説明

ホスト及びドーパント機能をもつ有機金属化合物

発光性コアと、その発光性コアに結合した1つ又は複数のポリフェニレン分枝とを含む有機金属化合物。ホスト残基がその分枝上にペンダント基として付与される。いくつかの場合には、ポリフェニレン鎖はその鎖中のπ共役を低減するためにメタ配置で連結される。この有機金属化合物に用いるための好適なホスト残基には、カルバゾール又はトリフェニレン構造を有するものが含まれる。この有機金属化合物上のホスト残基の量と種類は、発光性コアに対するホスト残基の分子量比を調整するために変えることができる。いくつかの場合には、この有機金属化合物は有機溶媒に充分に可溶性であり、溶液加工を可能にする。本発明の有機金属化合物を含む有機電子デバイスと、本発明の有機金属化合物を用いる有機電子デバイスの製造法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許請求の範囲に記載されている発明は、大学共同研究契約に参加する以下の団体:プリンストン大学、南カリフォルニア大学、及びUniversal Display Corporationの1つ又は複数によって、1つ又は複数のために、及び/又は1つ又は複数と関連して行われた。この契約は、特許請求の範囲に記載されている発明が行われた日及びそれ以前に効力が発生し、特許請求の範囲に記載されている発明は本契約の範囲内で取り組んだ活動の結果として行われたものである。
【0002】
本発明はオプトエレクトロニクスデバイス(有機電子デバイス)に関する。
【背景技術】
【0003】
有機材料を用いるオプトエレクトロニクスデバイスは、多くの理由によりますます望ましいものとなってきている。そのようなデバイスを作るために用いられる多くの材料はかなり安価であり、そのため有機オプトエレクトロニクスデバイスは、無機デバイスに対して、コスト上の優位性について潜在力をもっている。加えて、有機材料固有の特性、例えばそれらの柔軟性は、それらを柔軟な基材上への製作などの特定用途に非常に適したものにしうる。有機オプトエレクトロニクスデバイスの例には、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池、及び有機光検出器が含まれる。OLEDについては、有機材料は、従来の材料に対して性能的優位性をもちうる。例えば、有機発光層が発光する波長は、一般に、適切なドーパントで容易に調節することができる。
【0004】
本明細書で用いるように、「有機」の用語は、有機オプトエレクトロニクスデバイスを製作するために用いることができる、ポリマー物質並びに低分子有機物質を包含する。「低分子(small molecule)」とは、ポリマーではない任意の有機物質をいい、「低分子」は、実際は非常に大きくてもよい。低分子はいくつかの状況では繰り返し単位を含んでもよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「低分子」の群から排除しない。低分子は、例えばポリマー主鎖上のペンダント基として、あるいは主鎖の一部として、ポリマー中に組み込まれてもよい。低分子は、コア残基上に作り上げられた一連の化学的殻からなるデンドリマーのコア残基として働くこともできる。デンドリマーのコア残基は、蛍光性又はリン光性低分子発光体であることができる。デンドリマーは「低分子」であることができ、OLEDの分野で現在用いられている全てのデンドリマーは低分子であると考えられる。一般に、低分子は、単一の分子量をもつ明確な化学式をもつが、ポリマーは分子ごとに変わりうる化学式と分子量とを有する。本明細書で用いるとおり、「有機」は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl)配位子及びヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0005】
OLEDは、デバイスを横切って電圧を印加した場合に光を発する薄い有機膜(有機フィルム)を用いる。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、及びバックライトなどの用途で用いるためのますます興味ある技術となってきている。いくつかのOLEDの材料と構成が、米国特許第5,844,363号明細書、同6,303,238号明細書、及び同5,707,745号明細書に記載されており、これらの明細書はその全体を参照により本願に援用する。
【0006】
OLEDデバイスは一般に(常にではないが)少なくとも1つの電極を通して光を発するように意図され、1つ以上の透明電極が、有機オプトエレクトロニクスデバイスにおいて有用でありうる。例えば、インジウムスズオキシド(ITO)などの透明電極材料は、ボトム電極として用いることができる。米国特許第5,703,436号明細書及び同5,707,745号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されているような透明なトップ電極も使用できる。ボトム電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、トップ電極は透明である必要はなく、高い電気伝導度をもつ厚く且つ反射性の金属層からなっていてもよい。同様に、トップ電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、ボトム電極は不透明及び/又は反射性であってよい。電極が透明である必要がない場合は、より厚い層の使用はより良い伝導度をもたらすことができ、反射性電極を用いることは透明電極に向けて光を反射し返すことによって他方の電極を通して放射される光の量を多くすることができる。完全に透明なデバイスも製作でき、この場合は両方の電極が透明である。側方発光OLEDも製作することができ、そのようなデバイスでは1つ又は両方の電極が不透明又は反射性でありうる。
【0007】
本明細書で用いるように「トップ」は、基材から最も遠くを意味する一方で、「ボトム」は基材に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスについては、ボトム電極は基材に最も電極であり、通常、作製する最初の電極である。ボトム電極は2つの表面である、基材に最も近いボトム面と、基材から最も遠いトップ面とをもつ。第一の層が第二の層の「上に配置される」と記載した場合は、第一の層は基材から、より遠くに配置される。第一の層が第二の層と「物理的に接触している」と特定されていない限り、第一の層と第二の層との間に別な層があってよい。例えば、カソードとアノードとの間に様々な有機層があったとしても、カソードはアノードの「上に配置される」と記載できる。
【0008】
本明細書で用いるように、「溶液処理(加工)可能」とは、溶液又は懸濁液形態のいずれかで、液体媒体中に溶解、分散、又は輸送でき、及び/又は液体媒体から堆積されうることを意味する。
【0009】
本明細書で用いるように、かつ当業者によって一般に理解されているように、第一の「最高被占軌道」(HOMO)又は「最低空軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空のエネルギー準位により近い場合は、第二のHOMO又はLUMOのエネルギー準位よりも大きいか又は高い。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位に対する負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつIP(より小さな負のIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつ電子親和力(EA)(より小さな負のEA)に相当する。従来のエネルギー準位ダイヤグラム上では、上端(トップ)を真空準位として、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも上である。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりも、そのようなダイヤグラムの上端(トップ)近くに現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献2】米国特許第6,310,360号明細書
【特許文献3】米国特許第6,830,828号明細書
【特許文献4】米国特許第6,835,469号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2002-0034656号
【特許文献6】米国特許出願公開第2002-0182441号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2003-0072964号
【特許文献8】国際公開WO02/074015号
【特許文献9】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献10】米国特許第6,602,540号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2003-0230980号公報
【特許文献12】米国特許第5,703,436号明細書
【特許文献13】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献14】米国特許第6,548,956号明細書
【特許文献15】米国特許第6,576,134号明細書
【特許文献16】米国特許第6,097,147号明細書
【特許文献17】米国特許第5,834,893号明細書
【特許文献18】米国特許第6,013,982号明細書
【特許文献19】米国特許第6,087,196号明細書
【特許文献20】米国特許第6,337,102号明細書
【特許文献21】米国特許第6,294,398号明細書
【特許文献22】米国特許第6,468,819号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Baldoら, Nature, vol.395, 151〜154頁, 1998
【非特許文献2】Baldoら, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.3, 4〜6頁(1999)
【非特許文献3】Adachiら, J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)
【非特許文献4】Lo, Shih-Chunら, Organic Electronics 7:85-98 (2006)
【非特許文献5】Li, Yanqinら, Applied Physics Letters 89:061125 (2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの側面では、本発明は、下記式:
【化1】

(式中、発光性コアは金属原子とその金属原子に配位した複数の配位子とを含み;各分枝はその複数の配位子の1つに連結されており;変数「y」は1〜3の整数値を有し;各変数「x」は独立に少なくとも2の整数値を有し;各変数「n」は独立に0以上の整数値を有し;各変数「m」は独立に1以上の整数値を有し、各ホスト残基Rは独立に、少なくとも2つの環を有するアリール、又は少なくとも2つの環を有するヘテロアリール基であり;各末端基Rは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択され;R及びRのそれぞれは、それらの各環の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換基を表し、その置換基のそれぞれは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。いくつかの場合には、上記分枝のポリフェニレン鎖のなかの各フェニル単位は、隣り合ったフェニル単位とメタ配置で連結されている。)
で表される、発光性コアに連結された1つ以上の分枝を含む有機金属化合物を提供する。
【0013】
別の側面では、本発明は、アノード、カソード、及びそのアノードとカソードの間に配置された第一の有機層を含み、その第一の有機層が本発明の有機金属化合物を含む、有機エレクトロニックデバイスを提供する。
【0014】
なお別の側面では、本発明は、基材上に配置された第一の電極を付与する工程;その第一の電極上に第一の有機層を形成し、前記第一の有機層は本発明の有機金属化合物を含む工程;さらに、その第一の有機層上に配置された第二の電極を形成する工程を含む、有機エレクトロニックデバイスの作製方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、別個の電子輸送層、正孔輸送層、及び発光層、並びにその他の層を有する有機発光デバイスを示す。
【図2】図2は、別個の電子輸送層をもたない倒置型有機発光デバイスを示す。
【図3】図3は、デバイス例1〜4の電流密度対電圧のプロットを示す。
【図4】図4は、デバイス例1〜4の発光効率対輝度のプロットを示す。
【図5】図5は、デバイス例5〜10の電流密度対電圧のプロットを示す。
【図6】図6は、デバイス例5〜10の発光効率対輝度のプロットを示す。
【図7】図7は、デバイス例11及び12の電流密度対電圧のプロットを示す。
【図8】図8は、デバイス例11及び12の発光効率対輝度のプロットを示す。
【図9】図9は、化合物A及びBの合成を示す。
【図10】図10は、化合物Cの合成を示す。
【図11】図11は、化合物AのMALDI−TOFマススペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔詳細な説明〕
一般に、OLEDは、アノードとカソードとの間に配置され且つこれらに電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が流れると、有機層(複数であってもよい)に、アノードはホールを注入し、カソードは電子を注入する。注入されたホールと電子はそれぞれ、反対に帯電した電極に向かって移動する。電子とホールが同じ分子に局在するとき、「励起子」(励起エネルギー状態を有する局在化した電子-ホール対である)が形成される。励起子が光放出機構により緩和するときに光が放射される。いくつかの場合には、励起子はエキシマーまたはエキシプレックスに局在化されることがある。非放射機構、例えば熱緩和も起こり得るが、一般には望ましくないと考えられている。
【0017】
初期のOLEDでは、例えば、米国特許第4,769,292号(その全体を参照により援用する)に開示されているように、一重項状態から発光する(「蛍光」)発光分子を用いた。蛍光発光は一般に、10ナノ秒未満の時間フレームで起こる。
【0018】
より最近、三重項状態から発光する(「リン光」)発光材料を有するOLEDが実証された。Baldoら,「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」, Nature, vol.395, 151〜154頁, 1998(「Baldo-I」)、および、Baldoら, 「Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence」, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.1, 4〜6頁(1999)(「Baldo-II」)(これらはその全体を参照により援用する)。リン光は「禁制」遷移とよばれることがあり、なぜなら、この遷移がスピン状態の変化を必要とし、量子力学はこのような遷移は好ましくないことを示しているからである。結果として、リン光は一般に、少なくとも10ナノ秒を超える時間フレームで起こり、典型的には100ナノ秒を超える。リン光の自然な放射寿命が長すぎると、三重項が非放射機構により減衰して全く光が放出されないということがあり得る。有機リン光は、しばしば、非共有電子対を有するヘテロ原子を含む分子においてもまた、非常に低温で観察される。2,2'-ビピリジンはこのような分子である。非放射的減衰機構は、通常、温度に左右されるので、液体窒素の温度でリン光を示す有機材料は、通常、室温ではリン光を示さない。しかし、Baldoにより実証されたように、室温で実際にリン光を発するリン光化合物を選択することによって、この問題を解決できる。代表的な発光層には、米国特許第6,303,238号、米国特許第6,310,360号;米国特許出願公開第2002-0034656号;同第2002-0182441号;同2003-0072964号;ならびに国際公開WO02/074015号パンフレットに開示されているようなドープされているか又はドープされていないリン光有機金属材料が含まれる。
【0019】
一般に、OLED内の励起子は、約3:1の比で、すなわち、約75%の三重項と約25%の一重項として、生成されると考えられている。Adachiら、「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」, J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)(これはその全体を参照により援用する)を参照されたい。多くの場合、一重項励起子は「項間交差」を通じて三重項励起状態に容易にエネルギーを移動できるが、三重項励起子はそれらのエネルギーを一重項励起状態に容易には移動できない。結果として、リン光OLEDで100%の内部量子効率が理論的には可能である。蛍光デバイスにおいては、三重項励起子のエネルギーは、通常、デバイスを昇温させる無放射減衰過程に費やされるので、結果的に内部量子効率はずっと小さくなる。三重項励起状態から発光するリン光材料を用いるOLEDが、例えば、米国特許第6,303,238号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。
【0020】
リン光発光に先立って、三重項励起状態から非三重項状態への遷移が起こり、そこから発光減衰が起こりうる。例えば、ランタニド元素に配位した有機分子は、しばしば、ランタニド金属に局在化した励起状態からリン光を発する。しかし、このような材料は三重項励起状態から直接リン光を発するのでなく、代わりに、ランタニド金属イオンに集中した原子励起状態から発光する。ユーロピウムジケトネート錯体はこれらのタイプの化学種の1つの群を例示する。
【0021】
三重項からのリン光は、有機分子を大きな原子番号の原子のごく近くに好ましくは結合を通じて留めることによって、蛍光を超えて強めることができる。この現象は、重原子効果とよばれ、スピン-軌道カップリングとして知られている機構によって生じる。このようなリン光遷移は、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)などの有機金属分子の励起金属から配位子への電荷移動(metal-to-ligand charge transfer、MLCT)状態から観察されうる。
【0022】
本明細書で用いるとおり、「三重項エネルギー」という用語は、所定の材料のリン光スペクトル中に認められる最も高いエネルギー的特徴部分に対応するエネルギーをいう。最も高いエネルギー的特徴部分は、必ずしも、リン光スペクトルにおける最大強度を有するピークではなく、例えば、そのようなピークの高エネルギー側の明瞭な肩の極大値であり得る。
【0023】
図1は有機発光デバイス100を示している。この図は、必ずしも一定の縮尺で描かれていない。デバイス100は、基板110、アノード115、ホール注入層120、ホール輸送層125、電子阻止層130、発光層135、ホール阻止層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、およびカソード160を含み得る。カソード160は、第一導電層162および第二導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、記載した層を順次、堆積させることによって作製できる。
【0024】
基板110は所望の構造特性を備えた任意の適切な基板であってよい。基板110は柔軟であっても堅くてもよい。基板110は、透明、半透明、または不透明であり得る。プラスチックおよびガラスは好ましい堅い基板材料の例である。プラスチックおよび金属箔は好ましい柔軟基板材料の例である。基板110は回路の作製を容易にするために、半導体材料であってもよい。例えば、基板110は、続いて基板上に堆積されるOLEDを制御できる回路がその上に作製されているシリコンウェハであってもよい。他の基板を使用してもよい。基板110の材料および厚さは、所望の構造特性および光学特性が得られるように選択されうる。
【0025】
アノード115は、有機層にホールを輸送するために十分な導電性である任意の適切なアノードであってよい。アノード115の材料は、好ましくは、約4eVより大きい仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)、ならびに金属が含まれる。アノード115(および基板110)は、ボトム発光デバイスを作るために十分に透明であってよい。好ましい透明基板とアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積された市販のITO(アノード)である。柔軟かつ透明な基板-アノードの組合せは、米国特許第5,844,363号および米国特許第6,602,540号B2(これらはその全体を参照により援用する)に開示されている。アノード115は不透明および/または反射性であってよい。反射性アノード115は、デバイスのトップからの発光量を増加させるために、いくつかのトップ発光デバイスでは好ましいものであり得る。アノード115の材料および厚さは、所望の導電性および光学特性が得られるように選択されうる。アノード115が透明である場合、特定の材料に対して、所望の導電性をもたせるのに十分なだけ厚いが、それでも所望の透明度をもたせるのに十分なだけ薄い、厚さの範囲があり得る。他のアノード材料および構造を用いてもよい。
【0026】
ホール輸送層125には、ホールを輸送できる材料が含まれうる。ホール輸送層130は真性(ドープされていない)であってもドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。α-NPDおよびTPDは真性ホール輸送層の例である。p型ドープホール輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、50:1(m-MTDATA:F4-TCNQ)のモル比でF4-TCNQでドープされたm-MTDATAである。他のホール輸送層を用いてもよい。
【0027】
発光層135は、電流がアノード115とカソード160との間に流れたときに発光できる有機材料を含みうる。好ましくは、発光層135はリン光発光材料を含むが、蛍光発光材料も使用されうる。リン光材料が、このような材料に付随するより高いルミネセンス効率のために好ましい。発光層135はまた、電子および/またはホールを輸送できるホスト材料(これは励起子が光放出機構により発光材料から緩和するように、電子、ホール、および/または励起子を捕捉しうる発光材料によりドープされている)を含んでいてもよい。発光層135は、輸送および発光特性を併せもつ単一材料を含んでいてもよい。発光材料がドーパントであるか主成分であるかにかかわらず、発光層135は、発光材料の発光を調整するドーパントなどの他の材料を含みうる。発光層135は、組み合わされて所望の光スペクトルを発光できる複数の発光材料を含んでいてもよい。リン光発光材料の例には、Ir(ppy)3が含まれる。蛍光発光材料の例には、DCMおよびDMQAが含まれる。ホスト材料の例には、Alq、CBPおよびmCPが含まれる。発光材料及びホスト材料の例は、Thompsonらの米国特許第6,303,238号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。発光材料は多くのやり方で発光層135に含めることができる。例えば、発光性の低分子がポリマーに組み込まれてもよい。これは、いくつかのやり方によって、例えば、低分子を、別個の独立した分子種としてポリマーにドープすることによって;あるいは、低分子をポリマー骨格に組み込み、コポリマーを形成させることによって;あるいは、低分子をペンダント基としてポリマーに結合させることによって、実施できる。他の発光層の材料および構造を用いてもよい。例えば、低分子の発光材料は、デンドリマーのコアとして存在してもよい。
【0028】
多くの有用な発光材料は、金属中心に結合した1つまたは複数の配位子を含む。配位子は、それが有機金属発光材料の光活性特性に直接寄与する場合、「光活性」とよぶことができる。「光活性」配位子は、金属と共同で、光子が放出されるときに、電子がそこから移動するエネルギー準位及びそこへ移動するエネルギー準位を提供しうる。他の配位子は「補助」ということができる。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることによって分子の光活性特性を改変し得るが、補助配位子は光の放出に直接関与するエネルギー準位を直接提供はしない。1つの分子において光活性である配位子は別の分子においては補助でありうる。光活性および補助のこれらの定義は本発明を限定しない説を意図している。
【0029】
電子輸送層145は電子を輸送できる材料を含みうる。電子輸送層145は、真性(ドープされていない)であっても、またはドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。Alqは真性電子輸送層の例である。n型ドープ電子輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、1:1のモル比でLiによりドープされたBPhenである。他の電子輸送層を用いてもよい。
【0030】
電子輸送層の電荷担体成分は、電子輸送層のLUMO(最低非占有分子軌道)エネルギー準位へ、電子がカソードから効率的に注入されうるように選択できる。「電荷担体成分」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギー準位を担う材料である。この成分はベース材料であっても、あるいはそれはドーパントであってもよい。有機材料のLUMOエネルギー準位は一般にその材料の電子親和力により特徴付けることができ、カソードの相対的電子注入効率は一般にカソード材料の仕事関数によって特徴付けることができる。これは、電子輸送層および隣接するカソードの好ましい特性は、ETL(電子輸送層)の電荷担体成分の電子親和力とカソード材料の仕事関数とによって特定できることを意味する。特に、高い電子注入効率を達成するためには、カソード材料の仕事関数は、電子輸送層の電荷担体成分の電子親和力より、好ましくは約0.75eVを超えては大きくなく、より好ましくは約0.5eVを超えては大きくない。同様の考慮は、電子が注入される如何なる層にも適用される。
【0031】
カソード160は、カソード160が電子を伝導し、デバイス100の有機層に電子を注入できるような、当技術分野で知られている如何なる適切な材料または材料の組合せであってもよい。カソード160は透明または不透明であってよく、また反射性であってよい。金属および金属酸化物は適切なカソード材料の例である。カソード160は単層であっても、あるいは複合構造を有していてもよい。図1は、薄い金属層162と、より厚い導電性金属酸化物層164とを有する複合カソード160を示している。複合カソードにおいて、より厚い層164のための好ましい材料には、ITO、IZO、および当技術分野において知られているその他の材料が含まれる。米国特許第5,703,436号、米国特許第5,707,745号、米国特許第6,548,956号B2、および米国特許第6,576,134号B2(これらは全体を参照により援用する)は、スパッタリングにより堆積させた透明で導電性のITO層が上に重なったMg:Agなどの薄い金属層を有する複合カソードを含む、カソードの例を開示している。下にある有機層と接触しているカソード160の部分は、それが単層カソード160、複合カソードの薄い金属層162、または何らかのその他の部分であるかどうかにかかわらず、約4eVより小さい仕事関数を有する材料(「低仕事関数材料」)から作られていることが好ましい。その他のカソード材料および構造を用いてもよい。
【0032】
阻止層(blocking layer)は、発光層から出て行く電荷担体(電子もしくはホール)および/または励起子の数を減らすために使用できる。電子阻止層130は、電子が発光層135を離れてホール輸送層125に向かうことを妨害するために、発光層135とホール輸送層125との間に配置できる。同様に、ホール阻止層140は、ホールが発光層135を離れて電子輸送層145に向かうことを妨害するために、発光層135と電子輸送層145との間に配置できる。阻止層はまた、励起子が発光層から拡散して出て行くのを妨害するためにも使用できる。阻止層の理論と使用は、米国特許第6,097,147号およびForrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号(これらは全体を参照により援用する)に、より詳細に記載されている。
【0033】
本明細書で用いており、かつ、当業者により理解されているように、「阻止層」という用語は、この層が、デバイスを通っての電荷担体および/または励起子の輸送を著しく抑制するバリアを提供することを意味するが、この層が電荷担体および/または励起子を必ずしも完全に妨害することは示唆してはいない。デバイス中にこのような阻止層が存在することにより、阻止層のない類似のデバイスと比べて、実質的により高い効率をもたらしうる。また、阻止層は、OLEDの所望の領域に発光を限定するためにも使用できる。
【0034】
一般に、注入層は、一つの層、例えば電極または有機層から、隣接する有機層への電荷担体の注入を向上させうる材料から構成される。注入層は電荷輸送機能も果たしうる。デバイス100において、ホール注入層120は、アノード115からホール輸送層125へのホールの注入を向上させる如何なる層であってもよい。CuPcは、ITOアノード115、および他のアノードからのホール注入層として使用されうる材料の例である。デバイス100において、電子注入層150は、電子輸送層145への電子の注入を向上させる如何なる層であってもよい。LiF/Alは、隣接する層から電子輸送層への電子注入層として用いうる材料の例である。他の材料または材料の組合せを注入層に用いてもよい。特定のデバイス構成に応じて、注入層はデバイス100において示されているものとは異なる位置に配置されてもよい。注入層のより多くの例は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている。ホール注入層は、スピンコートされたポリマー(例えばPEDOT:PSS)などの、溶液によって堆積された材料を含んでいるか、あるいは、それは蒸着された低分子材料(例えば、CuPcまたはMTDATA)であってもよい。
【0035】
ホール注入層(HIL)は、アノードからホール注入材料への効率的なホールの注入をもたらすように、アノード表面を平坦化し、または濡らしうる。ホール注入層はまた、HILの一方の側に隣接するアノード層とHILの反対側のホール輸送層とに都合よく適合するHOMO(最高被占分子軌道)エネルギー準位(本明細書に記載されている相対的イオン化ポテンシャル(IP)エネルギーにより定義されているようなエネルギー準位)を有する電荷担体成分を有することもできる。「電荷担体成分」は、実際にホールを輸送するHOMOエネルギー準位を担う材料である。この成分はHILのベース材料であるか、あるいは、それはドーパントであってもよい。ドープされたHILを用いることにより、ドーパントをその電気的特性で選択でき、ホストをモルホロジー的特性(例えば、濡れ性、柔軟性、靱性など)によって選択できる。HIL材料の好ましい特性は、ホールがアノードからHIL材料に効率的に注入されることができるということである。特に、HILの電荷担体成分は、好ましくは、アノード材料のIPより約0.7eVを超えない範囲で大きいIPを有する。より好ましくは、電荷担体成分は、アノード材料より約0.5eVを超えない範囲で大きいIPを有する。同様の考慮は、ホールが注入される如何なる層にも適用される。HIL材料は、HIL材料が従来のホール輸送材料のホール伝導度よりも実質的に小さいホール伝導度を有しうるという点で、OLEDのホール輸送層に通常使用される従来のホール輸送材料からさらに区別される。本発明のHILの厚さは、アノード層の表面を平坦化し又は濡らすことを助けるために十分に厚くてよい。例えば、10nmほどの薄いHILの厚さでも、非常に滑らかなアノード表面に対しては許容可能でありうる。しかし、アノード表面は非常に粗い傾向があるので、いくつかの場合には最大で50nmまでのHILの厚さが望ましい。
【0036】
保護層は次の製造工程の間、下にある層を保護するために使用できる。例えば、金属または金属酸化物の上部電極(トップ電極)を作製するために用いられる工程は有機層を損傷しうるので、保護層はこのような損傷を減らすか、または無くすために使用されうる。デバイス100において、保護層155は、カソード160の作製中、下にある有機層への損傷を減らすことができる。保護層は、保護層がデバイス100の駆動電圧を著しく増大させないように、それが輸送する担体のタイプ(デバイス100では電子)に対する大きな担体移動度を有することが好ましい。CuPc、BCP、および様々な金属フタロシアニンは、保護層に使用されうる材料の例である。その他の材料または材料の組合せを用いてもよい。好ましくは、保護層155の厚さは、有機保護層155が堆積された後に実施される製造工程によって下にある層への損傷がほとんどまたは全くないように充分に厚いが、デバイス100の駆動電圧を著しく増大させる程には厚くない。保護層155はその導電性を増すためにドープされてもよい。例えば、CuPcまたはBCPの保護層155はLiによってドープされうる。保護層のより詳細な説明は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に見ることができる。
【0037】
図2は倒置型(inverted)OLED200を示している。このデバイスは、基板210、カソード215、発光層220、ホール輸送層225、およびアノード230を含む。デバイス200は記載した層を順に堆積させることによって製造できる。最も一般的なOLEDの構成はアノードの上方に配置されたカソードを有し、デバイス200はアノード230の下方に配置されたカソード215を有するので、デバイス200を「倒置型」OLEDとよぶことができる。デバイス100に関して記載したものと同様の材料を、デバイス200の対応する層に使用できる。図2は、デバイス100の構造からどのようにいくつかの層を省けるかの1つの例を提供している。
【0038】
図1および2に例示されている簡単な層状構造は非限定的な例として与えられており、本発明の実施形態は多様な他の構造と関連して使用できることが理解される。記載されている具体的な材料および構造は事実上例示であり、その他の材料および構造も使用できる。設計、性能、およびコスト要因に基づいて、実用的なOLEDは様々なやり方で上記の記載された様々な層を組み合わせることによって実現でき、あるいは、いくつかの層は完全に省かれうる。具体的に記載されていない他の層を含むこともできる。具体的に記載したもの以外の材料を用いてもよい。本明細書に記載されている例の多くは単一の材料を含むものとして様々な層を記載しているが、材料の組合せ(例えばホストおよびドーパントの混合物、またはより一般的には混合物)を用いてもよいことが理解される。また、層は様々な副層(sublayer)を有してもよい。本明細書において様々な層に与えられている名称は、厳格に限定することを意図するものではない。例えば、デバイス200において、ホール輸送層225はホールを輸送し且つ発光層220にホールを注入するので、ホール輸送層として、あるいはホール注入層として説明されうる。一実施形態において、OLEDは、カソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有するものとして説明できる。この有機層は単一の層を含むか、または、例えば図1および2に関連して記載された様々な有機材料の複数の層をさらに含むことができる。
【0039】
具体的に記載されていない構造および材料、例えばFriendらの米国特許第5,247,190号(これはその全体を参照により援用する)に開示されているようなポリマー材料で構成されるOLED(PLED)、も使用することができる。さらなる例として、単一の有機層を有するOLEDを使用できる。OLEDは、例えば、Forrestらの米国特許第5,707,745号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているように、積ねられてもよい。OLEDの構造は、図1および2に示されている簡単な層状構造から逸脱していてもよい。例えば、基板は、光取出し(out-coupling)を向上させるために、Forrestらの米国特許第6,091,195号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているメサ構造、および/またはBulovicらの米国特許第5,834,893号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているピット構造などの、角度の付いた反射表面を含みうる。
【0040】
特に断らないかぎり、様々な実施形態の層のいずれも、何らかの適切な方法によって堆積されうる。有機層については、好ましい方法には、熱蒸着(thermal evaporation)、インクジェット(例えば、米国特許第6,013,982号および米国特許第6,087,196号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、有機気相成長(organic vapor phase deposition、OVPD)(例えば、Forrestらの米国特許第6,337,102号(その全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびに有機気相ジェットプリンティング(organic vapor jet printing、OVJP)による堆積(例えば、米国特許出願第10/233,470号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている)が含まれる。他の適切な堆積方法には、スピンコーティングおよびその他の溶液に基づく方法が含まれる。溶液に基づく方法は、好ましくは、窒素または不活性雰囲気中で実施される。その他の層については、好ましい方法には熱蒸着が含まれる。好ましいパターニング方法には、マスクを通しての堆積、圧接(cold welding)(例えば、米国特許第6,294,398号および米国特許第6,468,819号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびにインクジェットおよびOVJPなどの堆積方法のいくつかに関連するパターニングが含まれる。その他の方法も用いることができる。堆積される材料は、それらを特定の堆積方法に適合させるために改変されてもよい。例えば、分枝した又は分枝のない、好ましくは少なくとも3個の炭素を含むアルキルおよびアリール基などの置換基が、溶液加工性を高めるために、低分子に用いることができる。非対称構造を有する材料は対称構造を有するものよりも良好な溶液加工性を有しうるが、これは、非対称材料はより小さな再結晶化傾向を有しうるからである。デンドリマー置換基は、低分子が溶液加工を受ける能力を高めるために用いることができる。
【0041】
本明細書に開示した分子は、本発明の範囲から外れることなく多くの様々なやり方で置換できる。例えば、3つの二座配位子を有する化合物に置換基を追加して、その置換基を付加した後で1つ以上の二座配位子を一緒に連結して、例えば、四座又は六座配位子を形成することができる。その他のそのような連結を形成することができる。この種の連結は、当分野で「キレート効果」として一般的に理解されているものによって、連結のない類似の化合物と比較して安定性を高めることができると考えられる。
【0042】
本発明の実施形態により製造されたデバイスは多様な消費者製品に組み込むことができ、これらの製品には、フラットパネルディスプレイ、コンピュータのモニタ、テレビ、広告板、室内もしくは屋外の照明灯および/または信号灯、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明な(fully transparent)ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンタ、電話機、携帯電話、携帯情報端末(personal digital assistant、PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダー、マイクロディスプレイ、乗り物、大面積壁面(large area wall)、映画館またはスタジアムのスクリーン、あるいは標識が含まれる。パッシブマトリクスおよびアクティブマトリクスを含めて、様々な制御機構を用いて、本発明にしたがって製造されたデバイスを制御できる。デバイスの多くは、18℃から30℃、より好ましくは室温(20〜25℃)などの、人にとって快適な温度範囲において使用することが意図されている。
【0043】
「アルキル基」の語は、本明細書で用いるように、アルキル残基をいい、直鎖状及び分枝状アルキル鎖の両方を包含する。いくつかの場合には、本発明において置換基として用いるために適しているアルキル基は、1〜15の炭素原子を含むものであり、これには、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどが含まれる。加えて、このアルキル残基はそれ自体が、1つ以上の置換基で置換されていてもよい。「ヘテロアルキル基」の語は、本明細書で用いるように、ヘテロ原子を含むアルキル残基をいう。いくつかの場合には、本発明において置換基として用いるために適しているヘテロアルキル基は1〜15の炭素原子を含むものである。
【0044】
「アリール」の語は、本明細書で用いるように、アリール残基をいい、単環基並びに多環システムを含めた芳香族環を少なくとも1つ含む構造を包含する。この多環式環は、2つ以上の環を有し、そのうち2つの原子が、2つの隣接する環によって共有されており(この複数環は「縮合」している)、その環のうち少なくとも1つが芳香族である。いくつかの場合には、本発明において置換基として用いるのに適したアリール残基は、1〜3の芳香環を含むものであり、これにはフェニル、ナフチル、ビフェニル、及びフェナントリルが含まれる。
【0045】
「ヘテロアリール基」の語は、本明細書で用いるようにヘテロアリール残基をいい、1〜4つのヘテロ原子を含んでいてよい単環ヘテロ芳香族基を包含する。ヘテロアリール残基の例には、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、及びピリミジンなどを含む。「ヘテロアリール」の語は、2つ以上の環を有し、そのなかの2つの原子が2つの隣接する環に共有されている(これらの環は「縮合」している)多環式ヘテロ芳香族システムであって、その環のうち少なくとも1つがヘテロアリールであるものも含む。
【0046】
一つの側面では、本発明は、ホスト官能基及びドーパント官能基を有する有機金属化合物を提供する。この有機金属化合物は下記式で表されるように発光性コアに連結された1つ以上の分枝を含む。
【0047】
【化2】

【0048】
上記式中、発光性コアは、金属原子とその金属原子に配位した複数の配位子とを含み、各分枝はその複数の配位子の1つに連結されている。発光性コアは、もしそれが別個且つ明確な分子種であったとした場合には、OLEDの発光層中のドーパント材料として働く化合物分子部分を表す。金属は、発光性ドーパントに用いるのに適した様々な金属のいずれかであってよく、それには遷移金属(例えば、イリジウム、白金、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウム、スカンジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、又は銅)が含まれる。ある場合には、イリジウムが好ましく、なぜなら、最も効率的な発光材料のいくつかに用いられるからである。配位子は、発光性ドーパントに用いるのに適した様々な配位子のいずれかであってよく、それには光活性配位子及び補助配位子が含まれる。配位子のそれぞれは、その他の配位子と同じか又は異なっていてよい。
【0049】
本明細書で用いるように、「分枝」の語は、「y」を付した括弧内に含まれるポリフェニレン鎖をいう。変数「y」は1〜「p」の整数値を有し、「p」は金属原子の形式酸化状態である。各変数「x」は独立に、少なくとも2の整数値を有する。各変数「n」は独立に、0以上の整数値を有する。各変数「m」は独立に1以上の整数値を有する。「独立に」とは、各「x」は全ての「y」の場合にわたって独立であり、各「n」は全ての「x」の場合にわたり且つ全ての「y」の場合にわたって独立であり、各「m」は全ての「x」の場合にわたり且つ全ての「y」の場合にわたって独立であることを意味する。
【0050】
各Rはホスト残基を表す。各ホスト残基Rは、全ての「m」の場合にわたり、全ての「x」の場合にわたり、且つ全ての「y」の場合にわたって独立である。本明細書で用いるように、「ホスト残基」の語は、ポリフェニレン鎖上にぶら下がった基(ペンダント基)であって、もしそれが別個に且つ明確な分子種であったとした場合には、発光層中でホスト材料として働くことができるものをいう。様々なホスト残基が本発明に用いるのに適しており、それには、少なくとも2つの環を有するアリール基又は少なくとも2つの環を有するヘテロアリール基、例えば、カルバゾール、トリフェニレン、フェナントレン、フェナントロリン、及びそれらの誘導体が含まれる。
【0051】
いくつかの場合には、各ホスト残基Rは2つ以上、好ましくは3つ以上の環を有する。いくつかの場合には、各ホスト残基Rは3〜6の環を有する。いくつかの場合には、この有機金属化合物中のホスト残基の全てが同じである。
【0052】
例えば、カルバゾール含有ホスト残基を用いることができ、なぜならそれらは高い三重項エネルギーと良好な正孔輸送特性とを有するからである。好適なカルバゾール含有ホスト残基には、以下の群X(及び、そのいずれかの環の任意の位置における、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基での置換を有するそれらの誘導基)が含まれる。
【0053】
群X:
【化3】

【化4】

【0054】
例えば、好適なトリフェニレン含有ホスト残基には、以下の群Y(及び、そのいずれかの環の任意の位置における、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基での置換を有するそれらの誘導基)が含まれる。
【0055】
群Y:
【化5】

【化6】

【0056】
その他の好適なホスト残基には以下の群Z(及び、そのいずれかの環の任意の位置における、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基での置換を有するそれらの誘導基)が含まれる。
【0057】
群Z:
【化7】

【0058】
上記有機金属化合物上のホスト残基の量と種類は、発光性コアに対するホスト残基の分子量比を調節するために変えることができる。理論に拘束される意図なしに、本発明者らは、発光層中において混合ホスト−ドーパントシステムを用いるOLEDの安定性及び/又は性能は、ドーパントの濃度の影響を受けやすいと考えている。高すぎる又は低すぎるドーパント濃度は、OLEDの安定性及び/又は性能を低下させるおそれがある。そのように、いくつかの場合には、発光性コアの分子量は、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計の0〜30%である。いくつかの場合には、発光性コアの分子量は、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計の15%〜100%である。いくつかの場合には、発光性コアの分子量は、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計の15%〜30%である。いくつかの場合には、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計は3400amu以下である。いくつかの場合には、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計は1600amu以上である。いくつかの場合には、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計は1600〜3400amuである。
【0059】
いくつかの場合には、ホスト残基の量は、分枝の長さを選択することによって変わりうる。そのようにして、いくつかの場合には、各変数「x」は独立に、2〜7の範囲である。いくつかの場合には、各分枝中のポリフェニレン鎖は4〜14のフェニル単位を含む。いくつかの場合には、上記有機金属化合物とは別個且つ明確である追加のホスト材料を、有機金属化合物と組み合わせて用いてその発光性コアの濃度をさらに希釈することができる。
【0060】
末端基Rは、この化合物の溶解性を向上させるために作用する。そのようにして、各末端基Rは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基であってよい。いくつかの場合には、末端基Rはホスト残基であってよい。
【0061】
及びRのそれぞれは、それらの各環の任意の位置にある1つ又は複数の独立して選択された置換基を表し、そのそれぞれの置換基は、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から独立に選択される。各Rは、全ての「n」の場合にわたり、全ての「x」の場合にわたり、且つ全ての「y」の場合にわたって独立である。各Rは、全ての「m」の場合にわたり、全ての「x」の場合にわたり、且つ全ての「y」の場合にわたって独立である。
【0062】
各分枝は、ポリフェニレン鎖上のペンダント基(ぶら下がり基)としてホスト残基をもつポリフェニレン鎖を含む。ホスト残基が、共役ポリマー鎖上にぶら下がっている場合は、ホスト残基は相対的に低い三重項エネルギー準位を有し、なぜならその電子エネルギー準位はその鎖に沿った非局在化されたπ結合によって安定化されるからである。しかし、効率的なエレクトロフォスフォレッセンス(電界リン光)を得るためには、ホスト残基の三重項エネルギー準位はリン光ドーパント(すなわち、上記の発光性コア)よりも高くなるべきである。したがって、ホスト残基をもつ分枝を高い三重項エネルギー準位に保つために、上記有機金属化合物を、そのポリフェニレン鎖中のπ共役を制限するか又はなくすように設計できる。これにより、発光性コアからの発光が消光されることが防がれるだろう。π共役を制限することができる一つの方法は、各フェニル単位を、その隣接するフェニル単位とメタ配置で連結することによる。
【0063】
多くのリン光発光層、特に真空熱蒸着によって作られたものは、別個のホスト材料及びドーパント材料を用いて形成される。これらの材料はしばしばあまり溶解性がなく、しばしば異なる溶解度を有しており、これらの層が溶液加工法(例えば、スピンコーティング又はインクジェット印刷)によって堆積される場合には問題を引き起こす。溶媒が蒸発するにしたがって、1つの材料が他方よりも前に沈殿し、その異なる材料の不均一混合及び/又は相分離、あるいは不均一なフィルムをもたらしうる。本発明の有機金属化合物は、単一分子中にホスト及びドーパント官能基を結合させている。それによって、本発明の特定の態様では、不均一混合、相分離、又は堆積時の結晶化の問題が低減される。
【0064】
特定の態様では、有機金属化合物は有機溶媒(例えば、トルエン又はTHF)中に十分に可溶であって、溶液加工法、例えば、スピンキャスティング又はインクジェット印刷による有機金属化合物の堆積を可能にしうる。例えば、上記有機金属化合物は、10mlの有機溶媒中に少なくとも0.01gの溶解度を有しうる。有機金属化合物の溶解性は、様々な方法、例えば、末端基R及び/又はホスト残基Rの数及び種類を選択すること、あるいは各分枝の長さを選択することによって調整できる。
【0065】
各分枝の長さは特定の用途に応じて変わりうる。例えば、各分枝は、有機溶媒中での溶解性を有機金属化合物に付与し;堆積時の結晶化又は相分離を防止し;及び/又は均一なフィルム形成をもたらすために充分長くてもよい。また、短すぎる分枝は、発光性コアの相対濃度を増大させ、過剰な分子内消光性相互作用を起こさせるおそれがある。他方、長すぎる分枝は発光性コアを希釈して、その有機金属化合物がデバイス、例えばOLEDに用いられた場合に低い効率をもたらすおそれがある。いくつかの場合には、各変数「x」は独立に2〜7の範囲である。いくつかの場合には、各分枝のポリフェニレン鎖は4〜14のフェニル単位を含む。
【0066】
特定の例では、発光性コアは下記式:
【化8】

で表される。
【0067】
上記式中、Mは金属原子であり;Lは、Mに配位した複数の配位子のうちの1つ又は複数であり;「p」は金属Mの形式酸化状態であり;変数「q」は1〜「p」の整数を有する。いくつかの場合には、配位子Lはアセチルアセトナート又はアセチルアセトナートの誘導体であってよい。いくつかの場合には、1つ以上の分枝がLに連結しており、これにはLがアセチルアセトナート又はアセチルアセトナートの誘導体の場合も含まれる。
【0068】
構造A及びBは、それぞれ5又は6員芳香環であり、A−Bは、環Aの窒素原子と環Bのsp混成炭素原子とを介してMに配位した、芳香環の結合したペアを表す。環A及び環Bのそれぞれは任意選択でそれぞれR基及びR基で置換されていてもよく、R及びRのそれぞれは、それら各環上に位置する1つ又は複数の独立に選択された置換基を表す。各置換基は縮合しているか又はそれらの各環に連結しており、それぞれの置換基は独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。分枝の1つ以上が、環A、環B、又はその両方と連結されている。いくつかの場合には、1つ以上の分枝がLと連結されている。いくつかの場合には、環Aがキノリン又はイソキノリンであってよい。いくつかの場合には、環Bはフェニルであってよい。いくつかの場合には構造A−Bは以下のものである。
【0069】
【化9】

【0070】
Lo, Shih-Chunら, “The synthesis and properties of iridium cored dendrimers with carbazole dendrons”, Organic Electronics 7:85-98 (2006)は、デンドリマーについて報告しており、そのデンドリマーにおいては、デンドロン(dendron)はカルバゾール単位を含む。一般にデンドリマーの特性として、Lo文献に記載されたデンドリマーは繰り返し分枝構造を有する。
【0071】
デンドリマーとは異なり、本明細書に開示した有機金属化合物は、繰り返し分枝構造をもたない。そのようにして、本明細書に開示された特定の有機金属化合物は、ホスト及びドーパント官能基を結合したデンドリマーに対して1以上の利点を有しうる。デンドリマーは繰り返し分岐構造を有するので、デンドロン分枝上の官能基(例えば、カルバゾール類)は各一連の世代の追加で非線形性が増大する(例えば、非指数関数的に)。このことは、デンドリマー上の官能基の数を制御することを困難にする。本明細書に開示した有機金属化合物は、ポリフェニレン鎖上のペンダント基としてホスト残基を有する。そのようにして、本明細書に開示した特定の有機金属化合物は、ホスト残基の数を線形的に変えることができる(例えば、順次、一度に一つ)構造をもたらし、その化合物上のホスト残基の数に対する正確な制御を可能にする。
【0072】
また、デンドリマーにおいては、デンドロンの各連続する世代をもつ分子の増大する複雑さは、合成における難題を提示する。さらに一つの世代を「成長」させるためには、指数関数的に増加する数の官能基が反応されなければならない。その官能基のいくつかはしばしば反応しないので、得られるデンドリマーは構造的欠陥をもつ可能性があり、あるいは副生成物ができる可能性があり、これは除去することが困難でありうる。
【0073】
本明細書に開示した有機金属化合物は、ポリフェニレン鎖上にペンダント基としてホスト残基を有する。そのようにして、本明細書に開示した特定の有機金属化合物は、ホスト残基のモジュールの交換を可能にする構造をもたらす。これは、所望の電気化学又は電界発光特性について分子を調整することについて、より大きな柔軟性を可能にする。
【0074】
また、デンドリマーにおいては、デンドロン分岐によって作られる立体障害が、発光性コアを電気的に孤立させ、発光性コアによる電荷捕捉及び/又は分子間の電荷移動を阻害することによってデバイス効率を低下させうる。本明細書に開示した特定の有機金属化合物においては、分枝が分子間の消光相互作用から発光性コアを充分に保護しうるが、発光性コアの周りを立体的に過剰に混雑させることがない。
【0075】
また、デンドリマーにおいては、繰り返し分岐構造は、各分岐点において追加の置換の存在を必要とする。これは、分岐点として働く官能基の電気特性に影響を及ぼしうる。本明細書に開示した有機金属化合物においては、ホスト残基における分岐が存在しない。そのようにして、本明細書に開示された特定の有機金属化合物においては、ホスト残基の電気特性は保たれる。
【0076】
Li, Yanqinら,“Multifunctional platinum porphyrin dendrimers as emitters in undoped phosphorescent based light emitting devices”, Applied Physics Letters 89:061125 (2006)は、発光中心としての白金ポルフィリンコアと正孔並びにエネルギー移動フラグメントとしてのカルバゾール側鎖基を組み込んだ白金ポリフィリン系リン光性多官能第一世代デンドリマーについて報告している。そのカルバゾール側鎖基は、エーテル結合(C−O−C)を介してポルフィリンコアに連結されている。本明細書に開示した有機金属化合物では、C−C結合のみがポリフェニレン鎖中に用いられている。理論に拘束されることを意図してはいないが、本発明者らは、C−C結合(特に、アリール炭素とアリール炭素との連結におけるC−C結合、これは炭素とヘテロ原子との結合よりも強い)が、エーテル結合をもつものと比べて、化合物の電気化学的及び電界発光安定性を向上させることができると考えている。
【実施例】
【0077】
本発明の具体的な代表的態様を説明し、それにはどのようにそのような実施形態を作ることができるかを含む。具体的な方法、材料、条件、工程パラメータ、装置などは、本発明の範囲を必ずしも限定しないことが理解される。
【0078】
[化合物の合成例]
化合物A、B、及びC(以下に示す)を合成した。図9は化合物A及びBの合成を示す。図10は化合物Cの合成を示す。
【0079】
【化10】

【0080】
【化11】

【0081】
【化12】

【0082】
[デバイス例]
例示デバイス1〜12を、本発明の化合物を用いて作製した。これらのデバイスは、窒素中でのスピンコーティングと高真空(<10−7Torr)熱蒸着によって作製した。アノード電極は約1200Åのインジウムスズ酸化物(ITO)であり、カソードは10ÅのLiFとそれに続く1000ÅのAlであった。全てのデバイスは、作製後すぐに窒素グローブボックス中(<1ppmのHO及びO)においてエポキシ樹脂で封止したガラス蓋と、そのパッケージ内に組み込んだ吸湿剤とを用いて密封した。
【0083】
デバイス例1では、正孔注入層は、化合物1のシクロヘキサン溶液(0.5質量%)を4000rpmでのスピンコーティングとそれに続く250℃で30分間の熱架橋によって形成した。得られたフィルムの厚さは約130Åだった。正孔輸送層を、化合物2のトルエン溶液(1.0質量%)を4000rpmでのスピンコーティングとそれに続く200℃での30分間の熱架橋によって形成した。得られたフィルムの厚さは約250Åだった。発光層(EML)は、化合物Aのトルエン溶液(1.0質量%)を4000rpmでのスピンコーティングとそれに続く100℃での60分間の加熱によって形成した。得られたフィルムの厚さは約320Åだった。2,3,6,7,10,11-ヘキサフェニルトリフェニレン(HPT)の50Åの層を電子輸送層2(ETL2)として真空熱蒸着によって堆積させ、Alqの500Åの層を電子輸送層1(ETL1)として真空熱蒸着によって堆積させた。
【0084】
デバイス例2は、EMLを2000rpmでスピンコーティングし、得られたフィルムの厚さが約420Åだったことを除いて、デバイス例1と同じ構造を有していた。デバイス例3は、ETL2が100ÅのBAlqであったことを除いてデバイス例1と同じ構造を有していた。デバイス例4は、ETL2が100ÅのBAlqだったことを除いてデバイス例2と同じ構造をもっていた。デバイス例5は、EMLを0.5質量%の溶液をスピンコーティングすることによって形成し且つETL2が100Åの化合物3であったことを除いてデバイス例2と同じ構造をもっていた。デバイス例6は、EMLを4000rpmでスピンコーティングすることによって形成したことを除いてデバイス例5と同じ構造をもっていた。デバイス例7は、EMLを化合物Bのトルエン溶液(0.5%)から2000rpmでスピンコーティングしたことを除いてデバイス例1と同じ構造を有していた。
【0085】
デバイス例8は、EMLを4000rpmでスピンコーティングしたことを除いてデバイス例7と同じ構造を有していた。デバイス例9は、ETL2が100Åの化合物3であることを除いてデバイス例7と同じ構造を有していた。デバイス例10は、ETL2が100Åの化合物3であることを除いてデバイス例8と同じ構造を有していた。
【0086】
デバイス例11は、HILを、化合物1と導電性ドーパントCD1(化合物1の5質量%)の0.25質量%のシクロヘキサン溶液からスピンコーティングし;HTLを2000rpmでスピンコーティングし、EMLを化合物Cのトルエン溶液(0.75%)からスピンコーティングしたことを除いてデバイス例2と同じ構造を有していた。デバイス例12は、EML溶液が0.375質量%の化合物Cと追加のホスト材料として0.375質量%の化合物4を含んでいたことを除いてデバイス例11と同じ構造を有していた。
【0087】
【化13】

【0088】
比較例デバイスは、真空熱蒸着によって全て作った。有機積層は以下の通りだった:ITO表面から、正孔注入層(HIL)としての100Åの厚さの銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層(HTL)としての300Åの4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(α-NPD)、発光層(EML)としての4.5質量%のIr(5-Phppy)3でドープした300ÅのCBP、ETL2としての100ÅのBAlq、及びETL1としての400Åのトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq)。
【0089】
【化14】

【0090】
デバイス特性及び作製のまとめを下の表1a〜1dに示す。表1dは、1000cd/mにおける発光効率、寿命(T0.8、一定の直流電流(DC)の下でその最初の値の80%まで輝度が低下するのに要する時間として定義される)、及びCIE座標(J=10mA/cmでの)も含む。デバイスの電流−電圧−輝度(IVL)を図3〜8に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
CIE座標データは、化合物A〜Cを用いたデバイスの発光色が、比較例のデバイスのものとほぼ同じであることを示している。このことは、化合物A〜Cの発光性コアの電気的特性及び電界発光特性はホスト残基の連結によって影響されなかったことを示している。これは、そのポリフェニレン鎖中のメタ結合を通してのπ共役の欠如によるものでありうる。
【0096】
表1d中のデータは、実施例のデバイスの幾つかについての発光効率は、比較デバイスのものと同じであるか又はそれを超えることも示している。これは、ホスト残基を発光性コアに連結することが、効率的な電荷再結合又は発光性コアからのクエンチ発光(quench emission)を妨げないことを示している。
【0097】
本発明者らは、化合物Aが正孔輸送特性を好ましく有するだろうと考えている。この考えは、デバイス例3及び4が比較的低い効率とわずかにより赤色移動したCIE座標を有するという観察に基づいている。これらの2つのデバイスは、ETL中に弱い正孔阻止材料BAlqを用いており、これは発光層からの正孔の漏れを許容しうる。それと比べて、デバイス例1、2、及び5〜11(これらはETL中に、より強い正孔阻止材料(HPT及び化合物3)を用いている)は、明らかに効率がよい。化合物Aのこの正孔輸送特性に対する一つの可能な説明は、発光成分(すなわち、発光性コア)がその分子の比較的高い質量%(発光成分としてのIr(5-Phppy)3の構造に基づいて22質量%)を構成し、これは最適化されたVTE(真空熱蒸着)デバイス(典型的には4〜12質量%)のものよりも大きいという事実である。したがって、本発明者らは、本発明の特定の化合物(例えば、ホスト残基が、発光性コアと比較してかなり大きな質量パーセント割合からなるもの)はいくらか正孔輸送特性を有し、これが改善されたデバイス性能を付与しうると考えている。
【0098】
組み合わされたホスト−ドーパント機能をもつ多くの分子においては、ホストはドーパントと比較して、より劣った正孔輸送体である。そのような分子においては、ドーパント官能基の量の増加(すなわち、ホストを構成する分子の重量比の低下)は、その発光層の正孔伝導度を増大させる。反対に、ホストを構成する分子の重量比を大きくすることは、その発光層の正孔伝導度を低下させるだろう。そのようにして、その層の正孔伝導度は、具体的なデバイス構造に応じて、この有機金属化合物上のホスト残基及び/又は発光性コアの量及び種類を変えることによって調節することができる。例えば、いくつかの場合には、発光層の正孔伝導度を低下させることは、発光層のカソード側での電荷集結(これはデバイスの効率及び安定性にマイナスの影響を及ぼしうる)を低減させるために望ましい可能性がある。
【0099】
デバイス例1〜11は比較的短い寿命を有するが、本発明者らは、化合物の発光性ドーパントを希釈することによって、デバイス効率に影響することなく、より長い寿命を達成しうると考えている。この考えは、デバイス例12(これは発光層中に追加のホスト材料を用いている)が実施例デバイスの中で最も安定であり、且つ最も効率的な一つであるという観察に基づいている。そのようにして、発光性コアの希釈は、別のホスト材料を添加することによって、又は化合物中のホスト残基の数を増やすことによって達成しうる。有機金属化合物が溶液法によって堆積される場合は、その追加のホスト材料も溶液法によって堆積できる。
【0100】
別の側面では、本発明は、本発明の有機金属化合物を含む有機電子デバイスを提供する。この有機電子デバイスは、アノード、カソード、及びそのアノードとカソードとの間に配置された第一の有機層を含み、その有機層は本発明の有機金属化合物を含む。
【0101】
特定の例では、上記の第一の有機層は、エレクトロルミネッセンス層(電界発光層)である。特定の例では、その第一の有機層は、その有機金属化合物とは別個の明確なホスト材料をさらに含むことができる。特定の例では、第一の有機層は溶液法によって形成される。有機電子デバイスは、有機発光デバイスであってよく、それゆえ、正孔注入層、正孔輸送層、あるいは電子輸送層などのその他の有機層をさらに含んでもよい。
【0102】
なお別の側面では、本発明は、本発明の有機金属化合物を用いて有機電子デバイスを作製する方法を提供する。この方法は、基材上に配置された第一の電極を準備する工程;その第一の電極の上に第一の有機層を形成し、その第一の有機層が本発明の有機金属化合物を含む工程;及び、その第一の有機層の上に配置された第二の電極を形成する工程を含む。
【0103】
特定の例では、第一の有機層は、溶液法によって上記有機金属化合物を堆積させることによって形成される。この有機電子デバイスは、正孔注入層、正孔輸送層、あるいは電子輸送層などのその他の有機層をさらに含んでいてもよい。1つ又は複数のこれらのその他の層(例えば、正孔注入層又は正孔輸送層)は溶液法によって形成されてもよい。
【0104】
本明細書に記載した様々な態様は、例のみのためであり、本発明の範囲を制限することを意図していない。例えば、本明細書に記載した材料及び構造の多くは、本発明の精神から離れることなく別の材料及び構造に置き換えることができる。何故本発明が機能するかについての様々な理論は限定されることを意図するものではないことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される、発光性コアに連結された1つ以上の分枝を含む有機金属化合物。
【化1】

(式中、発光性コアは、金属原子と前記金属原子に配位した複数の配位子とを含み;
各分枝は前記の複数の配位子の1つに連結されており;
変数「y」は1〜3の整数値を有し;
各変数「x」は独立に少なくとも2の整数値を有し;
各変数「n」は独立に0以上の整数値を有し;
各変数「m」は独立に1以上の整数値を有し;
各ホスト残基Rは独立に、少なくとも2つの環を有するアリール基又は少なくとも2つの環を有するヘテロアリール基であり;
各末端基Rは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択され;
及びRのそれぞれは、それらの各環の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換基を表し、前記置換基のそれぞれは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。)
【請求項2】
上記の鎖の中のなかの各フェニル単位が、それに隣り合ったフェニル単位とメタ配置で連結されている、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項3】
前記発光性コアが、下記式:
【化2】

(式中、Mは金属原子であり;
Lは、Mに配位した複数の配位子のうちの1つ又は複数であり;
「p」は前記金属Mの形式酸化状態であり;
変数「q」は1〜「p」の整数値を有し;
A及びBは、それぞれ5又は6員芳香環であり、A−Bは、環Aの窒素原子と環Bのsp混成炭素原子とを介してMに配位した、芳香環の結合したペアを表し;
環A及び環Bのそれぞれは任意選択でそれぞれR基及びR基で置換されていてもよく、R及びRのそれぞれは、それら各環上の任意の位置にある1つ又は複数の独立に選択された置換基を表し、各置換基は縮合しているか又はそれらの各環に連結しており、それぞれの置換基は独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択され;
前記分枝の1つ以上が、環A、環B、又はその両方と連結されている。)
によって表される、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項4】
前記構造A−Bが、
【化3】

である、請求項3に記載の有機金属化合物。
【請求項5】
環Aがキノリン又はイソキノリンであり、環Bがフェニルである、請求項3に記載の有機金属化合物。
【請求項6】
変数「q」が2であり、Lがアセチルアセトナート又はアセチルアセトナートの誘導体である、請求項5に記載の有機金属化合物。
【請求項7】
前記分枝の1つがLに連結している、請求項6に記載の有機金属化合物。
【請求項8】
各Rが独立に3〜6の環を有する、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項9】
各Rが独立に、カルバゾール、トリフェニレン、フェナントレン、フェナントロリン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項10】
各変数「x」が独立に2〜7の範囲である、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項11】
各分枝中のポリフェニレン鎖が4〜14のフェニル単位を含む、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項12】
前記発光性コアの分子量が、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計の15%〜100%である、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項13】
前記発光性コアの分子量が、ホスト残基Rをもつ全ての分枝の分子量の合計の0〜30%である、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項14】
前記有機金属化合物が、10mlの有機溶媒中に少なくとも0.01gの溶解度を有する、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項15】
前記金属原子がイリジウムである、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項16】
前記ホスト残基Rが、下記の群Xから選択されるか、又は前記ホスト残基中のいずれかの環の任意の位置における、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基での置換を有する群Xの誘導基から選択され、群Xが以下の:
【化4】

【化5】

からなる、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項17】
前記ホスト残基Rが、下記の群X、群Y、群Z、又は前記ホスト残基中のいずれかの環の任意の位置における、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基での置換を有する、群X、群Y、群Zの誘導基から選択され、
群Xが以下の:
【化6】

【化7】

からなり、
群Yが以下の:
【化8】

【化9】

からなり、
群Zが以下の:
【化10】

からなる、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項18】
以下の:
【化11】

【化12】

【化13】

からなる群から選択される、請求項1記載の有機金属化合物。
【請求項19】
アノード;
カソード;及び
前記アノードと前記カソードとの間に配置された第一の有機層
を含み、前記第一の有機層が下記式:
【化14】

(式中、発光性コアは、金属原子と前記金属原子に配位した複数の配位子とを含み;
各分枝は前記の複数の配位子の1つに連結されており;
変数「y」は1〜3の整数値を有し;
各変数「x」は独立に少なくとも2の整数値を有し;
各変数「n」は独立に0以上の整数値を有し;
各変数「m」は独立に1以上の整数値を有し;
各ホスト残基Rは独立に、少なくとも2つの環を有するアリール基又は少なくとも2つの環を有するヘテロアリール基であり;
各末端基Rは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択され;
及びRのそれぞれは、それらの各環の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換基を表し、前記置換基のそれぞれは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。)
を有する有機金属化合物を含む、有機電子デバイス。
【請求項20】
前記第一の有機層がエレクトロルミネッセンス層である、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記第一の有機層が、前記有機金属化合物とは別個且つ明確なホスト材料をさらに含む、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記デバイスが有機発光ダイオードである、請求項19に記載のデバイス。
【請求項23】
前記第一の有機層が溶液法によって形成される、請求項19に記載のデバイス。
【請求項24】
前記第一の有機層と前記アノードとの間に配置された第二の有機層をさらに含み、前記第二の有機層が正孔注入材料を含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項25】
前記第二の有機層と前記第一の有機層との間に配置された第三の有機層をさらに含み、前記第三の有機層が正孔輸送材料を含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
前記第一の有機層と前記カソードとの間に配置された第四の有機層をさらに含み、前記第四の有機層が電子輸送材料を含む、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
前記第四の有機層と前記カソードとの間に配置された第五の有機層をさらに含み、前記第五の有機層が電子輸送材料を含む、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
基材上に配置された第一の電極を準備する工程;
前記第一の電極の上に第一の有機層を形成し、前記第一の有機層が有機金属化合物を含む工程;及び、
前記第一の有機層の上に配置された第二の電極を形成する工程を含み、
前記有機金属化合物が下記式:
【化15】

(式中、発光性コアは、金属原子と前記金属原子に配位した複数の配位子とを含み;
各分枝は前記の複数の配位子の1つに連結されており;
変数「y」は1〜3の整数値を有し;
各変数「x」は独立に少なくとも2の整数値を有し;
各変数「n」は独立に0以上の整数値を有し;
各変数「m」は独立に1以上の整数値を有し;
各ホスト残基Rは独立に、少なくとも2つの環を有するアリール基又は少なくとも2つの環を有するヘテロアリール基であり;
各末端基Rは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択され;
及びRのそれぞれは、それらの各環の任意の位置にある1つ以上の独立して選択された置換基を表し、前記置換基のそれぞれは独立に、アルキル基、ヘテロアルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から選択される。)
を有する、有機電子デバイスの製造方法。
【請求項29】
前記第一の有機層を形成する工程が、前記有機金属化合物を溶液法によって堆積させる工程を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第一の電極の上に第二の有機層を形成させて、前記第二の有機層を前記第一の有機層と前記第一の電極との間に配置することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記第二の有機層を形成する工程が、溶液法によって堆積させる工程を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第二の有機層が正孔注入材料を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記第二の有機層を架橋させる工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記第二の有機層の上に第三の有機層を形成させて、前記第三の有機層を前記第二の有機層と前記第一の有機層との間に配置する工程をさらに含み、前記第三の有機層が正孔輸送材料を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記第三の有機層を形成させる工程が、溶液法によって堆積させる工程を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記第三の有機層を架橋する工程をさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第一の有機層の上に第四の有機層を堆積させる工程をさらに含み、前記第四の有機層は前記第一の有機層と前記カソードとの間に配置され、前記第四の有機層が電子輸送材料を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記第四の有機層が真空熱蒸着によって堆積される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第四の有機層の上に第五の有機層を堆積させる工程をさらに含み、前記第五の有機層は前記第四の有機層と前記カソードとの間に配置され、前記第五の有機層が電子輸送材料を含む、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−526902(P2010−526902A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507385(P2010−507385)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/003979
【国際公開番号】WO2008/140657
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(503055897)ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション (61)
【Fターム(参考)】