説明

ボロメータ型THz波検出器

【課題】高い製造歩留りで作成できる高感度ボロメータ型THz波検出器の提供。
【解決手段】基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部の表面、裏面あるいは内部に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記吸収膜とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜上にTHz波に対して透明な誘電体が形成され、前記誘電体の上面と前記温度検出部の下面との間隔(エアギャップ)が8μm未満となるように、前記誘電体の膜厚が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、THz周波数帯の電磁波(THz波)を検出する検出器に関し、特に、ボロメータ型THz波検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光と電波の狭間にあるテラヘルツ周波数帯の電磁波(すなわち、周波数が1012Hz,波長が約30μm〜1mmの電磁波、以下、THz波と呼ぶ。)が、物質の情報を直接反映する電磁波として注目されている。THz波の検出のため、熱分離構造を有するボロメータ型赤外線検出器の技術が応用されている。その従来例として、ボロメータ型THz波検出器があり、特開2008−241438号公報やSPIEの論文(小田等、Proceedings of SPIE, Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12)に記載されている。
【0003】
図8に従来の2次元ボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す。ボロメータ型THz波検出器20は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部(ダイアフラム)14が中空に保持され(エアギャップ15)、ボロメータ薄膜7の両端部には電極配線9が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−241438号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小田等、Proceedings of SPIE, Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の場合、例えば、本願出願人の先願(特願2009−258923号)では、図8(先願の図2に相当)のエアギャップ15を8〜14μmにすることを特徴としている。また、一般的に光学干渉を用いた吸収構造を考えた場合、エアギャップ15を検出したい波長の1/4に設定するのが好ましい。
【0007】
しかしながら、エアギャップを従来技術の様に広げる検討を行った結果、製造工程の熱処理などの影響で温度検出部14に亀裂が発生し、この部分が欠陥画素となり、製造歩留りを悪化させていることを突き止めた。
【0008】
前述の温度検出部14の亀裂は、犠牲層(製造工程途中で温度検出部14を保持するもので、最終的に除去されるため、図8には示していない。)に用いる材質と温度検出部14を主に構成する第2保護膜6、第3保護膜8及び第4保護膜10との熱膨張係数差に依存し、図9に示すように、犠牲層を厚く(エアギャップを大きく)すると、亀裂の発生頻度が高く(欠陥画素数が多く)なる。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、主たる目的は、高い製造歩留りで作成することができる高感度ボロメータ型THz波検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部の表面、裏面あるいは内部に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜上にTHz波に対して透明な誘電体が形成され、前記誘電体の上面と前記温度検出部の下面との間隔が8μm未満となるように、前記誘電体の膜厚が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のボロメータ型THz波検出器によれば、エアギャップ(温度検出部を中空に浮かせる間隔)を小さく(好ましくは8μm未満)する代わりに、反射膜上の誘電体を厚くするため、ギャップ(光学的共振構造を形成する間隔)を適切に設定することによって、THz波帯の電磁波を効率的に吸収させることが可能となる。また、エアギャップを小さくすることによって、製造上の課題である温度検出部14の亀裂を抑制することができ、THz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【0012】
なお、詳細は示していないが、製造工程中に用いる犠牲層の材料と温度検出部に用いる材料との熱膨張係数差によっては、エアギャップの上限が変化することは述べるまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図2】ギャップを12μmとした場合の、誘電体膜厚と吸収率との関係を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の第4の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の第5の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の第6の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図8】従来例のボロメータ型THz波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
【図9】従来例で製造した場合の、エアギャップと画素欠陥数との関係を示す図である。
【図10】窒化ケイ素の吸収特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
背景技術で示したように、ボロメータ型THz波検出器において、光学干渉を用いた吸収構造を考えた場合、エアギャップを検出したい波長の1/4に設定するのが好ましく、例えば、8〜14μmに設定しているが、エアギャップを大きくすると、製造工程の熱処理などの影響で温度検出部に亀裂が発生して欠陥画素が生じ、製造歩留りを悪化させるという問題が生じる。
【0015】
そこで、本発明の一実施の形態では、基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有し、基板上の温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、温度検出部の表面、裏面あるいは内部にTHz波を吸収する吸収膜が形成され、反射膜と吸収膜とで光学的共振構造が形成され、反射膜上にTHz波に対して透明な誘電体が形成されている構造において、誘電体の上面と温度検出部の下面との間隔が、8μm未満となるように、誘電体の膜厚を設定する。
【0016】
これにより、従来の構造に比べて、エアギャップを小さくすることができるため、熱処理などを起因とする欠陥画素の発生を抑制し、製造歩留りを向上させることができる。
【実施例1】
【0017】
上記実施形態について更に詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図1、図2及び図10を参照に説明する。図1は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図であり、図2は、ギャップを12μmとした場合の、誘電体膜厚と吸収率との関係を示す図である。また、図10は、窒化ケイ素の吸収特性を示す図である。
【0018】
図1に示すように、本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部14(ダイアフラム)が中空に保持され、ボロメータ薄膜7の両端部は電極配線9が接続されている。
【0019】
ここで、上述したように、THz波を効率的に吸収するためには、光学的共振構造の条件(吸収膜11と反射膜3の間隔、すなわちギャップ16)を適切に設定する必要があるが、エアギャップを大きくすると、製造工程の熱処理などの影響で温度検出部に亀裂が発生して欠陥画素が生じ、製造歩留りを悪化させるという問題が生じる。そこで、本実施例では、ギャップ16をTHz波を効率的に吸収可能な値に設定しつつ、エアギャップ15を小さくできるようにするために、第1保護膜5を厚くする。
【0020】
図2は、吸収膜11のシート抵抗を150Ω/□、ギャップ16を12μmとし、誘電体膜厚(図1では第1保護膜5の膜厚)を0から10μmとした場合の、総合吸収率の計算結果例を示す。計算例は波長70、100、150、300μmとし、誘電体の屈折率を2としている。誘電体膜厚0μmは、図8に示す従来例でエアギャップ15を12μmとした場合と同じである。
【0021】
図2から明らかなように、誘電体膜厚を厚くすることにより、吸収率は改善傾向にある。計算例では、波長及び誘電体膜厚にもよるが、従来例に比べ最大で7%吸収率が改善している。このシート抵抗ならびにギャップ16、誘電体膜厚(図1では第1保護膜5の膜厚)はそれぞれ計算により適切な値を求めることができる。
【0022】
なお、窒化ケイ素の吸収率については、Q.Hu等の講演資料(”Real-time THz Imaging Using Quantum-cascade Lasers and Focal-plane Array Cameras”, 2nd International Workshop on Quantum Cascade Lasers, September 6-9 (2006))に記載されており、それを図10に示す。同図を見て分かるように、窒化ケイ素は、波長50μm以上でほぼ透明になる。したがって、第1保護膜5を窒化ケイ素で形成する場合は、波長50μm以下の領域においては、第1保護膜5により入射エネルギーが吸収されるため、著しく感度が低下することを念頭に置く必要がある。
【0023】
以上より、エアギャップ15を設定する際には、図2の総合吸収率と、誘電体(第1保護膜5)自身の吸収と、エアギャップ15を大きくすることによる歩留まりの低下と、を総合的に勘案する必要があり、図9の欠陥画素数はエアギャップが8μm以上で急激に増加していることから、エアギャップ15は、8μm未満(より好ましくは7μm以下)が適切であると言える。
【0024】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法の一例について概説する。
【0025】
まず、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、スパッタ法によりAl、Ti等の金属を成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、各画素の温度検出部14に入射するTHz波を反射するための反射膜3及び電極配線9と読出回路2aとを接続するためのコンタクト4を形成する。なお、上記金属はTHz波の反射率が高く、電気抵抗が小さい材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0026】
次に、回路基板2全面に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO)、シリコン窒化膜(SiN、Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを成膜し、反射膜3及びコンタクト4を保護する第1保護膜5を形成する。この第1保護膜5の膜厚は、ギャップ16(反射膜3と吸収膜11の間隔)がTHz波を効率的に吸収できる値となり、かつ、エアギャップ15(温度検出部14を中空に浮かせる間隔、すなわち、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔)が8μm未満となるように設定する。
【0027】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、コンタクト4及び画素間の領域が露出するように露光・現像を行った後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、エアギャップ15が8μm未満となるような厚さに設定する。
【0028】
次に、犠牲層の上に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO)、シリコン窒化膜(SiN、Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを成膜し、第2保護膜6を形成する。
【0029】
次に、第2保護膜6の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウム(V、VOなど)や酸化チタン(TiO)などを堆積し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14となる部分にボロメータ薄膜7を形成する。なお、ここではボロメータ薄膜7として酸化バナジウムや酸化チタンを用いているが、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0030】
次に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO)、シリコン窒化膜(SiN,Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを成膜し、ボロメータ薄膜7を保護する第3保護膜8を形成する。その後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。
【0031】
次に、スパッタ法によりAl、Cu、Au、Ti、W、Moなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、電極配線9を形成する。この電極配線9はコンタクト4を介してボロメータ薄膜7と回路基板2内の読出回路2aとを電気的に接続すると共に、ボロメータ薄膜7を中空に保持する支持部13としての役割を果たす。
【0032】
その後、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO)、シリコン窒化膜(SiN,Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを成膜し、電極配線9を保護する第4保護膜10を形成する。
【0033】
次に、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、吸収膜11を形成する。その際、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11を合わせた温度検出部14のシート抵抗が適切な値になるように膜厚を設定する。この吸収膜11はTHz波を効率的に吸収する役割を果たす。なお、上記金属は温度検出部14のシート抵抗を適切な値に設定可能な材料であればよく、Al、Tiに限定されない。また、図1では、吸収膜11を温度検出部14の表面に形成しているが、吸収膜11は反射膜3と対向するように配置されていればよく、温度検出部14の表面、裏面あるいは内部のいずれに形成してもよい。
【0034】
その後、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層上の所定の領域にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、Oガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0035】
なお、上記製造方法では、第1保護膜5、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7及び第3保護膜8を形成した後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8を除去する構成としたが、例えば、第1保護膜5を形成した後にコンタクト4上の第1保護膜5を除去し、除去した部分にCMP法などを用いて金属を埋設してビアを形成し、その後、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7及び第3保護膜8を形成し、ビア上の第2保護膜6及び第3保護膜8を除去する構成とすることもできる。
【0036】
また、犠牲層をポリシリコンやAlで構成することもできる。ポリシリコンを用いる場合は、例えば、ヒドラジンやテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いたウェットエッチング、XeFプラズマを用いたドライエッチング等により犠牲層を除去することができる。また、Alを用いる場合は、例えば、塩酸やホットリン酸を用いたウェットエッチングにより犠牲層を除去することができる。
【0037】
また、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。シリコン窒化膜を犠牲層とする場合は、例えば、ホットリン酸を用いたウェットエッチングで除去することができ、シリコン酸化膜を犠牲層とする場合は、例えば、弗酸を用いたウェットエッチングで除去することができる。
【0038】
このように、本実施例では、反射膜3と吸収膜11の間隔(ギャップ16)は変えずに、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔(エアギャップ15)が8μm未満となるように第1保護膜5の膜厚を設定することにより、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図3を参照に説明する。図3は、本実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図である。
【0040】
前記した第1の実施例は、温度検出部14のみでTHz波を受光する構造であるが、本実施例では、受光面積を広げるため、温度検出部14の周囲から隣接する画素に延びる庇を追加する。図3は、本実施例のボロメータ型THz波検出器1の画像構造を示しており、庇12によって、温度検出部14の周囲に入射するTHz波を吸収することができ、ボロメータ型THz波検出器1の感度を向上させることができる。
【0041】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法の一例について概説する。
【0042】
まず、前記した第1の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成した後、温度検出部14となる領域に犠牲層を形成する。次に、犠牲層の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。なお、第1保護膜5の膜厚は、ギャップ16(反射膜3と吸収膜11の間隔)がTHz波を効率的に吸収できる値となり、かつ、エアギャップ15(温度検出部14を中空に浮かせる間隔、すなわち、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔)が8μm未満となるように設定する。
【0043】
次に、本実施例では、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層上の所定の領域にスルーホールを形成し、ポリイミドを部分的に露出させる。
【0044】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層を形成する。第2犠牲層の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
【0045】
次に、シリコン酸化膜(SiO、SiO)、シリコン窒化膜(SiN,Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などの絶縁材料を形成した後、温度検出部14中央部の上記絶縁材料を除去して庇12を形成する。
【0046】
次に、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14中央部及び庇12上に吸収膜11を形成する。その際、第1の実施例と同様に、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11、庇12を合わせた温度検出部14のシート抵抗が適切な値となるように膜厚を設定する。なお、図3では、吸収膜11を温度検出部14及び庇12の表面に形成しているが、吸収膜11は反射膜3と対向するように配置されていればよく、温度検出部14及び庇12の表面、裏面あるいは内部のいずれに形成してもよい。
【0047】
その後、隣接する画素間の庇12にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、Oガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層及び第2犠牲層を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0048】
このように、本実施例でも、反射膜3と吸収膜11の間隔(ギャップ16)は変えずに、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔(エアギャップ15)が8μm未満となるように第1保護膜5の膜厚を設定することにより、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。
【実施例3】
【0049】
次に、本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図4を参照に説明する。図4は、本実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図である。
【0050】
前記した第2の実施例では、温度検出部14の下部と庇12の下部とでギャップが異なるため、干渉効果が若干阻害される。そこで、本実施例では、これを改善するために、図4に示すように、ギャップ16が画素内でほぼ同じとなるようする。
【0051】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法の一例について概説する。
【0052】
まず、第1の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成した後、温度検出部14となる領域に犠牲層を形成する。次に、犠牲層の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。なお、第1保護膜5の膜厚は、ギャップ16(反射膜3と吸収膜11の間隔)がTHz波を効率的に吸収できる値となり、かつ、エアギャップ15(温度検出部14を中空に浮かせる間隔、すなわち、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔)が8μm未満となるように設定する。
【0053】
次に、第2の実施例と同様に、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングしてスルーホールを形成し、ポリイミドを部分的に露出させる。次に、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して第2犠牲層を形成する。
【0054】
次に、シリコン酸化膜(SiO、SiO)、シリコン窒化膜(SiN,Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などの絶縁材料を形成した後、本実施例では、温度検出部14中央の穴17に相当する部分の上記絶縁材料を除去して庇12を形成する。
【0055】
次に、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、庇12上に吸収膜11を形成する。その後、隣接する画素間の庇12にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、Oガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層及び第2犠牲層を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。なお、図4では、吸収膜11を温度検出部14及び庇12の表面に形成しているが、吸収膜11は反射膜3と対向するように配置されていればよく、温度検出部14及び庇12の表面、裏面あるいは内部のいずれに形成してもよい。
【0056】
このように、本実施例でも、反射膜3と吸収膜11の間隔(ギャップ16)は変えずに、第1保護膜5の上面と温度検出部14の下面との間隔(エアギャップ15)が8μm未満となるように第1保護膜5の膜厚を設定することにより、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。
【実施例4】
【0057】
次に、本発明の第4の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図5を参照に説明する。図5は、本実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図である。
【0058】
前記した第1の実施例において、エアギャップ15を8μm未満とする代わりに、誘電体(第1保護膜5)の膜厚を厚くしたが、第1保護膜5を厚くするとコンタクト4が深くなり、電極配線9の断線が生じやすくなる。そこで、本実施例では、これを改善するために、半導体製造工程における配線形成手法を利用して、図5に示すように、反射膜3として利用する配線の上に、ビアと配線層を順次積層し、電極配線9を読出回路2aに接続するための多層配線構造を形成する。これにより、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができると共に、電極配線9の断線を抑制することができる。なお、この構造は、近年の半導体製造工程で十分実現可能な構造である。
【実施例5】
【0059】
次に、本発明の第5の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図6を参照に説明する。図6は、本実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図であり、第2の実施例と第4の実施例のコンタクト形成方法を組み合わせた例である。この構造でも、第4の実施例と同様に、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができると共に、電極配線9の断線を抑制することができる。
【実施例6】
【0060】
次に、本発明の第6の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図7を参照に説明する。図7は、本実施例に係るボロメータ型THz波検出器の画素構造を示す図であり、第3の実施例と第4の実施例のコンタクト形成方法を組み合わせた例である。この構造でも、第4の実施例と同様に、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができると共に、電極配線9の断線を抑制することができる。
【0061】
なお、上記各実施例では、温度検出部としてボロメータ薄膜を備えたボロメータ型THz波検出器について述べたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、光学干渉を用いた吸収構造を備えた任意の検出器に対して、同様に適用することができる。また、上記各実施例では、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する場合について述べたが、更に長波長の電磁波に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する検出器、特にボロメータ型THz波検出器に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 ボロメータ型THz波検出器
2 回路基板
2a 読出回路
3 反射膜
4 コンタクト
5 第1保護膜
6 第2保護膜
7 ボロメータ薄膜
8 第3保護膜
9 電極配線
10 第4保護膜
11 吸収膜
12 庇
13 支持部
14 温度検出部(ダイアフラム)
15 エアギャップ
16 ギャップ
17 穴
18 層間絶縁膜
20 従来のボロメータ型THz波検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部の表面、裏面あるいは内部に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記吸収膜とで光学的共振構造が形成され、
前記反射膜上にTHz波に対して透明な誘電体が形成され、
前記誘電体の上面と前記温度検出部の下面との間隔が8μm未満となるように、前記誘電体の膜厚が設定されていることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項2】
更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記温度検出部の表面、裏面あるいは内部、及び前記庇の表面、裏面あるいは内部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項3】
更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から内側及び外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記庇の表面、裏面あるいは内部に形成されることを特徴とする請求項1に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項4】
前記読出回路と前記電気配線とが、前記誘電体内に形成された多層配線により接続されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のボロメータ型THz波検出器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−194080(P2012−194080A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58693(P2011−58693)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/ICTによる安全・安心を実現するためのテラヘルツ波技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】