説明

ホタテ貝ヒモを用いた塩辛

【課題】ホタテ貝ヒモの消費量を増大可能とするために、食感と深い味わいを損なうことなく、ご飯のおかずとなる加工食品として、ホタテ貝ヒモを用いた塩辛を提供する。
【解決手段】塩漬け処理したホタテ貝ヒモ10に、切り干し大根11と、調味液12とを混合させる。粉末状唐辛子を混合させることが望ましい。ホタテ貝ヒモは、貝特有の味の癖があるが、形状と食感(咬みごたえ等)が類似する切り干し大根と混合させると、磯臭さが緩和され、ホタテ貝ヒモがもっている濃厚な本来の味わいとコリコリした食感を、印象深く新鮮な食感として需用者に感得させることが可能となる。スナック菓子とは異なり、生のホタテ貝ヒモを用た塩辛であるから、ご飯のおかずとなり、従来製品以上に幅広く需要を増大させることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテ貝ヒモを用いた塩辛(珍味食品)に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝を用いた食品としては、例えば貝柱の薫製が一般に知られているが、ホタテ貝の外套膜(以下単にホタテ貝ヒモという)を用いた珍味食品は、従来、種類も少なく需要も少ない。
【0003】
従来、ホタテ貝ヒモを用いた珍味食品としては、特許文献1に開示されたものが知られている。これは、洗浄したホタテ貝ヒモを短時間煮沸し、温度域150℃〜185℃に加熱した食物油に通して脱水させるものである。
【0004】
この特許文献1に開示された珍味食品よれば、煮沸後に高温の食物油で脱水するため、ホタテ貝ヒモ特有の臭みが軽減され、貝ヒモの組織がハニカム構造類似のもろい構造に変化する。こうして、比較的簡単な処理工程でホタテ貝ヒモを食べ易い加工食品とするものである。
【0005】
ホタテ貝ヒモは、全国で大きな需要があるホタテ貝柱に較べると、製品として消費される量は微々たるものであるところ、この特許文献1の技術によれば、産業廃棄物として捨てられている大量のホタテ貝ヒモを有効利用する点で優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−155142号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
問題は、特許文献1の珍味食品は、ホタテ貝ヒモを高温の食物油で脱水することによって、おやつ菓子的なスナック風の珍味食品とする点にある。
【0008】
いわゆるスナック食品は、市場の需要は多いけれども、競合する製品が非常に多いため、ホタテ貝ヒモを用いたスナック珍味食品をあえて選択する消費者は多くないと考えられる。つまり、市場の需要を大きく伸ばすことについては市場環境や一般消費者の購買動向からみて、困難を伴う。
【0009】
そうであれば、産業廃棄物として捨てられているホタテ貝ヒモを利用した大量消費に導くことは困難である。特許文献1の珍味食品も、産業廃棄物として捨てられているホタテ貝ヒモを利用することによって、珍味食品のバリエーションを豊富にし、産業廃棄物を減らすことを意図したものであるが、市場の需要を伸ばす可能性には限界がある。
【0010】
ホタテ貝ヒモは、磯の香りとほんのりとした貝特有の甘みがあり、つぶ貝のようなコリコリとした歯ざわりがあるため、これを好んで食べるひとも少なくないが、一方で、貝特有の癖(磯臭い生臭さ)があるため、嫌うひとも多い。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ホタテ貝ヒモがもっている自然の良好な食感と深い味わいを損なうことなく、これを、ご飯のおかずとなる加工食品とすることによって、ホタテ貝ヒモの消費量をより増大可能とする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明に係るホタテ貝ヒモを用いた塩辛は、塩漬け処理したホタテ貝ヒモに、切り干し大根と、調味液とを混合させる(請求項1)。ホタテ貝ヒモは、貝特有の味の癖がある。しかしながら、形状と食感(咬みごたえ等)が類似する切り干し大根と混合させると、磯臭さが緩和され、ホタテ貝ヒモがもっている濃厚な本来の味わいとコリコリした食感が、印象深く新鮮な食感として需用者に感得させることが可能となる。
【0013】
食品油を用いたスナック菓子とは異なり、生のホタテ貝ヒモを用た加工食品であるから、ご飯のおかずとなり得るもので、従来製品以上に幅広く需要を増大させることが出来る。
【0014】
ホタテ貝ヒモと切り干し大根は、3:1〜5:1の重量比率で配分する一方、調味液は、少なくとも、重量比で約等量の酒および/またはみりん、ごま油に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニクを配合する場合がある(請求項2)。
【0015】
ホタテ貝ヒモを主とした塩辛であるため、切り干し大根の混合比率は、ホタテ貝ヒモよりもある程度少なくする。調味液には、酒または/およびみりん、ごま油、擂りニンニクを用いることが望ましい。これらは、塩辛としての味を調整するだけでなく、ホタテ貝ヒモの磯臭さを緩和する役目を果たす。
【0016】
ホタテ貝ヒモは、全長の5分の1〜6分の1の長さに切断したものを使用する場合がある(請求項3)。
【0017】
ホタテ貝ヒモは、そのままで食べるにはやや長すぎる。また、イカの塩辛のように、市場に流通している塩辛類は食べやすいように、長さを調整してあることが多い。そこで、市場に流通している塩辛類の食感にあわせ、本発明に係る塩辛も、主原料であるホタテ貝ヒモを適宜の長さに切断し、違和感がないよう配慮することが望ましい。
【0018】
塩漬け処理したホタテ貝ヒモに、切り干し大根と、調味液とを混合させたホタテ貝ヒモを用いた塩辛であって、ホタテ貝ヒモは、全長の5分の1〜6分の1の長さに切断したものを使用してあり、ホタテ貝ヒモと切り干し大根は、3:1〜5:1の重量比率で配分し、調味液は、少なくとも、重量比で約等量の酒とごま油に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニクを配合するとともに、酒とごま油に対して重量比において10〜30%多い粉末状唐辛子を配合する場合がある(請求項4)。
【0019】
この請求項4は、調味液に適当量の粉末状唐辛子を配合するものである。粉末状唐辛子を用いると、ホタテ貝ヒモの磯臭さを消すと同時に、市場需要の大きなキムチ系風味を生み出すことが出来る。近年の食品市場では、辛味が利いた食品に対する需要が大きい。このため、基本的な味である旨みと食感を確保しつつ、これに粉末状唐辛子を加えることによって、食品市場における需要のバリエーションをさらに拡大することが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るホタテ貝ヒモを用いた塩辛によれば、ホタテ貝ヒモがもっている自然の良好な食感と深い味わいを損なうことなく、ご飯のおかずとなる加工食品とすることが出来るので、ホタテ貝ヒモの消費量を増大することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第一の実施形態に係る塩辛の構成を示すブロック図である。
【図2】第二の実施形態に係る塩辛の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るホタテ貝ヒモを用いた塩辛は、図1に示すように、適当な長さに切断したホタテ貝ヒモ10に、切り干し大根11と調味液12とを加えて混合するものである。
【0023】
原料となるホタテ貝ヒモ10は、生のままでは加工しにくく、また食べにくいので、最終製品14を得るための前処理Qを施す。
【0024】
前処理Qは、生のホタテ貝ヒモQ1を一旦冷凍Q2し、これを自然解凍Q3させる。生のホタテ貝ヒモQ1は、層構造になっており一枚一枚を取り外しにくいが、冷凍Q2後の自然解凍Q3中であれば、取り外しQ4が容易となる。
【0025】
取り外しQ4の処理を終えたホタテ貝ヒモQ1は、味の調整のため塩漬けQ5する。塩漬けQ5により、生のホタテ貝ヒモQ1がもつ癖(磯臭い臭み)が軽減できる。また内部に塩を浸透させることで腐敗を防止できる。防腐剤を用いたイカの塩辛のように、魚貝の身自体に味の癖がない場合は塩漬けをする必要はないが、本発明に係るホタテ貝ヒモの塩辛の場合は、塩漬けQ5を施した方が最終製品14における味のバランスや食べやすさを確保しやすい。また防腐剤を用いなくても長期保存が可能となる。塩漬けQ5は、適宜時間、例えば三日間ほど行う。製造工場における処理時間で云えば、例えば38時間〜50時間ほどで良い。
【0026】
塩漬けQ5したホタテ貝ヒモQ1は、水または濃度の薄い塩水にさらす等の適宜の方法で塩抜きQ6する。塩抜きQ6によって、ホタテ貝ヒモQ1の塩分濃度を調整し、食べやすい塩分濃度とする。
【0027】
塩抜きQ6したホタテ貝ヒモQ1は、食べやすい適当な長さに切断Q7する。例えば、生のホタテ貝ヒモQ1を約1/5〜1/6の長さに切断する等である。適当な長さに切断Q7ことによって、大量生産の場合に、切り干し大根11および調味液12との混合処理もしやすくなる。
【0028】
このような前処理Qによって得た、切断したホタテ貝ヒモ10は、塩漬けQ5によって長期保存が可能な処理を施されており、塩抜きQ6によって塩分濃度の調整がされているため、塩辛としてそのまま食べることも出来る。
【0029】
しかしながら、この状態では酒のつまみにはなっても、ご飯のおかずになるような総菜としての味わいに乏しい。そこで、本発明に係るホタテ貝ヒモを用いた塩辛は、切断したホタテ貝ヒモ10に、切り干し大根11と調味液12とを加えて混合する。
【0030】
切り干し大根11は、収穫したダイコンを細切りにし天日干した乾物であるが、食感がホタテ貝ヒモ10に似ているため、切断したホタテ貝ヒモ10と切断した切り干し大根11とを混合すると、コリコリしたホタテ貝ヒモ10とシャキッとした切り干し大根11が、好ましい食感のバランス(歯触り、咬み心地等)を生む。総菜として箸でつかむときのバランス等を考慮して、切り干し大根11の長さは、切断したホタテ貝ヒモ10と略同一にしておくことが望ましい。
【0031】
切り干し大根11は、予め味付けしてあるものではなく、乾物のまま、あるいは乾物の切り干し大根を水にさらして柔軟性をもたせたものを使用して構わない。もちろん、製造コストは嵩むが予め味付けされている切り干し大根を用いても良い。
【0032】
調味液12は、販売する地域の趣向、年齢層、男女性別、味の流行によって適宜調整することが出来る。例えば、塩または/および醤油を用いた塩分調整、酒または/およびみりん、あるいはごま油を用いた味の調整を行うことが出来る。これにより、ご飯のおかずとなる塩辛が出来る。
【0033】
従って、かかるホタテ貝ヒモを用いた塩辛によれば、ホタテ貝ヒモがもっている自然の良好な食感と深い味わいを損なうことなく、ご飯のおかずとなる加工食品とすることが出来る。このため、従来は消費量を伸ばすことが難しかったホタテ貝ヒモの消費量を大幅に拡大させることが可能となる。
【0034】
試作を繰り返したところ、より好ましくは、ホタテ貝ヒモと切り干し大根は、3:1〜5:1の重量比率で配分することが望ましく、調味液は、少なくとも、重量比で約等量の酒および/またはみりん、ごま油に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニクを配合することが望ましいことがわかった。このとき塩分調整として塩または/および醤油を用いることが望ましい。また砂糖を加えると食べやすさが増す。
【0035】
ホタテ貝ヒモと切り干し大根の配合比率を、3:1〜5:1(重量比)とすると、異なる食感をもったホタテ貝ヒモと切り干し大根の歯ごたえのバランスが良くなる。酒、みりん、ごま油、塩(醤油)、砂糖のほかに、調味液の材料として擂りニンニクを用いると、ホタテ貝ヒモの磯臭さを効果的に軽減することが出来る。
【0036】
さらに試作を繰り返したところ、図2に示すように、塩漬け処理して切断したホタテ貝ヒモ10に、切り干し大根11と、調味液12とを混合させたホタテ貝ヒモを用いた塩辛であって、材料となるホタテ貝ヒモ10は、全長の約5分の1〜6分の1の長さに切断したものを使用し、ホタテ貝ヒモ10と切り干し大根11は、3:1〜5:1の重量比率で配分し、調味液12は、少なくとも、重量比で約等量の酒12−5とごま油12−3に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニク12−2を配合したものであって、これに、酒12−5とごま油12−3に対して重量比において10〜30%多い粉末状唐辛子12−7を配合することが、最も望ましいことがわかった。
【0037】
粉末状唐辛子12−7を加えることによって、キムチ風の塩辛食品となるが、唐辛子の作用によってホタテ貝ヒモ10の磯臭さが消え去り、ホタテ貝ヒモ10の独特の食感と濃厚な味わいが却って活きるからである。
【0038】
キムチ風の塩辛食品とする場合は、粉末状唐辛子12−7の辛味に負けない濃厚な味が求められる、このため、好ましくは、塩分や糖分の味わいを深める(強める)ため、味の調整材として、適宜量の塩または/および醤油12−1、砂糖12−6、うま味調味料(化学調味料)12−8、みりん12−4を添加することが望ましい。みりん12−4は、酒(とくに日本酒)に対して60〜80%程度を加えても良い。味のまろやかさが増し、アルコール分がホタテ貝ヒモの生臭さを抑え、食材に味が浸透する助けをする。また最終製品14に艶を出し、加熱したときにの香りも良好となる。
【0039】
うま味調味料12−8は、、うま味の元となる物質(グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸等)を精製したものであれば良い。例えば、著名商品である味の素(登録商標)、ハイミー(登録商標)、いの一番(登録商標)等を使用することが出来る。
【0040】
切り干し大根11は、切断したホタテ貝ヒモ10と略同じ長さに切りそろえておくことが望ましい。切り干し大根11に適当な前処理(いわゆる戻し処理)をしておく。
【0041】
従って、図2に示す塩辛によれば、粉末状唐辛子12−7を用いることでキムチ風の塩辛製品となり、ホタテ貝ヒモ10の濃厚な味わいと特有の食感を活かした新しいタイプの塩辛食品を作り出すことが出来る。辛味の利いた濃厚な味わいの海鮮食品(塩辛)であるから、ご飯のおかずにも好適な総菜となる。
【0042】
この結果、従来、需要を拡大することが難しかった生のホタテ貝ヒモQ1の消費量を拡大し、産業廃棄物を軽減することに資する。
【実施例】
【0043】
図2に示す塩辛を例にとって、具体的な混合量を示す。塩漬け処理して切断したホタテ貝ヒモ10を5Kgとする場合、切り干し大根11は1.2Kgの分量で配合する。調味液12に用いる塩12−1は250g、擂りニンニク12−2は200ml(約200〜250g)、ごま油12−3は400ml(約400〜450g)、みりん12−4は300ml(約300〜350g)、酒12−5は400ml(約400〜450g)、砂糖12−6は250g、粉末状唐辛子12−7(赤唐辛子)は500g、うま味調味料12−8は50gとすると好ましい結果を得る。なお、これらに加えていりごまを50gほど混合させても良い。香りが良好となり、粒々した食感を与える。果物類(カキ、ナシ等)やショウガを適宜量混合させても良い。
【符号の説明】
【0044】
10 (前処理後に切断した)ホタテ貝ヒモ
11 切り干し大根
12 調味液
12−1 塩(または醤油)
12−2 擂りニンニク
12−3 ごま油
12−4 みりん
12−5 酒
12−6 砂糖
12−7 粉末状唐辛子
12−8 うま味調味料
14 最終製品
Q 前処理
Q1 生のホタテ貝ヒモ
Q2 冷凍
Q3 自然解凍
Q4 取り外し
Q5 塩漬け
Q6 塩抜き
Q7 切断

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩漬け処理したホタテ貝ヒモに、切り干し大根と、調味液とを混合させたことを特徴とするホタテ貝ヒモを用いた塩辛。
【請求項2】
ホタテ貝ヒモと切り干し大根は、3:1〜5:1の重量比率で配分する一方、調味液は、少なくとも、重量比で約等量の酒および/またはみりん、ごま油に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニクを配合することを特徴とする請求項1記載のホタテ貝ヒモを用いた塩辛。
【請求項3】
ホタテ貝ヒモは、全長の5分の1〜6分の1の長さに切断したものを使用することを特徴とする請求項1または請求項2記載のホタテ貝ヒモを用いた塩辛。
【請求項4】
塩漬け処理したホタテ貝ヒモに、切り干し大根と、調味液とを混合させたホタテ貝ヒモを用いた塩辛であって、
ホタテ貝ヒモは、全長の5分の1〜6分の1の長さに切断したものを使用してあり、
ホタテ貝ヒモと切り干し大根は、3:1〜5:1の重量比率で配分し、
調味液は、少なくとも、重量比で約等量の酒とごま油に、これらに対して重量比で約半分の擂りニンニクを配合するとともに、酒とごま油に対して重量比において10〜30%多い粉末状唐辛子を配合することを特徴とする請求項1または請求項2記載のホタテ貝ヒモを用いた塩辛。

【図1】
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【図2】
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