説明

ボールねじ装置

【課題】ボールねじ装置の運転時における転走音を低減すると共に、パルス音を低減する手段を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋状の軸軌道溝4を形成したねじ軸3と、内周面に軸軌道溝4に対向するナット軌道溝6を形成したナット5と、ナット軌道溝6を連通する連通路を形成したリターンチューブ8と、軸軌道溝4とナット軌道溝6と連通路とで形成される循環路を循環する複数のセラミックボール2とを備えたボールねじ装置1のねじ軸3の軸軌道溝4を切削加工により仕上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や産業機械、半導体製造装置、精密機械等の機械装置の移動台の位置決め用や搬送用等の直線移動機構の駆動や動力伝達用に用いられるボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールねじ装置は、ねじ軸の外周面に螺旋状に形成した軸軌道溝と、ナットの内周面に形成したナット軌道溝とを対向配置して複数のボールを介して螺合させ、ナットに設けた連通路によりボールを循環させながらねじ軸の回転運動をナットの直線運動に変換し、研削加工により形成する軸軌道溝を総形砥石で形成して軸軌道溝の縁部面取の位置ずれを防止している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−193815号公報(主に第3頁段落0015−第4頁段落0020、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、ボールねじ装置の運転時の騒音は、ボールが軸軌道溝を転動するときの転走音と、ボールが連通路を通過する際のパルス音との2種類に大別される。
しかしながら、上述した従来の技術においては、軸軌道溝を研削加工により形成しているため、軸軌道溝の加工時に、その溝方向に1リード当りに数十山のうねりが形成され、このうねりの山の数のN倍(Nは整数)が、ボールの数のN倍と一致すると、運転時に転走音が増大するという問題がある。
【0004】
また、ボールは通常、鋼球であるため、連通路を通過する際の衝突エネルギが高く、パルス音が増大するという問題がある。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ボールねじ装置の運転時における転走音を低減すると共に、パルス音を低減する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットと、前記ナット軌道溝を連通する連通路と、前記軸軌道溝とナット軌道溝と連通路とで形成される循環路を循環する複数のボールとを備えたボールねじ装置において、前記ねじ軸の軸軌道溝を、切削加工により仕上げたことを特徴とする。
【0006】
また、前記のボールねじ装置において、前記ボールが、セラミックボールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明は、ねじ軸の軸軌道溝を切削加工により仕上げたので、軸軌道溝の1リード当りのうねりの山の数を多くすることができると共に、そのうねりの山の高さを低くすることができ、ボールねじ装置に装填されるボールの数のN倍と一致する確率を低減して運転時における転走音を低減することができるという効果が得られる。
また、ボールをセラミックボールとしたので、連通路における衝突エネルギを減少させてボールねじ装置の運転時におけるパルス音を低減することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、図面を参照して本発明によるボールねじ装置の実施例について説明する。
【実施例】
【0009】
図1は実施例のボールねじ装置を示す斜視図である。
図1において、1はボールねじ装置である。
2はボールねじ装置1のボールとしてのセラミックボールであり、セラミックスにより形成された球体である。
3はボールねじ装置1のねじ軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その外周面には切削加工で仕上げられた円弧状断面形状の軸軌道溝4が所定のリードで螺旋状に形成されている。
【0010】
5はボールねじ装置1のナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内周面には軸軌道溝4と対向する円弧状断面形状のナット軌道溝6が軸軌道溝4と同じリードで形成されている。
本実施例のセラミックボール2は、対向配置された軸軌道溝4とナット軌道溝6とで形成される負荷路を転動してねじ軸3とナット5とを螺合させる。
【0011】
7はフランジ部であり、ナット5の外周部の一方の端部に設けられ、フランジ部7に設けられた取付ボルト穴7aにより図示しない機械装置の移動台に取付ボルト等で固定される。
8はリターンチューブであり、鋼材や樹脂材料等で製作され、セラミックボール2が通過できる内径を有する略U字形に曲折した管であって、ナット5の外周面の一部を軸方向と平行に切欠いた平面5aに設けられたナット軌道溝6に達する穴5bの底部の嵌合穴5cにその端部が嵌合してナット軌道溝6を連通する。
【0012】
これにより、負荷路の両端部はリターンチューブ8の内径として形成された連通路により連通され、セラミックボール2が循環する循環路が形成される。
9はチューブ固定具であり、鋼板や樹脂材料等を曲折して製作された固定具であって、ナット5の平面5aにボルト10により締結され、リターンチューブ8をナット5に固定する。
【0013】
上記の循環路には、複数のセラミックボール2と所定の量の潤滑剤(本実施例ではグリース)が封入され、ねじ軸3を回転させることによってセラミックボール2が循環路を循環し、負荷路を転動するセラミックボール2がナット5に加えられた荷重を往復動自在に支持しながらナット5を軸方向に移動させ、ねじ軸3の回転運動がナット5の直線運動に変換される。
【0014】
上記の構成の作用について説明する。
本実施例のねじ軸3の軸軌道溝4は、その仕上げ加工を切削加工により行っており、1リード当りのうねりの山の数は数百山となり、ボールの数のN倍と一致する確率が低減すると共に、そのうねりの山の高さも低くなっているので、運転時の転走音を低減することが可能になる。
【0015】
この切削加工により仕上げられた軸軌道溝4の騒音低減の効果を確認するために、切削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3を組込んだボールねじ装置1に、ボールとして鋼球を装填したときの騒音レベルを測定した。その測定結果を図2に示す。
なお、ボールねじ装置1の潤滑にはグリースを用いた。
図2において、横軸はボールねじ装置1に装填したボール2の直径dw(単位mm)と、ボール2のピッチ円直径dm(mm)と、ねじ軸3の回転数n(rpm)とを乗じた値であり、縦軸はAスケールで測定した騒音レベルである。
【0016】
図2に示すように、△印で示す研削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3を用いた場合は精密級のボールねじ装置1の平均的な騒音レベルであるのに対して、○印で示す切削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3を用いた場合は、最大で3dB程度騒音が低減しており、その低減効果は低中速域で大きく、高速域では徐々に低減効果が小さくなっていることが判る。
【0017】
高速域で騒音の低減効果が小さくなるのは、高速域におけるボールねじ装置1の騒音はパルス音が支配的になるためと考えられる。
このため、上記と同様にして、研削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3を組込んだボールねじ装置1にボールとして鋼球を装填したときの騒音レベルと、切削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3を組込んだボールねじ装置1にボールとしてセラミックボール2を装填したときの騒音レベルとの比較を行った。その測定結果を図3に示す。
【0018】
なお、図3における横軸は、ねじ軸3の回転速度で示してある。
図3に示すように、▲印で示す研削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3に鋼球を組込んだ場合に較べて、○印で示す切削加工により軸軌道溝4を仕上げたねじ軸3にセラミックボール2を組込んだ場合は、騒音レベルが最大で5dB程度低減しており、その低減効果は、高速域であっても同等であることが判る。
【0019】
つまり、比重の小さいセラミックボール2を用いることにより、連通路における衝突エネルギが減少し、高速域であってもパルス音の低減効果が大きくなるからである。
以上説明したように、本実施例では、ボールねじ装置のねじ軸の軸軌道溝を、切削加工により仕上げたことによって、軸軌道溝の1リード当りのうねりの山の数を数百山と多くすることができると共に、そのうねりの山の高さを低くすることができ、ボールねじ装置に装填されるボールの数のN倍と一致する確率を低減して運転時における転走音を低減することができる。
【0020】
また、ボールをセラミックボールとしたことによって、連通路における衝突エネルギを減少させてボールねじ装置の運転時におけるパルス音を低減することができる。
本実施例においては、リターンチューブによりボールを循環させるチューブ式の循環方式を用いたボールねじ装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、こま式やエンドキャップ式、デフレクタ式等の循環方式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【0021】
また、本実施例においては、ボールねじ装置のねじ軸を回転させてナットを軸方向に移動させるとして説明したが、ナットを回転させてねじ軸を軸方向に移動させる形式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例のボールねじ装置を示す斜視図
【図2】実施例の切削加工によるねじ軸を用いた場合の騒音の測定結果を示すグラフ
【図3】実施例の切削加工によるねじ軸とセラミックボールを用いた場合の騒音の測定結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0023】
1 ボールねじ装置
2 セラミックボール
3 ねじ軸
4 軸軌道溝
5 ナット
5a 平面
5b 穴
5c 嵌合穴
6 ナット軌道溝
7 フランジ部
7a 取付ボルト穴
8 リターンチューブ
9 チューブ固定具
10 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットと、前記ナット軌道溝を連通する連通路と、前記軸軌道溝とナット軌道溝と連通路とで形成される循環路を循環する複数のボールとを備えたボールねじ装置において、
前記ねじ軸の軸軌道溝を、切削加工により仕上げたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ボールが、セラミックボールであることを特徴とするボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68651(P2009−68651A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239888(P2007−239888)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】