説明

ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレート

【課題】良好な生体適合性を発現するとともにシリコーンモノマーに溶解し、シリコーンソフトコンタクトレンズに適用可能な(メタ)アクリレート系モノマー及びこの重合体を用いたコンタクトレンズを提供する。
【解決手段】式(1)で表されるホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレート及びこれをモノマーとして含む重合体を用いたソフトコンタクトレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性に優れ、医療品、特に、眼用ソフトレンズに利用可能なホスホリルコリン(PC)基含有(メタ)アクリレート及びそれを用いたコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子骨格内にケイ素および重合性官能基を含むシリコーンモノマーを用いたシリコーンソフトコンタクトレンズが、酸素透過性を向上したソフトコンタクトレンズとして広く利用されている。
しかし、このようなシリコーンソフトコンタクトレンズは、シリコーン基による水へのなじみが悪く、汚れやすいという欠点がある。このため、シリコーンレンズ表面を親水化処理して装用感を改善する方法や、レンズ処方中に水溶性ポリマーを入れて表面の親水性を改良する方法が取られている(非特許文献1)。
一方、生体適合性に優れた2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2'−(トリメチルアンモニウム)エチルホスフェート(MPC)(特許文献1)を重合性モノマーとして利用した、親水性と防タンパク汚染性に優れたコンタクトレンズ素材が提案されている(特許文献2、3)。
【0003】
上記シリコーンモノマーを利用したレンズの酸素透過性と、MPCを利用したレンズの装用感の向上性とを併せ持つレンズ素材を開発することができれば、酸素透過性と表面水濡れ性等に非常に優れたソフトコンタクトレンズの製造が可能になる。
しかしながら、PC基を有するMPCは、シリコーンモノマーとの相溶性が悪く、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等に溶解した後、シリコーンモノマーと混合して共重合させると、得られる含水ゲルが白化(相分離)して、レンズ素材としての透明性を得ることが困難である。
そこで、MPCを可溶化する水酸基を有するシリコーンモノマーとの組成物を重合してシリコーンレンズを得る方法(特許文献4)、MPCポリマーにてシリコーンレンズ表面を浸漬処理する方法(特許文献5)が提案されている。
【0004】
また、上記欠点を解決する手段として、シリコーンモノマーに溶解する官能基を有するPC基含有モノマーの使用が考えられる。このような官能基を有するモノマーとしては、例えば、グリセロホスホリルコリン基から誘導される直鎖型のアルキル基を有するベシクル形成用モノマーが知られている(非特許文献2、3)。
しかしながら、上記直鎖型のアルキル基を有するPC基含有モノマーは、シリコーンモノマーとの相溶性が低く、たとえ溶解してもそのアルキル基の自己凝集性のために眼用レンズとして使用可能な透明性が得られ難い。
そこで、シリコーンモノマーに溶解または分散し、重合/含水後に眼用レンズとして使用可能な透明性を示すPC基を有するモノマーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−63025号公報
【特許文献2】特表平6−502200号公報
【特許文献3】特開平5−107511号公報
【特許文献4】特開2007−9060号公報
【特許文献5】特開平5−107512号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐野研二、あたらしい眼科、24(6):723-735(2007)。
【非特許文献2】Macromolecules Vol.27 No.1,P.226−233 (1994)
【非特許文献3】Biomaterials Vol.26 No.17,P.3435−3444 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、PC基を有し、良好な生体適合性を発現するとともにシリコーンモノマーに溶解し、シリコーンソフトコンタクトレンズに適用可能なPC基含有(メタ)アクリレートを提供することにある。
本発明の別の課題は、シリコーンモノマーに基づく優れた酸素透過性が期待でき、表面水濡れ性等の装用性に優れ、更には、眼用レンズとして使用可能な透明性を有するソフトコンタクトレンズ等のコンタクトレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、PC基とともに炭素数7〜17の分岐型アルキル基を有する構造の(メタ)アクリレートを新たに合成し、これらの中で、分岐型アルキル基の構造において、総炭素数に占めるメチル基炭素数の数割合が25%以上のものがシリコーンモノマーに容易に溶解し、かつPC基の機能を有し、さらにはその共重合体が含水時に透明なハイドロゲルを形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、透明とは、眼用レンズに使用可能な透明性を意味し、通常、レンズ形成時に濁り、ムラのあるものを白濁とし、濁りが無く均一なものを透明とした。
【0009】
本発明によれば、式(1)で表されるホスホリルコリン(PC)基含有(メタ)アクリレートが提供される。
【化1】

(式(1)中、Xは式(2)もしくは式(3)で表される基、R1は水素原子もしくはメチル基を表す。)
【化2】

(式(2)及び式(3)中、R2は炭素数7〜17の分岐型アルキル基であって、かつR2中の総炭素数に占めるメチル基炭素数の数割合が25%以上の分岐型アルキル基である。)
また本発明によれば、上記PC基含有(メタ)アクリレート及び眼用シリコーンモノマーを含む単量体組成物を重合させて得たコンタクトレンズが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPC基含有(メタ)アクリレートは、上記式(1)で表され、PC基と特定の分岐型アルキル基を分子内に有するので、シリコーンモノマーに容易に溶解し、かつPC基の機能を有し、さらにはその共重合体が含水時に透明なハイドロゲルを形成することができる。
本発明のコンタクトレンズは、上記本発明のPC基含有(メタ)アクリレート及び眼用シリコーンモノマーを含む単量体組成物を重合させて得られるので、PC基含有(メタ)アクリレートが該眼用シリコーンモノマーに容易に溶解し、共重合により眼用に使用できる程度の透明なコンタクトレンズを得ることができる。特に、優れた酸素透過性及び高い含水率による優れた装用感が両立したソフトコンタクトレンズに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で製造したPC基含有(メタ)アクリレートの1H NMRの測定結果を示すチャートである。
【図2】実施例1で製造したPC基含有(メタ)アクリレートの1H NMRの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のPC基含有(メタ)アクリレートは、上記式(1)で表される、重合性官能基と、ホスホリルコリン基と、特定の分岐型アルキル基を併せ持つ構造を有する。なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートもしくはメタクリレートを意味する。
式(1)において、R1は水素原子もしくはメチル基を表す。また、Xは上記式(2)もしくは式(3)で表される基を示し、式(2)及び式(3)中、R2は炭素数7〜17の分岐型アルキル基、好ましくはPC基の分子量あたりの質量比率が高くなる点から炭素数7〜11の分岐型アルキル基であって、かつR2中の総炭素数に占めるメチル基炭素数の割合が25%以上、好ましくは25〜50%の分岐型アルキル基である。本発明のPC基含有(メタ)アクリレートは、このようなR2を有することにより、シリコーンモノマーに容易に溶解し、かつPC基の機能を発現させることができる。
【0013】
上記式(2)及び式(3)においてR2の特定の分岐アルキル基としては、例えば、式(4)又は式(5)で表される基を挙げることができる。
【化3】

【0014】
上記式(1)で表されるPC基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル)−ヘキサノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(2−エチル)−ヘキサノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2,6−ジメチル)−ヘプタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(2,6−ジメチル)−ヘプタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル−3−メチル)−ペンタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(2−エチル−3−メチル)−ペンタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(4,6−ジメチル)−デカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(4,6−ジメチル)デカノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが挙げられる。本発明の式(1)で表されるPC基含有(メタ)アクリレートの使用にあたっては、上記具体例のモノマーを2種以上混合して用いることができる。
【0015】
本発明のPC基含有(メタ)アクリレートを製造するには、例えば、まず、グリシジル(メタ)アクリレートと特定の分岐型カルボン酸とを、塩基触媒存在下又は酸触媒下で反応させることによって、式(6)もしくは式(7)で表される化合物または式(6)及び式(7)で表される化合物の混合物を得る。
【0016】
【化4】

式(6)及び式(7)中、R1及びR2は、上記式(1)のR1及びR2と同様である。
【0017】
式(6)もしくは式(7)で表される化合物としては、例えば、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル)−ヘキサノイル−sn3−グリセロール、1−(2−エチル)−ヘキサノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−sn3−グリセロール、1−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2,6−ジメチル)−ヘプタノイル−sn3−グリセロール、1−(2,6−ジメチル)−ヘプタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル−3−メチル)−ペンタノイル−sn3−グリセロール、1−(2−エチル−3−メチル)−ペンタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール、1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(4,6−ジメチル)−デカノイル−sn3−グリセロール、1−(4,6−ジメチル)デカノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロールが挙げられる。
【0018】
上記特定の分岐型カルボン酸は、本発明のPC基含有(メタ)アクリレートにおいて、ホスホリルコリン基の特性を得られやすくし、かつシリコーンモノマーに溶解させる為、カルボン酸中の−COOHの炭素を除いた炭素数が7〜17、さらに分岐型アルキル基の構造において、総炭素数に占めるメチル基炭素数の数割合は25%以上のものである。具体的には例えば、2−エチル−ヘキサン酸、5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル−オクタン酸、2,6−ジメチル−ヘプタン酸、2−エチル−3−メチル−ペンタン酸、4,6−ジメチル−デカン酸が挙げられる。
上記塩基触媒としては、例えば、アンモニア、アニリン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ピリジン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基が挙げられる。
上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の無機酸が挙げられる。
【0019】
式(6)もしくは式(7)で表される化合物を製造するためのグリシジル(メタ)アクリレートと分岐型カルボン酸とを反応させる際の仕込みモル比は、1:1〜1:2が好ましい。反応は、例えば、適当な溶媒の存在下、70〜90℃で6〜12時間行うことが好ましい。
反応終了後は、抽出、蒸留、再結晶、再沈殿、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過等の方法により単離・精製することができる。単離・精製後に次反応に供するのが好ましい。
【0020】
本発明のPC基含有(メタ)アクリレートを製造するには、次に、例えば、上記で得られた式(6)及び/又は式(7)で表される化合物を、式(8)で表される2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキソホスホラン(COP)と反応(第一反応)させ、式(9)及び/又は式(10)で表されるジオキサホスホランリン酸エステルを得た後、トリメチルアミンを加え開環付加反応(第二反応)させることにより行うことができる。
【0021】
【化5】

式(9)及び(10)中、R1及びR2は、上記式(1)のR1及びR2と同様である。
【0022】
上記第一反応では、発生する塩化水素をジイソプロピルアミン、トリエチルアミン等のアミンの存在下でトラップするか、不活性化ガスを反応系内に吹き込みながら塩化水素を系外に取り除きながら実施するのが好ましい。
式(6)及び/又は式(7)で表される化合物と、式(8)で表される2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキソホスホラン(COP)との仕込みモル比は、1:1〜1:3が好ましい。
第一反応により得られる式(9)及び/又は式(10)で表されるジオキサホスホランリン酸エステルはそのまま、あるいは単離・精製し、次の第二反応に供することができる。
第二反応において、式(9)及び/又は式(10)で表されるジオキサホスホランリン酸エステルとトリメチルアミンとの仕込みモル比は、1:1〜1:5が好ましい。
第1反応及び第二反応のそれぞれは、例えば、アセトニトリル、酢酸エチル等の適当な溶媒中で、−20℃〜80℃で実施することが好ましい。
反応終了後は、抽出、蒸留、再結晶、再沈殿、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過等の方法により目的のPC基含有(メタ)アクリレートを単離・精製することができる。
【0023】
本発明のコンタクトレンズは、本発明のPC基含有(メタ)アクリレート及び眼用シリコーンモノマーを含む単量体組成物を重合させることにより得ることができる。
該眼用シリコーンモノマーとして、例えばトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、2−(メタクリロイルオキシ)エチル=3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル=スクシナート、(メタ)アクリルポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリルポリメチルシロキサン、メチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレートが好ましく挙げられる。
【0024】
前記単量体組成物には、必要に応じて、親水性の他のモノマーを含有させることもできる。他のモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の含窒素単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
前記単量体組成物には、さらに別のモノマーを含有させることもできる。該別のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
前記単量体組成物において、本発明のPC基含有(メタ)アクリレートの含有割合は、組成物全量基準で、通常5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。PC基含有(メタ)アクリレートの含有割合が、5質量%未満では、PC基に基づく所望の効果が得られ難い。
前記単量体組成物において、眼用シリコーンモノマーの含有割合は、組成物全量基準で、通常30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%である。
前記単量体組成物において、本発明のPC基含有(メタ)アクリレートと、眼用シリコーンモノマーとの仕込み割合は、質量比で、通常1:2〜1:6である。本発明のPC基含有(メタ)アクリレートの仕込み割合が、眼用シリコーンモノマー量の50質量%を超える場合は、眼用シリコーンモノマーに十分に溶解しない恐れがあり、得られるコンタクトレンズが実用的な透明性を確保できない恐れがある。
【0027】
前記単量体組成物において、上記他のモノマーや別のモノマーを用いる場合の含有割合は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜決定することができるが、単量体組成物全量基準で、その合計量が、通常50質量%以下、好ましくは10〜30質量%である。
【0028】
本発明のコンタクトレンズを製造する際の、前記単量体組成物の重合は、例えば、熱重合、光重合、モールド重合等の任意の重合方法を利用して、公知の方法に準じて行うことができる。
本発明のコンタクトレンズの製造においては、任意の条件で滅菌することができ、例えば、コンタクトレンズをパッケージした後に、80℃〜140℃で加熱滅菌することが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例における各種測定は、以下に示す方法により実施した。
1H NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルは、日本電子社製AL400型を用いて測定した。
測定は、溶媒に0.05%TMS含有クロロホルム‐dを用いて、TMSのピーク(0.00ppm)を内部標準とした。
液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)測定は、2695‐Q‐micro(日本ウォータズ社製)でESIイオン化法を用いて測定した。
測定は、アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム水が体積比90/10である混合溶媒を溶離液として、Inertsil ODS‐3V(ジーエルサイエンス社製)をカラムとして使用し、サンプル濃度100ppmで溶離液に溶解して行った。
【0030】
合成例1
1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル)−ヘキサノイル−sn3−グリセロール、1−(2−エチル)−ヘキサノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール混合物の合成
冷却管、温度計および攪拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、グリシジルメタクリレート142.15g、エチルヘキサン酸288.42g、4−メトキシフェノール1.61gおよびトリエチルアミン9.11gを入れ、よく混合した。続いて、加熱し85℃まで上昇した後、7.5時間反応させた。
反応終了後、得られた反応液を常温まで静置冷却した。冷却後、反応液を2倍質量のシクロヘキサンに溶解し、メタノール、飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄した。ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を除去し、淡黄色透明液体を得た。
得られた液体をLC−MSで測定した結果、分子量が286であることから、式(11)および式(12)で表される化合物であることが特定された。また1H NMRで測定した結果、5.2ppm付近のピークから、式(11)と式(12)で表される化合物が約3:1の比で存在する混合物であることがわかった。
【0031】
【化6】

【0032】
実施例1
1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−(2−エチル)−ヘキサノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−(2−エチル)−ヘキサノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン混合物の合成
温度計および攪拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、合成例1で得られた淡黄色透明液体8.59g、ジイソプロピルアミン3.19g、ジメチルアミノピリジン0.043gおよび酢酸エチル7.10gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗に2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン(COP)4.28g、酢酸エチル28.39gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗を1L四つ口フラスコに取り付け、0〜5℃で混合物をゆっくり滴下した。滴下後、0〜5℃で4時間反応させた。反応終了後、得られた反応液中に見られる白色沈殿を孔径5Aの濾紙(Advantec社製)を用いて濾過した。濾過後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を11.83g除去した。
濾液31.50gを耐圧ビンに入れ、続けて、アセトニトリル29.49g、4−メトキシフェノール0.005g、およびトリメチルアミン1.83gを耐圧ビンに入れた。続いて、加熱し75℃まで上昇した後、6時間反応させた。反応終了後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を除去し、黄色粘性液体を得た。
得られた液体をLC−MSで測定した結果、分子量が451であることから、式(13)および式(14)で表される化合物であることが特定された。また31P NMRで測定した結果、式(13)および式(14)で表される化合物を約2:1で含有する混合物であることを確認した。1H NMRを測定した結果を図1及び以下に示す。
【0033】
1H−NMR測定結果(図1参照)
CH2=C−:6.11ppm(1H)、5.58ppm(1H)、−CH3:3.39ppm(9H)、1.93ppm(3H)、0.88〜0.84ppm(6H)、−CH2−、−CH−:4.61ppm〜4.38ppm(1H)、4.23ppm(2H)、4.20ppm(2H)、4.33ppm〜3.82ppm(4H)、2.27ppm(1H)、1.57ppm〜1.45ppm(4H)、1.34ppm〜1.32ppm(4H)。
【0034】
【化7】

【0035】
合成例2
1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−sn−3−グリセロール、1−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn3−グリセロール混合物の合成
冷却管、温度計および攪拌装置を備えた500mL四つ口フラスコにグリシジルメタクリレート71.08g、イソステアリン酸149.35g、4−メトキシフェノール0.81gおよびトリエチルアミン3.04gを入れ、よく混合した。続いて、加熱し85℃まで上昇した後、15時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を常温まで静置冷却し、黄色の反応液を得た。
得られた液体をLC−MSで測定した結果、分子量が426であることから、式(15)および式(16)で表される化合物であることが特定された。また1H NMRで測定した結果、5.2ppm付近のピークから、式(15)と式(16)で表される化合物が約3:1の比で存在する混合物であることがわかった。
【0036】
【化8】

【0037】
実施例2
1−(メタ)アクリロイルオキシ−2−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチル)−ブチル]−オクタノイル−2−(メタ)アクリロイルオキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン混合物の合成
温度計および攪拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、合成例2で得られた黄色液体34.13g、ジイソプロピルアミン8.50g、および酢酸エチル18.92gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗に2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン(COP)11.40g(日油製)、酢酸エチル75.68gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗を1L四つ口フラスコに取り付け、0〜5℃で混合物をゆっくり滴下した。滴下後、0〜5℃で4時間反応させた。反応終了後、得られた反応液中に見られる白色沈殿を孔径5Aの濾紙を用いて濾過した。濾過後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を65.1g除去した。
濾液51.45gを耐圧ビンに入れ、続けて、アセトニトリル26.50g、4−メトキフェノール0.007g、およびトリメチルアミン2.75gを耐圧ビンに入れた。続いて、加熱し75℃まで上昇した後、6時間反応させた。反応終了後、ロータリーバキュームエバポレーターで溶媒を除去し、黄色粘性液体を得た。
得られた液体をLC−MSで測定した結果、分子量が591であることから、式(17)および式(18)で表される化合物であることが特定された。また31P NMRで測定した結果、式(17)および式(18)で表される化合物を約3:2で含有する混合物であることを確認した。1H NMRを測定した結果を図2及び以下に示す。
【0038】
1H−NMR測定結果(図2参照)
CH2=C−:6.11ppm(1H)、5.67ppm(1H)、−CH3:3.41ppm(9H)、1.92ppm(3H)、0.92〜0.88ppm(24H)、−CH2−、−CH−:5.15ppm〜3.75ppm(9H)、2.17〜0.99ppm(11H)。
【0039】
【化9】

【0040】
比較例1
合成例1、実施例1に示すエチルヘキサン酸の代わりに、オクタン酸を用いて同様の方法で直鎖アルキル基(炭素数7)を分子内に持つ化合物を合成した。
【0041】
比較例2
合成例2、実施例2に示すイソステアリン酸の代わりに2−(4−メチルヘキサノイル)−8−メチルデカン酸を用いて同様の方法で分岐アルキル鎖(炭素数17、分岐アルキル中のメチル基の数割合が23.5%)を分子内に持つ化合物を合成した。
【0042】
試験例
シリコーンモノマー(MASS:2−(メタクリロイルオキシ)エチル=3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル=スクシナート)、実施例1および比較例1で調製した化合物、および眼用モノマー(HEMA:ヒドロキシメチルメタクリレート、DMAAm:ジメチルアクリルアミド、Vp:ビニルピロリドン、EDMA:エチレングリコールジメタクリレート)を表1に示すように組合せ、配合液の溶解性、レンズ(フィルム)形成時の透明性を検討した。
【0043】
(溶解性試験)
試験例で配合した溶液を目視にて確認し、沈殿物および濁りのあるものを不溶解、均一で透明なものを溶解とした。
(レンズ形成時の透明性試験)
厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートをスペーサーとして、これをポリプロピレン板2枚と、さらに外側からガラス板2枚で挟みこむことで形成されたセル内に、試験例で配合した溶液を流し込み、窒素置換したオーブンを用いて100℃、2時間加熱することで重合を行った。重合後、硬化したシートをセルから取り出し、エチルアルコールに4時間以上浸漬、その後イオン交換水に12時間以上浸漬、さらに生理食塩水に12時間以上浸漬させることで含水フィルムを作製した。作製した含水フィルムを用いて透明性と含水率を評価した。評価は以下の方法で行った。結果を表1に示す。
(透明性)
含水フィルムを浸漬させておいた生理食塩水から取り出し、これを目視にて確認した。フィルムに濁り、ムラのあるものを白濁とし、濁りが無く均一なものを透明とした。
(含水率)
直径1cmにくり貫いた含水フィルムを用いて評価した。表面についている水分を拭き取った後、125℃のオーブンで2時間加熱し、加熱前後の重量差より含水率を算出した。
【0044】
【表1】

その結果、実施例1及び2で調製した化合物を用いることにより、シリコーンモノマーに溶解し、透明で含水性に優れたレンズを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレート。
【化1】

(式(1)中、Xは式(2)もしくは式(3)で表される基、R1は水素原子もしくはメチル基を表す。)
【化2】

(式(2)及び(3)中、R2は炭素数7〜17の分岐型アルキル基であって、かつR2中の総炭素数に占めるメチル基炭素数の数割合が25%以上の分岐型アルキル基である。)
【請求項2】
式(2)及び式(3)中のR2が式(4)または式(5)で表される基である請求項1記載のホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレート。
【化3】

【請求項3】
請求項1又は2記載のホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレート及び眼用シリコーンモノマーを含む単量体組成物を重合させて得たコンタクトレンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246666(P2011−246666A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123694(P2010−123694)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】