説明

ホスフィンオキサイド系化合物、有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法およびその用途

【課題】有機EL素子における電子輸送性の層を形成するのに適し、蒸着速度が安定した新規な化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


〔式(1)において、R1は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Arは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホスフィンオキサイド系化合物に関し、より詳細には、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」ともいう。)素子に用いられる電子輸送性材料として適したホスフィンオキサイド系化合物、このホスフィンオキサイド系化合物を用いた有機EL素子、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子の材料開発、素子構造の改良等が活発に行われているが、発光効率や電力効率の更なる向上が必要不可欠である。有機EL素子は数nm〜数10nm程度の薄膜の積層構造からなり、各々の層は機能ごとにホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層などと呼ばれる。
【0003】
各層の膜厚は素子のキャリア移動に大きくかかわり、薄くなればキャリアは層を早く通過し、厚くなれば遅く通過する。よって膜厚が変わると素子のキャリアバランスが変わり発光位置が変わることから、有機EL素子の効率や寿命、色度などが変化する。このことから、素子製造において膜厚の制御は非常に重要となる。
【0004】
各層の製膜方法としては真空蒸着法などのドライプロセスと、インクジェット法やスピンコート法などのウェットプロセスが知られている。有機EL素子は水分に弱いとされ、現状では溶媒を用いるウェットプロセスよりも用いないドライプロセスの方が発光効率のよい有機EL素子が得られていることから、真空蒸着法を用いたプロセス開発が盛んに行われている。この中で膜厚を制御するために蒸着速度が一定となる蒸着装置の開発が盛んに行われてきた(特開2009−174027号公報)が、一方で蒸着速度が一定な安定した化合物の開発も盛んに行われてきた。
【0005】
一般に有機EL素子は陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極の順に形成されることが多く、電子輸送層は製造の終わりに近い段階で製膜される。この層の成膜性が不安定であると素子の歩留まりが大きく低下することから、一定の蒸着速度で安定して蒸着されてホールブロック層、電子輸送層、電子注入層などの電子輸送性の層を形成することのできる材料の開発が重要である。
【0006】
これらの層の材料としてはフェナントロリン化合物、アルミニウムキノリノール錯体化合物、イミダゾール化合物などが一般的に用いられてきた。また、近年はホスフィンオキサイド系化合物(非特許文献1)の開発も進められているが、その蒸着安定性は十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem. Mater., 22, 5678(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蒸着速度が不安定な化合物からは一定の厚みの膜を安定して製造することが難しく、有機EL素子の層形成にこのような化合物を用いることは、有機EL素子の歩留まり低下の原因となっていた。
【0009】
このような従来技術における問題点に鑑みてなされた本発明は、有機EL素子における電子輸送性の層を形成するのに適し、蒸着速度が安定した新規な化合物を提供することを目的としている。さらに本発明は、一定の厚さの電子輸送性の層を有する有機EL素子を安定して提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のホスフィンオキサイド系化合物が蒸着速度の点で安定していることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、たとえば以下の[1]〜[8]に関する。
【0011】
[1]
下記式(1)で表される化合物。
【0012】
【化1】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【0013】
[2]
前記Arがすべてフェニル基であることを特徴とする上記[1]に記載の化合物。
[3]
前記R1がすべて水素原子であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の化合物。
【0014】
[4]
陽極、発光層、ホスフィンオキサイド含有層および陰極がこの順序で積層されてなり、該ホスフィンオキサイド含有層が下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
【化2】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【0016】
[5]
前記陽極と前記発光層との間に、前記陽極に隣接する陽極バッファ層を備えることを特徴とする上記[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
[6]
陽極上に形成された発光層の上に、下記式(1)で表される化合物を蒸着させることによりホスフィンオキサイド含有層を形成する工程、および該ホスフィンオキサイド含有層上に陰極を形成する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
【化3】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【0019】
[7]
上記[4]または[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【0020】
[8]
上記[4]または[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特
徴とする光照射装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホスフィンオキサイド系化合物は、有機EL素子の有機化合物層に用いられる従来の電子輸送性材料よりも蒸着速度が安定しているため、電子輸送性の層の材料として本発明のホスフィンオキサイド系化合物を用いると、一定膜厚の膜を安定して作製することができる。
【0022】
また、本発明のホスフィンオキサイド系化合物から形成される層を有する本発明の有機EL素子は電力効率に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係る有機EL素子の一例の断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る有機EL素子の一例の断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る有機EL素子の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<1.素子構成>
本発明の有機EL素子は、陽極、発光層、ホスフィンオキサイド含有層および陰極がこの順序で積層されてなる。
【0025】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、陽極上に形成された発光層の上に、ホスフィンオキサイド含有層を形成する工程、および該ホスフィンオキサイド含有層上に陰極を形成する工程を含んでいる。なお本発明においては、陽極から陰極に向かう方向を「上」と称す。
【0026】
本発明の有機EL素子は、前記の層以外にも、陽極バッファ層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層または陰極バッファ層を有していてもよい。なお、正孔ブロック層は発光層のホスフィンオキサイド含有層側に隣接する。また電子輸送層は、ホスフィンオキサイド含有層の発光層側もしくは陰極側または両側に隣接する。
【0027】
前記の各層は、1層であってもよく、2種以上の層から構成されていてもよい。
図1は、本発明の有機EL素子構成の一例を示す断面図であり、透明基板1上に設けた陽極2と陰極5の間に発光層3およびホスフィンオキサイド含有層4を順次設けたものである。図2に示すように、透明基板1は、陰極5に接するように設けてもよい。
【0028】
本発明の有機EL素子の構成は図1の例((1)陽極/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極)に限定されず、たとえば以下のような構成が挙げられる。
(2)陽極/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
(3)陽極/陽極バッファ層/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
(4)陽極/陽極バッファ層/発光層/正孔ブロック層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
(5)陽極/陽極バッファ層/発光層/電子輸送層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
(6)陽極/陽極バッファ層/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/電子輸送層/陰極バッファ層/陰極
(7)陽極/陽極バッファ層/正孔輸送層/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
(8)陽極/陽極バッファ層/電子ブロック層/発光層/ホスフィンオキサイド含有層/陰極バッファ層/陰極
図1に示した発光層3は1層であるが、発光層3は2層以上の層から構成されていてもよい。
【0029】
また、本発明のもう1つの有機EL素子は、図3に示すように、基板1と、貫通孔もしくは貫通溝7を有する、陽極2および誘電体層6と、発光層3と、ホスフィンオキサイド含有層4と、陰極5とがこの順序で積層されてなり、発光層3が貫通孔もしくは貫通溝7を通じて基板1に接する有機EL素子である。このように構成された有機EL素子によれば、光取り出し効率が向上し、発光効率が一層高まる。
【0030】
この誘電体層6の形成材料としては、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;酸化ケイ素(二酸化ケイ素)、酸化アルミニウム等の金属酸化物などが挙げられ、誘電体層6の厚さは10nm〜500nm程度である。また、貫通孔および貫通溝の幅は、貫通孔または貫通溝の端部から他の端部への短軸側の距離(最短距離)で表され、10μm以下であり、隣り合う貫通孔または貫通溝同士の短軸側の距離(最短距離)も10μm以下である。
【0031】
なお、本発明においては、電子輸送性化合物、正孔輸送性化合物、発光性化合物、およびこれらの全てまたは1種類以上からなる化合物層を、それぞれ「有機EL化合物」、「有機EL化合物層」ともいう。
【0032】
<2.陽極>
前記陽極としては、−5〜80℃の温度範囲で面抵抗が好ましくは1000オーム/□以下、より好ましくは100オーム/□以下である物質を用いることができる。
【0033】
有機EL素子の陽極側から光を取り出す場合には、陽極は可視光に対して透明(380〜680nmの光に対する平均透過率が50%以上)であることが必要であるから、陽極の材料としては、酸化インジウム錫(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などが挙げられ、有機EL素子の陽極として入手が容易であることを考慮すると、これらの中でもITOが好ましい。
【0034】
また、有機EL素子の陰極側から光を取り出す場合には、陽極の光透過度は制限されず、陽極の材料としては、ITO、IZO、ステンレス、あるいは銅、銀、金、白金、タングステン、チタン、タンタルもしくはニオブの単体、またはこれらの合金を使用できる。
【0035】
陽極の厚さは、陽極側から光を取り出す場合には、高い光透過率を実現するために、好ましくは2〜300nmであり、陰極側から光を取り出す場合には、好ましくは2nm〜2mmである。
【0036】
<3.陽極バッファ層>
本発明の有機EL素子は、好ましくは、陽極に隣接する陽極バッファ層を有する。
陽極バッファ層を設けることにより、ホスフィンオキサイド含有層で促進された電子の移動と、陽極から注入された正孔の移動とのバランスが整えられ、本発明の有機EL素子の耐久性をより向上させることができる。
【0037】
陽極バッファ層は抵抗加熱蒸着法や高周波プラズマ処理などのドライプロセスで作製することができ、特に有機物ガスにグロー放電を当てることによって有機物ガスを固層上に固体として析出させる高周波プラズマ処理により作製することが、密着性に優れ、耐久性の高い陽極バッファ層が得られることから好ましい。
【0038】
前記高周波プラズマ処理による成膜で用いられる化合物は、陽極表面およびその上の有機EL化合物層に良好な付着性を有した陽極バッファ層を形成し得る化合物であれば特に制限はない。後述する有機EL化合物層を塗布法によって作製する場合には、CF4、C38、C410、CHF3、C24およびC48などの気体状のフルオロカーボンを高周波プラズマ処理して得られるフルオロカーボン膜を陽極バッファ層として形成すると、前記フルオロカーボン膜上に有機EL化合物層を安定に成膜することができる。
【0039】
また、陽極バッファ層をウェットプロセスにて、すなわち陽極バッファ層形成材料を陽極に塗布して作製してもよい。
この場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜することが出来る。
【0040】
前記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる有機EL化合物に良好な付着性を有した陽極バッファ層を形成し得る化合物であればよく、たとえば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT−PSS、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。
【0041】
また正孔輸送性高分子化合物と、電荷移動錯体を形成し得る電子受容性化合物とを含む組成物を陽極バッファ層の材料として用いることも好ましい。前記正孔輸送性高分子化合物としては、下記一般式(E−1)〜(E−9)で表される化合物などの正孔輸送性の重合性化合物を重合させたものが挙げられる。
【0042】
【化4】

前記電荷移動錯体を形成し得る電子受容性化合物としては、たとえば、N,N'−ジシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−キノンジイミン(F4DCNQI)、N,N'−ジシアノ−2,5−ジクロロ−1,4−キノンジイミン(C12DCNQI)、N,N'−ジシアノ−2,5−ジクロロ−3,6−ジフルオロ−1,4−キノンジイミン(C12F2DCNQI)、N,N'−ジシアノ−2,3,5,6,7,8−ヘキサフルオロ−1,4−ナフトキノンジイミン(F6DCNNOI)、1,4,5,8−テトラヒドロ−1,4,5,8−テトラチア−2,3,6,7−テトラシアノアントラキノン(CN4TTAQ)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、2,5−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2,5−ジフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、ビス(テトラブチルアンモニウム)テトラシアノジフェノキノジメタニド、2,5−ジメチル−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、11,11,12,12−テトラシアノナフト−2,6−キノジメタンなどが挙げられる。
【0043】
これらの中でも、有機溶剤(たとえば、トルエン)への溶解性が高く、均一性の高い陽極バッファ層を形成できる点で、TCNQ、F4TCNQが好ましい。
陽極バッファ層をウェットプロセスにて作製する場合には、前記導電性ポリマーまたは前記組成物に、トルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加してもよい。また、界面活性剤などの第三成分を、前記導電性ポリマーまたは前記組成物に添加してもよい。前記界面活性剤としては、たとえばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、および第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0044】
陽極バッファ層の厚さは、バッファ層としての効果を十分に発揮させ、また有機EL素子の駆動電圧の上昇を防ぐ観点から、好ましくは5〜50nm、さらに好ましくは10〜30nmである。
【0045】
<4.有機EL化合物層>
本発明の有機EL素子における有機EL化合物層、すなわち発光層、正孔輸送層、及び電子輸送層に使用する化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物のいずれをも使用することができる。
【0046】
本発明の有機EL素子の発光層を形成するための有機EL化合物としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている発光性低分子化合物及び発光性高分子化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化されるという点で発光性高分子化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光性化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物が好ましい。
【0047】
また、発光性高分子化合物は、共役発光性高分子化合物と非共役発光性高分子化合物とに分類することもできるが、中でも非共役発光性高分子化合物が好ましい。
上記の理由から、本発明で用いられる発光材料としては、燐光発光性非共役高分子化合物(前記燐光発光性高分子であり、かつ前記非共役発光性高分子化合物でもある発光材料)が特に好ましい。
【0048】
本発明の有機EL素子における発光層は、好ましくは、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子を少なくとも含む。前記燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0049】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325号公報、特開2003−119179号公報、特開2003−206320号公報、特開2003−147021号公報、特開2003−171391号公報、特開2004−346312号公報、特開2005−97589号公報に開示されている。
【0050】
本発明によれば、発光材料として、従来、高耐久性および高発光効率の両立が困難であった、青色燐光発光性化合物を用いた有機EL素子であっても、高耐久性および高発光効率が実現される。
【0051】
ここで青色燐光発光性化合物とは、前記燐光発光性化合物のうち最大発光波長が380nm以上500nm以下である化合物を言い、好ましくは下記式(e1)〜(e4)で表される部分構造を有する化合物である。
【0052】
燐光発光性化合物の最大発光波長は、光路長を1cmとした場合の、波長350nmの単色光の吸光度が0.1となるように調製した燐光発光性化合物のジクロロメタン溶液中、25℃において、波長350nmの単色光で励起して得られる発光スペクトル中、最大の発光強度を示す波長である。
【0053】
【化5】

本発明の方法により製造される有機EL素子における発光層は、好ましくは前記燐光発光性化合物を含む層であるが、発光層のキャリア輸送性を補う目的で正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が含まれていてもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送性化合物としては、例えば、TPD(N,N'−ジメチル−N,N'−(3−メチルフェニル)−1,1'−ビフェニル−4,4'ジアミン)、α−NPD(4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4',4''−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体や、ポリビニルカルバゾール、前記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどが挙げられ、また、電子輸送性化合物としては、例えば、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(III))などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体などの低分子材料や、上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送性化合物が使用できる。
【0054】
(有機EL化合物層の形成方法)
上記の有機EL化合物層は、有機EL化合物が発光性高分子化合物である場合には、主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法により形成することができる。
一方、有機EL化合物が発光性低分子化合物の場合には、主として抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法により有機EL化合物層を形成することができる。
【0055】
<5.正孔ブロック層>
正孔が発光層を通過することを抑え、正孔を発光層内で電子と効率よく再結合させる目的で、発光層とホスフィンオキサイド含有層との間に、発光層に隣接して正孔ブロック層を設けてもよい。この正孔ブロック層には発光性化合物より最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位の深い化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0056】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には発光性化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0057】
<6.ホスフィンオキサイド含有層>
(ホスフィンオキサイド含有層)
ホスフィンオキサイド含有層は下記式(1)で表されるホスフィンオキサイド系化合物(以下「特定のホスフィンオキサイド系化合物」ともいう。)を含む。
【0058】
【化6】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、
複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【0059】
前記R1としては、炭素数1〜4のアルキル基または水素原子が好ましく、メチル基、エチル基および水素原子が特に好ましい。
前記Arが表す1価の芳香族基としては、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数2〜20の複素環式芳香族基が挙げられ、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基が好ましい。
【0060】
前記の置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基としては、下記式(a)〜(n)で表される基が挙げられ、式(a)で表される基が特に好ましい。
【0061】
【化7】

式(a)〜(n)において、R2〜R15は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、R16はメチル基またはエチル基を表す。複数個あるR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R3〜R15に関しても同様である。前記R2〜R15としては、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基または水素原子が好ましく、メチル基、エチル基および水素原子がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0062】
また、前記の置換または非置換の炭素数2〜20の複素環式芳香族基としては、下記式(o)〜(x)で表される基が挙げられる。
【0063】
【化8】

式(o)〜(x)において、R17〜R29は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基または水素原子を表す。複数個あるR17は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、R18〜R29に関しても同様である。前記R17〜R29としては、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基または水素原子が好ましく、メチル基、エチル基および水素原子が特に好ましい。
【0064】
前記ホスフィンオキサイド系化合物としては、下記式(2)で表わされる化合物が好ましく、
【0065】
【化9】

〔R1およびArは前記同様である。〕
下記式(a)または(b)で表わされる化合物がより好ましく、式(a)で表わされる化合物がさらに好ましい。
【0066】
【化10】

【0067】
<ホスフィンオキサイド系化合物の製造方法>
本発明のホスフィンオキサイド系化合物の製造方法は特に限定されないが、本発明のホスフィンオキサイド系化合物は、たとえば以下の方法により製造できる。
【0068】
【化11】

(式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Arは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Xは塩素、臭素またはヨウ素である。)
【0069】
(i)化合物(1−1)の合成;
まず、上記式(1−2)で表わされるベンズアルデヒド誘導体、上記式(1−3)で表わされるアセトフェノン誘導体、酢酸アンモニウムおよび酢酸を、145〜155℃で2〜5時間加熱し、反応生成物を精製することにより上記式(1−1)で表わされる化合物(1−1)を得る。加熱は、好ましくは原料をナスフラスコなどの容器に入れて撹拌しながら行う。
【0070】
(ii)ホスフィンオキサイド系化合物の合成;
化合物(1−1)を脱水THFに溶解させ、得られた溶液を−60℃以下に冷却する。前記溶液に、n−ブチルリチウム(BuLi)などのアルキルリチウム(ヘキサン溶液)を滴下し、−60℃以下で攪拌を行い、次いでジアリールホスフィン誘導体を滴下し、徐々に(たとえば、昇温速度が0.5〜2.0℃/分)室温までの昇温を行い、室温での攪拌を行った後、過酸化水素水を加え、室温で攪拌を行う。反応生成物を精製し、上記式(1)で表わされる本発明のホスフィンオキサイド系化合物を得る。
ホスフィンオキサイド含有層の厚さは、0.5〜100nm程度、好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは5〜25nmである。
【0071】
(ホスフィンオキサイド含有層の形成方法)
ホスフィンオキサイド含有層は、発光層の、陽極側とは反対側の表面に、前記特定のホスフィンオキサイド系化合物を蒸着させることにより形成できる。
蒸着の条件は、特定のホスフィンオキサイド系化合物の種類によっても異なるので一概には言えないが、目安としては以下のとおりである。
【0072】
加熱方法;
抵抗加熱法、電子ビーム法などが挙げられる。
加熱温度(蒸着温度);
50〜480℃程度、好ましくは100〜400℃である。
基板温度;
−50〜300℃程度、好ましくは20〜200℃である。また、基板を加熱しないことが好ましい。
【0073】
圧力;
1.0×10-7〜1.0×10-4Pa程度であり、好ましくは1.0×10-6〜1.0×10-5Paである。
【0074】
蒸着速度;
ホスフィンオキサイド系化合物の蒸着速度は、0.01〜500Å/s程度、好ましくは0.05〜10Å/sである。
【0075】
<7.陰極バッファ層>
陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファ層として、陰極より仕事関数の低い金属層を、陰極と隣接して設けることが好ましい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金またはNaF、MgF2、MgOなどの金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファ層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファ層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜10nmがより一層好ましい。
【0076】
さらに、陰極バッファ層は、前記の低仕事関数の物質と電子輸送性化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送性化合物としては前述の電子輸送層に用いられる有機化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの既述の成膜方法を用いることができる。この場合の陰極バッファ層の厚さは0.1〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい。陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0077】
<8.陰極>
本発明の有機EL光素子の陰極材料としては、陽極側から光を取り出す場合には、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属またはアルカリ土類金属との合金などの既知の陰極材料を例示することができる。陰極の化学的安定性を考慮すると、その仕事関数は2.9eV以下であることが好ましい。これらの陰極材料の成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0078】
また陰極側から光を取り出す場合には、陰極は可視光に対して透明(380〜680nmの光に対する平均透過率が50%以上)であることが必要であるから、陰極の材料としては、酸化インジウム錫(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)などが挙げられ、有機EL素子の陽極として入手が容易であることを考慮すると、これらの中でもITOが好ましい。
【0079】
<9.封止>
陰極作製後、該有機EL素子を保護する保護層を装着していてもよい。該有機EL素子を長期安定的に用いるためには、素子を外部から保護するために、保護層および/または保護カバーを装着することが好ましい。該保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などを用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを用いることができ、該カバーを熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。スペーサーを用いて空間を維持すれば、素子がキズつくのを防ぐことが容易である。該空間に窒素やアルゴンのような不活性なガスを封入すれば、陰極の酸化を防止することができ、さらに酸化バリウム等の乾燥剤を該空間内に設置することにより製造工程で吸着した水分が素子にタメージを与えるのを抑制することが容易となる。これらのうち、いずれか1つ以上の方策をとることが好ましい。
【0080】
<10.基板>
本発明に係る有機EL素子の基板には、有機EL素子に要求される機械的強度を満たす材料が用いられる。
【0081】
ボトムエミッション型の有機EL素子には、可視光に対して透明な基板が用いられ、具体的には、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂などの透明プラスチック;シリコンなどからなる基板を使用できる。
【0082】
トップエミッション型の有機EL素子においては、基板の光透過度に制限はなく、ボトムエミッション型の有機EL素子に用いられる基板に加えて、銅、銀、金、白金、タングステン、チタン、タンタルもしくはニオブの単体、またはこれらの合金、あるいはステンレスなどからなる基板を使用できる。
基板の厚さは、要求される機械的強度にもよるが、好ましくは、0.1〜10mm、より好ましくは0.25〜2mmである。
【0083】
[用途]
本発明の有機EL素子は、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、前記有機EL素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0084】
本発明の有機EL素子は、具体的には、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、標識、看板、ビデオカメラのビューファインダー等における表示装置、バックライト、電子写真、照明、レジスト露光、読み取り装置、インテリア照明、光通信システム等における光照射装置に好適に用いられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下のスキームを参照しながら説明する。
【0086】
【化12】

【0087】
(i)2,4,6−トリス(3−ブロモフェニル)ピリジン(a−1)の合成;
ナスフラスコに、3−ブロモベンズアルデヒド2.57g(13.9mmol)、3−ブロモアセトフェノン5.54g(27.8mmol)、酢酸アンモニウム33.2g(431mmol)、酢酸45mlを入れ、150℃で5時間攪拌し、室温にまで冷却した後、水30ml加え10分間攪拌した。ろ過を行い、得られた黄色固体を酢酸エチルに溶解させた後、溶媒を減圧留去することでオイル状物質を得た。オイル状物質にエタノール30mlを加え、30分間、還流しながら攪拌を行った。室温に戻し、ろ過を行い、残渣をエタノールで洗い白色固体を得た。この白色固体は、1H-NMRおよび質量分析により、2,4,6−トリス(3−ブロモフェニル)ピリジンと同定された。収量(収率)は2.30g(30%)であった。
【0088】
(ii)ホスフィンオキサイド系化合物(a)の合成;
2,4,6−トリ−(3−ブロモフェニル)ピリジン2.0g(3.70mmol)を、脱水THF 20mlに溶解させ、−78℃に冷却した。得られた溶液に、1.6Mのn-BuLiのヘキサン溶液4.8 ml(7.68 mmol)を滴下し、同温で1時間攪拌を行い、さらにクロロジフェニルホスフィン 1.70g(7.70mmol)を滴下し、徐々に室温までの昇温を行い、一晩攪拌を行った。過酸化水素水(30%)を5ml加えた後、室温でさらに1時間攪拌を行った。
【0089】
亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて過酸化水素を還元した後、クロロホルム/食塩水を加え有機相を抽出した。抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、黄色いオイル状物質と白色固体との混合物を得た。この混合物をシリカゲルカラムで精製し、白色固体を得た。この白色固体は、1H−NMRおよび質量分析により、上記式(a)で表わされるホスフィンオキサイド系化合物(a)と同定された。収量(収率)は0.29g(9%)であった。
【0090】
ホスフィンオキサイド系化合物(a)の同定データは以下の通りである。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3) ppm: 8.53(m, 4H), 8.31(m, 2H), 8.15(m, 2H), 7.88(m, 3H), 7.75-7.46(m, 33H)
質量分析(FAB+);908[M+H]
なお、1H-NMRスペクトルは、日本電子(JEOL)製 JNM EX270(270MHz)を用い、溶媒として重クロロホルムを用いて測定することにより得た。質量分析は日本電子(JEOL)製 JMS−SX102Aを用い、マトリクスとしてm−ニトロベンジルアルコールを用いた。
【0091】
[実施例2]
以下のスキームを参照しながら説明する。
【0092】
【化13】

【0093】
(i)2,4,6−トリス(3−ブロモ−4−メチルフェニル)ピリジン(b−1)の合成;
3−ブロモベンズアルデヒドに替えて3−ブロモ−4−メチルベンズアルデヒドを用い、3-ブロモアセトフェノンに替えて3−ブロモ−4−メチルアセトフェノンを用いたこと以外は実施例1における化合物(a―1)の合成方法と同様の方法により、白色固体を得た。この白色固体は、1H-NMRおよび質量分析により、2,4,6−トリス(3−ブロモ−4−メチルフェニル)ピリジンと同定された。収率は20%であった。
【0094】
(ii)ホスフィンオキサイド系化合物(b)の合成;
2,4,6−トリ−(3−ブロモフェニル)ピリジンに替えて2,4,6−トリ−(3−ブロモ−4−メチルフェニル)ピリジンを用いたこと以外は実施例1における化合物(a)の合成方法と同様の方法により、白色固体を得た。この白色固体は、1H−NMRおよび質量分析により、上記式(b)で表わされるホスフィンオキサイド系化合物(b)と同定された。収率は5%であった。
【0095】
ホスフィンオキサイド系化合物(b)の同定データは以下の通りである。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3) ppm: 8.48(m, 4H), 8.22(m, 2H), 8.00(m, 2H), 7.75-7.46(m, 33H), 2.47(s, 9H)
質量分析(FAB+);950[M+H]
【0096】
<分光特性の評価>
日本分光(JASCO)製 蛍光分光光度計FP―6500を用い、ホスフィンオキサイド系化合物(a)、(b)のクロロホルム溶液を測定することにより、ホスフィンオキサイド系化合物(a)、(b)の分光特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例3]
<蒸着膜付き基板の作製>
ITO膜付ガラス基板を、アルカリ洗剤中で30分間超音波をかけて洗浄した。洗浄後の基板上に、陽極バッファ層として、リアクティブイオンエッチング装置(Samco RIE-200iP)を用いてCHF3ガスによる高周波プラズマによりフルオロカーボン膜を形成し、陽極バッファ層付き基板(1)を得た。
【0098】
次に、下記式(15)で表される正孔輸送材料(以下「pEtCz」ともいう。重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)によるポリスチレン換算):100000)、下記式(8)で表される電子輸送材料(以下「Na222Tz」ともいう。)および下記式(10)で表される青色燐光発光性化合物(以下「BG19」ともいう。)を、固形分濃度が3.2質量%になるようにトルエンに溶解し、発光層形成用材料(1)を調製した。pEtCzとNa222Tzとの質量比は2:1であり、青色燐光発光性化合物の割合は、全固形分のうち10質量%であった。
【0099】
【化14】

発光層形成用材料(1)を、陽極バッファ層付き基板(1)上に、回転数3000rpm、塗布時間30秒間の条件でスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下に140℃で1時間放置して発光層を形成し、発光層付き基板(1)を作製した。
【0100】
発光層付き基板(1)を真空蒸着室に投入し、真空蒸着装置で発光層上に化合物(a)を以下の条件で蒸着し、蒸着膜付き基板を作製した。
蒸着条件;
設定膜厚:200Å
蒸着膜形状:3mm×4mmの長方形
セル温度:370℃
基板加熱:なし
圧力:3.0×10-5Pa
蒸着速度:0.05Å/秒、0.1Å/秒、0.5Å/秒、2.0Å/秒、または4.0Å/秒
【0101】
この蒸着膜(ホスフィンオキサイド蒸着膜)付き基板を、蒸着速度ごとに10個ずつ作製し、触針式表面形状測定装置(ULVAC Dektak 6)を用いて各々の蒸着膜の膜厚および膜厚差を計測した。この膜厚とは、蒸着膜の中央部で、直線上を長さ2000μmに渡ってほぼ等間隔で15000箇所膜厚測定した際の測定値の平均値である。得られた膜厚差(すなわち、蒸着速度ごとの、10個の基板の間での最大膜厚と最小膜厚との差)を表2に示す。
【0102】
[実施例4]
化合物(a)を化合物(b)に変えた以外は実施例3と同様の方法で、蒸着膜付き基板を作製し、蒸着膜の膜厚差を計測した。その結果を表2に示す。
【0103】
[比較例1〜5]
化合物(a)をそれぞれ下記式(c)〜(g)で表わされる化合物(c)〜(g)に変えた以外は実施例3と同様の方法で、蒸着膜付き基板を作製し、蒸着膜の膜厚差を計測した。その結果を表2に示す。
【0104】
【化15】

【0105】
[実施例5]
<有機EL素子の作製>
前記発光層付き基板(1)を真空蒸着室に投入し、真空蒸着装置で発光層上に化合物(a)を以下の条件で蒸着し、蒸着膜を形成した。
蒸着条件;
設定膜厚:200Å
セル温度:370℃
基板加熱:なし
圧力:3.0×10-5Pa
蒸着速度:0.1Å/秒
【0106】
蒸着膜上に陰極バッファ層として厚さ50ÅのNaF層を形成し、続いて陰極として厚さ1500ÅのAl層を形成した。
最後に、基板に、基板上に形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、UV硬化型エポキシ樹脂により接着し、紫外線を照射して封止を行い有機EL素子1を作製した。
【0107】
<発光特性評価>
有機EL素子1に定電圧電源電流計(ケイスレーインスツルメンツ(株)製、SM2400)を用いて段階的に電圧を印加し、有機EL素子1の発光強度を輝度計((株)トプコン製、BM−9)で計測した。その結果得られた発光開始電圧、発光効率(100cd/m2点灯時の電流密度に対する発光強度の比)、電力効率(全光束に対する電力の比)を決定した。
【0108】
同様の方法により有機EL素子1をさらに9個作製し、同様の方法で発光特性を評価した。合計10個の有機EL素子1に対する測定値の平均値を表3に示す。なおこの評価結果は、後述する比較例6における測定値を1として規格化した。以下の実施例6、比較例6〜11も同様である。
【0109】
[実施例6]
化合物(a)を化合物(b)に変えた以外は実施例5と同様の方法により、10個の素子(有機EL素子2)を作製した。有機EL素子1と同様に有機EL素子2の発光特性を評価した。結果を表3に示す。
【0110】
[比較例6]
化合物(a)を蒸着しない以外は実施例5と同様の方法により、10個の素子(有機EL素子3)を作製した。有機EL素子1と同様に有機EL素子3の発光特性を評価した。結果を表3に示す。
【0111】
[比較例7〜11]
化合物(a)をそれぞれ化合物(c)〜(g)に変えた以外は実施例5と同様の方法により、有機EL素子4〜8を10個ずつ作製した。有機EL素子1と同様に有機EL素子4〜8の発光特性を評価した。結果を表3に示す。
【0112】
[実施例7]
特開2005−200638号公報([0112])に記載の方法に従い、下記式で表される化合物(以下「viHMTPD」という。)を合成し、これを重合し電荷輸送性ポマー(重量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算)=70000、以下「pHMTPD」ともいう。)を調製した。
【0113】
【化16】

pHMTPD、および電荷移動錯体を形成し得る電子受容性化合物であるF4TCNQを、pHMTPD100質量%に対して5質量%添加し、固形濃度が0.8質量%となるようにトルエンに溶解し、陽極バッファ層形成用材料を調製した。
【0114】
ITO膜付ガラス基板を、アルカリ洗剤中で30分間超音波をかけて洗浄した後、この基板上に、前記陽極バッファ層形成用材料を、回転数3000rpm、塗布時間30秒間の条件でスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気下に210℃で1時間放置し、陽極バッファ層を形成することにより、陽極バッファ層付き基板(2)を得た。
【0115】
陽極バッファ層付き基板(1)に替えて陽極バッファ層付き基板(2)を用いた以外は実施例5と同様の手順により、10個の有機EL素子9を作製した。
有機EL素子9を有機EL素子1と同様に評価した。10個の有機EL素子9に対する測定値の平均値を表4に示す。なおこの評価結果は、後述する比較例12における測定値を1として規格化した。以下の実施例8、比較例12〜17も同様である。
【0116】
[実施例8]
発光層上に化合物(a)に替えて化合物(b)を用いた以外は実施例7と同様の手順により、10個の有機EL素子10を作製した。有機EL素子10の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0117】
[比較例12]
発光層上に化合物(a)を蒸着しない以外は実施例7と同様の手順により10個の有機EL素子11を作製した。有機EL素子11の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0118】
[比較例13〜17]
発光層上に化合物(a)に替えてそれぞれ化合物(c)〜(g)を用いた以外は実施例7と同様の手順により、有機EL素子12〜16を10個ずつ作製した。有機EL素子12〜16の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。評価結果を表4に示す。
【0119】
[実施例9]
化合物(a)の蒸着速度を4.0Å/秒に変えた以外は実施例7と同様の手順により、10個の有機EL素子17を作製した。その蒸着膜の膜厚を実施例5と同様の方法で計測し、有機EL素子17の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。膜厚が最大の素子(17−α)と最小の素子(17−β)の評価結果を表5に表す。
【0120】
[実施例10]
化合物(b)の蒸着速度を4.0Å/秒に変えた以外は実施例8と同様の手順により、10個の有機EL素子18を作製した。その蒸着膜の膜厚を実施例5と同様の方法で計測し、有機EL素子18の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。膜厚が最大の素子(18−α)と最小の素子(18−β)の評価結果を表5に表す。
【0121】
[比較例18〜22]
化合物(a)に替えてそれぞれ化合物(c)〜(g)を用いた以外は実施例9と同様の手順により、有機EL素子19〜23を10個作製した。その蒸着膜の膜厚を実施例5と同様の方法で計測し、有機EL素子19〜23の発光特性を有機EL素子1と同様に評価した。それぞれ膜厚が最大の素子(19−α、20−α、21−α、22−α、23−α)と最小の素子(19−β、20−β、21−β、22−β、23−β)の評価結果を表5に表す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

表2から、実施例3〜4(化合物a〜b)の蒸着膜は、比較例1〜5の蒸着膜と比べて蒸着速度にかかわらず膜厚の差が小さく、蒸着速度を上げても安定して製膜できることが分かる。
【0124】
【表3】

実施例5〜6では、ホスフィンオキサイド系化合物の蒸着膜を形成しなかった比較例6に比べて電圧が低下し、発光効率が上昇し、電力効率が上昇していた。実施例5〜6では、比較例7、8と比べてもこれらの特性の向上の程度が大きかった。
【0125】
【表4】

実施例7〜8では、ホスフィンオキサイド系化合物の蒸着膜を形成しなかった比較例12に比べて電圧が低下し、発光効率が上昇し、電力効率が上昇した。実施例7〜8では、比較例13,14と比べてもこれらの特性の向上の程度が大きかった。
【0126】
【表5】

本発明のホスフィンオキサイド系化合物が用いられた実施例9〜10の有機EL素子は、比較例18〜22の素子と比べて、膜厚差(素子αと素子βとの膜厚差)が小さく、高性能で安定していた。
【符号の説明】
【0127】
1・・・基板
2・・・陽極
3・・・発光層
4・・・ホスフィンオキサイド含有層
5・・・陰極
6・・・誘電体層
7・・・貫通孔もしくは貫通溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項2】
前記Arがすべてフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記R1がすべて水素原子であることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
陽極、発光層、ホスフィンオキサイド含有層および陰極がこの順序で積層されてなり、該ホスフィンオキサイド含有層が下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項5】
前記陽極と前記発光層との間に、前記陽極に隣接する陽極バッファ層を備えることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
陽極上に形成された発光層の上に、下記式(1)で表される化合物を蒸着させることによりホスフィンオキサイド含有層を形成する工程、および該ホスフィンオキサイド含有層上に陰極を形成する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【化3】

〔式(1)において、複数個あるR1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数個あるArは、ヘテロ原子を有していてもよい1価の置換または非置換の芳香族基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項7】
請求項4または5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項8】
請求項4または5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224627(P2012−224627A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88334(P2012−88334)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】