ボールねじ
【課題】ナットの外形寸法を大きくすることなく、ナットの軸方向端部の外周面や端面に加工を施すことが可能なボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1は、ねじ軸3と、ナット5と、ねじ溝3a,5aにより形成されるボール転動路7に転動自在に装填された複数のボール9と、ナット5内部に形成されており且つボール9をボール転動路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部に案内するエンドデフレクタ12Aと、ボール9をボール循環路11の他端部からボール転動路7の始点に案内するエンドデフレクタ12Bと、を備えている。エンドデフレクタ12Aは、ナット5の軸方向一端部の端面に設けられた凹部14に嵌め込まれており、エンドデフレクタ12Bは、ナット5の軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に嵌め込まれている。
【解決手段】ボールねじ1は、ねじ軸3と、ナット5と、ねじ溝3a,5aにより形成されるボール転動路7に転動自在に装填された複数のボール9と、ナット5内部に形成されており且つボール9をボール転動路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部に案内するエンドデフレクタ12Aと、ボール9をボール循環路11の他端部からボール転動路7の始点に案内するエンドデフレクタ12Bと、を備えている。エンドデフレクタ12Aは、ナット5の軸方向一端部の端面に設けられた凹部14に嵌め込まれており、エンドデフレクタ12Bは、ナット5の軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に嵌め込まれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじにおいては、ねじ軸のねじ溝とナットのねじ溝との間の空間により形成されるボール転動路内を転動するボールを、ボール循環路でボール転動路の終点から始点へ戻して循環させることにより、ねじ軸とナットとの相対直線移動を円滑に行っている。ボール循環路によるボールの循環方式としては、チューブ式,こま式,エンドデフレクタ式,エンドキャップ式等がある。
【0003】
ねじ軸とナットとの相対直線移動が高速で行われるタイプのボールねじにおいては、一般的に大リードに有利なエンドデフレクタ式,エンドキャップ式のボール循環方式が採用される場合が多い。そして、これらのボール循環方式では、ナットの軸方向両端部に案内部材が設けられ、一方の案内部材でボールをボール転動路の終点からボール転動路の接線方向に掬い上げて、ナットの内部に形成されたボール循環路の一端部に案内し、他方の案内部材でボールをボール循環路の他端部からボール転動路の始点に案内するようになっている。
【0004】
一方、ナットを回転させて、ねじ軸を軸方向に直線移動させる形式でボールねじを使用する場合は、小スペース化を目的として、転がり軸受をナットの外周面に直接装着したり、タイミングベルト駆動用のプーリーをナットの軸方向端部の端面に直接取り付けるケースがある。
また、ボールねじのナットをシリンダとして使用するような用途では、摺動面を確保するために、ナットの軸方向長さを長くしてナットをシリンダ形状とする場合がある。その場合には、内周面にねじ溝が形成されているねじ部の長さはそのままにして、内周面にねじ溝が形成されていない非ねじ部の長さを長くしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−141465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のようなナットの軸方向両端部に案内部材が設けられたボールねじは、図11に示すように、ナットの軸方向端部の肉厚Wが薄いため、転がり軸受を直接装着するための三角ねじをナットの外周面に設けたり、プーリーを直接取り付けるためのタップ穴をナットの軸方向端部の端面に設けたりすると、ナットの端部の強度が不十分となるおそれがあった。ナットの外形寸法を大きくしてナットの軸方向端部の肉厚Wを厚くすれば、強度を確保できるため、三角ねじやタップ穴を設けることが可能となるが、小スペース化の目的が達成できないおそれがあった。
【0007】
また、ボールねじのナットをシリンダとして使用するような場合には、延長された部分の内周面にはねじ溝は形成されておらず、したがってボール転動路の始点又は終点がナットの軸方向端部には配置されないので、案内部材はナットの軸方向両端部ではなく、軸方向一端部と軸方向中央部近傍とに設けられることとなる。すなわち、案内部材がナットの軸方向両端部に設けられたボールねじにおいては、ナットの非ねじ部の軸方向長さを延長することはできない。
【0008】
案内部材を軸方向中央部近傍に設けることは可能であるが(ミドルデフレクタ式)、ナットの外形寸法が大きくなってしまうため、シリンダのコンパクト化が達成されない場合があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ナットの外形寸法を大きくすることなく、ナットの軸方向端部の外周面や端面に加工を施すことが可能なボールねじを提供することを課題とする。また、ナットの非ねじ部の軸方向長さが長いボールねじを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、前記両案内部材のうち一方を、前記ナットの軸方向一端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ナットの軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、前記ナットは、内周面に前記ねじ溝を有するねじ部と、内周面に前記ねじ溝を有していない非ねじ部と、からなり、前記非ねじ部は前記ねじ部の軸方向一端部から延長されており、前記両案内部材のうち一方を、前記ねじ部の軸方向他端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ねじ部の軸方向一端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とする。
【0011】
これらの本発明のボールねじにおいては、前記両案内部材の少なくとも一方に係合凸部を設けるとともに、前記係合凸部が係合可能な形状の係合凹部を前記ナットの前記凹部及び前記貫通孔の少なくとも一方の内面に設け、前記係合凸部と前記係合凹部の係合により前記案内部材を前記ナットに固定することが好ましい。
また、前記両案内部材の少なくとも一方を前記ナットに接着剤により固定してもよい。さらに、前記ナットの軸方向端部をリング状部材に挿通し、前記貫通孔に嵌め込んだ前記案内部材を径方向外方側から前記リング状部材で押さえて固定してもよい。
さらに、前記両案内部材の少なくとも一方を、射出成形で成形した樹脂製部材としてもよいし、金属粉又はセラミック粉を加圧成形で成形した部材としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のボールねじは、ナットの外形寸法を大きくすることなく、ナットの軸方向端部の外周面や端面に加工を施すことが可能である。また、本発明のボールねじは、ナットの非ねじ部の軸方向長さが長く、ナットをシリンダとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るボールねじの一実施形態の構造を説明する断面図である。
【図2】ナットの軸方向端部の端面に設けられた凹部に嵌め込まれたエンドデフレクタを説明する図である。
【図3】エンドデフレクタの斜視図である。
【図4】ナットの軸方向端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込まれたエンドデフレクタを説明する図である。
【図5】転がり軸受が装着されたボールねじの一部断面図である。
【図6】係合凸部及び弾性部を有するエンドデフレクタの斜視図である。
【図7】係合凹部が設けられた貫通孔を有するナットの部分斜視図である。
【図8】図6のエンドデフレクタとは別タイプの弾性部を有するエンドデフレクタの斜視図である。
【図9】非ねじ部がねじ部の軸方向一端部から延長された構造のナットの一部断面図である。
【図10】円筒状部材の斜視図である。
【図11】従来のボールねじの構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であるボールねじの断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転動路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ナット5の内部に形成されており且つボール9をボール転動路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
【0015】
すなわち、ボール9は、ボール転動路7内を移動しつつねじ軸3の回りを複数回回ってボール転動路7の終点に至り、そこでボール転動路7から掬い上げられてボール循環路11の一方の端部(図1においては右側の端部)に入る。ボール循環路11に入ったボール9はボール循環路11内を通ってボール循環路11の他方の端部(図1においては左側の端部)に達し、そこからボール転動路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の素材は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能であり、例えば鋼等の金属やセラミックがあげられる。また、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。
【0016】
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転動路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転動路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
【0017】
ここで、本実施形態のボールねじ1におけるボール9の循環方式について、図1〜7を参照しながら詳細に説明する。本実施形態においては、ボール9の循環方式として、ナット5に設けた孔をボール循環路11とするデフレクタ方式を採用している。すなわち、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部(図1においては右側の端部)に案内するデフレクタと呼ばれるボール案内部材12A(本発明の構成要件である第一案内部材に相当する)と、ボール9をボール循環路11の他端部(図1においては左側の端部)からボール転動路7の始点に案内するデフレクタと呼ばれるボール案内部材12B(本発明の構成要件である第二案内部材に相当する)とが、ナット5の軸方向両端部に設けられている。なお、これ以降は、これらデフレクタをエンドデフレクタと称する。
【0018】
ナット5には、略軸方向に延びる孔からなるボール循環路11が形成されており、このボール循環路11の両端は、ボール転動路7の始点及び終点の近傍にそれぞれ配されている。ボール転動路7の終点においては、ボール転動路7からボール循環路11へボール9が移動し、ボール転動路7の始点においては、ボール循環路11からボール転動路7へボール9が移動するが、このボール9の移動を円滑に行うために、ボール転動路7の終点及び始点には、ボール9の移動を案内するエンドデフレクタ12A,12Bがそれぞれ配されている。
【0019】
2つのエンドデフレクタ12A,12Bのうち、図1における右側の軸方向端部に配されているエンドデフレクタ12Aは、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部に案内するが、ナット5の軸方向一端部(図1においては右側の端部)の端面に設けられた凹部14に嵌め込まれている(図2を参照)。一方、図1における左側の軸方向端部に配されているエンドデフレクタ12Bは、ボール9をボール循環路11の他端部からボール転動路7の始点に案内するが、ナット5の軸方向他端部(図1においては左側の端部)の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に嵌め込まれている(図3,4を参照)。
【0020】
両エンドデフレクタ12A,12Bは、ナット5の凹部14や貫通孔15の開口部に嵌合する嵌合部17と、この嵌合部17から突出する舌部18とを備えており、エンドデフレクタ12A,12Bがナット5に取り付けられた際には、舌部18はねじ軸3のねじ溝3aに沿うように配される。よって、ボール転動路7の終点に転動してきたボール9は、エンドデフレクタ12Aの舌部18によってボール転動路7から掬い上げられ、舌部18に沿ってボール循環路11の端部に案内される。掬い上げられたボール9は、ボール循環路11の中を通ってボール循環路11の他端部に至り、エンドデフレクタ12Bの舌部18によって案内されてボール転動路7の始点に戻される。
【0021】
なお、ボールねじ1を上記とは逆回転させた場合には、両エンドデフレクタ12A,12Bの機能も逆になる。すなわち、逆回転させた場合には、エンドデフレクタ12Aが、ボール9をボール循環路11の端部からボール転動路7の始点に案内する機能を有し、エンドデフレクタ12Bが、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の端部に案内する機能を有することとなる。
【0022】
このようなボールねじ1は、軸方向両端部のエンドデフレクタ12A,12Bのうち一方が、ナット5の軸方向端部の端面に設けられた凹部に嵌め込まれるタイプではなく、ナット5の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に径方向外方側から嵌め込まれるタイプであるため、このエンドデフレクタ12Bが取り付けられたナット5の軸方向端部については、ナット5の外形寸法を大きくすることなく、大きな肉厚が確保されている。
【0023】
よって、ナット5を回転させて、ねじ軸3を軸方向に直線移動させる形式でボールねじ1を使用する場合は、小スペース化を目的として、ナット5の外周面に転がり軸受を直接装着したり、タイミングベルト駆動用のプーリーをナット5の軸方向端部(図1においては左側の端部)の端面に直接取り付けるケースがあるが、ナット5の軸方向端部の肉厚Wが厚いため、転がり軸受を直接装着するための三角ねじをナット5の外周面に設けたり、プーリーを直接取り付けるためのタップ穴をナット5の軸方向端部の端面に設けたりすることが可能である(図5を参照)。そして、ナット5の外形寸法を大きくする必要がないので、小スペース化が可能であるとともに、転がり軸受やプーリーが装着されたボールねじ1の慣性を低減することができる。
【0024】
エンドデフレクタ12A,12Bは、ナット5に対して強固に固定されていることが好ましい。固定方法は特に限定されるものではないが、例えば接着剤による固着があげられる。接着剤の種類は特に限定されるものではなく、汎用の接着剤を問題なく使用することができるが、例えばエポキシ樹脂系の接着剤があげられる。
【0025】
また、リング状部材や円筒状部材(図10を参照)を用いて固定してもよい。ナット5の軸方向端部をリング状部材又は円筒状部材に挿通し、貫通孔15に嵌め込んだエンドデフレクタ12Bを径方向外方側からリング状部材又は円筒状部材で押さえれば、エンドデフレクタ12Bをナット5に対して強固に固定することができる。リング状部材や円筒状部材は、ナット5の外周面に隙間無く嵌合する内径を備えた部材であることが好ましいが、すり割りを有する断面形状略C字状の部材を用いてもよい。リング状部材,円筒状部材,断面形状略C字状の部材の材質は特に限定されるものではなく、樹脂,金属,セラミックス等があげられる
【0026】
さらに、エンドデフレクタ12A,12Bに係合凸部20を設けるとともに、係合凸部20が係合可能な形状の係合凹部をナット5(凹部14又は貫通孔15の内面)に設けることにより、エンドデフレクタ12A,12Bとナット5の固定を行ってもよい。例えば、図6に示すように、エンドデフレクタ12Bの嵌合部17から係合凸部20を突出させるとともに、図7に示すように、ナット5の貫通孔15の内面に、係合凸部20が係合可能な形状の係合凹部21を設けて、エンドデフレクタ12Bを貫通孔15に嵌め込んだ際には係合凸部20と係合凹部21が係合するようにすれば、前記係合によりセルフロック機構が形成されるため、エンドデフレクタ12Bをナット5に対して強固に固定することができる。
【0027】
エンドデフレクタ12A,12Bを凹部14又は貫通孔15に挿入する際には、係合凸部20が凹部14又は貫通孔15の内面に干渉して、円滑な挿入ができないおそれがあるので、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17のうち係合凸部20が設けられている部分には、係合凸部20の突出方向に沿って弾性変形可能な弾性部を設けることが好ましい。すなわち、係合凸部20が弾性部を介して嵌合部17に設けられていれば、係合凸部20が凹部14又は貫通孔15の内面に干渉した場合には、弾性部の弾性変形により係合凸部20が嵌合部17側に移動するため、前記干渉が緩和されて、エンドデフレクタ12A,12Bの円滑な挿入が可能となる。
【0028】
弾性部の構成は特に限定されるものではないが、図6,8に示すような肉抜き構造が好ましい。図6の(a)は、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17の近傍部分を拡大して示した斜視図であり、(b)は、エンドデフレクタ12A,12Bの全体の斜視図である。図6の肉抜き構造は、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17とが2つの連結部で連結されて、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17との間に筒状の空洞23が形成されている構造である。この空洞23に向かって係合凸部20が移動可能となっているので、前記干渉が緩和される。
【0029】
また、図8の(a)は、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17の近傍部分を拡大して示した斜視図であり、(b)は、エンドデフレクタ12A,12Bの全体の斜視図である。図8の肉抜き構造は、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17とが1つの線状の連結部で連結されて、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17との間に断面略コ字状の空洞23が形成されている構造である。図6に示す肉抜き構造の場合と同様に、この空洞23に向かって係合凸部20が移動可能となっているので、前記干渉が緩和される。
【0030】
エンドデフレクタ12A,12Bの材質は特に限定されるものではなく、樹脂(樹脂に補強材や添加剤を混合した樹脂組成物でもよい),金属,セラミックス等があげられる。また、エンドデフレクタ12A,12Bの製造方法も特に限定されるものではなく、樹脂材料であれば射出成形法があげられ、金属材料やセラミックス材料であれば切削加工等の慣用の加工方法があげられる。また、樹脂粉,金属粉,セラミック粉が材料であれば、加圧成形を採用することもできる。
【0031】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、ボールねじ1は、図9に示すような構造のナットを備えていてもよい。すなわち、内周面にねじ溝を有するねじ部と、内周面にねじ溝を有していない非ねじ部とからなり、前記非ねじ部が前記ねじ部の軸方向一端部(図9における左側の端部)から延長された構造のナットを備えていてもよい。
【0032】
このようなナットを備えるボールねじの場合には、図9には図示されない一方のエンドデフレクタを、ねじ部の軸方向他端部(図9における右側の端部)の端面に設けられた凹部に嵌め込み、図9に図示されている他方のエンドデフレクタを、ねじ部の軸方向一端部(図9においては、ねじ部の左側の端部であり、ナットの軸方向略中央部である)の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込むとよい。
このような構造のナットを備えるボールねじは、ねじ部の軸方向長さが従来のボールねじと同等で、非ねじ部の軸方向長さが長いので、ナットをシリンダとして使用することができる。すなわち、ナットの非ねじ部の外周面を、シリンダの摺動面として使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転動路
9 ボール
11 ボール循環路
12A,12B エンドデフレクタ(ボール案内部材)
14 凹部
15 貫通孔
17 嵌合部
18 舌部
20 係合凸部
21 係合凹部
【技術分野】
【0001】
本発明はボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじにおいては、ねじ軸のねじ溝とナットのねじ溝との間の空間により形成されるボール転動路内を転動するボールを、ボール循環路でボール転動路の終点から始点へ戻して循環させることにより、ねじ軸とナットとの相対直線移動を円滑に行っている。ボール循環路によるボールの循環方式としては、チューブ式,こま式,エンドデフレクタ式,エンドキャップ式等がある。
【0003】
ねじ軸とナットとの相対直線移動が高速で行われるタイプのボールねじにおいては、一般的に大リードに有利なエンドデフレクタ式,エンドキャップ式のボール循環方式が採用される場合が多い。そして、これらのボール循環方式では、ナットの軸方向両端部に案内部材が設けられ、一方の案内部材でボールをボール転動路の終点からボール転動路の接線方向に掬い上げて、ナットの内部に形成されたボール循環路の一端部に案内し、他方の案内部材でボールをボール循環路の他端部からボール転動路の始点に案内するようになっている。
【0004】
一方、ナットを回転させて、ねじ軸を軸方向に直線移動させる形式でボールねじを使用する場合は、小スペース化を目的として、転がり軸受をナットの外周面に直接装着したり、タイミングベルト駆動用のプーリーをナットの軸方向端部の端面に直接取り付けるケースがある。
また、ボールねじのナットをシリンダとして使用するような用途では、摺動面を確保するために、ナットの軸方向長さを長くしてナットをシリンダ形状とする場合がある。その場合には、内周面にねじ溝が形成されているねじ部の長さはそのままにして、内周面にねじ溝が形成されていない非ねじ部の長さを長くしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−141465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のようなナットの軸方向両端部に案内部材が設けられたボールねじは、図11に示すように、ナットの軸方向端部の肉厚Wが薄いため、転がり軸受を直接装着するための三角ねじをナットの外周面に設けたり、プーリーを直接取り付けるためのタップ穴をナットの軸方向端部の端面に設けたりすると、ナットの端部の強度が不十分となるおそれがあった。ナットの外形寸法を大きくしてナットの軸方向端部の肉厚Wを厚くすれば、強度を確保できるため、三角ねじやタップ穴を設けることが可能となるが、小スペース化の目的が達成できないおそれがあった。
【0007】
また、ボールねじのナットをシリンダとして使用するような場合には、延長された部分の内周面にはねじ溝は形成されておらず、したがってボール転動路の始点又は終点がナットの軸方向端部には配置されないので、案内部材はナットの軸方向両端部ではなく、軸方向一端部と軸方向中央部近傍とに設けられることとなる。すなわち、案内部材がナットの軸方向両端部に設けられたボールねじにおいては、ナットの非ねじ部の軸方向長さを延長することはできない。
【0008】
案内部材を軸方向中央部近傍に設けることは可能であるが(ミドルデフレクタ式)、ナットの外形寸法が大きくなってしまうため、シリンダのコンパクト化が達成されない場合があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ナットの外形寸法を大きくすることなく、ナットの軸方向端部の外周面や端面に加工を施すことが可能なボールねじを提供することを課題とする。また、ナットの非ねじ部の軸方向長さが長いボールねじを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、前記両案内部材のうち一方を、前記ナットの軸方向一端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ナットの軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、前記ナットは、内周面に前記ねじ溝を有するねじ部と、内周面に前記ねじ溝を有していない非ねじ部と、からなり、前記非ねじ部は前記ねじ部の軸方向一端部から延長されており、前記両案内部材のうち一方を、前記ねじ部の軸方向他端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ねじ部の軸方向一端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とする。
【0011】
これらの本発明のボールねじにおいては、前記両案内部材の少なくとも一方に係合凸部を設けるとともに、前記係合凸部が係合可能な形状の係合凹部を前記ナットの前記凹部及び前記貫通孔の少なくとも一方の内面に設け、前記係合凸部と前記係合凹部の係合により前記案内部材を前記ナットに固定することが好ましい。
また、前記両案内部材の少なくとも一方を前記ナットに接着剤により固定してもよい。さらに、前記ナットの軸方向端部をリング状部材に挿通し、前記貫通孔に嵌め込んだ前記案内部材を径方向外方側から前記リング状部材で押さえて固定してもよい。
さらに、前記両案内部材の少なくとも一方を、射出成形で成形した樹脂製部材としてもよいし、金属粉又はセラミック粉を加圧成形で成形した部材としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のボールねじは、ナットの外形寸法を大きくすることなく、ナットの軸方向端部の外周面や端面に加工を施すことが可能である。また、本発明のボールねじは、ナットの非ねじ部の軸方向長さが長く、ナットをシリンダとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るボールねじの一実施形態の構造を説明する断面図である。
【図2】ナットの軸方向端部の端面に設けられた凹部に嵌め込まれたエンドデフレクタを説明する図である。
【図3】エンドデフレクタの斜視図である。
【図4】ナットの軸方向端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込まれたエンドデフレクタを説明する図である。
【図5】転がり軸受が装着されたボールねじの一部断面図である。
【図6】係合凸部及び弾性部を有するエンドデフレクタの斜視図である。
【図7】係合凹部が設けられた貫通孔を有するナットの部分斜視図である。
【図8】図6のエンドデフレクタとは別タイプの弾性部を有するエンドデフレクタの斜視図である。
【図9】非ねじ部がねじ部の軸方向一端部から延長された構造のナットの一部断面図である。
【図10】円筒状部材の斜視図である。
【図11】従来のボールねじの構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であるボールねじの断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図1に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転動路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ナット5の内部に形成されており且つボール9をボール転動路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
【0015】
すなわち、ボール9は、ボール転動路7内を移動しつつねじ軸3の回りを複数回回ってボール転動路7の終点に至り、そこでボール転動路7から掬い上げられてボール循環路11の一方の端部(図1においては右側の端部)に入る。ボール循環路11に入ったボール9はボール循環路11内を通ってボール循環路11の他方の端部(図1においては左側の端部)に達し、そこからボール転動路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の素材は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能であり、例えば鋼等の金属やセラミックがあげられる。また、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。
【0016】
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転動路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転動路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
【0017】
ここで、本実施形態のボールねじ1におけるボール9の循環方式について、図1〜7を参照しながら詳細に説明する。本実施形態においては、ボール9の循環方式として、ナット5に設けた孔をボール循環路11とするデフレクタ方式を採用している。すなわち、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部(図1においては右側の端部)に案内するデフレクタと呼ばれるボール案内部材12A(本発明の構成要件である第一案内部材に相当する)と、ボール9をボール循環路11の他端部(図1においては左側の端部)からボール転動路7の始点に案内するデフレクタと呼ばれるボール案内部材12B(本発明の構成要件である第二案内部材に相当する)とが、ナット5の軸方向両端部に設けられている。なお、これ以降は、これらデフレクタをエンドデフレクタと称する。
【0018】
ナット5には、略軸方向に延びる孔からなるボール循環路11が形成されており、このボール循環路11の両端は、ボール転動路7の始点及び終点の近傍にそれぞれ配されている。ボール転動路7の終点においては、ボール転動路7からボール循環路11へボール9が移動し、ボール転動路7の始点においては、ボール循環路11からボール転動路7へボール9が移動するが、このボール9の移動を円滑に行うために、ボール転動路7の終点及び始点には、ボール9の移動を案内するエンドデフレクタ12A,12Bがそれぞれ配されている。
【0019】
2つのエンドデフレクタ12A,12Bのうち、図1における右側の軸方向端部に配されているエンドデフレクタ12Aは、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の一端部に案内するが、ナット5の軸方向一端部(図1においては右側の端部)の端面に設けられた凹部14に嵌め込まれている(図2を参照)。一方、図1における左側の軸方向端部に配されているエンドデフレクタ12Bは、ボール9をボール循環路11の他端部からボール転動路7の始点に案内するが、ナット5の軸方向他端部(図1においては左側の端部)の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に嵌め込まれている(図3,4を参照)。
【0020】
両エンドデフレクタ12A,12Bは、ナット5の凹部14や貫通孔15の開口部に嵌合する嵌合部17と、この嵌合部17から突出する舌部18とを備えており、エンドデフレクタ12A,12Bがナット5に取り付けられた際には、舌部18はねじ軸3のねじ溝3aに沿うように配される。よって、ボール転動路7の終点に転動してきたボール9は、エンドデフレクタ12Aの舌部18によってボール転動路7から掬い上げられ、舌部18に沿ってボール循環路11の端部に案内される。掬い上げられたボール9は、ボール循環路11の中を通ってボール循環路11の他端部に至り、エンドデフレクタ12Bの舌部18によって案内されてボール転動路7の始点に戻される。
【0021】
なお、ボールねじ1を上記とは逆回転させた場合には、両エンドデフレクタ12A,12Bの機能も逆になる。すなわち、逆回転させた場合には、エンドデフレクタ12Aが、ボール9をボール循環路11の端部からボール転動路7の始点に案内する機能を有し、エンドデフレクタ12Bが、ボール9をボール転動路7の終点から掬い上げてボール循環路11の端部に案内する機能を有することとなる。
【0022】
このようなボールねじ1は、軸方向両端部のエンドデフレクタ12A,12Bのうち一方が、ナット5の軸方向端部の端面に設けられた凹部に嵌め込まれるタイプではなく、ナット5の外周面と内周面とを貫通する貫通孔15に径方向外方側から嵌め込まれるタイプであるため、このエンドデフレクタ12Bが取り付けられたナット5の軸方向端部については、ナット5の外形寸法を大きくすることなく、大きな肉厚が確保されている。
【0023】
よって、ナット5を回転させて、ねじ軸3を軸方向に直線移動させる形式でボールねじ1を使用する場合は、小スペース化を目的として、ナット5の外周面に転がり軸受を直接装着したり、タイミングベルト駆動用のプーリーをナット5の軸方向端部(図1においては左側の端部)の端面に直接取り付けるケースがあるが、ナット5の軸方向端部の肉厚Wが厚いため、転がり軸受を直接装着するための三角ねじをナット5の外周面に設けたり、プーリーを直接取り付けるためのタップ穴をナット5の軸方向端部の端面に設けたりすることが可能である(図5を参照)。そして、ナット5の外形寸法を大きくする必要がないので、小スペース化が可能であるとともに、転がり軸受やプーリーが装着されたボールねじ1の慣性を低減することができる。
【0024】
エンドデフレクタ12A,12Bは、ナット5に対して強固に固定されていることが好ましい。固定方法は特に限定されるものではないが、例えば接着剤による固着があげられる。接着剤の種類は特に限定されるものではなく、汎用の接着剤を問題なく使用することができるが、例えばエポキシ樹脂系の接着剤があげられる。
【0025】
また、リング状部材や円筒状部材(図10を参照)を用いて固定してもよい。ナット5の軸方向端部をリング状部材又は円筒状部材に挿通し、貫通孔15に嵌め込んだエンドデフレクタ12Bを径方向外方側からリング状部材又は円筒状部材で押さえれば、エンドデフレクタ12Bをナット5に対して強固に固定することができる。リング状部材や円筒状部材は、ナット5の外周面に隙間無く嵌合する内径を備えた部材であることが好ましいが、すり割りを有する断面形状略C字状の部材を用いてもよい。リング状部材,円筒状部材,断面形状略C字状の部材の材質は特に限定されるものではなく、樹脂,金属,セラミックス等があげられる
【0026】
さらに、エンドデフレクタ12A,12Bに係合凸部20を設けるとともに、係合凸部20が係合可能な形状の係合凹部をナット5(凹部14又は貫通孔15の内面)に設けることにより、エンドデフレクタ12A,12Bとナット5の固定を行ってもよい。例えば、図6に示すように、エンドデフレクタ12Bの嵌合部17から係合凸部20を突出させるとともに、図7に示すように、ナット5の貫通孔15の内面に、係合凸部20が係合可能な形状の係合凹部21を設けて、エンドデフレクタ12Bを貫通孔15に嵌め込んだ際には係合凸部20と係合凹部21が係合するようにすれば、前記係合によりセルフロック機構が形成されるため、エンドデフレクタ12Bをナット5に対して強固に固定することができる。
【0027】
エンドデフレクタ12A,12Bを凹部14又は貫通孔15に挿入する際には、係合凸部20が凹部14又は貫通孔15の内面に干渉して、円滑な挿入ができないおそれがあるので、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17のうち係合凸部20が設けられている部分には、係合凸部20の突出方向に沿って弾性変形可能な弾性部を設けることが好ましい。すなわち、係合凸部20が弾性部を介して嵌合部17に設けられていれば、係合凸部20が凹部14又は貫通孔15の内面に干渉した場合には、弾性部の弾性変形により係合凸部20が嵌合部17側に移動するため、前記干渉が緩和されて、エンドデフレクタ12A,12Bの円滑な挿入が可能となる。
【0028】
弾性部の構成は特に限定されるものではないが、図6,8に示すような肉抜き構造が好ましい。図6の(a)は、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17の近傍部分を拡大して示した斜視図であり、(b)は、エンドデフレクタ12A,12Bの全体の斜視図である。図6の肉抜き構造は、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17とが2つの連結部で連結されて、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17との間に筒状の空洞23が形成されている構造である。この空洞23に向かって係合凸部20が移動可能となっているので、前記干渉が緩和される。
【0029】
また、図8の(a)は、エンドデフレクタ12A,12Bの嵌合部17の近傍部分を拡大して示した斜視図であり、(b)は、エンドデフレクタ12A,12Bの全体の斜視図である。図8の肉抜き構造は、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17とが1つの線状の連結部で連結されて、係合凸部20が形成されている部分と嵌合部17との間に断面略コ字状の空洞23が形成されている構造である。図6に示す肉抜き構造の場合と同様に、この空洞23に向かって係合凸部20が移動可能となっているので、前記干渉が緩和される。
【0030】
エンドデフレクタ12A,12Bの材質は特に限定されるものではなく、樹脂(樹脂に補強材や添加剤を混合した樹脂組成物でもよい),金属,セラミックス等があげられる。また、エンドデフレクタ12A,12Bの製造方法も特に限定されるものではなく、樹脂材料であれば射出成形法があげられ、金属材料やセラミックス材料であれば切削加工等の慣用の加工方法があげられる。また、樹脂粉,金属粉,セラミック粉が材料であれば、加圧成形を採用することもできる。
【0031】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、ボールねじ1は、図9に示すような構造のナットを備えていてもよい。すなわち、内周面にねじ溝を有するねじ部と、内周面にねじ溝を有していない非ねじ部とからなり、前記非ねじ部が前記ねじ部の軸方向一端部(図9における左側の端部)から延長された構造のナットを備えていてもよい。
【0032】
このようなナットを備えるボールねじの場合には、図9には図示されない一方のエンドデフレクタを、ねじ部の軸方向他端部(図9における右側の端部)の端面に設けられた凹部に嵌め込み、図9に図示されている他方のエンドデフレクタを、ねじ部の軸方向一端部(図9においては、ねじ部の左側の端部であり、ナットの軸方向略中央部である)の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込むとよい。
このような構造のナットを備えるボールねじは、ねじ部の軸方向長さが従来のボールねじと同等で、非ねじ部の軸方向長さが長いので、ナットをシリンダとして使用することができる。すなわち、ナットの非ねじ部の外周面を、シリンダの摺動面として使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転動路
9 ボール
11 ボール循環路
12A,12B エンドデフレクタ(ボール案内部材)
14 凹部
15 貫通孔
17 嵌合部
18 舌部
20 係合凸部
21 係合凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、
前記両案内部材のうち一方を、前記ナットの軸方向一端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ナットの軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、
前記ナットは、内周面に前記ねじ溝を有するねじ部と、内周面に前記ねじ溝を有していない非ねじ部と、からなり、前記非ねじ部は前記ねじ部の軸方向一端部から延長されており、
前記両案内部材のうち一方を、前記ねじ部の軸方向他端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ねじ部の軸方向一端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とするボールねじ。
【請求項3】
前記両案内部材の少なくとも一方に係合凸部を設けるとともに、前記係合凸部が係合可能な形状の係合凹部を前記ナットの前記凹部及び前記貫通孔の少なくとも一方の内面に設け、前記係合凸部と前記係合凹部の係合により前記案内部材を前記ナットに固定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記両案内部材の少なくとも一方を前記ナットに接着剤により固定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記ナットの軸方向端部をリング状部材に挿通し、前記貫通孔に嵌め込んだ前記案内部材を径方向外方側から前記リング状部材で押さえて固定したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記両案内部材の少なくとも一方を、射出成形で成形した樹脂製部材としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項7】
前記両案内部材の少なくとも一方を、金属粉又はセラミック粉を加圧成形で成形した部材としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項1】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、
前記両案内部材のうち一方を、前記ナットの軸方向一端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ナットの軸方向他端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転動路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ナット内部に形成されており且つ前記ボールを前記ボール転動路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、前記ボールを前記ボール転動路の終点から掬い上げて前記ボール循環路の一端部に案内する第一案内部材と、前記ボールを前記ボール循環路の他端部から前記ボール転動路の始点に案内する第二案内部材と、を備えるボールねじにおいて、
前記ナットは、内周面に前記ねじ溝を有するねじ部と、内周面に前記ねじ溝を有していない非ねじ部と、からなり、前記非ねじ部は前記ねじ部の軸方向一端部から延長されており、
前記両案内部材のうち一方を、前記ねじ部の軸方向他端部の端面に設けられた凹部に嵌め込み、他方を、前記ねじ部の軸方向一端部の外周面と内周面とを貫通する貫通孔に嵌め込んだことを特徴とするボールねじ。
【請求項3】
前記両案内部材の少なくとも一方に係合凸部を設けるとともに、前記係合凸部が係合可能な形状の係合凹部を前記ナットの前記凹部及び前記貫通孔の少なくとも一方の内面に設け、前記係合凸部と前記係合凹部の係合により前記案内部材を前記ナットに固定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記両案内部材の少なくとも一方を前記ナットに接着剤により固定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記ナットの軸方向端部をリング状部材に挿通し、前記貫通孔に嵌め込んだ前記案内部材を径方向外方側から前記リング状部材で押さえて固定したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記両案内部材の少なくとも一方を、射出成形で成形した樹脂製部材としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項7】
前記両案内部材の少なくとも一方を、金属粉又はセラミック粉を加圧成形で成形した部材としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のボールねじ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−241852(P2011−241852A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111989(P2010−111989)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]