説明

ホウ素フリーガラス

【課題】中性ガラスとして理想的に適し、溶融温度が理想的には高すぎない従来の溶融システムで製造できるように十分な化学的耐久性を有する酸化ホウ素を含まないガラスを提供する。
【解決手段】本発明は、酸化物基準の重量%で、65〜72のSiOと、11〜17のAlと、0.1〜8のNaOと、3〜8のMgOと、4〜12のCaOと、0〜10のZnOの組成を有し、CaO/MgO比が1.4ないし1.6であり、DIN ISO 719による耐加水分解性がクラス1であり、かつDIN 12116による耐酸性およびDIN ISO 695による耐アルカリ性が少なくともクラス2である、ホウ素フリー中性ガラスを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有原料を添加せずに溶融できるホウ素フリーガラス、好ましくは中性(ニュートラル)ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
「中性ガラス」という用語は非常に優れた耐加水分解性および非常に優れた耐酸性を備えるガラスを意味すると解釈される。このようにこれらのガラスは「中性」作用を有し、溶液にガラスの構成成分をほとんど溶出させることがないため、とりわけ製薬業界において、特に注射液用の一次包装材料として使用できる。
表1は、さまざまな規格にしたがい、水、酸、およびアルカリに対する化学的耐久性に関してガラスの分類をまとめている。
【0003】
【表1】

表1
【0004】
周知の商業的に入手できる中性ガラス、例えばマインツのショット社(Schott AG)のSCHOTT FIOLAX(登録商標)8412および8414またはSCHOTT DURAN(登録商標)8330は、Bを8%より多く含有するため、ホウケイ酸ガラスのグループに分類される。これらは、加水分解クラス1、かつ酸クラス1、かつアルカリクラス2のガラスであり、ここでは簡略化して「1−1−2ガラス」という。
【0005】
SCHOTT FIOLAX(登録商標)8412には酸化ホウ素が約11%の量しか存在しないが、原料の四ホウ酸二ナトリウム五水和物は原料の総コストの約半分になる。酸化ナトリウムを含有しないホウケイ酸ガラス、例えばLCDディスプレイ用のアルカリ金属フリーガラスの原料に関する状況はさらに望ましくない。この場合、はるかに高価な原料である酸化ホウ素(ホウ酸)を使用する必要があり、これはまずホウ砂から技術的な手段で得なければならないからである。酸化ホウ素を原料とするBガラス成分のコストは、四ホウ酸二ナトリウム五水和物を原料とするBのコストより7倍高い。
【0006】
最近EU(欧州連合)は、ホウ酸、三酸化二ホウ素、四ホウ酸二ナトリウム無水物、四ホウ酸二ナトリウム十水和物および四ホウ酸二ナトリウム五水和物を生殖毒性に分類した。その結果、このような原料を使用する製造中には一定の境界条件に適合し、一定の予防措置を講じる必要がある。
ホウ素含有原料のコストが相対的に高いこと、適した品質に満たないことが予測されること、および現在持ち上がっているホウ素化合物の毒性の再分類に関する議論のために、ホウケイ酸ガラスの代替物としてホウ素フリーガラスに関心がもたれている。
【0007】
しかしながら、非常に優れた化学的耐久性に加えて、中性ガラスにはなお一層の要求が課せられている。
例として、ガラスは従来の溶融ユニットで製造できなければならない。すなわち、溶融物の粘度は過度に高くできず、作業点(粘度が10dPasになるときの温度、VAまたはT4ともいう)は1320℃の最高値を絶対に超えてはならない。省エネ製造のために、T4はできるだけ低くするべきである。
【0008】
製薬向け一次包装材料として使用するには20℃ないし300℃の範囲における熱膨張は特別に重要ではないが、それでも熱衝撃に対する耐性をSCHOTT FIOLAX(登録商標)8412などの周知の中性ガラスに匹敵させるためには、約5.0・10−6−1の値を目標にするべきである。また、この熱膨張を有するガラスは、一部の金属および合金が同様にこの膨張範囲にあり、そのため安定したガラス/金属合成物、例えばリードスルーが可能であるため、電気工学におけるいわゆるシーリングガラスとしても使用できる。VACON(登録商標)など、20℃ないし300℃の範囲における熱膨張係数αが5.4・10−6−1のFe−Ni−Co合金、ジルコニウム(α20/300=5.9・10−6−1)またはジルコニウム合金を使用する場合、ガラス/金属シール用シーリングガラスとしては、膨張係数α20/300が5・10−6−1ないし6・10−6−1の範囲のガラスが必要である。
【0009】
さまざまなホウ素フリーガラスが先行技術で周知であるが、これらは本定義の意味における中性ガラスとしては実質的に適していない。
下記特許文献1はホウ素フリーガラスファイバ用のガラスを開示しており、59〜62重量%のSiOと、20〜24重量%のCaOと、12〜15重量%のAlと、1〜4重量%のMgOと、0〜0.5重量%のFと、0.1〜2重量%のNaOと、0〜0.9重量%のTiOと、0〜0.5重量%のFeと、0〜2重量%のKOと、0〜0.5重量%のSOとを含む。
【0010】
この種のガラスは連続ガラスファイバの製造には適しているが、中性ガラスに課せられる要求は満たさない。
下記特許文献2は、95℃で5%濃度のHCl水溶液に24時間浸漬後の重量損失が2.5mg/cm未満であるアルミノケイ酸ガラスを含むフラットガラスディスプレイを開示している。ガラスは49〜67重量%のSiOと少なくとも6重量%のAlとを含有し、AlはSiOが55〜67重量%のときには6〜14重量%であり、SiOが49〜58重量%のときには6〜23重量%である。SiOおよびAlの総含有量は68%より多い。ガラスはさらに0〜8重量%未満のBと、少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物、具体的には0〜21重量%のBaO、0〜15重量%のSrO、0〜7.1重量%のCaO、0〜8重量%のMgOとを含有し、BaO+CaO+SrO+MgOの総含有量は12〜30重量%である。
【0011】
このガラスは第一に十分な耐酸性を有していないこと、第二に少なくとも酸化ストロンチウムまたは酸化バリウムと、ことによると酸化ホウ素も含有している。そのため、ホウ素フリー中性ガラスとして適していない。
下記特許文献3は、40〜70重量%のSiOと、2〜25重量%のAlと、0〜20重量%のBと、0〜10重量%のMgOと、0〜15重量%のCaOと、0〜10重量%のSrOと、0〜30重量%のBaOと、0〜10重量%のZnOと、0〜25重量%のRO(LiO、NaO、KO)と、0.4重量%のAsと、0〜3重量%のSbと、0.01〜1重量%のSnOとを含むガラスからなるディスプレイ用ガラス基板を開示している。このガラスはダウンドロー法を使用したフラットガラスの製造に適するように意図されている。高い耐酸性と低い熱膨張係数とを得るために、SiOの含有量は57〜64重量%が好ましい。ガラスをダウンドロー法を使用して、またはロータリー法、リドロー法または同様な他の方法を使用して製造できるようにするために、ガラスは十分な流動性をもたなければならず、このために好ましくは5〜15重量%のB、特に好ましくは7.5〜11重量%のBを添加する。好ましくは、このガラスは酸化ストロンチウムと酸化バリウムとをさらに含有する。
【0012】
そのため、この種のガラスは、高い耐酸性に加えて、高い耐加水分解性および耐アルカリ性ももたなければならないホウ素フリー中性ガラスとしては適していない。
下記特許文献4は電子ディスプレイ用のガラス基板を開示しており、ガラスは42〜62重量%のSiOと、16.5〜28重量%のAlと、0〜4重量%のBと、3〜10重量%のNaOと、1〜11重量%のKOと、0〜6重量%のMgOと、9.5〜24重量%のCaOと、0.2〜8重量%のSrOと、0〜16重量%のBaOと、0〜4重量%のZrOとを含有し、アルカリ金属の総含有量は4〜16重量%である。
【0013】
SiOの含有量が低いため、この種のガラスは十分な化学的耐久性を有していない。
さらに、下記特許文献5は濾材用のホウ素フリーガラス組成を開示しており、62〜68モル%のSiOと、2〜6モル%のAlと、10〜16モル%のNaOと、0〜6モル%のKOと、0〜6モル%のLiOと、3〜10モル%のCaOと、0〜8モル%のMgOと、0〜3モル%のBaOと、2〜6モル%のZnOと、0〜2モル%のTiOと、0〜2モル%のFとを含み、アルカリ金属の総含有量は18モル%未満である。
【0014】
このガラスは、ガラスファイバからなるHEPAクリーンルーム用フィルターの製造に特に適している。この目的のため、耐加水分解性および耐アルカリ性を特別に重視されないが、ガラスは相対的に優れた耐酸性をもたなければならない。
実際には、この周知のガラスはホウ素フリー中性ガラスとして適するには、酸化アルミニウムの含有量が過度に低く、アルカリ金属の含有量が過度に高い。
【0015】
下記特許文献6は、64〜68モル%のSiOと、12〜16モル%のNaOと、8〜12モル%のAlと、0〜3モル%のBと、2〜5モル%のKOと、4〜6モル%のMgOと、0〜5モル%のCaOとを含むアルカリ金属アルミノケイ酸ガラスを開示している。このガラスでは、SiO+B+CaOの総含有量は66〜69モル%であり、NaO+KO+B+MgO+CaO+SrOの総含有量は10モル%より多い。MgO+CaO+SrOの総含有量は5〜8モル%である。NaO+Bの総含有量からAlの含有量を引いた差は2モル%より多くするべきであり、NaO−Alの差は2〜6モル%にするべきである。NaO+KOの総含有量からAlの含有量を引いた差は4〜10モル%にするべきである。
【0016】
実際には、このガラスは中性ガラスとして適するには酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの含有量が過度に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第96/39362号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,508,237号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10 2004 036 523号明細書
【特許文献4】米国特許第5,854,153号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1 074 521号明細書
【特許文献6】国際公開第2008/143999号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】J.Non−Cryst.Solids,1987年,Vol.93,No.1,203ページ、Salama S.N.、Salman S.M.およびGharid S.
【非特許文献2】J.Am.Ceram.Soc.,1975年,Vol.58,No.5〜6の163ページ、Zdaniewski W.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、中性ガラスとして理想的に適し、溶融温度が理想的には高すぎない従来の溶融システムで製造できるように十分な化学的耐久性を有する酸化ホウ素を含まないガラスを開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は少なくとも以下の構成成分(酸化物基準の重量%)
SiO 65〜72
Al 11〜17
NaO 0.1〜8
MgO 3〜8
CaO 4〜12
ZnO 0〜10
を含有し、
CaO/MgOの重量比は1.4ないし1.8であり、
不可避の不純物を除き、B、SrO、BaOおよびPbOは存在せず、
DIN ISO 719による加水分解クラス1の耐加水分解性が得られ、
DIN 12116による少なくとも酸クラス2の耐酸性が得られ、
DIN ISO 695による少なくともアルカリクラス2の耐アルカリ性が得られるガラスにより達成される。
【0021】
本発明の目的はさらに、少なくとも以下の構成成分(酸化物基準の重量%)
SiO 65〜72
Al 11〜17
NaO 0〜8
O 0〜2
MgO 3〜8
CaO 4〜12
ZnO 0.1〜10
を含有し、
CaO/MgOの重量比は1.4ないし1.8であり、
不可避の不純物を除き、B、SrO、BaOおよびPbOは存在せず、
DIN ISO 719による加水分解クラス1の耐加水分解性が得られ、
DIN 12116による酸クラス1の耐酸性が得られ、
DIN ISO 695による少なくともアルカリクラス2の耐アルカリ性が得られるガラスにより達成される。
【0022】
本発明の目的はこのように完全に達成される。
本文において、「不可避の不純物」とは、不純物を含む原料のために不可避的に生じる不純物を意味すると解釈される。使用する原料の純度により、これは1重量%以下、特に0.5重量%以下、さらに特に好ましくは0.1重量%以下の不純物を意味すると解釈される。
【0023】
本発明によるガラスは、ホウ素フリー、ストロンチウムフリーおよびバリウムフリーであり、高い化学的耐久性を有する。耐加水分解性はクラス1である一方、耐アルカリ性および耐酸性はクラス1または2である。
本発明によるガラスは好ましくは、作業点T4(ガラス溶融物の粘度が10dPasになるときの温度)が1320℃未満であり、さらに好ましくは1300℃未満であり、特に好ましくは1260℃未満である。
【0024】
このために低いエネルギーコストで優れた生産性をもたらす。
さらに、本発明によるガラスは優れた条痕および泡品質と高い失透安定性とを特徴とする。
高価な原料であるホウ砂、ホウ酸および炭酸マグネシウムをもはや使用しないため、本発明によるガラスはホウケイ酸ガラスベースの周知の中性ガラスよりはるかに低いコストで製造できる。
【0025】
熱膨張係数α20/300は、約5・10−6−1の好適な範囲である。
本発明によるガラスはSiOの最低含有量が65重量%であり、これは高い耐酸性の必要条件である。最高含有量が72重量%を超えると、作業点は1320℃を超える値まで上昇し、そのため溶融物は、従来の溶融ユニットで経済的に製造することが困難になるであろう。
【0026】
酸化アルミニウムは安定化効果を有し、アルカリ金属およびアルカリ土類金属イオンが恒久的にガラス構造に組み込まれるため化学的耐久性が増す。本発明によるガラスは、酸化アルミニウムの含有量が11〜17重量%、好ましくは14〜17重量%、さらに好ましくは15〜17重量%である。含有量が低い場合、それに応じて結晶化の傾向とガス成分の蒸発とがタンク炉内の高い溶融温度で増す。含有量が過度に高い場合の不利な影響は、処理温度および溶融温度の上昇であろう。
【0027】
アルカリ金属酸化物の添加により、溶融温度は下がるが、熱膨張係数も上がることになるため、相対的に少量のみ使用する。
NaOの含有量は、好ましくは0.5〜8重量%であり、さらに好ましくは1〜8重量%であり、さらに好ましくは2〜8重量%であり、特に好ましくは2〜6重量%である。
【0028】
本発明によるガラスは0〜2重量%、好ましくは0.1〜2重量%のLiOを含み得る。
コスト面の理由でNaOが好ましいが、NaOの代替物として、またはNaOに加えて、原則として、他にも2種のアルカリ金属酸化物LiOおよびKOを使用することも可能である。また、KO含有溶融物はときにタンクブロックの腐食を増すことになる。最終的に、天然由来のカリウム含有原料はすべて放射性同位体40Kを含有し、これは一部の電子工学のアプリケーションには望ましくない。
【0029】
そのため、本発明によると、KOの含有量は0〜2重量%、NaOを使用しない場合でも、好ましくは0.1〜2重量%に制限される。
熱膨張を高めつつ溶融物の粘度を低下させるために(いわゆる融剤(フラックス))、ガラスは2種のアルカリ土類金属酸化物であるMgOおよびCaOを含有する。特に化学的耐久性があり、失透に対して安定しているガラスは、MgOに対するCaOの比(重量%を基準にして)が1.4ないし1.8の間にある場合に得られる。モル分率で表すと、MgOに対するCaOの比は1.0ないし1.6にするべきである。CaO/MgOの(重量)比が1.4より大きい場合、高価な原料であるMgCO(またはさらに高価なマグネシウム含有原料)を追加で使用する必要がなく、安価な原料であるドロマイトおよび石灰石を使用することが可能である。MgOはCaOよりもはるかに効果的にT4を下げるため、CaO/MgO比は1.8の値を超えるべきではない。
【0030】
CaOの含有量は好ましくは7.1〜12重量%、さらに好ましくは8〜12重量%、特に好ましくは8〜11重量%である。
アルカリ土類金属酸化物SrOおよびBaOは、これらの成分が毒物学的にまったく無害というわけではなく、特にガラスを製薬向け一次包装材料として使用する場合、ある特定の、通常硫黄含有の活性物質(硫酸塩、スルホンおよび同様な物質)の溶液と反応して雲状の析出が発生することがあるため、添加しないことが好ましい。
【0031】
酸化鉛PbOは毒物学的な理由のために使用しないことが好ましい。
ZnOの含有量は好ましくは3〜4重量%にできる。さらに好適な範囲は4〜10重量%であり、6〜10重量%である。
酸化亜鉛ZnOの添加は融剤として作用する。10重量%以下の、好ましくは少なくとも0.1重量%のZnOがガラスに存在し得る。この成分の使用に関連する欠点は、蒸発の傾向とその後の蒸発生成物の凝結とであり、これは特にフロート法ではガラス粒子の表面に望ましくないガラス欠陥を引き起こす可能性がある。
【0032】
本発明によるガラスはさらに、0〜10重量%、好ましくは1〜10重量%のTiOを含有し得る。
酸化チタンTiOの添加はガラスの耐加水分解性を改善でき、必ずUV放射の吸収を高めてくれる。しかし、この成分はバッチ価格の上昇にもなり、ある用途のガラス成分としては望ましくない。また、茶色の形成がしばしば観察され、これはある用途にとっては破壊的影響をもつ。この着色は、原料またはカレットの再利用をとおしてガラスに混入する酸化鉄の量が増えるにつれてだんだん顕著になってくる。用途によっては、酸化チタンはまったく使用しない。
【0033】
本発明によるガラスはさらに、0.0〜10重量%、適切なら1〜10重量%のZrOを含有できる。
酸化ジルコニウムの添加は、ほとんどの用途には特に大きな関連はないが、ガラスの耐アルカリ性を大幅に改善する。その使用はバッチコストを高め、特に少量のアルカリ金属を含有する組成のバッチの溶融挙動を弱め、溶融物の粘度を高めるので、酸化ジルコニウムをまったく使用しないことも可能であり、ある用途の重金属として望ましくない。
【0034】
清澄剤を添加せずに実験室規模で泡フリーおよび条痕フリーのガラスを得られるとしても、本発明によるガラスは、大規模製造のために、0.01〜2重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%の清澄剤を含有できる。
清澄剤として、合計で1.5重量%以下のAs、Sb、SnO、CeO、MnO、Fe、Cl(例、NaClまたはZnClとして)、F(たとえば、CaFまたはMgFとして)および/または硫酸塩(たとえば、NaSOまたはZnSOとして)を添加できる。
【0035】
フッ化物の添加は溶融物の粘度を減じるため、清澄化を加速する。環境保護のために、AsまたはSbの添加は理想的には避けるべきである。
清澄剤としての塩化物またはフッ化物の添加は、ガラスの耐酸性を減じる傾向がある。さらに、中性ガラスに塩化物を添加すると、加熱作業のたびに塩化物が蒸発し、ガラス生成物上に凝結する影響をもつおそれがある。フッ化物の添加は作業点T4を下げるが、これも耐酸性をわずかに減じる。蒸発および凝結の現象も塩化物の添加の結果現れるおそれがある。最終的に、フッ化物の添加によりタンク炉の安定性が損なわれる可能性がある。
【0036】
このため、清澄剤として添加する塩化物およびフッ化物の量は、1.5重量%以下の塩化物またはフッ化物に制限される。
本発明によるガラスは、従来のホウ素含有中性ガラスに完全に置き換わることのできるホウ素フリー中性ガラスとして適している。
本発明によるガラスの好適な用途は以下のとおりである。
―製薬向け一次包装材料、特に瓶、シリンジ、アンプル
―実験用ガラスおよび化学用ガラス
―シーリングガラス、特にFe−Co−Ni合金のシーリングガラス
―基板、スーパーストレートまたはカバー、特に電気工学用途、TFT、PWPおよびOLEDスクリーン用、および太陽光発電用のもの
―管ガラス、特にランプ、ハロゲンランプもしくは蛍光管用、または太陽熱用途のもの
―反射ガラス、特にランプ用のもの、および建築用ガラス
―耐熱衝撃性ガラス、特にオーブン、冷蔵庫および調理器具の部品用のもの
言うまでもなく、上記述べた本発明の特徴およびさらに以下に説明する特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、各事例にあげられる組み合わせだけでなく、他の組み合わせまたは単独でも使用することができる。
【0037】
本発明の別の利点および特徴は以下の好適な例示的実施形態の説明から明らかとなろう。
【実施例】
【0038】
表2は、実施例B1ないしB3として、本発明によるさまざまなガラスの組成を重量%でまとめたものである。ガラスB4、B5は同様な組成であるが、もはや酸クラス1ではない。
【0039】
【表2】

表2
【0040】
また、次の特性、α20/300は10−6/Kの単位で、ガラス転移温度Tgは℃で、軟化点T7.6は℃で、作業点T4は℃で示す。耐加水分解性Hはmg NaO/gガラスフリット単位で酸消費の塩基当量として示し、酸の侵食後の材料除去値としての耐酸性Sはmg/dmで示し、アルカリの侵食時の材料除去値としての耐アルカリ性Lはmg/dmで示す。
【0041】
表3はガラスB1ないしB5のガラス組成をモル%で示す。
【0042】
【表3】

表3
【0043】
ガラスは、通常の原料を1650℃で誘導加熱したPt/Rhルツボ(Pt20Rh)で溶融して溶融した。溶融作業は3時間ないし4時間続けた。均質化するために、さらに溶融物を1600℃で1時間攪拌した後、存在する泡を表面に上昇させるために、この温度で攪拌せずに2時間静置した。溶融物は定められた冷却速度30K/時で冷却した。
【0044】
失透を試験するために、ガラスB1を1500℃で30分間溶融し、勾配炉で5時間熱処理した。1150℃ないし1423℃の温度範囲では、明確な失透は観察されなかった。
ガラスB1、B2、B3およびB5の耐加水分解性は、すべてクラス1である。ガラスB1ないしB3の耐酸性は耐アルカリ性と同様クラス1である。
【0045】
しかし、ガラスB2、B3は作業点が相対的に高く、このためこれらのガラスを経済的に製造することはより困難である。
組成の点で、B5の場合には清澄剤として塩化ナトリウムNaClの形で1%のNaOが導入されたものの、ガラスB5はガラスB1に一致する。ガラスを実験用ガラスとして製造した場合に認められる限りでは、B5およびB1は同じように優れた泡品質を有する。
【0046】
しかし、耐酸性は塩化物の添加によりいくらか減じられ、すでに酸クラス2である。しかし、塩化物が蒸発し、その後再加熱したときにガラス粒子上に凝結が発生することがあるため、塩化物の使用は問題がある可能性もある。この現象は「ランプ・リング」の名前で知られており、例えば、(ランプ製造前の)管を所定の長さに切断するときに起こる。そのため塩化物の添加はできるだけ低くしておくべきである。
【0047】
あるいは、他の周知の精製法、例えば、硫酸塩精製法および高温ブースティング法を使用することも可能である。ガラスB1と比べ、ガラスB4は、フッ化物の添加により軟化点T7.6および作業点T4の両方を低下できていることが分かる。耐酸性はやや減じられており、すでに耐酸性クラス2である。
フッ化物の使用は、塩化物の使用と同様に、高温成型中に高揮発性のために蒸発および凝結の現象を引き起こす可能性があり、ことによるとタンク炉の安定性を減じることになりかねない。水溶液または他の溶液の作用のために、フッ化物はガラスから液体に移送される可能性もあり、その場合、構成成分と望ましくない反応が起こる。
【0048】
そのためフッ化物の含有量はできるだけ低くしておくべきであり、1.5重量%の上限を超えてはならない。
表4は比較実施例としてV1ないしV4を示しており、文献で知られる組成を有しており、実験室規模で溶融されている。
V1は上記非特許文献1から引用した。V2は上記非特許文献2から引用した。V3は上記特許文献2の実施例2である。V4は上記特許文献2の実施例6である。
【0049】
ガラスは、従来の原料を1650℃で誘導加熱したPt/Rhルツボ(Pt20Rh)で溶融して溶融した。溶融作業は3時間ないし4時間続けた。均質化するために、さらに溶融物を1600℃で1時間攪拌した後、存在する泡を表面に上昇させるために、この温度で攪拌せずに2時間静置した。溶融物は定められた冷却速度30K/時で冷却した。他の特性は表2と同じ単位で示す。
【0050】
【表4】

表4
【0051】
V1およびV2は水による侵食に対しては非常に安定しているが、酸クラス1(0.7mg/dm以下の重量損失)または酸クラス2(1.5mg/dm以下の重量損失)という目標にはほど遠い。V3の溶融物は非常に粘りが強く、このため、適したガラス塊を成型できないであろう。V4は酸化ホウ素を含有しないガラスで、耐加水分解性および耐酸性はクラス1、耐アルカリ性はクラス2である。しかし、1320℃を超える作業点T4は、商業用溶融ユニットで経済的な製造をするには高すぎる。また、SrOおよびBaOの含有量が高く、硫黄含有薬剤(スルホン、硫酸塩および同様な物質)に反応して析出するリスクがあるため、中性ガラスには望ましくない。
【0052】
表5(表5−1〜表5−3)は、アルミノケイ酸ガラスの別の比較実施例G1からG17を重量%単位の組成と合わせて示す。
【0053】
【表5−1】

【0054】
【表5−2】

【0055】
【表5−3】

表5
【0056】
これらのガラスのいくつかは、他のガラスのガラス耐久性にプラス効果があると分かっているため、相対的に高い比率のTiOおよび/またはZrOを含有する。実施例から、この方法で、特に成分TiOが相対的に高い比率で存在する場合に、加水分解に対して安定したガラスが得られることが分かる。特に成分ZrOが相対的に高い比率で存在する場合に、クラス1の耐アルカリ性のガラスを得ることも可能である。しかし、これらの成分を含有するガラスは、それが個別に存在するかまたはともに存在するかにかかわらず、所要の酸クラス1は達成しない。
【0057】
表2に示す本発明によるガラスB1ないしB3から分かるように、TiOまたはZrOの添加もまったく必要ない。ただし、相対的に少量の添加がプラス効果をもつことがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の構成成分を酸化物基準の重量%で含有するガラスであって、
SiO 65〜72
Al 11〜17
NaO 0.1〜8
MgO 3〜8
CaO 4〜12
ZnO 0〜10
CaO/MgOの重量比が1.4ないし1.8であり、
不可避の不純物を別にして、B、SrO、BaOおよびPbOが存在せず、
DIN ISO 719による加水分解クラス1の耐加水分解性が得られ、
DIN 12116による少なくとも酸クラス2の耐酸性が得られ、
DIN ISO 695による少なくともアルカリクラス2の耐アルカリ性が得られることを特徴とするガラス。
【請求項2】
少なくとも以下の構成成分を酸化物基準の重量%で含有するガラスであって、
SiO 65〜72
Al 11〜17
NaO 0〜8
O 0〜2
MgO 3〜8
CaO 4〜12
ZnO 0.1〜10
CaO/MgOの重量比が1.4ないし1.8であり、
不可避の不純物を別にして、B、SrO、BaOおよびPbOが存在せず、
DIN ISO 719による加水分解クラス1の耐加水分解性が得られ、
DIN 12116による酸クラス1の耐酸性が得られ、
DIN ISO 695による少なくともアルカリクラス2の耐アルカリ性が得られることを特徴とするガラス。
【請求項3】
NaOの含有量は0.5〜8重量%であり、好ましくは1〜8重量%であり、さらに好ましくは2〜8重量%であり、特に好ましくは2〜6重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
CaOの含有量は7.1重量%を超えかつ12重量%以下であり、好ましくは8〜12重量%であり、特に好ましくは8〜11重量%であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項5】
ZnOの含有量は3〜10重量%であり、好ましくは4〜10重量%であり、特に好ましくは6〜10重量%であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項6】
Alの含有量は14重量%を超えかつ17重量%以下であり、好ましくは15〜17重量%であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項7】
作業点T4が1320℃未満であり、さらに好ましくは1300℃未満であり、特に好ましくは1260℃未満である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項8】
0〜2重量%、好ましくは0.1〜2重量%のLiOをさらに含有する、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項9】
0〜10重量%、好ましくは1〜10重量%のZrOをさらに含有する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項10】
0〜10重量%、好ましくは1〜10重量%のTiOをさらに含有する、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項11】
0.01〜2重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%の清澄剤をさらに含有する、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項12】
As、Sb、SnO、CeO、Cl、FおよびSO2−からなる群から選択される少なくとも1つの清澄剤を含有する、請求項11に記載のガラス。
【請求項13】
As、Sb、Cl、FおよびSO2−のそれぞれの最高含有量が1.5重量%であることを特徴とする、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項14】
SnOおよびCeOのそれぞれの最高含有量が1重量%であることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項15】
製薬向け一次包装材料、特に瓶、シリンジ、もしくはアンプル、
実験用ガラスもしくは化学用ガラス、
シーリングガラス、特にFe−Co−Ni合金のシーリングガラス、
基板、スーパーストレートもしくはカバー、特に電気工学アプリケーション用、TFT、PDPもしくはOLEDスクリーン用、もしくは太陽光発電用のもの、
管ガラス、特にランプ、ハロゲンランプもしくは蛍光管用、もしくは太陽熱用途のもの、
反射ガラス、特にランプ用のもの、
建築用ガラス、または
耐熱衝撃性ガラス、特にオーブン、冷蔵庫もしくは調理器具の部品用のものとしての請求項1ないし14のいずれか1項に記載のガラスの使用。

【公開番号】特開2011−93792(P2011−93792A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−233534(P2010−233534)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】