説明

ペースト供給装置及びペースト供給装置を用いた電子部品の製造方法

【課題】 使用に際して滞留するペーストの量を少なくでき、版胴を高速回転させた場合であっても、滞留するペーストが外部へ溢れ出すことを確実に防止することを可能とするペースト供給装置及び該ペースト供給装置を用いた電子部品の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 グラビア印刷に際して用いられる版胴6にペースト7を供給するためのペースト供給装置2であって、ドクターチャンバー3と、ドクターブレード4とを備えており、版胴6の外周面9と、ドクターチャンバー3の内面8との間に間隔Eが設けられており、この間隔Eが、版胴6の最下点近傍6eで最も狭くされており、版胴6の最下点近傍6eから上部に向かうに従って、連続的及び/または段階的に広くされていることを特徴とする、ペースト供給装置2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷に用いられるペースト供給装置に関し、より詳細には、ペースト貯留部を有するドクターチャンバーと、ドクターブレードとを有するペースト供給装置及びペースト供給装置を用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷法では、ドクターチャンバーを有するペースト供給装置が広く用いられている。
【0003】
ドクターチャンバーを有するペースト供給装置では、ドクターチャンバーのペースト貯留部のペーストに、版胴が浸漬され、かつ版胴自身が回転することにより、ペーストを汲み上げている。ペーストを汲み上げた後、版胴に付着した余分なペーストは、ドクターブレードによって掻き落される。余分なペーストを掻き落した後、版胴外周面の凹部内のペーストを、版胴と圧胴との間に供給された紙等の被印刷基材に転写して、印刷が行なわれている。
【0004】
下記の特許文献1には、図6に側面断面図で示すグラビア印刷用のインキ供給装置101が開示されている。このインキ供給装置101は、版胴102と、インキ壷103とを有する。版胴102の大部分は、インキ壷103内に位置している。
【0005】
インキ壷103は、円弧状の形状を有し、かつ連結されている2つの壁面104a,104bを有する。すなわち、壁面104a,104bと版胴102の外周面との間の空間がインキ壷103を構成している。インキ壷103は、外部のインキ導入管105aと、インキ排出管105bとに接続されている。インキ供給装置101は、余分なペーストを掻き落すドクターブレード106と、インキ壷103にペーストが戻るのを防ぐシールブレード107とを備えている。
【0006】
特許文献1に記載のインキ供給装置101では、版胴102の大部分がインキ壷103で覆われているため、版胴の外周面の凹部内にインキが充填され易い。また、版胴外周面の凹部内のインキが空気に触れる時間も短くされている。さらに、インキ供給装置101では、版胴102の大部分がインキ壷103により覆われているため、版胴102を高速回転させた場合においても、インキの飛散が生じ難い。
【0007】
また、インキ供給装置101では、インキの循環経路を外部の空気と遮断することにより、インキの溶剤の蒸発が抑制されている。従って、インキ壷103内にはインキの固形分が残らないため、印刷時に版詰まりが生じ難いとされている。
【特許文献1】特開平10−157075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のインキ供給装置101では、壁面104a,104bの版胴102に対向している部分は、版胴102の外周面とほぼ同心円上の円弧状である。従って、インキ壷103内には、高価なインキを大量に導入しなければならなかった。
【0009】
ところで、インキ壷103内に滞留するインキ量を減らすには、版胴102の外周面と壁面104a,104bとの間隔を狭くすればよい。しかし、この間隔が狭くなると、版胴102が高速で回転した際に、版胴により汲み上げられたインキとドクターブレード105により掻き落されたインキとが行き場を失って、インキ壷103内から溢れ出しがちであった。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の現状に鑑み、使用に際して滞留するペーストの量を少なくでき、版胴を高速回転させた場合であっても、滞留するペーストが外部へ溢れ出すことを確実に防止することを可能とするペースト供給装置及び該ペースト供給装置を用いた電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るペースト供給装置は、グラビア印刷に際して用いられる版胴にペーストを供給するためのペースト供給装置であって、版胴の外面と対向されている内面上にペーストが貯留されているペースト溜り部を有するドクターチャンバーと、版胴に付着した余分なペーストを掻き落すために版胴の外面に当接されているドクターブレードとを備えており、版胴の外面と、ドクターチャンバーの内面との間に間隔が設けられており、この間隔が版胴の最下点近傍で最も狭くされており、版胴の最下点近傍から上部に向かうに従って、連続的及び/または段階的に広くされていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るペースト供給装置のある特定の局面では、版胴が回転する際に生じるペーストの液流の下流側に位置するドクターチャンバーの端部における間隔は、ペーストの上流側に位置するドクターチャンバーの端部における間隔よりも広くされている。
【0013】
本発明に係るペースト供給装置の他の特定の局面では、ドクターブレードは、ドクターチャンバーとは異なる保持部材により取り外し可能に取付けられている。
【0014】
本発明に係るペースト供給装置の別の特定の局面では、ペースト溜り部に版胴に付着したペーストが戻るのを防止するために、ペースト供給装置は版胴の外面に当接されているシールブレードをさらに備えており、版胴とドクターブレードとの接点から、版胴とシールブレードとの接点までのペースト溜り部側における版胴の中心角が220°〜315°の範囲であり、かつペースト溜り部を有する空間が、外部の空間と遮断されている。
【0015】
本発明に係るペースト供給装置のさらに他の特定の局面では、ドクターチャンバーは、前記ペースト溜り部にペーストを滞留させ、この滞留しているペーストに版胴を浸漬させることで版胴の外面にペーストを供給する非循環式ドクターチャンバーである。
【0016】
本発明に係るペースト供給装置のさらに別の特定の局面では、ドクターチャンバーを、版胴の軸方向に対して揺動させるように、ドクターチャンバーに接続された揺動装置をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るペースト供給装置のさらに他の特定の局面では、揺動装置が、ドクターチャンバーと、ドクターブレードとを、同期して揺動するようにドクターチャンバー及びドクターブレードに接続されていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るグラビア印刷装置は、本発明に従って構成されたペースト供給装置と、版胴と、版胴に圧接される被印刷物の背面側から被印刷物を圧接する圧胴とを備えている。
【0019】
本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、本発明に従って構成されたペースト供給装置を用いて、長尺状のセラミックグリーンシートに内部電極パターンを印刷することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るペースト供給装置では、版胴の外面と、ドクターチャンバーの内面との間に間隔が設けられており、この間隔が版胴の最下点近傍で最も狭くされており、版胴の最下点近傍から上部に向かうに従って、連続的及び/または段階的に広くされているため、使用に際してペースト溜り部に滞留させるペーストを少なくでき、さらにペーストが外部へ溢れ出すのを防止することができる。
【0021】
本発明に係るペースト供給装置において、版胴が回転する際に生じるペーストの液流の下流側に位置するドクターチャンバーの端部における間隔が、ペーストの上流側に位置するドクターチャンバーの端部における間隔よりも広くされている場合には、版胴を高速回転させても、滞留するペーストが外部へ溢れ出し難い。
【0022】
また、上流側に位置するドクターチャンバーの端部における上記間隔が狭くされている場合には、ペースト溜り部を有する空間における空気量が少なくなる。従って、ペーストの溶剤の揮発が抑制され、ペーストが乾固化するのを防ぐことができる。
【0023】
本発明において、ドクターブレードがドクターチャンバーとは異なる保持部材により取外し可能に取付けられている場合には、ドクターブレードのみを取外して容易に清掃することができる。また、ドクターブレードの取替えも容易となるため、生産性が高められる。
【0024】
本発明において、版胴とドクターブレードとの接点から、版胴とシールブレードとの接点までのペースト溜り部側における版胴の中心角が220°〜315°の範囲であり、かつペースト溜り部を有する空間が、外部の空間と遮断されている場合には、使用に際してペーストが外部へ溢れ出すのを効果的に防止することができる。さらに、ペーストの溶剤の揮発も効果的に抑制され、ペーストが乾固化し難くなる。
【0025】
本発明におけるドクターチャンバーは、非循環式ドクターチャンバーであるため、印刷に必要な最小限の量のペーストをペースト溜り部に導入すればよい。従って、ペースト使用量を少なくすることができる。
【0026】
本発明において、ドクターチャンバーを、版胴の軸方向に対して揺動させるように、ドクターチャンバーに接続された揺動装置をさらに備えている場合には、版胴の軸方向に対してペーストが対流するため、滞留するペーストを均一に使用しながら、印刷することができ、チャンバー両端に滞留するペーストはなくなる。
【0027】
本発明において、揺動装置が、ドクターチャンバーと、ドクターブレードとを、同期して揺動するようにドクターチャンバー及びドクターブレードに接続されている場合には、ペースト溜り部を有する空間の密閉性を高めることができる。
【0028】
本発明に係るペースト供給装置と、版胴と、圧胴とを備えるグラビア印刷装置で印刷する場合には、版胴に対して圧胴より被印刷物を圧接させてより確実に印刷することができる。
【0029】
本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法では、本発明に従って構成されたペースト供給装置を用いて、長尺状のセラミックグリーンシートに内部電極パターンを印刷している。従って、断線・ショートが生じ難い積層セラミック電子部品を得ることができる。さらに、高価なペーストの使用量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0031】
図1(a)及び(b)に、本発明の一実施形態に係るペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置1の要部を斜視図及び側面断面図で示す。
【0032】
グラビア印刷装置1は、ドクターチャンバー3を有するペースト供給装置2を備えている。ペースト供給装置2は、版胴6にペースト7を供給するために配置されている。
【0033】
ドクターチャンバー3の内面8は、半円筒状曲面であり、従って横断面は円弧状の形状を有する。ドクターチャンバー3の内面8上にはペースト7が貯留されて、ペースト溜り部8aが形成されている。
【0034】
図1(a)に示すように、版胴6は、円筒状の形状を有する。版胴6の外周面9には、第1,第2の側面6a,6bから所定幅の部分を残し、印刷画線部6dが形成されている。印刷画線部6dには複数の凹部6cが形成されている。各凹部6cにペースト7が充填される。
【0035】
以下の説明においては、版胴6の第1の側面6aと、第2の側面6bとを結ぶ方向を幅方向とする。版胴6の幅方向に沿うドクターチャンバー3の幅方向の寸法L1は、版胴6の印刷画線部6dの幅方向の寸法L2よりも長く、かつ版胴6の幅方向の寸法L3よりも短くされている。滞留するペースト7の量を少なくするため、ドクターチャンバー3の幅方向の寸法L1は、印刷画線部6dの幅方向の寸法L2よりもわずかに長くされている。ドクターチャンバー3の幅方向の寸法L1は、被印刷物の寸法に応じて設定され得るが、本実施形態では、250〜350mmとされている。
【0036】
版胴6は、ドクターチャンバー3のペースト溜り部8aに滞留するペースト7に下部が浸漬されるように配置されている。版胴6の外周面9がドクターチャンバー3の内面8と対向するように配置されている。版胴6の外周面9とドクターチャンバー3の内面8との間には間隔Eが設けられている。ペースト溜り部8aに滞留するペースト7の量を少なくするために、間隔Eは、版胴6の最下点近傍6eで最も狭くされている。最下点近傍6eにおける間隔Eは、特に限定されないが、本実施形態では1〜5mmとしている。使用に際してペースト7が外部へ溢れ出すのを防止するため、間隔Eは、版胴6の最下点近傍6eから上部に向かうに従って連続的に広くされている。
【0037】
本発明において、ドクターチャンバー3の内面8の形状は、使用に際してペースト7が外部へ溢れ出すのを防止できる形状であれば、特に限定されない。図2(a)に模式的側面断面図で示すように、ドクターチャンバー3の内面8の横断面形状を、版胴6の最下点6e近傍付近で版胴6の外周面9と同心円の形状とし、ドクターチャンバー3の端部3a,3b付近では直線としてもよい。すなわち、上記同心円と直線とを組み合わせた横断面形状を採用してもよい。さらに、図2(b)に模式的側面断面図で示すように、ドクターチャンバー3の内面8の横断面形状を、階段形状としてもよい。すなわち、間隔Eは、版胴6の最下点近傍6eから上部に向かうに従って連続的及び/または段階的に広くされておりさえすればよい。
【0038】
ドクターチャンバー3は、複数の部材を連結した構造よりも、一体の構造であることが望ましい。
【0039】
本発明において、グラビア印刷に用いるペースト7の粘度は、特に限定されないが、20℃において1〜100Pa・s程度が好ましい。版胴6が回転してペースト7に液流が生じると、ペースト7はペースト溜り部8内における下流側に押し寄せられる。印刷に用いるペースト7の粘度が高い場合には、下流側においてペースト7が外部へ溢れ出し易くなる。よって、ペースト7が外部へ溢れ出すのを確実に防止するため、ペースト7の下流側に位置するドクターチャンバー3の端部3aにおける間隔Eは、ペースト7の上流側に位置するドクターチャンバー3の端部3bにおける間隔Eよりも広くされている。ドクターチャンバー3の端部3a,3bにおける間隔Eは特に限定されないが、下流側に位置するドクターチャンバー3の端部3aにおける間隔Eを20〜40mmとすることが好ましく、上流側に位置するドクターチャンバー3の端部3bにおける間隔Eを5〜10mmとすることがより好ましい。
【0040】
上記ドクターチャンバー3は、ペースト溜り部8aにペースト7を滞留させ、滞留しているペースト7に版胴6を浸漬し、版胴6の外周面6aにペースト7を供給する、いわゆる非循環式ドクターチャンバーである。これに対して、従来より公知の循環式ドクターチャンバーとは、版胴の側方から押し当てられ、新しいペーストを供給しつつ古いペーストを排出し、ペーストをドクターチャンバー内で循環させる構造のものをいう。循環式ドクターチャンバーでは、ペースト消費量が多くなるという欠点が存在する。
【0041】
これに対して、本実施形態で用いられているドクターチャンバー3は、上記のようにドクターチャンバー3からペーストが排出されず、言い換えればドクターチャンバー3内においてペーストが循環されないため、ペースト7の消費量を少なくすることができる。
【0042】
図1(a),(b)に示すように、本発明に係るペースト供給装置2は、ドクターチャンバー3の端部3a付近にドクターブレード4を有する。ドクターブレード4は、長方形のプレート状の形状を有する。使用に際して版胴6に付着した余分なペースト7を掻き落すために、ドクターブレード4の先端が、ドクターチャンバー3の端部3a付近において、版胴6の外周面9に先端が当接するように、ドクターブレード4が取付けられている。版胴6の外周面9に付着した余分なペースト7を全体に渡り掻き落すため、ドクターブレード4の前記幅方向の寸法L4は、ドクターチャンバー3の幅方向の寸法L1よりも長くされている。
【0043】
本実施形態では、ペースト7が外部に漏れ出すのを防ぐため、ドクターブレード4は、版胴6の中心方向に向かって押し付けられるように取付けられている。なお、ドクターブレード4は、ドクターブレード4が版胴6と当接する側と反対側の面より、版胴6の中心方向に向かって押し付けられるように取付けられてもよい。
【0044】
ドクターブレード4と版胴6との接触角度θxは、特に限定されないが、好ましくは40〜75°の範囲である。本発明において、ドクターブレード4と版胴6との接触角度θxとは、ドクターブレード4が版胴6と当接する部分を通る、版胴6の横断面形状である円に対する接線xと、ドクターブレード4のブレード面との間のなす角度をいう。
【0045】
ドクターブレード4の材質としては、例えばプラスチック、樹脂、セラミック、金属等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態では、版胴6の材質が硬度が高い硬質クロムであるため、ドクターブレード4の材質は金属とされている。
【0046】
ペースト7の粘度が高い場合や版胴6を高速回転する場合には、ドクターチャンバー3とドクターブレード4との間からペースト7が外部に溢れ出すのをより効果的に防止するため、図1(b)に示すように、ドクターブレード4にペースト返し4Aを取付けてもよい。ペースト返し4Aとは、版胴回転によってペースト溜まりからドクターブレード方向へ生じるペースト液流を、ドクターブレードからドクターチャンバー内のペースト溜り部8aへ導く板のことである。
【0047】
図1(b)に示すように、シールブレード5は、版胴6の外周面9に付着しているごみ等がペースト溜り部8aに入るのを防ぐために、ドクターチャンバー3の端部3b付近でドクターチャンバー3に取付けられている。なお、シールブレード5は、シリンダーやねじを用いて、ドクターチャンバー3に直接取付けられてもよく、あるいは他の部材を介して取付けられてもよい。特に限定されないが、本実施形態では、シールブレード5は長方形のプレート状の形状を有する。印刷時には、ドクターブレード4に付着したペースト7が版胴6の回転によって、ドクターブレード4の第1,第2の側面4a,4b部分から再度版胴6の外周面9に付着することもある。この再度付着したペースト7も除去し得るように、シールブレード5の上記幅方向の寸法L5は、ドクターブレード4の幅方向の寸法L4よりも長くすることが望ましい。
【0048】
シールブレード5と版胴6との接触角度θyは、特に限定されないが、好ましくは0〜30°の範囲であり、それによって版胴6の回転によるシールブレード5の巻き込みを抑制することができる。本発明において、シールブレード5と版胴6との接触角度θyとは、シールブレード5が版胴6と当接する部分を通る版胴6の横断面形状である円に対する接線yとシールブレード5のブレード面との間のなす角度をいう。
【0049】
シールブレード5の材質としては、例えばプラスチック、樹脂、セラミック、金属等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態では、版胴6の材質が硬度の高い硬質クロムであるため、シールブレード5の材質は金属とされている。
【0050】
図1(c)に、上記ペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置1の要部を側面図で示す。
【0051】
ドクターチャンバー3の第1,第2の側面3c,3dは、サイドシール10により覆われている。版胴6の外周面9、ドクターブレード4、及びシールブレード5と、サイドシール10とが当接する部分では、密閉性が保たれている。また、グラビア印刷装置1では、ペースト溜り部8aを有する空間を外部の空間と遮断された密閉空間とするため、ドクターチャンバー3とドクターブレード4との間には、隙間を塞ぐように密閉フィルム11が取付けられている。
【0052】
本実施形態では、サイドシール10は、1つのシール材で構成されている。サイドシール10は、ドクターチャンバー3の側面を覆っており、版胴6の外周面9とドクターブレード4と密閉フィルム11と、シールブレード5に当接されている。サイドシール10は、それぞれ版胴6の回転中心軸方向に向かって押し付けられるよう取り付けられている。ペースト7が外部へ溢れ出すのを効果的に防ぐためにはサイドシール10と版胴6の外周面9との接点においてサイドシール10が0〜10mm程度潰れるまでサイドシール10を押し付けて、隙間を完全に埋めた状態とすればよい。
【0053】
なお、サイドシールは複数のシール材に分割されていてもよい。すなわち図4に示す変形例のように、サイドシール10は、3つのシール材10A,10B,10Cにより構成されていてもよい。図4において、シール材10Aは、ドクターチャンバー3の端部3a側の側面を覆っており、版胴6の外周面9と、ドクターブレード4と、密閉フィルム11と、サイドシール10Bとに当接されている。シール材10Bは、ドクターチャンバー3の下部の側面を覆っており、版胴6の外周面9と、シール材10A,10Cとに当接されている。シール材10Cは、ドクターチャンバー3の端部3b側の側面を覆っており、版胴6の外周面9と、シールブレード5と、シール材10Bとに当接されている。
【0054】
シール材10A,10B,10Cは、それぞれ版胴6の回転の中心軸方向に向かって押し付けられるように取付けられている。ペースト7が外部へ溢れ出すのを効果的に防ぐためには、サイドシール10と版胴6の外周面9との接点において、サイドシール10が0〜10mm程度潰れるまでサイドシール10を押し付けて、隙間を完全に埋めた状態とすればよい。
【0055】
図1(a)〜(c)に戻り、サイドシール10の材質としては、版胴6の外周面9、ドクターブレード4、及びシールブレード5に対して追従性を有する柔らかい材質を用いる。サイドシール10の材質としては、特に限定されないが、自己潤滑性を有する弾性体が好適に用いられるが本実施形態では、サイドシール10の材質は、フッ素樹脂である。
【0056】
なお、図1(c)に示すように、サイドシール10が版胴6の外周面9、ドクターブレード4、及びシールブレード5と当接する部分を、先端10dが鋭利となるように斜めに切断し、版胴6の外周面9、ドクターブレード4、及びシールブレード5に対して追従性を向上させてもよい。
【0057】
また、サイドシール10の取付け時に、ペースト7に含まれる溶剤をサイドシール10に染込ませてもよい。ペースト7に含まれる溶剤をサイドシール10に染込ませている場合には、ペースト溜り部8aに滞留するペースト7の溶剤の揮発が抑制され、ペースト7が乾固化するのを効果的に防ぐことができる。また、サイドシールと版胴との摩擦を小さくすることができ、サイドシールの摩耗による削り粉の発生を抑えることができる。
【0058】
本実施形態において、版胴6とドクターブレード4との接点から、版胴6とシールブレード5との接点までのペースト溜り部8a側における版胴6の中心角θは、好ましくは220°〜315°の範囲である。上記中心角が220°〜315°の範囲の場合には、使用に際してペースト7の外部空間の空気との接触を少なくなり、ペースト7の乾固化を防ぐことができる。
【0059】
上記グラビア印刷装置1では、ペースト溜り部8aを有する空間が、外部の空間と遮断されているので、ペースト7が外部へ溢れ出し難い。さらに、ペースト7の溶剤の揮発も効果的に抑制することができ、ペースト7が乾固化するのを防ぐことが可能とされている。
【0060】
ペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置1を用いて印刷する場合、印刷量が多いと、印刷初期にペースト溜り部8aに導入したペースト7だけでは不足することがある。従って、本実施形態では、ドクターチャンバー3の端部3b近傍には、ペースト7を供給するためのペースト供給口12が形成されている。また、版胴6の印刷画線部6d全体にペースト7が行き渡るように、複数のペースト供給口12が分散配置されている。
【0061】
ペースト溜り部8aに滞留するペースト7の量を検知するために、ドクターチャンバー3の内面8にはセンサー13が取付けられている。ペースト7の量をを検知し得るセンサー13としては、近接センサーやレーザーセンサーなどを用いることができる。好ましくは、センサー13は、ポリエチレンテレフタレートやフッ素樹脂などの合成樹脂により被覆される。
【0062】
ペースト供給装置2においては、ドクターチャンバー3の下部には、印刷後にペースト溜り部8aに滞留するペースト7を排出し得るように、ドレン15a及びバルブ15bからなる排出口15が形成されている。もっとも、ペースト溜り部8aに導入するペースト7の量を少なくするため、印刷時には、ペースト溜り部8aに滞留するペースト7を排出しないように構成することが好ましい。
【0063】
ペースト供給装置2を動作させるときには、ドクターチャンバー3には図1に略図的に示す揺動装置Xを取付けてもよい。揺動装置を取付けるときは、版胴6の軸方向に直交する断面でペースト7を対流させるため、ドクターチャンバー3が版胴6の軸方向に対して揺動するように取付けることが好ましい。また、ペースト溜り部8aを有する空間の密閉性を向上させるためには、ドクターチャンバー3とドクターブレード4とが同期して揺動するように揺動装置を取付けることが好ましい。
【0064】
図3に、上記ペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置1の全体を概略構成図で示す。
【0065】
グラビア印刷装置1において、長尺状の被印刷物31が、巻出し部32aより送り出される。送り出された被印刷物32aは、ローラ35a〜35eを介して搬送され、上述したペースト供給装置2の版胴6と、版胴6の外周面9と接するように配置された圧胴33との間に供給される。ペースト供給装置2では、版胴6の外周面9の凹部6cには、版胴6の回転によって汲み上げられたペースト7が充填されている。被印刷物31が版胴6と圧胴33との間に供給されると、版胴6の外周面9の凹部6c内に汲み上げられたペースト7が被印刷物31に転写され、印刷画像が形成される。ペースト7が付着した被印刷物31は、ローラ35fを経由して乾燥炉34へと送り込まれる。乾燥炉34内にはローラ35g〜35kが配置されている。付着したペースト7が乾燥された後、印刷画像を形成した被印刷物31はローラ35l,35mを経由して巻取り部32bで巻き取られる。
【0066】
ペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置を用いて、長尺状のセラミックグリーンシートに内部電極パターンを印刷する具体的な方法を説明する。
【0067】
印刷前にペースト供給装置2のペースト溜り部8aには、ペースト7の乾固化を防止するため、体積が300〜1000mm3の内部電極ペースト7を供給すればよい。ペースト溜り部8aにペースト7を供給した後、印刷前の段階では、版胴6は例えば1〜10m/分の速度で回転させればよい。
【0068】
印刷時には、版胴6を例えば10〜200m/分の速度で回転させればよい。
【0069】
次のセラミックグリーンシートに継ぎかえる作業中には、版胴6は例えば1〜10m/分の速度で回転させればよい。
【0070】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るペースト供給装置42を有するグラビア印刷装置41の要部を示す。
【0071】
なお、第2の実施形態に用いたグラビア印刷装置41は、基本的には上述したグラビア印刷装置1と同様の構造を有する。異なるところは、ペースト供給装置42のドクターチャンバー2及びドクターブレード4の保持方法のみである。従って、第2の実施形態の以下の説明においては、上述したペースト供給装置2を有するグラビア印刷装置1の説明を援用することにより省略する。
【0072】
ペースト供給装置42では、ドクターチャンバー3は保持部材43で保持されている。一方、ドクターブレード4はドクターチャンバー3の保持部材43とは異なる別の保持部材44によって保持されている。ドクターブレード4は、保持部材44により容易に取り外し可能に取付けられている。
【0073】
第2の実施形態では、ドクターブレード4は容易に取り外し可能である。従って、セラミックグリーンシートを長距離印刷して、ドクターブレード4上部にペースト7が溜まっても、ドクターブレード4を容易に取り外して洗浄することができる。よって、内部電極ひきずりを未然に防止できるため、得られた積層セラミック電子部品では、内部電極ひきずりによる断線やショートの発生率が著しく低減される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a),(b)及び(c)は、本発明の一実施形態に係るペースト供給装置を有するグラビア印刷装置の要部を示す斜視図、側面断面図及び側面図。
【図2】(a),(b)は、本発明の一実施形態に係るペースト供給装置の変形例を示す模式的側面断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るペースト供給装置を有するグラビア印刷装置を示す概略構成図。
【図4】サイドシールが複数のシール材からなる変形例を説明するためのペースト供給装置の側面図。
【図5】本発明の別の実施形態に係るペースト供給装置を有するグラビア印刷装置の要部を示す側面断面図。
【図6】従来のペースト供給装置を有するグラビア印刷装置の要部の一例を示す側面断面図。
【符号の説明】
【0075】
1…グラビア印刷装置
2…ペースト供給装置
3…ドクターチャンバー
3a…下流側の端部
3b…上流側の端部
3c,3d…第1,第2の側面
4…ドクターブレード
4a,4b…第1,第2の側面
5…シールブレード
6…版胴
6a,6b…第1,第2の側面
6c…凹部
6d…印刷画線部
6e…最下点近傍
7…ペースト
8…内面
8a…ペースト溜り部
9…外周面
10…サイドシール
10d…先端
10A,10B,10C…シール材
11…密閉フィルム
12…ペースト供給口
13…センサー
15…排出口
31…被印刷物
32a…巻出し部
32b…巻取り部
33…圧胴
34…乾燥炉
35a〜35m…ローラ
41…グラビア印刷装置
42…ペースト供給装置
43…保持部材
44…保持部材
E…間隔
L1…ドクターチャンバーの幅方向の寸法
L2…印刷画線部の幅方向の寸法
L3…版胴の幅方向の寸法
L4…ドクターブレードの幅方向の寸法
L5…シールブレードの幅方向の寸法
X…揺動装置
x…接線
y…接線
θ…中心角
θx…接触角度
θy…接触角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビア印刷に際して用いられる版胴にペーストを供給するためのペースト供給装置であって、
前記版胴の外面と対向されている内面上にペーストが貯留されているペースト溜り部を有するドクターチャンバーと、
前記版胴に付着した余分なペーストを掻き落すために前記版胴の外面に当接されているドクターブレードとを備えており、
前記版胴の外面と、前記ドクターチャンバーの内面との間に間隔が設けられており、
前記間隔が、前記版胴の最下点近傍で最も狭くされており、
前記間隔が、前記版胴の最下点近傍から上部に向かうに従って、連続的及び/または段階的に広くされている、ペースト供給装置。
【請求項2】
前記版胴が回転する際に生じるペーストの液流の下流側に位置する前記ドクターチャンバーの端部における前記間隔が、ペーストの上流側に位置する前記ドクターチャンバーの端部における前記間隔よりも広くされている、請求項1に記載のペースト供給装置。
【請求項3】
前記ドクターブレードが、前記ドクターチャンバーとは異なる保持部材により取外し可能に取付けられている、請求項1または2に記載のペースト供給装置。
【請求項4】
前記ペースト溜り部に前記版胴に付着していたペーストが戻るのを防止するために、前記版胴の外面に当接されているシールブレードをさらに備え、
前記版胴と前記ドクターブレードとの接点から、前記版胴と前記シールブレードとの接点までの前記ペースト溜り部側における前記版胴の中心角が220°〜315°の範囲であり、
かつ前記ペースト溜り部を有する空間が、外部の空間と遮断されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペースト供給装置。
【請求項5】
前記ドクターチャンバーは、前記ペースト溜り部にペーストを滞留させ、この滞留しているペーストに版胴を浸漬させることで版胴の外面にペーストを供給する非循環式ドクターチャンバーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のペースト供給装置。
【請求項6】
前記ドクターチャンバーを前記版胴の軸方向に対して揺動させるように、ドクターチャンバーに接続された揺動装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載のペースト供給装置。
【請求項7】
前記揺動装置が、前記ドクターチャンバーと、前記ドクターブレードとを、同期して揺動するように前記ドクターチャンバー及び前記ドクターブレードに接続されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のペースト供給装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のペースト供給装置と、版胴と、前記版胴に圧接される被印刷物の背面側から被印刷物を圧接する圧胴とを備えることを特徴とする、グラビア印刷装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のペースト供給装置を用いて、長尺状のセラミックグリーンシートに内部電極パターンを印刷することを特徴とする、積層セラミック電子部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−21492(P2006−21492A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203495(P2004−203495)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】