説明

ボルト仮固定ナット

【課題】 ナット本締め時におけるボルトの共回り防止と、ボルトねじ部の発錆抑制を図る。
【解決手段】 底鋼板1のボルト孔3よりも太径となる筒状部15の軸心方向一端面に、低剛性部11として、軸心方向に突出する薄肉のリング状突起13を設けてボルト仮固定ナット9を形成する。底鋼板1のボルト孔3に下方より挿通させた高力ボルト5のねじ部5aに、ボルト仮固定用ナット9を軸心方向一端側より螺着させ、リング状突起13が底鋼板1に押し付けられて軸心方向に押し潰されるよう変形するまでボルト仮固定ナット9を締め付けることで、変形したリング状突起13の復元力により、ボルト仮固定ナット9の軸心方向一端部を底鋼板1のボルト孔3の周縁部に密着させ、密着部分に生じる摩擦力によって共回りが防がれるボルト仮固定ナット9に対する締付け軸力によりボルト5をボルト孔3へ仮固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板同士の重ね合せ部を締結するために用いるボルトを所要の鋼板のボルト孔に予め仮固定するために用いるボルト仮固定ナットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁を構成するための床版としては、床版のコンクリート層の下面を形成する型枠をパネル状の底鋼板として、該底鋼板の内側にコンクリートを直接打設することで、上記底鋼板とコンクリート層とを一体に結合させるようにした形式の合成床版が用いられるようになってきている。
【0003】
この種の合成床版を架設するには、先ず、主桁上に底鋼板を径間方向に並べて配設した後、隣接する底鋼板同士の連結作業が必要となる。
【0004】
上記隣接する底鋼板同士を連結する場合、通常は、図5に示す如く、隣接する底鋼板1の突合せ端部同士の上側に添接板2を重ねて配置した状態にて、上記各底鋼板1と添接板2の重ね合わせ部に穿設してあるボルト孔3,4に対し、底鋼板1の下面側からボルト(高力ボルト)5を挿通させる。その後、上記添接板2の上側に突出する上記ボルト5の先端部に、ワッシャ7を嵌めてから、ナット6を螺着させて締め込むことで、鋼板同士の重ね合わせ部としての上記各底鋼板1と添接板2の重ね合わせ部を、ボルト5によりそれぞれ接合し、これにより、隣接する底鋼板1の突合せ端部同士を、上記添接板2を介して摩擦接合により連結させるようにしてある。
【0005】
上記のようにしてボルト5を用いて底鋼板1と添接板2の重ね合わせ部を接合する際には、底鋼板1の下面側から上記ボルト孔3,4に挿通させたボルト5が脱落(落下)しないように保持した状態で、添接板2の上側からナット6を螺着させて締め込む必要が生じていた。
【0006】
そこで、上記合成床版の底鋼板1の架設現場における底鋼板の下面側からの作業を解消できるようにするための手法として、予め、上記底鋼板1のボルト孔3に下方より挿通させたボルト5を、所要の治具を介して上記ボルト孔3の部分に脱落しないように保持させることが考えられてきている。
【0007】
図6(イ)(ロ)(ハ)は上記底鋼板1のボルト孔3にボルト5を脱落しないよう保持させるための治具の一例として、従来提案されている引っ掛けリング8を示すものである。
【0008】
上記引っ掛けリング8は、底鋼板1に穿設してあるボルト孔3よりもやや大きい外径寸法を有し、且つ軸心方向の長さ寸法(高さ寸法)を、上記添接板2の板厚よりも小さい寸法としたリング形状の部材の内周面に、上記ボルト5のねじ部(軸部)5aに螺着させるための雌ねじ部(図示せず)を設けた構成としてある。これにより、図6(イ)に示す如く、隣接する底鋼板1の突合せ端部に設けてあるボルト孔3に、ボルト5を下方からそれぞれ挿通させた後、該各ボルト5のねじ部5aに、上記引っ掛けリング8を上方からねじ結合により嵌めて、該引っ掛けリング8を上記各底鋼板1のボルト孔3の周りに当てることで、予め、上記各底鋼板1のボルト孔3に、ボルト5を、落下を防止した状態で保持させることができるようにしてある。
【0009】
したがって、その後は、図6(ロ)に示すように、上記各底鋼板1の突合せ端部の上側に、上記引っ掛けリング8が通過できる大きさのボルト孔4を穿設してなる添接板2を、該ボルト孔4に上記各底鋼板1のボルト孔3に保持させてあるボルト5を挿通させるようにして上方から載置した後、図6(ハ)に示すように、上記ボルト5に、ワッシャ7を介してナット6を上方から嵌めて添接板2の上側から締め込むことで、各底鋼板1に対する添接板2の接合作業、すなわち、該添接板2を介した上記底鋼板1同士の連結作業を、底鋼板1の上側からの作業のみで実施できるようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0010】
ところで、図5に示した如き合成床版の裏面となる底鋼板1の下面側の防錆処理としては、当初は亜鉛溶射が考えられていたが、近年では、上記底鋼板1の下面側に、全面に亘り塗装することが多くなってきている。
【0011】
そのために、本出願人は、上記底鋼板1の架設現場における底鋼板1の下面側からの塗装作業を不要にできるようにするために、工場等において、上記底鋼板1のボルト孔3にボルト5を挿通させて保持させた状態で、ボルト5の頭部を含む該底鋼板1の下面の全面に亘り先行塗装を行うようにすること考えている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−176909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、上記特許文献1に示された引っ掛けリング8は、底鋼板1のボルト孔3に下方より挿通させたボルト5のねじ部5aにねじ結合により嵌め込んで、その下端面を上記底鋼板1におけるボルト孔3の周りに当てるようにするためのものであるが、該引っ掛けリング8は、周壁の肉厚が軸心方向の全長に亘り一定としてあって、軸心方向の全長に亘り軸心方向の剛性を一様にしてあることから、上記ボルト5のねじ部5aに螺着させてねじ込んでも、引っ掛けリング8の下端部がたとえ周方向の一部でも上記底鋼板1の上面に接するようになると、その時点でそれ以上ねじ込めなくなるため、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に対する上記引っ掛けリング8の密着度をあまり高めることができず、上記底鋼板1と引っ掛けリング8との間の摩擦力を大きくすることが難しいという問題がある。そのために、上記底鋼板1のボルト孔3に上記引っ掛けリング8を介して保持させてあるボルト5に添接板2の接合用のナット6を螺着させて締め付けるときに、上記ボルト5に共回りが発生する虞が懸念されるというのが実状である。
【0014】
したがって、工場等にて、上記底鋼板1のボルト孔3に、ボルト5を上記引っ掛けリング8を用いて脱落を防止した状態で保持させた状態であっても、上記ボルト5に対するナット6の締付けの際にボルト5の共回りが発生してしまうと、塗膜が割れたり、剥離が生じたりする虞があることから、上記ボルト5の頭部を含めた底鋼板1の下面の全面に先行塗装を行うことは困難であった。
【0015】
更に、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の上端部の周縁に対する上記引っ掛けリング8の下端面の密着度をあまり高めることができないことに起因して、上記底鋼板1の輸送時の振動等で上記引っ掛けリング8が緩み易いという問題も懸念される。更には、上記引っ掛けリング8と、該引っ掛けリング8が接する底鋼板1のボルト孔3の周縁部との密着度が低くて気密性に劣るため、底鋼板1のボルト孔3に上記引っ掛けリング8を用いてボルト5を保持させた状態で、該底鋼板1の架設までの期間があくと、水分の浸入等により上記ボルト5のねじ部5aにおける上記底鋼板1のボルト孔3の内部に位置する部分に錆が生じる虞も懸念される。
【0016】
そこで、本発明は、鋼板同士の重ね合わせ部の接合に用いるボルトを、該ボルトを最初に挿通させる所要の鋼板のボルト孔に仮固定できると共に、該ボルトの仮固定を行う際に上記所要の鋼板のボルト孔の周縁部との密着度を高めることができて、該所要の鋼板との間の摩擦力を大きくすることができ、これにより、上記鋼板同士の重ね合わせ部の接合のために上記ボルトにナットを本締めする際にも該ボルトに共回りが生じる虞を未然に防止することが可能で、上記鋼板同士の重ね合わせ部を接合するために用いるボルトの頭部を、該ボルトの頭部の周りの鋼板表面と一緒に先行塗装することを可能にできるボルト仮固定ナットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、複数の鋼板の重ね合わせ部に挿通させて該複数の鋼板を接合するためのボルトに螺合させることで所定の鋼板のボルト孔に上記ボルトを仮固定させるようにするボルト仮固定ナットにおいて、上記所定の鋼板のボルト孔よりも大径とし且つ該所定の鋼板に当接する筒状部の軸心方向の一端側に、低剛性部を設けて、該低剛性部の軸心方向の剛性が、上記筒状部の軸心方向の他の部分の剛性よりも小さくなるようにしてなる構成とする。
【0018】
又、上記構成における低剛性部を、筒状部の軸心方向一端面より軸心方向に所要寸法突出するように設けた薄肉のリング状突起により形成するようにした構成とする。
【0019】
同様に、上記構成における低剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面又は軸心方向一端面に周方向に延びる溝を設けることで形成するようにした構成とする。
【0020】
同様に、上記構成における剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面に周壁の肉厚寸法が小さくなる段差部を設けることで形成するようにした構成とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のボルト仮固定ナットによれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)複数の鋼板の重ね合わせ部に挿通させて該複数の鋼板を接合するためのボルトに螺合させることで所定の鋼板のボルト孔に上記ボルトを仮固定させるようにするボルト仮固定ナットにおいて、上記所定の鋼板のボルト孔よりも大径とし且つ該所定の鋼板に当接する筒状部の軸心方向の一端側に、低剛性部を設けて、該低剛性部の軸心方向の剛性が、上記筒状部の軸心方向の他の部分の剛性よりも小さくなるようにしてなる構成としてあるので、上記所定の鋼板のボルト孔に一側面側より挿通させたボルトのねじ部に、上記ボルト仮固定ナットを軸心方向の一端側より螺着させて、該ボルト仮固定ナットの低剛性部が上記所定の鋼板の他側面に接するまでねじ込み、更に、上記ボルト仮固定ナットの低剛性部が軸心方向に押し潰されるように変形するまで締め付けると、この軸心方向に押し潰されるよう変形させられた低剛性部の復元力により、該ボルト仮固定ナットの低剛性部の軸心方向一端部を、上記所定の鋼板の他側面におけるボルト孔の周縁部に密着させることができる。これにより、上記密着した部分に生じる大きな摩擦力によって該ボルト仮固定ナットの上記ボルトとの共回りが阻止されるようになる。したがって、上記ボルトを、上記ボルト仮固定ナットに対する締付け軸力により、上記所定の鋼板のボルト孔に、回転を防止した状態で仮固定することが可能になる。
(2)更に、上記ボルト仮固定ナットの低剛性部を上記所定の鋼板の他側面におけるボルト孔の周縁部に密着させることで、該ボルト仮固定ナットと上記所定の鋼板の他側面におけるボルト孔の周縁部との間を密閉することができる。よって、上記所定の鋼板のボルト孔に上記ボルト仮固定ナットを用いてボルトを仮固定した状態にて、上記所定の鋼板のボルト孔の内部への水分の浸入を抑制できて、上記ボルトのねじ部における上記所定の鋼板のボルト孔の内部に位置する部分に錆が生じる虞を抑制することが可能になる。
(3)低剛性部を、筒状部の軸心方向一端面より軸心方向に所要寸法突出するように設けた薄肉のリング状突起により形成するようにした構成、又は、低剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面又は軸心方向一端面に周方向に延びる溝を設けることで形成するようにした構成、又は、低剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面に周壁の肉厚寸法が小さくなる段差部を設けることで形成するようにした構成とすることにより、上記(1)に示した如き筒状部の軸心方向の一端側に低剛性部を具備してなるボルト仮固定ナットを容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1(イ)(ロ)(ハ)及び図2は本発明のボルト仮固定ナットの実施の一形態として、鋼板同士の重ね合わせ部の一例として図5に示したと同様の合成床版の底鋼板1と添接板2との重ね合わせ部の接合に用いる高力ボルト5を、上記底鋼板1のボルト孔3に対して仮固定する場合について示すもので、以下のようにしてある。
【0024】
すなわち、本発明のボルト仮固定ナット9は、図2に示す如く、前記図5に示した所定の鋼板としての底鋼板1に設けてあるボルト孔3よりも所要寸法大きな外径寸法で軸心方向に所要寸法延び、且つ内周面に上記ボルト5のねじ部5aに螺着させるための雌ねじ部12を設けてなる筒状部10を有し、該筒状部10の軸心方向一端側に、低剛性部11を一体に設けて、該低剛性部11における軸心方向の剛性が、上記筒状部10の軸心方向の他の部分の剛性に比して小さくなるようにした構成とする。
【0025】
詳述すると、上記低剛性部11は、周壁の厚み寸法が上記筒状部10の周壁の厚み寸法に比して小さくなるようにすることで、軸心方向の剛性が筒状部10に比して小さくなるようにしてある。より具体的には、たとえば、上記筒状部10の軸心方向一端面における径方向(周壁肉厚方向)の中間部に、上記筒状部10に比して薄肉のリング状の突起13を、軸心方向に所要寸法突出させて設けて、該リング状突起13により上記筒状部10に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成した構成としてある。
【0026】
更に、上記ボルト仮固定ナット9は、所要の弾性変形を許容できるように、銅、黄銅、アルミニウム等、上記底鋼板1に比して柔らかい金属製、より好ましくは、合成樹脂製としてある。これにより、上記底鋼板1のボルト孔3に下方よりワッシャ7を介して挿通させた高力ボルト5に、上記ボルト仮固定ナット9を低剛性部11が設けてある軸心方向の一端側より螺着させて締め込むことで、該ボルト仮固定ナット9と上記高力ボルト5との締め付け軸力により、ボルト仮固定ナット9の低剛性部11となる上記リング状突起13を、底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に押し付けて軸心方向に押し潰すように変形させることができるようにしてあり、この軸心方向に押し潰されるよう弾性変形した上記リング状突起13の復元力により、低剛性部11としての該リング状突起13の突出端部(軸心方向一端部)を、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に密着させて、該ボルト仮固定ナット9の緩み止め効果と、底鋼板1のボルト孔3と上記ボルト仮固定ナット9との間の気密性を得ることができるようにしてある。
【0027】
更に、上記ボルト仮固定ナット9を合成樹脂製とすれば、上記リング状突起13の突出端部を、底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に、より確実に密着させることができるため、該ボルト仮固定ナット9の緩み止め効果を増強できると共に、底鋼板1のボルト孔3と該ボルト仮固定ナット9との間の気密性をより高めることが可能になる。しかも、上記筒状部10とリング状突起13の外周面形状、及び、雌ねじ部12とリング状突起13の内周面形状を有する複雑な形状のボルト仮固定ナット9の成型を一度で容易に行うことが可能になる。よって、上記ボルト仮固定ナット9を大量生産に有利なものとすることができると共に、単価を安価なものとすることが可能となる。更には、上記ボルト仮固定ナット9は、底鋼板1のボルト孔3に高力ボルト5を仮固定した状態で外気に曝されるものであるという点、及び、図1(ハ)で後述するように、底鋼板1の上に添接板2を載置して、上記高力ボルト5に添接板2の上からナット6を本締めして上記底鋼板1と添接板2とを接合した後も、該ボルト仮固定ナット9は高力ボルト5のねじ部5aに装着されたまま残るものであるという点からも、ボルト5の健全性に影響を及ぼすことがないように、上記ボルト仮固定ナット9を腐食しない合成樹脂製とすることが好ましい。
【0028】
上記ボルト仮固定ナット9の軸心方向寸法は、上記したように底鋼板1のボルト孔3に下方より挿通させた高力ボルト5のねじ部5aに螺着させたボルト仮固定ナット9を、上記低剛性部11となるリング状突起13が上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に押し付けられて軸心方向に押し潰されるように変形するまで締め付けたときに、該リング状突起13が軸心方向に押し潰されて変形した状態でのボルト仮固定ナット9の軸心方向寸法が、上記添接板2の板厚以下の寸法となるように設定してあるものとする。なお、上記ボルト仮固定ナット9を用いて高力ボルト5が仮固定してある底鋼板1と、その上に載置する添接板2との接合の際に上記高力ボルト5に添接板2の上側から嵌めるワッシャ7として、ボルト仮固定ナット9の筒状部10の外径よりも大きな寸法の内径を有するワッシャ7を使用する場合は、上記リング状突起13が軸心方向に押し潰されるように変形するまで締め付けた状態のボルト仮固定ナット9の軸心方向寸法が、上記添接板2の板厚とワッシャ7の厚み寸法の和以下の寸法となるように設定すればよい。
【0029】
以上の構成としてあるボルト仮固定ナット9を用いて底鋼板1と添接板2との接合に使用するボルト5を上記底鋼板1のボルト孔3に仮固定する場合は、先ず、工場等にて、図1(イ)に示す如く、底鋼板1のボルト孔3にボルト5としての高力ボルト5をワッシャ7を介して下面側より挿通させて保持した状態にて、上記底鋼板1の上側に突出する該高力ボルト5のねじ部5aに、上記ボルト仮固定ナット9を、低剛性部11となるリング状突起13が設けてある軸心方向一端側より螺着させてねじ込むことで、該ボルト仮固定ナット9の上記リング状突起13の突出端部が、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に接するようにする。
【0030】
次いで、上記ボルト仮固定ナット9を、上記高力ボルト5のねじ部5aに対し更に締め付けることにより、図1(ロ)に示す如く、該ボルト仮固定ナット9の上記高力ボルト5に対する締付け軸力によって、ボルト仮固定ナット9の軸心方向一端部に設けてある低剛性部11としての上記リング状突起13を、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に強く押し付けて、軸心方向に押し潰すように変形させるようにする。
【0031】
なお、この際、上記ボルト仮固定ナット9のリング状突起13の突出端部が上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に接触して該接触部に生じる摩擦力によって該ボルト仮固定ナット9を回転させ難くなる場合は、その後、上記高力ボルト5が六角ボルトの場合は、上記底鋼板1の下側からボルト5の頭部5bを締め込み方向へ回転させて、該高力ボルト5を上記ボルト仮固定ナット9に対して締め付けるようにしてもよい。又、図示してないが、高力ボルト5としてトルシア形の高力ボルト5を用いている場合は、上記底鋼板1の上側からトルシア形高力ボルト5のピンテールを、汎用のボックスレンチ等を使用して、該高力ボルト5の締め込み方向へ回転させることで、該高力ボルト5を上記ボルト仮固定ナット9に対して締め付けるようにしてもよい。
【0032】
これにより、上記ボルト仮固定ナット9では、上記軸心方向に押し潰されるように弾性変形させられたリング状突起13の復元力によって、該リング状突起13の突出端部が、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に強く押し付けられるようになることから、該ボルト仮固定ナット9と上記底鋼板1の上面との密着度が高められ、この密着した部分に生じる大きな摩擦力によって該ボルト仮固定ナット9の高力ボルト5との共回りが阻止されるようになる。
【0033】
したがって、上記高力ボルト5は、上記ボルト仮固定ナット9に対する締付け軸力により、上記底鋼板1のボルト孔3に、回転が防止された状態で仮固定されるようになる。更に、この際、上記したようにボルト仮固定ナット9のリング状突起13が、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に、周方向の全周に亘り強く密着することに伴い、該ボルト仮固定ナット9と、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部との間が密閉される。
【0034】
上記のようにして底鋼板1のボルト孔3に、高力ボルト5を回転を防止した状態で仮固定した後は、必要に応じて工場等にて、図1(ロ)に二点鎖線で示す如く、上記ボルト孔3に上記ボルト仮固定ナット9を介して高力ボルト5を仮固定してなる底鋼板1の下面側に、上記高力ボルト5の頭部5bを含めて全面に亘り先行塗装を施す。符号14は塗膜を示す。
【0035】
その後、各ボルト孔3に上記高力ボルト5をそれぞれ回転を防止した状態で仮固定してある底鋼板1は、施工現場へ搬入して主桁上に径間方向に並べて配設して、隣接する底鋼板1の突合せ端部同士の上側に、図1(ハ)に示す如く(図1(ハ)では片方の底鋼板1のみを示してある)、該各底鋼板1のボルト孔3と対応する位置に上記ボルト仮固定ナット9の筒状部10よりも所要寸法大きなボルト孔4を穿設してなる添接板2を上方から載置して、該添接板2のボルト孔4に、上記底鋼板1のボルト孔3に仮固定してある高力ボルト5を、それぞれ挿通させるようにする。
【0036】
しかる後、上記添接板2の上方へ突出している上記各高力ボルト5のねじ部5aに、ワッシャ7を介してナット6を嵌めて、該ナット6を高力ボルト5に対して締め込むことで、上記底鋼板1と添接板2の重ね合わせ部を、高力ボルト5によりそれぞれ接合する。これにより、隣接する底鋼板1の突合せ端部同士が、上記添接板2を介して連結されるようになる。
【0037】
このように、本発明のボルト仮固定ナット9によれば、底鋼板1のボルト孔3に高力ボルト5を仮固定する際、該ボルト仮固定ナット9の上記高力ボルト5のねじ部5aに対する締付け軸力により、低剛性部11を形成しているリング状突起13を、軸心方向に押し潰すように変形させることで、その復元力により上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に強く押し付けて密着度を高めることができる。
【0038】
したがって、上記ボルト仮固定ナット9と底鋼板1との間に作用する摩擦力を大きくすることができて、該底鋼板1のボルト孔3に、上記高力ボルト5を、回転を防止した状態で仮固定することができる。
【0039】
このため、上記底鋼板1の架設現場にて、底鋼板1のボルト孔3に仮固定してある上記高力ボルト5に、添接板2の上側からナット6を本締めするときにも、上記高力ボルト5に共回りが発生する虞を未然に防止することが可能となるため、上記したように、工場等で上記底鋼板1の下面側に、上記ボルト孔3に取り付けてある高力ボルト5の頭部5bを含めて先行塗装を施すことが可能になり、よって、上記底鋼板1の設置後における該底鋼板1の下面側からの塗装作業を不要にすることができて、底鋼板1の下側に足場を必要とする作業や、高所作業車を用いて行う作業をなくすことが可能となる。
【0040】
又、上記高力ボルト5の仮固定の際、上記ボルト仮固定ナット9は、低剛性部11を形成しているリング状突起13の突出端部を、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に周方向の全周に亘り強く密着させることができるため、該ボルト仮固定ナット9と、上記底鋼板1のボルト孔3との密閉性を高めることができる。よって、底鋼板1のボルト孔3に上記ボルト仮固定ナット9を用いて高力ボルト5を仮固定した状態で、該底鋼板1の架設までの期間があく場合であっても、上記底鋼板1のボルト孔3の内部への水分の浸入を抑制できて、上記高力ボルト5のねじ部5aにおける上記底鋼板1のボルト孔3の内部に位置する部分に錆が生じる虞を抑制することが可能になる。更には、図1(ロ)に二点鎖線で示すように、上記底鋼板1のボルト孔3にボルト仮固定ナット9を介して仮固定した状態の高力ボルト5の頭部5bを含む底鋼板1の下面側に先行塗装を行って、塗膜14により上記高力ボルト5の頭部と底鋼板1の下面との間を密閉することで、上記高力ボルト5のねじ部5aにおける上記底鋼板1のボルト孔3の内部に位置する部分の発錆抑制効果をより増強することが可能になる。
【0041】
次に、図3は本発明の実施の他の形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0042】
すなわち、本実施の形態のボルト仮固定ナット9aは、底鋼板1に設けてあるボルト孔3よりも所要寸法大きな外径寸法で軸心方向に所要寸法延びる筒状部10の軸心方向一端部の外周面に、全周に亘る溝15を設けて、該溝15の部分にて周壁の肉厚寸法を減じることにより、上記筒状部10の軸心方向一端部に、該筒状部10における上記溝15の配設個所よりも軸心方向他端側の部分に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成するようにしたものである。
【0043】
その他の構成は図1(イ)(ロ)(ハ)及び図2に示したボルト仮固定ナット9と同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0044】
以上の構成としてあるボルト仮固定ナット9aを用いて底鋼板1と添接板2との接合に使用するボルト5を上記底鋼板1のボルト孔3に仮固定する場合は、上記実施の形態のボルト仮固定ナット9と同様に、先ず、工場等にて、底鋼板1のボルト孔3に、ワッシャ7を介して下方より挿通させて配置した高力ボルト5のねじ部5aに、上記ボルト仮固定ナット9aを、低剛性部11が形成してある軸心方向一端側より螺着させて、該低剛性部11の先端部となるボルト仮固定ナット9aの軸心方向一端部が上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に接するまでねじ込んだ後、該ボルト仮固定ナット9aを、上記低剛性部11が溝15の部分で軸心方向に押し潰されるように変形するまで更に締め付けるようにすると、該軸心方向に押し潰されるように弾性変形された低剛性部11の復元力により、該低剛性部11の先端部となる上記ボルト仮固定ナット9aの軸心方向一端部が、上記底鋼板1の上面におけるボルト孔3の周縁部に強く押し付けられることから、該ボルト仮固定ナット9aと上記底鋼板1の上面との密着度が高められ、この密着した部分に生じる大きな摩擦力によって該ボルト仮固定ナット9の高力ボルト5との共回りが阻止されるようになる。
【0045】
したがって、本実施の形態のボルト仮固定ナット9aによっても、図1(イ)(ロ)(ハ)及び図2に示したボルト仮固定ナット9と同様の効果を得ることができる。
【0046】
次いで、図4(イ)(ロ)(ハ)(ニ)は本発明の実施の更に他の形態として、図3に示したボルト仮固定ナット9aの変形例をそれぞれ示すもので、以下のようにしてある。
【0047】
すなわち、図4(イ)に示したボルト仮固定ナット9bは、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様の構成において、筒状部10の軸心方向一端部の外周面に溝15を設けた構成に代えて、筒状部10の軸心方向一端部の内周面に全周に亘る溝16を設けて、該溝16の部分にて周壁の肉厚寸法を減じることにより、上記筒状部10の軸心方向一端部に、該筒状部10における上記溝16の配設個所よりも軸心方向他端側の部分に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成したものである。
【0048】
又、図4(ロ)に示したボルト仮固定ナット9cは、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様の構成において、筒状部10の軸心方向一端部の外周面に溝15を設けた構成に代えて、筒状部10の軸心方向の一端面における径方向(周壁肉厚方向)の中間部に、軸心方向に所要の深さ寸法を有する溝17を設けて、該溝17によって該ボルト仮固定ナット9cの軸心方向一端部における周壁を中抜きしてその肉厚を減じることにより、上記筒状部10の軸心方向一端部に、該筒状部10における上記溝17よりも他端側の部分に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成したものである。
【0049】
更に、図4(ハ)に示したボルト仮固定ナット9dは、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様の構成において、筒状部10の軸心方向一端部の外周面に溝15を設けた構成に代えて、筒状部10の軸心方向一端部の外周面に、周壁の肉厚寸法が小さくなるよう段差部18を設けて、該段差部18により、上記筒状部10の軸心方向一端部に、該筒状部10における上記段差部18よりも他端側の部分に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成したものである。
【0050】
更に又、図4(ニ)に示したボルト仮固定ナット9eは、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様の構成において、筒状部10の軸心方向一端部の外周面に溝15を設けた構成に代えて、筒状部10の軸心方向一端部の内周面に、周壁の肉厚寸法が薄くなる段差部19を設けて、該段差部19により、上記筒状部10の軸心方向一端部に、該筒状部10における上記段差部19よりも他端側の部分に比して軸心方向の剛性が小さくなる低剛性部11を形成したものである。
【0051】
その他、図4(イ)(ロ)(ハ)(ニ)において図3に示したものと同一のものにはそれぞれ同一符号が付してある。
【0052】
上記図4(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に示したいずれのボルト仮固定ナット9b,9c,9d,9eにおいても、筒状部10の軸心方向一端部に低剛性部11が設けてあることから、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様に使用することで、底鋼板1と添接板2との接合に使用するボルト5を、上記底鋼板1のボルト孔3に、回転を拘束した状態で仮固定できると共に、ボルト仮固定ナット9b,9c,9d,9eと上記底鋼板1の上面との密着度を高めることができるため、図3に示したボルト仮固定ナット9aと同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、ボルト仮固定ナットに設ける低剛性部は、筒状部10に比して軸心方向の剛性が小さくなるようにしてあれば、図2、図3図4(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に図示した以外の形状としてもよい。
【0054】
ボルト仮固定ナット9,9a,9b,9c,9d,9eは、六角ボルトやトルシア形の高力ボルト5以外の形式のボルトの仮固定に用いるようにしてもよい。
【0055】
又、上記ボルト仮固定ナット9,9a,9b,9c,9d,9eは、底鋼板1の下面側に塗装を必要としない場合における該底鋼板1と添接板2との接合に用いるボルト5を、上記底鋼板1のボルト孔3へ仮固定する場合に用いるようにしてもよい。
【0056】
更に、複数枚の鋼板をボルトを用いて接合する際、ボルト挿通側に位置する所定の鋼板に設けたボルト孔に予めボルトを脱落しないよう取り付けておくことが望まれる個所であれば、上記底鋼板1と添接板2以外のいかなる鋼板同士の接合に用いるボルトの仮固定に適用してもよい。又、高力ボルト5が頭部5bを下にした姿勢以外の角度姿勢に配置される個所にも適用できる。
【0057】
図4(イ)のボルト仮固定ナット9b、及び、図4(ニ)のボルト仮固定ナット9eにおける軸心方向のいずれか一方の端部や、外周面に、ボルト仮固定ナット9b,9eの軸心方向の一端部側と他端部側を外観から容易に識別できるようにするための切り欠き等によるマークを設けるようにしてもよい。
【0058】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のボルト仮固定ナットの実施の一形態を示すもので、(イ)は底鋼板のボルト孔に挿通させた高力ボルトに螺着させた状態を、(ロ)は高力ボルトに締め込んだ状態を、(ハ)は底鋼板に添接板を接合した状態をそれぞれ示す切断概略側面図である。
【図2】図1のボルト仮固定ナットを示す一部切断概略側面図である。
【図3】本発明の実施の他の形態を示す一部切断概略側面図である。
【図4】(イ)(ロ)(ハ)(ニ)はいずれも本発明の実施の更に他の形態を示す一部切断概略側面図である。
【図5】隣接する合成床版の底鋼板の突合せ端部同士の添接板を介した一般的な連結構造を示す切断側面図である。
【図6】底鋼板のボルト孔にボルトを脱落しないよう保持させるために従来提案されている手法の一例の概要を示すもので、(イ)は底鋼板のボルト孔にボルトを保持させた状態を、(ロ)は隣接する底鋼板の上側に添接板を載置する状態を、(ハ)は隣接する底鋼板を添接板を介して連結した状態をそれぞれ示す切断側面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 底鋼板(所定の鋼板)
2 添接板(鋼板)
3 ボルト孔
5 高力ボルト(ボルト)
5a ねじ部
5b 頭部
9,9a,9b,9c,9d,9e ボルト仮固定ナット
10 筒状部
11 低剛性部
12 雌ねじ部
13 リング状突起
15 溝
16 溝
17 溝
18 段差部
19 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板の重ね合わせ部に挿通させて該複数の鋼板を接合するためのボルトに螺合させることで所定の鋼板のボルト孔に上記ボルトを仮固定させるようにするボルト仮固定ナットにおいて、上記所定の鋼板のボルト孔よりも大径とし且つ該所定の鋼板に当接する筒状部の軸心方向の一端側に、低剛性部を設けて、該低剛性部の軸心方向の剛性が、上記筒状部の軸心方向の他の部分の剛性よりも小さくなるようにしてなる構成を有することを特徴とするボルト仮固定ナット。
【請求項2】
低剛性部を、筒状部の軸心方向一端面より軸心方向に所要寸法突出するように設けた薄肉のリング状突起により形成するようにした請求項1記載のボルト仮固定ナット。
【請求項3】
低剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面又は軸心方向一端面に周方向に延びる溝を設けることで形成するようにした請求項1記載のボルト仮固定ナット。
【請求項4】
低剛性部を、筒状部の軸心方向一端部の外周面又は内周面に周壁の肉厚寸法が小さくなる段差部を設けることで形成するようにした請求項1記載のボルト仮固定ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−191968(P2009−191968A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33741(P2008−33741)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】