、透明性が要求されないため、前述の透明基板10に用いることができる材料に加えて、金属またはセラミックなどを用いることができる。
【0118】
透明電極31(第1および第2透明電極31a、31bを含む)は、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極31は、ITO(In−Sn酸化物)、Sn酸化物、In酸化物、IZO(In−Zn酸化物)、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。透明電極31は、蒸着法、スパッタ法または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成され、好ましくはスパッタ法を用いて形成される。また、後述するように複数の部分電極からなる透明電極31が必要になる場合には、導電性透明金属酸化物を全面にわたって均一に形成し、その後に所望のパターンを与えるようにエッチングを行って、複数の部分電極からなる透明電極31を形成してもよい。あるいはまた、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる透明電極31を形成してもよい。あるいはまた、リフトオフ法を適用してパターニングを行うことも可能である。
【0119】
前述の材料から形成される透明電極31は、陽極としての使用に適当である。一方、透明電極31を陰極として用いる場合、有機EL層32との界面に陰極バッファ層を設けて、電子注入効率を向上させることが望ましい。陰極バッファ層の材料としては、Li、Na、K、またはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属またはそれらを含む合金、希土類金属、あるいはそれら金属のフッ化物などを用いることができるが、それらに限定されるものではない。陰極バッファ層の膜厚は、駆動電圧および透明性等を考慮して適宜選択することができるが、通常の場合には10nm以下であることが好ましい。
【0120】
有機EL層32は、少なくとも有機発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有している。あるいはまた、正孔の注入および輸送の両方の機能を有する正孔注入輸送層、電子の注入および輸送の両方の機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。具体的には、有機EL素子は下記のような層構造からなるものが採用される。なお、下記には陽極、陰極をも含めて示しているが、有機EL層は陽極と陰極の間に存在する層である。
【0121】
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0122】
上記の層構成において、陽極および陰極は、それぞれ透明電極31(第1および第2透明電極31a、31bを含む)または反射電極33のいずれかである。
【0123】
有機EL層32を構成する各層の材料としては、公知のものが使用される。たとえば、青色から青緑色の発光を得るための有機発光層の材料としては、たとえばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される。
【0124】
電子輸送層の材料としては、2−(4−ビフェニル)−5−(p−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルキノキサリン類、アルミニウムのキノリノール錯体(たとえばAlq3)などを用いることができる。電子注入層の材料としては、前述の電子輸送層の材料に加えて、アルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウムのキノリノール錯体を用いることもできる。
【0125】
正孔輸送層の材料としては、TPD、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(α−NPD)、4,4’,4’’−トリス (N−3−トリル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などのトリアリールアミン系材料を含む公知の材料を用いることができる。正孔注入層の材料としては、フタロシアニン類(銅フタロシアニンなど)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。
【0126】
反射電極33は、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成されることが好ましい。高反射率の金属は、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどを含む。高反射率のアモルファス合金は、NiP、NiB、CrPおよびCrBなどを含む。高反射率の微結晶性合金は、NiAlなどを含む。反射電極33を、陰極として用いてもよいし、陽極として用いてもよい。反射電極33を陰極として用いる場合には、反射電極33と有機EL層32との界面に、前述の陰極バッファ層を設けて有機EL層32に対する電子注入の効率を向上させてもよい。あるいはまた、反射電極33を陰極として用いる場合、前述の高反射率金属、アモルファス合金または微結晶性合金に対して、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化し、電子注入効率を向上させることができる。反射電極33を陽極として用いる場合には、反射電極33と有機EL層32との界面に、前述の導電性透明金属酸化物の層を設けて有機EL層32に対する正孔注入の効率を向上させてもよい。
【0127】
反射電極33は、用いる材料に依存して、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。後述するように複数の部分電極からなる反射電極33が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極33を形成してもよい。
【0128】
図1(a)〜(d)において、有機EL素子30(a〜c)中に複数の独立した発光部を形成するために、一対の電極のそれぞれは平行なストライプ状の複数の部分から形成し、一方の電極を形成するストライプと他方の電極を形成するストライプとが互いに交差(好ましくは直交)するように形成した例を示すことができる。このような有機EL素子はマトリクス駆動を行うことができる。すなわち、一方の電極の特定のストライプと、他方の電極の特定のストライプに電圧が印加された時に、それらのストライプが交差する部分において有機EL層32が発光する。あるいはまた、一方の電極を、ストライプパターンを持たない一様な平面電極とし、他方の電極を各発光部に対応するような複数の部分電極を形成するようにパターニングしてもよい。その場合には、各発光部に対応する複数のスイッチング素子を設けて各発光部に対応する前記の部分電極に1対1で接続して、いわゆるアクティブマトリクス駆動を行うことが可能になる。あるいはまた、全面で均一に発光する有機ELデバイスが所望される場合、一対の電極のそれぞれを一様な平面電極とすることができる。
【0129】
反射層40は、前述の高反射率の金属(Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなど)、アモルファス合金(NiP、NiB、CrPおよびCrBなど)、微結晶性合金(NiAlなど)を用いて形成されることが好ましい。本発明における色変換膜20が薄膜であるため、反射層40を介して下部電極間(31a間)また は上部電極間(31b間)で短絡を起こすことも考えられる。これを防止するために、反射層40と色変換膜20との間、または色変換膜20と電極(下部電極間31aまたは上部電極間31b)との間に、絶縁層を設けてもよい。絶縁層は、色変換膜20に近い屈折率(好ましくは1.5〜2.0程度)を有するTiO2、ZrO2、AlOx、AlN、SiNxなどの透明絶縁性無機物を用いて形成することができる。
【0130】
本発明の色変換発光デバイスにおいては、色変換膜20を構成する共役系高分子共重合体の種類を変更すること、あるいは色変換膜20の膜厚を調整することによって、色変換膜20におけるEL光の吸収光量を調節することができる。これらの方法によるEL光の吸収光量およびPL光の放射光量の調節に加えて、図1(a)〜(d)に示すような色変換層20の配置を適宜選択することによって、本発明の多色発光有機ELデバイスは、白色光を含む任意の色相の光を発することができる。
【0131】
本発明の色変換発光デバイスにおいては、色変換層20を構成する共役系高分子共重合体の種類を変更すること、あるいは色変換層20の膜厚を調整することによって、色変換層20におけるEL光の吸収光量を調節することができる。これらの方法によるEL光の吸収光量およびPL光の放射光量の調節に加えて、図1(a)〜(d)に示すような色変換層20の配置を適宜選択することによって、本発明の多色発光有機ELデバイスは、白色光を含む任意の色相の光を発することができる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例、評価例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。下記実施例1〜8は、本発明の高分子化合物の合成例を示す。
【0133】
<実施例1>高分子化合物(C−1)の合成
下記スキームに従い、高分子化合物(C−1)を合成した。
【0134】
【化12】

【0135】
<ステップ1>化合物(11)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物(8)3.0g(3.74mmol)、化合物(10)1.5g(3.74mmol)、ナトリウム−t−ブトキシド0.5g(5.24mmol)及びトルエン30mlを仕込み、酢酸パラジウム8mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン20mgをトルエン0.5mlに溶解させたものを加え、110℃で4時間撹拌した。室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、メタノール分散洗浄、カラムクロマトグラフィー(トルエン:n−ヘキサン=1:1→トルエン)、メタノール分散洗浄、60℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体1.9gを得た。この黄色固体が化合物(11)であることは、NMRで確認した。
【0136】
<ステップ2>高分子化合物(C−1)の合成
アルゴン雰囲気下、ステップ1で得られた化合物(11)0.2g(1.8×10-4mol)、高分子化合物(C−17)(重量平均分子量7.18×104)0.13g及びテトラヒドロフラン(THF)14mlを仕込み、2Mの炭酸カリウム水溶液4.2mlを加え、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム20mg(10mol%)を加えて70℃で6時間撹拌した。室温に冷却後、ゲルパーミエーションフィルトレーション?(GPF)によるろ過、トルエンからの油水分離、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、ショートカラム(トルエン)、再沈(THF/n−ヘキサン)、アセトン分散洗浄、エタノール分散洗浄、60℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体0.18gを得た。
【0137】
得られた黄色固体が高分子化合物(C−1)であることはNMRで確認し、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、m及びnの値は、NMR測定において、側鎖のプロトン数を比較することにより行った。また、蛍光スペクトルは、高分子化合物(C−1)を20質量%の濃度でトルエン又はTHFに溶解し、600rpm、30秒で2.5cm×7.5cmの大きさのスライドガラスにスピンコート法により塗布し、60℃で10分乾燥することによりフィルムを作成し、このフィルムを用いて測定した。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0138】
<実施例2>高分子化合物(C−2)の合成
下記スキームに従い、高分子化合物(C−2)を合成した。
【0139】
【化13】

【0140】
<ステップ1>化合物(19)の合成
アルゴン雰囲気下、1,10−ジヨードデカン(化合物(18))0.9g(2.54×10-2mol)及びジメチルホルムアミド(DMF)30gを仕込み、70℃で撹拌してDMF溶液1を得た。別途、4−ヨードフェノール(化合物(13))2.8g(1.27×10-2mol)及び水酸化カリウム0.9g(1.33×10-2mol)をDMF30gに70℃で溶解させてDMF溶液2を得た。DMF溶液1にDMF溶液2を30分かけて滴下し、2時間撹拌した。室温に冷却後、反応液を水500mlに注いで1時間撹拌し、クロロホルム150mlから油水分離、水洗、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、メタノールからの晶析、30℃で1時間の乾燥を経て、白色固体3.1gを得た。この白色固体が化合物(19)であることはNMRによって確認した。
【0141】
<ステップ2>化合物(20)の合成
アルゴン雰囲気下、実施例1のステップ1で得られた化合物(11)0.7g(6.3×10-4mol)及びステップ1で得られた化合物(19)0.4g(6.9×10-4mol)をTHF6mlに溶解させ、2Mの炭酸カリウム水溶液2.6mlを加えた。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム72mg(10mol%)を加えて80℃で8時間撹拌した。室温に冷却後、トルエンから油水分離を行い、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、カラムクロマトグラフィー(トルエン:n−ヘキサン=1:2)、60℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体0.13gを得た。得られた黄色固体が化合物(20)であることはNMRで確認した。
【0142】
<ステップ3>高分子化合物(C−2)の合成
高分子化合物(C−18)(重量平均分子量2.14×104)、水酸化カリウム10mg(1.16×10-4mol)及びDMF1.9gを仕込み、70℃で撹拌した。この溶液にステップ2で得られた化合物(20)0.13g(9.67×10-5mol)を加えて7時間撹拌した。室温に冷却後、希塩酸水及びTHFを加えて油水分離を行った。水洗、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、メタノール分散、再沈(THF/n−ヘキサン)、メタノール洗浄、60℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体0.05gを得た。得られた黄色固体が高分子化合物(C−2)であることはNMRで確認し、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、m及びnの値は、NMR測定において、側鎖のプロトン数を比較することにより行った。また、蛍光スペクトルは実施例1と同様にしてフィルムを作製して測定した。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0143】
<実施例3>高分子化合物(C−3)(m=73、n=27)の合成
下記スキームに従い、高分子化合物(C−3)を合成した。
【0144】
【化14】

【0145】
<ステップ1>化合物(23)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物(21)1.0g(9.4×10-4mol)、4−n−オクチルアニリン(化合物(22))0.5g(2.44×10-3mol)、ナトリウム−t−ブトキシド0.14g(1.41×10-3mol)及びトルエン27mlを仕込み、酢酸パラジウム2mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを少量のトルエンに溶解させたものを加え、100℃で3時間撹拌した。室温に冷却後、シリカゲル20cc及び海砂を加えてGPFによりろ過を行った。脱溶媒、カラムクロマトグラフィー(トルエン:n−ヘキサン=1:1)、脱溶媒、メタノール分散洗浄、80℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体0.8gを得た。得られた黄色固体が化合物(23)であることはNMRで確認した。
【0146】
<ステップ2>高分子化合物(C−3)の合成
アルゴン雰囲気下、ステップ1で得られた化合物(23)0.8g(6.73×10-4mol)、高分子化合物(C−17)(重量平均分子量7.18×104)0.37g、ナトリウム−t−ブトキシド97mg(1,0×10-3mol)及びトルエン20mlを仕込み、酢酸パラジウム1.5mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを0.5mlのトルエンに溶解させたものを加え、110℃で7時間撹拌した。室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、脱溶媒、メタノール分散洗浄、再沈(THF/n−ヘキサン)、メタノール分散洗浄、60℃で2時間、135℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体0.99gを得た。得られた黄色固体が高分子化合物(C−3)であることはNMRで確認し、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、m及びnの値は、NMR測定において、側鎖のプロトン数を比較することにより行った。また、蛍光スペクトルは実施例1と同様にしてフィルムを作製して測定した。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0147】
<実施例4>高分子化合物(C−3)(m=80、n=20)の合成
反応成分比率を変更した以外は実施例3と同様にして、高分子化合物(C−3)を合成した。
【0148】
<ステップ1>化合物(23)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物(21)0.26g(2.44×10-4mol)、4−n−オクチルアニリン(化合物(22))0.15g(excess)、ナトリウム−t−ブトキシド35mg(3.66×10-4mol)及びトルエン12mlを仕込み、酢酸パラジウム1mg(2mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを加え、110℃で8時間撹拌した。室温に冷却後、希塩酸水を加えて油水分離、炭酸水素ナトリウムを加えて油水分離を行い、水洗、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、カラムクロマトグラフィー(トルエン:n−ヘキサン=1:1)、脱溶媒、80℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体0.27gを得た。得られた黄色固体が化合物(23)であることはNMRで確認した。
【0149】
<ステップ2>高分子化合物(C−3)の合成
アルゴン雰囲気下、ステップ1で得られた化合物(23)0.27g(2.27×10-4mol)、高分子化合物(C−17)(重量平均分子量7.18×104)0.12g、ナトリウム−t−ブトキシド32mg(3.41×10-4mol)及びトルエン8mlを仕込み、酢酸パラジウム0.5mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを少量のトルエンに溶解させたものを加え、100℃で7時間撹拌した。室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、脱溶媒、メタノール分散洗浄、再沈(THF/n−ヘキサン)、60℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体0.18gを得た。得られた黄色固体の同定、蛍光スペクトルの測定は実施例3と同様にした。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0150】
<実施例5>高分子化合物(C−5)(m=72、n=28)の合成
下記スキームに従い、高分子化合物(C−5)を合成した。
【0151】
【化15】

【0152】
アルゴン雰囲気下、化合物(10)1.0g(1.26×10-3mol)、高分子化合物(C−17)(重量平均分子量7.18×104)0.7g、ナトリウム−t−ブトキシド0.2g(1.89×10-3mol)及びトルエン10mlを仕込み、酢酸パラジウム5mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを加え、110℃で2時間撹拌した。室温に冷却後、GFPによるろ過、硫酸ナトリウムによる乾燥、脱溶媒、アセトン分散洗浄、再沈(THF/n−ヘキサン)、120℃で1時間の乾燥を経て、黄色固体0.6gを得た。得られた黄色固体の同定および蛍光スペクトルの測定は実施例3と同様にした。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0153】
<実施例6>高分子化合物(C−5)(m=84、n=16)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物(10)1.5g(1.90×10-3mol)、高分子化合物(C−17)(重量平均分子量7.18×104)1.4g、ナトリウム−t−ブトキシド0.4g(3.8×10-3mol)及びトルエン16mlを仕込み、酢酸パラジウム5mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを加え、100℃で7時間撹拌した。室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、脱溶媒、再沈(THF/n−ヘキサン)、80℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体0.6gを得た。得られた黄色固体の同定および蛍光スペクトルの測定は実施例1と同様にした。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0154】
<実施例7>高分子化合物(C−5)(m=85、n=15)の合成
実施例6と同様にして得た反応液を室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、脱溶媒、再沈(THF/メタノール)、アセトン中で分散洗浄、さらにメタノール中で分散洗浄した後、再沈(THF/n−ヘキサン)メタノール分散洗浄した後、80℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体1.0gを得た。得られた黄色固体の同定および蛍光スペクトルの測定は実施例1と同様にした。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0155】
<実施例8>高分子化合物(C−5)(m=69、n=31)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物(10)1.8g(2.27×10-3mol)、高分子化合物(C−19)(重量平均分子量7.18×104)0.8g、ナトリウム−t−ブトキシド0.3g(2.72×10-3mol)及びトルエン18mlを仕込み、酢酸パラジウム5mg(1mol%)及びトリ−t−ブチルホスフィン10mgを加え、100℃で7時間撹拌した。室温に冷却後、ショートカラム(トルエン)、アセトン分散洗浄、再沈(THF/n−ヘキサン)、メタノール分散洗浄、80℃で2時間の乾燥を経て、黄色固体2.0gを得た。得られた黄色固体の同定および蛍光スペクトルの測定は実施例1と同様にした。表1にm及びnの値および高分子化合物を含有するフィルムの吸収及び蛍光特性の評価を示す。
【0156】
【表1】

【0157】
表1より、本発明の化合物は、吸収波長成分に対応した波長成分を吸収し、蛍光波長成分に対応した波長成分の光に変換することができ、色変換フィルタ用途に適していることがわかる。
【0158】
<実施例9>緑色変換膜の作成
透明ガラス基板として、純水洗浄および乾燥した50×50×0.7mmのコーニング社製1737ガラスを用いた。高分子化合物(C−5)(m=72、n=28)(GPC法を用いて測定したポリスチレン換算分子量:11万)をTHF溶媒中に濃度が1重量%となるまで溶解させた。スピンコーターに上記ガラス基板をセットし、該ペンダント型高分子化合物溶液を滴下して、基板を回転させて均一な膜を形成した。この際に、基板を回転速度800rpmで3分間回転させた。得られた膜の蛍光量子収率を、積分球を用いて測定した。さらに、これらの膜のフォトルミネセンス(PL)スペクトルを測定した。励起波長は470nmとした。得られた膜の蛍光量子収率を表2に示す。また、図2に得られた膜のPLスペクトルを示す。また、色変換材料として用いた高分子化合物(C−5)の、溶液粘度と濃度の対応を調べた。粘度測定には回転子型粘度計を用いた。その結果を図4に示す。
【0159】
<実施例10>緑色変換膜の作成
色変換材料として、高分子化合物(C−3)(m=80、n=20、GPC法を用いて測定したポリスチレン換算分子量:12万)を用いた以外は実施例9と同様の方法にて、ガラス基板上に色変換膜を作製した。得られた膜の蛍光量子収率を実施例9と同様にして測定した。その結果を表2に示す。また、図2に得られた膜のPLスペクトルを示す。
【0160】
<比較例1>緑色変換膜の作成
色変換材料として、アリーレンビニレン誘導体である、MEH/PPV(GPC法を用いて測定したポリスチレン換算分子量:10万)のTHF溶液(濃度1重量%)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて、ガラス基板上に色変換膜を作製した。得られた膜の蛍光量子収率を実施例9と同様にして測定した。その結果を表2に示す。また、図2に得られた膜のPLスペクトルを示す。また、色変換材料として用いたMEH/PPVの、溶液粘度と濃度の対応を調べた結果を図4に示す。
【0161】
<実施例11>赤色変換膜の作成
高分子化合物(C−5)のTHF溶液(濃度1重量%)と赤色低分子色素のTHF溶液(濃度0.1重量%)の混合物を用いた以外は実施例9と同様の方法にて、ガラス基板上に色変換膜を作製した。得られた赤色変換膜の蛍光量子収率を実施例9と同様にして測定した。その結果を表2に示す。また、得られた膜を、太陽光の照射を想定した耐光寿命試験にかけた。基板を60℃に加熱した状態で、Xeランプの光を照射した。この試験は、実際に太陽光に暴露された際の、約10倍の加速に相当する。図3に、耐光寿命試験の結果を示す。
【0162】
<比較例2>
実施例11と同様の方法にて、ガラス基板上にホスト/ゲスト色変換膜を作製した。ただし、ホスト材料として、高分子化合物(C−5)の代わりに比較例1で用いたMEH/PPVを用いた。得られた膜の蛍光量子収率を実施例9と同様にして測定した。その結果を表2に示す。また、実施例11と同様にして行なった耐光寿命試験の結果を図3に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
表2から、緑色変換膜については、実施例9が最も高い蛍光量子収率を示しており、比較例1は、蛍光量子収率もかなり低くなっていることがわかる。赤色変換膜については、比較例2は実施例11よりやや高い蛍光量子収率を示している。
【0165】
図2から、緑色変換膜では、実施例9と10はいずれも良好な緑色発光を示しているのに対し、比較例1は長波長シフトが大きくオレンジ色に近い発光であることがわかる。なお。図2には示していないが、赤色変換膜については、実施例11と比較例2はほぼ共通の発光スペクトルを示した。これらは、赤色ゲストの発光スペクトルと一致しており、ホストゲスト間のエネルギー移動が確認された。
【0166】
図3から、耐光寿命試験の結果、比較例2は急速に蛍光量子収率が低下しており、劣化が認められる。それに対して、実施例11は試験開始初期にやや蛍光量子収率が低下しているが、その後劣化は進行していないことがわかる。このように、本発明のペンダント型高分子化合物をホストとして用いることで、長寿命の赤色変換膜を実現できることが確認された。
【0167】
また、粘度測定の結果を示した図4から明らかなように、本発明のペンダント型高分子化合物は、同等の分子量を持つアリーレンビニレン誘導体と比較して、濃度増大に伴う粘度上昇は非常に小さいことが分かる。
【0168】
以上のことから、本発明の範囲内である実施例1の色変換膜は、アリールアミノアントラセン誘導体を、ポリスチレン誘導体から成る高分子鎖に導入した、ペンダント型高分子化合物とすることで、十分な色変換効率を持ち、塗布プロセスによる薄膜形成が可能な緑色変換材料となることが確認された。さらに、赤色変換膜のホスト材料として用いた場合、低分子ゲストを劣化させる傾向が小さく、長寿命の赤色変換膜を実現できることが確認された。また、粘度を大きく上昇させることなしに、インクの濃度を増大させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0169】
10 透明基板
20 色変換膜
30 有機EL素子
31 透明電極
32 有機EL層
33 反射電極
11 基板
40 反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(2)で表され-る繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(2)のモル比をm:nとしたとき、n/(m+n)=1/100〜100/100であることを特徴とするペンダント型高分子化合物。
【化1】

【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20の複素環基、(置換)アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、Xは、直接結合又は下記一般式(3)〜(5)のいずれかで表される連結基を表し、pは1〜5の数であり、qは1〜4の数であり、R1及びR2で表される炭素原子数1〜10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−又は−CH=CH―で中断されていてもよく、R’は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表す。)
【化3】

(式中、R3、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20の複素環基、(置換)アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、Yは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−、−CH=CH−、置換基を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルケニレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリーレン基を表し、Z1、Z2及びZ3は、それぞれ独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−N=CH−、−CH=CH−、置換基を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルキレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のシクロアルケニレン基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリーレン基を表し、r、s及びtは、それぞれ独立に1〜4の数であり、a、b及びdは、それぞれ独立に0又は1の数であり、R3、R4及びR5で表される炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基及びZ1、Z2及びZ3で表される炭素原子数1〜20のアルキレン基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−NR’−、−CONH−、−NHCO−、−CONR’−、−NR’CO−、−N=CH−又は−CH=CH−で中断されていてもよく、R’は、上記一般式(1)及び(2)と同じである。)
【請求項2】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(6)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(6)のモル比がm:nでn/(m+n)=1/100〜100/100である請求項1記載のペンダント型高分子化合物。
【化4】

【請求項3】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位の一種類以上及び下記一般式(7)で表される繰り返し単位の一種類以上を有し、(1):(7)のモル比がm:nでn/(m+n)=1/100〜100/100である請求項1記載のペンダント型高分子化合物。
【化5】

(式中、Z3及びdは上記一般式(5)と同じである。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペンダント型高分子化合物を含有してなるフィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペンダント型高分子化合物を含有してなる色変換膜。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペンダント型高分子化合物と低分子色素化合物を含有することを特徴とする色変換膜。
【請求項7】
有機EL素子と、請求項5または6に記載の色変換膜とを含むことを特徴とする色変換発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63763(P2011−63763A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217311(P2009−217311)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】