説明

ボールねじ軸の累積リード誤差測定装置及び測定方法

【課題】再現性の高い高精度の測定を、短時間で行える生産性に優れたボールねじ軸の累積リード誤差測定装置及び測定方法を提供する。
【解決手段】被測定ボールねじ軸Wを回転不動に固定する固定支持台1と、前記被測定ボールねじ軸Wのねじ溝に当接させるボール接触子5と、ボール接触子5を被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対し直交方向に往復移動させるとともにボール接触子5を所定の押し込み力で前記ねじ溝に当接させるボール接触子スライド手段と、ボール接触子スライド手段を軸心Lzと平行に水平往復移動する位置検出スライド手段と、位置検出スライド手段を前記被測定ボールねじ軸Wのねじ部間で往復移動させる位置決め往復スライド手段2と、ボール接触子5の軸心Lz方向における位置を検出するリード位置測定手段6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ軸の累積リード誤差を測定する装置及びその装置を用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールねじ軸のリード誤差を測定する装置として、例えば特許文献1に示す測定装置が知られている。この測定装置は、被測定ボールねじ軸に使用されるボールと同じ大きさの球体をボール接触子先端に接着し、このボール接触子2個を被測定ボールねじ軸の軸を中心にして180度位相をずらせた位置で被測定ボールねじ軸のねじ溝に挟み込んで、ねじ軸の半径方向に向かう方向に測定圧力を加えて、ねじ溝の両フランクに接触させた状態で、被測定ボールねじ軸を回転させながらボール接触子の移動距離をレーザー干渉測長器で測定し、被測定ボールねじ軸のねじの理論上の回転移動距離と該測定移動距離との累積移動誤差によって被測定ボールねじ軸のリード誤差を測定する。
【0003】
一方、ねじ溝の中心位置を直接的に検出することで、より高精度に、かつ短時間にねじ溝の中心位置を測定することができるねじ溝検出装置として特許文献2がある。特許文献2のねじ溝検出装置では図1に示すようにボール接触子を被測定ねじ軸に交差するように被測定ねじ軸に押し付け、径側位置検出手段を用いてボール接触子がねじ溝に入ったことを検出し、リード側位置検出手段を用いてボール接触子におけるリード方向の位置を検出して、ねじ溝の位置を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−26203号公報
【特許文献2】特開2010−36332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の測定装置によれば、3次元方向でのねじリード誤差の把握は可能であるが、被測定ボールねじ軸を回転して測定する必要があるため、例えば被測定ボールねじ軸が大型の工作機械を構成するため1m以上となる長尺の送りねじの場合では、回転軸間で自重たわみが発生するため回転芯振れが発生する。回転芯振れするとボール接触子が不安定な接触となることで振動することになり、リード誤差の管理最小単位である1μm以下での精度測定は困難であり、ゆっくり回転させて測定する必要があり、1回の測定に10数分必要となる。
【0006】
また、特許文献2の測定装置も被測定ねじ軸を回転して測定する必要があり、リード側の位置を検出する前に、まず、被測定ねじ軸をリード方向に往復運動させてボール接触子をねじ溝になじませる必要があり、被測定ねじ軸を正逆に回転するためのバックラッシュの影響で、測定誤差が生じる課題がある。
【0007】
さらに、ボール接触子の支持機構は被測定ねじ軸の軸心方向及び前記軸心方向と直角方向に移動自在にすると共に旋回も自在となっており、リニアガイド軸受などが使われているが、摺動する軸受は数μmレベルのクリアランスが生じており、拘束力がないフリー状態で使用する場合は数十μmのバックラッシュの発生は避けがたく、自動での測定では測定の再現性にバラツキが大きく、データの信頼性に課題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、再現性の高い高精度の測定を、短時間で行える生産性に優れたボールねじ軸の累積リード誤差測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明におけるボールねじ軸の累積リード誤差測定装置は、 被測定ボールねじ軸の軸心方向におけるねじ溝の位置を検出することによって累積リード誤差を測定するボールねじ軸の累積リード誤差測定装置であって、前記被測定ボールねじ軸を回転不動に固定する固定支持台と、前記固定支持台に固定された前記被測定ボールねじ軸のねじ溝に当接させる球体を備えたボール接触子と、前記ボール接触子を前記軸心に対して直交方向に往復移動させるとともに前記ボール接触子を所定の押し込み力で前記ねじ溝に当接させるボール接触子スライド手段と、前記ボール接触子スライド手段を載置し、該ボール接触子スライド手段を前記軸心と平行に水平往復移動する位置検出スライド手段と、前記位置検出スライド手段を載置し、前記位置検出スライド手段を前記被測定ボールねじ軸のねじ部間で往復移動させる位置決め往復スライド手段と、前記ボール接触子の前記軸心方向における位置を検出するリード位置測定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また上記の目的を達成するために本発明におけるボールねじ軸の累積リード誤差測定は、前記被測定ボールねじ軸を回転不動に静置して固定する固定支持台と、前記固定支持台に固定された前記被測定ボールねじ軸のねじ溝に当接させる球体を備えたボール接触子と、前記ボール接触子を前記軸心に対して直交方向に往復移動させるとともに前記ボール接触子を所定の押し込み力で前記ねじ溝に当接させるボール接触子スライド手段と、前記ボール接触子スライド手段を載置し、該ボール接触子スライド手段を前記軸心と平行に水平往復移動する位置検出スライド手段と、前記位置検出スライド手段を載置し、前記位置検出スライド手段を前記被測定ボールねじ軸のねじ部間で往復移動させる位置決め往復スライド手段と、前記ボール接触子の前記軸心方向における位置を検出するリード位置測定手段と、を備えたボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を用いて前記被測定ボールねじ軸の累積リード誤差を測定するボールねじ軸の累積リード誤差測定方法であって、前記固定支持台に前記ボール接触子を前記被測定ボールねじ軸の前記軸心に対して直交方向に往復移動させた時の前記球体の中心が前記軸心に直交する位置へ前記被測定ボールねじ軸を固定する固定支持工程と、前記ボール接触子を前記被測定ボールねじ軸の軸心方向に対して直交方向から所定の押し込み力でねじ溝に当接させるボール接触子押し込み工程と、前記ねじ溝に当接された前記ボール接触子の前記軸心方向における位置をレーザー干渉測長器で測定する測定工程と、前記ねじ溝に当接された前記ボール接触子を前記軸心方向に対して直交方向に退避させるボール接触子退避工程と、前記ボール接触子を前記軸心方向と平行に所定間隔に水平移動させるボール接触子移動工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ねじ溝の検出にねじのフランクに直接接触させるボール接触子を用いることで、より高精度にねじ溝の中心位置を求めることができる。そして、被測定ボールねじ軸の軸心方向におけるねじ溝の位置は、位置決め往復スライド手段に軸心方向の往復移動が可能な位置検出スライド手段を載置させ、さらに位置検出スライド手段に所定の押し込み力でねじ溝にボール接触子を押し込むボール接触子スライド手段を組み込むことでボール接触子が回転不動に固定されたボールねじ軸のねじ溝になじみやすくなり、リード側位置検出手段で再現性の高い精度で測定を短時間ですることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のねじ溝の中心の位置を測定する方法を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を示した説明平面図である。
【図3】図1のA−A矢視からの被測定ボールねじ軸と固定支持部を示した説明図である。
【図4】図1のB−B矢視を示した拡大説明図である。
【図5】図1のC−C矢視を示した拡大説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を示した側面説明図である。
【図7】本発明で使用する空気静圧軸受の一実施形態の断面説明図である。図7(B)はオリフィスの拡大説明図である。
【図8】図7の静圧パッド構造を示す平面説明図である。
【図9】図8のD−D断面であり、通気溝及び排気溝の幅方向の断面形状を示す断面説明図である。
【図10】本発明の第1実施形態のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を用いて測定した測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置及びその装置を用いた測定方法について図面を参照して説明する。
図2は、本発明の第1実施形態にかかわるボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を示した説明平面図である。図3は、図1のA−A矢印から見た被測定ボールねじ軸と固定支持部を示した説明図である。図4はB−B矢視を示した拡大説明図である。図5は、図1のC−C矢視を示した拡大説明図である。
まお、図2から5及び後述する図6において、X軸、Y軸、Z軸は直交しており、Z軸は被測定ボールねじ軸の軸心と同一の方向を示し、X軸はZ軸に対して直交する水平方向を示し、Y軸はZ軸に対して直行する鉛直方向を示す。
なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
石定盤100上に被測定ボールねじ軸Wを回転不動に静置して固定するための固定支持台1が配設されている。本実施形態では、固定支持台1は、図3に示すように被測定ボールねじ軸Wの両端とそのほぼ中間の3点で支持するように設置されている。
【0015】
また、石定盤100上には、固定支持台1に固定された被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対し平行方向に往復移動が可能な位置決め往復スライド手段2が配設されている。この位置決め往復スライド手段2は、被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに平行に設置されたガイド軸21と、このガイド軸21に沿って往復移動する移動テーブル22とからなる空気静圧軸受20を備えている。そして、この空気静圧軸受20は、真直度が2μm/m以下、姿勢精度が2秒以下の走行精度を有している。
姿勢精度とは、移動テーブル22が走行中に姿勢変化するピッチング、ヨーイング、ローリングの精度のことで、傾き(度)で表される。また、走行精度とは、移動テーブル22が被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対し平行方向に走行する真直度と姿勢精度を総合した精度をいう。真直度は、移動距離の変位の最大値をいう。
【0016】
本発明における空気静圧軸受とは、固定体と移動体との摺動面間に軸受間隙を設け、当該軸受間隙に加圧気体を供給することにより前記移動体を前記固定体上で浮上させ、移動可能に構成された軸受のことをいう。
【0017】
さらに、位置決め往復スライド手段2には、移動テーブル22をガイド軸21に沿って所定の測定位置に往復移動させる位置決め走行手段25を備えている。本実施形態においては、移動テーブル22に連結されたベルト27を介したサーボモータ26によって移動テーブル22を移動させる位置決め走行手段25を用いている。
また、位置決め往復スライド手段2には、位置検出スライド手段3が載置されている(図5)。
【0018】
位置検出スライド手段3は、固定軸31と、この固定軸31に沿って移動が可能な受け台32とからなる空気静圧軸受30を備えている。そして固定軸31は、位置決め往復スライド手段2に具備される空気静圧軸受20の移動テーブル22へ被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzと平行に固設されている。
【0019】
また、空気静圧軸受30は、固定軸31の両端と受け台32との間にそれぞれ中立位置保持弾性体35、35を備えている(図5)。ボール接触子5がボールねじ軸Wのねじ溝に当接していない時、つまり受け台32にZ軸方向の力が作用していない時は、受け台32が固定軸31のZ軸方向の中立位置に保持される。また、ボール接触子5がボールねじ軸Wのねじ溝に当接する時、つまり受け台32にZ軸方向の力が作用した時は、中立位置保持弾性体35、35は伸縮し、受け台32が固定軸31に沿って往復移動する。なお、第1実施形態では、中立位置保持弾性体35、35としてスプリングを用いている。
さらにまた、位置検出スライド手段3には、ボール接触子スライド手段4が載置されている。
【0020】
ボール接触子スライド手段4は、被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するX軸方向の往復移動が可能な移動軸42と、この移動軸42を支持する固定支持体41とから構成される空気静圧軸受40を備えている。そして、固定支持体41は、位置検出スライド手段3に具備される空気静圧軸受30の受け台32へ固設されている。
【0021】
また、移動軸42の被測定ボールねじ軸W側の先端には、被測定ボールねじ軸Wのねじ溝に当接させるボール接触子5が連接されている。そして、ねじ溝に当接するボール接触子5の先端には、被測定ボールねじ軸Wに使用されるボールと同じ径の球体50が接着されている。また、ボール接触子5は、位置決め往復スライド手段2によって被測定ボールねじ軸Wのねじ部間を移動可能となっている。
【0022】
一方、移動軸42のボール接触子5が連接された端の反対側の端部には、押し込み力調整弾性体43を介して伸縮手段44が連接されている。この伸縮手段44によって移動軸42及びボール接触子5が往復直線移動させられる。また、押し込み力調整弾性体43は、ボール接触子5がねじ溝に当接する際の衝突エネルギーを吸収するとともに、ボール接触子5をねじ溝に所定の押し込み力で押し当てて、保持する。
なお、本実施形態においては、押し込み力調整弾性体43としてスプリングが、伸縮手段44としてエアシリンダが用いられている。ただし、押し込み力調整弾性体43や伸縮手段44は前記のものに限られるものでない。
【0023】
また、空気静圧軸受40は、ボール接触子5をねじ溝に当接させる時のZ軸方向への変形に耐えうる軸受剛性を有している。
【0024】
さらに、本実施形態には、被測定ボールねじWのねじ溝に当接されたボール接触子5の軸心Lz方向の位置を計測するためのリード位置測定手段6を備えている。本実施形態におけるリード位置測定手段6としては、市販のレーザー干渉測長器が用いられている。リード位置測定手段6は、μm単位の計測ができれば、特に限定されるものではない。
【0025】
本実施形態のリード位置測定手段6に用いたレーザー干渉測長器の構成について図2に基づいて説明する。位置検出スライド手段3の受け台32にレーザー光線を入射、反射するための直角反射鏡62、63が設置されている。この直角反射鏡62、63は被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzと直角をなす線上で、かつ、位置検出スライド手段3の固定軸31のZ軸方向の中心軸に対して左右対称をなす位置に配置されている。なお、直角反射鏡62、63は、ボール接触子スライド手段4の固定支持体41に前述の配置関係と同様に設置してもよい。また、直角反射鏡63のZ軸線上には、直角反射鏡63によって反射されたレーザー光線を入射、反射するためのコーナーキューブ64が配置されている。そして、直角反射鏡62のZ軸線上には、レーザー光源と、レーザー光源からのレーザー光線を分割し、分割した一方のレーザー光線を直角反射鏡62、63、コーナーキューブ64に入射させて得た反射光と、他方のレーザー光線を参照反射鏡に入射させて得た反射光とを干渉させ、反射鏡の移動に伴う干渉縞の変化に対応して変化する電気信号を生成するレーザー干渉ヘッド61が配置されている。さらに、レーザー干渉ヘッド61には、レーザー干渉ヘッド61から出力される電気信号のサイクル数から移動距離を算出する本体部60が接続されている。
そして、リード位置測定手段6により測定された測定値を演算処理する演算手段7及びそれらの結果を記録する記録計8が接続されている。
また、レーザー干渉測長器を用いた距離の測定においては、直角反射鏡62、63を省き、位置検出スライド手段3の受け台32へコーナーキューブ64を設けてもよい。
【0026】
なお、本実施形態で中立位置保持弾性体35に用いられるスプリングのばね定数は、0.1〜3N/mm、好ましくは0.3〜1N/mmである。中立位置保持弾性体35のスプリングのばね定数が0.1N/mm未満では復元力が小さすぎて、受け台32が復元不足となり、中立位置に戻らない恐れがあり、3N/mm以上では、ボール接触子スライド手段4に用いられる空気静圧軸受40の軸受剛性が、ボール接触子5をねじ溝に押し込む際の変形に耐えられなくなる。0.3〜1N/mmであれば、再現性の高い測定が可能となる。
なお、本実施形態の空気静圧軸受40の軸受剛性は、6N/μmである。
【0027】
また、被測定ボールねじ軸Wのねじ溝へのボール接触子5の押し込み力は、0.5〜5N、好ましくは1〜3Nである。ボール接触子5をねじ溝へ押し込む押し込み力が0.5N未満では、押し込み不測となる恐れがあり、5N以上では押し込みによって被測定ボールねじ軸Wが変形して測定誤差に繋がる。1〜3Nであれば、再現性の高い測定が可能となる。
【0028】
以下に、本実施形態のねじリード誤差測定装置を用いたねじリード誤差測定方法について説明する。
【0029】
まず、被測定ボールねじ軸Wを3台の固定支持台1へ回転不動に静置して固定する。固定支持台1には図示しない高さ調整機構が具備されている。
本発明においては、ボール接触子5の球体50の中心が被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに直交するようにボール接触子5を被測定ボールねじ軸のねじ溝に当接させる必要がある。そのため、前記の高さ調節機構で調節して石定盤100表面から被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzの高さHy1をボール接触子5の球体50の中心高さHy2に合わせ、位置決め往復スライド手段2の空気静圧軸受20の走行精度の真直度以内となるように被測定ボールねじWを固定する。
第1実施形態においては被測定ボールねじ軸の自重によるたわみを考慮して3点支持にて固定しているが、ボールねじ軸Wの軸心Lzが位置決め往復スライド手段2に備えられた空気静圧軸受20の走行精度の真直度以内となれば、何点で支持してもよい。
【0030】
そして、位置決めスライド手段2の位置決め走行手段25を用いて、ボール接触子5を所定の測定開始位置に移動させる。
続いて、ボール接触子スライド手段4の伸縮手段44を伸長させて移動軸42及びボール接触子5を被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するX軸方向から所定の押し込み力で被測定ボールねじ軸Wのねじ溝になじませながら当接させる。
【0031】
ボール接触子5の被測定ボールねじ軸の軸心Lz方向に対する位置をリード位置測定手段6にて測定する。
【0032】
その後、伸縮手段44を収縮させて、被測定ボールねじ軸Wよりボール接触子5を退避させる。そして、続いて、ボール接触子5を位置決めスライド往復手段2の位置決め走行手段25にて所定の距離を移動させる。
その後また、伸縮手段44を伸長させてボール接触子5を被測定ボールねじ軸Wのねじ溝に当接させ、当接したボール接触子5の位置をリード位置測定手段6にて測定する。そして、ボール接触子5を退避させ、また、ボール接触子を所定の間隔で移動させる。以上のことを繰り返し行うことによって、実移動量が測定され、実移動量から代表移動量が求められる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置の第2実施形態について説明する。図6は第2実施形態を示した側面説明図である。基本的構成及び測定方法は、第1実施形態と同様のため省略する。
【0034】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、第1実施形態においてはボール接触子5を被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するX軸方向から当接させていたが、第2実施形態ではボール接触子5をボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するY軸方向より当接させる点である。そのため、第2実施形態では、図6に示すようにボール接触子スライド手段4をL型ブラケット80を介して位置検出スライド手段3に載置する構成としている。
【0035】
本実施形態のようにボール接触子5をボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するY軸方向より当接させることで、被測定ボールねじ軸Wの自重によるたわみ変形に影響されずに測定が可能となる。特に、長尺のボールねじ軸を測定する場合、自重によるたわみ変形は大きく、固定支持方法が測定誤差につながるため、作業が複雑となる。軸心Lzの高さの許容差をねじ全長で±1μm以内にしなければ、1μm以内の測定の再現性が確保できない。
また、第1実施形態では、被測定ボールねじ軸Wの径を変更する度に、被測定ボールねじ軸Wの固定する高さをボール接触子5の中心高さと同一となるように固定支持台の高さと支持間隔を厳密に調節しなければならないが、第2実施形態であれば、その必要がなくなるという利点もある。
【0036】
なお、本発明で使用される空気静圧軸受について詳細に説明する。本発明で使用される空気静圧軸受は、移動体61に、加圧気体を供給する主配管64と、摺動面66に開口する主配管64の吐出口64aに設けられ加圧気体を整流するオリフィス65と、このオリフィス65に連通しオリフィス65から吐出された加圧気体を固定体62との軸受間隙67に分配して供給する通気溝68が形成された静圧パッド63を備えている(図7参照)。そしてこの通気溝68は、オリフィス65を囲み環状に形成された環状溝68bと、オリフィス65を中心に環状溝68bに向かって放射状に延設され、この環状溝68bとオリフィス65とを連通する複数の分配溝68aとからなっている(図8参照)。さらに、通気溝68は、移動体61の移動方向に対して対称となるように形成されている。また、通気溝68の幅方向の断面形状が摺動面66から離れる方向に凸の曲線を形成している(図9参照)。
【0037】
また、分配溝68aの幅方向の断面積の総和は、オリフィス65の断面積以上であり、通気溝68の表面粗さは、移動体61の摺動面66の表面粗さよりも小さくなるように形成されている。
【0038】
さらに、移動体61には、環状溝68bを囲んで設けられ、通気溝68から軸受間隙67に供給された加圧気体を軸受間隙67の外方に案内して排気する排気溝69が、移動体61の移動方向に対して対称となるように形成されている(図8参照)。また、排気溝69は、幅方向の断面形状が摺動面から離れる方向に凸の曲線を形成しているとともに、断面積が環状溝68bの断面積以上となっている。(図9参照)。
そして、移動体61及び固定体62はセラミックスにより形成されている。
【0039】
以上のように構成された空気静圧軸受は、静圧パッド63から軸受間隙67へ吐出される加圧気体を圧力分布が一様な層流とすることができるので、振動の発生を防止できる高精度な空気静圧軸受となっている。
さらに、層流を安定して維持することができるため、加圧気体の給気圧力を上げることができるので、高剛性の空気静圧軸受となっている。
【0040】
なお、図7、8、9に示す空気静圧軸受は、本発明に使用する空気静圧軸受の一実施形態であり、これに限られるものではない。
【0041】
(実施例)
以下に、第1実施形態のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置の測定した例を示す。
軸径が40mm、リードピッチが10mm、全長が1400mmのJIS規格でC3級に相当する規格に合格したボールねじ軸(THK製)を、室温が20℃±0.5℃に空調されたで室内で該ボールねじ軸の累積リード誤差を測定した。
まず、被測定ボールねじ軸を位置決めスライド往復手段2に備えられた空気静圧軸受のガイド軸に平行となるように3台の固定支持台に静置した。さらに、ボール接触子5の球体50の中心高さに合わせて、被測定ボールねじ軸の軸心Lzの高さが±1μm以内となるように固定支持台1を調節した。そして、被測定ボールねじ軸Wの先端から200mmの位置から10mmピッチの間隔で、ボール接触子5を被測定ボールねじ軸Wの軸心Lzに対して直交するX軸方向より押し込んだ。1リードピッチは5秒/ポイント間隔で、全長測定時間は500秒/100ポイントで測定した。なお、位置検出スライド手段2に備えられる中立位置保持弾性体35のスプリングには、ばね定数0.3N/mmのものを用いた。また、ボール接触子スライド手段4に備えられた押し込み力調整弾性体43のスプリングには、ばね定数2.4N/mmのものを用い、伸縮手段で押し込み力調整弾性体43を1mm押し込むように設定した。
以上により測定した結果を図10に示す。図10より4回測定した累積リード誤差のバラツキは代表移動量誤差で19〜20μm、再現性が最大0.7μm以内で、高精度に再現性よく測定できることが見て取れる。
【0042】
また、表1に本発明の実施例と従来の一般的な例の比較を示す。本発明は測定の再現性で1μm以下であり、高精度の測定が実現しており、さらに、測定時間が従来方法比べ、1/3の時間で達成できており、ボールねじ軸の検査時間を大幅に短縮することが可能である。
【0043】
【表1】

【0044】
以上のことから明らかなように本発明のねじリード誤差測定装置を用いれば、ねじ溝の検出にねじのフランクに直接接触させるボール接触子5を用いることで、より高精度にねじ溝の中心位置を求めることができる。そして、被測定ボールねじ軸Wの軸心Lz方向におけるねじ溝の位置は、位置決め往復スライド手段2にボールねじ軸Wの軸心Lzと平行に水平往復移動する位置検出スライド手段3を載置させ、さらに位置検出スライド手段3に所定の押し込み力でねじ溝にボール接触子5を押し込むボール接触子スライド手段4を組み込むことでボール接触子5がねじ溝になじみやすくなり、そしてリード側位置検出手段6を用いることにより正確に検出することができる。
【0045】
さらに、本発明のねじリード誤差測定装置においては、位置決め往復スライド手段2に真直度が2μm/m以下、姿勢精度が2秒以下の走行精度を有するセラミックス製の空気静圧軸受20を備えているので、ボール接触子5がボールねじ軸Wのねじ溝になじみやすく、再現性を高い精度で測定できる装置をコンパクトに構成することができる。
【0046】
さらに、本発明のねじリード誤差測定装置においては、位置検出スライド手段3に摺動抵抗の極めて少ないセラミックス製の空気静圧軸受30を備え、さらに、この空気静圧軸受30の受け台32と固定軸31の間にZ軸方向に対するずれ量に応じて受け台32を固定軸31の中立位置に戻す復元力を有した中立位置保持弾性体35を備えているので、ねじ溝位置の検出誤差を小さくすることができる。
【0047】
また、ボール接触子スライド手段4には、ボール接触子5をねじ溝に押し込んだ時にZ軸方向の変形量に耐えうる軸剛性を有したセラミックス製の空気静圧軸受40を備えているので、コンパクトで再現性の高い測定ができる。
【0048】
さらに、ボール接触子スライド手段4にボール接触子5をねじ軸に押し込むための伸縮手段44に押し込み力調整弾性体43を連接させているので、ボール接触子5をねじ溝に押し込んだ時の衝突エネルギーを吸収し、ねじ溝の中心位置を検出する前のボール接触子5の押し込み力を一定に保持させることで、ボール接触子5を適切にねじ溝の中心位置に収めることができるので、ねじ溝位置の検出誤差を更に小さくすることができる。
【符号の説明】
【0049】
W ボールねじ軸
1 固定支持台
2 位置決め往復スライド手段
3 位置検出スライド手段
4 ボール接触子スライド手段
5 ボール接触子
6 リード位置測定手段
20 空気静圧軸受
21 ガイド軸
22 移動テーブル
25 位置決め走行手段
30 空気静圧軸受
31 固定軸
32 受け台
35 中立位置保持弾性体
40 空気静圧軸受
41 固定支持体
42 移動軸
43 押し込み力調整弾性体
44 伸縮手段
50 球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ボールねじ軸の軸心方向におけるねじ溝の位置を検出することによって累積リード誤差を測定するボールねじ軸の累積リード誤差測定装置であって、
前記被測定ボールねじ軸を回転不動に固定する固定支持台と、
前記固定支持台に固定された前記被測定ボールねじ軸のねじ溝に当接させる球体を備えたボール接触子と、
前記ボール接触子を前記軸心に対して直交方向に往復移動させるとともに前記ボール接触子を所定の押し込み力で前記ねじ溝に当接させるボール接触子スライド手段と、
前記ボール接触子スライド手段を載置し、該ボール接触子スライド手段を前記軸心と平行に水平往復移動する位置検出スライド手段と、
前記位置検出スライド手段を載置し、前記位置検出スライド手段を前記被測定ボールねじ軸のねじ部間で往復移動させる位置決め往復スライド手段と、
前記ボール接触子の前記軸心方向における位置を検出するリード位置測定手段と、
を備えたことを特徴とするボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項2】
前記ボール接触子スライド手段が、前記ボール接触子を前記軸心に対して鉛直または水平の直交方向に往復移動させることを特徴とする請求項1記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項3】
前記ボール接触子スライド手段が、前記被測定ボールねじ軸側の一端に前記ボール接触子が連結された移動軸と、該移動軸を支持する固定支持体とからなる空気静圧軸受であることを特徴とする請求項1または2記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項4】
前記ボール接触子スライド手段が、前記移動軸の他端に前記ボール接触子の押し込み力を調整するための押し込み力調整弾性体を介して伸縮手段をさらに具備していることを特徴とする請求項1、2または3に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項5】
前記ボール接触子スライド手段が、前記ボール接触子を前記ねじ溝に0.5〜5Nの押し込み力で押し込むことを特徴とする請求項4に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項6】
前記ボール接触子スライド手段が、前記ボール接触子を前記ねじ溝に1〜3Nの押し込み力で押し込むことを特徴とする請求項4に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項7】
前記位置検出スライド手段が、前記軸心と平行に設けられた固定軸と、該固定軸に沿って移動可能で前記ボール接触子スライド手段が載置される受け台と、からなる空気静圧軸受であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項8】
前記位置検出スライド手段は、前記受け台と固定軸の両端との間に前記受け台を前記ボール接触子が前記ねじ溝に当接していない状態の前記軸心方向と平行な中立位置に戻す復元力を有する中立位置保持弾性体を、さらに備えることを特徴とする請求項7に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項9】
前記中立位置保持弾性体が、0.1〜3N/mmのばね定数を有するスプリングであることを特徴とする請求項8に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項10】
前記中立位置保持弾性体が、0.3〜1N/mmのばね定数を有するスプリングであることを特徴とする請求項8に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項11】
前記位置決め往復スライド手段が、前記軸心に平行に設けられたガイド軸と、該ガイド軸に沿って移動する移動テーブルとからなり、真直度が2μm/m以下、姿勢精度が2秒以下の走行精度を有する空気静圧軸受であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項12】
前記位置決め往復スライド手段が、前記移動テーブルを前記ガイド軸に沿って所定の位置へ移動させる位置決め走行手段をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項13】
前記リード位置測定手段が、レーザー干渉測長器を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のボールねじ軸の累積リード誤差測定装置。
【請求項14】
前記被測定ボールねじ軸を回転不動に静置して固定する固定支持台と、
前記固定支持台に固定された前記被測定ボールねじ軸のねじ溝に当接させる球体を備えたボール接触子と、
前記ボール接触子を前記軸心に対して直交方向に往復移動させるとともに前記ボール接触子を所定の押し込み力で前記ねじ溝に当接させるボール接触子スライド手段と、
前記ボール接触子スライド手段を載置し、該ボール接触子スライド手段を前記軸心と平行に水平往復移動する位置検出スライド手段と、
前記位置検出スライド手段を載置し、前記位置検出スライド手段を前記被測定ボールねじ軸のねじ部間で往復移動させる位置決め往復スライド手段と、
前記ボール接触子の前記軸心方向における位置を検出するリード位置測定手段と、
を備えたボールねじ軸の累積リード誤差測定装置を用いて前記被測定ボールねじ軸の累積リード誤差を測定するボールねじ軸の累積リード誤差測定方法であって、
前記固定支持台に前記ボール接触子を前記被測定ボールねじ軸の前記軸心に対して直交方向に往復移動させた時の前記球体の中心が前記軸心に直交する位置へ前記被測定ボールねじ軸を固定する固定支持工程と、
前記ボール接触子を前記被測定ボールねじ軸の軸心方向に対して直交方向から所定の押し込み力でねじ溝に当接させるボール接触子押し込み工程と、
前記ねじ溝に当接された前記ボール接触子の前記軸心方向における位置を前記リード位置測定手段で測定する測定工程と、
前記ねじ溝に当接された前記ボール接触子を前記軸心方向に対して直交方向に退避させるボール接触子退避工程と、
前記ボール接触子を前記軸心方向と平行に所定間隔に水平移動させるボール接触子移動工程と、
を備えたことを特徴とするねじリード誤差測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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