説明

ボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。

【課題】ボールスタッドを潤滑剤を介して摺動可能な状態で収容するボールジョイント用ベアリングシートにおいて、製品寿命および製造効率を向上させることができるボールスタッドの受け部および潤滑剤の保持部の配置方法を提供する。
【解決手段】ベアリングシートとしてのボールシート130は、縦断面形状が略U字状に形成されており、その内周部にボールスタッド110のボール部113の外周面形状に沿った球面状の摺動部132が形成されている。ボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける摺動部132の下半球部132aにおける最も肉厚の薄い部分には、平面状に突出した形状の受け部134が周方向に沿って多数形成されている。また、各受け部134の周囲には、受け部134の表面を含む摺動部132の潤滑のためのグリース150を保持させる凹状の保持部135が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状のボールスタッドの先端部に形成されたボール部を潤滑剤を介して摺動可能な状態で収容するボールジョイント用ベアリングシートにおける前記ボール部の受け部および前記潤滑剤の保持部の配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両におけるサスペンション機構(懸架装置)やステアリング機構(操舵装置)には、軸状の各構成要素を互いに可動的に連結するためにボールジョイントが用いられている。ボールジョイントは、主として、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部が有底円筒状のソケット内に保持された筒状のベアリングシート内に摺動可能な状態で収容されて構成されている。このようなボールジョイントにおいては、ベアリングシートにおける内周部分に、ボールスタッドのボール部の表面が摺動可能な状態で接触する受け部と同受け部を潤滑するための潤滑剤を保持する保持部とがそれぞれ形成されたものがある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ボールスタッドのボール部の形状に対応する球面状に形成された内周面における下側半球面に、ボールスタッドの軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態で接触する凸状の受け部と、同受け部を潤滑するための潤滑剤を保持すための溝状の保持部とがそれぞれ形成されたボールジョイントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−144749号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、上記したボールジョイントにおけるベアリングシートにおいては、主として合成樹脂材を射出成形加工により成形しているため、射出成形後の収縮によってベアリングシートの形状が変化してベアリングシート内に収容したボールスタッドのボール部がベアリングシートの内周面に形成した受け部に適切に接触しないことがある。具体的には、ベアリングシートの内周面に形成した受け部にボールスタッドにおけるボール部表面が接触しない部分が生じたり、同ボール部表面が過度な圧力で押し付けられる部分が生じたりする場合がある。
【0006】
これらの場合、ボールスタッドのボール部が摺動するベアリングシート内が偏摩耗することにより、ベアリングシートの製品寿命が期待される製品寿命より短くなる懼れがある。このため、ベアリングシートを製造する過程においては、設計値通りのベアリングシートを成形するために、ベアリングシートを射出成形する金型の成形や修正作業および射出成形の条件設定のための作業が極めて煩雑になるという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、軸状のボールスタッドの先端部に形成されたボール部を潤滑剤を介して摺動可能な状態で収容するボールジョイント用ベアリングシートにおいて、製品寿命および製造効率を向上させることができる前記ボール部の受け部および前記潤滑剤の保持部の配置方法を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、軸状のボールスタッドの先端部に形成されたボール部から同ボールスタッドの軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態で接触する受け部と、受け部より凹んで形成されて同受け部を潤滑するための潤滑剤を保持する保持部とを備え、ボールスタッドと同ボールスタッドを収容するソケットとの間に配置されるボールジョイント用ベアリングシートにおける製品寿命および製造効率を向上させるための受け部および保持部の配置方法であって、受け部を、ボールジョイント用ベアリングシートにおけるボールスタッドの軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成し、保持部を、受け部に隣接して形成したことにある。
【0009】
この場合、請求項2に示すように、前記受け部および保持部の配置方法において、ボールジョイント用ベアリングシートを、例えば、ボールスタッドの軸線方向の荷重をソケットに伝達する外周部が錘状に形成し、受け部を、ボールジョイント用ベアリングシートにおける前記錘状に形成された前記外周部に対向する内周面に形成するとよい。
【0010】
これらの場合、請求項3に示すように、前記受け部および保持部の配置方法において、受け部を、例えば、ボールジョイント用ベアリングシートの内周面から突出した凸状に形成するとよい。この場合、請求項4に示すように、前記受け部および保持部の配置方法において、受け部を、例えば、ボールスタッドにおけるボール部に接触する部分が平面状に形成するとよい。
【0011】
また、請求項3に代えて請求項5に示すように、前記受け部および保持部の配置方法において、保持部を、例えば、ボールジョイント用ベアリングシートの内周面から窪んだ凹状に形成することもできる。
【0012】
このように構成した本発明の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートにおけるボールスタッドのボール部から荷重を受けつつ接触する受け部は、ボールジョイント用ベアリングシートにおけるボールスタッドの軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成されている。そして、この受け部を潤滑するための潤滑剤を保持する保持部は、受け部に隣接して形成されている。この場合、合成樹脂材を射出成形したボールジョイント用ベアリングシートは、肉厚が薄い部分ほど射出成形後の収縮量が少ない。このため、ボールジョイント用ベアリングシートに形成する受け部の射出成形後の収縮量(変形量)を最小限に抑えることができる。これにより、設計値通りのボールジョイント用ベアリングシートが成形され易くなり、ボールスタッドのボール部がベアリングシートの受け部に適切に接触するようになるため、ベアリングシートの製品寿命を向上させることができる。また、ボールジョイント用ベアリングシートを製造する過程においても、ボールジョイント用ベアリングシートが設計値通りに成形され易くなるため、ベアリングシートを射出成形する金型の成形や修正作業および射出成形の条件設定のための作業負担が軽減される。すなわち、本発明による受け部および保持部の配置方法によれば、ボールジョイント用ベアリングシート、延いてはボールジョイントの製品寿命および製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシートを備えたボールジョイントの縦断面の概略を示す概略断面図である。
【図2】(A)は図1に示すボールシートを示す平面図であり、(B)は(A)に示すボールシートをA−Aから見た断面図である。
【図3】図2に示す破線円で囲まれた下側半球部における受け部および保持部を拡大した拡大断面図である。
【図4】図2(A)に示すボールシートをA−Aから見た断面を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法を適用したボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシート130を備えたボールジョイント100の縦断面を概略的に示す概略断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素間の角度変化を許容しつつ各構成要素を互いに連結するジョイント部材である。
【0015】
(ボールジョイント100の構成)
ボールジョイント100は、主として、ボールスタッド110、ソケット120、ボールシート130およびダストカバー140によって構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、鉄鋼材により構成されており、軸状に形成されたスタッド部111の一方の端部に括れ部112を介して略球状に形成されたボール部113を備えて構成されている。また、ボールスタッド110における図示しない他方の端部には、ボールジョイント100をサスペンション機構またはステアリング機構を構成する前記構成要素に連結するためのネジ部(図示せず)が形成されている。
【0016】
ソケット120は、アルミニウム材などの非鉄金属または鉄鋼材などの材料を鋳造、または鍛造して成形されており、筒体の一方の端部(図示上端部)が開口するとともに他方の端部(図示下端部)が閉塞した有底円筒状に形成されている。ソケット120の内周部には、縦断面形状が略U字状に形成された収容部121と、同収容部121の底部中央部において図示下方に向かって有底状に形成された穴部122とがそれぞれ設けられている。これらのうち、収容部121は、ボールシート130を介して前記ボールスタッド110のボール部113を収容して保持する部分である。また、穴部122は、グリース150を貯留する部分である。一方、ソケット120の外周中央部には、フランジ状に突出した形状のダストカバー受け部123が形成されている。
【0017】
ボールシート130は、詳しくは図2(A),(B)に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの耐摩耗性および耐荷重性の高い剛性および弾性を有した合成樹脂材にて構成されており、縦断面形状が略U字状に形成されている。このボールシート130の外形は、図示上端部から略中央部まで円筒状に形成された円筒部131aと、同円筒部131aの下側部分から外径が漸減する円錐状の円錐部131bと、同円錐部131bの下端部が平面状に形成された底部131cとによって構成されている。
【0018】
一方、ボールシート130の内周部は、前記ボールスタッド110のボール部113の球面に対応する球面状に形成されており、ボール部113が摺動可能に接触する摺動部132と、この摺動部132の底部中央部において図示下方に向かって貫通した孔部133とによって構成されている。これらのうち、摺動部132には、ボールスタッド110の軸線方向の荷重を直接受ける部分である図示中央部から下側部分に掛けての下側半球部132aに、複数の受け部134が形成されている。
【0019】
受け部134は、詳しくは図3に示すように、ボールスタッド110のボール部113から軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態でボール部113が接触する部分であり、摺動部132の下側半球部132aの表面から平面状に突出して複数形成されている。これらの受け部134は、摺動部132の下側半球部132aにおける最も肉厚の薄い部分、より具体的には、ボールシート130の外形の一部を構成する円錐部131bの略中間部と同円錐部131に対向するボールシート130の下側半球部132aの略中間部との間の円周方向に沿った肉厚部分を中心として、この最薄肉部を含む図示上側および図示下側にそれぞれ円周方向に沿って各1周ずつの合計3周分に亘って形成されている。
【0020】
これらの受け部134は、ボールスタッド110のボール部113からの押圧による圧縮変形によっても下側半球部132aの表面から突出した状態を維持できる突出量で形成されている。これにより、各受け部134の直径は、下側半球部132aの曲率と前記突出量とによって自ずと規定される。また、これらの受け部134は、ボール部113が摺動接触する平面状の表面が球面状に形成された摺動部132の中心点O(ボールスタッド110におけるボール部113の中心点でもある)を向くとともに、円周方向(経方向)および緯方向に互いに隣接する受け部134同士が接触して繋がらない程度の間隔を介して詰めて配置されている。
【0021】
具体的には、本実施形態においては、図4に示すように、下側半球部132aにおける前記最薄部は、ボールシート130における球面状に形成された摺動部132の中心点Oを基点とした同中心部を含む水平面からの角度αが42.5°となっている。すなわち、下側半球部132aの前記最薄部に形成された受け部134は、摺動部132の中心点Oを基点とした同中心部を含む水平面から42.5°の角度αの下側半球部132aの表面に円周方向に沿って並んで形成されている。
【0022】
また、下側半球部132aの前記最薄部に対して図示上側に形成された受け部134は、摺動部132の中心点Oを基点とした同中心部を含む水平面から34°の角度βの下側半球部132aの表面に円周方向に沿って並んで形成されている。また、下側半球部132aの前記最薄部に対して図示下側に形成された受け部134は、摺動部132の中心点Oを基点とした同中心部を含む水平面から52°の角度γの下側半球部132aの表面に円周方向に沿って並んで形成されている。そして、3つの各円周方向に沿って並んで形成された受け部134は、互いに隣接する円周上の受け部134同士が千鳥状に配置されて形成されている。これにより、下側半球部132aの表面により多くの受け部134が形成されて各受け部134が受けるボールスタッド110のボール部113からの押圧力の最小化が図られている。
【0023】
また、各受け部134の周囲における受け部134の表面から凹んだ下側半球部132aの表面は保持部135となっている。保持部135は、ボールシート130の受け部134の表面を含む摺動部132を潤滑するための前記グリース150を保持させるための凹状の部分である。
【0024】
このボールシート130は、ソケット120の収容部121内に嵌め込まれており、同ボールシート130の開口部130aに配置されたリング状のプラグ136を介して、カシメ加工されたソケット120の上端部によって固定されている。そして、ボールシート130の開口部130a上と、孔部133の下方に位置するソケット120の穴部122とには、ボールシート130の摺動部132を潤滑するためのグリース150がそれぞれ設けられている。
【0025】
ソケット120のダストカバー受け部123上には、同ソケット120の上部および収容部121内に収容されるボールスタッド110のボール部113を覆う状態でダストカバー140が設けられている。ダストカバー140は、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー140は、一方(図示上側)の端部がボールスタッド110のスタッド部111の外周部に金属製のクリップ151を介して固定されるとともに、他方(図示下側)の端部がソケット120のダストカバー受け部123の上部外周部に金属製のクリップ152を介して固定されており、ボールシート130の摺動部132内への異物の浸入を防止する。
【0026】
(ボールジョイント100の組付け)
このように構成されたボールジョイント100の組付けについて説明する。まず、作業者は、ボールシート130を製作する。具体的には、作業者は、図示しない射出成形機を操作することにより、素材となる合成樹脂を射出成形加工により成形してボールシート130を製作する。このボールシート130の製作に際しては、作業者は、設計値通りのボールシート130を成形するために、ボールシート130を成形するための金型(図示せず)や射出成形のための各種条件の調整を予め行なう。この場合、ボールシート130の受け部134は、摺動部132の下側半球部132aにおける最も肉厚の薄い部分に形成されているため、受け部134が形成された周辺部の射出成形後の収縮量を最小限に抑えることができる。これにより、設計値通りのボールシート130が成形され易くなり、ボールシート130を射出成形する金型の成形や修正作業および射出成形の条件設定のための作業負担が軽減される。
【0027】
次に、作業者は、前記製作したボールシート130の他に、ボールジョイント100を構成する他の部品であるボールスタッド110、ダストカバー140およびプラグ136をそれぞれ用意する。そして、作業者は、これらの部品をソケット120を成型するための図示しない鋳型内にセットする。この場合、作業者は、ボールシート130の摺動部132にグリース150を塗布した後、同摺動部132にボールスタッド110のボール部113を嵌め込むことにより、同ボール部113がボールシート130内にて摺動可能に保持されたたボールシート130を鋳型内にセットする。
【0028】
そして、作業者は、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ136がそれぞれセットされた鋳型内にアルミニウム合金を鋳込む(アルミダイキャスト)。これにより、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ136を備えたソケット120が一体的に成型される。次に、作業者は、ソケット120における開口部をカシメ加工することによりプラグ136を固定するとともに、同プラグ136の内側におけるボールシート130とボールスタッド110のボール部113との境目部分にグリース150を塗布する。そして、作業者は、ボールスタッド110、ボールシート130およびプラグ136を備えたソケット120にダストカバー140を装着する。これにより、ボールジョイント100が完成する。
【0029】
(ボールジョイント100の作動)
このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。本実施形態においては、ボールジョイント100を自動車などの車両のサスペンション機構(懸架装置)に組み込んだ例について説明する。ここで、サスペンション機構(懸架装置)とは、車両において路面からの振動を減衰するとともに車輪を確実に路面に接地させることにより、車両の走行安定性および操縦安定性を維持する装置である。そして、ボールジョイント100は、サスペンション機構においてボールスタッド110を一定の方向に回転または揺動させながら車両からの負荷を支える。
【0030】
車両(図示せず)に搭載された各ボールジョイント100には、少なくとも車両の重量を車輪の数で除した重量の荷重が絶えず加えられている。このため、ボールジョイント100のボールシート130の受け部134を含む下半球部132aは、前記重量に相当する力でボールスタッド110のボール部113が押し付けられることにより圧縮変形する。この場合、ボールスタッド110のボール部113は下半球部132aの表面から突出した受け部132によって支持されているため、ボール部113と下半球部132aの表面との間にはグリース150が存在する僅かな隙間、すなわち、保持部135が確保されている。
【0031】
そして、車両が走行する際においては、ボールジョイント100のボールスタッド110は車体(車輪)の上下動に応じて一定の方向に揺動する。これにより、ボールシート130内に収容されたボール部113は、ボールシート130内にてボールスタッド110の揺動方向に対応する一定の方向に回転摺動する。この場合、ボールシート130における受け部134および同受け部134の周辺形状は精度良く成形されているため、ボールシート130に形成された総ての受け部134は略均等の押圧力でボールスタッド110のボール部113に接触している。
【0032】
また、ボールスタッド110のボール部113とボールシート130の受け部134とは、保持部135内に保持されたグリース150によって潤滑される。このため、ボールシート130の受け部134にボールスタッド110におけるボール部113が接触しなかったり、過度な圧力で押し付けられたりすることがないとともにグリース150による潤滑によって、ボール部113が摺動するベアリングシート130内の偏摩耗が抑制される。これにより、ボール部114と受け部134との摺動状態を良好に維持することができ、結果としてベアリングシート130の製品寿命の低下を抑制することができる。
【0033】
なお、ボールスタッド110のボール部113とボールシート130の摺動部132との間に存在するグリース150は、その一部がボール部113の回転摺動によってボールシート130の孔部133を介してソケット120の穴部122および開口部130a上に導かれる。しかし、ソケット120の穴部122およびボールシート130の開口部130aに導かれたグリース150は、ボール部111の回転摺動によって再びボールスタッド110のボール部113とボールシート130の摺動部132との間に導かれてボール部111と受け部134との潤滑に用いられる。
【0034】
上記接続方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ボールシート130におけるボールスタッド110のボール部113から荷重を受けつつ接触する受け部134は、ボールシート130におけるボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成されている。そして、この受け部134を潤滑するためのグリース150を保持する保持部135は、受け部134に隣接して形成されている。この場合、合成樹脂材を射出成形したボールシート130は、肉厚が薄い部分ほど射出成形後の収縮量が少ない。このため、ボールシート130に形成する受け部134の射出成形後の収縮量(変形量)を最小限に抑えることができる。これにより、設計値通りのボールシート130が成形され易くなり、ボールスタッド110のボール部113がボールシート130の受け部134に適切に接触するようになるため、ボールシート130の製品寿命を向上させることができる。また、ボールシート130を製造する過程においても、ボールシート130が設計値通りに成形され易くなるため、ボールシート130を射出成形する金型の成形や修正作業および射出成形の条件設定のための作業負担が軽減される。すなわち、本発明による受け部および保持部の配置方法によれば、ボールシート130、延いてはボールジョイント100の製品寿命および製造効率を向上させることができる。
【0035】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、受け部134は、ボールシート130の外形の一部を構成する円錐部131bの略中間部とボールシート130の内周部の一部を構成する下側半球部132aの略中間部との間の肉厚部分を中心として同肉厚部分を含む図示上側および図示下側にそれぞれ円周方向に沿って各1周ずつの合計3周分に亘って形成、換言すれば、球面状に形成された摺動部132の中心点Oを基点とした同中心部を含む水平面から所定の角度α,β,γの下側半球部132aの表面に円周方向に沿って並んで形成した。しかし、受け部134は、ボールシート130におけるボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成されていれば、上記実施形態に限定されるものではない。そして、この場合、受け部134の配置位置は、ボールシート130におけるボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成されていれば、その他の部分に形成されることを排除するものではない。
【0037】
また、上記実施形態によれば、受け部134は、下側半球部132aの表面から凸状に突出した形状に形成するとともに、各受け部134の周囲に凹んで存在する下側半球部132aの表面をグリース150を保持するための保持部135とした。しかし、受け部134は、ボールシート130におけるボールスタッド110の軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態で接触する形状であれば、上記実施形態に限定されるものではない。また、保持部135も、受け部134の表面(ボールスタッド110との接触面)から凹んで形成されてグリース150を保持可能な形状であれば、上記実施形態に限定されるものではい。例えば、受け部134を下側半球部132aの表面で構成するとともに、保持部135を受け部134(下側下半球部132a)の表面から凹状に窪んだディンプル形状とすることもできる。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0038】
また、上記実施形態によれば、受け部134は、ボールスタッド110のボール部113の表面と接触する接触面を平面形状とした。しかし、受け部134の表面形状は、ボールシート130におけるボールスタッド110の軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態で接触する形状であれば、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、受け部134を球面状に形成することもできる。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0039】
また、受け部134の大きさ、厚さおよび配置数もボール部113の大きさ、摺動抵抗および面圧(ボール部113から受ける押圧力)などの使用環境に応じて適宜決定すればよく、上記実施形態に限定されるものではないことは、当然である。
【0040】
また、上記実施形態においては、ボールジョイント100を車両のサスペンション機構に搭載した例について説明したが、当然、これに限定されるものではない。本発明に係るボールジョイント100およびボールシート130は、自動車などの車両のサスペンション機構の他、ステアリング機構などにも広く適用できるものである。また、本発明に係る受け部134および保持部135の配置方法を採用したボールシート130は、ボールスタッド110がソケット120を貫通した形態の所謂スフェリカルジョイント(ピロボールともいう)のボールシートとしても採用することができるものである。
【符号の説明】
【0041】
100…ボールジョイント、110…ボールスタッド、113…ボール部、120…ソケット、121…収容部、122…穴部、130…ベアリングシートとしてのボールシート、130a…開口部、131a…円筒部、131b…円錐部、131c…底部、132…摺動部、132a…下側半球部、133…孔部、134…受け部、135…保持部、136…プラグ、140…ダストカバー、150…グリース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のボールスタッドの先端部に形成されたボール部から同ボールスタッドの軸線方向の荷重を受けつつ摺動可能な状態で接触する受け部と、前記受け部より凹んで形成されて同受け部を潤滑するための潤滑剤を保持する保持部とを備え、前記ボールスタッドと同ボールスタッドを収容するソケットとの間に配置されるボールジョイント用ベアリングシートにおける製品寿命および製造効率を向上させるための前記受け部および前記保持部の配置方法であって、
前記受け部を、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおける前記ボールスタッドの前記軸線方向の荷重を受ける部分のうちで最も肉厚の薄い部分に形成し、
前記保持部を、前記受け部に隣接して形成したことを特徴とするボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。
【請求項2】
請求項1に記載したボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法において、
前記ボールジョイント用ベアリングシートは、前記ボールスタッドの前記軸線方向の荷重を前記ソケットに伝達する外周部が錘状に形成されており、
前記受け部は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおける前記錘状に形成された前記外周部に対向する内周面に形成されていることを特徴とするボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法において、
前記受け部は、前記ボールジョイント用ベアリングシートの内周面から突出した凸状に形成されていることを特徴とするボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。
【請求項4】
請求項3に記載したボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法において、
前記受け部は、前記ボールスタッドにおける前記ボール部に接触する部分が平面状に形成されていることを特徴とするボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法において、
前記保持部は、前記ボールジョイント用ベアリングシートの内周面から窪んだ凹状に形成されていることを特徴とするボールジョイント用ベアリングシートにおける受け部および保持部の配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−27237(P2011−27237A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176292(P2009−176292)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】