説明

ホログラフィ屈折率測定の方法及び装置

周囲媒体の屈折率と比較して物体の屈折率を決定する方法及びデバイス。物体はレーザ対象物ビームに露光され、散乱光はレーザ参照ビームと干渉してホログラムを得る。位相情報を求めてホログラムが分析され、その位相情報に基づいて、物体の屈折率が周囲媒体の屈折率よりも大きいか小さいかが決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル・ホログラフィを使用して物体と周囲媒体との間の屈折率の比較を行うために有用なホログラフィ屈折率測定の方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小さな不均質透明物体の屈折率を決定する一般に知られた方法は、べッケ法として知られている方法である。ベッケ法は、既知の屈折率を有する媒体、例えば屈折率液の中に物体を置くことを必要とする。サンプルは、顕微鏡内に配置され、光がサンプルを通過する。顕微鏡の使用者が、焦点面を上方(又は下方)に動かす。ベッケ線は、物体の外形に対して外側又は内側に動くように見える。ベッケ線の動きは、物体の屈折率が周囲媒体の屈折率よりも小さいか大きいかに依存している。異なる屈折率を有するいくつかの媒体の中に物体を置き、焦点面を上方に動かす際に、いつ外形の動きが方向を変えるかを観察することによって、物体の屈折率を決定することができる。したがって、物体の屈折率を決定するベッケ法は、間接的な方法である。
【0003】
ベッケ法では、人が物体の外形の動きを観察しながら顕微鏡の焦点面を手で動かさなければならない。したがって、この方法は、自動化に向いていない。さらに、この分析は現場で行われなければならない。したがって、物体の画像を作り、後で別の環境で、又は別の時間にこの画像を分析することはできない。
【0004】
屈折率を測定する他の方法は位相差法及び傾斜照明法である。例えば、W.D.Nesseの「Introduction to optical Mineralogy(光学的鉱物学入門)」、オックスフォード大学出版、ニューヨーク、第2版(1991年)を参照されたい。
【0005】
屈折率測定は、様々な科学に応用されている。屈折率は材料固有の値であり、このことは、混合物中の様々な物質を識別する場合に有用である。薬理学において、化学物質の粒径の特徴づけ及び分布は、研究及び製造に重要な役割を果たす。鉱物学において、屈折率は様々な鉱物を分類する際の重要なパラメータである。
【0006】
ホログラフィ法は、今日では一般的である。例えば、DE2133803は、屈折率変化を観察することのできるホログラフィ法を開示している。この文献は、そのような測定をどのように行うかを詳細に扱っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、物体の屈折率を測定する工程の自動化を可能にする方法及び装置を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、物体の画像を得た後で、いつでもその物体の屈折率を遠隔分析することを可能にする方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
サンプルをレーザ対象物ビームに露光し、さらに対象物ビームをレーザ参照ビームと干渉させてホログラムを得て、ホログラムを分析して位相情報を求め、物体の屈折率が周囲媒体の屈折率よりも大きいか小さいかを、前記位相情報に基づいて決定することによって、周囲媒体の屈折率との比較により物体の屈折率を決定する方法及び装置を用いてこれらの目的は満たされる。本方法は、コンピュータで実施することができる。
【0010】
物体が第1の屈折率を有する第1の物質及び第2の屈折率を有する第2の物質の粒子を有し、媒体が前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間の屈折率を有する場合、サンプルの特定の領域で、第1の屈折率を有する粒子の数を数え、さらに第2の屈折率を有する粒子の数を数えるために、本方法を使用できる。このようにして、物質間の関係を計算することができる。
【実施例】
【0011】
本発明のさらに他の目的、特徴及び有利点は、図面を参照した、本発明のいくつかの実施例についての以下の説明から明らかになるであろう。
【0012】
図1は、フーリエ・ホログラフィ装置の実験的な構成の模式図である。装置は、633nmの波長で発光するJDS単一位相10mWHe−Neレーザ17を備える。光は、シャッタ6、第1の偏光器5及び第2の偏光器4を通過する。偏光器によって、レーザ・ビームの強度を調節することができる。そこから、レーザ・ビームは、第1の半波長板3を通り、ビームを対象物ビーム14と参照ビーム15とに分割する偏光ビーム分割器(スプリッタ)2に達する。対象物ビーム14は、第2の半波長板7を通り、ミラー10によって90度進路を変えられる。そこから、対象物ビームはアイリス(虹彩)絞り16を通り、ビーム・スプリッタ9に達する。参照ビーム15は、ミラー1によってビーム・スプリッタ9に向かって進路を変えられ、グリン(勾配屈折率)レンズ11を通る。グリンレンズ11は、図1の拡大部に示すように、参照ビーム15の進路を変える。
【0013】
物体12は、ビーム・スプリッタ9の近くに配置されている。物体を通過するレーザ・ビームは、センサ8で集められる。参照ビームは、ビーム・スプリッタ9によってセンサ8の方に進路を変えられ、それによって、センサ8は、参照ビームを、物体に近い仮想の点光源13から生じるものと理解する。
【0014】
2個の半波長板によって、参照ビーム及び対象物ビームの強度は制御でき、また同時に、場の偏光を直線に保つことができる。
【0015】
実験的なデジタル・ホログラフィ構成は、照明された物体の近くに球状参照点光源を含む。この点光源は、参照フィールド(場)及び対象物フィールド(場)とほぼ同じ湾曲、したがってホログラムの低空間周波数を与える。参照フィールドの大きな開口数を実現し、且つ点光源を物体の近くに保つために、0.25ピッチのグリンレンズを使用して参照ビームを広げる。グリンレンズは、0.37の開口数、1.0mmの直径を有し、ビーム・スプリッタの近くのホルダに配置される。それによって、参照点光源は、ビーム・スプリッタによってセンサに向けて反射される。ビーム・スプリッタを有する構成は、物体の近くに配置することのできる仮想点光源を与える。
【0016】
実験構成では、対象物フィールドを直接測定することはできない。代わりに、対象物フィールドと参照フィールドの近似、即ち干渉パターンのサンプリングされたものが、センサによって測定される。物体フィールドは、物体の画像を決定するために使用される。物体フィールドの評価は、FFT(高速フーリエ変換)によってコンピュータにより行われる。
【0017】
これまで説明した実験構成は、異なる用途では変更可能である。例えば、部材3、4、5、6及び/又は7だけでなく、アイリス絞り16も省略できる。レーザ・ビームは、光ファイバで限られた領域に閉じ込めることができ、したがってミラー1、10およびその他をなくすることができる。
【0018】
本発明による方法では、何らの準備もなしに、生物試料のような透明物体を見ることができる。対照的に、従来技術では、通常試料が着色される。この方法は、多くの点で不満足である。例えば、着色により、その生命過程を研究中である試料を殺すことになる。
【0019】
図2に、透明物体が示されている。物体はどんな光も吸収しないが、物体を通り抜けた光は光路長の差を経験する。したがって、物体から出てくる波面は位相シフトしている。この歪みは、ホログラフィで位相差として検出することができ、例えば、コンピュータのプリントアウトに色調差として表すことができる。
【0020】
図3は、図2に従った物体のホログラム・プリントアウトを示し、ここで、異なる高さは、異なる色で表されて、異なる位相として表示されている。したがって、内側の円は青41で、次の環42は緑、その次の環43は黄、外側の環44は赤であることがある。
【0021】
図4は、波長589nmでn=1.542である液体の中に取り付けられた乳糖の結晶の位相画像である。より大きい(より小さい)屈折率の物体から、より小さい(より大きい)屈折率の物体に進むと、位相は増加(減少)する。上の写真は、アンラップ(unwrapped、折りたたみを戻した)位相画像であり、下の写真は、ラップし直し(re−wrapped、再び折りたたんだ)位相画像である。
【0022】
本発明では、ただ1つのホログラムが得られる。ホログラムは、いくつかの焦点面の情報を含む。その結果、ホログラムを保存し、後でベッケ法に従って分析することができる。コンピュータは、異なる焦点深さの結晶の画像を作成するようにプログラムすることができ、結晶の外形の動きを目に見えるようにすることができる。
【0023】
さらに、ホログラムが位相情報を含むことが観察される。物体からのレーザ光の位相を示すようにコンピュータをプログラムすることによって、例えば様々な色又は色調として位相が表示されている画像を作成することができる。
【0024】
物体が屈折率を有し、その屈折率が周囲液体の屈折率よりも大きいか小さいかに依存して、位相順序が異なることが観察されている。
【0025】
したがって、位相順序が逆になるまで周囲媒体即ち液体を交換する繰返し測定を用いて、等方性物体の屈折率を決定することができる。その際、物体の屈折率は、異なる位相順序を有する2つの液体の屈折率の間にある。
【0026】
さらに、2個の物体の屈折率の間のどこかと周囲液体が合致する場合、2つの異なる等方性物体を選別することができる。
【0027】
そのような選別は、例えば、塩化ナトリウムNaClの結晶と塩化カリウムKClの結晶とについて行うことができる。約40μmの平均サイズを有する結晶が使用された。これらの結晶は等方性である。即ち、それらの結晶は、照明の方向にかかわらず1つの屈折率を有する。それらのそれぞれ屈折率は、nNaCl及びnKClで示される。屈折率がnKCl<n<nNaClと順序付けされるようなnで示される屈折率を有する屈折率液体の中に、結晶が取り付けられる。
【0028】
結晶を通って進む際に、位相は変化する。位相シフトは、黒から灰色を越えて白に、再び黒への色変化として観察することができる。
【0029】
サンプルの光学厚さを表す画像を得るために、位相をアンラップし、アンラップ位相画像を多項式に合うようにすることによって照明波の大規模な位相変化が除去される。このアンラップ・バックグランド補正位相画像では、この画像は、各結晶を通過する伝播長の屈折率倍のコントラストを示す。さらに、アンラップ・バックグランド補正位相画像の理解を高めるために、位相は、各外形の間に2πを有する外形図として描かれる。外形図において、正の値はより黒い色として表され、負の値はより明るい色として表される。図5を参照されたい。
【0030】
このようにして、結晶を数えることができ、又は体積分布を計算することができる。
【0031】
異方性物体は、異なる方向で異なる屈折率を有する。異方性物体からの散乱光の共通偏光部分は、実効屈折率n’を有する等方性物体で散乱されたように見える。照明光の偏光を少しずつ回転させて同じ物体を繰返し照射することによって、主屈折率の最小と最大を取り出すことができる。ここで考えた異方性物体は、単軸である。即ち、その異方性物体は、屈折率が偏光と共に変化する1つの光学軸を有している。
【0032】
図4は、乳糖結晶から成る物体を示す。これらの結晶は、異方性であり、異なる方向で異なる屈折率を有している。これらの結晶は、1.542の屈折率を有する液体、例えば所定の屈折率で得ることができるカーギル(Cargille)屈折率液体の中に配置される。ラップ(wrapped、折りたたんだ)位相画像は、2次元位相アンラッピング・アルゴリズムへの近似によって改善され、このアルゴリズムによって、照明波の大規模な位相変化は除去される。最後に、アンラップ位相画像は、−2πから+2πの範囲にラップし直すことができる。
【0033】
画像は、コンピュータによって計算し、様々な階調として、又は色として表示することができる。コンピュータは、周囲媒体の屈折率よりも大きな、又は小さな屈折率を有する物体の数を決定するようにプログラムすることができる。
【0034】
図4から明らかなように、粒子のあるものは白であり、また粒子のあるものは黒であり、関係する粒子の屈折率が周囲媒体の屈折率よりも大きいか又は小さいかを示している。
【0035】
例えば、異なる屈折率を有する2つの等方性物質の粒子の数の間の関係を決定するために、本方法が使用される場合、これらの物質の屈折率の中間の屈折率を有する媒体が使用される。処理されたホログラムでは、物質は、周囲媒体に比べて異なる階調を有する粒子として、例えば実質的に白い粒子及び実質的に黒い粒子として見える。サンプルの特定の表面領域で各型の粒子の数を数えるように、コンピュータをプログラムすることができる。したがって、2つの物質の間の関係は、コンピュータで完全に自動的に計算することができる。コンピュータは、各型の粒子が占める表面を計算するようにもプログラムすることができる。既知の屈折率の場合には、また、2つの粒子の間の体積比を計算するようにコンピュータをプログラムすることができる。
【0036】
本発明による方法は自動化に向いているので、物質の粒子の混合のバッチ制御は、サンプルを絶えず準備し且つ上記のように本方法を実施することによって、ある期間にわたって絶えず制御できるようになる。今日まで、そのような測定を行う高信頼性の実時間方法はない。
【0037】
本発明は、図面に示された本発明の特定の実施例に関連して上記で説明した。しかし、この明細書を読む当業者は、実施例に示された様々な特徴の他の組合せに気付く可能性があり、そのような他の組合せは、本発明の範囲内にある。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による方法を実施するための実験構成を示す模式図。
【図2】物体を越えて動く波面を含んだ、物体を示す模式図。
【図3】図2の物体について得られたホログラムの位相分析を示す模式図。
【図4】本発明による、物体を含むサンプルの顕微鏡図を示す写真。
【図5】本発明の態様を説明する、サンプルの顕微鏡図を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲媒体の屈折率と比較して物体の屈折率を決定する方法において、
前記サンプルをレーザ対象物ビームに露光させて、前記対象物ビームをレーザ参照ビームと干渉させてホログラムを得る段階と、
位相情報を求めるために前記ホログラムを分析する段階と、
前記物体の屈折率が前記周囲媒体の屈折率よりも大きいか小さいかを、前記位相情報に基づいて決定する段階とを特徴とする物体の屈折率を決定する方法。
【請求項2】
前記分析及び決定が、コンピュータで行われることを特徴とする、請求項1に記載された物体の屈折率を決定する方法。
【請求項3】
前記物体が第1の屈折率を有する第1の物質及び第2の屈折率を有する第2の物質の粒子を含み、且つ媒体が前記第1の屈折率と前記第2の屈折率と間の屈折率を有し、
前記サンプルの特定の領域で、第1の屈折率を有する粒子の数を数え、且つ第2の屈折率を有する粒子の数を数えることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された物体の屈折率を決定する方法。
【請求項4】
周囲媒体の屈折率と比較して物体の屈折率を決定する装置において、
前記サンプルをレーザ対象物ビームに露光させ、前記対象物ビームをレーザ参照ビームと干渉させてホログラムを得るためのレーザ光源と、
位相情報を求めるために前記ホログラムを分析して、前記物体の屈折率が前記周囲媒体の屈折率よりも大きいか小さいかを、前記位相情報に基づいて決定するためのコンピュータとを特徴とする物体の屈折率を決定する装置。
【請求項5】
前記物体が第1の屈折率を有する第1の物質及び第2の屈折率を有する第2の物質の粒子を含み、且つ媒体が前記第1の屈折率と前記第2の屈折率との間の屈折率を有し、
前記コンピュータが、第1の屈折率を有する粒子の数及び第2の屈折率を有する粒子の数を数えるように構成されていることを特徴とする、請求項4に記載された物体の屈折率を決定する装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された方法の段階の少なくとも1つを実施するための、コンピュータ上で実行するように有体媒体に構成されたコンピュータ・プログラム。
【請求項7】
粒子混合物中の粒子を選別し計数するための、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された方法の使用。
【請求項8】
粒子混合物中の粒子間の体積比を計算するための、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−508540(P2007−508540A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532239(P2006−532239)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001437
【国際公開番号】WO2005/033679
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(506119280)フェイズ ホログラフィック イメージング ピーエイチアイ エービー (1)
【Fターム(参考)】