説明

ホログラム記録装置及びホログラム記録方法

【課題】空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを効率的に記録する。
【解決手段】本発明のホログラム記録装置は、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録装置であって、物体(20)から互いに反対の側へ射出する1対の物体光を個別に導光し、それら1対の物体光を所定面(5)で干渉させる1対の光学系(6、7)と、前記1対の物体光が前記所定面に形成する光強度分布を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録装置及びホログラム記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィー顕微鏡は、空間的にコヒーレントな照明光で物体を照明し、物体で生じた回折光を所定の参照光と干渉させ、それによって生じた干渉パターンを物体光のホログラムとして記録するものであって、生物試料など、微細構造を有する物体の三次元構造を観察するのに有効である。
【0003】
一方、生物試料の有効な観察方法として蛍光観察がある。但し、蛍光は参照光と干渉させることはできないため、上記のホログラフィー顕微鏡で蛍光のホログラムを記録することはできない。そこで、インコヒーレントな物体光のホログラムを記録する非特許文献1、非特許文献2の技術が有効になる。
【0004】
非特許文献1の技術では、試料上の1点から射出した蛍光のホログラムを記録するために、エアリーパターン状の強度パターンをもった励起光を試料へ照射し、その強度パターンを時間変調させたときの蛍光強度の変化を非結像型のセンサで検出している。
【0005】
また、非特許文献2の技術では、試料上から射出した蛍光のホログラムを記録するために、空間的にインコヒーレントな光で試料上を照明し、試料における反射光をSLM(空間光変調素子)で回折し、その回折0次光と回折1次光とが成す干渉パターンをCCDで撮像している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Scanning holographic microscopy of three-dimensional fluorescent specimens", J. Opt. Soc. Am. A, vol. 23, pp1699, 2006
【非特許文献2】"Digital spatially incoherent Fresnel holography", OPTICS LETTERS, vol. 32, pp912, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の技術では、試料を光軸に垂直な面内で走査する必要があるので、ホログラムの記録に多大な時間がかかるという問題がある。
【0008】
また、非特許文献2の技術では、光を分岐するためにSLMを使用するので、ホログラムの三次元的分解能がSLMの解像度に左右されるという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを効率的に記録することのできるホログラム記録装置及びホログラム記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のホログラム記録装置を例示する一態様は、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録装置であって、物体から互いに反対の側へ射出する1対の物体光を個別に導光し、それら1対の物体光を所定面で干渉させる1対の光学系と、前記1対の物体光が前記所定面に形成する光強度分布を検出する検出手段とを備える。
【0011】
本発明のホログラム記録方法を例示する一態様は、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録方法であって、物体から互いに反対の側へ射出する1対の物体光を1対の光学系で個別に導光し、それら1対の物体光を所定面で干渉させる干渉手順と、前記1対の物体光が前記所定面に形成する光強度分布を検出する検出手順とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを効率的に記録することのできるホログラム記録装置及びホログラム記録方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ホログラム観察装置の概略構成図である。
【図2】結像、干渉の様子を説明する図である。
【図3】検出面5上に形成される干渉パターンの模式図である。
【図4】ホログラムの記録に関するフローチャートである。
【図5】ホログラムの再生に関するフローチャートである。
【図6】縞画像(位相シフト量−π)を示す図である。
【図7】縞画像(位相シフト量−π/2)を示す図である。
【図8】縞画像(位相シフト量0)を示す図である。
【図9】縞画像(位相シフト量π/2)を示す図である。
【図10】縞画像(位相シフト量π)を示す図である。
【図11】一方の蛍光輝点の或る復元面における復元像を示す図である。
【図12】他方の蛍光輝点の同じ復元面における復元像を示す図である。
【図13】ホログラム観察装置の変形例を示す図である。
【図14】ホログラム観察装置の別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態は、ホログラム観察装置の実施形態である。このホログラム観察装置の観察対象(観察試料)は、蛍光試薬の添加された生物試料である。
【0015】
先ず、本実施形態のホログラム観察装置の構成を説明する。図1は、ホログラム観察装置の概略構成図である。図1に示すとおりホログラム観察装置には、励起光源1、ハーフミラー2、ミラー3、結像光学系である正方向光学系6、結像光学系である負方向光学系7、ビームスプリッター4、フィルター8などが備えられる。また、図示省略したが、このホログラム観察装置には、検出面5へ配置される二次元画像検出器、二次元画像検出器に接続されるコンピュータ、観察試料20を支持して光軸方向へ移動させるステージなども備えられる。
【0016】
励起光源1は、観察試料20に含まれる蛍光分子を効率的に励起する波長のレーザである。励起光源1から射出した光束は、ハーフミラー2を透過した後に正方向光学系6の一部のレンズを介して観察試料20へ照射される。これによって、観察試料20に含まれる個々の蛍光分子が励起され、それぞれ蛍光を発する。なお、観察試料20中の互いに異なる蛍光輝点から発せられた蛍光同士は互いに干渉しないが、同じ蛍光輝点から発せられた光波は互いに干渉する。
【0017】
個々の蛍光輝点から発せられた蛍光のうち、正方向光学系6の側へ進む蛍光(正方向の蛍光)は、正方向光学系6の一部のレンズを介してハーフミラー2へ入射し、そのハーフミラー2で反射した後、正方向光学系6の他の一部のレンズを介してビームスプリッター4へ向かう。ビームスプリッター4へ入射した正方向の蛍光は、ビームスプリッター4の分離面を透過した後、フィルター8を介して検出面5へ到達する。
【0018】
一方、個々の蛍光輝点から発せられた蛍光のうち、負方向光学系7の側へ進む蛍光(負方向の蛍光)は、負方向光学系7の一部のレンズを介してミラー3へ入射し、そのミラー3で反射した後、負方向光学系7の他の一部のレンズを介してビームスプリッター4へ向かう。ビームスプリッター4へ入射した負方向の蛍光は、ビームスプリッター4の分離面を反射した後、フィルター8を介して検出面5へ到達する。
【0019】
したがって、或る蛍光輝点から発生した正方向の蛍光及び負方向の蛍光は、その蛍光輝点の光軸方向の位置に依存する干渉パターンを検出面5上に形成する。そして、このような干渉パターンは、観察試料20中の個々の蛍光輝点についてそれぞれ形成される。なお、個々の蛍光輝点に対応する個々の干渉パターンは、検出面5上でインコヒーレントに重ね合わさる(後述する図3を参照)。
【0020】
検出面5の入射側に配置されたフィルター8は、その検出面5へ入射可能な蛍光の波長域を、蛍光スペクトルのピーク波長及びその近傍波長域のみに制限する狭帯化フィルターである(例えば中心波長600nm)。これによって、同一の蛍光輝点から発せられた2つの蛍光の間の干渉性を高めることができる。
【0021】
検出面5に配置された二次元画像検出器は、検出面5上に生じた干渉パターンの全体を撮像し、それによって取得した画像(縞画像)をコンピュータへ送出する。コンピュータは、その縞画像をホログラムとして保存する。
【0022】
なお、ステージが観察試料20を移動させると、検出面5上の干渉パターンが変化する。ここでは、ステージによる観察試料20の移動パターンを5段階のステップ移動とし、以下、そのステップ移動の中心(3段階目)に相当するステージの位置をステージの基準位置と定める。
【0023】
ここで、ホログラム観察装置の光学系が満たすべき条件は、以下の条件(a)〜(d)である。
【0024】
(a)観察試料20の基準面9の正方向光学系6による共役面10と、基準面9の負方向光学系7による共役面11とは、図2に詳しく示すとおり光軸方向にずれている。この場合、同一の蛍光輝点から発せられた正方向の蛍光L10による点像I10と負方向の蛍光L11による点像I11とが光軸方向にずれることになり、そのズレ量は、その蛍光輝点の基準面9からのズレ量に依存する。したがって、蛍光L10の波面W10と蛍光L11の波面W11とが検出面5上に形成する干渉パターンには、その蛍光輝点の光軸方向の位置情報が反映される。
【0025】
(b)二次元画像検出器の配置先(検出面5)は、図2に示すとおり共役面10、11の中間点である。この場合、同一の蛍光輝点に対応する波面W10、W11のサイズが検出面5上で等しくなるので、複素振幅ホログラムの演算(後述)を簡略化することができる。
【0026】
(c)正方向光学系6の結像倍率と負方向光学系7の結像倍率とは等しい。この場合、同一の蛍光輝点に対応する波面W10、W11が横ずれしなくなり、しかもその横ずれの無い状態は、ステージ移動時にも保たれるので、複素振幅ホログラムの演算(後述)を簡略化することができる。また、点像I10から検出面5までの距離と点像I11から検出面5までの距離とが等しくなるので、それによっても演算の簡略化が可能である。
【0027】
(d)ステージが基準位置にあるときにおける基準面9から検出面5までの主光線の光路長は、正方向の蛍光L10と負方向の蛍光L11との間で等しい。このように設定しておけば、同一の蛍光輝点に対応する蛍光L10、L11に含まれる全ての光線の光路長差を一定以下にし、それら蛍光L10、L11の干渉性を保つことができる。
【0028】
そして、以上の条件(a)〜(d)によると、個々の蛍光輝点に対応する個々の干渉パターンは、図3に模式的に示すとおり、外周にいくほどピッチの細かくなる同心円状パターンPとなる。
【0029】
また、図3に示した個々の同心円状パターンPの中心位置は、個々の蛍光輝点の光軸と垂直な方向の位置を示し、個々の同心円状パターンPは、個々の蛍光輝点の基準面9からの距離情報を含む。また、上記したステージが移動すると、個々の同心円状パターンPの位相のみが変化する。よって、本実施形態のホログラム観察装置は、観察試料20から射出した蛍光の複素振幅ホログラムを周知の位相シフト法によって簡単に取得することができる。
【0030】
なお、二次元画像検出器のピクセルサイズは、例えば6μmに設定される。また、二次元画像検出器のピクセル数は、例えば2000×2000に設定される。また、正方向光学系6、負方向光学系7の各々の像側NAは、例えば0.025に設定される。また、正方向光学系6、負方向光学系7の各々の物体側NAは、高い分解能を得るために例えば0.5に設定される。また、正方向光学系6、負方向光学系7の各々の結像倍率は、例えば20倍に設定される。
【0031】
次に、或る1つの蛍光輝点に対応する1つの同心円状パターンPを詳しく説明する。図2に示したとおり1つの同心円状パターンPは、正方向の蛍光L10の波面W10と、負方向の蛍光L11の波面W11とが成すものであり、このうち一方の蛍光(図2では蛍光L10)は、点像I10に向かって収束する収束光束であり、他方の蛍光(図2では蛍光L11)は、点像I11で集光した後に発散する発散光束である。
【0032】
よって、検出面5上で同心円状パターンPの中心から距離rだけ離れた位置における蛍光L10、L11の光路長差Lは、点像I10、点像I11と検出面5との間隔dに対して近似的に式(1)で表される。
【0033】
【数1】

なお、式(1)で表される光路長差Lは、蛍光L10、L11の一方が平面波であった場合の光路長差の2倍に相当する。
【0034】
また、同心円状パターンPのピッチpは、外周部ほど細かくなり、同心円状パターンPの中心から距離rだけ離れた位置におけるピッチpは、間隔dと、蛍光L10、L11の波長λとに対して、式(2)で表される。
【0035】
【数2】

したがって、仮に、本実施形態のホログラムを通常の再生方法(平面波状の再生光を想定した再生方法)で再生したならば、z=dの位置に復元されるべき点像が、z=d/2の位置に復元されてしまう(なお、ここでいう「z」は、検出面5を基準とした光軸方向の位置のことである。)。
【0036】
そこで、本実施形態のホログラムを再生する際には、通常の再生方法(平面波状の再生光を想定した再生方法)で復元像を得た後、その復元像のz座標を2倍に伸張する必要がある(後述するステップS8)。
【0037】
また、復元される点像の径、すなわち復元の分解能は、同心円状パターンPの最小ピッチp(外周部のピッチpmin)と波長λとに依存する。よって、復元の分解能を高めるには、式(2)においてr/dをなるべく大きくすればよい。
【0038】
但し、r/dを大きくすると、式(1)における光路長差Lが大きくなり、同一の蛍光輝点から発せられた蛍光L10、L11の干渉性が低下する。よって、干渉性を考慮したならば、光路長差Lは、蛍光のコヒーレンス長以内に収められるべきである。なお、ここではコヒーレンス長を、「光路長差の変化時に得られる干渉強度変化カーブの包絡線の半値半幅」と定義する。
【0039】
したがって、本実施形態では、間隔dは、式(1)で表される光路長差Lがコヒーレンス長以内になるような値に定められることが望ましい。例えば、前述したとおり正方向光学系6、負方向光学系7の各々の像側NAが0.025に設定された場合に、フィルター8の波長幅は5nmに設定され、ステージが基準位置にあるときにおける間隔dは57.6mmに設定される。その場合、基準面9上の蛍光輝点に対応する2つの蛍光L10、L11の光学系NA外周部での光路長差Lは、コヒーレンス長と合致する。よって、互いに干渉させるべき光波の干渉性を保ちながら分解能を高めることができる。
【0040】
次に、ホログラム観察装置によるホログラムの記録動作を説明する。図4は、ホログラム観察装置によるホログラムの記録動作のフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0041】
ステップS1:ホログラム観察装置は、励起光源1を駆動して観察試料20に含まれる蛍光分子を励起すると共に、二次元画像検出器を駆動して縞画像Vを取得し、その縞画像Vをコンピュータのメモリへ格納する。
【0042】
ステップS2:ホログラム観察装置は、縞画像Vの取得枚数が予め決められた枚数(ここでは5とする。)に達したか否かを判別し、達していなければステップS3へ移行し、達していればステップS4へ移行する。
【0043】
ステップS3:ホログラム観察装置は、ステージを移動させてからステップS1へ戻る。したがって、ステップS1〜S3のループは、ステージを移動させながら5回繰り返される。なお、ステージの1ステップ当たりの移動量は、前述した同心円状パターンPの位相シフト量δがπ/2となるような移動量(λ/8)である。したがって、ステップS1〜S3のループの繰り返しにより、位相シフト量δの互いに異なる5枚の縞画像V(j=−2、−1、0、1、2)が取得されることになる。
【0044】
ステップS4:ホログラム観察装置のコンピュータは、ステップS1〜S3にて取得した5枚の縞画像Vを後述する位相シフト法の式(式(9))へ当てはめることにより複素振幅ホログラムHを算出し、それをコンピュータのメモリへ保存し、フローを終了する。
【0045】
次に、上記したステップS4において取得される複素振幅ホログラムHを数式で説明する。
【0046】
先ず一般に、物体側に点物体が存在するときに光学系が像側に生起させる複素振幅分布S(x’、y’、z’)は、式(3)で表される。
【0047】
【数3】

但し、(x’、y’)は、光軸と垂直な面内の座標であり、z’は、結像点を基準とした光軸方向の座標であり、fは光学系の焦点距離であり、(ξ、η)は光学系の瞳座標であり、(u、v)は瞳座標(ξ、η)を焦点距離fで規格化したものであり、p(u,v)は光学系の瞳関数である。なお、ここでは瞳関数p(u、v)を、理想的な瞳関数(光学系のNA内では1)とする。
【0048】
よって、本実施形態のホログラム観察装置において、基準面9上に或る1つの蛍光輝点が存在するとき(つまり正方向光学系6が共役面10上に点像I10を形成するとき)に、正方向光学系6が検出面5上に生起させる複素振幅分布は、式(3)においてz’=−dとおいたものに相当する。ここで、dは共役面10、11と検出面5との間隔である。
【0049】
同様に、本実施形態のホログラム観察装置において、基準面9上に或る1つの蛍光輝点が存在するとき(つまり負方向光学系7が共役面11上に点像I11を形成するとき)に、負方向光学系7が検出面5上に生起させる複素振幅分布は、式(3)においてz’=dとおいたものに相当する。
【0050】
したがって、本実施形態のホログラム観察装置において、検出面5から任意の距離zだけ離れた位置に点像が形成されるときに、正方向光学系6が検出面5上に生起させる複素振幅分布Saと、負方向光学系7が検出面5上に生起させる複素振幅分布Sbとは、それぞれ式(4)、(5)のとおり表される。
【0051】
【数4】

【0052】
【数5】

したがって、本実施形態のホログラム観察装置において、検出面5からzだけ離れた位置に点像が形成されるときに、その検出面5上に生起する同心円状パターンPの強度分布Q(x、y、z)は、式(6)のとおり表される。
【0053】
【数6】

さらに、同心円状パターンPの前述した位相シフト量δを考慮すれば、その同心円状パターンPの強度分布Q(x、y、z)は、式(7)のとおり表される。
【0054】
【数7】

また、上記したステップS1において取得される縞画像V(x、y)は、同心円状パターンPの強度分布Q(x、y、z)と、観察試料20における蛍光輝点の分布I(x、y、z)とのコンボリューション、すなわち式(8)で表される。
【0055】
【数8】

また、上記したステップS4において使用される位相シフト法の式は、式(9)のとおりである。
【0056】
【数9】

したがって、上記したステップS4において取得される複素振幅ホログラムH(x、y)は、式(10)のとおり表される。
【0057】
【数10】

したがって、上記したステップS4において取得された複素振幅ホログラムH(x、y)を式(11)に当てはめれば、復元面の高さ(z座標)がzであるときの復元像R(x、y)を得ることができる。なお、この式(11)によるホログラム再生方法は、通常のホログラム再生方法(平面波状の再生光を想定した再生方法)に相当する。
【0058】
【数11】

次に、ホログラム観察装置によるホログラムの再生動作を説明する。図5は、ホログラム観察装置によるホログラムの再生動作のフローチャートである。なお、このフローチャートは、コンピュータによって実行される。以下、各ステップを順に説明する。
【0059】
ステップS5:コンピュータは、メモリに保存された複素振幅ホログラムHを読み出し、それを上記した式(11)に当てはめることにより、復元面の高さがzであるときの復元像Rを算出する。
【0060】
ステップS6:コンピュータは、復元像Rの算出枚数が所定枚数に達したか否かを判別し、達していなければステップS7へ移行し、達していればステップS8へ移行する。
【0061】
ステップS7:コンピュータは、復元面の高さzを変更してからステップS5へ戻る。よって、ステップS5〜S7のループは、復元面の高さzを変更しながら所定回数だけ繰り返され、その結果、三次元データR(x、y、z)が取得されることになる。但し、式(11)によるホログラム再生方法は、通常のホログラム再生方法(平面波状の再生光を想定した再生方法)に相当するので、次のステップS8における補正処理が必要である。
【0062】
ステップS8:コンピュータは、ステップS5〜S7にて取得した三次元データR(x、y、z)のz軸を2倍に伸張し、補正後の三次元データR(x、y、z’)を取得する。補正後の三次元データR(x、y、z’)が、観察試料20の三次元蛍光像を正しく表す。
【0063】
ステップS9:コンピュータは、ステップS8で取得した補正後の三次元データR(x、y、z’)を画像化し、観察試料20の三次元蛍光像として不図示のモニタへ表示し、フローを終了する。
【0064】
以上、本実施形態のホログラム観察装置は、観察試料20の正方向に射出した蛍光と負方向に射出した蛍光とを別々の光学系で同一の検出面5へ導き干渉させるので、観察試料20に含まれる個々の蛍光輝点の三次元位置情報を1枚の縞画像へ反映させることができる。したがって、本実施形態のホログラム観察装置は、蛍光のホログラムを効率的に記録することができる。
【0065】
また、本実施形態のホログラム観察装置は、条件(a)〜(d)を満たすので、従来と同様の位相シフト法を適用することが可能である。したがって、本実施形態のホログラム観察装置は、蛍光の複素振幅ホログラムを簡単に得ることができる。
【0066】
また、本実施形態のホログラム観察装置では、二次元画像検出器へ入射可能な蛍光の波長域を狭めるフィルター8が用いられており、しかも、光学系NA内での光路長差Lが蛍光のコヒーレンス長以内に設定されるので、互いに干渉させるべき光波が確実に干渉する。したがって、本実施形態のホログラム観察装置は、蛍光のホログラムを高精度に記録することができる。
【0067】
また、本実施形態のホログラム観察装置は、本実施形態のホログラム観察装置が記録した複素振幅ホログラムを適正な演算処理によって再生するので、観察試料20の正しい三次元蛍光像を簡単に得ることができる。
【0068】
なお、本実施形態のホログラム観察装置において、観察試料20の厚さ(z方向の高さ)が大きかった場合には、ステージの基準位置(すなわちステップ移動の中心)を複数通りに変位させながら、前述した記録動作(ステップS1〜S4)を繰り返せばよい。
【0069】
[実施例]
以下、ホログラム観察装置の実施例(光学設計データに基づくシミュレーション結果)を説明する。
【0070】
本実施例において、光学系の仕様は、前述した実施形態で例示したものと同じである。また、本実施例では、微小な2つの蛍光輝点が存在している観察試料20を想定し、それらの蛍光輝点は、光軸に垂直な面内で(xy方向にかけて)0.144mmだけ離れており、かつ光軸方向(z方向)にかけて5μmだけ離れているものとした。
【0071】
本実施例では、以上の設定下で、位相シフトを行い、5枚の縞画像Vを取得した。取得された5枚の縞画像Vは、図6〜図10に示すとおりであった。これら5枚の縞画像Vの間では、同心円状パターンの位相が異なる。
【0072】
また、本実施例では、これら5枚の縞画像Vから複素振幅ホログラムHを算出し、さらに一方の蛍光輝点の点像の近傍に復元面を設定し、その複素振幅ホログラムHからその復元面における復元像を算出した。なお、本実施例では、一方の蛍光輝点の復元像と、他方の蛍光輝点の復元像とを別々に算出した。
【0073】
算出された一方の蛍光輝点の復元像、他方の蛍光輝点の復元像は、それぞれ図11、図12に示すとおりであった。なお、図11、12の各々の横座標は、各々の蛍光輝点の復元像が中央に位置するように設定されている。
【0074】
図11に示すとおり、一方の蛍光輝点の復元像はシャープに復元されているが、図12に示すとおり、他方の蛍光輝点の復元像はぼけて復元されている。よって、各蛍光輝点の復元像に各蛍光輝点のz方向の位置情報が反映されていることは、明白である。
【0075】
[変形例1]
なお、上述した実施形態では、干渉パターンの位相をシフトさせるために観察試料20を光軸方向に移動させる方法が採用されたが、偏光を利用してもよい。その場合、上述した実施形態の装置を図13のとおりに変形するとよい。
【0076】
図13に示すとおり、本変形例では正方向光学系6の単独光路中に偏光子31及び1/4波長板33が配置され、負方向光学系7の単独光路中に偏光子32及び1/4波長板34が配置され、正方向光学系6及び負方向光学系7の共通光路中に偏光子35が配置される。
【0077】
このうち、偏光子31の方位と偏光子32の方位とは揃えられている。なお、励起光が直線偏光の場合、それらの方位は、励起光の偏光方向に揃えられていることが望ましい。
【0078】
また、1/4波長板33の方位と、1/4波長板34の方位との組み合わせは、正方向の光路と負方向の光路との間で反対回りの円偏光が得られるように設定される。
【0079】
したがって、本変形例では、偏光子35の方位を変化させるだけで、互いに干渉させるべき正方向の蛍光と負方向の蛍光との光路長差が変化し、干渉パターンの位相が変化する。
【0080】
[変形例2]
また、上述した実施形態では、観察すべき物体光を蛍光としたが、インコヒーレントな他の光であってもよい。例えば、インコヒーレントな光で照明された観察試料で発生する散乱回折光であってもよい。その場合は、上述した実施形態の装置を、図14のとおりに変形するとよい。
【0081】
図14に示すとおり、本変形例の基本的な構成は上述した実施形態の構成と同じであるが、励起光源1の代わりに、空間的にインコヒーレントな光を射出するインコヒーレント光源40が配置される。インコヒーレント光源40は、例えば、HeNeレーザと、その射出側に配置された回転拡散板とを備えた光源である。
【0082】
また、インコヒーレント光源40の光軸は、他の光学系の光軸から外されており、これによって、観察試料20に向かう照明光に角度をつけ、観察試料20を透過した照明光(直接光)が負方向光学系7へ入射するのを防いでいる(斜光照明)。
【0083】
したがって、本変形例において二次元画像検出器に到達できるのは、観察試料20で発生した散乱回折光のみとなる。よって、散乱回折光による干渉パターンを、前述した実施形態における干渉パターン(蛍光による干渉パターン)と同様に検出することが可能となる。
【0084】
一般に、空間的にコヒーレントな照明を用いたホログラフィー顕微鏡などではコヒーレント散乱ノイズが問題となることが多いが、本変形例のように意図的に空間コヒーレンスを落としておけば、この問題を回避できる。
【0085】
なお、本変形例では、正方向の散乱回折光の強度と負方向の散乱回折光の強度とが同じになるとは限らないので、正方向の光路と負方向の光路との少なくとも一方へ減光フィルターを挿入し、検出面5へ入射可能な正方向の散乱回折光の強度と負方向の散乱回折光の強度とのバランスを保ってもよい。両者のバランスを保てば、干渉パターンのコントラストを高くすることができる。
【0086】
なお、本変形例に限らず、上述した実施形態においても、正方向の蛍光の強度と負方向の蛍光の強度とバランスが悪い場合には、これと同じ方法(減光フィルタを挿入する方法)を適用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…励起光源、2…ハーフミラー、3…ミラー、4…ビームスプリッター、5…検出面、6…正方向光学系、7…負方向光学系、8…フィルター、9…基準面、10、11…共役面、20…観察試料、31、32、35…偏光子、33、34…1/4波長板、40…インコヒーレント光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録装置であって、
物体から互いに反対の側へ射出する1対の物体光を個別に導光し、それら1対の物体光を所定面で干渉させる1対の光学系と、
前記1対の物体光が前記所定面に形成する光強度分布を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホログラム記録装置において、
前記1対の光学系の一方による前記物体の基準位置の共役位置と、前記1対の光学系の他方による前記基準位置の共役位置とは、前記所定面の互いに反対の側に位置する
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のホログラム記録装置において、
前記1対の光学系の一方による前記物体の基準位置の共役位置と、前記1対の光学系の他方による前記基準位置の共役位置とは、前記所定面に関して対称である
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記1対の光学系の一方による前記物体の結像倍率と、前記1対の光学系の他方による前記物体の結像倍率とは、等しい
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記物体の基準位置から前記所定面までの主光線の光路長は、前記1対の光学系の一方と他方との間で等しい
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記所定面へ入射可能な物体光のスペクトルを狭帯化する狭帯化手段を更に備える
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記1対の光学系の一方の光路を経る物体光と他方の光路を経る物体光との前記所定面における光路長差は、前記1対の光学系のNA範囲内で前記物体光のコヒーレンス長以内に設定される
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記1対の物体光の光路長差を変化させながら前記検出手段による検出を繰り返す制御手段を更に備える
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項9】
請求項8に記載のホログラム記録装置において、
前記検出手段が前記繰り返しにより検出した複数の光強度分布に基づき複素振幅ホログラムを算出する算出手段を更に備える
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項10】
請求項9に記載のホログラム記録装置において、
前記演算手段が算出した複素振幅ホログラムに基づき前記物体の像を復元する復元手段を更に備える
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項10の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記物体に含まれる蛍光物質を励起する励起手段を更に備え、
前記1対の光学系は、前記励起により前記物体で生じた蛍光を前記物体光として前記所定面へ導光する
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項12】
請求項1〜請求項11の何れか一項に記載のホログラム記録装置において、
前記物体を空間的にインコヒーレントな光で照明する照明手段を更に備え、
前記1対の光学系は、前記照明により前記物体で生じた回折光を前記物体光として前記所定面へ導光する
ことを特徴とするホログラム記録装置。
【請求項13】
空間的にインコヒーレントな物体光のホログラムを記録するホログラム記録方法であって、
物体から互いに反対の側へ射出する1対の物体光を1対の光学系で個別に導光し、それら1対の物体光を所定面で干渉させる干渉手順と、
前記1対の物体光が前記所定面に形成する光強度分布を検出する検出手順と、
を含むことを特徴とするホログラム記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−249639(P2010−249639A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98911(P2009−98911)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】