説明

ホース組付け用防錆潤滑剤組成物、並びにホース組付け用防錆潤滑剤組成物を用いたホースの取付部分における隙間腐食の抑制方法

【課題】本発明は、ホースの接続部分へのホース組み付け作業をより円滑に行うことができると共に、経時と共に接続部分において生じる隙間腐食の進行を効果的に抑制することができるホース組付け用防錆潤滑剤組成物、並びにホース組付け用防錆潤滑剤組成物を用いたホースの取付部分における隙間腐食の抑制方法に関する。
【解決手段】本発明の組成物は、水、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を主成分とすると共に、前記主成分中に少なくとも1種の防錆剤を含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンとラジエータとを繋ぐホースを組付ける際に使用するホース組付け用防錆潤滑剤組成物、並びにホース組付け用防錆潤滑剤組成物を用いたホースの取付部分における隙間腐食の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用エンジンは、その機関温度を適正に維持するために、ウォータージャケットとラジエータとの間に冷却水を循環させて冷却を行っている。詳細には、図1に示すように、エンジン10にはウォータージャケット11が取り付けられ、このウォータージャケット11には、該ウォータージャケット11の冷却水を冷却するラジエータ12が接続されている。また、ウォータージャケット11の入口側には、冷却水をウォータージャケット11に圧送するウォーターポンプ16が設けられ、ウォータージャケット11の出口側には、冷却水の温度に応じて冷却水の流通を制御するサーモスタット13が設けられている。また、エンジン10側には、車室内を暖房するヒータコア14が設けられている。
【0003】
上記エンジン10側とラジエータ12側とには、サーモスタット13を通過した冷却水をラジエータ12へと導くラジエータインレットホース15及びラジエータ12を通過した冷却水をウォーターポンプ16へと導くラジエータアウトレットホース17の端部がそれぞれ接続されている。また、ヒータコア14には、サーモスタット13を通過する前の冷却水をヒータコア14へと導くヒータインレットホース18及びヒータコア14を通過した冷却水をウォーターポンプ16へと導くヒータアウトレットホース19の端部がそれぞれ接続されている(特許文献1参照)。
【0004】
上記のとおり、エンジン回りの各部材は多数のホースで繋がれている。エンジン回りの各部材の多くは、アルミニウムや鉄などの金属部材から構成されており、これらを繋ぐホースには、各部材の接続部分の外形に対応して、これに密着した状態に嵌挿されるよう成形されたゴムホースが用いられている。
【0005】
このため、エンジン回りの各部材の接続部分にホースを繋いで組み付ける場合、ホースの口を指先で開いて径大とした上で、これを各部材の接続部分に押し込むという作業となり、大変に煩雑であった。
【0006】
特に自動車のエンジン回りの各部材の接続部分へのホースの組み付け作業の場合、狭い場所へのホースの組み付けであり、しかも限られた時間内に作業を確実に完了させなければならず、煩雑をきわめていた。
【0007】
そこで、従来、作業現場では、ホースの組み付けをより円滑に行うため、ホースの組み付けに先だって、ホースの接続部分に洗剤を塗布して潤滑性を付与するという試みがなされていた。
【0008】
しかし、ゴムホースの組み付け作業において、潤滑性を付与するために洗剤を使用した場合、以下のような問題があった。すなわち図2に示すように、ゴムホース20と各部材の接続部分21との間に造られる僅かな隙間22内は、冷却液中の防錆剤が浸透しにくく、防錆し難い環境となっている。この隙間22内に洗剤が存在し、この洗剤中に経時と共にゴムホース20中に含まれる加硫剤、加硫促進剤、劣化防止剤が抽出すると、それらの影響で金属部分が腐食し易くなる。さらには隙間22内外で酸素濃度の濃淡が生じ、それによる電位差の影響によって隙間22内はさらに腐食し易い環境となり、この結果、金属部材から構成される接続部分21に隙間腐食が発生することがあった。
【0009】
接続部分21における隙間腐食の進行に伴い、接続部分21の腐食部分はホース20を持ち上げ、これにより、ゴムホース20と接続部分21との間の隙間22が開き、この結果、この隙間22を通じて冷却水が漏れ出るなどの弊害を生じる恐れがあった。
【特許文献1】特開平10−212954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、ホースの接続部分へのホース組み付け作業をより円滑に行うことができると共に、経時と共に接続部分において生じる隙間腐食の進行を効果的に抑制することができるホース組付け用防錆潤滑剤組成物、及びホース組付部分における隙間腐食の抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明のホース組付け用防錆潤滑剤組成物(以下、単に組成物という)、及びホース組付部分における隙間腐食の抑制方法(以下、単に抑制方法という)をさらに詳しく説明する。本発明の組成物は、水、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を主成分とすると共に、前記主成分中に少なくとも1種の防錆剤を含有することを特徴とするものである。
【0012】
この組成物の主成分として使用されるアルコール類としては、例えば炭素数1〜8のメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0013】
グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールなどのアルキレングリコール、又はポリアルキレングリコールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0014】
グリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのアルキルエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
【0015】
上記主成分中に含まれる防錆剤としては、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、カルボン酸塩、アミン塩、トリアゾール類から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0016】
例示の防錆剤中、防錆力、入手容易性、取り扱い性、価格の点から、リン酸塩としてはリン酸のアルカリ金属塩が好ましく、硝酸塩としては硝酸ナトリウム及び/又は硝酸カリウムが好ましい。また、カルボン酸塩としては炭素数6〜12の脂肪族モノカルボン酸塩、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸塩、および芳香族カルボン酸塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、トリアゾール類としては、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0017】
上述した主成分並びに防錆剤の好ましい組合せ例としては、主成分がエチレングリコール及び/又はプロピレングリコール、並びに水であり、防錆剤がリン酸塩及び/又は硝酸塩である組成物を挙げることができる。
【0018】
この好ましい組合せ例における各組成は、全組成物重量に対して、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが30〜90%、水が5〜65%、リン酸塩及び/又は硝酸塩が1〜15%の含有割合とするのが望ましい。
【0019】
上述した主成分並びに防錆剤の別の好ましい組合せ例としては、主成分がエチレングリコール及び/又はプロピレングリコール、並びに水であり、防錆剤がカルボン酸塩及び/又はトリアゾール類である組成物を挙げることができる。
【0020】
この好ましい組合せ例における各組成は、全組成物重量に対して、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが30〜90%、水が5〜65%、カルボン酸塩及び/又はトリアゾール類が1〜15%の含有割合とするのが望ましい。
【0021】
尚、本発明の組成物は、エンジン回りの各部材をホースで繋ぐ場合に限らず、空調設備や潤滑系などのホースの組み付けを要する用途にも適用することができる。
【0022】
尚、本発明の組成物は、金属で構成された接続部分にホースを組み付ける場合は勿論、その一部または全部が合成樹脂で構成された接続部分にも、潤滑性を付与し組み付け作業の効率化を計ることができるという点で好適に使用できる。
【0023】
尚、本発明の組成物には、前記成分以外に例えばpH調整用の苛性アルカリ、染料、消泡剤、防腐剤等を含有させても良いし、従来公知の他の防錆剤である、リン酸エステル、カルボン酸エステル、石油スルホン酸塩、有機スルホン酸塩、メルカプトベンゾチアゾールなどを併用しても良い。
【0024】
次に、本発明の抑制方法について説明する。この抑制方法は、上述の組成物を用いることに特徴づけられたものであり、ホースを組付ける際に、当該組成物をホース内面及び又は取付部分に付着させて潤滑性を付与し、しかる後にホースを取付部分に挿入して組付けることで、経時と共にホースの取付部分で発生する隙間腐食を効果的に抑制するようにしたものである。
【0025】
この抑制方法において、組成物はホース内面または取付部分、あるいは両方のいずれに付着させてもよいが、当該組成物の付着方法としては、浸漬、スプレー散布、塗布など従来公知の方法を用いることができる。
【0026】
この抑制方法は、金属で構成された接続部分にホースを組み付ける場合は勿論、その一部または全部が合成樹脂で構成された接続部分にも、潤滑性を付与して組み付け作業の効率化を計ることができるという点で好適に使用できる。
【0027】
尚、本発明の抑制方法は、エンジン回りの各部材をホースで繋ぐ場合に限らず、空調設備や潤滑系などのホースの組み付けを要する用途にも適用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の組成物並びに抑制方法によれば、潤滑性を付与してホースの接続部分へのホース組み付け作業をより円滑に行うことができると共に、経時と共に接続部分において生じる隙間腐食の進行を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の組成物並びに抑制方法を実施例に従いさらに詳しく説明する。下記表1には、好ましい例としてエチレングリコールと水を主成分とし、これに防錆剤として、オルトリン酸、硝酸ナトリウムを添加した組成物(実施例1)、プロピレングリコールと水を主成分とし、これに防錆剤として、硝酸ナトリウムを添加した組成物(実施例2)、プロピレングリコールと水を主成分とし、これに防錆剤として、セバシン酸を添加した組成物(実施例3)、並びにエチレングリコールと水を主成分とし、これに防錆剤として、ベンゾトリアゾールを添加した組成物(実施例4)を挙げた。
【0030】
また、比較として、市販の自動車用不凍液(JIS K2234に適合した市販品、ゴールデンクルーザー、シーシーアイ株式会社製)(比較例1)並びに市販の台所用洗剤(直鎖アルキルベンゼン系界面活性剤とアルキルエーテル硫酸ナトリウムの2種の界面活性剤を27重量%の割合で含み、さらに安定剤を含ませた中性洗剤)(比較例2)を挙げた。尚、表1中の各例については、水酸化カリウム水溶液を添加してそれぞれpHが5.5〜8.5の範囲となるように調整した。
【0031】
また、同じく表1には、表1に示す実施例1〜4、並びに比較例1及び2の各例について、隙間腐食試験を行い、その結果を併記した。尚、隙間腐食試験は、アルミ合金鋳物製の自動車用ウォータパイプ(パイプ外径37mm)に布で2〜3ml塗布し、その後、EPDM製の自動車用ウォータホース(内径30mm)を組付け、スチール製ホースバンドにてホースをパイプに固定した。
【0032】
ウォータホースを組付けたウォータパイプを、JIS K2234(不凍液)の金属腐食性試験に準拠して、腐食試験を行なった。尚、この際、金属試験片は使わず、ウォータホースを組付けたウォータパイプのみを浸漬した。また、不凍液はJIS K2234(不凍液)に適合した市販品"ゴールデンクルーザーLLC"を30体積%に所定の腐食水にて希釈したものを使用した。
【0033】
88℃で336時間の浸漬試験の後、ウォータホースを組付けたウォータパイプを取り出して、ホースバンドを取り外した後、ウォータパイプからウォータホースを取り外し、ウォータパイプのウォータホースと接触していた部分及びその周辺の腐食状態を目視にて観察した。
【0034】
【表1】

上記表1から実施例1〜4の各組成物を付着したウォーターパイプにあっては、いずれも隙間腐食は確認されなかった。これに対し、市販の洗剤や不凍液を用いた比較例1及び2に係る組成物を付着させたウォーターパイプには、局部腐食が確認された。
【0035】
尚、上記実施の形態に示した例は、単なる説明例に過ぎず、例えば本発明の組成物をホースの製造過程でホースの内面側に塗布しておくなど、請求の範囲に記載された範囲内で自由に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は自動車用エンジンの冷却水の配管を示す模式図である。
【図2】図2はホースを取付部分に組み付けた状態を示す拡大断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を主成分とすると共に、前記主成分中に少なくとも1種の防錆剤を含有することを特徴とする、ホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項2】
アルコール類が炭素数1〜8のアルコールから選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項3】
グリコール類が炭素数1〜8のアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールから選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項4】
グリコールエーテル類が炭素数1〜8のアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項5】
防錆剤がリン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、カルボン酸塩、アミン塩、トリアゾール類から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項6】
主成分がエチレングリコール及び/又はプロピレングリコール、並びに水であり、防錆剤がリン酸塩及び/又は硝酸塩であることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項7】
リン酸塩がリン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする、請求項6記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項8】
硝酸塩が硝酸ナトリウム及び/又は硝酸カリウムであることを特徴とする、請求項6記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項9】
全組成物重量に対して、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが30〜90%、水が5〜65%、リン酸塩及び/又は硝酸塩が1〜15%であることを特徴とする、請求項6記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項10】
主成分がエチレングリコール及び/又はプロピレングリコール、並びに水であり、防錆剤が、カルボン酸塩及び/又はトリアゾール類であることを特徴とする、請求項1記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項11】
カルボン酸塩が炭素数6〜12の脂肪族モノカルボン酸塩、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸塩、および芳香族カルボン酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項10記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項12】
トリアゾール類がベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項10記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項13】
全組成物重量に対して、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが30〜90%、水が5〜65%、カルボン酸塩及び/又はトリアゾール類が1〜15%であることを特徴とする、請求項10記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物。
【請求項14】
ホースを組付ける際に、請求項1〜13記載のホース組付け用防錆潤滑剤組成物をホース内面及び又は取付部分に付着させ、しかる後にホースを取付部分に挿入して組付けることで、ホースの取付部分で発生する隙間腐食を抑制するようにしたことを特徴とする、ホースの取付部分における隙間腐食の抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−254693(P2007−254693A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84777(P2006−84777)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】