説明

ボールねじ

【課題】高速回転用途に好適なボールねじを提供する。
【解決手段】負荷転動路10内にセラミックによって形成したセラミックボール12を装填し、ナット4が備える循環部材16を樹脂材料によって形成し、循環部材16が負荷転動路10内を移動するセラミックボール12をすくい上げる、又は負荷転動路10内へセラミックボール12を戻す方向を、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の循環部材16における接線方向と一致又は略一致させ、隣り合うセラミックボール12の間に、樹脂材料によって形成したスペーサボールを介装し、ナット4に、ナット側転動溝8の略半円形のナット側ボール転動部8aと循環部材16とを滑らかに連続する第一面取り部28を設け、ねじ軸2に、ねじ軸側転動溝6の略半円形のねじ軸側ボール転動部6aと外周面2aとを滑らかに連続する第二面取り部30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械等に用いられるボールねじ、特に高速回転用途で用いられるボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業機械等に用いられるボールねじのうち、特に高速回転用途で用いられているボールねじとしては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。このボールねじは、螺旋状のねじ軸側転動溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸の外周側に配置されるとともに、ねじ軸側転動溝に対向するナット側転動溝を内周面に有するナットとを備えている。ねじ軸側転動溝とナット側転動溝との間に形成される負荷転動路内には、セラミックによって形成された複数のセラミックボールが転動自在に装填されており、隣り合うセラミックボール間には、樹脂材料によって形成されたスペーサボールが介装されている。
【0003】
このようなボールねじを含め、従来のボールねじでは、負荷転動路内において複数のボールを循環させる循環方式として、例えば、特許文献2に記載されている循環方式や、特許文献3に記載されている循環方式が用いられている。
特許文献2に記載されている循環方式は、ナットのうちナット側転動溝の両端を形成する部分に、それぞれ、負荷転動路内を移動するボールをすくい上げて負荷転動路内へ戻す循環部材を取り付け、これらの循環部材同士を、ボールが通過するボール戻し路によって連結したものである。
【0004】
特許文献3に記載されている循環方式は、ナットの外周側から、負荷転動路内を移動するボールをすくい上げて負荷転動路内へ戻す循環部材を挿入したものである。この循環部材は、負荷転動路内を移動するボールをすくい上げる、又は負荷転動路内へボールを戻すタング部と、タング部が負荷転動路内からすくい上げたボール、又はタング部が負荷転動路内へ戻すボールが通過するボール戻し路とを備えている。
【0005】
これらのボールねじでは、負荷転動路内を移動するボールを、負荷転動路の螺旋軌道に沿ってすくい上げ、このすくい上げたボールを再び負荷転動路内へ戻しているため、循環部材は複雑な形状となる。そのため、循環部材を大量生産するためには、例えば、ポリアセタールやナイロン等、樹脂材料を用いた射出成形によって循環部材を製造することが、循環部材の製造コストを低減するために好適である。
【0006】
また、特許文献4に記載されているボールねじのように、ねじ軸に、ねじ軸側転動溝の略半円形のねじ軸側ボール転動部とねじ軸の外周面とを滑らかに連続する面取り部を設けることにより、ボールねじの耐久性を向上させたものもある。
【特許文献1】特開2004−84826号公報(図1)
【特許文献2】特開2003−269565号公報(図12)
【特許文献3】特開2004−156767号公報(図2)
【特許文献4】特許3325679号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献2及び特許文献3に記載されている循環方式のように、樹脂材料によって形成された循環部材を用いた転動体の循環方式では、ボールねじを高速回転用途で用いると、循環部材の早期損傷が発生して、ボールねじの寿命が短縮されてしまうおそれがある。これは、ボールねじの作動時に、循環部材にボールが繰り返し衝突することや、循環部材の湾曲部においてボールの転動方向を変化させる際に、ボールに発生する遠心力によって循環部材の内壁が損傷することに起因している。
【0008】
この問題は、特許文献1に記載されているように、ボールをセラミックによって形成されたセラミックボールとすること、すなわち、ボールの質量を、ボールを鋼球とした場合と比較して軽くすることによって解決される。しかしながら、セラミックは鉄よりも脆性の高い材料であるため、循環部材の早期損傷を防止することが可能となっても、ボールの早期損傷が発生して、ボールねじの寿命が短縮されてしまうおそれがある。
【0009】
セラミックボールの早期損傷を防止する方法としては、例えば、隣り合うセラミックボールの間に、樹脂材料で形成したスペーサを介装するとともに、ナット及び循環部材のうち少なくとも一方に、ナット側転動溝の略半円形のナット側ボール転動部と循環部材とを滑らかに連続する面取り部を設ける方法がある。しかしながら、この方法であっても、ボールねじを更なる高速回転条件下で用いると、セラミックボールに早期損傷が発生してしまい、ボールねじの寿命が短縮されてしまうおそれがある。
【0010】
また、特許文献4に記載されているボールねじでは、ねじ軸に設けた面取り部に発生する早期損傷を防止することは可能であるが、セラミックボールの早期損傷を防止するためには不十分であり、セラミックボールに早期損傷が発生して、ボールねじの寿命が短縮されてしまうおそれがある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、循環部材及びセラミックボールの早期損傷を防止することにより、長寿命化を可能とするとともに、高速回転用途に好適なボールねじを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、螺旋状のねじ軸側転動溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸の外周側に配置されるとともに前記ねじ軸側転動溝に対向するナット側転動溝を内周面に有するナットと、前記両転動溝間に形成される負荷転動路内に転動自在に装填される複数のボールと、を備え、
前記ナットに、前記負荷転動路内を移動する前記ボールをすくい上げる又は負荷転動路内へボールを戻す循環部材と、前記循環部材が前記負荷転動路内からすくい上げた前記ボール又は負荷転動路内へ戻すボールが通過するボール戻し路と、を備えるボールねじにおいて、
前記ボールを、セラミックによって形成したセラミックボールとし、
前記循環部材を、樹脂材料によって形成し、
前記循環部材が前記負荷転動路内を移動する前記セラミックボールをすくい上げる又は負荷転動路内へセラミックボールを戻す方向を、前記負荷転動路内における前記セラミックボールの転動軌跡の前記循環部材における接線方向と一致又は略一致させ、
隣り合う前記セラミックボールの間に、樹脂材料によって形成したスペーサを介装し、
前記ナット及び循環部材のうち少なくとも一方に、前記ナット側転動溝の略半円形のナット側ボール転動部と前記循環部材とを滑らかに連続する第一面取り部を設け、
前記ねじ軸に、前記ねじ軸側転動溝の略半円形のねじ軸側ボール転動部と前記ねじ軸の外周面とを滑らかに連続する第二面取り部を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明によると、ボールねじが備えるねじ軸、ナット、循環部材及びスペーサによって、以下の(1)〜(5)の各効果を奏することが可能となるため、ボールねじの長寿命化が可能となるとともに、ボールねじの耐久性を向上させることが可能となる。
(1)負荷転動路内に転動自在に装填されるボールを、セラミックによって形成したセラミックボールとしたため、セラミックボール及び循環部材の早期損傷を防止することが可能となる。
(2)循環部材を樹脂材料によって形成したため、セラミックボールが循環部材に衝突した際に、セラミックボールによって循環部材に加わる衝撃力の面圧を減少させることが可能となり、セラミックボール及び循環部材の早期損傷を防止することが可能となる。
【0013】
(3)循環部材が負荷転動路内を移動するセラミックボールをすくい上げる、又は負荷転動路内へセラミックボールを戻す方向を、負荷転動路内におけるセラミックボールの転動軌跡の循環部材における接線方向と一致又は略一致させることにより、セラミックボールが循環部材、ナット及びねじ軸に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール、循環部材、ナット及びねじ軸の早期損傷を防止することが可能となる。
(4)隣り合うセラミックボールの間に、樹脂材料によって形成したスペーサを介装することにより、隣り合うセラミックボール同士の衝突を防止することが可能となり、セラミックボールの早期損傷を防止することが可能となる。
【0014】
(5)ナット及び循環部材のうち少なくとも一方に、ナット側転動溝の略半円形のナット側ボール転動部と循環部材とを滑らかに連続する第一面取り部を設けたことにより、セラミックボールが循環部材及びナットに衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール、循環部材及びナットの早期損傷を防止することが可能となる。
(6)ねじ軸に、ねじ軸側転動溝の略半円形のねじ軸側ボール転動部とねじ軸の外周面とを滑らかに連続する第二面取り部を設けたことにより、セラミックボールがねじ軸に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール及びねじ軸の早期損傷を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボールねじの長寿命化が可能となり、ボールねじの耐久性を向上させることが可能となるため、ボールねじを高速回転用途に好適なものとすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の第一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、図1から図5を参照して本実施形態の構成を説明する。
図1は本実施形態の一例であるボールねじの一部を破断した概略図、図2は図1の左側面図(ナットの端面側から見た図)、図3は循環部材を示す図で、(b)は正面図、(a)は(b)の左側面図、(c)は(b)の右側面図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態のボールねじ1は、ねじ軸2と、ナット4とを備えている。
ねじ軸2は、螺旋状のねじ軸側転動溝6を外周面に有しており、モータ等の回転動力源(図示せず)に連結されている。
ナット4は、ねじ軸2の外周側に配置され、ねじ軸側転動溝6と対向するナット側転動溝8を内周面に有している。ねじ軸側転動溝6とナット側転動溝8との間に形成される負荷転動路10内には、セラミックによって形成された複数のセラミックボール12が、転動自在に装填されている。本実施形態では、セラミックボール12を形成するセラミックとして、窒化珪素を用いる。隣り合うセラミックボール12の間には、樹脂材料によって形成されたスペーサとして、セラミックボール12よりも小径に形成されたスペーサボール(図示せず)が介装されている。本実施形態では、スペーサボールを形成する樹脂材料として、ポリアセタールを用いる。
【0018】
そして、ねじ軸2(又はナット4)を回転させることにより、ナット4(又はねじ軸2)がセラミックボール12の転動を介して、ねじ軸2の軸方向に沿って直線移動するようになっている。
ナット4の壁部には、軸方向に貫通するボール戻し路14が穿設されており、ナット4の端面には、図3に示す循環部材16が嵌合される切欠き18が、ボール戻し路14及び負荷転動路10に連通して形成されている。
【0019】
切欠き18とボール戻し路14との接合部には、切欠き18とボール戻し路14とを滑らかに連続する循環路面取り部(図示せず)が、手加工によって設けられている。循環路面取り部は、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ボール戻し路14と循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成されている。なお、本実施形態の循環路面取り部は、手加工によって設けられているが、これに限定されるものではなく、循環路面取り部を、例えば、砥粒流動加工によって設けてもよい。
【0020】
図3に示すように、循環部材16は、負荷転動路10内を移動するセラミックボール12をすくい上げる、又は負荷転動路10内へセラミックボール12を戻すタング部20と、ボール戻し路14と負荷転動路10との間を連通する湾曲状のボール循環溝22とを備えている。すなわち、循環部材16が負荷転動路10内からすくい上げたセラミックボール12、又は負荷転動路10内へ戻すセラミックボール12は、ボール戻し路14内を通過する。そして、負荷転動路10、循環部材16及びボール戻し路14によって、セラミックボール12の無限循環通路が形成されている。
【0021】
タング部20が負荷転動路10内を移動するセラミックボール12をすくい上げる方向と、タング部20が負荷転動路10内へセラミックボール12を戻す方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡のタング部20における接線方向と、一致又は略一致となっている。
また、循環部材16は、樹脂材料によって形成されている。本実施形態では、循環部材16を形成する樹脂材料として、ポリアセタールを用いる。なお、本実施形態では、循環部材16のナット4の端面側(図3(b)の右側)に、ナット4の周方向に延びる帯状の固定片24を設けると共に、図2に示すように、ナット4の端面に固定片24に対応する凹部26を設けている。そして、循環部材16を切欠き18に嵌合させると共に、循環部材16に設けた固定片24を凹部26に嵌合させることにより、循環部材16がナット4の端部に嵌合固定される。
【0022】
なお、固定片24を凹部26に嵌合して固定する方法としては、単純な嵌合もあるが、これに限定されるものではなく、例えば、圧入、接着或いは圧入と接着の両方を採用することも可能である。また、循環部材16に固定片24を設けず、且つナット4の端面に凹部26を設けずに、接着等によって、循環部材16を切欠き18に嵌合させてもよい。
また、例えば、特開2005−240878号公報に記載されているように、循環部材16を切欠き18に嵌合させた後に、切欠き18に嵌合した循環部材16の露出部分上に固定部材(図示せず)を配置して、循環部材16を固定部材とナット4とで挟持して、循環部材16をナット4に固定してもよい。この場合、切り欠き18の内面のうち側面に、固定部材の外縁部を挿入可能な溝部(図示せず)を形成し、この溝部に固定部材の外縁部が差し込むことにより、固定部材をナット4に固定するとともに、循環部材16をナット4に固定する。
【0023】
図4は、ナット側転動溝8と切欠き18との境界付近の拡大図である。
図4に示すように、ナット4には、ナット側転動溝8の略半円形のナット側ボール転動部8aと切欠き18とを滑らかに連続する第一面取り部28が、手加工によって設けられている。第一面取り部28は、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aと循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成されている。なお、本実施形態の第一面取り部28は、手加工によって設けられているが、これに限定されるものではなく、第一面取り部28を、例えば、砥粒流動加工によって設けてもよい。
図5は、ねじ軸2の一部を拡大した断面図である。
図5に示すように、ねじ軸2には、ねじ軸側転動溝6の略半円形のねじ軸側ボール転動部6aとねじ軸2の外周面2aとを滑らかに連続する第二面取り部30が、ねじ軸側ボール転動部6aと同時加工によって設けられている。
【0024】
次に、上記の構成を備えたボールねじの作用・効果等を説明する。
ボールねじ1を作動させる、すなわち、回転動力源を駆動させてねじ軸2を回転させると、ねじ軸2の回転に伴って、ナット4がねじ軸2の軸方向に沿って移動する。このとき、負荷転動路10内に装填されているセラミックボール12は、負荷転動路10内を転動しながら移動し、一方の循環部材16に備えられたタング部20によってすくい上げられ、ボール戻し路14の一方の端部からボール戻し路14内に入る。ボール戻し路14内に入ったセラミックボール12は、ボール戻し路14内を通過して、ボール戻し路14の他方の端部へ移動し、他方の循環部材16に備えられたタング部20から負荷転動路10内へ戻る循環を繰り返す。
【0025】
このとき、隣り合うセラミックボール12の間には、樹脂材料によって形成したスペーサボールが介装されているため、隣り合うセラミックボール12同士の衝突を防止することが可能となる。その結果、セラミックボール12の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
また、負荷転動路10内からボール戻し路14内へ入るセラミックボール12は、タング部20によってすくい上げられ、循環部材16に衝突して、ボール戻し路14内に入る。このとき、本実施形態のボールねじ1は、転動体としてセラミックボール12を用いているため、転動体として鋼球を用いたボールねじと比較して、循環部材16及びナット4にセラミックボール12が衝突して生じる応力や、循環部材16の湾曲部においてセラミックボール12の転動方向を変化させる際に、セラミックボール12に発生する遠心力によって循環部材16に生じる早期損傷を防止することが可能となる。その結果、セラミックボール12、循環部材16及びナット4の長寿命化が可能となり、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0026】
さらに、循環部材16は、樹脂材料によって形成されているため、負荷転動路10内からタング部20によってすくい上げられたセラミックボール12が、循環部材16に衝突した際に、セラミックボール12によって循環部材16に加わる衝撃力の面圧を減少させることが可能となる。その結果、循環部材16の早期損傷を防止することが可能となるため、セラミックボール12及び循環部材16の長寿命化が可能となり、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0027】
また、ナット4には、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aと循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成された第一面取り部28が設けられている。このため、セラミックボール12が循環部材16及びナット4に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となり、セラミックボール12、循環部材16及びナット4の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0028】
また、タング部20が負荷転動路10内からセラミックボール12をすくい上げる方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の、タング部20における接線方向と一致又は略一致となっている。このため、負荷転動路10内からタング部20によってすくい上げられたセラミックボール12が、循環部材16及びナット4に衝突しても、セラミックボール12が循環部材16及びナット4に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール12、循環部材16及びナット4の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0029】
また、切欠き18とボール戻し路14との接合部には、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ボール戻し路14と循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成された循環路面取り部が設けられている。このため、セラミックボール12が循環部材16から及びボール戻し路14へ移動する際に、セラミックボール12がナット4へ与える発生する衝撃力を減少させることが可能となり、セラミックボール12及びナット4の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0030】
また、タング部20が負荷転動路10内へセラミックボール12を戻す方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の、タング部20における接線方向と一致又は略一致となっている。このため、タング部20から負荷転動路10内へ戻るセラミックボール12が、ねじ軸2に衝突しても、セラミックボール12がねじ軸2に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール12及びねじ軸2の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0031】
また、ねじ軸2には、ねじ軸側転動溝6の略半円形のねじ軸側ボール転動部6aとねじ軸2の外周面2aとを滑らかに連続する第二面取り部30が設けられている。このため、負荷転動路10内へ戻るセラミックボール12が、ねじ軸2に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となり、セラミックボール12及びねじ軸2の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0032】
したがって、本実施形態のボールねじ1であれば、ボールねじ1の作動時に、セラミックボール12、ねじ軸2、ナット4及び循環部材16の早期損傷が発生することを防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
また、本実施形態のボールねじ1であれば、ボールねじ1の作動時に、セラミックボール12、ねじ軸2、ナット4及び循環部材16の早期損傷を防止することが可能となり、セラミックボール12、ねじ軸2、ナット4及び循環部材16の耐久性を向上させることが可能となる。その結果、ボールねじ1を、高速回転用途に好適なものとすることが可能となる。
【0033】
なお、本実施形態のボールねじ1では、セラミックボール12を形成するセラミックとして、窒化珪素を用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、セラミックボール12を形成するセラミックとして、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナ等を用いてもよい。
また、本実施形態のボールねじ1では、循環部材16を形成する樹脂材料として、ポリアセタールを用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、循環部材16を形成する樹脂材料として、例えば、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等を用いてもよい。
【0034】
さらに、本実施形態のボールねじ1では、スペーサボールを形成する樹脂材料として、ポリアセタールを用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、スペーサボールを形成する樹脂材料として、循環部材16と同様に、例えば、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等を用いてもよい。
【0035】
また、本実施形態のボールねじ1では、隣り合うセラミックボール12の間に介装するスペーサとして、セラミックボール12よりも小径に形成されたスペーサボールを用いたが、隣り合うセラミックボール12の間に介装するスペーサは、これに限定されるものではない。すなわち、スペーサボールの代わりに、図6に示すような保持ピース32を、隣り合うセラミックボール12の間に介装してもよい。この保持ピース32は、スペーサボールと同様に樹脂材料によって形成されており、円板状に形成されている。保持ピース32の外径は、セラミックボール12の外径よりも小さい。また、保持ピース32のセラミックボール12と対向する両平面部には、セラミックボール12と摺動可能に接触するボール保持部34a,34bが、それぞれ設けられており、保持ピース32には、ボール保持部34a,34bを連通する空隙部36が設けられている。なお、図6は、保持ピース32をセラミックボール12の転動方向に沿って切断した断面図である。このように、保持ピース32を、スペーサボールの代わりに隣り合うセラミックボール12の間に介装したボールねじ1では、空隙部36を潤滑剤溜まりとすることが可能となるため、ボールねじ1の作動性を向上させることが可能となる。
【0036】
また、本実施形態のボールねじ1では、ナット4に、ナット側ボール転動部8aと切欠き18とを滑らかに連続する第一面取り部28を設け、この第一面取り部28を、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aと循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成したが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、第一面取り部28を、ナット4及び切欠き18に設けてもよく、切欠き18のみに設けてもよい。また、第一面取り部28を、循環部材16に設けてもよい。要は、第一面取り部28の形状が、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aと循環部材16とを滑らかに連続する形状であればよい。
【0037】
また、本実施形態のボールねじ1では、切欠き18とボール戻し路14との接合部に、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ボール戻し路14と循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成された循環路面取り部を設けたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、循環路面取り部を、切欠き18のみに設けてもよく、ボール戻し路14のみに設けてもよい。要は、循環路面取り部の形状が、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ボール戻し路14と循環部材16とを滑らかに連続する形状であればよい。
【0038】
また、本実施形態のボールねじ1では、切欠き18とボール戻し路14との接合部に、切欠き18に循環部材16が嵌合された状態で、ボール戻し路14と循環部材16とを滑らかに連続する形状に形成された循環路面取り部を設けたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、ボール循環溝22のボール戻し路14側の端部と、ボール戻し路14のボール循環溝22の端部が合致しており、ボール循環溝22のボール戻し路14との間に段差が形成されない場合等は、循環路面取り部を設けない構成としてもよい。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、図7から図9を参照して、本実施形態の構成について説明する。なお、上述した第一実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明する。
図7は本実施形態の一例であるボールねじの一部を破断した概略図、図8は図7の左側面図(ナットの端面側から見た図)、図9はサイドキャップを示す図である。
【0040】
図7及び図8に示すように、本実施形態のボールねじ1は、ナット4の構成を除き、上述した第一実施形態のボールねじ1と同様の構成となっている。
本実施形態のボールねじ1が備えるナット4には、サイドキャップ38が嵌合するキャップ嵌合部40が設けられており、このキャップ嵌合部40に、樹脂材料によって成形されたサイドキャップ38が嵌合している。サイドキャップ38を形成する樹脂材料としては、上述した第一実施形態の循環部材と同様に、ポリアセタールを用いる。
【0041】
図9に示すように、サイドキャップ38は、軸方向に沿った数箇所を湾曲して形成されており、全体として略U字状をなすボール転動路42を有している。また、サイドキャップ38は、ボール転動路42の端部に設けられ、負荷転動路10内からセラミックボール12をすくい上げる、又は負荷転動路10内へセラミックボール12を戻すタング部20と、タング部20が負荷転動路10内からすくい上げた、又は負荷転動路10内へ戻すセラミックボール12が通過するボール戻し路14とを備えている。すなわち、サイドキャップ38は、上述した第一実施形態における循環部材及びボール戻し路と同様の構成を有している。
【0042】
サイドキャップ38のうち、タング部20のナット側転動溝8と対向する部分には、キャップ嵌合部40にサイドキャップ38が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aとサイドキャップ38とを滑らかに連続する第一面取り部28が設けられている。
タング部20が負荷転動路10内からセラミックボール12をすくい上げる方向と、タング部20が負荷転動路10内へセラミックボール12を戻す方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の、タング部20における接線方向と一致又は略一致となっている。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
【0043】
次に、上記の構成を備えたボールねじの作用・効果等を説明する。
ボールねじ1を作動させる、すなわち、回転動力源を駆動させてねじ軸2を回転させると、ねじ軸2の回転に伴って、ナット4がねじ軸2の軸方向に沿って移動する。このとき、負荷転動路10内に装填されているセラミックボール12は、負荷転動路10内を転動しながら移動し、ボール転動路42の一方の端部に設けられたタング部20によってすくい上げられ、ボール戻し路14の一方の端部からボール戻し路14内に入る。ボール戻し路14内に入ったセラミックボール12は、ボール戻し路14内を通過して、ボール戻し路14の他方の端部へ移動し、ボール転動路42の他方の端部に設けられたタング部20から負荷転動路10内へ戻る循環を繰り返す。
【0044】
このとき、サイドキャップ38は、樹脂材料によって形成されているため、負荷転動路10内からボール戻し路14内へ入るセラミックボール12が、サイドキャップ38に衝突した際に、セラミックボール12によってサイドキャップ38に加わる衝撃力の面圧を減少させることが可能となる。その結果、サイドキャップ38の早期損傷を防止することが可能となるため、セラミックボール12及びサイドキャップ38の長寿命化が可能となり、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0045】
また、サイドキャップ38のうち、タング部20のナット側転動溝8と対向する部分には、キャップ嵌合部40にサイドキャップ38が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aとサイドキャップ38とを滑らかに連続する第一面取り部28が設けられている。このため、セラミックボール12がサイドキャップ38に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となり、セラミックボール12及びサイドキャップ38の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0046】
さらに、タング部20がセラミックボール12をすくい上げる方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の、タング部20における接線方向と一致又は略一致となっている。このため、負荷転動路10内からタング部20によってすくい上げられたセラミックボール12が、サイドキャップ38に衝突しても、セラミックボール12がサイドキャップ38に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール12及びサイドキャップ38の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0047】
また、タング部20が負荷転動路10内へセラミックボール12を戻す方向は、負荷転動路10内におけるセラミックボール12の転動軌跡の、タング部20における接線方向と一致又は略一致となっている。このため、タング部20から負荷転動路10内へ戻るセラミックボール12が、ねじ軸2に衝突しても、セラミックボール12がねじ軸2に衝突した際に発生する衝撃力を減少させることが可能となる。その結果、セラミックボール12及びねじ軸2の早期損傷を防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
【0048】
したがって、本実施形態のボールねじ1であれば、ボールねじ1の作動時に、セラミックボール12、ねじ軸2及びサイドキャップ38の早期損傷が発生することを防止することが可能となるため、ボールねじ1の長寿命化が可能となる。
また、本実施形態のボールねじ1であれば、ボールねじ1の作動時に、セラミックボール12、ねじ軸2及びサイドキャップ38の早期損傷を防止することが可能となり、セラミックボール12、ねじ軸2及びサイドキャップ38の耐久性を向上させることが可能となる。その結果、ボールねじ1を、高速回転用途に好適なものとすることが可能となる。
【0049】
その他の作用・効果は、上述した第一実施形態と同様である。
なお、本実施形態のボールねじ1では、サイドキャップ38のうち、タング部20のナット側転動溝8と対向する部分に、キャップ嵌合部40にサイドキャップ38が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aとサイドキャップ38とを滑らかに連続する第一面取り部28を設けたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、第一面取り部28を、サイドキャップ38及びナット4に設けてもよく、ナット4のみに設けてもよい。要は、第一面取り部28の形状が、キャップ嵌合部40にサイドキャップ38が嵌合された状態で、ナット側ボール転動部8aとサイドキャップ38とを滑らかに連続する形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第一実施形態のボールねじの一部を破断した概略図である。
【図2】図1の左側面図である。
【図3】循環部材を示す図であり、(b)は正面図、(a)は(b)の左側面図、(c)は(b)の右側面図である。
【図4】ナット側転動溝と切欠きとの境界付近の拡大図である。
【図5】ねじ軸の一部を拡大した断面図である。
【図6】保持ピースをセラミックボールの転動方向に沿って切断した断面図である。
【図7】本発明の第二実施形態のボールねじの一部を破断した概略図である。
【図8】図7の左側面図である。
【図9】サイドキャップを示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ボールねじ
2 ねじ軸
4 ナット
6 ねじ軸側転動溝
8 ナット側転動溝
10 負荷転動路
12 セラミックボール
14 ボール戻し路
16 循環部材
18 切欠き
20 タング部
22 ボール循環溝
24 固定片
26 凹部
28 第一面取り部
30 第二面取り部
32 保持ピース
34 ボール保持部
36 空隙部
38 サイドキャップ
40 キャップ嵌合部
42 ボール転動路
44 スペーサボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のねじ軸側転動溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸の外周側に配置されるとともに前記ねじ軸側転動溝に対向するナット側転動溝を内周面に有するナットと、前記両転動溝間に形成される負荷転動路内に転動自在に装填される複数のボールと、を備え、
前記ナットに、前記負荷転動路内を移動する前記ボールをすくい上げる又は負荷転動路内へボールを戻す循環部材と、前記循環部材が前記負荷転動路内からすくい上げた前記ボール又は負荷転動路内へ戻すボールが通過するボール戻し路と、を備えるボールねじにおいて、
前記ボールを、セラミックによって形成したセラミックボールとし、
前記循環部材を、樹脂材料によって形成し、
前記循環部材が前記負荷転動路内を移動する前記セラミックボールをすくい上げる又は負荷転動路内へセラミックボールを戻す方向を、前記負荷転動路内における前記セラミックボールの転動軌跡の前記循環部材における接線方向と一致又は略一致させ、
隣り合う前記セラミックボールの間に、樹脂材料によって形成したスペーサを介装し、
前記ナット及び循環部材のうち少なくとも一方に、前記ナット側転動溝の略半円形のナット側ボール転動部と前記循環部材とを滑らかに連続する第一面取り部を設け、
前記ねじ軸に、前記ねじ軸側転動溝の略半円形のねじ軸側ボール転動部と前記ねじ軸の外周面とを滑らかに連続する第二面取り部を設けたことを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−177951(P2007−177951A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379064(P2005−379064)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】