説明

ホーンアンテナおよびアンテナ装置

【課題】 ホーンアンテナは、開口径を小さくすることでビームをブロードにできるが、ホーン開口径を1波長以下の小開口径とすると空間とのインピーダンス整合がとれず、単純な構造でインピーダンス整合が可能なホーンアンテナが望まれていた。
【解決手段】 円筒ホーンアンテナから構成されるホーンアンテナにおいて、円筒ホーンアンテナ内壁における、ホーン開口から管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる位置に、管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる幅を有した段差部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホーンアンテナ、およびホーンアンテナを備えたアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛星に搭載される衛星搭載用アンテナとして、例えばテレメトリ−コマンドアンテナが用いられる。テレメトリ−コマンドアンテナは、衛星の動作状態を知らせるためのテレメトリ信号を送信し、地上からのコマンド信号を受信する際、衛星の姿勢のいかんに関わらず地上との間で信号回線を保たなければならない。このため、従来はブロードな放射指向性を得ることが出来るバイコニカルアンテナやクロスダイポールアンテナなどが用いられていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】電子情報通信学会編「アンテナ工学ハンドブック」オーム社、昭和55年10月30日、p326−332
【0004】
しかし、これらのアンテナはKu帯以上の比較的高い周波数帯では、製作が困難になる。そこで、高い周波数帯でも製作が容易なアンテナとして、円形導波管の一端を開放し、周囲にリング構造を設けたホーンアンテナを用いることもできる(例えば、特許文献1参照)。このホーンアンテナは円形導波管の開口径を小さくすることで、ブロードな放射指向性を得ることが可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−217459
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホーンアンテナは、開口径を小さくすることでビームをブロードにできるが、ホーン開口径を1波長以下の小開口径とすると、空間とのインピーダンス整合がとれないという問題がある。
【0007】
この発明は、かかる課題を解決するために成されたものであり、単純な構造でインピーダンス整合が可能なホーンアンテナを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係わるホーンアンテナは、円筒ホーンアンテナから構成されるホーンアンテナであって、円筒ホーンアンテナ内壁における、ホーン開口から管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる位置に、管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる幅を有した段差部を備えたものである。
【0009】
この発明に係わるアンテナ装置は、上記ホーンアンテナにおけるホーン開口とは反対側の端部に、円形導波管または方形導波管変換器が接続されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、円筒ホーンアンテナを小開口径にしてブロードな指向性を有するとともに、簡単な構造でインピーダンス整合を取ることが可能なホーンアンテナを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明に係る実施の形態1によるステップ付きホーンアンテナ100の概略構成図である。図1において、円筒ホーンアンテナ1は円形導波管の一端を開放したものである。また、円筒ホーンアンテナ1は、ホーン開口部(放射開口部)の内壁が円筒形状をなし、ホーン開口部とは反対側の根元側が円筒形状をなしている。
【0012】
ステップ構造2は円筒ホーンアンテナ1の内壁に設けられ、実施の形態1の特徴をなす段差部を構成する。ステップ構造2は、円筒ホーンアンテナ1のホーン開口部側の内壁面から所定高さH1の段差を有して突出するとともに、円筒ホーンアンテナ1のホーン根元部側の内壁面から所定高さH2の段差を有して突出している。また、ステップ構造2における根元側からホーン開口側に亘るステップ面は、内径が一様となるように内面が滑らかに形成されている。図1の例ではH1=H2として、ステップ構造2における段差の高さを一定にしている。
【0013】
円筒ホーンアンテナ1は、送受信する電波の導波管内の波長(管内波長)をλgとしたとき、ホーン開口部側の内径D1とホーン根元部側の内径D2が、概ね0.6λg〜1λgのサイズとなる小開口径をなしている。図1の例では、D1=D2として内径を同一としているので、製造を容易ならしめている。
【0014】
また、ステップ構造2において、段差部におけるホーン開口部側の高さH1とホーン根元部側の高さH2が、約0.1λg〜0.05λgに設定されている。これによって、ステップ構造2によるインピーダンス調整を可能ならしめるとともに、円形導波管におけるステップ構造のインピーダンス変換が行われる。
【0015】
ここで、円筒ホーンアンテナ1の開口部からステップ構造2の先端までの距離をLd、ステップ構造2の長さをLsとし、送受信する電波の導波管内の波長をλgとしたとき、Ld、Ls長さはλg/4の概略奇数倍とする。但し、Ld、Lsの長さについての詳細寸法は、ステップ付き小開口径ホーンアンテナ100の放射特性を勘案して適宜決定すればよい。
【0016】
次に、実施の形態1によるステップ付きホーンアンテナ100の作用を説明する。ここでは、ステップ付きホーンアンテナ100を送信アンテナとして用いる場合を例に説明する。
【0017】
ステップ付き小開口径ホーンアンテナ100において、送信信号は、円筒ホーンアンテナ1の下端から入力される。この入力波4はステップ構造2での反射波5と逆相関係となる。また、ステップ構造2での入力波6はアンテナ開口部3での反射波7は逆相関係となる。結果として、ステップ構造2を用いることにより、ホーン開口部でのインピーダンス不整合に伴う反射が抑制されるので、ステップ付き小開口径ホーンアンテナは空間との整合が可能となる。
【0018】
Ku帯におけるステップ付き小開口径ホーンアンテナ100のステップ有無による、反射特性の比較例を図2に示す。図において、ステップ構造2を設けることにより反射特性が改善されていることがわかる。特に、送受信する電波の導波管内の波長をλgとしたとき、0.7λgに相当する13GHz周辺で、反射損失が充分に抑圧されている。このように、ステップ構造2を設けることによる放射パターン特性への影響は抑制される。
【0019】
なお、ステップ付きホーンアンテナ100を受信アンテナとして用いる場合も、アンテナの可逆性が成り立つために、同様にしてインピーダンス整合が可能である。
【0020】
以上説明した通り、この実施の形態1では、ホーン開口部にインピーダンス整合を取る構造体を設けていないため、小開口径ホーンアンテナそのものの放射パターンには影響がない。また、ステップ構造2において、適度な高さの段差が形成され、段差部内面が滑らかに形成されているので、幅狭の溝部や高さの高い衝立部等のような電界が集中する部分がない。このため、耐電力性に優れ、かつ非常に簡易な構造であるため、高い周波数帯においても製造が容易となる。
【0021】
かくして、この実施の形態1では、円筒ホーンアンテナを小開口径にしてブロードな指向性を有するとともに、簡単な構造でインピーダンス整合を取ることが可能なホーンアンテナを提供することが可能となる。
【0022】
実施の形態2.
図3は、この発明に係る実施の形態2によるステップ付きホーンアンテナ200の概略構成断面図を示す。ステップ付きホーンアンテナ200は、実施の形態1で示したステップ付きホーンアンテナ100におけるアンテナ外周に、アンテナ開口部3から深さLのチョークリング10を設けたものである。ここで、送受信する電波の導波管内の波長(管内波長)をλgとしたとき、深さLはλg/4もしくはそれ以下にすると良い。
【0023】
このチョークリング10は、アンテナ裏面に流れる電流を低減する効果があり、アンテナ開口部から後方への電波の放射(バックローブ)を低減できる。
【0024】
ここで、後方への電波の放射(バックローブ)が生じた場合、アンテナが取り付けられる構造物での電波の反射や散乱を発生させ、アンテナの指向性に乱れを発生させる。このため、なるべく後方への放射を低減させることが望ましい。
【0025】
この実施の形態2では、ステップ付きホーンアンテナ100の外周にチョークリング10を設けることにより、後方への放射が低減でき、優れたアンテナ放射特性を得ることが可能となる。
【0026】
実施の形態3.
図4から図6は、この発明に係るステップ付きホーンアンテナの実施の形態3を示すブロック図である。図4は、ステップ付きホーンアンテナ100またはステップ付きホーンアンテナ200を構成する円筒ホーンアンテナ1の下端(ホーン開口部とは反対側の端部)に、円形導波管−方形導波管変換器20を接続して構成される、アンテナ装置300を示す図である。
【0027】
円形導波管−方形導波管変換器20は、よく知られているように、円形導波管と方形導波管の接続部分に導波管ステップを設けて、インピーダンス変換を行う構造等を用いればよい。これにより、送受信機とアンテナを結ぶ伝送線路を、円形導波管より一般的な方形導波管21で構成することが可能となる。また、方形導波管21に同軸導波管変換器を接続し、導波管をケーブル等の同軸線路からなる伝送線路に接続するような構成も容易に構成できる。
【0028】
図5は、ステップ付きホーンアンテナ100またはステップ付きホーンアンテナ200を構成する円筒ホーンアンテナ1の下端(ホーン開口部とは反対側の端部)に、円偏波発生器30を接続して構成される、アンテナ装置300を示す図である。円偏波発生器30は円形導波管を通過する送信信号から円偏波を生成するものである。ここで、円偏波発生器30は、円形導波管に接続できればどのような構造をしていてもよい。
【0029】
図6は、ステップ付きホーンアンテナ100を校正する円筒ホーンアンテナ1の下端(ホーン開口部とは反対側の端部)に、円偏波発生器30と円形導波管−方形導波管変換器20を、直列に接続して構成されるアンテナ装置300を示す図である。このアンテナ装置では、送受信機とアンテナを結ぶ伝送線路を、円形導波管より一般的な方形導波管21で構成し、かつステップ付きホーンアンテナ100が円偏波を送受信できるようになる。また、方形導波管21に同軸導波管変換器を接続し、伝送線路をケーブル等の同軸線路で構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明によるステップ付きホーンアンテナの実施の形態1を示す概略構成断面図である。
【図2】ステップ有無による反射特性の比較例を示す図である。
【図3】この発明によるステップ付きホーンアンテナの実施の形態2を示す概略構成断面図である。
【図4】この発明によるステップ付きホーンアンテナを用いたアンテナ装置の実施の形態3を示す概略構成図である。
【図5】この発明によるステップ付きホーンアンテナを用いたアンテナ装置の実施の形態3における別形態を示す概略構成図である。
【図6】この発明によるステップ付きホーンアンテナを用いたアンテナ装置の実施の形態3における他の形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 円筒ホーンアンテナ、2 ステップ構造、3 アンテナ開口、4 入力波、5 反射波、6 入力波、7 反射波、10 チョークリング、20 円形導波管−方形導波管変換器、21 方形導波管、30 円偏波発生器、100 ステップ付きホーンアンテナ、200 ステップ付きホーンアンテナ、300 アンテナ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒ホーンアンテナから構成されるホーンアンテナであって、
円筒ホーンアンテナ内壁における、ホーン開口から管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる位置に、管内波長における4分の1波長の奇数倍の長さとなる幅を有した段差部を備えたホーンアンテナ。
【請求項2】
円筒ホーンアンテナの外周にチョークリングを備えた請求項1に記載のホーンアンテナ。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載のホーンアンテナと、当該ホーンアンテナにおけるホーン開口とは反対側の端部に接続された円形導波管または方形導波管変換器を備えたアンテナ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2のいずれかに記載のホーンアンテナと、当該ホーンアンテナにおけるホーン開口とは反対側の端部に接続された円偏波発生器を備えたアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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