説明

ホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法

【課題】ページデータが多重記録されたホログラム記録媒体の収縮または膨張により生じるホログラム歪みを補償して、ページデータの最適な波面を求める際における、最適化に要する時間の短縮化を図るホログラム再生装置とホログラム歪補償方法を得る。
【解決方法】ページデータが干渉縞の形態で多重記録されたホログラム記録媒体11に参照光を照射してページデータを再生する情報再生部を備え、情報再生部は、ホログラム記録媒体11の収縮等により生じる干渉縞歪みを補償して、ページデータについての最適な波面に調整する波面制御器21を含む。情報再生部は、記録媒体11に記録された多重数よりも少ない数に係るページのページデータについて波面制御器21を用いて最適な波面を求め、さらに、該再生したページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページデータについての最適な波面を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムを利用して媒体に多重記録された画像情報の再生を行うホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法に関し、特に、ホログラム記録媒体の収縮/膨張に伴うホログラム歪を補償するホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速で大容量の記録再生を目指した次世代光情報記録再生方式として、ホログラム記録再生方式の研究・開発が活発に行われている。
【0003】
従来のホログラム記録再生装置は、例えば図6に示すように構成されており、ここで、その概略を説明する。レーザ光源201から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、発散レンズ202およびコリメートレンズ203からなるビームエキスパンダにより光束径を拡大され、半波長板204を透過し、ミラー205で偏向された後、偏光ビームスプリッタ206により2系の光束に分岐される。
【0004】
偏光ビームスプリッタ206から図中下方に向かう光束は、偏光ビームスプリッタ207を通過して空間光変調素子208に照射され、該空間光変調素子208により空間的に変調されて、ページデータと称される、白、黒2値の画素を2次元配列したデジタル画像情報を担持した信号光とされる。空間光変調素子208から出射された信号光は、入射した状態とは偏光方向が変化しており、偏光ビームスプリッタ207において図中左方に反射され、開状態のシャッタ209を通過して、レンズ210によって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体(以下、単に「記録媒体」と称することがある)211へ照射される。
【0005】
一方、偏光ビームスプリッタ206から図中左方に向かう光束は、参照光(記録時参照光)とされ、ミラー222および開状態のシャッタ224を通過して、記録媒体211中の信号光が通過する場所へ、信号光とは別角度で照射される。
【0006】
信号光および参照光を同時に照射すると記録媒体211内部の体積中に干渉縞が生じ、この縞分布を屈折率分布などの形態で記録媒体211の記録領域に転写することによりホログラム記録が行われる。なお、角度多重記録方式の場合には、異なるページデータを空間光変調素子208に表示させつつ、信号光および参照光に対する記録媒体211の角度(回転角度)を少しずつ変化させることにより、互いに異なるページデータを記録媒体211中の同一領域へ多重記録することが可能となり、さらに高密度な情報格納が可能となる。
【0007】
ホログラム記録媒体211に記録されたページデータを再生する場合には、シャッタ209を閉状態として、記録時と同一角度で参照光(再生時参照光)のみを記録媒体211に照射せしめることにより、同一の記録領域に複数のページデータが多重記録されていても、所望するページデータのみを選択的に取り出し、レンズ212を介してCCD(撮像素子)213にて撮像することができる。
【0008】
ところで、ライトワンスの記録媒体として光感光性樹脂材料(以下、フォトポリマーと称する)が用いられている。フォトポリマーによる媒体は多重度指標が高く、長期間安定してデータを保持できるなどの利点がある。しかし、フォトポリマーの場合、記録媒体内部に屈折率差を生じさせてホログラム(干渉縞)を記録する。このとき光重合により媒体収縮が生じる。また、信号記録時と信号再生時との間で温度差が生じた場合には、温度差の影響により記録媒体が収縮したり膨張したりすることがある。記録媒体が収縮あるいは膨張すると、媒体中に記録された干渉縞が歪んだ状態となる、いわゆる干渉縞歪み(ホログラム記録情報歪:以下、ホログラム歪みと称する)が生じる。歪んだ干渉縞に記録時と同様の参照光を入射しても、記録されたビットデータを誤りなく再生することが難しくなるため、再生データのSNR(Signal to Noise Ratio)が低下してしまう。
【0009】
そのため、ホログラム歪みを光学的に補償して、再生データのSNRを改善する方法が検討されている。具体的には参照光の波長や入射角度、波面を制御する方法である。
【0010】
しかし、参照光の波長や入射角度に基づきホログラム歪みを補償する方法は、近年の情報記録の高密度化により信号光路中のレンズのNAが高くなった場合、十分に補償されない。
【0011】
そこで、参照光の波面を最適化することにより、レンズのNAが高くなった場合でもホログラム歪みを補償し得る手法が注目されている。すなわち、図6に示す光学系において、参照光路中に波面制御器を設けるようにし、この波面制御器の各部に照射された参照光の光線毎に位相を調整するようにしており、これによって、信号光路中のレンズのNAが高くなった場合でもホログラム歪みを十分に補償することができる(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011‐158825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来技術においては参照光波面の最適化処理において、精度を高め得るように遺伝的アルゴリズム(GA)等の手法を用いていることもあって、多重記録されたホログラムにおいて、全てのページデータに対してホログラム歪みを補償することは多大な時間を必要とし、ホログラムの情報再生の時間が長くなり過ぎる。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、ページデータが多重記録されたホログラム記録媒体の収縮あるいは膨張により生じるホログラム歪みを補償して、再生波面の最適化を図る際に、この最適化に要する時間の短縮化を図り得るホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のホログラム再生装置は、
ページデータが干渉縞の形態で多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータを再生する情報再生部を備え、該情報再生部は、該ホログラム記録媒体の収縮または膨張により生じる干渉縞歪みを補償して、前記ページデータについての最適な波面に調整する、前記再生時参照光の光路中に配置される波面制御器、を含むホログラム再生装置において、
前記情報再生部は、前記ホログラム記録媒体に記録された多重数よりも少ない数に係るページの前記ページデータについて前記波面制御器を用いて最適な波面を求めるものであり、
さらに、該再生したページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページデータについての最適な波面を求めるページデータ補間手段を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
また、前記記録された多重数(4以上)よりも少ない数のページデータが、3ページ分のページデータであることが好ましい。
【0017】
前記補間に係る処理に用いられるフィッティング関数が、双曲線関数であることが好ましい。
【0018】
また、前記補間に係る処理は、前記再生した各ページデータに係る最適な波面が得られたときの前記波面制御器の駆動部の設定値に基づき、前記その余のページデータに対する波面制御器の駆動部の設定値を求めるものとすることが好ましい。
【0019】
また、本発明のホログラム歪補償方法は、
ページデータが干渉縞の形態で多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータを再生する際に、ホログラム記録媒体の収縮または膨張により生じる干渉縞歪みを波面制御器を用いて補償し、最適な波面を求めるホログラム歪補償方法において、
記録された多重数よりも少ない数のページデータについて、前記波面制御器により最適な波面を求め、次に、該求めたページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページデータの最適な波面を求めることを特徴とするものである。
【0020】
また、上記ホログラム歪補償方法において、前記補間に係る処理においては、前記再生した各ページデータに係る最適な波面が得られたときの前記波面制御器の駆動部の設定値に基づき、前記その余のページデータに対する波面制御器の駆動部の設定値を求めることが好ましい。
【0021】
なお、本発明のホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法における「再生」とは、ホログラムの再生機能を有することを示すものであり、ホログラムの記録機能は備えていないということを意味するものではない。すなわち、ホログラムの記録機能と再生機能の両方を備えている装置も本発明のホログラム再生装置の概念に含まれる。
【0022】
また、発明のホログラム再生装置における「ページデータ補間手段」とは、「波面制御器」を駆動するための、CPU、メモリ等のハードとプログラム等のソフトとの組合せからなる手段であり、上記再生されたページデータの最適な波面を補間して、その余のページデータの最適な波面を求めるための制御演算手段を称するものである。なお、「その余のページデータ」としては、必ずしも、再生されたページデータ以外の、全てのページデータであることは必要とされない。
【発明の効果】
【0023】
本発明のホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法によれば、記録された多重数よりも少ない数のページのみのページデータを再生しておき、該再生した各ページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページのページデータに係る波面を求めるようにしているので、記録媒体の収縮(または膨張)によるホログラム歪みを補償するための補償速度の向上を図ることができる。特に、ページデータを再生する際に、遺伝的アルゴリズムを用いる場合には、記録された多重数よりも少ない数のページのみのページデータを再生することにより、大幅な補償速度の向上を図ることができる。これにより各ページデータに係る波面を得るのに要する時間を短縮化しつつ再生データのSNRを向上させることができる。
【0024】
また、装置のハード的な改変は不要であるから、従来装置のハード的な構成を略そのまま用いることができ、装置操作の円滑化および製造コストの低廉化を図ることができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るホログラム再生装置の構成を示す概略図である。
【図2】各ページ毎の、最適化された参照光波面を表す図である。
【図3】信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、記録される干渉縞の記録装置との関係を示す概念図(信号光が平行光の場合)である((a)は収縮前、(b)は収縮後)。
【図4】信号光入射角に対する、記録時と再生時における参照光の入射角度差を示すグラフである。
【図5】記録時参照光の入射角に対する、記録時と再生時における参照光の入射角度差を示すグラフである。
【図6】従来のホログラム再生装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るホログラム再生装置およびホログラム歪補償方法の実施形態について、上記図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、図1を用いて本発明の一実施形態に係るホログラム再生装置について説明する。このホログラム再生装置は、ホログラムの記録機能および再生機能とを備えた記録再生装置として構成されており、また、ホログラム記録媒体11はフォトポリマーで構成され、角度多重記録方式が採用されている。以下、その仕組み(記録再生操作の流れ)について説明する。
【0028】
レーザ光源1から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、発散レンズ2およびコリメートレンズ3からなるビームエキスパンダにより光束径を拡大され、半波長板4を透過し、ミラー5で偏向された後、偏光ビームスプリッタ6により2系の光束に分岐される。
【0029】
偏光ビームスプリッタ6から図中下方に向かう光束は、偏光ビームスプリッタ7を通過して空間光変調素子8に照射され、該空間光変調素子8により空間的に変調されて、白、黒2値の画素が2次元配列されたデジタル画像からなるページデータを担持した信号光とされる。空間光変調素子8から出射された信号光は、入射した状態とは偏光方向が変化しており、偏光ビームスプリッタ7において図中左方に反射され、開状態のシャッタ9を通過し、レンズ10によって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体11へ照射される。
【0030】
一方、偏光ビームスプリッタ6から図中左方に向かう光束は、参照光(記録時参照光)とされ、開状態のシャッタ20および波面制御器21を通過し、レンズ23a、bを通過して記録媒体11中の信号光が通過する場所へ、信号光とは別角度で照射され、これにより、記録媒体11中に干渉縞が記録される。なお、波面制御器21は回転器22上に載設されている。
【0031】
回転器22の角度を少しずつ変化させる(例えば、入射角を60〜80°の範囲内で0.2度ずつ変化させる)度に該領域にページデータの記録を行なうことにより、記録媒体11の同一領域に互いに異なる複数のページデータを記録する角度多重記録が可能となっている。
【0032】
ホログラム記録媒体11に記録されたページデータを再生する場合には、シャッタ9を閉状態とし、参照光(再生時参照光)の記録媒体11への入射角度を所定のタイミングで変化せしめることにより、同一の記録領域に多重記録された複数のページデータから、所望するページデータを順次再生し、レンズ12を介してCCD(撮像素子)13にて順次撮像する。
【0033】
上記波面制御器21は、ホログラム記録媒体の収縮(膨張を含む)により生じるホログラム歪み(干渉縞歪み)を補償するために配置されたものであり、反射鏡面としての薄膜ミラーが、ミラーの表裏方向に進退可能な複数のピン部材により裏面側から支持されてなるデフォーマブルミラーであり、ピン部材毎の基板からの突出量が調整されることにより、各々のピン部材により支持された薄膜ミラーの各領域がそれぞれ上記表裏方向に動作せしめられ、薄膜ミラー全体の形状が変化するように構成されている。
【0034】
この薄膜ミラーの動作量(各ピン部材の突出量)は、計測制御装置40において、遺伝的アルゴリズムを用いた制御方式により制御される。すなわち、計測制御装置40においては、CCD13にて撮像された再生データを評価し、その評価結果に応じた制御信号を波面制御器21に出力して薄膜ミラーの動作量を変更する処理を、遺伝的アルゴリズムにより繰り返し行い、再生時参照光の波面を最適化する。
【0035】
遺伝的アルゴリズムでは、複数の個体からなる集団(個体群)が想定されるとともに、各個体の形質を規定する要素としての遺伝子が定義され、遺伝子の複製、交叉、突然変異等が繰り返し実行される。そして、適応度に基づいて環境に最も適合する個体が次世代を形成していく。具体的には、薄膜ミラーの状態が個体、各ピン部材の突出量(基板に対する突出位置)が遺伝子とされる。適応度としては、再生データの輝度やSNR等が用いられる。
【0036】
図2は、ページデータが角度多重記録されたホログラム記録媒体11から、隣り合う各ページデータ(第1ページ〜第10ページ)を再生した場合において、各ページのホログラム歪みを補償する最適な参照光波面を示すものである。各図中、明るい部分は波面の位相が進んでいるところであり、暗い部分は波面の位相が遅れているところである。
【0037】
図2から明らかなように、隣り合うページ同士では、波面が互いに近似したものとなっている。そのため、角度多重記録されたページのうちの一部である、数ページのみについて補償して最適な波面を求め、その余のページについては、該数ページについて得られた最適な波面を補間して各々のページの最適な波面を求めることができる。
【0038】
これにより、補償するページ数を大幅に減らすことができ、1ページ分の最適な波面を求める場合に、補間処理により波面を求めている時間は、波面を補償している時間よりも大幅に短くて済むため、角度多重記録された全ページについて最適な波面を求めるための時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
以下、本実施形態に係るホログラム歪補償方法について、記録媒体11が記録後に収縮した場合における、再生時参照光の波面の変化と波面の補間方法について説明する。
【0040】
図3は、記録媒体11の収縮前の状態(a)および収縮後の状態(b)における、記録媒体11に対する、信号光の入射角および記録時参照光の入射角等を説明するものである。
【0041】
すなわち、図3(a)に示すように、信号光角度θs、記録時参照光角度θrは、記録時において、記録媒体11に入射する際のそれぞれの入射角度を示すものである。なお、θは干渉縞に対する記録時参照光の入射角度である。また、平面波の信号光と平面波の参照光を用いて記録された干渉縞を再生する際に、ブラッグの条件を満たす再生時参照光の入射角度Θread(記録媒体11に対して外から入射する際の入射角度)は、下式(1)で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
これは記録時参照光の入射角度と一致する。しかし、記録媒体11が収縮し、記録された干渉縞が歪んだとき、ブラッグの条件を満たすための再生時参照光の入射角度(記録媒体11に対して外から入射する際の入射角度)は、下式(2)で表わされる。なお、図3(b)中で、φは、収縮後の記録媒体11に対する干渉縞の角度、Mは収縮後の干渉縞間隔、αは収縮率である。
【0044】
【数2】

【0045】
したがって、記録媒体11が収縮したときに再生波面を良好なものとするためには、記録時と再生時の参照光に入射角度差ΔΘr(=Φreadread)を設ける必要がある。
【0046】
次にホログラム記録における、記録時参照光の入射角度Θrに応じた、記録時参照光と再生時参照光の入射角度の差ΔΘrについて検討する。
【0047】
ここで、信号光路中のレンズのNAを0.85、光の波長を532nmとする。記録媒体の屈折率nを1.4、収縮率αを0.2%とし、収縮は媒体表面に対して法線方向にのみ収縮するものとする。角度多重数は100、記録時参照光の入射角度Θrは60°から80°まで0.2°間隔で変化するものとする。なお、信号光は、レンズで集光されるため、様々な角度から入射する平面波の集合とみなすことができる。例えば、集光レンズのNAが0.85の場合、信号光は入射角度Θs(記録媒体11の外から入射する角度)が-58.2°から58.2°の範囲に亘る平面波の集合となる。
【0048】
図4に、信号光入射角度Θsに対する、記録時参照光と再生時参照光の入射角度差ΔΘrを示す。ここで、記録時参照光の入射角度Θrは60°、65°、70°、75°、80°の値をとる。同一の記録時参照光の入射角度Θrにおいて、信号光の入射角度Θsの絶対値が大きくなるのに伴い、記録時参照光と再生時参照光の入射角度差ΔΘrの絶対値は大きくなる。
【0049】
例えば、集光レンズのNAが0.85のとき信号光の入射角度は-58.2°から58.2°の範囲に亘ることになる。記録時参照光の入射角度が80°のとき、記録時参照光と再生時参照光の入射角度差ΔΘrは-0.15°から0.16°の範囲となる。
【0050】
すなわち、再生時において、記録媒体11に入射するときにこの範囲の入射角度差ΔΘrをもった参照光を入射させる必要がある。さらに、この入射角度差ΔΘrの絶対値は記録時の参照光角度が大きくなるのに伴い大きくなる。
【0051】
図5に、各記録時参照光の入射角度Θrに対する、記録時参照光と再生時参照光の入射角度差ΔΘrの関係を示す。例えば、信号光のうち入射角度が-50°である要素に対しては、再生時参照光の入射角度は図5の■印の線に示す分布になる。記録時参照光の入射角度がω゜となったときのページにおける信号光の入射角度が-50°の要素に対する入射角度差ΔΘrを求める場合には、■印の線上において、記録時参照光の入射角度がω゜となるときの上記入射角度差ΔΘrを求める。これにより、このページにおける信号光の入射角度が-50°の要素に対する再生時参照光角度を求めることができる。同様に、全ての信号光の入射角度の要素に対して記録時参照光入射角度がω゜となったときのページにおける再生時参照光角度差ΔΘrを求めることにより、再生時参照光波面を求めることができる。
【0052】
以下、具体的な数値を用いた実施例について説明する。
【0053】
参照光波面は、前述したように波面制御器21を用いて制御することができる。波面制御器21は複数(m個)の駆動部(d〜d)を有し、各駆動部に独立した設定値(ν〜ν)を与えることにより任意の波面を作製することができるデフォーマブルミラーを用いることができる。
【0054】
ここでは、100ページに亘って角度多重されたホログラムの歪み補償を考える。
【0055】
はじめに、従来の最適化手法により1ページ目、50ページ目、100ページ目において参照光波面の最適化を行い、このときの波面制御器21の各駆動部の設定値(1ページ目ν1p1からνmp1、50ページ目ν1p50からνmp50、100ページ目ν1p100からνmp100)を求める。参照光角度差ΔΘと波面制御器21の各駆動部の設定値νとの関係は、参照光角度差ΔΘが1より小さいことから、下式(3)の近似式により表わすことができる。
【0056】
【数3】

【0057】
図5に示すグラフ形状を、双曲線関数式である下式(4)でフィッティングすると、波面制御器21の各駆動部の設定値νは、下式(5)に従って変化する。
【0058】
【数4】

【0059】
波面制御器21の駆動部dにおいて、1ページ目、50ページ目、100ページ目の参照光角度Θrp1、Θrp50、Θrp100および設定値ν1p1、ν1p50、ν1p100を用いて上式(5)の双曲線関数の係数a’、b’、c’を求める。これにより2ページ目から49ページ目、51ページ目から99ページ目の波面制御器21の駆動部dの設定値(ν1p2からν1p49およびν1p51からν1p99)が得られる。
【0060】
同様に、他の駆動部dからdに対して双曲線で補間して、それぞれの駆動部において係数a’、b’、c’を求め、2ページ目から49ページ目、51ページ目から99ページ目の波面制御器21の駆動部(dからd)の設定値(ν2p2からν2p49およびν2p51からν2p99・・・νmp2からνmp49およびνmp51からνmp99)を求める。
【0061】
これにより全てのページのホログラム歪みを補償する波面が得られる。この波面を用いて再生することにより、再生データのSNRを改善することができる。本実施例によれば、補償回数を100回から3回に低減することができ、補間演算に要する時間は補償時間に比べて十分短いため、全ページについて波面の最適化を図るために要する時間は略3/100に低減できる。
【0062】
実施例では図5の近似式を双曲線関数としているが、一次関数(必要なページデータ数は2)、二次関数、三次関数、あるいはさらに高次の関数や、指数関数、対数関数など他の関数を近似式(フィッティング関数)としてもよい。
【0063】
図5の関係を二次関数である下式(6)でフィッティングした場合、波面制御器21の各駆動部の設定値νmは、下式(7)に従って変化する。
【0064】
【数5】

【0065】
上式における未知の係数が3であるため、必要なページデータの補償回数は3となり、全ページの最適化を図るために要する時間を略3/100に低減できる。
【0066】
また、三次関数式である下式(8)を用いてフィッティングした場合、波面制御器21の各駆動部の設定値νmは、下式(9)に従って変化する。
【0067】
【数6】

【0068】
上式(6)の二次関数と比較して近似の精度は高くなるものの、必要なページデータの補償回数は4に増加するため、全ページの最適化を図るために要する時間は4/3倍となり時間的な効率化の程度が低下する。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に態様が限定されるものではない。
【0070】
例えば、波面制御器としてはデフォーマブルミラーに限られるものではなく、液晶パネル(例えば、浜松ホトニクス製 LCOS-SLM X10468シリーズ)や、特定のゼルニケ係数を補正する液晶レンズ、あるいは音響光学変調素子、電気光学変調素子など複数の素子を組み合わせた光学系などによって構成することも可能である。
【0071】
また、波面制御器の制御方式としては、遺伝的アルゴリズムを用いたものに限られず、フィードバック制御やフィードフォワード制御などの他の方式を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,201 レーザ光源
2,202 発散レンズ
3,203 コリメートレンズ
4,204 半波長板
5,205,222 ミラー
6,7,206,207 偏光ビームスプリッタ
8,208 空間光変調素子
9,20,209,224 シャッタ
10,12,23a、23b、210,212 レンズ
11,211 ホログラム記録媒体
13,213 CCD
22 回転器
21 波面制御器
40 計測制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ページデータが干渉縞の形態で多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータを再生する情報再生部を備え、該情報再生部は、該ホログラム記録媒体の収縮または膨張により生じる干渉縞歪みを補償して、前記ページデータについての最適な波面に調整する、前記再生時参照光の光路中に配置される波面制御器、を含むホログラム再生装置において、
前記情報再生部は、前記ホログラム記録媒体に記録された多重数よりも少ない数に係るページの前記ページデータについて前記波面制御器を用いて最適な波面を求めるものであり、
さらに、該再生したページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページデータについての最適な波面を求めるページデータ補間手段を備えたことを特徴とするホログラム再生装置。
【請求項2】
前記記録された多重数(4以上)よりも少ない数のページデータが、3ページ分のページデータであることを特徴とする請求項1記載のホログラム再生装置。
【請求項3】
前記補間に係る処理に用いられるフィッティング関数が、双曲線関数であることを特徴とする請求項1または2記載のホログラム再生装置。
【請求項4】
前記補間に係る処理は、前記再生した各ページデータに係る最適な波面が得られたときの前記波面制御器の駆動部の設定値に基づき、前記その余のページデータに対する波面制御器の駆動部の設定値を求めるものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載のホログラム再生装置。
【請求項5】
ページデータが干渉縞の形態で多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータを再生する際に、ホログラム記録媒体の収縮または膨張により生じる干渉縞歪みを波面制御器を用いて補償し、最適な波面を求めるホログラム歪補償方法において、
記録された多重数よりも少ない数のページデータについて、前記波面制御器により最適な波面を求め、次に、該求めたページデータに係る最適な波面を補間して、その余のページデータの最適な波面を求めることを特徴とするホログラム歪補償方法。
【請求項6】
前記補間に係る処理では、前記再生した各ページデータに係る最適な波面が得られたときの前記波面制御器の駆動部の設定値に基づき、前記その余のページデータに対する波面制御器の駆動部の設定値を求めることを特徴とする請求項5記載のホログラム歪補償方法。


【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−97209(P2013−97209A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240687(P2011−240687)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】