説明

ボールジョイント及びボールジョイント製造方法

【課題】ハウジングに対するボールシートの抜け止めを確実に行うとともに、上下及び径方向の位置決めを確実に行うこと。
【解決手段】開口部20を有するハウジング11と、軸部30とボール部31を有するボールスタッド12と、ハウジング11に収容されるボールシート13であって、ボール部31が挿入される凹球面50と、ボール部31が凹球面50から抜けることを阻止すべくボール部31の外径よりも小さな内径を有するオーバーハング部51と、軸部30が挿通する孔部21に形成され前記オーバーハング部から開口部20に向かって内径が拡がる形状の斜面部52とを有するボールシート13と、ハウジング11の開口部20の端壁に形成された突縁25をボールシート13の端面側に折曲げるとともに、ボールシート13の端面に重ねて配置され、オーバーハング部51に向かって延びて斜面部52に対向するかしめ部80とを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械等の可動部分に用いられるボールジョイント及びその製造方法に関し、特にハウジングに対するボールシートの上下及び径方向の位置決めを確実に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールジョイントは、ハウジングと、ボール部を有するボールスタッドと、ハウジングに収容されるボールシートと、ダストカバー等によって構成されている。ボールシートの内部に、前記ボール部が回転自在に嵌合する凹球面が形成されている。ボールシートには、ボール部が凹球面から抜けることを阻止するためにオーバーハング部が形成されている。オーバーハング部の内径は、ボール部の外径よりも小さい。このためボール部を凹球面に挿入する際に、ボールスタッドに軸線方向の荷重をかけ、ボール部によってオーバーハング部を無理に広げながら、ボール部を凹球面に挿入している。
【0003】
ボールシートをハウジングに固定する手段として、熱可塑性樹脂からなるボールシートの底部に突起を形成するとともに、ハウジングの底部に孔を形成し、この孔に前記突起を挿入し、突起の先端部に熱を加えて変形させること(熱かしめ)によって、ボールシートをハウジングに固定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3168229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したボールジョイント及びボールジョイント製造方法では、次のような問題があった。すなわち、ボールシートの一部に設けた突起をハウジングの底部の孔から突出させ、熱かしめによって固定するものでは、例えばハウジングの底部に飛石等の障害物が当たったときや、強酸等の腐食性の液がかかったときに合成樹脂製の突起が損傷し、ボールシートの固定が弛むことが懸念される。また、ハウジングの底部に突起が突出するため、ハウジングの軸線方向の寸法が大きいとか、ハウジングの底部にロッド部材(タイロッド等)を固定することが難しいという問題もある。
【0006】
一方、ボールシートは樹脂材製であるため、剛性が低く、ハウジング内に固定する際に位置を定めにくいという問題があった。ハウジング内にボールシートを正確に位置決めさせないと、ボール部の揺動中心が所定の位置からずれ、所期の性能を発揮できないという虞があった。
【0007】
そこで本発明は、ハウジングに対するボールシートの抜け止めを確実に行うとともに、上下及び径方向の位置決めを確実に行うことができるボールジョイント及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のボールジョイント及びボールジョイント製造方法は次のように構成されている。
【0009】
(1)開口部を有する金属製のハウジングと、軸部とボール部を有するボールスタッドと、前記ハウジングに収容される合成樹脂製のボールシートであって、前記ボール部が挿入される凹球面と、前記ボール部が該凹球面から抜けることを阻止すべく前記ボール部の外径よりも小さな内径を有するオーバーハング部と、前記軸部が挿通する孔部に形成され前記オーバーハング部から前記開口部に向かって内径が拡がる形状の斜面部と、を有するボールシートと、前記ハウジングの前記開口部の端壁に形成された突縁を前記ボールシートの端面側に折曲げるとともに、前記ボールシートの端面に重ねて配置され、前記オーバーハング部に向かって延びて前記斜面部に対向するかしめ部とを具備したことを特徴とする。
【0010】
(2)ボールシートの凹球面にボールスタッドのボール部を挿入する工程と、前記ボールが挿入された前記ボールシートをハウジングに挿入する工程と、前記ハウジングの開口部の端壁に形成された突縁に、ボールスタッドの軸部に向かう径方向の荷重を負荷することにより、該突縁を斜め内側に傾けるように塑性変形させる第1のかしめ工程と、前記突縁に、前記ボールシートに形成された前記軸部が挿通する孔部に形成され前記オーバーハング部から前記開口部に向かって内径が拡がる形状の斜面部に沿う荷重を負荷することにより、前記突縁がボールシートの端面を挟むように該突縁を塑性変形させる第2のかしめ工程と具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハウジングに対するボールシートの抜け止めを確実に行うとともに、上下及び径方向の位置決めを確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態のボールジョイントを示す断面図。
【図2】同ボールジョイントの製造工程の一部を示す説明図。
【図3】同ボールジョイントにおける突縁と小径部との関係を示す説明図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るボールジョイントを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係るボールジョイント10を示している。ボールジョイント10の用途は限定されないが、一例として、自動車の懸架機構部を構成するスタビライザと車体とを連結するスタビライザリンクに使用される。
【0014】
このボールジョイント10は、ハウジング11と、ボールスタッド12と、ボールシート13と、ダストカバー14等を備えている。ハウジング11にロッド部材15が溶接されている。
【0015】
ハウジング11は例えば炭素鋼等の金属からなり、図1において上側に位置する開口部20と、円筒形の周壁部21と、開口部20の反対側に位置する底部22等を有している。開口部20の端壁20aには、後述するかしめ部80を構成する厚さt,長さLの突縁25が形成されている。突縁25の厚さtは、周壁部21の厚さの40〜60%に設定されている。なお、40%未満であると変形後の荷重が不足し、ボールシート13の端面13aを精度よく押さえ切れない。一方、60%を超えるとかしめ加工が困難になる。また、突縁25の長さLは、厚さtの2〜4倍に設定されている。なお、2倍未満であると、かしめ加工の際、必要なかしめ力が増大するとともに、ボールシート13への押さえ代が不足する。一方、4倍を超えるとプレス加工が困難になる。
【0016】
周壁部21の外面には、開口部20付近にダストカバー取付溝26が形成されている。ダストカバー取付溝26は、周壁部21の周方向に連続している。
【0017】
ボールスタッド12は金属製であり、軸部30とボール部31とを有している。軸部30とボール部31は互いに一体に成形されている。軸部30に、雄ねじ部35と、第1の鍔部36と、第2の鍔部37と、小径部38等が形成されている。第1の鍔部36の径は第2の鍔部37の径よりも大きい。鍔部36,37間にダストカバー取付部39が形成されている。ダストカバー取付部39はボールスタッド12の周方向に連続している。ボール部31の先端面31aは平坦な形状に成形されている。
【0018】
ボールシート13は合成樹脂製であり、ハウジング11の内部に収容されている。このボールシート13は、前記ボール部31が挿入される凹球面50と、ボール部31の抜け止めをなすオーバーハング部51と、ボール部31を凹球面50に挿入する際にボール部31の挿入を案内する斜面部52と、凹球面50の周りに形成された側壁部53と、底壁部54等を有している。オーバーハング部51と側壁部53と底壁部54は互いに一体成形されている。
【0019】
ボール部31と凹球面50とは、互いにボールシート13の軸線Xまわりに回転可能に嵌合している。しかもこのボール部31は、ボールシート13の軸線Xに対して、ボールスタッド12が傾くことができるように、かつ、全ての方向に首を振ることができるように、凹球面50に嵌合している。
【0020】
オーバーハング部51の内径D1は、ボール部31の外径D2よりも小さい。このオーバーハング部51によって、凹球面50に挿入されたボール部31が凹球面50から抜け出ることが阻止される。
【0021】
斜面部52は、ボールスタッド12の軸部30が挿通するボールシート13の孔部60の内周面に形成されている。この斜面部52は、オーバーハング部51からハウジング11の開口部20に向かって内径が拡がるテーパ形状をなしている。この斜面部52は、ボールシート13の端面13aに連なっている。
【0022】
ボールシート13の底壁部54は、ボール部31の外周面に沿う球の一部をなす形状となっている。ボールシート13の底壁部54は、ハウジング11の底部22に重なっている。ボールシート13の底壁部54とボール部31の先端面31aとの間には、グリース等の潤滑剤を溜めることのできる空間部61が形成されている。
【0023】
ハウジング11の開口部20に、かしめ部80が設けられている。かしめ部80は、ハウジング11の開口部20の端壁20aと一体に形成された突縁25を塑性変形させることによって構成されている。かしめ部80は、ハウジング11の全周にわたって設けることが望まれるが、強度的に問題がなければハウジング11の周方向の一部に設けてもよい。
【0024】
かしめ部80は、ハウジング11の開口部20の内側において、ボールシート13の端面13aに重ねて配置される。突縁25は、ボールシート13の前記斜面部52と対向するように、斜面部52に沿ってオーバーハング部51に向かって延びている。突縁25の内径D3は、ボールスタッド12が揺動する際にボール部31が描く軌跡と干渉することがないような寸法に設定されている。また、図3に示すように突縁25はボールスタッド12を最大角に揺動させた場合に小径部38に沿う形状としており、小径部38と突縁25との干渉によってボールスタッド12の揺動角を狭めることを防止している。
【0025】
かしめ部80を形成するには、まず第1のかしめ工程において、ボールシート13の径方向に沿う荷重P1を突縁25に加える。この径方向の荷重P1によって、突縁25が斜め内側に45°程度傾くように塑性変形する。
【0026】
次に、第2のかしめ工程において、この突縁25に、ボールシート13の斜面部52に沿う荷重P2を負荷する。この荷重P2によって、突縁25はボールシート13の端面13aを挟み込むように塑性変形する。かしめ部80の根元は曲率半径Rで湾曲するため、かしめ部80がボールシート13を圧迫し過ぎることを軽減できる。
【0027】
このように、まず第1の工程において径方向の荷重P1によって突縁25を45°程度に傾斜変形させてから、第2の工程において軸線方向の荷重P2を加えることによってかしめ部80を形成するため、かしめ荷重がボールシート13に加わり過ぎることを回避できる。
【0028】
しかもこのかしめ部80は、図1に示すように、ボールシート13の外周面13bから凹球面50までの距離が最小となる箇所をボールシート13の軸線X方向に延長した部位と、ボールシート13の外周面13bとの間の領域Sに形成される。この領域Sでは、軸線X方向にボールシート13の肉厚が確保されているため、ボールシート13に軸線X方向のかしめ荷重が負荷されても、ボールシート13はこのかしめ荷重に十分耐えることができる。
【0029】
図1に示すようにゴム製のダストカバー14の一端14aが、ハウジング11のダストカバー取付溝26に圧入され、ハウジング11に固定される。ダストカバー14の他端14bは、ボールスタッド12のダストカバー取付部39に嵌め込まれている。
【0030】
図3に示すように、ボールスタッド12がボールシート13の軸線Xに対して所定量傾くと、ボールスタッド12の軸部30が突縁部25に当接することにより、ボールスタッド12がそれ以上傾くことが阻止される。
【0031】
このボールジョイント10は、以下に述べる工程等を経て製造される。
【0032】
(1)ボールシート13の凹球面50にボールスタッド12のボール部31を挿入する。
【0033】
(2)ボール部31が挿入されたボールシート13をハウジング11に挿入する。
【0034】
(3)ハウジング11の突縁25に、軸部30に向かう径方向の荷重P1を負荷することによって、突縁25を斜め内側に傾けるように塑性変形させる。この工程が第1のかしめ工程である。
【0035】
(4)突縁25に、ボールシート13の斜面部52に沿う荷重P2を負荷することによって、突縁25によりボールシート13の端面13aを挟むように突縁25を塑性変形させる。この工程が第2のかしめ工程である。
【0036】
本実施形態のボールジョイント10によれば、ボールスタッド12に軸線X方向の引抜き荷重が負荷されたとき、オーバーハング部51によってボール部31の抜け止めがなされる。オーバーハング部51を変形させるような過大な荷重が軸線X方向に作用するときには、オーバーハング部51の変形を突縁25によって抑制することができる。
【0037】
また、第2のかしめ工程において、斜面部52に沿った加圧を行うため、ボールシート13に過大な力が加わらず、圧迫しすぎることがない。
【0038】
さらに、突縁25によってボールシート13の斜面部52を全周に亘って加圧することで、求心効果が生じ、ボールシート13の軸心が軸線Xに一致するとともに、ボールシート13をハウジング11の底部22に向けて押圧される。このため、ハウジング11に対するボールシート13の上下及び径方向の位置決めを確実に行うことができる。
【0039】
さらにまた、ボールシート13は、金属製のハウジング11に形成された突縁25をかしめることにより、ハウジング11に固定される。このため、従来のように熱かしめによってボールシートをハウジングに固定するものに比べて、抜き強度を高めることができる。
【0040】
また、ハウジング11の底部22に合成樹脂製のボールシート13の一部が突出しないため、飛石や腐食性の液の影響を受けにくい。しかもハウジング11の底部22にロッド部材16を任意の角度で溶接することができる。
【0041】
図4は本発明の第2の実施の形態に係るボールジョイント10Aを示している。なお、図4において図1と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
ボールジョイント10Aは、ボールシート13と突縁25との間に、ストッパリング100が設けられている。
【0043】
ストッパリング100は、ハウジング11の開口部20の内側において、ボールシート13の端面13aに重ねて配置される。ストッパリング100は、リング状の基部101と、この基部101の内周側に基部101と一体に形成されるストッパ部102とを備えている。
【0044】
ストッパ部102は、ボールシート13の前記斜面部52と対向するように、斜面部52に沿ってオーバーハング部51に向かって延びている。ストッパリング100の内径D4は、ボールスタッド12が揺動する際にボール部31が描く軌跡と干渉することがないような寸法に設定されている。
【0045】
ストッパリング100の材質の一例は金属である。しかし金属以外にも、ボールシート13の材料よりも強度の高い樹脂が使われてもよく、あるいは繊維強化合成樹脂が使用されてもよい。
【0046】
ハウジング11の開口部20に、かしめ部80Aが設けられている。かしめ部80Aは、ハウジング11の開口部20の端壁20aと一体に形成された突縁25を塑性変形させて、ストッパリング100を固定することによって構成されている。かしめ部80Aは、ハウジング11の全周にわたって設けることが望まれるが、強度的に問題がなければハウジング11の周方向の一部に設けてもよい。
【0047】
かしめ部80Aを形成するには、まずかしめ工程において、ボールシート13の径方向に沿う荷重P1を突縁25に加える(図2参照)。この径方向の荷重P1によって、突縁25が内側に90°程度傾くように塑性変形する。これにより、突縁25とボールシート13の端面13aとの間に、ストッパリング100の基部101が挟まれるように突縁25が塑性変形する。かしめ部80Aの根元は曲率半径Rで湾曲するため、かしめ部80Aがボールシート13を圧迫し過ぎることを軽減できる。
【0048】
本実施の形態に係るボールジョイント10Aにおいても、上述したボールジョイント10と同様の効果が得られる。
【0049】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、ハウジングに対するボールシートの抜け止めを確実に行うとともに、上下及び径方向の位置決めを確実に行うことができるボールジョイント及びその製造方法が得られる。
【符号の説明】
【0051】
10,10A…ボールジョイント、11…ハウジング、12…ボールスタッド、13…ボールシート、20…ハウジングの開口部、25…突縁、30…軸部、31…ボール部、50…凹球面、51…オーバーハング部、52…斜面部、80,80A…かしめ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する金属製のハウジングと、
軸部とボール部を有するボールスタッドと、
前記ハウジングに収容される合成樹脂製のボールシートであって、前記ボール部が挿入される凹球面と、前記ボール部が該凹球面から抜けることを阻止すべく前記ボール部の外径よりも小さな内径を有するオーバーハング部と、前記軸部が挿通する孔部に形成され前記オーバーハング部から前記開口部に向かって内径が拡がる形状の斜面部と、を有するボールシートと、
前記ハウジングの前記開口部の端壁に形成された突縁を前記ボールシートの端面側に折曲げるとともに、前記ボールシートの端面に重ねて配置され、前記オーバーハング部に向かって延びて前記斜面部に対向するかしめ部と、
を具備したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
ボールシートの凹球面にボールスタッドのボール部を挿入する工程と、
前記ボールが挿入された前記ボールシートをハウジングに挿入する工程と、
前記ハウジングの開口部の端壁に形成された突縁に、ボールスタッドの軸部に向かう径方向の荷重を負荷することにより、該突縁を斜め内側に傾けるように塑性変形させる第1のかしめ工程と、
前記突縁に、前記ボールシートに形成された前記軸部が挿通する孔部に形成され前記オーバーハング部から前記開口部に向かって内径が拡がる形状の斜面部に沿う荷重を負荷することにより、前記突縁がボールシートの端面を挟むように該突縁を塑性変形させる第2のかしめ工程と、
を具備したことを特徴とするボールジョイントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17775(P2012−17775A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154231(P2010−154231)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】