説明

ボンド磁石用組成物

【課題】良好な磁気特性を保持し、かつ、射出成形性に優れるボンド磁石用組成物を提供する。
【解決手段】NdFeB系磁石粉末と、滴定法から求めた数平均分子量が5000〜25000の範囲にあるポリアミド樹脂とから少なくと構成され、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有し、かつ、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物を0.04〜0.60質量%さらに含有し、過冷却度ΔTが25℃以上であるボンド磁石用組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用組成物、特に、射出成形によって製造されるボンド磁石に適用されるボンド磁石用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などが、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品を構成するモータなどに組込まれ、使用されている。
【0003】
このような磁石は、主に焼結法で製造されるが、焼結法で作製した磁石は、脆く、薄肉化しにくいため、複雑形状への成形が困難である。また、焼結時に15〜20%も収縮するため、寸法精度を高められず、研磨などの後加工が必要となり、用途面において大きな制約を受けている。
【0004】
これに対し、ボンド磁石(樹脂結合型磁石)は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダとし、磁石粉末を充填することで容易に製造できる。このため、ボンド磁石に対して、新しい用途開拓が行われている。
【0005】
特に、熱可塑性樹脂をバインダとして、射出成形によって製造される射出成形磁石は、圧縮成形磁石や押出成形磁石などのような他のボンド磁石に比べて、形状の自由度に優れるという特徴がある。
【0006】
このような射出成形磁石は、射出成形機のシリンダ内部で溶融させたボンド磁石用組成物を、金型に射出して製造される。該金型には、所定の製品形状を持つキャビティと、スプルあるいはランナと呼ばれる、溶融したボンド磁石用組成物の湯道とが設けられている。また、該金型は、ボンド磁石用組成物に用いられている熱可塑性樹脂の融点以下となるように温度設定されているため、射出された溶融物は、金型内で急速に冷却されて固化して、射出成形磁石として取り出される。
【0007】
ここで、たとえば、ポリアミド樹脂をバインダとしたボンド磁石用組成物の場合、金型温度は、80〜110℃程度に設定されることが多い。しかしながら、成形サイクルを短くして生産性を向上させるために、金型の温度をさらに低く設定し、冷却時間を短縮することがある。ただし、金型の設定温度が低いほど、溶融したボンド磁石用組成物が、スプルとランナを通過する過程で急速に冷却されるため、ボンド磁石用組成物がキャビティに到達する前に、あるいはキャビティ内で充分充填される前に固化して、ショートショットと呼ばれる成形不良が起こりやすくなる。
【0008】
一つの対応策として、加熱可能なホットスプルやホットランナシステムを金型に組み込み、スプルまたはランナでの固化を回避する方法がある。ただし、このような方法の場合、金型が高価になり製品単価が上がってしまう。さらに、複雑な構造の金型に対して、ホットスプルやホットランナシステムを組み込むことは困難である。
【0009】
また、射出成形機のシリンダ温度を高めて、射出されるボンド磁石用組成物の温度を十分高めておく方法も考えられる。ただし、このような方法で用いる磁石粉末が希土類磁石粉末である場合には、高温中に置かれることで酸化し、磁石粉末の特性が劣化して、所期の磁石性能が得られなくなるおそれがある。
【0010】
その他、ボンド磁石用組成物の溶融粘度を下げ、流動抵抗を低減することで、速やかにスプルとランナを通過させ、充填させるような方法も提案されている。このような方法を実現するために、MI(メルトフローインデックス)値の高いバインダを選定したり、滑剤などを添加したり、あるいは磁石粉末の粉体性状を調整することが行われている。
【0011】
たとえば、特許文献1には、(a)単独重合ポリアミド樹脂と、(b)共重合ポリアミド、ポリアミド系エラストマ、およびポリエステル系エラストマのうち、いずれかとの混合物で、質量比(b)/(a+b)が所定範囲にあるものを樹脂バインダとして使用することにより、ボンド磁石用組成物の溶融粘度を低くし、一旦溶融したボンド磁石用組成物の固化速度を所定範囲に設定するボンド磁石用組成物の製造方法が記載されている。このような製造方法により製造したボンド磁石用組成物を用いれば、配向性がよく、優れた磁気特性を発揮するボンド磁石が得られるとされている。しかしながら、単純にボンド磁石用組成物の溶融粘度を下げても、射出成形機のシリンダ内部でバックフローが起きるため、高価な超高速射出成形機でないと効果が現れにくいという課題がある。また、金型の設定温度が通常の80〜110℃であっても、溶融したボンド磁石用組成物が、金型のスプルブッシュから製品キャビティまで到達する時間が長い場合には、射出充填の途中で、ボンド磁石用組成物の溶融粘度が上昇して、成形不良を起こすことがある。
【0012】
一方、特許文献2には、樹脂バインダとして、熱可塑性樹脂の主材樹脂に、重合脂肪酸系ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体を含有させたボンド磁石用組成物が記載されている。また、特許文献3には、熱可塑性樹脂からなる主材樹脂に重合脂肪酸系ポリアミドブロック共重合体を含有させた樹脂バインダを用いたボンド磁石用組成物が記載されている。
【0013】
このような樹脂バインダを用いることにより、高磁力化を図るために磁石粉末の充填割合を多くしても、良好な溶融流動性を維持することができ、溶融時の流動性低下に基づく成形性の低下を抑制しうるとされている。
【0014】
しかしながら、このような樹脂バインダでは、射出成形ボンド磁石に適用される磁石組成物における射出成形性の向上という課題に対しては、十分に応えることができていない。
【0015】
これに対して、本発明者らは、特許文献4に記載されているように、ポリアミド樹脂を用いたボンド磁石用組成物において、溶融粘度の温度依存性に着目し、固化開始温度と固化終了温度の差を所定値以上にすることで、ボンド磁石用組成物の射出成形性の改善に成功している。しかしながら、ボンド磁石の小型化と薄肉化が進み、射出成形材料であるボンド磁石用組成物には、さらに良好な射出成形性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−85209号公報
【特許文献2】特開2001−123067号公報
【特許文献3】特開2001−240740号公報
【特許文献4】特開2005−72564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、前述のような従来の問題点に鑑み、良好な磁気特性を保持しつつ、射出成形性にも優れるボンド磁石用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るボンド磁石用組成物は、少なくとも磁石粉末とポリアミド樹脂とからなるボンド磁石用組成物であって、該磁石粉末はNdFeB系磁石粉末であり、該ポリアミド樹脂は、滴定法から求めた数平均分子量が5000〜25000の範囲にあり、該ボンド磁石用組成物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有し、かつ、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物を、0.04〜0.60質量%さらに含有すると共に、該ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTは、25℃以上であることを特徴とする。
【0019】
前記ブチルフェノール化合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール(分子量:206)および2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(分子量:220)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
なお、該ボンド磁石用組成物は、安定化剤をさらに含有していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のボンド磁石用組成物は、所定の添加剤を含有させ、かつ過冷却度を所定の範囲に規制することにより、金型に射出充填され急冷された後の固化を遅らせることで、ボンド磁石用組成物がキャビティに到達する前に、あるいはキャビティ内で充分充填される前に固化することを防止して、ショートショットの発生の防止を図ることができる。このため、良好な磁気特性と共に優れた射出成形性を備える、ボンド磁石を提供することができる。
【0022】
また、このようなボンド磁石用組成物を用いて得られるボンド磁石は、機械的強度においても優れている。よって、本発明により、優れた磁気特性を備えつつ、さらなる小型化および薄肉化の要請に応えうるボンド磁石を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のボンド磁石用組成物について、詳細に説明する。
【0024】
1.ボンド磁石用組成物:
本発明のボンド磁石用組成物は、少なくとも(A)磁石粉末、および、(B)ポリアミド樹脂からなり、(C)2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物をさらに含有する。
【0025】
(A)磁石粉末:
磁石粉末としては、NdFeB系磁石粉末を使用する。該NdFeB系磁石粉末は、25〜35質量%のNd、0.9〜1.5質量%のB、残部が実質的にFeを必須元素とする遷移金属である、正方晶Nd2Fe14B型の結晶構造を有する金属間化合物であることが望ましい。たとえば、液体急冷法で製造される等方性磁石粉末やHDDR法で製造される異方性磁石粉末が適用できる。また、軟磁性のαFeやFe−B化合物相とNd2Fe14B相とからなるナノコンポジット磁石粉末も使用できる。また、残部のFeのうち、その30質量%以下をCoで置換すると、磁石粉の飽和磁化とキュリー温度が上がり、ボンド磁石の温度係数α(Br)を低く抑えることができる。その他、残部のFeは、その0〜5質量%の範囲で、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga 、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの遷移金属と、磁石の用途ないしは磁気特性の観点から適宜置換することができる。
【0026】
前記NdFeB系磁石粉末の物性は、特に限定されるものではないが、得られるボンド磁石用組成物の溶融流動性、磁石粉の配向性、充填率などの観点から、NdFeB系磁石粉末の平均粒径は、1〜200μmとすることが好ましく、10〜100μmとすることがさらに好ましい。
【0027】
なお、前記NdFeB系磁石粉末は、磁石の用途ないしは要求される磁気特性に応じて、その表面がZnなどの金属化合物被膜もしくは平均3〜100nmの燐酸塩被膜で均一に被覆されていることが望ましい。これらの被膜は、磁石粉末の表面を保護するものであるが、このうち、該燐酸塩被膜は、少なくとも燐酸鉄と希土類元素燐酸塩を含む複合燐酸塩からなっている。これらの被膜の平均厚さが、3nm未満であると十分な耐候性が得られない。一方、該平均厚さが、100nmを超えると磁気特性が低下すると共に、混練性や成形性が低下する。
【0028】
また、本発明においては、磁石の用途ないしは要求される磁気特性に合わせて、Srフェライト、Baフェライトなどのフェライト磁石粉末や、アルニコ、鉄クロムコバルトなどの金属磁性材料粉末のうち1種以上を、NdFeB系磁石粉末に混合させた粉末を用いることができる。
【0029】
前記NdFeB系磁石粉末に対するフェライト磁石粉末または金属磁性材料粉末の混合比率は、任意に設定できるが、目標とする磁気特性に対してNdFeB系磁石粉末の添加量を多めに設定すると、NdFeB系磁石粉末とこれらの添加粉末との合計量を低減できるため、溶融粘度の低いボンド磁石用組成物が得られ、逆にこれらの添加粉末の添加量を多めに設定すると、ボンド磁石用組成物のコストパフォーマンスを高めることができる。
【0030】
(B)ポリアミド樹脂:
本発明においては、ポリアミド樹脂として、滴定法から求めた数平均分子量が5000〜25000であるポリアミド樹脂が用いられる。滴定法では,ポリアミド樹脂末端のアミノ基またはカルボキシル基濃度を、適当な酸または塩基で中和滴定して求め、全体の質量とモノマー分子量とから、高分子1個あたりの分子量(すなわち数平均分子量)を算出する.
【0031】
ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などの単独重合ポリアミドや、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの共重合ポリアミド、重合脂肪酸型ポリアミドなどが挙げられる。これらのポリアミド樹脂の中でも、特に単独重合ポリアミドが好ましい。
【0032】
前記ポリアミド樹脂の数平均分子量は、5000〜25000の範囲にあることが必要であり、7000〜15000の範囲が好ましい。ポリアミド樹脂の数平均分子量が、5000未満では、得られる磁石の機械的強度が低下する。一方、ポリアミド樹脂の数平均分子量が、25000を超えると、ボンド磁石用組成物の流動性が著しく低下して、射出成形も困難となる場合がある。また、流動性を上げるために高温で射出成形しようとすると、磁石粉末の酸化劣化のために磁気特性に優れた磁石を得ることができなくなる。
【0033】
前記ポリアミド樹脂の形状は、ペレット状、ビーズ状、パウダー状、ペースト状のいずれでもよく、均一な混合物を得る点で、パウダー状が望ましい。
【0034】
前記ポリアミド樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。このような熱可塑性樹脂としては、たとえば、直鎖状ポリフェニレンサルファイド、架橋型ポリフェニレンサルファイド、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリ三フッ化エチレン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルエーテルーアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、各種エラストマやゴム類などが挙げられる。
【0035】
また、これらの単独重合体や他種のモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品なども使用できる。さらに、熱可塑性樹脂の2種類以上をブレンドした系も含まれる。
【0036】
(C)ブチルフェノール化合物:
本発明において、ジ−t−ブチルフェノール構造、たとえば、下記式からなる構造を有し、かつ、分子量が300以下、特に好ましくは250以下の化合物が、添加される。
【0037】
【化1】

【0038】
このようなブチルフェノール化合物としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール(分子量:206)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(分子量:220)などが挙げられる。2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有すると、ブチルフェノール化合物の分子量は少なくとも206となる。ブチルフェノール化合物の分子量が、300を超えると、射出成形性の改善が十分に得られない。
【0039】
なお、ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物は、酸化防止剤として知られているものが少なくない。たとえば、特許文献1には、数多くの化合物が列挙され、その中にはジ−t−ブチルフェノール構造を有するものとして、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート(分子量1178)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(分子量531)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(分子量643)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(分子量220)、テトラキス[メチレン−3−(3,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(分子量1178)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール(分子量234)が挙げられている。この中に、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物である、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールと2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールが開示されているが、単なる例示に過ぎず、特許文献1では、特に射出成形性との関連を含めて、これらの分子量が300以下であるブチルフェノール化合物の添加について、具体的な検討および実証は何らなされていない。
【0040】
添加の方法は、特に限定されず、たとえば、これらブチルフェノール化合物を、磁石粉末とポリアミド樹脂との混合時に添加してもよいし、磁石粉末とかかるブチルフェノール化合物とを予備混合した後に、ポリアミド樹脂と混合する方法でも構わない。
【0041】
また、ブチルフェノール化合物の添加量は、全体の0.04〜0.60質量%とする。ブチルフェノール化合物の添加量が、0.04質量%未満では、射出成形性を改善する効果が小さい。一方、ブチルフェノール化合物の添加量が、0.60質量%を超えると、得られるボンド磁石の機械的強度が低下してしまう。
【0042】
(D)安定化剤:
本発明のボンド磁石用組成物には、さらに、必要に応じて、以下に示す各種の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で添加することができる。
【0043】
たとえば、ポリアミド樹脂、および磁石粉末の耐熱性を向上させる目的で、熱老化防止剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤などの安定化剤を添加することが好ましい。
【0044】
このような安定化剤として、ヒンダードアミンなどのアミン系一次酸化防止剤、ヒンダードフェノールなどのフェノール系一次酸化防止剤、イオウ系またはリン系である二次酸化防止剤、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジン誘導体などの重金属不活性化剤が挙げられる。特に、ヒドラジン誘導体である2’,3−ビス{{3−{3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル}プロピオニル}}プロピオノヒドラジド、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドを用いることが好ましい。
【0045】
なお、前記安定化剤は、混合工程、混練工程、成形工程のいずれの段階でも添加することができ、ポリアミド樹脂に予め添加しておくこともできる。
【0046】
また、前記安定化剤の添加量は、全体の0.01〜1質量%とする。安定化剤の添加量が、0.01質量%未満では、耐熱性を改善する効果が小さくなる。一方、安定化剤の添加量が、1質量%を超えると、得られるボンド磁石の機械的強度が低下してしまう。
【0047】
(E)過冷却度:
本発明では、射出成形性の指標として、ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTを用いている。
【0048】
従来、ボンド磁石用組成物の射出成形性を表す指標として、JIS K7210「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」に準拠した流動性Q値が用いられている。しかしながら、本発明者によるボンド磁石用組成物への種々の添加剤について検討を行った結果、所定の樹脂バインダを含むボンド磁石用組成物において、上記のブチルフェノール化合物を添加した場合に、流動性Q値に対する影響がほとんど見られないにもかかわらず、実際に成形すると、かかるブチルフェノール化合物を添加していないものに比べて、低い温度で成形できるなど、射出成形性が著しく改善されるという知見が得られたのである。
【0049】
本発明における、流動性Q値に代わる指標である過冷却度ΔTは、示差走査熱量測定を用いて、以下のように求められる。すなわち、まず、試料を窒素気流中、20℃/minで、250℃まで昇温し、5分間保持した後、−50℃/minの冷却速度で室温付近まで冷却して、試料の固化温度(結晶化温度)を発熱ピークから読み取りTc(50)とする。次に、冷却速度を−5℃/minとした以外は、同様にして固化温度を測定し、Tc(5)とする。そして、冷却速度の異なる固化温度の差Tc(5)−Tc(50)を過冷却度ΔTとする。
【0050】
冷却速度を−50℃/min、−5℃/minとしたのは、この範囲であれば示差走査型熱量測定装置での温度測定が追随可能であるためである。ボンド磁石の製造では、金型内での組成物の冷却速度は−50℃/minよりはるかに高速であるが、そのような冷却条件での評価は困難である。過冷却度ΔTが小さければ、金型内で組成物が固化しやすく、射出成形性に劣ることになる。一方、過冷却度ΔTが大きければ、固化しにくいため射出充填が良好となる。すなわち、ボンド磁石の製造において、射出成形機シリンダ内で溶融したボンド磁石用組成物は、金型内に射出され、スプルやランナを通過して、製品となるキャビティ内に充填され、この過程で、ボンド磁石用組成物は急冷されるが、ΔTの大きなボンド磁石用組成物は急冷されても温度が低下しにくいために、ボンド磁石用組成物の粘性が上がらない。その結果、射出成形性が著しく改善されて、良好なボンド磁石成形体を得ることができる。このような冷却時の固化挙動は、溶融した組成物の粘性を反映する流動性Q値とは別の観点で射出成形性に影響するものと考えられる。
【0051】
本発明の過冷却度ΔTは、あくまでもボンド磁石用組成物についてものである。たとえば、重合脂肪酸系ポリアミドの中には、それ自体の過冷却度ΔTが25℃以上であっても、これを配合したボンド磁石用組成物において、その過冷却度ΔTが25℃を下回るものもある。ただし、本発明のように、ポリアミド樹脂として、ポリメチルメタクリレート換算分子量分布から求めた数平均分子量が5000〜25000であるポリアミド樹脂を用い、さらに、2,6−ジーt−ブチルフェノール構造を有し、かつ、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物を所定量添加することにより、ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTを20℃以上とすることができる。
【0052】
過冷却度ΔTは、所定のポリアミド樹脂に対して所定のブチルフェノール化合物を添加することで調整されるが、ボンド磁石組成物中のNdFeB系磁石粉末の含有率によっても多少影響される。これは磁石粉末含有率によって熱容量が変化するためだと思われる。たとえば、バインダとしてポリアミド12樹脂を用い、ブチルフェノール化合物量を一定にして、磁石粉末の含有率を92質量%から93.5質量%に1.5質量%だけ変化させた場合、磁石粉末の含有率の増加によって、過冷却度ΔTは4℃上昇する。このため、各種添加剤の添加量は、ボンド磁石用組成物の配合に応じて、ΔTが25℃以上となるように適宜調整される。
【0053】
2.ボンド磁石用組成物の製造:
本発明において、ボンド磁石用組成物を製造するには、磁石粉末と、所定のポリアミド樹脂と、所定の2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物とを配合し、混練する。この際、安定化剤を添加することもできる。
【0054】
配合量は、全体を100質量%としたとき、通常の磁石粉末を約70〜97質量%とし、所定のポリアミド樹脂を約3〜30質量%とし、所定の2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物を0.04〜0.60質量%とすることが必要である。さらに、好ましくは、磁石粉末の配合量を85〜95質量%とする。
【0055】
ポリアミド樹脂の配合量が、3質量%未満であると、ボンド磁石用組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなり、流動性が低下して、ボンド磁石の成形が困難となる。一方、ポリアミド樹脂の配合量が、30質量%を超えると、成形体のひけなどが多くなる傾向にある。
【0056】
こうして得られた混合物を、ブラベンダなどのバッチ式ニーダ、バンバリーミキサ、ヘンシェルミキサ、ヘリカルロータ、ロール、一軸押出機、二軸押出機などを用いて、加熱溶融しながら混練する。
【0057】
混練温度は、ポリアミド樹脂の融点以上であればよく、好ましくは180〜300℃の範囲とする。磁石粉末の高温酸化を防ぐためには、混練温度は、180〜260℃の範囲とすることが特に好ましい。
【0058】
本発明のボンド磁石用組成物は、上述のような方法で得られた混練物を、ストランド状またはシート状に押し出した後、カッティングする、あるいは、混練物をホットカットまたはコールドカットしてブロック状とした後、冷却固化し、さらに粉砕してペレット状などとすることで、得ることができる。
【0059】
このようにして得られる本発明のボンド磁石用組成物は、低温流動性および射出成形性に優れている。
【0060】
3.ボンド磁石:
ボンド磁石の成形体は、本発明のボンド磁石用組成物を、ポリアミド樹脂の融点以上、好ましくは200〜260℃の範囲の温度で加熱溶融した後、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法などを用いて、溶融物を磁場中で成形することにより得ることができる。
【0061】
特に、射出成形法によれば、ボンド磁石の成形体の形状の自由度が高く、しかも得られるボンド磁石の表面性状および磁気特性が優れ、そのまま電子部品の一部として組み込める点で好ましい。射出成形法で得られたボンド磁石の成形体は、使用前に着磁することが望ましい。着磁には、静磁場を発生する電磁石、パルス磁場を発生するコンデンサ着磁機などが用いられる。着磁磁場、すなわち磁場強度は、1200kA/m(15kOe)以上が好ましく、さらには2400kA/m(30kOe)以上が好ましい。
【0062】
このようにして得られるボンド磁石は、磁気特性に優れ、かつ剛性などの機械的強度に優れる。たとえば、電子機器用モータ部品などの小型で偏平な複雑形状品に用いられ、大量生産が可能であり、後加工が不要であり、インサート成形可能であるといった特徴を有している。特に、該ボンド磁石は、金属材料との一体成形部品に好適に用いられる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例によって限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
等方性NdFeB系磁石粉末(マグネクエンチ社製、MQP−B)を94.5質量%、重金属不活性化剤としてヒドラジン誘導体である2’,3−ビス{{3−{3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル}プロピオニル}}プロピオノヒドラジドを0.10質量%、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物として、分子量が206である、2,6−ジ−t−ブチルフェノールを0.05質量%、数平均分子量が12,000であるポリアミド12樹脂(宇部興産株式会社製、P3012U)を5.35質量%として、全質量が2kgとなるよう秤量混合した。混合物をバッチ式ニーダにより、230℃で30分間、混練した。混練ブレードの回転数は50rpmとした。そして、回収した混練物を粉砕して、ボンド磁石用組成物を得た。
【0065】
得られたボンド磁石用組成物のうち試料約30gについて、該ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTを、熱分析装置(マックスサイエンス社製、DSC3100S)を用いた示差操作熱量測定により求めた。具体的には、試料約30gを、100ml/minの窒素気流中、20℃/minで、250℃まで昇温し、5分間保持した後、−50℃/minの冷却速度で室温付近まで冷却した後、試料の固化温度(結晶化温度)を発熱ピークから読み取りTc(50)を得て、次に、冷却速度を−5℃/minとした以外は同様にして、試料の固化温度を測定して、Tc(5)を得た。その結果、Tc(5)=152℃、Tc(50)=122℃、ΔT=30℃であった。
【0066】
また、得られたボンド磁石用組成物の流動性Q値を、JIS K7210「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」に準拠して評価した。なお、測定に用いたキャピラリーダイのダイ径・ダイ長はφ2×5mm、測定温度は210℃であった。その結果、流動性Q値は、0.1cm3/s未満であった。
【0067】
得られたボンド磁石用組成物について、幅8mm、長さ40mm、厚さ2mmであって、40mm方向端部にゲートが設けられており、射出成形性に劣る組成物ではゲートと反対側の端部まで充填できないようになっている、薄型状キャビティを有する金型を用いて、射出温度:250℃、金型温度:110℃の条件で、射出成形を行い、薄型状サンプルを得た。その結果、良好な成形体が得られた。さらに、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型を用いて、同様の条件の射出成形により試験片を得て、得られた試験片(等方性NdFeB系ボンド磁石)の磁石特性を評価したところ、最大エネルギ積(BH)maxで60kJ/m3であった。
【0068】
(実施例2)
2,6−ジ−t−ブチルフェノールの添加量を0.50質量%、ポリアミド12樹脂の添加量を4.90質量%とした以外は、実施例1と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0069】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=121℃、ΔT=32℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、同じ条件の射出成形により、良好な成形体のサンプルを得ることができ、試験片の磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで63kJ/m3であった。
【0070】
(実施例3)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物として、分子量が220である、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを用い、その添加量を0.10質量%とし、ポリアミド12樹脂の添加量を5.30質量%とした以外は、実施例1と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0071】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=121℃、ΔT=32℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、同じ条件の射出成形により、良好な成形体のサンプルを得ることができ、試験片の磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで61kJ/m3であった。
【0072】
(実施例4)
異方性NdFeB系磁石粉末(株式会社Neomax(現日立金属株式会社製、HDDR−B)を92.5質量%、重金属不活性剤として、ヒドラジン誘導体である、2’,3−ビス{{3−{3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル}プロピオニル}}プロピオノヒドラジドを0.10質量%、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物として、分子量が220である、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.20質量%、ポリアミド12樹脂を7.20質量%として、全質量が2kgとなるよう秤量混合した。実施例1と同様に、この混合物を用いて、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0073】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=124℃、ΔT=29℃であった。また、流動性Q値は0.7cm3/sであった。このボンド磁石用組成物から、同じ条件の射出成形により、良好な成形体のサンプルを得ることができた。また、800kA/mの配向磁界をかけながら行ったことを除き、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型を用いて、同様の条件の射出成形により試験片を得て、得られた試験片(異方性NdFeB系ボンド磁石)の磁石特性を評価したところ、最大エネルギ積(BH)maxで107kJ/m3であった。
【0074】
(実施例5)
異方性NdFeB系磁石粉末(愛知製鋼製、MFP−12)を92.0質量%、重金属不活性化剤として、ヒドラジン誘導体である、2’,3−ビス{{3−{3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル}プロピオニル}}プロピオノヒドラジドを0.10質量%、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物として、分子量220である、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.20質量%、ポリアミド12樹脂を7.70質量%として、全質量が2kgとなるよう秤量混合した。実施例1と同様に、この混合物を用いて、ボンド磁石用組成物を製造して、評価した。
【0075】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=125℃、ΔT=28℃であった。また、流動性Q値は1.3cm3/sであった。このボンド磁石用組成物から、同じ条件の射出成形により、良好な成形体のサンプルを得ることができた。また、実施例4と同様にして、試験片を得て、その磁石特性を評価したところ、最大エネルギ積(BH)maxで98kJ/m3であった。
【0076】
(実施例6)
異方性NdFeB系磁石粉末(愛知製鋼製、MFP−12)を93.5質量%、ポリアミド12樹脂を6.20質量%とした以外は、実施例5と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0077】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=152℃、Tc(50)=120℃、ΔT=32℃であった。また、流動性Q値は0.3cm3/sであった。このボンド磁石用組成物から、同じ条件の射出成形により、良好な成形体のサンプルを得ることができた。また、実施例4と同様にして試験片を得て、その磁石特性を評価したところ、最大エネルギ積(BH)maxで119kJ/m3であった。
【0078】
(比較例1)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物を添加せずに、ポリアミド12樹脂の添加量を5.40質量%とした以外は、実施例1と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0079】
このボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=151℃、Tc(50)=131℃、ΔT=20℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたが、同様に良好な成形体を得ることができなかった。
【0080】
なお、射出温度を270℃まで上げたことを除き、実施例1と同様に、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型で射出成形して試験片を得たが、その表面は荒れており、成形性に劣るものであった。また、その磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで48kJ/m3であった。
【0081】
(比較例2)
2,6−ジ−t−ブチルフェノールの添加量を0.01質量%、ポリアミド12樹脂の添加量を5.39質量%とした以外は、実施例1と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0082】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=151℃、Tc(50)=129℃、ΔT=22℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたところ、充填が可能となり、良好な成形体が得られた。
【0083】
しかしながら、射出温度を270℃としたことを除き、実施例1と同様にして、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型を用いて射出成形した試験片の磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで53kJ/m3と、実施例1の特性に及ばなかった。
【0084】
(比較例3)
2,6−ジ−t−ブチルフェノールの添加量を0.80質量%、ポリアミド12樹脂の添加量を4.60質量%とした以外は、実施例1と同様に、ボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0085】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=152℃、Tc(50)=118℃、ΔT=34℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃で充填はできたが、成形体は脆く明らかに機械強度の低下が見られた。
【0086】
(比較例4)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物として、分子量が531である、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルエステルを用い、その添加量を0.20質量%とし、ポリアミド12樹脂の添加量を5.20質量%とした以外は、実施例1と同様にボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0087】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=132℃、ΔT=21℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたが、同様に良好な成形体を得ることができなかった。
【0088】
なお、射出温度を270℃まで上げたことを除き、実施例1と同様に、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型で射出成形して試験片を得たが、その表面は荒れており、成形性に劣るものであった。その磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで47kJ/m3であった。
【0089】
(比較例5)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物として、分子量が1178である、テトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを用い、その添加量を0.20質量%とし、ポリアミド12樹脂の添加量を5.20質量%とした以外は、実施例1と同様にボンド磁石用組成物を製造し、評価した。
【0090】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=153℃、Tc(50)=134℃、ΔT=19℃であった。また、流動性Q値は0.1cm3/s未満であった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたが、同様に良好な成形体を得ることができなかった。
【0091】
なお、射出温度を270℃まで上げたことを除き、実施例1と同様に、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型で射出成形して試験片を得たが、その表面が荒れており、成形性に劣るものであった。その磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで50kJ/m3であった。
【0092】
(比較例6)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物を添加せず、ポリアミド12樹脂の添加量を7.40質量%とした以外は、実施例4と同様にボンド磁石用組成物を製造し、実施例1と同様に評価した。
【0093】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=152℃、Tc(50)=134℃、ΔT=18℃であった。また、流動性Q値は0.8cm3/sであった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたが、同様に良好な成形体を得ることができなかった。
【0094】
なお、射出温度を270℃まで上げたことを除き、実施例4と同様に、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型を用いて射出成形して試験片を得たが、その表面は荒れており、成形性に劣るものであった。その磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで92kJ/m3であった。
【0095】
(比較例7)
2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有する化合物を添加せず、ポリアミド12樹脂の添加量を7.90質量%とした以外は、実施例5と同様にボンド磁石用組成物を製造し、実施例1と同様に評価した。
【0096】
ボンド磁石用組成物の過冷却度については、Tc(5)=152℃、Tc(
50)=135℃、ΔT=17℃であった。また、流動性Q値は1.4cm3/sであった。このボンド磁石用組成物から、薄型状キャビティを有する金型を用いて、同じ条件の射出成形を行ったが、射出温度250℃では薄板状キャビティの端部まで充填できず、ショートショットとなった。射出温度を270℃まで上げたが、同様に良好な成形体を得ることができなかった。
【0097】
なお、射出温度を270℃まで上げたことを除き、実施例4と同様に、直径10mm、高さ7mmの円柱状金型を用いて射出温度して試験片を得たが、その表面は荒れており、成形性に劣るものであった。その磁石特性は、最大エネルギ積(BH)maxで87kJ/m3であった。
【0098】
それぞれの実施例および比較例について、NdFeB系磁石粉末、ポリアミド樹脂、重金属不活性材、2,6−ジーt−ブチルフェノール構造を有する化合物の含有率と、この化合物の種類と分子量、および得られたボンド磁石組成物の過冷却度、流動性、射出成形性の評価、さらには得られた試験片の磁石特性を、表1に表示する。
【0099】
【表1】

【0100】
「評価」
本発明の実施例1〜6のように、主としてNdFeB系磁石粉末と、数平均分子量が5000〜25000の範囲であるポリアミド樹脂とにより構成されるボンド磁石用組成物に対して、添加剤として、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有し、かつ、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物を所定量、含有させることにより、ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTを25℃以上の範囲とすることができ、射出温度250℃において、射出成形性に優れたボンド磁石用組成物を得ることができる
【0101】
これに対して、比較例1、2、6および7から理解されるように、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物を添加しない場合、または添加量が十分でない場合には、実施例と同様の射出温度250℃では、ショ
ートショットとなってしまい、射出成形性に劣ってしまうことが明らかである。特に、実施例1と比較例1、実施例4と比較例5、および実施例5と比較例7との対比から、2,6−ジーt−ブチルフェノール構造を有する化合物を添加した場合、流動性Q値に変動は見られないものの、過冷却度ΔTが変化し、射出成形性において顕著な相違が見られることが理解される。
【0102】
また、比較例4および5から理解されるように、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物として、分子量が300を超える化合物を添加した場合にも、実施例と同様の射出温度250℃では、ショートショットとなってしまい、射出成形性に劣ってしまうことが明らかである。
【0103】
一方、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有するブチルフェノール化合物を過剰に添加してしまうと、ボンド磁石の成形体が脆く、強度が低下してしまうことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも磁石粉末とポリアミド樹脂とからなるボンド磁石用組成物であって、該磁石粉末は、NdFeB系磁石粉末であり、該ポリアミド樹脂は、滴定法から求めた数平均分子量が5000〜25000の範囲であり、該ボンド磁石用組成物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を有し、かつ、分子量が300以下であるブチルフェノール化合物を0.04〜0.60質量%さらに含有すると共に、該ボンド磁石用組成物の過冷却度ΔTは、25℃以上であることを特徴とする、ボンド磁石用組成物。
【請求項2】
前記ブチルフェノール化合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノールおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールから選ばれる1種である、請求項1に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項3】
安定化剤をさらに含有する、請求項1または2に記載のボンド磁石用組成物。

【公開番号】特開2011−171371(P2011−171371A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31467(P2010−31467)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】