説明

ボールねじ装置

【課題】リターンチューブホルダを取付けるためのねじ穴加工および防炭処理を不要にするとともに、リターンチューブホルダの幅を小さくできるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ軸11およびボールナット12の各ボール転動溝間に形成されたボール転動軌道13を転動する多数のボール14と、ボールをボール転動軌道の一端側から他端側に戻すリターンチューブ15とを備え、ボールナットの外周に、リターンチューブをボールナットに保持するリターンチューブホルダ18を装着する装着部を円周状に設け、リターンチューブホルダを、装着部に巻付けられるリング状のワンタッチバンド25で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リターンチューブ式のボールねじ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リターンチューブ式のボールねじ装置は、一般に、外周面に螺旋状のボール転動溝を形成したボールねじ軸と、このボールねじ軸のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を内周面に形成したボールナットと、これらボールねじ軸およびボールナットのボール転動溝間に形成されたボール転動軌道を転動する多数のボールと、ボール転動軌道を転動したボールをボール転動軌道の一端側から他端側に戻すリターンチューブとによって構成されている。この種のボールねじ装置として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のボールねじ装置においては、リターンチューブをボールナットの外周に取付けるために、ボールナットの外周の円周上一部に平坦な取付け座が形成され、この取付け座にボール転動軌道の一端側と他端側に開口する挿入孔が形成されている。そして、これら挿入孔に略U字状のリターンチューブの両端脚部が挿入され、その状態で、リターンチューブをボールねじナットの取付け座に固定するリターンチューブホルダが取付け座にねじ止めされるようになっている。
【特許文献1】特開2004−353835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載されているようなボールねじ装置においては、ボールナットの取付け座に、リターンチューブホルダをねじ止めするためのねじ穴を加工する必要があり、しかも、ボールナットを熱処理する際に、ねじ穴に防炭処理を施す必要がある。このようなねじ穴加工および防炭処理によって、ボールねじ装置がコストアップする要因になっている。
【0005】
また、ねじ穴はボールナットのボール転動軌道の外方に設ける必要があるため、リターンチューブホルダの形状がボールナットの軸方向に長くなり、これに伴ってリターンチューブホルダを取付けるための取付け座もボールナットの軸方向に長くなる。従って、例えば、ボールナットの一端外周に歯車等の回転部材を一体的に圧入取付けし、ボールナットの外周基準で回転部材を仕上げ加工するような場合に、ボールナットの取付け座によって回転部材の端面に当接する当接端面に切欠き部が存在することになる。このために、回転部材の端面を全周でボールナットの当接端面に当接することができなくなり、ボールナットの外周基準で回転部材を加工すると、振れ精度を向上することが難しい問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を解消するためになされたもので、リターンチューブホルダを取付けるためのねじ穴加工および防炭処理を不要にするとともに、リターンチューブホルダのボールナット軸方向の幅を小さくできるボールねじ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、外周面に螺旋状のボール転動溝を形成したボールねじ軸と、該ボールねじ軸のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を内周面に形成したボールナットと、前記ボールねじ軸およびボールナットの各ボール転動溝間に形成されたボール転動軌道を転動する多数のボールと、該ボールを前記ボール転動軌道の一端側から他端側に戻すリターンチューブとを備え、前記ボールナットの外周に、前記リターンチューブを前記ボールナットに保持するリターンチューブホルダを装着する装着部を円周状に設け、前記リターンチューブホルダを、前記装着部に巻付けられるリング状のワンタッチバンドで構成したことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記ワンタッチバンドは、 帯状の金属からなるバンド本体を備え、該バンド本体の一部を塑性変形させることによって前記リターンチューブを前記ボールナットの外面に固定的に保持するようにしたことである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記ボールナットの一端外周には、回転部材を圧入取付けする取付け周面を有していることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、ボールナットの外周に、リターンチューブをボールナットに保持するリターンチューブホルダを装着する装着部を円周状に設け、リターンチューブホルダを、装着部に巻付けられるリング状のワンタッチバンドで構成したので、リターンチューブをワンタッチバンドによってボールナットに容易に組み立てることができ、しかも、リターンチューブホルダを取付けるために、ボールナットにねじ穴加工および防炭処理を行う必要がないので、ボールねじ装置の製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、ワンタッチバンドは、帯状の金属からなるバンド本体の一部を塑性変形させることによってリターンチューブをボールナットの外面に固定的に保持するようにしたので、簡単な操作でリターンチューブをボールナットに保持することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、ボールナットの一端外周には、回転部材を圧入取付けする取付け周面を有しているので、取付け周面に圧入した回転部材の端面をボールナットの全周で取付け端面に当接することができるようになり、ボールナットの外周基準で回転部材を高精度に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は、本実施の形態に係るボールねじ装置10を示すもので、ボールねじ装置10は、外周面にボール転動溝11aを螺旋状に形成したボールねじ軸11と、内周面にボール転動溝12aを螺旋状に形成したボールナット12とを備えている。ボールねじ軸11のボール転動溝11aとボールナット12のボール転動溝12aとの間で形成されるボール転動軌道13内には、多数のボール14が転動可能に設けられている。ボール転動軌道13を転動したボール14は、ボールナット12に取付けられたリターンチューブ15内を通ってボール転動軌道13に戻されるようになっている。
【0014】
リターンチューブ15を取付けるために、ボールナット12の外周面16の円周上一部には、平坦状に切欠いた取付け座17がボールナット12の軸方向の中央部に形成され、この取付け座17にリターンチューブ15がリターンチューブホルダ18によって、ボールナット12に固定的に保持されるようになっている。
【0015】
リターンチューブホルダ18は、後述するワンタッチバンド25で構成されている。ワンタッチバンド25をボールナット12に装着するために、ボールナット12の外周面16の軸方向の中央部には、装着部としての装着溝19が円周状に形成されている。
【0016】
リターンチューブ15は金属からなるパイプを略U字状に曲げ加工して形成されており、中央部に直線部15aと、両端部に直線部15aより直角に折り曲げられた両端脚部15b、15cを有している。
【0017】
ボールナット12の外周面16には、リターンチューブ15の両端脚部15b、15cを挿入する2つのチューブ挿入孔21、22が互いに平行に形成されている。2つのチューブ挿入孔21、22は、ボールナット12の軸線方向に所定間隔隔てた位置に、それぞれボール転動軌道13の接線方向に向けて開口されている。
【0018】
これらボールナット12の2つのチューブ挿入孔21、22にリターンチューブ15の両端脚部15b、15cが挿入されることにより、ボールねじ軸11とボールナット12との間で形成されるボール転動軌道13の一端側と他端側が、リターンチューブ15により互いに接続されて無限軌道が構成される。これにより、例えば、ボールナット12が回転されると、ボール14を転動させながらボールねじ軸11が軸方向に移動され、ボール14はボールナット12の回転方向に応じて、ボール転動軌道13の一端側もしくは他端側よりリターンチューブ15内に押し出され、リターンチューブ15によりリターンされて再びボール転動軌道13内に戻される。
【0019】
ボールナット12の一端には、歯車等の回転部材23を圧入取付けするための取付け周面24が外周面16と同心的に形成され、この取付け周面24は外周面16より小径となっており、外周面16と取付け周面24との間には全周に亘って切欠きのない当接端面24aが形成されている。
【0020】
ワンタッチバンド25は、ワンタッチでリターンチューブ15をボールナット12の外周に保持できるように、ボールナット12の外周に巻付けられるもので、公知(市販)のワンタッチバンドを利用することができる。図3は、ワンタッチバンド25の一例を示すもので、ワンタッチバンド25は、帯状の金属からなるバンド本体25aを備え、バンド本体25aの一端側に設けた係止穴25bに、バンド本体25aの他端側に設けた係止爪25cを係止させることにより、バンド本体25aをリング状に形成できるようにしている。リング状に形成されたバンド本体25aの円周上の一部には、バンド本体25aをボールナット12の外周に巻付けた状態で、バンド本体25aの周方向長さを縮めるために塑性変形される略U字状の塑性変形部25dが設けられている。塑性変形部25dの両側を互いに接近する方向に塑性変形させることにより、リング状のバンド本体25aが縮径され、リターンチューブ15がボールナット12の取付け座17に固定的に保持される。
【0021】
上記した構成のボールねじ装置10によれば、ワンタッチバンド25によってボールナット12にリターンチューブ15を保持できるようにしたので、リターンチューブ15の組み立てを容易に行うことができる。また、リターンチューブホルダ18(ワンタッチバンド25)を取付けるために、ボールナット12にねじ穴加工および防炭処理を行う必要がないので、ボールナット12、延いてはボールねじ装置10の製造コストを低減することができる。
【0022】
しかも、ワンタッチバンド25によってリターンチューブホルダ18を構成したことにより、リターンチューブホルダ18のボールナット軸方向の幅を小さくすることができ、ボールナット12の外周面16の全長に亘って取付け座17を設ける必要がない。このため、ボールナット12の当接端面24aに切欠きが存在せず、取付け周面24に圧入される歯車等の回転部材23をボールナット12の当接端面24aの全周で当接させることができるようになる。従って、回転部材23をボールナット12の取付け周面24に圧入した後に、歯車(回転部材23)の歯部等をボールナット12の外周を加工基準にして高精度に仕上げ加工することができ、歯車(回転部材23)とボールナット12との同心精度を向上することができる。
【0023】
上記した構成のボールねじ装置10は、電動モータによって回転されるボールナット12の回転運動をラック軸の軸方向運動に変換する電動パワーステアリング装置のボールねじ装置として用いることができる。すなわち、図4に示すように、電動パワーステアリング装置30は、転舵輪32を転舵するためにステアリングホイール33に加えられる操舵トルクを伝達するステアリングシャフト34と、ステアリングシャフト34からの操舵トルクにより転舵輪32を転舵する、例えばラックアンドピニオン機構からなる操舵機構35と、ステアリングシャフト34と操舵機構35とを連結する軸継手としての中間軸36とを備えている。
【0024】
操舵機構35は、入力軸としてのピニオン軸37と、自動車の横方向(直進方向と直交する方向)に延びる転舵軸としてのラック軸38と、ピニオン軸37およびラック軸38を支持するハウジング40とを有している。ピニオン軸37は、ハウジング40に回動可能に支持され、ラック軸38は、ハウジング40に直線往復移動可能に支持されている。ピニオン軸37のピニオン歯37aは、ラック軸38のラック歯38aに噛合されている。ラック軸38の両端部は、タイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪32に連結されている。
【0025】
これにより、ステアリングホイール33が操舵されると、その操舵トルクがステアリングシャフト34等を介して操舵機構35に伝達され、ピニオン軸37が回転される。ピニオン軸37の回転は、ピニオン歯37aおよびラック歯38aによって、ラック軸38の直線移動に変換され、これによって転舵輪32が転舵される。
【0026】
ラック軸38には、ボールねじ装置10のボールねじ軸11が一体的に形成され、ボールねじ軸11にボール14を介して螺合するボールナット12が、ラック軸38と同心的にハウジング40に回転のみ可能に支持されている。
【0027】
また、電動パワーステアリング装置30には、操舵トルクを検出するトルクセンサ45と、トルクセンサ45の出力に基づいて制御され操舵トルクをアシストする電動モータ46と、電動モータ46の回転を減速してボールナット12に伝達する歯車減速機構50が設けられている。歯車減速機構50は、電動モータ46によって駆動される駆動歯車51と、ボールナット12の外周に一体的に圧入取付けされた被動歯車52と、駆動歯車51と被動歯車52に噛合され、駆動歯車51の回転を被動歯車52に伝達するアイドル歯車53とによって構成されている。
【0028】
従って、ステアリングホイール33が操舵されると、操舵トルクがピニオン軸37に伝達され、ピニオン軸37に伝達された操舵トルクはトルクセンサ45によって検出される。そして、トルクセンサ45の出力に基づいて電動モータ46の回転が制御される。
【0029】
電動モータ46の回転によって駆動歯車51、アイドル歯車53および被動歯車52を介してボールナット12が回転され、ボールナット12の回転により、ボール14を介してボールねじ軸14(ラック軸38)が軸方向に移動され、ラック軸38の両端部に連結されたタイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪32が転舵される。
【0030】
上記した実施の形態においては、ワンタッチバンド25として、リング状に形成されたバンド本体25aの円周上の一部に設けた略U字状の塑性変形部25dを塑性変形させて縮径させる例について述べたが、ワンタッチバンド25は実施の形態のものに限定されるものではなく、例えば、特開2008−95923号公報に記載されているように、帯状の金属片の一端を折り返すように塑性変形させて縮径させる構成のものを用いることができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係るボールねじ装置を示す平面図である。
【図2】図1の略2−2線に沿って切断したボールねじ装置の断面図である。
【図3】ワンタッチバンドの一例を示す図である。
【図4】ボールねじ装置を電動パワーステアリング装置に適用した概要図である。
【符号の説明】
【0033】
10…ボールねじ装置、11…ボールねじ軸、11a…ボール転動溝、12…ボールナット、12a…ボール転動溝、13…ボール転動軌道、14…ボール、15…リターンチューブ、17…取付け座、18…リターンチューブホルダ、23…回転部材、24…取付け周面、25…ワンタッチバンド、25a…バンド本体、25d…塑性変形部、30…電動パワーステアリング装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のボール転動溝を形成したボールねじ軸と、該ボールねじ軸のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を内周面に形成したボールナットと、前記ボールねじ軸およびボールナットの各ボール転動溝間に形成されたボール転動軌道を転動する多数のボールと、該ボールを前記ボール転動軌道の一端側から他端側に戻すリターンチューブとを備え、
前記ボールナットの外周に、前記リターンチューブを前記ボールナットに保持するリターンチューブホルダを装着する装着部を円周状に設け、
前記リターンチューブホルダを、前記装着部に巻付けられるリング状のワンタッチバンドで構成した
ことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ワンタッチバンドは、帯状の金属からなるバンド本体を備え、該バンド本体の一部を塑性変形させることによって前記リターンチューブを前記ボールナットの外面に固定的に保持するようにしたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ボールナットの一端外周には、回転部材を圧入取付けする取付け周面を有していることを特徴とするボールねじ装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−31930(P2010−31930A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193264(P2008−193264)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】