説明

ホウ素化トリプトファン誘導体およびその製造方法

【課題】BNCT等に利用できる、ホウ素含有化合物およびその製造方法の提供。
【解決手段】一般式(A):


(R、Rは、同一または異なっていてもよい、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基、または、当該アルキル基が結合したアルキレン基を示し、Rは、水素原子またはR13−(O)−CO−基(但し、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、nは1または0)を示し、Rは、水素原子またはR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、mは1または0)を示し、Rは、水素原子または炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す。)で表される、ホウ素化トリプトファン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素化トリプトファン誘導体およびその製造方法に関する。本発明のホウ素化トリプトファン誘導体は、各種用途への適用が考えられるが、例えば、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いられる中性子捕捉療法剤として有用である。また、トリプトファン代謝関連酵素の阻害剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した新しい癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目を集めている。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(例えば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物の開発がなされている。
【0003】
これまでに、BNCTに用いる薬剤として基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したホウ素含有化合物がいくつかは合成されている。実際の臨床で用いられている薬剤としては、p−ボロノフェニルアラニン(BPA)やメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH;ボロカプテイト)がある。このうち、BSHは、ホウ素ケイジ(クラスター)化合物であり、最も低毒性であり、ナトリウム塩の形で主に脳腫瘍の治療に用いられ、その有用性が確認されている(例えば、非特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】I.M.Wyzlicら、Tetrahedron Lett.,1992,33,7489−7490,
【非特許文献2】W.Tjark,J.Organomet.Chem.,2000,614−615,37−47,
【非特許文献3】K.Imamuraら、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1997,70.3103−3110.
【非特許文献4】A.S.Al−Madhornら、J.Med.Chem.,2002,45,4018−4028,
【非特許文献5】F.Compostellaら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,81−84,
【非特許文献6】S.B Kahlら、Progress in Neutron Capture Therapy for Cancer,Plenum Press,New York 1992,223,
【非特許文献7】J.Caiら、J.Med.Chem.,1997,40,3887−3896,
【非特許文献8】H.Limら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,37−42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、BNCTに利用できるガン細胞に選択的に取り込まれる、新たなホウ素含有化合物を開発することが望まれている。
【0006】
そこで本発明は、BNCT等に利用できる、新たなホウ素含有化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す、ホウ素化トリプトファン誘導体およびその製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明は、一般式(A):
【化1】


(式中、R、Rは、同一または異なっていてもよい、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基、または、当該アルキル基が結合したアルキレン基を示し、Rは、水素原子またはR13−(O)−CO−基(但し、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、nは1または0である。)を示し、Rは、水素原子またはR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、mは1または0である。)を示し、Rは、水素原子または炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す。)で表される、ホウ素化トリプトファン誘導体、に関する。
【0009】
また本発明は、一般式(A0):
【化2】


で表される、ホウ素化トリプトファン誘導体、に関する。
【0010】
当該ホウ素化トリプトファン誘導体(A0)は、一般式(A)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A)において、R、R、R、RおよびRが全て水素原子の場合であり、ホウ素化トリプトファン誘導体(A0)は、5´‐ジヒドロキシボリルトリプトファン(以下、DBTともいう)に係る。
【0011】
また本発明は、一般式(A0´):
【化3】


で表される、L体のホウ素化トリプトファン誘導体、に関する。
【0012】
また本発明は、一般式(1):
【化4】


(式中、R11、R12は、同一または異なっていてもよい、炭素数1〜8のアルキル基、または、当該アルキル基が結合したアルキレン基を示す)で表される、ホウ素化インドール誘導体(1)を、ホルミル化して、
一般式(2):
【化5】


(式中、R11、R12は、上記と同じ)で表される化合物(2)に導く工程(A)、
次いで、上記化合物(2)のN原子を、
一般式(3´):R13−(O)−CO−X(式中、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、nは1または0であり、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物(3´)により保護して、
一般式(3):
【化6】


(式中、R11、R12、R13は上記と同じ)で表される化合物(3)に導く工程(B)、
次いで、上記化合物(3)と、
一般式(4):
【化7】


(式中、R14はR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、mは1または0である。)を示し、R15は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜12の炭化水素を示す。)で表される化合物(4)を、Horner−Emmons反応により反応させて、
一般式(5):
【化8】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15は上記と同じ)で表される化合物(5)に導く工程(C)、
次いで、上記化合物(5)のα,β−不飽和エステルに係る炭素−炭素二重結合のみを水素化して、
一般式(A1):
【化9】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15は上記と同じ)で表される化合物(A1)に導く工程(D)、を有するホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法、に関する。
【0013】
当該製造方法によれば、一般式(A1)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A1)を得ることができる。ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)は、ホウ素化トリプトファン誘導体(A)に含まれ、R11、R12、R13、R14およびR15は、一般式(A)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A)におけるR1、R、R、RおよびRが全て水素原子以外の場合である。
【0014】
また本発明は、上記製造方法により、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)を製造した後、
さらに、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)のホウ酸の保護基を加水分解により除去して、
一般式(A2):
【化10】


(式中、R13、R14、R15は上記と同じ)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A2)に導く工程(E)、
次いで、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)中のN原子の保護基R13およびR14並びにエステル基を形成するR15を、還元により除去して、請求項2記載の一般式(A0)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A0)に導く工程(F)、を有するホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法、に関する。
【0015】
当該製造方法により、DBTを得ることができる。なお、当該製造方法の中間段階においては、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A)に含まれる、DBT以外の、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)、(A2)を得ることができる。
【0016】
また本発明は、上記一般式(A0)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A0)を、プロテアーゼまたはリパーゼの存在下で光学分割して、上記一般式(A0´)で表されるL体のホウ素化トリプトファン誘導体(A0´)を得る、L体のホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法、に関する。
【0017】
DBTは、酵素として、プロテアーゼまたはリパーゼを用いることで、光学分割をすることができ、光学活性なL体を得ることができる。なお、光学分割によって、L体とともに、D体のDBTエステルが得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のホウ素化トリプトファン誘導体(A)は、トリプトファンをホウ酸で変性した構造を有しており、当該構造はメラニン生合成に対して生理活性を有するジヒドロキシインドールやジヒドロキシインドールカルボン酸等と基本構造が類似している。そのため、ため、本発明のホウ素化トリプトファン誘導体(A)は、ジヒドロキシインドールやジヒドロキシインドールカルボン酸等が用いられている各種用途へ適用できる。また、本発明のホウ素化トリプトファン誘導体(A)のなかでも、特に、DBTは、ガン細胞をターゲットとするBNCTに特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の下記一般式(A)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A)について説明する。
【0020】
一般式(A):
【化11】

【0021】
上記R、Rは、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。アルキル基は直鎖または分岐鎖のいずれでもよい。また、R、Rは、前記アルキル基が結合してアルキレン基を形成したものを含む。例えば、アルキレン基は炭素数2つ以上であり、アルキレン基についても直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。R、Rは同一または異なっていてもよいものである。なお、R、Rが水素原子以外の場合が、R11、R12に対応しており、DBTの製造においては、ホウ酸に係るヒドロキシル基を保護している。
【0022】
上記Rは、水素原子またはR13−(O)−CO−基(但し、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、nは1または0である。)を示す。R13に係る炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素等があげられる。R13に係るアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。また、前記炭化水素基はヘテロ原子を含有することができる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等があげられる。ヘテロ原子を含む炭化水素基としては、アルキルオキシアリール基、アルキルオキシアリールアルキル基等があげられる。Rの具体例(水素原子以外)としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、アセチル基、モノクロロアセチル基、ジクロロアセチル基等があげられる。なお、Rが水素原子以外の場合が、R13に対応しており、DBTの製造においては、インドール環内のN原子を保護している。
【0023】
上記Rは、水素原子またはR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、mは1または0である。)を示す。R14に係る炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素等があげられる。また、前記炭化水素基はヘテロ原子を含有することができる。R14に係るアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等があげられる。ヘテロ原子を含む炭化水素基としては、アルキルオキシアリール基、アルキルオキシアリールアルキル基、ヒドロキシアルキル基、その他、ペプチド類の残基等があげられる。R14の具体例(水素原子以外)としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、t‐ブトキシカルボニル基、アセチル基、クロロアセチル基、フルオロアセチル基、ジヒドロキシヘキシル基、アミノ酸及びペプチド残基等があげられる。なお、Rが水素原子以外の場合が、R14に対応しており、DBTの製造においては、カルボキシル基に対してα位のアミノ基を保護している。
【0024】
上記Rは、水素原子または炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す。Rに係る炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素等があげられる。Rに係るアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。また、前記炭化水素基はヘテロ原子を含有することができる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等があげられる。ヘテロ原子を含む炭化水素基としては、アルキルオキシアリール基、アルキルオキシアリールアルキル基等があげられる。Rの具体例(水素原子以外)としては、例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、ヒドロキシアミノ酸残基等があげられる。なお、Rが水素原子以外の場合が、R15に対応しており、DBTの製造においては、カルボキシル基エステルを形成している。
【0025】
前述の通り、前記一般式(A)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A)において、R1、R、R、RおよびRが全て水素原子の場合が、一般式(A0):
【化12】


で表される、DBT、である。また、そのL体は、前記一般式(A0´):
一般式(A0´):
【化13】


で表される。
【0026】
一方、前記一般式(A)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A)において、R、R、R、RおよびRが全て水素原子以外の場合が、下記一般式(A1):
【化14】


で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A1)に対応する。即ち、前記一般式(A1)における、R11、R12、R13、R14およびR15は、水素原子を含まないこと以外は、一般式(A)におけるR、R、R、RおよびRに対応している。
【0027】
以下では、前記一般式(A1)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A1)の製造方法について説明する。
【0028】
本発明のホウ素化トリプトファン誘導体(A1)の製造方法では、原料として、一般式(1):
【化15】


(式中、R11、R12は、前記の通り)で表される、ホウ素化インドール誘導体(1)を用いる。当該ホウ素化インドール誘導体(1)は、市販品を入手可能である。なお、R11、R12は、ホウ酸の保護基として機能し、かつ最終的な除去し易さを考慮すれば、例えば、
11、R12は、1,1,2,2−テトラメチルエチレン基(ピナコールによりホウ酸を保護した場合の残基)、プロピレン基、2,2−ジメチルプロピレン基等のアルキレン基を用いることが好ましい。
【0029】
本発明にホウ素化トリプトファン誘導体(A1)の製造方法では、まず、工程(A)により、前記ホウ素化インドール誘導体(1)を、ホルミル化して、
一般式(2):
【化16】


(式中、R11、R12は上記と同じ)で表される化合物(2)に導く。
【0030】
ホルミル化工程(A)は、例えば、ビルスマイヤー反応、クロロ蟻酸エステル法等により行なうことができる。ビルスマイヤー反応は、ジメチルホルムアミド、メチルホルムアミド等のホルムアミド誘導体を、リン酸トリクロリド、ピロホスホリル テトラクロリド、オキシ塩化リン等のリン酸化求電子剤の存在下で反応させることにより行なうことができる。
【0031】
次いで、工程(B)により、上記化合物(2)のN原子を、
一般式(3´):R13−(O)−CO−X(式中、R13は前記の通り、nは1または0であり、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物(3´)により保護して、
一般式(3):
【化17】


(式中、R11、R12、R13は上記と同じ)で表される化合物(3)に導く。
【0032】
化合物(3´)のXは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、およびフッ素原子からなる群より選択される1つのハロゲン原子を表す。化合物(3´)としては、例えば、カルボベンジルオキシクロリド、アセチルクロリド、t−ブトキシカルボニル等があげられる。化合物(3´)は、N原子の保護基として機能し、かつ最終的な除去し易さを考慮すれば、例えば、カルボベンジルオキシクロリドが好ましい。
【0033】
N原子の保護工程(B)は、常法に従って、塩基の存在下に行われる。塩基としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、炭酸ナトリウム等があげられる。
【0034】
次いで、工程(C)により、上記化合物(3)と、
一般式(4):
【化18】


(式中、R14、R15上記と同じ、Rは炭素数1〜12の炭化水素を示す。)で表される化合物(4)を、Horner−Emmons反応により反応させて、
一般式(5):
【化19】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15は上記と同じ)で表される化合物(5)に導く。
【0035】
化合物(4)における、Rは炭素数1〜12の炭化水素であり、炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基等の飽和炭化水素、芳香族炭化水素等があげられる。Rは同じでもよく、異なっていてもよい。
【0036】
また、化合物(4)における、R14は、用途に応じて適宜に選択できるが、アミノ基の保護基として機能し、かつ最終的にDBTを合成する場合の除去し易さを考慮すれば、例えば、ベンジルオキシカルボニル基が好ましい。
【0037】
また、化合物(4)における、R15は、用途に応じて適宜に選択でき、また、エステル基をカルボキシル基に加水分解または還元して、最終的にDBTを合成する場合の除去し易さを考慮して適宜に選択することができる。
【0038】
工程(C)に係る、Horner−Emmons反応は、常法に従って、塩基の存在下に行われる。塩基としては、例えば、1,8‐ジアザビシクロ(5.4.0)‐7‐ウンデセン(DBU)、テトラメチルグアニジン(TMG)等があげられる。
【0039】
次いで、工程(D)により、上記化合物(5)のα,β−不飽和エステルに係る炭素−炭素二重結合のみを水素化して、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)に導く。当該水素化工程(D)は、例えば、水素化触媒として、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I):ウィルキンソン触媒を用いて行なうのができる。ウィルキンソン触媒は、単体に担持して用いることもできる。当該記水素化工程(D)では、ウィルキンソン触媒の存在下、水素気流下に、加圧(例えば、1〜4atm程度)の条件下で行われる。また、ラネーニッケル触媒を用い、水素気流下に、加圧(1〜4atm)の条件下で行うことができる。
【0040】
上記製造方法によりホウ素化トリプトファン誘導体(A1)が得られる。以下では、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)から、DBTを合成する方法について説明する。
【0041】
DBTの合成にあたっては、まず、工程(E)により、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)のホウ酸の保護基を加水分解により除去して、
一般式(A2):
【化20】


(式中、R13、R14、R15は上記と同じ)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A2)に導く。
【0042】
加水分解工程(E)は、酸化剤の存在下に行なうことができる。酸化剤としては、例えば、メタ過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等があげられる。
【0043】
次いで、工程(F)により、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)中のN原子の保護基R13およびR14並びにエステル基を形成するR15を、還元により除去して、DBTを得ることができる。
【0044】
還元工程(F)としては、水素化触媒の存在下に、水素気流下、加圧(例えば、4〜6atm程度)の条件下で、水素化還元する方法があげられる。当該水素化還元では、通常、水素化触媒を用いることができるが、水素化触媒として、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、ニッケル等の金属類があげられる。また、水素化触媒は、担体に担持して使用することができる。前記担体は多孔性物質が用いられ、例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、珪藻土、チタニア、ジルコニアなどの結晶性もしくは非結晶性の金属酸化物または複合酸化物、テニオライト、ヘクトライトなどの層状粘土化合物、活性炭などがあげられる。
【0045】
上記水素化還元により、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)から、DBTを得ることができるが、エステル基を形成するR15の種類によっては、上記水素化還元のみでは、DBTの収率が低かったり、水素化還元が過酷であったりする場合がある。
【0046】
例えば、R15が、p−メトキシベンジル基、o,p−ジメトキシベンジル基等のアルキルオキシアリールアルキル基、ベンジル基等の場合には、上記水素化還元によって、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)から、DBTを収率よく得られる。以下、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)から、DBTを得る場合を水素化還元工程(F1)という。
【0047】
一方、R15が、メチル基、t−ブチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルキル基等の場合には、上記水素化還元によっては、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)のエステル基は還元されず、一般式(A3):
【化21】


(式中、R15は上記と同じ)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A3)が得られる場合がある。得られるホウ素化トリプトファン誘導体(A3)は、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A)に含まれる化合物である。以下、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)から、ホウ素化トリプトファン誘導体(A3)が得られる場合を水素化還元工程(F11)という。
【0048】
水素化還元工程(F11)を施した場合には、さらに、酸または塩基の存在下で、エステルを加水分解する工程(F12)を施して、ホウ素化トリプトファン誘導体(A3)をDBTに導くことができる。加水分解する工程(F12)に用いる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ、炭酸ナトリウム等のアルカリ炭酸塩があげられ、酸としては、トリフルオロ酢酸、塩酸、希硫酸等があげられる。なお、加水分解する工程(F12)においては、R15として、t−ブチル基等の分岐鎖アルキル基、イソプロピル基等に係るエステル基が、酸により加水分解されやすく好ましい。
【0049】
上記では、水素化還元工程(F11)に続いて、加水分解する工程(F12)を施す場合を示したが、加水分解する工程(F12)を施した後に、水素化還元工程(F11)を施すこともできる。また、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)から、DBTを合成するにあたっては、還元工程(F)を施した後に、ホウ酸エステルの加水分解工程(E)を施すこともできる。
【0050】
また本発明は、上記一般式(A0)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A0)を、プロテアーゼまたはリパーゼの存在下で光学分割して、上記一般式(A0´)で表されるL体のホウ素化トリプトファン誘導体(A0´)を得る。プロテアーゼとしては、例えば、キモトリプシンを用いることができる。光学分割は、酵素を用いた一般的な光学分割方法により行なうことができる。
【0051】
上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)の製造方法に係わる工程(A)乃至工程(D)、さらにはホウ素化トリプトファン誘導体(A1)のDBTの製造方法に係る工程(E)乃至(F)は、適宜に、溶媒中で行なうことができる。溶媒としては、酢酸エチル等のエステル系、アセトニトリル、プロピオニトリル等にニトリル系、テトラヒドロフラン(THF)、ジグライム、t-ブチルジメチルエーテル等のエーテル系、メタノール等のアルコール系溶媒、トルエン及びキシレン等の芳香族系溶媒、ジクロロエタン等の塩素系溶媒等を適宜に選択して用いることができる。また、反応条件は、通常、温度:室温〜80℃程度、時間:数分間〜72時間程度、であり、各工程に応じて設定することができる。
【0052】
また各工程では、適宜に、中和工程、精製工程を施した後に、次工程が施される。上記各工程における各生成物は、単離精製されても、そのまま次の工程に供してもよい。単離精製手段は、洗浄、抽出、再結晶法、各種クロマトグラフィーなどが包含される。各工程における各生成物は、これらの単離精製手段を単独で、あるいは適宜2種以上を組み合わせて使用して行うこともできる。
【0053】
以下に、本発明のホウ素化トリプトファン誘導体(A1)およびDBTの製造方法の具体例を実施例の態様で示すが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0054】
下記実施例において、化合物の分析および分離精製は、以下の機種や試薬を用いて行った。
・NMRスペクトル:日本電子 JMTC−400/54/SS 400 MHz(日本電子社製)。特に明記しない限り、内部標準としてTMSを用いた。また、下記ケミカルシフトはδ値で示した。
・カラムクロマトグラフィー用シリカゲル:BW−200(富士シリシア社製)。
・融点:BUCHI Melting point B-545を用いて測定した。
・IR:JASCO FT/IR-460 plusを用いて測定した。
【0055】
下記にホウ素化トリプトファン誘導体(A1)の製造方法の実施例に係る、工程(A)乃至工程(D)の各合成経路を示す。下記において、Zはベンジルオキシカルボニル基を示し、R15は、a:−Me:メチル基、b:−Bu:t−ブチル基、c:−Bn(p−OMe):p−メトキシベンジル基礎について各例について行なった。
【0056】
【化22】

【0057】
(出発物質)
ホウ素化インドール誘導体(1)として、アルドリッチ社製の5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)インドールを購入して使用した。
【0058】
<工程(A):化合物(2)に係る、5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ホルミルインドールの合成>
200ml容ナスフラスコに無水ジメチルホルムアミド(DMF;12.38g,169mmol)と5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)インドール(5.0g,20.6mmol)を入れ溶解するまで攪拌した。その後、氷浴で攪拌しながら、ピロホスホリル テトラクロリド(P2O3Cl4;6.27g、24.9mmol)を滴下し、氷浴中で冷却しながら30分間攪拌した。次いで、40℃で1時間攪拌した後、氷浴中で冷却しながら水酸化ナトリウム水溶液(2M)を、pHが7になるまで加え、その後1時間還流を行った。TLCで原料消失を確認後、沈殿物として褐色結晶の化合物(2):(5.15g、収率92%)を得た。
【0059】
≪上記化合物(2)≫
融点は203.2℃であった。
1H-NMR (CDCl3); 1.36 (12H, s, 4CH3), 7.44 (1H, d, J=4.4 Hz, NCCH), 7.75 (1H, d, J=4.4 Hz, BCCH), 7.90 (1H, s, BCCH), 8.81 (1H, s, NHCH), 9.46 (1H, s, NH), 10.1 (1H, s, CHO)
13C-NMR (CDCl3); 24.9, 83.7, 111.1, 119.6, 124.1, 129.1, 130.4, 138.8, 185.3
【0060】
<工程(B):化合物(3)に係わる、N-(ベンジルオキシカルボニル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3-ホルミルインドールの合成>
500ml容ナスフラスコに、上記で得られた化合物(2)(5.0g,18.4mmol)と酢酸エチル(300ml)を入れ、化合物(2)が溶解するまで攪拌した。その後、氷浴で冷却しながら、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(5.81g, 47.5mmol)を加え、ここにカルボベンジルオキシクロリド(Z-Cl;7.84g、46.0mmol)を滴下して一晩攪拌した。反応液に水を加えて水洗し、有機層を芒硝で乾燥した後、減圧濃縮して、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2/1)より精製して白色結晶の化合物(3):(7.4g, 収率99%)を得た。
【0061】
≪上記化合物(3)≫
IR (KBr):vmax=3182, 2977, 2924, 1642
融点は161.6℃であった。
1H-NMR (CDCl3); 1.26 (12H, s, 4CH3), 5.36 (2H, s, CH2), 7.15-7.39 (5H, m, ArH), 7.74 (1H, d, J=8.0 Hz, NCCH), 8.04 (1H, d, J=8.4 Hz, BCCH), 8.09 (1H, s, BCCH), 8.64 (1H, s, NH), 9.96 (1H, s, CHO)
13C-NMR (CDCl3); 24.8, 69.6, 69.7, 83.8, 114.3, 122.2, 125.5, 126.8, 128.2, 128.4, 128.4, 128.5, 128.7, 128.8, 129.0, 129.0, 129.0, 132.5, 134.1, 135.0, 135.8, 137.8, 149.8, 185.4
【0062】
<工程(C):化合物(5a−c)の合成>
100ml容ナスフラスコに無水THF(20ml)と上記化合物(4a)(3.2g,9.6mmol)、DBU(1.44ml,8.86mmol)を入れ、室温で10分間攪拌した後、上記化合物(3)(2.99g,7.38mmol)を無水THF(20ml)に溶かし、少しずつ滴下し、室温になるまで1時間程攪拌した。TLCで原料の消失を確認した後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチルで抽出した。有機層を蒸留水及び飽和食塩水で洗浄し、芒硝で乾燥後、減圧して黄色油状物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、無色の油状の化合物(5a)(3.02g,収率67%)を得た。
【0063】
≪化合物(5a)≫
1H-NMR (CDCl3); 1.38 (12H, s, 4CH3), 3.85 (3H, s, CO2CH3), 5.08 (2H, s, NCO2CH2), 5.43 (2H, s, NHCO2CH2), 6.37 (1H, br, NH), 7.28-7.46 (10H, m, 10ArH), 7.72 (1H, s, BCCH), 7.82 (1H, d, J=7.6 Hz, NCCH), 7.95 (1H, BCCH), 8.18 (1H, s, NHCCH)
13C-NMR (CDCl3);24.9, 52.6, 67.5, 69.2, 83.9, 114.6, 125.9, 128.1, 128.2, 128.4, 128.5, 128.8, 128.8, 131.8, 134.6, 165.4
【0064】
なお、化合物(5b)(5c)の調製については、上記において、化合物(4a)の代わりに、化合物(4b)(4c)を化合物(4a)と同じモル数で用いたこと以外は同様の操作を行なった。
【0065】
≪化合物(5b)≫
無色油状物であり、収率25 %であった。
1H-NMR (CDCl3); 1H-NMR (CDCl3); 1.37 (12H, s, 4CH3), 1.54 (9H, s, C{CH3}3), 5.07 (2H, s, CHHAr), 5.43 (2H, s, CHHAr), 7.15-7.60 (10H, m, CH2ArH), 7.81 (1H, d, J= 8.5 Hz, ArH), 7.92 (1H, s, ArH), 8.1-8.2 (2H, m, ArH)
【0066】
≪化合物(5c)≫
無色油状物であり、収率45 %であった。
1H-NMR (CDCl3); 1H-NMR (CDCl3); 1.37 (12H, s, 4CH3), 3.81 (3H, s, OCH3), 5.05 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.22 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.43 (2H, s, CO2CH2Ar), 6.90 (2H, d, J= 8.8 Hz, ArH{OCH3}), 7.18-7.72 (12H, m, ArH), 7.81 (1H, d, J= 8.8 Hz, ArH), 7.94 (1H, s, ArH), 8.13-8.20 (2H, m, ArH)
【0067】
<工程(D):ホウ素化トリプトファン誘導体(A1a‐c)の合成>
中圧水添用の反応容器中で上記化合物(5a)(1.87g,3.06mmol)をメタノール(15ml)に溶解し、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I):ウィルキンソン触媒(0.17g,0.18mmol)を加え、水素気流(4気圧)下、室温で一晩攪拌した。TLCで二重結合の還元を確認した後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、無色の油状のホウ素化トリプトファン誘導体(A1a)(1.68g,収率90%)を得た。
【0068】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A1a)≫
1H-NMR (DMSO); 1.29 (12H, s, 4CH3), 3.03 (1H, dd, J= 14.8, 10.0 Hz, CHHAr, 3.17, (1H, dd, J= 14.4, 4.8 Hz, CHHAr), 3.62 (3H, s, OCH3), 4.33 (1H, m, CHCH2Ar), 4.94 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.43 (2H, s, CO2CH2Ar), 7.17-7.62 (10H, m, CO2CH2ArH), 7.64 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 7.84 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 7.89 (1H, s, ArH), 8.09 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH)
13C-NMR (CDCL3); 24.8, 25.0, 27.5, 52.5, 53.7, 67.0, 68.8, 83.7, 114.6, 115.9,
123.8, 125.9, 128.0, 128.1, 128.4, 128.5, 128.7, 128.7, 131.3, 135.0, 136.2, 155.7,
171.9
【0069】
なお、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1b)(A1c)の調製については、上記において、化合物(5a)の代わりに、化合物(5b)(5c)を化合物(5a)と同じモル数で用いたこと以外は同様の操作を行なった。
【0070】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A1b)≫
無色油状物であり、収率91%であった。
1H-NMR (DMSO); 1.29 (12H, s, 4CH3), 1.41 (9H, s, C{CH3}3), 3.01 (1H, dd, J= 14.8, 10.0 Hz, CHHAr), 3.12, (1H, dd, J= 14.4, 4.8 Hz, CHHAr), 4.33 (1H, m, CHCH2Ar), 4.95 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.44 (2H, s, CO2CH2Ar), 7.20-7.72 (10H, m, CO2CH2ArH), 7.81 (1H, d, J= 8.5 Hz, ArH), 7.92 (1H, s, ArH), 8.1-8.2 (2H, m, ArH)
【0071】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A1c)≫
無色油状物であり、収率91%であった。
1H-NMR (DMSO); 1.28 (12H, s, 4CH3), 3.07 (1H, m, CHHAr), 3.16 (1H, m, CHHAr), 3.72 (3H, s, OCH3), 4.35 (1H, m, CHCH2Ar), 4.95 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.00 (1H, s, CO2CH2Ar), 5.44 (1H, s, CO2CH2Ar), 6.84 (2H, d, J= 8.0 Hz, ArH{OCH3}), 7.07-7.60 (12H, m, ArH), 7.65 (1H, d, J= 8.3 Hz, ArH), 7.88 (1H, s, ArH), 7.90 (1H, s, ArH), 8.10 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH)
【0072】
下記には上記で得られたホウ素化トリプトファン誘導体(A1a‐c)からの、DBTの製造方法の実施例に係る、工程(E)および工程(D)の各合成経路を示す。
【0073】
【化23】

【0074】
<工程(E):ホウ素化トリプトファン誘導体(A2a)の合成>
30ml容ナスフラスコに上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A2a)(1.83g、3.00mmol)とTHF(18ml)、蒸留水(4.5ml)を加え、当該誘導体(A2a)が溶解するまで攪拌した。その後、メタ過ヨウ素酸ナトリウム(1.8g、84.1 mmol)を添加し、30分間攪拌した。その後、1N塩酸(2.0ml)を滴下し、17時間攪拌した。TLCで原料の消失を確認した後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチルで抽出した。有機層を蒸留水、飽和食塩水で洗浄した後、有機層を減圧留去し、残渣をジエチルエーテルで洗浄し、白色結晶のホウ素化トリプトファン誘導体(A2a)(1.43g、91%)を得た。
【0075】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A1a)≫
融点は190-193℃であった。
1H-NMR (DMSO); 3.01 (1H, dd, J=14.4, 6.4 Hz, CHHAr), 3.17 (1H, dd, J= 14.8,4.8 Hz, CHHAr), 3.64 (3H, s, OCH3), 4.40 (1H, m, CHCH2Ar), 4.95 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.45 (2H, s, CO2CH2Ar), 7.20-7.61 (10H, m, CO2CH2ArH), 7.77 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 7.86 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 8.02 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 8.07 (2H, s, B{OH}2), 8.09 (1H, s, ArH)
13C-NMR (DMSO); 18.5, 26.2, 52.0, 53.6, 56.0, 65.4, 68.3, 79.2, 113.6, 117.0, 123.7, 125.4, 127.5, 127.8, 128.3, 128.3, 128.5, 128.6, 129.4, 130.6, 135.4, 136.8,150.1, 156.0, 172.2
【0076】
なお、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2b)(A2c)の調製については、上記において、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1a)の代わりに、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1b)(A1c)をホウ素化トリプトファン誘導体(A1a)と同じモル数で用いたこと以外は同様の操作を行なった。
【0077】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A2b)≫
白色結晶であり、収率90%であった。
1H-NMR (DMSO); 1.50 (9H, s, C{CH}3), 3.01 (1H, dd, J=14.5, 6.6 Hz, CHHAr), 3.17 (1H, dd, J= 14.8, 4.8 Hz, CHHAr), 4.30 (1H, m, CHCH2Ar), 4.90 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.40 (2H, s, CO2CH2Ar), 7.20-7.60 (10H, m, CO2CH2ArH), 7.70 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 7.80 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 8.00 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 8.02 (2H, s, B{OH}2), 8.04 (1H, s, ArH),
【0078】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A2c)≫
白色結晶であり、収率92%であった。
融点は148-150℃であった。
1H-NMR (DMSO); 3.01 (1H, dd, J= 14.4, 9.0 Hz, CHHAr), 3.15 (1H, m, CHHAr), 3.72 (3H, s, OCH3), 4.42 (1H, m, CHCH2Ar), 4.95 (2H, d, J= 4.1 Hz, CO2CH2Ar), 5.01 (2H, s, CO2CH2Ar), 5.44 (2H, s, CO2CH2Ar), 6.85 (2H, d, J= 8.0 Hz, ArH{OCH3}), 7.05-7.70 (12H, m, ArH), 7.76 (1H, d, J= 8.5 Hz, ArH), 7.88 (1H, d, J= 7.8Hz, ArH), 8.01 (1H, d, J= 8.3Hz, ArH), 8.08 (2H, s, B{OH}2)
【0079】
【化24】

【0080】
<工程(F11):ホウ素化トリプトファン誘導体(A3a)の調製>
中圧水添用の反応容器中で、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A2c)(1mmol)をメタノール(30ml)に溶解し、10%パラジウム炭素(63.6mg)を加え、水素気流(4気圧)下、室温で48時間攪拌した。TLCで原料の消失を確認後、パラジウム炭素を濾去、濾液の減圧留去を行い、白色結晶のホウ素化トリプトファン誘導体(A3a)を得た(収率87%)。
【0081】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A3a)≫
融点は136-140℃であった。
1H-NMR (DMSO); 2.94 (1H, dd, J= 14.4, 6.8 Hz, CHHAr), 3.03 (1H, dd, J= 14.0, 6.4 Hz, CHHAr), 3.65 (3H, s, OCH3), 3.66 (1H, t, J= 6.4 Hz, CHCH2Ar), 7.08 (1H, d,J= 2.0 Hz, ArH), 7.26 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 7.51 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 7.78 (2H, br, B{OH}2), 8.02 (1H, s, ArH),10.8 (1H, s, NH)
13C-NMR (CD3OD); 31.2, 49.9, 52.5, 55.7, 110.9, 111.5, 124.6, 125.9, 128.0, 128.3, 139.4, 176.6
【0082】
なお、ホウ素化トリプトファン誘導体(A3b)の調製については、上記において、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2a)の代わりに、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2b)をホウ素化トリプトファン誘導体(A2a)と同じモル数で用いたこと以外は同様の操作を行なった。
【0083】
≪ホウ素化トリプトファン誘導体(A3b)≫
白色結晶であり、収率85%であった。
1H-NMR (DMSO); 1.50 (9H, s, C{CH}3), 3.00 (1H, dd, J=14.5, 6.6 Hz, CHHAr), 3.10 (1H, dd, J= 14.8, 4.8 Hz, CHHAr), 4.30 (1H, m, CHCH2Ar), 7.08 (1H, d, J= 2.0 Hz, ArH), 7.20 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 7.80 (1H, d, J= 8.4 Hz, ArH), 8.00 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 8.02 (2H, s, B{OH}2), 8.04 (1H, s, ArH)
【0084】
<工程(F12):シリーズaおよびシリーズbによるDBTの合成>
メチルエステルに係る、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A3a)50mgを10mlの含水メタノールに溶解し、室温下で0.2Nの水酸化ナトリウム水溶液を摘下して加え、pHを8.5に5時間保った。反応液に希塩酸を加えて中和し、減圧で濃縮して、目的とするDBTを含む混合物を得た。
【0085】
一方、t−ブチルエステルに係る、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A3b)60mgを10mlのメタノールに溶解し、ここにホウ素化トリプトファン誘導体(A3b)1モルに対して、2.5モル当量のトリフルオロ酢酸を氷例下に加え、その後室温下で8時間反応させた。反応液に炭酸水素ナトリウムを加えてpHを6.5に調製した後、減圧下で濃縮してDBTのトリフルオロ酢酸塩を得た。
【0086】
≪DBTトリフルオロ酢酸塩≫
1H-NMR (DMSO+D2O); 2.93 (1H, dd, J= 14.4, 6.8 Hz, CHHAr), 3.03 (1H, dd, J= 14.4, 6.6 Hz, CHHAr), 3.64 (1H, t, J= 6.6 Hz, CHCH2Ar), 7.10 (1H, d,J= 2.0 Hz, ArH), 7.20 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 7.52 (1H, d, J= 8.0 Hz, ArH), 7.81 (1H,s, ArH), 8.04 (1H, s, ArH)
【0087】
<工程(F1):シリーズcによるDBTの合成>
p‐メトキシベンジルエステルに係る、上記ホウ素化トリプトファン誘導体(A3c)200mgを20mlのメタノールに溶解し、10%パラジウム炭素100mgを加え、4.5気圧の水素気流下で一昼夜、還元した。触媒を濾去した後、濾液を減圧下で濃縮して目的とするDBTの粗生成物を得た。NMRのデータは上記と同じであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A):
【化1】


(式中、R、Rは、同一または異なっていてもよい、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基、または、当該アルキル基が結合したアルキレン基を示し、Rは、水素原子またはR13−(O)−CO−基(但し、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、nは1または0である。)を示し、Rは、水素原子またはR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、mは1または0である。)を示し、Rは、水素原子または炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す。)で表される、ホウ素化トリプトファン誘導体。
【請求項2】
一般式(A0):
【化2】


で表される、ホウ素化トリプトファン誘導体。
【請求項3】
一般式(A0´):
【化3】


で表される、L体のホウ素化トリプトファン誘導体。
【請求項4】
一般式(1):
【化4】


(式中、R11、R12は、同一または異なっていてもよい、炭素数1〜8のアルキル基、または、当該アルキル基が結合したアルキレン基を示す)で表される、ホウ素化インドール誘導体(1)を、ホルミル化して、
一般式(2):
【化5】


(式中、R11、R12は、上記と同じ)で表される化合物(2)に導く工程(A)、
次いで、上記化合物(2)のN原子を、
一般式(3´):R13−(O)−CO−X(式中、R13は炭素数1〜8のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、nは1または0であり、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物(3´)により保護して、
一般式(3):
【化6】


(式中、R11、R12、R13は上記と同じ)で表される化合物(3)に導く工程(B)、
次いで、上記化合物(3)と、
一般式(4):
【化7】


(式中、R14はR14−(O)−CO−基(但し、R14は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、mは1または0である。)を示し、R15は炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜12の炭化水素を示す。)で表される化合物(4)を、Horner−Emmons反応により反応させて、
一般式(5):
【化8】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15は上記と同じ)で表される化合物(5)に導く工程(C)、
次いで、上記化合物(5)のα,β−不飽和エステルに係る炭素−炭素二重結合のみを水素化して、
一般式(A1):
【化9】


(式中、R11、R12、R13、R14、R15は上記と同じ)で表される化合物(A1)に導く工程(D)、を有するホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法により、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)を製造した後、
さらに、ホウ素化トリプトファン誘導体(A1)のホウ酸の保護基を加水分解により除去して、
一般式(A2):
【化10】


(式中、R13、R14、R15は上記と同じ)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A2)に導く工程(E)、
次いで、ホウ素化トリプトファン誘導体(A2)中のN原子の保護基R13およびR14並びにエステル基を形成するR15を、還元により除去して、請求項2記載の一般式(A0)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A0)に導く工程(F)、を有するホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項2記載の一般式(A0)で表されるホウ素化トリプトファン誘導体(A0)を、
プロテアーゼまたはリパーゼの存在下で光学分割して、
請求項3記載の一般式(A0´)で表されるL体のホウ素化トリプトファン誘導体(A0´)を得る、L体のホウ素化トリプトファン誘導体の製造方法。





【公開番号】特開2010−183854(P2010−183854A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28815(P2009−28815)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(507288132)ステラファーマ株式会社 (3)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】