説明

ペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法

【課題】 ゾルの刃裏もれ特性及び流動特性に優れ、かつ、コーティングの生産性に優れたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を提供する。
【解決手段】 以下の第一法線応力差の測定方法で測定した第一法線応力差が9200Pa以下となることを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂、及びその製造方法。
<第一法線応力差の測定方法>
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂100重量部、ジオクチルフタレート45重量部(株式会社ジェイプラス製)、炭酸カルシウム(BF−600 備北粉化工業株式会社製)70重量部、酸化チタン粉末(R−650 堺化学工業株式会社製)15重量部、アゾジカルボンアミド4.5重量部(AZH−25 大塚化学株式会社製)、液状安定剤3.0重量部(FL100 株式会社ADEKA製)、希釈剤(エクソールD40 エクソンモービル有限会社製)15重量部からなるペースト塩ビゾルを、粘弾性測定装置を用いて定常流動測定した時のせん断速度12500sec−1における第一法線応力差を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、樹脂を可塑剤に分散させて調製したゾルの刃裏もれ特性及び流動特性に優れ、かつ、生産性に優れたペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、一般に可塑剤、充填剤、安定剤又はその他の配合剤などと共に混練することにより、ペースト塩ビゾル(以下、特に断りのない限り、ゾルはペースト塩ビゾルを示す)を調製し、該ゾルを使用し種々の成形加工法により壁紙、タイルカーペット、手袋、自動車用アンダーコートなどの様々な成形加工品に用いられている。
【0003】
例えば、壁紙はゾルを基材上にコーティングして原反を作製し、原反を発泡・エンボスさせることで得られる。ゾルを基材上にコーティングする場合、コーティングナイフの裏にゾルが付着・生長し、刃裏面を汚染する刃裏もれ現象が生じる(非特許文献1)。この汚染が進行すると刃裏面にゾル玉が形成され、最終的にはそのゾル玉が原反上に移行して欠陥となり、壁紙として満足な品質の製品が得られない。これを避けるために、汚染された刃裏面を清掃する場合、製造ラインの停止を伴うため、コーティングの生産性が低下する。また、コーティング速度を低下すると刃裏もれは抑制されるが、この場合もコーティングの生産性が低下してしまう。
【0004】
このため、実際のコーティングの際は、ゾルへ添加する希釈剤量を増加する配合面での対応が一般的に行われている。しかし、添加する希釈剤量を多くした場合、配合コストが高くなる、製品物性が悪化する、環境負荷が高くなる等の問題点を有している。
【0005】
加工設備面で刃裏もれを解決する方法として、付着したゾルがコーティング面に移行しない構造とし、付着ゾルを吸引する方法や(特許文献1)、コーティングナイフの後ろにスムージングバーを設置してコーティング面に移行したゾル玉を平滑化する方法(非特許文献2)が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法では大幅な設備の改造又は更新が必要であり、投資額が大きくなる課題がある。
【0007】
一方、刃裏もれの発生に関与する因子として、種々のゾル特性、配合特性の影響が報告されている(非特許文献1、2、3)。コーティング加工領域に相当する高せん断速度下でのゾル粘度が影響するとの報告がある一方、ゾル粘度ではなく、コーティング加工領域に相当する高せん断速度下での法線応力が支配するとの報告もあり、未だいずれが主要因であるか明確ではない。一般的にはコーティング加工領域に相当する高せん断速度下でのゾル粘度を低下させる方法(非特許文献2参照)が有効であると考えられ、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂の開発が行なわれてきた(特許文献2、3、4、5)。
【0008】
しかしながら、コーティング加工領域に相当する高せん断速度下での粘度が低いペースト加工用塩化ビニル系樹脂でも刃裏もれ特性が劣る場合があり、高せん断速度下での粘度が低いペースト加工用塩化ビニル系樹脂が必ずしも刃裏もれ特性に優れるわけではなかった。ゾルの法線応力に関しては、高せん断速度下での測定が困難であることもあり、刃裏もれ及びゾル粘度との相関は不明確であった。
【0009】
【特許文献1】特開平9−323058号公報
【特許文献2】特開2005−306905号公報
【特許文献3】特開2007−119637号公報
【特許文献4】特開平6−313084号公報
【特許文献5】特開2006−96947号公報
【非特許文献1】PVCプラスチゾルのナイフコーティング時の「うらもれ」トラブルに関する検討 及川成彦他 色材 54(9)537−545.1981
【非特許文献2】ペースト塩ビ加工 五十嵐敏郎著 ラバーダイジェスト社 1998年出版 P168−P171、P246−P248
【非特許文献3】コーティングのトラブル対策 原崎勇次著 総合技術センター 1993年出版 P57−P58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上から、ゾルをコーティング加工する分野において、ゾルの刃裏もれ特性及び流動特性に優れ、かつ、コーティングの生産性に優れたペースト加工用塩化ビニル系樹脂が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、従来考えられていた加工領域でのゾルの粘度ではなく、ゾルの第一法線応力差が刃裏もれ特性に大きな影響を及ぼすことを明らかにし、一定の配合における加工せん断速度下での第一法線応力差が低いペースト加工用塩化ビニル系樹脂が、ゾルの刃裏もれ特性及び流動特性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、特定の第一法線応力差の測定方法で測定した第一法線応力差が9200Pa以下となるペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法に関するものである。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、以下の第一法線応力差の測定方法で測定した第一法線応力差が9200Pa以下となるものである。せん断速度12500sec−1における第一法線応力差が9200Paを超えると、該ゾルの刃裏もれ特性が悪化する。十分な刃裏もれ特性の向上効果を得るためには、好ましくは9100Pa以下であり、さらに好ましくは9000Pa以下である。
【0014】
<第一法線応力差の測定方法>
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂100重量部、ジオクチルフタレート45重量部(株式会社ジェイプラス製)、炭酸カルシウム(BF−600 備北粉化工業株式会社製)70重量部、酸化チタン粉末(R−650 堺化学工業株式会社製)15重量部、アゾジカルボンアミド4.5重量部(AZH−25 大塚化学株式会社製)、液状安定剤3.0重量部(FL100 株式会社ADEKA製)、希釈剤(エクソールD40 エクソンモービル有限会社製)15重量部からなるペースト塩ビゾルを、粘弾性測定装置を用いて定常流動測定した時のせん断速度12500sec−1における第一法線応力差を測定する。
【0015】
ここで、法線応力とは、加えたせん断応力に対して垂直方向に作用する力であり、例えば、プレート型粘弾性測定装置の場合には、プレート面に垂直な軸方向に作用する力である。但し、実際の測定に当たって得られるのは流動方向の法線応力と速度勾配方向の法線応力の差をとった第一法線応力差となる。
【0016】
第一法線応力差の測定に用いる粘弾性測定装置は、例えば、PhsycaMCR301 (アントンパール社製)、MARS(ThermoElectron社製)、RheoSterss600(Haake社製)等のプレート型粘弾性測定装置、その他の粘弾性測定装置等が挙げられ、せん断速度12500sec−1下での定常流動測定が可能であれば、いかなる粘弾性測定装置を用いても構わない。
【0017】
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法としては、例えば、塩化ビニル単量体単独または塩化ビニルを主体とする単量体混合物(以下、塩化ビニル系単量体と略記する)を、油溶性開始剤含有量が異なる2種類の種粒子で、その油溶性開始剤含有量の比(多い方の油溶性開始剤含有量/少ない方の油溶性開始剤含有量)=1.5〜2.0である油溶性開始剤を含む2種類の種粒子の混合物を塩化ビニル系単量体100重量部に対して3.0〜4.5重量部使用し、かつ、油溶性開始剤を含まない種粒子を塩化ビニル系単量体100重量部に対して5.0重量部以上使用して、界面活性剤の存在下、さらに必要に応じて連鎖移動剤、脂肪族高級アルコール、緩衝剤、水溶性重合開始剤、還元剤の1種以上の存在下、水性媒体中において播種微細懸濁重合する方法等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法においては、油溶性開始剤含有量が異なる2種類の種粒子を用いる。種粒子を単独で使用した場合、重合が不安定となったり、重合時間が長くなって生産性が低下したり、発熱反応が激しくなり重合缶の除熱能力を超えたりする。さらに、第一法線応力差が高く刃裏もれ特性が低下し、粘度が高くなりゾルのハンドリング性が低下する。
【0019】
本発明の製造方法においては、油溶性開始剤含有量が異なる2種類の種粒子の油溶性開始剤含有量の比(多い方の油溶性開始剤含有量/少ない方の油溶性開始剤含有量)は1.5〜2.0である。1.5未満では、第一法線応力差が高く刃裏もれ特性が低下し、一方、2.0を超えても、第一法線応力差が高く刃裏もれ特性が低下する。好ましくは1.6〜1.9、さらに好ましくは1.7〜1.8である。
【0020】
本発明の製造方法においては、油溶性開始剤を含む種粒子の混合物を塩化ビニル系単量体100重量部に対して3.0〜4.5重量部使用する。3.0重量部未満の場合、第一法線応力差が高く刃裏もれ特性が低下し、重合時間が長くなり生産性が低下し、一方、4.5重量部を超えると、重合が不安定となる。好ましくは3.3〜4.2重量部、さらに好ましくは3.5〜4.0重量部である。
【0021】
本発明の製造方法においては、油溶性開始剤を含まない種粒子を塩化ビニル系単量体100重量部に対して5.0重量部以上使用する。5.0重量部未満の場合、第一法線応力差が高く刃裏もれ特性が低下する。好ましくは5.0〜15.0重量部、さらに好ましくは6.0〜10.0重量部である。
【0022】
刃裏もれ特性は、従来考えられていた加工せん断速度域でのゾル粘度ではなく、加工せん断速度域でのゾルの法線応力が大きな影響を及ぼす。本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得るために種々検討を行った結果、第一法線応力差は、同一配合においてはペースト加工用塩化ビニル系樹脂の粒子径分布との相関性があることを見出した。コーティング分野に用いられるペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、通常0.1〜0.8μmに極大値を有する小粒子群、1〜3μmに極大値を有する粒子群(以下、メイン粒子群と略記する)からなる粒子径分布で構成されている。ゾル粘度を低くするためには一般にメイン粒子群の粒子径を大きくすること、メイン粒子群より粒子径の大きな粒子を添加することが有効であるが、その場合に必ずしもゾルの第一法線応力差が低くなるわけではない。詳細は明らかではないが、播種微細懸濁重合において、油溶性開始剤含有量が異なるために粒子成長速度が異なると考えられる2種類の種粒子を混合して用い、同時に油溶性開始剤を含まない種粒子を一定の割合以上で混合し用いること等で、第一法線応力差を低減可能な粒子径分布が得られると推定している。
【0023】
一般的に、播種微細懸濁重合とは、油溶性開始剤を含む種粒子を得る第一段階、該油溶性開始剤を含む種粒子と塩化ビニル系単量体を脱イオン水、界面活性剤の存在下、さらに必要に応じて油溶性開始剤を含まない種粒子、連鎖移動剤、脂肪族高級アルコール、緩衝剤の1種以上の存在下で重合を行い、種粒子を肥大化させる第二段階からなる重合方法である。
【0024】
本発明における播種微細懸濁重合では、塩化ビニル系単量体、脱イオン水、油溶性開始剤を含む種粒子、油溶性開始剤を含まない種粒子、界面活性剤の存在下、さらに必要に応じて連鎖移動剤、脂肪族高級アルコール、緩衝剤、水溶性重合開始剤、還元剤の1種以上の存在下で、緩やかに攪拌しながら重合器内の温度を上げて重合反応を開始し、所定の転化率に達するまで重合を行うことによりペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造することが可能である。その際には反応速度や粒子径の制御のために界面活性剤、水溶性重合開始剤、還元剤などを重合反応中に添加することもできる。この際の重合温度としては、40〜70℃であることが好ましい。
【0025】
塩化ビニル系単量体とは、塩化ビニル単量体単独又は塩化ビニルを主体としこれと共重合し得る単量体との混合物を挙げることができ、混合物の場合、塩化ビニル単量体が80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。塩化ビニルと共重合し得る単量体としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和モノカルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−N,N−ヂメチルアミノエチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和アミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;マレイン酸、フマール酸などの不飽和ジカルボン酸;これらのエステル及びこれらの無水物、N−置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルエーテル;更に塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0026】
界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤等が挙げられる。ここで、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジへキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸カリウムなどの脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩などのエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテル燐酸エステルナトリウム塩等を挙げることができる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル等を挙げることができる。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0027】
連鎖移動剤としては、例えば、トリクロルエチレン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、アセトン、n−ブチルアルデヒド等のアルデヒド類等があげられ、重合度を調整できるものであればいかなるものを用いてもよい。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0028】
脂肪族高級アルコールとしては、特に制限はないが通常、炭素数8〜18の脂肪族高級アルコールが使用される。これは、単独で使用しても、異なる炭素数の脂肪族高級アルコールを混合して使用しても差し支えない。
【0029】
緩衝剤としては、例えば、リン酸一もしくは二水素アルカリ金属塩、フタル酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等があげられる。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性過酸化物;これらの過酸化物又はクメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシドなどのヒドロパーオキシドに、酸性亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、アスコルビン酸、第一鉄イオンのエチレンヂアミン四酢酸ナトリウム錯塩、ピロリン酸第一鉄などの還元剤を組み合せたレドックス系開始剤;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩などの水溶性アゾ化合物等を挙げることができる。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0031】
本発明の製造方法において用いられる、油溶性開始剤を含む種粒子は、例えば、以下のような微細懸濁重合で調製することが可能である。まず、塩化ビニル系単量体、塩化ビニル系単量体に可溶な重合開始剤、界面活性剤、純水と、さらに必要に応じて緩衝剤、分散剤(脂肪族高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、塩素化パラフィンなど)、連鎖移動剤の1種以上の存在下、プレミックスし、ホモジナイザーにより均質化処理して油滴の調整を行う。この際のホモジナイザーとしては、例えばコロイドミル、振動攪拌機、二段式高圧ポンプなどを用いることができる。そして、均質化処理をした液を重合器に送り、緩やかに攪拌しながら重合器内の温度を上げて重合反応を開始し、所定の転化率に達するまで重合を行うことにより油溶性開始剤を含む種粒子を調製することが可能である。この際の重合温度としては、30〜50℃であることが好ましい。得られる油溶性開始剤を含む種粒子の平均粒子径は、安定に重合が可能で、播種微細懸濁重合に用いた際に目的の粒子径分布が得られるのであればどのようなものでも良いが、通常0.4〜0.7μmである。
【0032】
塩化ビニル系単量体に可溶な重合開始剤としては特に限定するものではないが、10時間半減期温度30〜70℃のジアシルパーオキサイドが好ましく、そのような重合開始剤としては、例えば、イソブチリルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド等が挙げられる。
【0033】
塩化ビニル系単量体、界面活性剤、緩衝剤、脂肪族高級アルコール、連鎖移動剤としては、前述のものを用いることができる。
【0034】
本発明の製造方法において用いられる、油溶性開始剤を含まない種粒子は、例えば、以下のような乳化重合で調製することが可能である。脱イオン水、界面活性剤、水溶性重合開始剤などを仕込み、重合器内の脱気又は窒素などの不活性気体による置換を行い、塩化ビニル系単量体を仕込み、攪拌して塩化ビニル系単量体を可溶化した界面活性剤ミセル相を形成しつつ、重合器内の温度を上げて重合を進める。その際には反応速度や粒子径の制御のために必要に応じて水溶性重合開始剤、還元剤、界面活性剤、粒径制御剤などを重合反応前若しくは重合反応中に添加することもできる。また、重合温度は40〜70℃の範囲が好ましい。得られる油溶性開始剤を含まない種粒子の粒子径は、安定に重合が可能で、播種微細懸濁重合に用いた際に目的の粒子径分布が得られるのであればどのようなものでも良いが、通常0.1〜0.4μmである。
【0035】
塩化ビニル系単量体、界面活性剤、水溶性重合開始剤、還元剤としては、前述のものを用いることができる。
【0036】
粒径制御剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩等があげられる。これらは単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0037】
また、播種微細懸濁重合で得られた塩化ビニル系樹脂のラテックスを噴霧乾燥する前に液状粘結剤を添加することもできる。ここで、液状粘結剤とは得られる顆粒の可塑剤への分散性を向上させるもので、例えば、多価アルコール及び/又は多価アルコールのエーテル化合物等が挙げられ、その具体例としては、エチレングリコール、エチレングリコールジベンジルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエチレングリコールジエーテル系化合物、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のモノエーテル系化合物等が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法においては、播種微細懸濁重合により得られた塩化ビニル系樹脂のラテックスを乾燥することにより、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造することができる。
【0039】
本発明の製造方法の乾燥に用いる噴霧乾燥機は一般的に使用されているものでよく、例えば、「SPRAY DAYING HANDBOOK」(K.Masters著、3版、1979年、George godwin Limitedより出版)の121頁第4.10図に記載されている各種のスプレー乾燥機などが挙げられる。乾燥用空気入口温度、乾燥用空気出口温度に特に制限はないが、可塑剤への樹脂の分散性とゾルのハンドリング性を維持し、さらに、噴霧液滴の乾燥を十分として、乾燥トラブルを防止するため、乾燥用空気入口温度は100〜200℃、乾燥用空気出口温度は45〜60℃が一般的に用いられる。乾燥用空気入口温度は100〜170℃、乾燥用空気出口温度は45〜55℃がさらに好ましい。
【0040】
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂を製造する際に、噴霧された液滴が未乾燥のまま乾燥機内部に付着乾燥し成長して大きくなった乾燥後粗大粒子、これら付着物が噴霧乾燥機内部で長期間乾燥熱風により熱履歴を受けることで変質したレジンが剥げ落ち製品内に混入することを防止するために篩を使用することもできる。篩としては一般的に使用されているものでよく振動篩、超音波振動篩、三次元振動篩、網面固定式風力分級機などが挙げられ、これらを単独で、又は目開きの異なる複数を組み合せて使用することができる。
【0041】
ここで、噴霧乾燥して得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂はそのまま顆粒製品としても、粉砕処理して微粉製品としても良い。一般に顆粒品の方が粉体のハンドリング性が良く、可塑剤に分散して得られるゾル粘度が低くなるため好ましい。粉砕処理するための粉砕機には特に制限はなく、一般的なペースト塩ビを製造する際に使用されるものでよく、例えば「粉体工学便覧」(粉体工学会編、初版、1986年、日刊工業新聞社より出版)の503〜505頁第1.10表に記載されている各種の粉砕機が挙げられる。この中でも、粉砕効率、処理量、顆粒の品質の点から高速回転式粉砕機が好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明により得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、可塑剤に分散させて調製して得たペースト塩ビゾルの第一法線応力差が低く、刃裏もれ特性及び流動特性が優れ、かつ該樹脂の製造にあたっては生産性が高いため、その工業的価値はきわめて高いものであり、特に壁紙用途に優れたものである。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、それらの内容は本発明の範囲を特に制限するものではない。
以下に実施例より得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂の評価方法を示す。
【0044】
<平均粒子径>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名LA−920)を使用し、屈折率1.3の条件にて2回測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0045】
<油溶性開始剤含有種粒子中の油溶性開始剤含有量測定>
200ml三角フラスコに塩化ビニル系樹脂固形分で1gとなるように油溶性開始剤含有種粒子ラテックスを秤量し、ベンゼン20ml、イソプロピルアルコール80ml、10%酢酸溶液20ml、10%ヨウ化カリウム水溶液20mlを添加した。該三角フラスコに五球コンデンサを付設し、スターラーで攪拌しながら15分間加熱し、冷却後、1/100Nチオ硫酸ナトリウムで滴定した。
【0046】
油溶性開始剤含有種粒子中の開始剤含有量は、次式(1)及び(2)により算出した。
【0047】
A=(V1−V2)/1000×(1/100N)×(1/2) 式(1)
(式中、Aは油溶性開始剤を含む種粒子ラテックス中の開始剤のモル数を示し、V1はサンプルの1/100Nチオ硫酸ナトリウムの滴定量(ml)を示し、V2はブランクの1/100Nチオ硫酸ナトリウムの滴定量(ml)を示し、Nは1/100Nチオ硫酸ナトリウムの規定度を示す。)
塩化ビニル系樹脂中の開始剤含有量(%)=A/W×398×100 式(2)
(式中、Aは油溶性開始剤を含む種粒子ラテックス中の開始剤のモル数を示し、Wは油溶性開始剤を含む種粒子ラテックスの固形分(g)を示す。)
<ゾルの調製>
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、ジオクチルフタレート45重量部(株式会社ジェイプラス製)、炭酸カルシウム(BF−600 備北粉化工業株式会社製)70重量部、酸化チタン粉末(R−650 堺化学工業株式会社製)15重量部、アゾジカルボンアミド4.5重量部(AZH−25 大塚化学株式会社製)、液状安定剤3.0重量部(FL100 株式会社ADEKA製)、希釈剤(エクソールD40 エクソンモービル有限会社製)15重量部を配合し、T.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)を用い、2000rpmで3分間混練し、ゾルを調製した。
【0048】
<第一法線応力差の測定方法>
粘弾性測定装置(PhsycaMCR301 アントンパール社製)を用いて定常流動測定し、せん断速度12500sec−1における調製したゾルの第一法線応力差を測定した。
【0049】
<刃裏もれ特性>
直径210mmのロールを有するテストコーター(平野金属製)を用い、ロールとナイフコーターの間隔が0.2mm、ロール表面とナイフコーターが垂直となるように配置し、ロール回転数が152rpmとなる条件で、調製したゾルを連続的に供給し、供給開始を0secとし、ナイフコーター裏面からゾル玉がコーティング面へ移行するまでの時間を測定した。
【0050】
<低せん断粘度>
調製したゾルを、23℃で2時間放置した後、B8H型粘度計(ローターNo.5、20rpm、東京計器製)用い測定した。
【0051】
<高せん断粘度>
調製したゾルを、23℃で2時間放置した後、キャピラリー粘度計(Rheosol−CR100 UBM社製)を用い、直径1.0mm、長さ24mmのノズルを用いて、せん断速度9600sec−1での粘度を測定した。
【0052】
<粘度安定性>
調製したゾルを、23℃で72時間放置した後、B8H型粘度計(ローターNo.5、20rpm、東京計器製)用い測定し、下記式(3)によって粘度経時安定性を求めた。
【0053】
粘度経時安定性=η72H/η2H 式(3)
(式中、η72Hは、調製したゾルを23℃、72H放置後測定した粘度を示し、η2Hは、調製したゾルを23℃、2H放置後測定した粘度を示す。)
合成例1(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
1mオートクレーブ中に脱イオン水360kg、塩化ビニル単量体300kg、過酸化ラウロイル5.0kg及び15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液30kgを仕込み、この重合液を3時間ホモジナイザーを用いて循環し、均質化処理後、温度を45℃に上げて重合を進めた。圧力が低下した後、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、平均粒子径0.55μm、かつポリマーを基準として2.0重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Aと略記する)を得た(表1に示す)。
【0054】
【表1】

合成例2(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
1m3オートクレーブ中に脱イオン水360kg、塩化ビニル単量体300kg、過酸化ラウロイル10kg、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液30kg及びドデシルメルカプタン1.5kgを仕込み、該重合液をホモジナイザーにより2時間循環し、均質化処理を行った後、温度を45℃に上げて重合反応を開始した。圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、平均粒子径0.60μm、かつポリマーを基準として3.3重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Bと略記する)を得た(表1に示す)。
【0055】
合成例3(油溶性開始剤を含有しない種粒子の製造例)
1mオートクレーブ中に脱イオン水400kg、塩化ビニル単量体350kg、16重量%ラウリン酸カリウム水溶液2kg及び16重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液5kgを仕込み、温度を54℃に上げて重合を進めた。そして、圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収し、平均粒子径0.15μm、かつ油溶性開始剤を含有しないラテックス(以下、種粒子Cと略記する)を得た(表1に示す)。
【0056】
実施例1
1mオートクレーブ中に脱イオン水350kg、塩化ビニル単量体400kg、20重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2kg、種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して2.5重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Cを塩化ビニル単量体に対して7.5重量%、仕込み、この反応混合物の温度を64℃に上げて重合を開始した。重合開始してから重合終了までの間、塩化ビニル単量体に対してドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7重量部を重合開始してから終了までの間、連続的に添加した。重合圧が64℃における塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧から0.65MPa降下した時に重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.37μmであった。そして、得られた塩化ビニル系樹脂ラテックスを回転円盤式噴霧乾燥機を用い乾燥入口温度110℃、乾燥出口温度50℃で乾燥することによりペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9000Pa、刃裏もれ時間は380secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0057】
【表2】

実施例2
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して3.0重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して0.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は470min、平均粒子径は1.38μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は340secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0058】
実施例3
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して4.0重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して0.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.30μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は8900Pa、刃裏もれ時間は450secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0059】
実施例4
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して1.0重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して2.8重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は330min、平均粒子径は1.41μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は330secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0060】
実施例5
種粒子Cを塩化ビニル単量体に対して10.0重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.31μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は8700Pa、刃裏もれ時間は800secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0061】
実施例6
種粒子Cを塩化ビニル単量体に対して15.0重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.28μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は8600Pa、刃裏もれ時間は1200secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0062】
実施例7
種粒子Cを塩化ビニル単量体に対して20.0重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.25μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は8900Pa、刃裏もれ時間は600secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0063】
実施例8
乾燥入口温度160℃、乾燥出口温度55℃で乾燥し、得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を粉砕処理したこと以外は実施例3と同様に行い、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は310secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0064】
比較例1
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して2.6重量%、種粒子Bを用いなかったこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は600min、平均粒子径は1.46μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9300Pa、刃裏もれ時間は240secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0065】
【表3】

比較例2
種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して5.0重量%、種粒子Aを用いなかったこと以外は実施例1と同様に行った。凝集によりラテックスは得られなかった。
【0066】
比較例3
種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して3.1重量%、種粒子Aを用いなかったこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は360min、平均粒子径は1.50μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9500Pa、刃裏もれ時間は200secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0067】
比較例4
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して0.7重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は600min、平均粒子径は1.57μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9600Pa、刃裏もれ時間は150secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0068】
比較例5
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して3.9重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して2.1重量%としたこと以外は実施例1と同様に行った、凝集によりラテックスは得られなかった。
【0069】
比較例6
種粒子Cを用いなかったこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.38μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は22000Pa、刃裏もれ時間は10secであり、刃裏もれが極めて発生し易く、劣るものであった。
【0070】
比較例7
種粒子Cを塩化ビニル単量体に対して3.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.36μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は11200Pa、刃裏もれ時間は60secであり、刃裏もれが極めて発生し易く、劣るものであった。
【0071】
比較例8
乾燥入口温度160℃、乾燥出口温度55℃で乾燥し、得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を粉砕処理したこと以外は比較例1と同様に行い、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9500Pa、刃裏もれ時間は90secであり、刃裏もれが極めて発生し易く、劣るものであった。
【0072】
合成例4(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
過酸化ラウロイルを4.7kgとした以外は、合成例1と同様に行い、平均粒子径0.55μm、かつポリマーを基準として1.7重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Dと略記する)を得た(表1に示す)。
【0073】
実施例9
種粒子Aの代わりに、種粒子Dを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は410min、平均粒子径は1.37μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9000Pa、刃裏もれ時間は370secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0074】
実施例10
種粒子Dを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して2.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は350min、平均粒子径は1.40μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は330secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0075】
合成例5(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
過酸化ラウロイルを6.0kgとした以外は、合成例1と同様に行い、平均粒子径0.55μm、かつポリマーを基準として2.1重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Eと略記する)を得た(表1に示す)。
【0076】
実施例11
種粒子Aの代わりに、種粒子Eを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は380min、平均粒子径は1.37μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9000Pa、刃裏もれ時間は390secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0077】
実施例12
種粒子Eを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して2.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は330min、平均粒子径は1.38μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は340secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0078】
合成例6(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
過酸化ラウロイルを10.7kgとした以外は、合成例2と同様に行い、平均粒子径0.60μm、かつポリマーを基準として3.5重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Fと略記する)を得た(表1に示す)。
【0079】
実施例13
種粒子Bの代わりに、種粒子Fを用いたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は390min、平均粒子径は1.37μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9000Pa、刃裏もれ時間は390secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0080】
実施例14
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Fを塩化ビニル単量体に対して2.5重量%としたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は330min、平均粒子径は1.38μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表2に示す。第一法線応力差は9100Pa、刃裏もれ時間は350secであり、刃裏もれが発生しにくく優れるものであった。
【0081】
合成例7(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
過酸化ラウロイルを7.4kgとした以外は、合成例1と同様に行い、平均粒子径0.55μm、かつポリマーを基準として2.5重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Gと略記する)を得た(表1に示す)。
【0082】
比較例9
種粒子Aの代わりに、種粒子Gを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Bを塩化ビニル単量体に対して1.7重量%用いたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は400min、平均粒子径は1.47μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9400Pa、刃裏もれ時間は230secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0083】
合成例8(油溶性開始剤を含む種粒子の製造例)
過酸化ラウロイルを12.5kgとした以外は、合成例2と同様に行い、平均粒子径0.60μm、かつポリマーを基準として4.2重量%の過酸化ラウロイルを含有するラテックス(以下、種粒子Hと略記する)を得た(表1に示す)。
【0084】
比較例10
種粒子Aを塩化ビニル単量体に対して1.3重量%、種粒子Bの代わりに種粒子Hを塩化ビニル単量体に対して1.7重量%用いたこと以外は実施例1と同様に行い、塩化ビニル系樹脂ラテックス、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂を得た。重合時間は390min、平均粒子径は1.47μmであった。得られたペースト加工用塩化ビニル系樹脂を用いてゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9400Pa、刃裏もれ時間は220secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0085】
比較例11
ペースト加工用塩ビニル樹脂:PQ−B83(新第一塩ビ製)を用い、ゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は9300Pa、刃裏もれ時間は220secであり、刃裏もれが発生し易く、劣るものであった。
【0086】
比較例12
ペースト加工用塩ビニル樹脂:PSL675(カネカ製)を用い、ゾルを作製し、ゾル特性の評価を行った。その結果を表3に示す。第一法線応力差は10300Pa、刃裏もれ時間は90secであり、刃裏もれが極めて発生し易く、劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第一法線応力差の測定方法で測定した第一法線応力差が9200Pa以下となることを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂。
<第一法線応力差の測定方法>
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂100重量部、ジオクチルフタレート45重量部(株式会社ジェイプラス製)、炭酸カルシウム(BF−600 備北粉化工業株式会社製)70重量部、酸化チタン粉末(R−650 堺化学工業株式会社製)15重量部、アゾジカルボンアミド4.5重量部(AZH−25 大塚化学株式会社製)、液状安定剤3.0重量部(FL100 株式会社ADEKA製)、希釈剤(エクソールD40 エクソンモービル有限会社製)15重量部からなるペースト塩ビゾルを、粘弾性測定装置を用いて定常流動測定した時のせん断速度12500sec−1における第一法線応力差を測定する。
【請求項2】
塩化ビニル単量体単独または塩化ビニルを主体とする単量体混合物(以下本項において塩化ビニル系単量体と略記する)を、油溶性開始剤含有量が異なる2種類の種粒子で、その油溶性開始剤含有量の比(多い方の油溶性開始剤含有量/少ない方の油溶性開始剤含有量)=1.5〜2.0である油溶性開始剤を含む2種類の種粒子の混合物を塩化ビニル系単量体100重量部に対して3.0〜4.5重量部使用し、かつ、油溶性開始剤を含まない種粒子を塩化ビニル系単量体100重量部に対して5.0重量部以上使用して、界面活性剤の存在下、水性媒体中において播種微細懸濁重合することを特徴とする請求項1記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2010−37405(P2010−37405A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200395(P2008−200395)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】