説明

ボトル型缶の製造方法およびボトル型缶

【課題】発泡性ワインなどの腐食性の強い内容物に対しても適用できるボトル型缶を提供する。
【解決手段】被覆金属薄板を打ち抜いて成形したカップから有底円筒体を成形する缶胴成形工程と、前記有底円筒体から肩部および口頸部を成形するトップドーム成形工程と、前記口頸部にカール部およびねじ部および環状ビード部を形成するカール・ねじ・ビード成形工程と、缶胴に底蓋を巻き締める底蓋巻締め工程とを備えるボトル型缶の製造方法において、前記カール・ねじ・ビード成形工程後の缶体に対して、前記口頸部の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化させる工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属薄板から缶胴と肩部と口頸部が一体的に成形されたボトル型缶を製造するための方法に関し、特に、発泡性のワインなど腐食性の強い内容物を充填密封するのに適したボトル型缶の製造方法とその製造方法により製造されたボトル型缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ボトル型缶に充填・密封される内容物の種類も多様化してきている。清涼飲料水としては、例えば、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、日本茶、紅茶、中国茶、コーヒー飲料、炭酸飲料、果実・野菜飲料等、様々なものを内容物として充填・密封され販売されている。また、アルコール飲料としては、例えば、ビール、サワーやカクテル類などの低アルコール飲料等が内容物として充填・密封され販売されている。
【0003】
ところで、アルコール飲料の中でも、特にワイン等の果実醗酵酒の場合には、一般に、酸化防止剤として亜硫酸ナトリウム等の腐食性のある亜硫酸塩が使用されている。そのため、このような飲料をボトル型缶に充填・密封する場合、亜硫酸によってボトル型缶内面の保護被膜が劣化し易くなり、その結果、耐食性が維持できなくなって本体の金属面を腐食させたり、最終的には孔食して内容物が漏洩したりしてしまう可能性がある。したがって、亜硫酸塩を含む酸化防止剤が使用されるワインなどは、亜硫酸の濃度を低くしない限り、内容物としてボトル型缶に充填・密封することが困難であった。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、缶の加工を施す前に加工性に優れた塗料で内面を塗装し、ネッキング加工およびフランジ加工あるいはねじ加工(カール加工を含む)を行った後、2層目の塗装を行うことによって耐食性を持たせたアルミニウムボトル缶が提案されている。しかしながら、塗装時や塗装後の有機溶剤による身体への影響や環境汚染が心配されるうえ、また塗装をねじ加工の前工程と後工程の2回施す必要があることからコスト高になり経済的ではない。そこで、缶本体の内面側に内面塗装を施すことのないものが求められている。
【0005】
一方、特許文献2には、少なくとも缶内側となる面が樹脂層で被覆された樹脂被覆金属板から絞り加工やしごき加工を経て缶体が形成される金属缶であって、缶内面側に形成された樹脂フィルム中の最上層以外の部分に、亜硫酸と反応する補酸剤として炭酸カルシウムを添加することにより、亜硫酸が保護被膜の樹脂層を透過して金属面に到達することを防ぎ、亜硫酸による金属缶の腐食を防止できるワイン缶詰用金属缶が記載されている。
【0006】
これによれば、補酸剤としての炭酸カルシウムが亜硫酸と反応し、亜硫酸による缶の腐食やワインのフレーバー悪化を抑える効果がある。したがって、特許文献2に記載されている発明によれば、ワインの酸化防止剤に含まれる亜硫酸の濃度を低くしなくとも、缶の腐食やワインのフレーバー悪化を防ぐことができ、しかも缶内面側となる面が樹脂フィルムで被覆されているため、上記のような有機溶剤による身体への影響や環境汚染などの弊害が生じることはなく、製品化もされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−264734号公報
【特許文献2】特開2006−62688号公報
【特許文献3】特開2001−270596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ボトル型缶は、内容物を充填して容器口部にアルミニウム製キャップを被せた後、ロールオンキャッピングと呼ばれるキャッピング方法で密封される。具体的には、例えば特許文献3に記載されているように、容器口部にキャップが被せられ、そのキャップの天面に打栓圧をかけて容器口部の開口端にキャップの樹脂製のライナーが密着させられる。そして、その状態でキャップの円筒状のスカート部周面にねじ形成ローラが押し付けられ、容器口部のねじ山に沿ったねじ部が形成されるとともに、キャップのスカート裾部に裾締めローラ(下端絞りローラとも呼ばれる)が押し付けられて、キャップが容器口部に装着されている。
【0009】
このようなロールオンキャッピング方法を用いて通常のワインよりも腐食性の強いワイン、特にシャンパンやスパークリングワインなどの発泡性ワインをボトル型缶の内容物として充填・密封する場合には、容器口部に腐食が発生するという問題を解消する手段は見つかっていなかった。
【0010】
これは、例えばピルファープルーフ用のキャップを容器口部に装着する場合、キャップを開封した後にピルファープルーフバンドを容器口部に残す必要があるので、キャップのスカート部の下端部が環状ビードに係止するように形成される。そのため、キャッピング装置の複数の裾巻きローラでキャップの下端部に押し付けて下端部を環状ビードに押し込む際に、環状ビード部がその押圧で変形したりして、環状ビード部の内面被膜にミクロの欠陥が生じてしまう場合がある。この部位が、炭酸ガスおよび亜硫酸の影響を受けることにより腐食が発生すると考えられている。
【0011】
このように、シャンパンやスパークリングワインなどの腐食性が強い発泡性ワインを内容物としてボトル型缶に充填・密封する場合には、発泡性ワインの中に含まれている炭酸ガスによる金属缶の腐食や、それに起因してワインのフレーバーが損なわれてしまうといった未だ解決されていない課題があり、腐食性の強い発泡性ワインの容器としてボトル型缶の適用化が望まれている。
【0012】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、腐食性の強い発泡性ワインなどを内容物とする場合であっても、耐食性、保存性に優れたボトル型缶の製造方法およびその製造方法により製造されたボトル型缶を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、すなわちボトル型缶における発泡性ワインなどの内容物に含まれている炭酸ガスによる金属の腐食の助長を防ぐために、種々の実験を繰り返した結果、内容物を充填する前の容器口部に対して、局所的に加熱・急冷を行い、内面被膜を非晶質化して少なくとも容器口部の内面保護被膜の弾性率および延性を回復させることにより、上記の課題を克服できることが分かった。そこで、上記のような課題を解決するための手段として、請求項1の発明は、金属薄板の少なくとも缶内面側に相当する面に熱可塑性樹脂被膜層が形成されて潤滑剤が塗布された被覆金属薄板を打ち抜いてカップを成形するカップ成形工程と、前記カップから更に胴部が小径化された有底円筒体に成形する缶胴成形工程と、前記有底円筒体の一方の端部を縮径して肩部および口頸部を成形する口頸部成形工程と、前記口頸部の先端の開口端部をカール部に形成するとともに、前記口頸部にねじ部および環状ビード部を形成するカール・ねじ・ビード成形工程を備えるボトル型缶の製造方法において、前記カール・ねじ・ビード成形工程後の缶体に対して、前記肩部より上側の前記口頸部を、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層をその融点以上に加熱するとともに直ちに急冷して、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化させる非晶質化工程を備えていることを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記口頸部成形工程が、前記有底円筒体の底部近傍を含めた缶の底部側を縮径して肩部および口頸部を成形するトップドーム成形工程を含み、前記非晶質化工程は、未開口の前記口頸部を開口し、前記胴部の前記口頸部と反対側の下端部に底蓋を巻き締めた底蓋付き缶体に対して、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化させる工程を含むことを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記非晶質化工程が、缶体を缶軸中心に回転させながら誘導加熱装置内を通過させる誘導加熱工程と、加熱された前記缶体の前記口頸部を直ちに冷却水槽に浸漬して急冷させる冷却工程とを含むことを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0016】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記非晶質化工程が、前記口頸部を下向きにした状態で直ちに前記冷却水槽に浸漬して急冷させ、冷却後の缶体に対して前記口頸部を下向きにした状態で前記口頸部に付着した水滴をエアーで吹き飛ばす水切り工程を含むことを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0017】
また、請求項5の発明は、請求項3または4の発明において、前記非晶質化工程が、前記口頸部を下向きにして缶体を搬送させ、前記口頸部の缶軸中心を水面に対して傾斜させた状態で前記口頸部を前記冷却水槽に浸漬して急冷させるとともに、前記口頸部を急冷させた後に、前記口頸部を前記冷却水槽に浸漬させるときと逆向きに傾斜させて前記冷却水槽から取り出す冷却工程を含むことを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0018】
また、請求項6の発明は、請求項3から5のいずれか一つの発明において、前記非晶質化工程が、前記冷却水槽内の冷却水を缶体の移動速度とほぼ同じ速さで前記缶体の前記冷却水槽内の移動方向と同じ方向に対流させる冷却工程を含むことを特徴とするボトル型缶の製造方法である。
【0019】
そして、請求項7の発明は、金属薄板の少なくとも缶内面側に相当する面に熱可塑性樹脂被膜層が形成された樹脂被覆金属薄板から製造され、成形後のボトル型缶の状態で、口頸部内面側における前記熱可塑性樹脂被膜層の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)が下記式(1)を満足することを特徴とするボトル型缶である。
Cn<1 …(1)
但し、CnはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cn=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【0020】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記口頸部内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層における熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)と、前記成形後のボトル型缶の状態で、缶胴中央部の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cw)とが下記式(2)を満足することを特徴とするボトル型缶である。
但し、CwはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cw=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【0021】
そして、請求項9の発明は、請求項7または8の発明において、前記口頸部の内面側における前記熱可塑性樹脂被膜層に、前記口頸部成形後、前記熱可塑性樹脂の融点以上に加熱するとともに直ちに急冷して前記熱可塑性樹脂を非晶質化させる非晶質化処理が施されていることを特徴とするボトル型缶である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のボトル型缶の製造方法およびその製造方法によって製造されたボトル型缶によれば、内容物を充填する前の容器口部に対して局所的に少なくとも口頸部を加熱して口頸部の缶内面側の被膜樹脂層を無配向にした後、直ちに例えば純水で急冷することにより、容器口部を成形する際に発生した缶内面側の被膜樹脂を無配向非晶質化させることができる。これにより、口頸部を成形する際に発生した内面熱可塑性樹脂層のミクロの欠陥を修復させるとともに、弾性率・延性を向上させることができ、その結果、キャッピングするときに裾締めローラが当接して歪みが生じる部位(環状ビード部など)の内面被膜の耐衝撃カを向上させることができる。そのため、環状ビード部内面の熱可塑性樹脂層のダメージを最小限に抑えることができ、通常のワインよりも腐食性の強い発泡性ワインに対しても耐食性に優れ、かつ薄肉化したボトル型缶を製造することができる。したがって、腐食性の強い発泡性ワインへのボトル型缶の適用を可能にし、ボトル型缶に充填する内容物の対象範囲を拡大することができる。
【0023】
また、カール・ねじ・ビード成形工程後の缶体に対する非晶質化工程において、缶体の肩部より上側の口頸部のみを加熱することにより、キャッピング時に打栓圧に対する缶体の耐座屈強度を維持させたまま、その口頸部の少なくとも缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化することができる。そのため、既存のキャッピング装置の大幅な設備変更をしなくとも、充填・巻き締めすることができ経済性に優れている。
【0024】
また、底蓋巻締め工程後の缶体に対する非晶質化工程であれば、底蓋の密封性ラバーを加熱することによる臭気発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明で対象とするボトル型缶の一例を示す側面図である。
【図2】この発明の製造方法でのボトル型缶の製造工程を示す模式図である。
【図3】図1に示すボトル型缶の口頸部の詳細を示す拡大断面図である。
【図4】この発明の製造方法でのロールオン成形(キャッピング)における環状ビード部の変形状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、この発明の好適な実施形態を説明する。
〔ボトル型缶体について〕
図1は、本発明の方法により製造されるボトル型缶の一例を示すもので、ボトル型缶1は、大径円筒状の胴部2から上方に、縦断面が円弧状となるドーム形状の肩部3を介して、小径円筒状の口頸部4が一体的に成形され、胴部2の下端開口部が底蓋5の巻き締め固着により密閉されている。そして、胴部2の外面には、図1に斜線で示した肩部3の部分を含む胴部2の大部分が印刷範囲となるように、所望の印刷デザイン(文字や装飾模様等)が施されている。
【0027】
図2は、図1に示した底蓋付きボトル型缶1を製造する場合の工程を概略的に示している。この実施形態の方法では、金属薄板の両面に非晶質化された状態の熱可塑性樹脂被膜層が形成されて潤滑剤が塗布された被覆金属薄板(ラミネート板)を材料として、先ず、カップ成形工程で、被覆金属薄板を円板状に打ち抜いたブランクが、絞り加工によりカップ形状に成形され、次の缶胴成形工程で、このカップに対して少なくとも1回以上の再絞り加工およびしごき加工が行われて、胴部が小径で薄肉化された有底円筒状の缶に成形される。
【0028】
次いで、トリミング工程では、缶の開口端側が、トリミングされて缶が所定の長さに揃えられる。そして、従来の2ピース缶の場合と同様の印刷・塗装工程に向けて送り出され、その印刷・塗装工程で、円筒状の胴部2に対して所望のデザイン(文字や装飾模様等)が印刷され、その上からトップコートが塗布される。そしてその後、乾燥工程で印刷インキ層やトップコート層が十分に焼き付けられ、乾燥させられる。
【0029】
上記のようにして胴部2に印刷(およびトップコート)が施された有底円筒状の缶に対して、口頸部成形工程あるいはトップドーム成形工程で、先ず、有底円筒状の缶の缶底コーナー部(底部および底部近傍の胴部2)が、胴部2に施された印刷の部分を含むような状態で、縦断面が円弧状の肩部曲面に予備成形され、その後、缶の底部側に対して絞り加工が複数回行われることにより、肩部3および先端が未開口の口頸部4が成形される。
【0030】
次いで、公知の加熱手段、例えば加熱オーブン等の加熱炉にて缶が加熱されて、少なくとも缶内面側の熱可塑性樹脂層の金属への密着性が強固なものとなる。そして、カール・ねじ・ビード成形工程において、先ず、未開口の口頸部4の先端閉鎖部をトリミングすることにより口頸部4が開口させられ、その後、図3の部分断面図に示すように、その開口端部11が外巻きで環状のカール部12に成形され、口頸部4の円筒状周壁にキャップ螺合用のねじ部13が成形される。同時に、ねじ形成部分の下方に環状ビード部14,15が形成される。
【0031】
すなわち、口頸部4は、その口頸部4に形成された凹凸状の環状ビード部14,15のうちビード部14が半径方向で外側に凸となることに伴い、その下側の部分には、半径方向で内側に窪んだビード部15が形成されている。したがって、ビード部14,15との境界部分となっている傾斜面14aに、後述するキャップのピルファープルーフバンドが係止されて固着されるように構成されている。
【0032】
そして、ネック・フランジ成形工程では、口頸部4とは反対側の胴部2の下端開口端部に対してネックイン加工とフランジ加工とが順次施され、その後、底蓋巻締め工程において、図示していないシーマー(缶蓋巻締め機)により、金属薄板材からなる別部材の底蓋5が、胴部2の下端開口部に形成されたフランジ部に二重巻き締め法により一体的に固着される。
【0033】
次いで、この発明のボトル型缶1は、前述のとおりカール・ねじ・ビード成形工程を経た底蓋付き缶体の口頸部4では、再び熱可塑性樹脂層に成形歪みが生じているため、このままキャッピング工程でロールオン成形しようとすると、口頸部4の内面被膜層にダメージが起こり易くなる。特に、図4に示すように、キャッピング装置の裾巻きローラが環状ビード部15の外周部に当接する際には、裾巻きローラの衝撃力が瞬間的に環状ビード部15に働き、更に薄肉の環状ビード部15を内方に変形させながら裾巻きローラが複数回転してキャップの裾締め成形が行われる。その結果、複数の裾巻きローラ(通常、2個から3個)で裾巻きが行われると、例えば、素材の合理化などで0.30mmの板厚よりも薄い樹脂被覆金属板から形成される場合には、特に、その裾巻きローラが環状ビード部15に当接する衝撃カとその後の押し付けカとにより、壁厚の薄い環状ビード部15が楕円状あるいはおむすび状に変形させられながら転動し、環状ビード部15の断面形状が変形したまま残ったり、環状ビード部15の径が0.1mm〜0.4mmほど縮径されたりすることがある。そのため、環状ビード部15の内面側の熱可塑性樹脂層(あるいは接着層)に圧縮応力や引っ張り応力が複合的に作用して局部的に樹脂層が薄化し弱体化した上にミクロの欠陥が生じ易くなる(このようなミクロの欠陥は、キャッピングされて内容物が充填・密封されたボトル型缶をある期間貯蔵した後でない分からない)。このように、環状ビード部15の内面の熱可塑性樹脂層がミクロの欠陥が生じたボトル型缶1は、例えば、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、茶系飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、果実・野菜飲料等の清涼飲料水や、ビールやカクテル類のアルコール飲料が内容物として充填・密封される場合には、腐食に対して特に問題はなかった。しかしながら、通常のワインよりも腐食性の強いシャンパンやスパークリングワインなどの発泡性ワインが内容物としてボトル型缶1に充填・密封される場合は、上述のミクロの欠陥部分から缶の金属が腐食したり、発泡性ワインのフレーバーを損なわせたりといった問題が未だ解決されていなかった。
【0034】
通常、ワインには、醗酵時に適量の亜硫酸が添加され、またその亜硫酸の使用量は食品衛生法でワイン1kg中350mg(350ppm)以上残留しないように使用することが定められてるが、亜硫酸は金属腐食性が極めて強く、缶の金属を腐食させ易い。そのため保存中に缶の金属に腐食を生じさせたり、その亜硫酸と缶の金属との反応により硫化水素を発生させフレーバーを悪化させたりすることがないように、缶内面側となる保護被膜に炭酸カルシウムを添加し亜硫酸を捕集することが知られている。
【0035】
この保護被膜に上述のようなミクロの欠陥部分が形成されたとしても、炭酸を含まない非発泡性ワインの貯蔵時には保護被膜(熱可塑性樹脂層あるいは接着層)中に含まれる炭酸カルシウムにより亜硫酸ガスが捕集され金属面の腐食には至らない。しかしながら、ワインの中でも腐食性の強い発泡性ワインを貯蔵した場合には、亜硫酸ガスの他に炭酸ガスが発生するため、その炭酸ガスがミクロの欠陥部分から保護被膜に浸透して保護被膜に添加されている炭酸カルシウムと反応を起こし、炭酸カルシウムの亜硫酸ガスを捕集する機能(亜硫酸捕集力)を低下させてしまうか、もしくはその働きを鈍くしてしまう。その結果、亜硫酸ガスと炭酸ガスの複合要因によって、缶の金属を更に腐食させたり、亜硫酸ガスと缶の金属と反応により硫化水素を発生させフレーバーを悪化させたりすると考えられ、実用化には至っていない。
【0036】
そこで、この発明では、炭酸カルシウムなどの捕酸剤を必要以上に添加することなく、亜硫酸を捕集する機能を維持させて、発泡性ワインなど腐食性の強い内容物に対しても適用できるボトル型缶1を提供するために、内容物を充填する前の口頸部4に対して環状ビード部14,15の内面被膜である熱可塑性樹脂層を、非晶質工程において局所的に加熱・急冷して、環状ビード部14,15の内面被膜樹脂の結晶化度が、胴部2の内面被膜樹脂の結晶化度に比べて低い状態となるように非晶質化させる熱処理を施すようにしている。それによりカール・ねじ・ビード成形に伴う塑性変形、特に環状ビード部14,15の被膜の健全性を回復させて、図1に示すようなボトル型缶1を完成させるように構成されている。
【0037】
上記のような本実施形態のボトル型缶1の材料構成について説明すると、この発明のボトル型缶1に適用される金属板としては、特に制限されるものではなく、通常缶用材料として使用されるものが用いられる。例えば、ブラックプレート、リン酸処理鋼板、クロム酸処理鋼板、電解クロム酸処理鋼板、アルミニウム、クロム処理アルミニウム、アルミニウム合金板などが好適である。アルミニウム合金板を用いる場合には、好ましくは3004系アルミニウム合金が適用される。アルミニウム合金板の板厚としては、0.20〜0.32mmのものが適用される。板厚が0.20mm未満では、強度やキャッピング時の打栓圧に対する座屈強度が十分ではない。一方、板厚が0.32mmを超えると、座屈強度は十分に確保されるが、実質的には品質過剰であり、経済的ではない。
【0038】
次に、この発明に適用される保護被膜となる熱可塑性樹脂について説明する。この発明においては、缶体内面の保護被膜として、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂フィルムが使用される。ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートのようなホモポリマーや、あるいはポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの混合樹脂であるコーポリマーや、またこうしたホモポリマー同士あるいはコーポリマーとのブレンド樹脂等が挙げられ、単層でも複層でも適用することができる。
【0039】
この発明の樹脂フィルムの厚みは、10〜50μmが適当である。缶の内面に相当する面に積層される樹脂フィルムの厚みは、ロールオンキャッピング後の耐食性の点から限定されるものであり、10μm未満では腐食性の強い内容物を充填した場合、ロールオンキャッピング後の耐食性を確保するのは難しい。一方、50μmを超えると、腐食性の強い内容物に対しても耐食性は十分に確保されるが、実質的に過剰品質となり、経済的ではない。したがって、樹脂フィルムの厚みとしては10〜50μmとし、特に、12〜40μmが品質および経済性からは好ましい範囲である。
【0040】
また、樹脂層には、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤などの添加剤を分散、配合することができる。そして、この発明では、亜硫酸が添加されたワインが内容物として充填・密封されるため、ワイン中に含まれている亜硫酸と反応する補酸剤として作用する炭酸カルシウムが、樹脂フィルムのうち加工治具との接触を避けた表層以外の樹脂中に添加される。これにより、ワイン中の亜硫酸が、缶内面側の保護被膜を透過して缶の金属を腐食させたり、あるいは、金属と反応して硫化水素を発生させ、ワインのフレーバーを悪化させたりすることを効果的に抑制することができる。この炭酸カルシウムの添加量については、ワイン中の亜硫酸量に応じて適宜設定される。
【0041】
金属薄板における熱可塑性樹脂フィルムのラミネートの仕方としては、予めフィルム成形した熱可塑性樹脂フィルムを金属薄板の金属面に直接熱接着させる場合の他に、Tダイから溶融した熱可塑性樹脂を予熱した金属薄板上に押し出して直接接着させる場合と、予めフィルム成形した熱可塑性樹脂フィルムを接着性プライマー層または硬化型の接着剤層もしくは熱接着性の良好な熱可塑性樹脂層を介して金属薄板の金属面に熱接着する方式を採ることができる。
【0042】
この発明のボトル型缶1に適用されるキャップ(図示せず)は、天板部とスカート部とを備えた金属製の有底円筒状体である。したがって、ボトル型缶1の開口部側の容器口部から内容物が充填された後に、キャップが被せられ、従来公知のキャッピング装置によってキャップ天板部に打栓圧がかけられた状態で、ロールオン成形(キャッピング)される。そして、ねじ切りローラによりキャップのスカート部における円筒部分に雌ねじが形成され、更に裾締めローラによりスカート裾部(開口部側端部)が裾締めされて密閉される。
【0043】
このキャップの材質は特に限定されるものではないが、一般に成形性に優れたJlS A1100合金やA3105合金が用いられる。また、内面にはエポキシ−フェノール等の樹脂が塗布されている。
【0044】
キャップの天板部の内面側には、密封用の樹脂製ライナー部材が一体的に付設されている。このようなキャップは、一旦開栓した後にリシールできるような構成のものが一般的であり、そのような理由から、一度開栓したことが容易に識別できるピルファープループキャップが使用されている。このキャップは、スカート部にブリッジを介してピルファープルーフバンドが設けられ、開栓時にこのブリッジが破断された後に容器口部に残るので悪戯防止機能も有している。
【0045】
前述したように、ボトル型缶1に内容物を充填した後、キャップを口頸部4に装着する場合には、口頸部4にキャップを上方から被せた状態で、キャップの天板部に打栓圧が加えられる。そして、その打栓圧が加えられた状態で、ねじ成形ローラによるロールオン成形によって、キャップのスカート部の円筒部分に、口頸部4の雄ねじ部13に対応する雌ねじ部が形成される。それとともに、図5に示すように、裾締めローラ21により、キャップのスカート部22の裾部23が、凸ビード部14の下端部の傾斜面14aに係合するように裾締めされて、ボトル型缶1が製造される。このようにしてキャップをボトル型缶1の口頸部4に被せてロールオン成形する際には、裾締めローラ21のサイド荷重によって環状ビード部14,15、特に凹ビード部15および傾斜面14aの横断面が楕円状あるいはおむすび状に歪み変形したり縮径したりし易い。この発明において、口頸部4の環状ビード部14,15の缶内面側に付設される樹脂フィルムを非晶質化しておくことは、このようなロールオンキャッピングの際の打栓圧および裾締めローラの衝撃力およびサイド荷重と密接な関係にあるので、更に詳述する。
【0046】
この発明の非晶質化工程は、カール・ねじ・ビード加工された口頸部4に対して非晶質化する処理、すなわちそれよりも前の工程で施される缶体全体を加熱する熱処理とは異なり、口頸部4を主体とした非晶質化処理であって、局部的な部分を加熱するように構成されている。それによって、少なくとも環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂層が局部的に加熱(例えば、高周波誘導加熱)されて、非晶質化される。そのため、前述したように、キャップをボトル型缶1の口頸部4に被せてロールオン成形する際に、裾締めローラ21の衝撃力によるデントおよびサイド荷重によって環状ビード部14,15の断面が楕円状あるいはおむすび状に歪み変形したり縮径したりする場合であっても、環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂層が非晶質化されていることにより、その熱可塑性樹脂層をロールオン成形に対して無理なく追従させることができる。なお、非晶質化処理のための加熱装置としては、高周波誘導加熱装置のほか、電気炉、ガスオーブン、赤外線加熱装置など、適時、公知の加熱手段を利用することができる。
【0047】
つまり、炭酸ガスおよび亜硫酸による金属の腐食の助長を防ぐために種々の実験を繰り返した結果、内容物を充填する前の容器口部に対して、その容器口部を局所的に加熱・急冷し、容器口部の内面被膜を非晶質化させることが有効であることが分かった。なお、ボトル型缶1の肩部3から胴部2にかけては、金属の軟化の影響を防ぐため、および内面被覆樹脂層の熱履歴を最小限に抑えるために、肩部3にシールドを付設するなどして、熱処理から除外するあるいは熱処理による熱影響を最小限にしておくようにするのが好ましい。
【0048】
これにより、酸度が高く(pHが低く)、通常のワインよりも腐食性が強い発泡性ワインを内容物として充填・密封し、ボトル型缶1のヘッドスペース内の気層(主に亜硫酸ガスを含んだ炭酸ガス)と、容器口部の内面とが接触する場合であっても、上記のようなロールオン成形を適切に行うことができる。
【0049】
次に、非晶質工程について以下に詳述する。この工程では、先ず、環状ビード部14,15の内面保護被膜が、樹脂の融点以上の温度範囲になるまで高周波誘導加熱されて、少なくとも環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂が溶融させられる。そして、熱可塑性樹脂が加熱溶融して無配向になった後に、胴部2の口頸部4が下向きにされて、樹脂の冷結晶化温度以下の温度の純水を満たした冷却水槽に浸漬される。それによって口頸部4が急冷され、少なくとも環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂層が非晶質化させられる。そしてその後、容器口部にエアーが吹きかけられて水切りが行われる。なお、この非晶質化工程を経て得られたボトル型缶1の口頸部4の非晶質化の程度は、缶の内面フィルムの結晶化度として、lR分析(反射赤外線分光法)によって測定する。
【0050】
IR分析の測定方法として、環状ビード部を8%塩酸水溶液に浸漬し基材を溶かして内面フィルムを単離し、ATR法(減衰全反射法)にて、フィルムの表面(内容物側)について測定し、そこから得られたポリエチレンテレフタレートに由来する1340cm−1の赤外線吸収ピークと1578cm−1の赤外線吸収ピークとにより結晶化度を求めた。
【0051】
そして、IR分析による環状ビード部14,15の内面被膜樹脂の結晶化度(Cn)が下記式(1)を満足すること、すなわち、結晶化度(Cn)が1未満の非晶質化状態になることが重要である。
Cn<1 …(1)
但し、CnはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cn=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【0052】
また更に、成形後のボトル型缶の状態で、口頸部の内面樹脂の結晶化度(Cn)が、缶胴部2の内面側の結晶化度(Cw)に比べて小さい状態、つまり下記式(2)を満足する(数値が小さくなる)ように口頸部を非晶質化させる熱処理を施すことにより、キャッピング時に打栓圧に対する缶体の耐座屈強度を維持させたまま、キャッピング後の缶体の口頸部の 少なくとも内面被膜の耐食性を向上させることができる。また、缶胴部成形時に形成された内面被膜の分子配向を残した状態で口頸部を非晶質化し下記式(2)を満たす場合は、更に缶胴部の耐デント性が維持されるという利点もある。
Cn/Cw<1 …(2)
但し、CwはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cw=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【0053】
上記の冷却水槽の温度を50〜70℃の温度範囲となるようにする理由は、冷却水槽内は純水を循環させるとしても、食品の安全性を脅かす要因となるような微生物が繁殖する危険性を取り除くためである。すなわち、例えば食中毒の原因菌のほとんどは10〜37℃の温度範囲で最も激しく増殖するため、冷却水槽の下限温度を50℃としている。また、最近では85℃以上の高温で生育できる菌も発見されていることから、冷却水槽の上限温度を70℃とすることにより、冷却水槽内で細菌が繁殖するのを防いでいる。
【0054】
また、口頸部4を冷却水槽に浸漬して急冷する際に、水面に対して口頸部4を傾斜させて着水させることにより、口頸部4内に冷却水を侵入させ易くすることができる。そして、口頸部4を冷却水槽に浸漬して急冷した後、缶を冷却水槽から引き上げる際に、缶を着水時と逆向きの傾斜角で口頸部4内の冷却水を排水させながら冷却水槽から離水させることにより、缶内の空気による影響を防ぎ、口頸部4内への冷却水の出入りをスムーズにすることができる。
【0055】
また、冷却水槽内には、上記のように温度調整された冷却水が循環供給される。その際、冷却水の供給の仕方としては、冷却水槽内での缶体の移動方向に対して、缶体の移動速度と同じ速さ(ほぼ同じ速さを含めて同じ速さとする)で、かつ缶の移動方向と同じ方向に、冷却水が流動するように供給される。そうすることにより、口頸部4へ速やかに冷却水を流入させることができる。また、離水の際には、冷却水槽液面を波打たせることなく口頸部4から水を排水させ、かつ水の抵抗を低減させることができる。そのため、缶体が軽量缶であっても口頸部4をふらつかせることなく、缶体を冷却水槽中に浸漬させたまま安定して移動させることができる。
【0056】
また、カール・ねじ・ビード成形工程の後に、胴部2の下端部がネック・フランジ成形され、底蓋巻締め工程を経た後であれば胴部を薄くしても変形させることなく胴部2を両側からしっかりと狭持することができ缶軸中心に安定して回転させながら、口頸部4の環状ビード部14,15に対して高周波誘導加熱することができる。そのため、環状ビード部14,15などを均一に加熱することができる。
【0057】
更にまた、口頸部4を冷却水槽に浸漬し急冷する際に、水面に対して口頸部4を傾斜させて着水させることにより、缶内の空気を抜きながら口頸部4内にスムーズに冷却水を侵入させることができ、したがって迅速な冷却を行うことができる。また、冷却後、口頸部4を冷却水槽から引き上げる際に、着水時と逆向きの傾斜角で冷却水槽から離水させることにより、口頸部4内から脈動を防いでスムーズに冷却水を排水させることができる。そのため、水切り作業を容易に行うことができる。
【0058】
更にまた、胴部2の口頸部4を下向きにして急冷する際に、冷却水槽内での缶体の移動方向に対して、冷却水槽内の冷却水を、缶体の移動速度とほぼ同じ速さで、かつ缶体の移動方向と同じ方向に流動させることにより、口頸部4へ冷却水を速やかに流入させ、離水の際には、冷却水槽液面を波打たせることなく口頸部4から冷却水を排水させて冷却水の抵抗を低下させることができる。そのため、缶体が軽量缶であっても口頸部4をふらつかせることなく、缶体を冷却水槽中に浸漬させたまま安定して移動させることができる。
【0059】
(具体例)
樹脂被覆金属板
板厚0.285mm、材質A3004H19、AB耐力270N/mmのアルミニウム合金板に対して、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)との混合樹脂(PBT:PET=60:40)のフィルムを、缶内面側で20μmの厚さ、缶外面側で20μmの厚さとなるようにラミネートした被覆金属薄板が使用されている。また、缶内面側のフィルムは、炭酸カルシウムを含むエポキシ樹脂を接着剤としてラミネートされている。
【0060】
ボトル型缶の製造
カップ成形工程では、上記のようなポリエステル樹脂被覆金属板から円板に打ち抜き、高さが42mm、外径95mmのカップ形状に絞り加工される。このカップ状部材の側壁に絞り・しごき加工(総しごき率:約40%程度)が施され、その後、開口端側が所定の長さにトリミングされて、一端側が開放された缶胴径が59mmの有底円筒状で、缶高が142mmの缶状部材が成形される。そしてその後、この缶状部材の底板側がトップドームとして絞り加工され(上端部は閉鎖された状態)、缶高が174mmのボトル型缶1の中間体が成形される。
【0061】
次いで、前記中間体に対して、潤滑剤を除去する際に、その中間体の樹脂フィルムが非晶質化処理される。その後、開口端部11が再度トリミングされるとともに、口頸部4の閉塞部が切り取られて開口させられ、この口頸部4の開口端部11が外巻きにされて環状のカール部12に形成される。そして、外巻きのカール部12から下方に続く口頸部4の円筒状周壁に対して、キャップの雌ねじ部と螺合するための雄ねじ部13を有するねじ形成部分、およびねじ形成部分の下方に位置する環状ビード部14,15がそれぞれ形成される。
【0062】
また、トップドームとして絞り加工された円周状壁(外径28mm)に、凸状の環状ビード部14の外径28mm、凹状の環状ビード部15の外径25.9mmが成形され、凸ビード部14から凹ビード部15の接続部分に45°の傾斜面14aが形成されている。
【0063】
このようにして得られたボトル型缶1の容器口部は、8山/インチのねじ部13が円周状壁に形成される。
【0064】
そして、口頸部4にカール部12およびねじ部13ならびに環状ビード部14,15等が形成された缶状部材に対して、口頸部4とは反対側の胴部2の下端開口部に、ネックイン加工が施され、その後、両面に熱可塑性樹脂フィルムが貼着された金属薄板材からなる別部材の底蓋5が、ネックイン加工された胴部2の下端開口縁部に二重巻き締め法により一体的に固着される。
【0065】
また、缶体が回転させられながら、口頸部4の両側に配置されたトンネル状の高周波誘導加熱装置内を短時間で複数回転しながら通過させられ、缶体の温度が265℃〜300℃の範囲に昇温させられる。
【0066】
この高周波誘導加熱装置は、誘導加熱コイルがコンベアの両側に平行に配置され、特に缶体の口頸部を中心に加熱するように配置される。そして加熱領域はコンベア速度にもよるが、30m/分以上の高速で搬送しても口頸部の特に環状ビード部を数秒間で缶温265℃〜300℃の範囲にしかも全周均一に加熱できる様に、缶体を4回転以上するように缶胴の両側を挟んで缶軸中心に缶体を回転させて搬送させる耐熱性のグリップベルトコンベアが配置されている。また、高周波誘導加熱装置出口には放射温度計が設けられ、加熱領域から出てくる缶体の温度を測定して高周波発信器の出力を制御できるように電気的にシステム構成されている(図示せず)。こうすることによりコンベア速度が変動しても缶温を所望の温度に確実に昇温させることが可能となる。なお、缶体をターレットで搬送させる場合には、この高周波誘導加熱装置は搬送路に沿って円弧状に配設される。
【0067】
その後、高周波誘導加熱装置の出口から短時間(本例では3秒以内)で、200℃以上の口頸部4が水温60℃±10℃の冷却水槽に浸漬させられる。このようにして内容物を充填する前の口頸部4が加熱・急冷されることにより、少なくとも環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂層が非晶質化されて、口頸部を成形するときに発生した缶内面側樹脂層、特に環状ビード部14,15の内面の熱可塑性樹脂層におけるミクロの欠陥が修復される。そして、口頸部4の内面側の被覆樹脂層に非晶質化処理後に水切りが行われ、凹ビード部15の壁厚が0.285〜0.36mm、硬度がHv84〜88(処理前ではHv92〜96)、缶高が162mm、入味量が300mlのボトル型缶1が得られた。そして、この口頸部4の内面被膜層の非晶質化状態は、胴部2の内面被膜層の非晶質化状態以上の水準にあることも確認できた。
【0068】
なお、この具体例での口頸部内面側の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)を測定した結果、Cn=0.25であった。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)との混合樹脂を、ポリエチレンテレフタレート樹脂に代えて具体例と同様に製造し、口頸部内面側の熱可塑性樹脂を非晶質化した結果、Cn=0.75であり、共に口頸部内面側の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)が1未満であることが確認された。
【0069】
そして、このボトル型缶1に対して、スパークリングワイン用の腐食促進液(組成;炭酸水270g、エタノール30g、クエン酸1.5g、ピロ亜硫酸カリウム60mg)を充填して、打栓圧80kgf、裾締めローラトルク3.0Nmで密封巻き締めを行い、正立した状態で、室温38℃で、1.3ヶ月貯蔵を実施した。その貯蔵の後に、口頸部4(カール部12、ねじ部13、環状ビード部14,15)の表面を観察した結果、特に異常ないことが確認された。
【0070】
比較例として、口頸部の非晶質化処理を施さなかった未処理缶(口頸部内面側の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)が1以上の缶、例えばCnが1.5程度の缶)について、上記と同様の内容物を充填し、巻き締めしたボトル型缶を同様に評価した結果、裾締めローラのサイド荷重を弱くしても、環状ビード部の内面のフィルムダメージ(ミクロの欠陥)は緩和されず、腐食が観察された。なお、裾締めローラによる裾締め成形を行わないものについては、腐食はほとんど確認されなかった。
【0071】
なお、この発明は、上記のような実施形態に限られるものではなく、例えば、実施形態に示したような金属薄板について、アルミニウム合金板に限らず、製缶用に使用されている各種の金属メッキや化成処理等の表面処理を施した表面処理鋼板等の表面処理金属板、例えばTFS板も使用することができる。どのような金属板を使用するか表面処理金属板を使用するかは、缶の内容物に対する金属薄板の耐食性を考慮して決めればよく、適宜設計変更可能なものであることは言うまでもない。
【0072】
また、上記の実施形態では、被覆樹脂としてPETとPBTとのブレンド樹脂を使用した具体例を説明したが、この熱可塑性樹脂に限られるものではなく、例えば、共重合PETなどのコーポリマーや、ホモポリマー同士あるいはコーポリマーとの混合樹脂の場合でも適用することができる。
【0073】
なお、本実施形態では、ボトル型缶の口頸部成形後の状態において、口頸部を非晶質化させることにより上述した関係式(1)を満足するようにしているが、非晶質化処理を施さなくともよい場合がある。例えば、樹脂組成の選定を、共重合成分の添加により結晶化速度を遅くするように選定したり、あるいは口頸部成形後の加熱冷却工程の冷却を低温の冷却エアーを強制的に吹き付ける冷却方法を採用したりすることにより、口頸部の内面被膜樹脂の 結晶化度が上述した関係式(1)を満足し、本発明の技術的課題を解決することが可能となると推測できる。
【0074】
また、この発明の非晶質化工程は、底蓋巻締め工程後に施されているが、これに限定されず、底蓋巻締め工程前のカール・ねじ・ビード成形後の缶体に施すことも可能である。但し、底蓋5が胴部2に巻き締められた底蓋巻締め工程の後であれば、缶体の缶胴剛性が高まるため、胴部2を両側から搬送ベルトで挟んでも胴部2の変形を防ぐことができ、両側の搬送ベルトを反対方向に走行させて缶体を回転させながら口頸部4を均一に高周波誘導加熱することができる。そのため、この発明の非晶質化工程は、均一性、高速搬送性等の観点から底蓋巻締め工程後に実施されるのが望ましい。
【0075】
また、キャッピングの打栓圧に対して缶体の座屈強度を備えていれば、肩部3を除き、口頸部4全体、つまり環状ビード部14,15の他に、ねじ部13やカール部12まで加熱しても差し支えない。但し、ロールオン成形時に受ける環状ビード部14,15以外の口頸部4の熱可塑性樹脂層におけるダメージは、裾締めローラの先端が直接当接しながら周回する部位のうちで最も大きくなる。したがって、胴部2の薄肉化、熱履歴による熱可塑性樹脂層は脆化を考慮すると、環状ビード部14,15およびその隣接部分だけを局部的に高周波誘導加熱して内面熱可塑性樹脂層を非晶質化するのが望ましい。
【0076】
また、この発明による口頸部4の急冷は、上記の実施形態では、缶体を冷却水槽に浸漬させる例を示しているが、これに限定されず、例えば、冷却水の吹き付け、あるいは空冷による冷却方法も適用することができる。
【0077】
また、この発明の具体例では、胴部の下端部に底蓋を巻き締める底蓋巻締め工程を備えたボトル型缶の例を示したが、これに限定されず、底蓋を巻き締める必要にない缶胴と缶底が一体成形された有底円筒体の開口端部側を縮径して肩部および口頸部を成形した缶体(モノブロックタイプ)にも適用することができる。
【0078】
なお、底蓋付きボトル型缶の製造方法であれば、WO01/015829公報に記載されているように、口頸部の長さを長くしたボトル型缶にも容易に成形、対応することができるので、モノブロックタイプよりも形状の自由度を向上させることができる。
【0079】
そして、この発明におけるボトル型缶1では、その胴部2に印刷することなく、印刷済みのシュリンクを被着させてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0080】
1…ボトル型缶、 2…胴部、 3…肩部、 4…口頸部、 5…底蓋、 11…開口端部、 12…カール部、 13…ねじ部、 13a…ねじ谷部、 13b…ねじ山部、 14…環状ビード部(凸ビード部)、 14a…傾斜面、 15…環状ビード部(凹ビード部)、 21…裾締めローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板の少なくとも缶内面側に相当する面に熱可塑性樹脂被膜層が形成されて潤滑剤が塗布された被覆金属薄板を打ち抜いてカップを成形するカップ成形工程と、前記カップから更に胴部が小径化された有底円筒体に成形する缶胴成形工程と、前記有底円筒体の一方の端部を縮径して肩部および口頸部を成形する口頸部成形工程と、前記口頸部の先端の開口端部をカール部に形成するとともに、前記口頸部にねじ部および環状ビード部を形成するカール・ねじ・ビード成形工程とを備えるボトル型缶の製造方法において、
前記カール・ねじ・ビード成形工程後の缶体に対して、前記肩部より上側の前記口頸部を、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層をその融点以上に加熱するとともに直ちに急冷して、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化させる非晶質化工程を備えていることを特徴とするボトル型缶の製造方法。
【請求項2】
前記口頸部成形工程は、前記有底円筒体の底部近傍を含めた缶の底部側を縮径して肩部および口頸部を成形するトップドーム成形工程を含み、
前記非晶質化工程は、未開口の前記口頸部を開口し、前記胴部の前記口頸部と反対側の下端部に底蓋を巻き締めた底蓋付き缶体に対して、前記口頸部の少なくとも前記缶内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層を非晶質化させる工程を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のボトル型缶の製造方法。
【請求項3】
前記非晶質化工程は、缶体を缶軸中心に回転させながら誘導加熱装置内を通過させる誘導加熱工程と、加熱された前記缶体の前記口頸部を直ちに冷却水槽に浸漬して急冷させる冷却工程とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のボトル型缶の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質化工程は、前記口頸部を下向きにした状態で直ちに前記冷却水槽に浸漬して急冷させ、冷却後の缶体に対して前記口頸部を下向きにした状態で前記口頸部に付着した水滴をエアーで吹き飛ばす水切り工程を含むことを特徴とする請求項3に記載のボトル型缶の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質化工程は、前記口頸部を下向きにして缶体を搬送させ、前記口頸部の缶軸中心を水面に対して傾斜させた状態で前記口頸部を前記冷却水槽に浸漬して急冷させるとともに、前記口頸部を急冷させた後に、前記口頸部を前記冷却水槽に浸漬させるときと逆向きに傾斜させて前記冷却水槽から取り出す冷却工程を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のボトル型缶の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質化工程は、前記冷却水槽内の冷却水を缶体の移動速度とほぼ同じ速さで前記缶体の前記冷却水槽内の移動方向と同じ方向に対流させる冷却工程を含むことを特徴とする請求項3から5のいずれか一つに記載のボトル型缶の製造方法。
【請求項7】
金属薄板の少なくとも缶内面側に相当する面に熱可塑性樹脂被膜層が形成された樹脂被覆金属薄板から製造され、成形後のボトル型缶の状態で、口頸部内面側における前記熱可塑性樹脂被膜層の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)が下記式(1)を満足することを特徴とするボトル型缶。
Cn<1 …(1)
但し、CnはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cn=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【請求項8】
前記口頸部内面側の前記熱可塑性樹脂被膜層における熱可塑性樹脂の結晶化度(Cn)と、前記成形後のボトル型缶の状態で、缶胴中央部の熱可塑性樹脂の結晶化度(Cw)とが下記式(2)を満足することを特徴とする請求項7に記載のボトル型缶。
Cn/Cw<1 …(2)
但し、CwはIR分析(反射赤外線分光法)で測定した赤外線吸収強度、Cw=(1340cm−1のピーク高さ)/(1578cm−1のピーク高さ)。
【請求項9】
前記口頸部の内面側における前記熱可塑性樹脂被膜層に、前記口頸部成形後、前記熱可塑性樹脂の融点以上に加熱するとともに直ちに急冷して前記熱可塑性樹脂を非晶質化させる非晶質化処理が施されていることを特徴とする請求項7または8に記載のボトル型缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107093(P2013−107093A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252286(P2011−252286)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】