説明

ホルムアルデヒド分解剤及びその使用方法

【課題】
安全性の高い微生物菌を使用しながら、製造コストを抑制し、生産時又は使用時において全く無公害で環境や人体に影響を与えず、使用時においても持続性があり、さらには効率的にホルムアルデヒドを分解可能なホルムアルデヒド分解剤及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】
バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体を有することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤である。また、該粉体に水を添加した液体、あるいは該液体を吸水ゲル化剤並びにゼラチン、寒天の少なくとも一つに吸収させて得られるホルムアルデヒド分解剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホルムアルデヒドの分解処理に使用する微生物菌を含んだ粉体又は液体などのホルムアルデヒド分解剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドは、多様な分野で使用されているにも拘わらず、その毒性から環境汚染原因物質として指定されている。特に近年では住宅の気密性が高まり、壁紙の接着剤や壁の仕上げ剤、さらには家具や建具に使用されるホルムアルデヒドが飛散し室内に残留することにより、居住者に頭痛や吐き気、アレルギーなどの病状を引き起こす、所謂、シックハウス症候群が、大きな社会問題となっている。
【0003】
ホルムアルデヒドの分解方法として、微生物菌を用いた分解方法が各種提案されており、特許文献1においては、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤及びチアゾール系抗菌剤を有効成分とし、更に植物乾留エキスを加えた組成物に、尿素を主成分とするアミノ基含有の水溶液を加えたホルムアルデヒド放散阻止・消臭・抗菌組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2005−270214号公報
【0004】
また、特許文献2においては、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)に属する菌体及び/又は当該菌体の培養液、あるいは、フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)及び/又は当該フサリウム・オキシスポラムの培養液を用いてホルムアルデヒドを分解する方法が提案されている。
【特許文献2】特開2003−284548号公報
【0005】
特許文献3においては、ホルムアルデヒド分解能力を有し、かつメチロファガ・スルフィドボランス(Methylophaga sulfidovorans)と相同率90〜95%の塩基配列を含むメチロファガ・スルフィドボランスの近縁菌株、特に、菌寄託番号「FERM P−17872」菌株、および上記分解菌を用いてホルムアルデヒド、特に海水中のホルムアルデヒドを分解する方法、およびこの菌株を含む分解剤を提供することが記載されている。
【特許文献3】特開2003−52359号公報
【0006】
特許文献4においては、高濃度のホルムアルデヒド耐性を有するアスペルギルス(Aspergillus)属の菌寄託番号「FERM P−18287」菌株、ボトリチス(Botrytis)属の菌寄託番号「FERM P−18288」菌株、又はペシロマイセス(Paecilomyces)属の菌寄託番号「FERM P−18289」菌株に属するホルムアルデヒド分解微生物を用いてホルムアルデヒドを分解することが開示されている。
【特許文献4】特開2003−52355号公報
【0007】
しかしながら、これらの菌は培養する際に、菌に適した専用の培地を必要とし、さらには、菌に適した養分も併せて供給することが必要なため、微生物菌の培養や使用が高コストなものとなり、さらには、新規な菌においては、その安全性も十分に確認する必要があり、安易に用いることができないといった問題がある。
【0008】
他方、本出願人に係る発明者は、特許文献5に示すように、カビ付着防止剤及び脱臭剤に使用可能な微生物菌として、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を見出し、しかもこれらの微生物菌は、土壌、海水、淡水性堆積物中、食物などから容易に入手することができる。また、これらの微生物菌を、培養することができる。そしてこれらの微生物菌に高温処理した家畜糞とを混合した粉体を使用することで、安価なカビ付着防止剤や脱臭剤を提供できることを示した。
【特許文献5】特許公報第3590019号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述した問題を解消し、安全性の高い微生物菌を使用しながら、製造コストを抑制し、生産時又は使用時において全く無公害で環境や人体に影響を与えず、使用時においても持続性があり、さらには効率的にホルムアルデヒドを分解可能なホルムアルデヒド分解剤及びその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体を有することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤である。
【0011】
請求項2に係る発明は、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体に、水分を添加した液体を有することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤である。
【0012】
請求項3に係る発明は、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体を液体にし、吸水ゲル化剤並びにゼラチン、寒天の少なくとも一つに吸収させて得られるホルムアルデヒド分解剤である。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のホルムアルデヒド分解剤において、前記家畜糞は、牛糞、豚糞、又は鶏糞であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載のホルムアルデヒド分解剤を、容器に収容して使用することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤の使用方法である。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項2に記載のホルムアルデヒド分解剤を、ホルムアルデヒドの発生源、ホルムアルデヒドを含む気体中、又はホルムアルデヒドと接触する物体に、吹き付け又は吸収させる方法で使用することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤の使用方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明が使用する微生物菌が、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌であるため、菌自体の安全性が十分に確認されている。このため、本発明に係るホルムアルデヒド分解剤は、生産時又は使用時において全く無公害で環境や人体に有害な影響を与えることがない。また、微生物菌の栄養源として、60度〜150度で高温処理した家畜糞を使用しているため、原材料が極めて安価に入手可能であり、しかも家畜糞の処理は、悪臭や河川の汚染など環境問題ともなっていることから、家畜糞の有効利用としては極めて有益なものである。
【0017】
さらに、これらの微生物菌と高温処理した家畜糞とを混合した粉体は、それ自体がホルムアルデヒド分解作用を有するだけでなく、水を添加した液体、さらには吸水ゲル化剤等に吸水させたゲル状態においてもホルムアルデヒドを分解する能力を有するため、極めて多様な状態で使用することが可能となる。
また、本発明のホルムアルデヒド分解剤は、微生物菌を栄養源と一体化して保持しているため、長時間に渡り微生物菌が活動でき、ホルムアルデヒドの分解効果の持続性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のホルムアルデヒド分解剤は、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体、又は60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体に、水分を添加して液体にし、あるいは該液体を吸水ゲル化剤並びにゼラチン、寒天に吸収させて得られることを特徴とする。
【0019】
本発明のホルムアルデヒド分解剤に含ませる微生物菌は、バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌であり、これらの微生物菌は公知の物であり、土壌、海水、淡水性堆積物中、食物などから容易に培養することができる。しかもこれらの微生物菌は、環境や人体に安全なものであり、これらを使用するホルムアルデヒド分解剤も、極めて安全性の高い製品として提供することが可能となる。
【0020】
本発明に用いる家畜糞は、牛糞、豚糞、又は鶏糞が好ましく、その他、馬糞をはじめ多様な家畜の糞も必要に応じて用いることが可能である。家畜糞の中には雑菌が多く含まれており、これらの菌の影響を除去するため、60度〜150度で5時間に渡り高温処理を行う。高温処理された家畜糞は乾燥し、固形状となっており、固形状の家畜糞を粉砕し、粉体化したものに本発明の微生物菌を混合する。
【0021】
本発明によれば、上記微生物菌に高温処理した家畜糞を混合することで得られる粉体は、それ自体でもホルムアルデヒドを分解する作用を有するものであるが、より好ましくは、該粉体に水分を加える事により、ホルムアルデヒド分解効果をより高めることが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、上記粉体を液体にし、さらに吸水ゲル化剤並びにゼラチン、寒天に入れることで、ゲル状態のホルムアルデヒド分解剤を得ることができる。
このように、本発明のホルムアルデヒド分解剤は、粉体、液体、又はゲル状態など多様な形態を選択することが可能であるため、極めて利用範囲の広いホルムアルデヒド分解剤を提供することが可能となる。
【0023】
次に、本発明のホルムアルデヒド分解剤の使用方法について説明する。
粉体状、液体状、さらにはゲル状のいずれにおいても、容器内にホルムアルデヒド分解剤を収容し、ホルムアルデヒドが存在する室内やホルムアルデヒドの発生源の傍に設置することにより、容易にホルムアルデヒド分解剤を使用することが可能である。
【0024】
さらには、液状のホルムアルデヒド分解剤については、ホルムアルデヒドの発生源となる壁紙や壁の仕上げ剤表面、家具や建具などの表面に、本発明のホルムアルデヒド分解剤を吹付けて使用することも可能である。また、液体を吸収可能なものには、吹付けや塗布などにより対象物の表面から内部にホルムアルデヒド分解剤を吸収させることも可能である。また、ホルムアルデヒドを含む気体中やホルムアルデヒドと接触する物体の表面に、ホルムアルデヒド分解剤を吹き付けることも可能である。
【0025】
ホルムアルデヒドは、水溶性であるため、水中内のホルムアルデヒドを分解する際には、粉体状又は液体状のホルムアルデヒド分解剤を、水中に散布するか、ホルムアルデヒド分解剤を含む固形のブロックを形成し、水中内に配置する方法なども可能である。
【0026】
次に、本発明であるホルムアルデヒド分解剤の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
本発明に係るホルムアルデヒド分解剤を次の手順で製造する。
糞を60〜150℃で5時間の高温処理した後、粉砕し、糞100gに対し1〜10gのバチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌を添加し混合する。
混合粉体1gに対し10mlの水を添加し、実施例1の液体状のホルムアルデヒド分解剤を製造した。
次に、実施例1のホルムアルデヒド分解剤1000gを、吸水ゲル化剤(商品名:K1ゲルー201K,製造社名:株式会社クラレ)50gに対して吸収させ、実施例2のゲル状のホルムアルデヒド分解剤を製造した。
【0027】
実施例1のホルムアルデヒド分解剤を1ml、実施例2のホルムアルデヒド分解剤を1gについて、ホルムアルデヒドの分解性能を測定するため、5リットルテドラーバッグの試験容器内に設置すると共に、容器内のガス量を3リットル、ホルムアルデヒドのガス濃度を15ppmに調整し、密閉状態で所定時間放置した。試験室の温度は20℃であった。
ホルムアルデヒドのガス濃度に係る測定は、2時間後、24時間後、48時間後に行った。
また、比較対照として、ホルムアルデヒド分解剤を収容しない場合についても、同様に測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果より、本発明に係る実施例1及び2は、比較例と対比すると、ホルムアルデヒドの分解性能が極めて高いことが容易に理解される。また、実施例1と実施例2とを比較すると、液体の方が比較的早くホルムアルデヒドの分解効果が表れる傾向にあるが、長時間に渡る測定では、ゲル状の分解剤の方が、分解効果が持続していることが窺える。
なお、上記バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌に代えて、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌やバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を用いた場合についても、同様に、ホルムアルデヒドの分解効果を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、安全性の高い微生物菌を使用しながら、製造コストを抑制し、生産時又は使用時において全く無公害で環境や人体に影響を与えず、使用時においても持続性があり、さらには効率的にホルムアルデヒドを分解可能なホルムアルデヒド分解剤及びその使用方法を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体を有することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤。
【請求項2】
バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体に、水分を添加した液体を有することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤。
【請求項3】
バチルススパリカス(Bacillus sphaericus)微生物菌、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)微生物菌、またはバチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)微生物菌を、60度〜150度で高温処理した家畜糞と混合した粉体を液体にし、吸水ゲル化剤並びにゼラチン、寒天の少なくとも一つに吸収させて得られるホルムアルデヒド分解剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のホルムアルデヒド分解剤において、前記家畜糞は、牛糞、豚糞、又は鶏糞であることを特徴とするホルムアルデヒド分解剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のホルムアルデヒド分解剤を、容器に収容して使用することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤の使用方法。
【請求項6】
請求項2に記載のホルムアルデヒド分解剤を、ホルムアルデヒドの発生源、ホルムアルデヒドを含む気体中、又はホルムアルデヒドと接触する物体に、吹き付け又は吸収させる方法で使用することを特徴とするホルムアルデヒド分解剤の使用方法。

【公開番号】特開2007−302706(P2007−302706A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10603(P2006−10603)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(303048341)株式会社ビッグバイオ (10)
【Fターム(参考)】