説明

ボンディングワイヤ用スプールケース

【課題】ボンディングワイヤを巻回したスプールを保持する、樹脂板を真空成型加工で製作したスプールケースにおいて、スプールケースのスプール内径部を案内する嵌合隆起部の基底部に膨出成型された突起部の減肉を低減し、この部分の強度と耐久性を向上させることを課題とする。
【解決手段】筒状のスプール3と嵌合する上向き膨出隆状の嵌合隆起部4を備えた容器本体2において、嵌合隆起部4の外周側面5の少なくとも基底部6寄りの部分を容器本体2の基底部6で大径であり上方先端部で小径である先細り状の二次曲面により外側に凸として形成すると共に、上記二次曲面の外周側面5上に、スプール3の中心孔8の内周面に圧接する複数個の突起部9を容器本体2の基底部6から上方に向けて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子とリードとを接続するために使用されるボンディングワイヤを収納するためのスプールケース、特にその容器本体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の多くのスプールケースは、薄い樹脂板により真空成形により成形された容器本体と容器本体に嵌まり合う蓋体とからなる。容器本体は、スプールを固定するために、底面から上向きに隆起する嵌合隆起部を一体的に形成している。嵌合隆起部は、通常、円柱形状に近い略円錐台状に形成される。
【0003】
筒状のスプールは、容器本体に収納する際に、スプールの中心孔の部分で上記嵌合隆起部に案内され、最終的に嵌合隆起部の外周側面に摩擦的に嵌まり、容器本体の内部で保持されるため、動き止め状態で堅固に固定される。
【0004】
しかし、スプールケースの成型過程において、スプールケースの嵌合隆起部外径にばらつきが生じることや、スプールの製造過程において、スプールの中心孔の内径にばらつきがでることもある。例えば、スプールの中心孔の内径が相対的に小さい場合に、中心孔の内周面と嵌合部とが強い摩擦力で密着するため、容器本体からスプールの取り出しが難しくなり、取り出しの作業性が損なわれる。
【0005】
作業者が嵌合部からスプールを強い力で抜き取ろうとすると、スプールの外周に巻いてあるボンディングワイヤが作業者に触れたり、あるいは容器本体の外周壁に接触したりするため、ボンディングワイヤの表面が汚れたり、損傷する等の不具合を生じる。
【0006】
これに対して、特許文献1は、容器本体の円柱形状に近い円錐台状の嵌合隆(嵌合隆起部)の周側面の下底域に、外側へ膨出する母線方向の突縁(突起部)を所定の間隔のもとに複数個、一体的に形成する、ことを開示している。
【0007】
一般に、スプールケースの容器本体は、前記のように、真空成形法によって製造され、薄い樹脂板を加熱軟化させ、真空吸引によって軟化状態の薄い樹脂板を所定の形状の金型に密着させた後、成形状態の樹脂板を冷却し、金型から取り出して製品とする。
【0008】
上記のような真空成形法によると、嵌合隆が円柱形状に近い略円錐台状の形状である場合、略一次曲面となる嵌合隆の周側面は、成型時に嵌合隆の軸方向つまり隆起方向に強く引き伸ばされ、下底域で樹脂板の板厚が減少するいわゆる減肉を起こす。このため、下底域の周側面に一体に形成される突起部は、極端に薄くなる傾向にあり、他の部分よりも耐久性に乏しく、潰れ易くなるため、繰り返し使用回数がこれらの突起部の耐久性によって制限されてしまう不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平1−83769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、嵌合隆起部に突起部を形成して、スプールを堅固に固定するとともに、繰り返し使用に耐え、しかも、スプールの脱着作業が容易であるスプールケース、特に、その容器本体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題のもとに、本発明は、容器本体に上向きの嵌合隆起部の外周側面の少なくとも一部を容器本体の基底部で大径であり上方先端部で小径である先細り状の二次曲面により外側に凸として形成し、この先細り状の二次曲面によって真空成形過程での基底部の減肉を解消すると共に、上記二次曲面の外周側面上の下底域に、複数個の突起部を必要な厚みを維持して形成できるようにしている。
【0012】
具体的に記載すると、本発明は、筒状のスプールと嵌合する上向き膨出隆状の嵌合隆起部を備えた容器本体において、上記嵌合隆起部の外周側面の少なくとも基底部寄りの部分を、容器本体の基底部で大径であり上方先端部で小径である先細り状の二次曲面により外側に凸として形成すると共に、上記二次曲面の外周側面上に、上記スプールの中心孔の内周面に圧接する複数個の突起部を、容器本体の基底部から上方に向けて形成した、ことを特徴とする(請求項1)。
【0013】
上記嵌合隆起部は、上底付きのミキシングボール形状として形成されている(請求項2)か、または半卵形状として形成されている(請求項3)。
【0014】
また、上記突起部の水平断面は、基底部で大きな略円弧形状、上方先端部で小さな略円弧形状となっている(請求項4)。上記突起部の垂直断面は、二次曲線として形成されている(請求項5)。
【発明の効果】
【0015】
本発明のボンディングワイヤ用スプールケースによると、嵌合隆起部の外周側面が容器本体の基底部で大径であり上方先端部で小径である先細り状の二次曲面により外側に凸として形成され、真空成形過程において、薄い樹脂板の広い範囲からの材料の成形方への均一な引き伸ばしが可能となるため、基底部の減肉が解消できると共に、その上に形成される複数個の突起部が必要な厚みで一定の肉厚として形成できるようになる。したがって、複数個の突起部とスプールの中心孔との摩擦的な圧接においても、この突起部分が潰れにくくなる。この結果、複数個の突起部は、スプールの中心孔の内周面に対して強固に圧接し、スプールを安定に保持する。これによって、スプールケース、特にその容器本体の繰り返し使用回数、すなわち寿命が向上する(請求項1)。
【0016】
上記嵌合隆起部が上底付きのミキシングボール形状として形成されていると、嵌合隆起部の上底部と外周側面との稜線部分での剛性が高まるため、嵌合隆起部は薄い樹脂板の成形品にかかわらず強いものとなる(請求項2)。
【0017】
上記嵌合隆起部が半卵形状として形成されていると、真空成形の過程において、成形の初期から後期にかけて、薄い樹脂板からの材料の引き伸ばしが成形方向に連続的に可能となるため、引き伸ばしによる減肉がさらに少なくなり、その上に形成される複数個の突起部の一様な肉厚での形成が一層確実となる(請求項3)。
【0018】
また、上記突起部の水平断面が基底部で大きな略円弧形状、上方先端部で小さな略円弧形状となっていると、突起部は、スプールの中心孔に対して潰れることなく弾性変形しながら嵌まり易く、嵌まり合った後も、適度な摩擦力を維持するため、嵌まり合い状態が安定する(請求項4)。さらに、上記突起部の垂直断面が二次曲線として形成されていると、嵌合隆起部と同様に突起部の真空成形の過程においても、成形の初期から後期にかけて、薄い樹脂板からの材料の引き伸ばしが連続的に可能となるため、複数個の突起部の形成が均一な肉厚として成形できる(請求項5)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るボンディングワイヤ用スプールケースの容器本体の平面図である。
【図2】図1でのA−A矢印方向の断面図である。
【図3】容器本体の嵌合隆起部の真空成形過程での垂直断面図である。
【図4】本発明に係る他の容器本体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1および図2は、本発明に係るボンディングワイヤ用スプールケース1の容器本体2を示している。これらの図1および図2において、ボンディングワイヤ用スプールケース1は、容器本体2と、容器本体2に嵌まり合う蓋体11とから構成されている。容器本体2は、筒状のスプール3と嵌合する上向き膨出隆状の嵌合隆起部4を備えている。
【0021】
嵌合隆起部4は、一例として、下向きの上底付きミキシングボール形状として形成されており、その外周側面5の少なくとも基底部6寄りの部分において、基底部6で大径であり上方先端部で小径である先細り状の二次曲面により外側に凸として形成されている。嵌合隆起部4が上底付きのミキシングボール形状として形成されていると、嵌合隆起部4の上底部7と外周側面5との稜線部分での剛性が高まるため、嵌合隆起部4は薄い樹脂板の成形品にかかわらず強いものとなる。なお、図示の具体例において、外周側面5は、最も好ましい例として、その全域において、外側に凸の二次曲面、換言すると、二次曲線の回転面として形成されている。
【0022】
嵌合隆起部4は、二次曲面の外周側面5上に、複数個例えば4個の突起部9を嵌合隆起部4の中心に対して4等配位置に有している。それぞれの突起部9は、スプール3の中心孔8の内周面に圧接するために、容器本体2の基底部6から上方に向けて外周側面5と一体的に外側に凸として形成されている。突起部9の水平断面は、基底部6で大きな略円弧形状、上方先端部で小さな略円弧形状となっており、また、突起部9の垂直断面は、好ましくは二次曲線として形成されている。なお、突起部9の高さは、スプール3の中心孔8の内周面に摩擦的に圧接し、スプール3を充分に固定できる寸法であり、通常、嵌合隆起部4の高さに対して1/3〜1/4程度とする。
【0023】
なお、容器本体2は、蓋体11と嵌まり合うために、基底部6の上面周縁にそって周壁部10を一体的に形成している。蓋体11は、容器本体2の周壁部10に嵌まり合う下面開口型であり、上底で、スプール3の中心孔8に嵌まり合う下向きの押さえ用凸部12を一体的に形成している。
【0024】
ボンディングワイヤ用スプールケース1の使用に際して、利用者は、ボンディングワイヤ15を巻き付けてあるスプール3の中心孔8の下開口部分を容器本体2の嵌合隆起部4に差し込む。このとき、嵌合隆起部4は、その外周側面5で中心孔8を案内し、最終的に4個の突起部9で中心孔8に嵌まり合う。このようにして、各突起部9は、弾性的に変形して中心孔8の内周面に対して摩擦的な力で固定する。
【0025】
この嵌まり合い状態で、中心孔8の内周面は、突起部9に反力を作用させるが、その反力は、強度を有する突起部9を介して嵌合隆起部4、特に、その外周側面5で一様に分散する。このため、突起部9や嵌合隆起部4の外周側面5は、広範囲に反力が分散するので応力集中とならず、各部の変形量も小さいので弾性的に復元可能な状態となっている。
【0026】
この後、利用者は、容器本体2の上面に蓋体11を被せ、蓋体11の開口面を容器本体2の周壁部10に嵌まり合わせる。このとき、蓋体11の押さえ用凸部12は、スプール3の中心孔8の上開口部分に嵌まり合う。このようにして、容器本体2と蓋体11とは、一体となって、スプール3を上下の方向から保持し、それらの内部でスプール3を固定することになる。
【0027】
つぎに、図3の(1)は、本発明に係る容器本体2の嵌合隆起部4の部分の真空成形過程を示している。図3の(1)において、成形用の薄い樹脂板14は、金型13の上に置かれ、その位置で固定され、加熱軟化させられ、金型13の下部に設けられた排気口からの真空吸引によって嵌合隆起部4の相補的形状の金型13に密着させられ、所定の形状に成形された後に、冷却され、金型13から取り出されて、容器本体2となる。
【0028】
この成形過程で、薄い樹脂板14は、金型13の二次曲面つまり嵌合隆起部4の外周側面5に対応する二次曲面に接し、真空吸引されるに従いその接触範囲を上から下へと拡大させながら、移動する接触範囲外縁の接触点で常に金型13との接線方向の引き伸ばし力を受ける。このとき、樹脂板14は、真空吸引前に金型13の外周側面5に対応する領域の仮想線16が境界を示す垂直方向投影範囲にあった樹脂板14の領域のみならず、その領域の内外の領域の樹脂板14をも引き込んで引き伸ばされる。このため、外周側面5、特にその基底部6寄りの部分での減肉が解消できると共に、複数の突起部9が強い引き伸ばしを受ける嵌合隆起部4の裾側にあるにもかかわらず、必要な厚みで一定の肉厚として形成できるようになる。
【0029】
したがって、複数個の突起部9とスプール3の中心孔8との摩擦、圧接においても、肉厚が維持されたこの突起部9が潰れにくくなる。この結果、複数個の突起部9は、スプール3の中心孔8の内周面に対して強固に圧接し、スプール3を安定に保持する。これによって、ボンディングワイヤ用スプールケース1、特にその容器本体2の繰り返し使用回数、すなわち寿命が向上することになる。
【0030】
また、突起部9の水平断面が基底部で大きな略円弧形状、上方先端部で小さな略円弧形状となっていると、突起部9は、スプール3の一次曲面である中心孔8に対して点接触でありながら滑らかな二次曲面で接するので、接触部の摩滅が少ない。また、突起部9は二次曲面で構成されるため強度が高く、嵌合隆起部4の外周側面5に嵌合力を伝えるので、外周側面5と突起部9が共に弾性変形しながらスプール3が嵌まり易く、嵌まり合った後も、適度な摩擦力を維持するため、嵌まり合い状態が安定する。特に、突起部9の垂直断面が二次曲線として形成されていると、突起部9の真空成形の過程においても、成形の初期から後期にかけて、薄い樹脂板14からの材料の引き伸ばしが連続的に可能となるため、複数個の突起部9の形成が均一な肉厚として成形できる。
【0031】
これに対して、図3の(2)の従来例のように、円柱形状に近い円錐台状の嵌合隆(嵌合隆起部4)での真空成形過程によると、樹脂板14が引き伸ばされる方向を含む垂直断面において、金型13の底部にある円錐台の上底面と金型13の内側面に位置する円錐台周側面との成す角度が直角に近いほど大きいので、円錐台の上底面の鉛直線上に位置する樹脂板14の、円錐台周側面への移動は滑らかではない。仮想線16が示す円錐台周側面の垂直投影領域にあった樹脂板14の引き伸ばしで嵌合隆の全高さに渡って円錐台周側面を覆うことを考えると、円錐台が円柱に近い形状のため、円錐台周側面の垂直投影領域は極めて狭い領域であるので、この領域の樹脂板14は、金型13の隆起部分の軸方向つまり隆起方向に強く引き伸ばされ、下底域で減肉を起こす。このため、下底域の周側面に一体に形成される突縁(突起部9)は、極端に薄くなる傾向にあり、他の部分よりも耐久性に乏しく、潰れ易くなる。その結果、繰り返し使用回数がこれらの突縁(突起部9)の耐久性によって制限されることになる。
【0032】
つぎに、図4は、嵌合隆起部4を半卵形状として形成した具体例を示している。この具体例によると、嵌合隆起部4は、平坦な上底部7を有せず、卵の尖端側の半卵形状となっている。ここでの半卵形状の外周側面5は、外側に凸の二次曲面となっている。このため真空成形の過程において、成形の初期から後期にかけて、薄い樹脂板14からの材料の引き伸ばしが成形方向に連続的に可能となるため、複数個の突起部9の形成が一層確実となる。尖端側の半卵形状は、言わば圧力容器に近い、平面を持たないシェル構造であるから、変形に強いものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明において、容器本体2は、ボンディグワイヤ用スプールケース1の形状に応じた外形や高さ寸法、外形寸法として成形される。また、嵌合隆起部4は、図2の形状と図4の形状との中間的な外形として製作することもできる。本発明は、対象をボンディングワイヤが巻回されたスプールに限らず、中空円筒状部品を安定的に保持する様々な用途において、安価で耐久性のある保持手段として利用できるものである。
【符号の説明】
【0034】
1 ボンディグワイヤ用スプールケース
2 容器本体
3 スプール
4 嵌合隆起部
5 外周側面
6 基底部
7 上底部
8 中心孔
9 突起部
10 周壁部
11 蓋体
12 押さえ用凸部
13 金型
14 樹脂板
15 ボンディグワイヤ
16 吸引前の樹脂板から嵌合隆起部の周壁部先端への鉛直線を示す仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のスプールと嵌合する上向き膨出隆状の嵌合隆起部を備えた容器本体において、上記嵌合隆起部の外周側面の少なくとも基底部寄りの部分を容器本体の基底部で大径であり上方先端部で小径である先細り状二次曲面により外側に凸として形成すると共に、上記二次曲面の外周側面上に、上記スプールの中心孔の内周面に圧接する複数個の突起部を、容器本体の基底部から上方に向けて形成したことを特徴とする、ボンディグワイヤ用スプールケース。
【請求項2】
上記嵌合隆起部を上底付きのミキシングボール形状として形成する、ことを特徴とする請求項1記載のボンディグワイヤ用スプールケース。
【請求項3】
上記嵌合隆起部を半卵形状として形成する、ことを特徴とする請求項1記載のボンディグワイヤ用スプールケース。
【請求項4】
上記突起部の水平断面を基底部で大きな略円弧形状、上方先端部で小さな略円弧形状とする、ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のボンディグワイヤ用スプールケース。
【請求項5】
上記突起部の垂直断面を二次曲線として形成する、ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載のボンディグワイヤ用スプールケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274923(P2010−274923A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126153(P2009−126153)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】