説明

ボールジョイント

【課題】ボールスタッド31の形状を複雑化させたり、重量を増加させたり、あるいは生産性を低下させたりせず、かつ多量のグリースを必要としないにも拘らず、水の侵入を確実に抑制して、前記ボールスタッド31の球頭部39の表面等に錆を生じにくいボールジョイント13を提供する。
【解決手段】ボールジョイント13のハウジング29の、球頭部39が収容される収容室32の開口は、前記ハウジング29の外周およびボールスタッド31の外周にそれぞれ一端および他端が取り付けられた筒状のブーツカバー41によって覆われている。前記ブーツカバー41の筒の内面に高分子吸水材層55が被覆されるか、または収容室32に充填されるグリースに吸水材が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にボールジョイントは、ボールスタッドの一端に設けた球頭部と、前記球頭部を覆う樹脂シートとを、ハウジングの、底が封止され他端が開口された収容室に収容する等して構成される。例えば自動車のステアリング装置のアウターボールジョイント等は、前記樹脂シートと球頭部とを前記開口を通して収容室に収容すると共にグリースを充填した状態で、前記開口に、その内径が球頭部の外径より小さいリングを嵌め合わせてかしめる等することにより、前記球頭部を抜け止めして構成される。
【0003】
またハウジングの開口は、収容室内に水や埃などの異物が侵入するのを防止するため、前記ハウジングの外周およびボールスタッドのロッドの外周にそれぞれ一端および他端が取り付けられた筒状のブーツカバーによって覆われているのが一般的である。
前記ブーツカバーは、通常、ゴム等の弾性材料によって筒状に一体形成される。前記筒の一端はハウジングの外周に外嵌され、バンドで締め付ける等して前記ハウジングの外周に固定される。また、筒の他端は厚肉で、かつその内径がボールスタッドのロッドの外径よりも小径のシールリップとされ、前記シールリップを、ブーツカバーを形成するゴム自体の弾性によってロッドの外周に圧接させて取り付けるのが一般的であり、これにより、ハウジングに対するボールスタッドの回転や揺動が許容された状態で、ブーツカバーにより泥水等の侵入が防止される。
【0004】
しかし前記構造では、特にボールスタッドの回転や揺動等が繰り返されてシールリップが摩耗したり亀裂を生じたりした際に、水がブーツカバーの筒の内部に侵入しやすく、侵入した水が球頭部と樹脂シートとの摺動面にまで達することで、前記摺動面を構成する球頭部の表面を錆びさせたりするおそれがある。
そこで通常は、たとえ水が侵入しても、前記水が摺動面まで簡単に侵入できないようにするため、ブーツカバーの筒内の空間をグリースで充填している(例えば特許文献1参照)。しかし前記筒内を充填するためには、球頭部の潤滑のために必要な量に比べて著しく多量のグリースを要するという問題がある。
【0005】
ボールスタッドのロッドの、シールリップが圧接される領域よりも筒の外側の位置にフランジを突設して、前記ロッドの表面を流下する水がシールリップに達するのを妨げたり、あるいはフランジによってシールリップを覆うようにして、自動車の走行時等に発生する飛沫がシールリップに達する確率を低下させたりすることによって、前記シールリップを通してブーツカバーの筒内に侵入する水の量を制限することが提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、かかる構成ではフランジを設ける分だけボールスタッドの重量が増加したり、ボールスタッドの形状が複雑化して生産性が低下したり、ボールスタッドの特に揺動が、前記フランジによって妨げられたりしやすくなるといった問題を生じる。
【0006】
ボールスタッドの、特に球頭部の表面を三価クロメート膜で被覆して錆びにくくすることも提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし三価クロメート膜を被覆する工程が増加する分、ボールスタッドの生産性が低下するという問題を生じる。
【特許文献1】特開2002−227830号公報
【特許文献2】特開平11−223210号公報
【特許文献3】特開2007−182913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ボールスタッドの形状を複雑化させたり、重量を増加させたり、あるいは生産性を低下させたりせず、かつ多量のグリースを必要としないにも拘らず、水の侵入を確実に抑制して、前記ボールスタッドの球頭部の表面等に錆を生じにくいボールジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、一端に球頭部(39)を有するボールスタッド(31)と、前記球頭部を覆う樹脂シート(30)と、前記樹脂シートおよび球頭部を収容しグリースが充填される、一端が封止され他端が開口された収容室(32)を有するハウジング(29)とを備え、前記収容室の開口は、前記ハウジングの外周およびボールスタッドの外周にそれぞれ一端および他端が取り付けられた筒状のブーツカバー(41)によって覆われており、(1) 前記ブーツカバーの筒の内面に高分子吸水材層(55)を被覆する、および(2) 前記グリースに吸水材を含有させる、のうち少なくとも一方の処理がされていることを特徴とするボールジョイント(13)を提供するものである(請求項1)。なお、カッコ内の英数字は後述の実施の形態における対応構成要素等を表す。
【0009】
本発明によれば、例えばシールリップを通してブーツカバーの筒内に水が侵入しても、侵入した水を前記(1)の高分子吸水材層、および/または(2)の吸水材によって吸水して保持させることができ、前記水が球頭部と樹脂シートとの摺動面にまで達して、前記摺動面を構成する球頭部の表面等を錆びさせるのを防止できる。
そのためボールスタッドの形状や構造は従来同様でよく、またブーツカバーの筒内を多量のグリースで充填する必要がなくなる。したがって本発明によれば、ボールスタッドの形状を複雑化させたり、重量を増加させたり、あるいは生産性を低下させたりせず、かつ多量のグリースを必要としないにも拘らず、水の侵入を確実に抑制して、前記ボールスタッドの球頭部の表面等に錆を生じにくいボールジョイントを提供することが可能となる。
【0010】
本発明によれば、樹脂シートおよび球頭部を収容しグリースを充填した収容室の開口に、あとから吸水材を撒布することにより、前記吸水材を、前記収容室の開口近傍のグリースに主として含有させることができる(請求項2)。
この場合、ブーツカバーの筒内に侵入した水を、収容室の開口近傍のグリースに集中的に含有させた吸水材によって効率的に吸水、保持させることができる。そのため前記水が前記摺動面にまで達して球頭部の表面等を錆びさせるのを、さらに確実に防止できる。
【0011】
本発明によれば、吸水材として高分子吸水材をグリースに含有させることができる(請求項3)。
この場合、高分子吸水材は単位重量あたりの吸水量が大きいため、ブーツカバーの筒内に侵入した水を効率的に吸水、保持させることができる。そのため前記水が前記摺動面にまで達して球頭部の表面等を錆びさせるのを、さらに確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るボールジョイントを備えるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。ステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、転舵輪(図示せず)を転舵する転舵機構としてのラックアンドピニオン機構3とを備えている。
【0013】
ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介して、ラックアンドピニオン機構3に連結されている。ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介してラックアンドピニオン機構3に伝達される。
ラックアンドピニオン機構3は、ピニオン軸6およびラック軸7を備えている。ピニオン軸6は、中間軸5に連結された軸部8と、この軸部8の先端に連結されたピニオン9とを含む。ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介してピニオン軸6に伝達される。
【0014】
ラック軸7は、車両の左右方向に沿って延びている。ラック軸7には、ラック10が形成されている。ピニオン9およびラック10は、互いに噛み合わされている。ピニオン軸6の回転は、ラック10およびピニオン9により、ラック軸7の軸方向移動に変換される。
ラック軸7は筒状のハウジング11に挿通されている。ラック軸7の両端部は、それぞれハウジング11から突出している。ラック軸7の各端部には、インナーボールジョイント12を介して、タイロッド14の一端が連結されている。また、タイロッド14の他端(いわゆるタイロッドエンド)には、アウターボールジョイント13が設けられている。図示はしないが、転舵輪は、ナックルアームを介してアウターボールジョイント13に連結されている。
【0015】
また、ハウジング11の各端部には、筒状のラックブーツ15が配置されている。各ラックブーツ15の一端は、ハウジング11の端部に外嵌しており、当該端部に固定されている。また、各ラックブーツ15の他端は、タイロッド14に外嵌しており、当該タイロッド14に固定されている。ハウジング11の端部およびインナーボールジョイント12は、対応するラックブーツ15により覆われている。このラックブーツ15によって、水や埃などの異物が、ハウジング11内やインナーボールジョイント12内に侵入することが防止されている。
【0016】
操舵操作(回転操作)では、前述したように、ステアリングホイール2の回転がステアリングシャフト4および中間軸5によってピニオン軸6に伝達され、ピニオン9の回転がラック10を通じてラック軸7の軸方向移動に変換される。そのときのラック軸7の軸方向移動は、インナーボールジョイント12を介してタイロッド14に伝えられ、さらに、タイロッド14の動きがアウターボールジョイント13を介してナックルアームへと伝えられる。
【0017】
図2は、インナーボールジョイント12およびアウターボールジョイント13を含むステアリング装置1の一部の断面図である。
インナーボールジョイント12は、ラック軸7の端部に連結されるハウジング16と、このハウジング16に保持された樹脂シート17およびボールスタッド18とを備えている。ハウジング16は、樹脂シート17およびボールスタッド18を収容する収容室19と、ラック軸7の端部に連結される連結部20とを含む。収容室19は、底が封止された筒状であり、入口を有している。また、樹脂シート17はカップ状であり、周壁部21と底部22とを含む。樹脂シート17は、底部22が収容室19の底に対向するように配置されている。
【0018】
ボールスタッド18は、球面状の外表面を有する球頭部23と、この球頭部23から突出するように延びるロッド24とを一体的に備えている。球頭部23は、樹脂シート17に覆われ嵌合されており、ロッド24は、収容室19から突出している。タイロッド14の一部は、ボールスタッド18によって構成されている。すなわち、タイロッド14は、ボールスタッド18と、このボールスタッド18のロッド24に連結された連結軸25とによって構成されている。
【0019】
収容室19の入口は、樹脂シート17で覆われた球頭部23を収容した後にかしめられて小径とされて、上記球頭部23および樹脂シート17が抜け止めされている。
ロッド24の先端部(図2では右端部)には、雄ねじ部26が形成されている。雄ねじ部26は、連結軸25に形成された雌ねじ孔27に螺合されている。雄ねじ部26が雌ねじ孔27に螺合されることにより、連結軸25がボールスタッド18に同軸的に連結されている。
【0020】
また、雄ねじ部26にはロックナット28が螺合されている。ボールスタッド18および連結軸25は、ロックナット28によって互いに固定されている。また、雌ねじ孔27に対する雄ねじ部26のねじ込み量は、ロックナット28によって調節されている。雌ねじ孔27に対する雄ねじ部26のねじ込み量を調節することにより、転舵輪のトー角を調節することができる。
【0021】
球頭部23は、樹脂シート17を介して収容室19に包み込まれるように保持されている。すなわち、ボールスタッド18は、樹脂シート17を介してハウジング16に保持されている。樹脂シート17の内周面は、球頭部23の外表面に沿う形状とされている。球頭部23は、樹脂シート17に対して摺動可能となっている。樹脂シート17と球頭部23との間には、グリース等の潤滑剤が充填されている。ボールスタッド18は、球頭部23を支点として、ハウジング16に対して揺動可能となっている。したがって、ラック軸7(図1参照)の軸方向への動きは、軸方向へ直線的にタイロッド14に伝達されるのではなく、インナーボールジョイント12によって揺動する角度方向へ伝達される。
【0022】
一方、アウターボールジョイント13は、ハウジング29と、このハウジング29に保持された樹脂シート30およびボールスタッド31とを備えている。ハウジング29は、一端(図2では下端)が封止され他端が開口された略筒状の収容室32を含む。収容室32は、例えば連結軸25の先端部に一体的に形成されている。
樹脂シート30はカップ状であり、周壁部36と底部37とを含む。樹脂シート30は、周壁部36が収容室32の筒の内周面に沿い、かつ底部37が収容室32の底に対向するように配置されている。
【0023】
ボールスタッド31は、球面状の外表面を有する球頭部39と、この球頭部39から上方へ突出するように延びるロッド40とを一体的に備えている。球頭部39は、樹脂シート30に覆われ嵌合されており、ロッド40は、収容室32から突出している。球頭部39は、樹脂シート30を介してハウジング29に保持されている。すなわち、ボールスタッド31は、樹脂シート30を介してハウジング29に保持されている。
【0024】
収容室32の他端(図2では上端)側の開口には、その内径が球頭部39の外径より小さいリング38がかしめられて、その開口径が球頭部39より小径とされ、前記球頭部39および樹脂シート30が抜け止めされている。樹脂シート30は、前記リング38と収容室32の底との間で保持されている。
樹脂シート30の内周面は、球頭部39の外表面に沿う凹面とされている。球頭部39は、樹脂シート30に対して摺動可能となっている。樹脂シート30と球頭部39との間には、グリース等の潤滑剤が充填されている。ボールスタッド31は、球頭部39を支点としてハウジング29に対して揺動可能となっている。また、ボールスタッド31は、ロッド40の中心軸線まわりに回転可能となっている。アウターボールジョイント13により、タイロッド14の動きをその揺動する角度方向へ向けてナックルアームに伝達する。
【0025】
ハウジング29およびボールスタッド31には、筒状のブーツカバー41が取り付けられている。ブーツカバー41の一端は、ハウジング29の外周である収容室32の端部に外嵌しており、当該端部に固定されている。また、ブーツカバー41の他端は厚肉で、かつその内径がボールスタッド31のロッド40の外径よりも小径のシールリップ33とされ、前記シールリップ33が、ブーツカバー41を形成するゴム自体の弾性によってロッド40の外周に圧接されて、ブーツカバー41の他端がロッド40に取り付けられている。収容室32の開口およびロッド40の一部は、ブーツカバー41によって覆われている。このブーツカバー41によって、水や埃などの異物が、アウターボールジョイント13の収容室32内に侵入することが防止されている。
【0026】
次に、この実施形態に係るボールジョイントの具体的構成について、アウターボールジョイント13を例にとって説明する。
図3は、本発明の一実施の形態にかかるアウターボールジョイント13の概略構成を示す一部断面図である。
図3を参照して、アウターボールジョイント13は、ボールスタッド31と、ハウジング29と、樹脂シート30とを備えている。ボールスタッド31は、例えば鋼等の金属製の単一の部材を用いた一体成形品であり、球頭部39とロッド40とを含んでいる。ロッド40の中心軸線L1上に球頭部39の中心Cが配置されている。
【0027】
ハウジング29は、球頭部39を収容し、かつボールスタッド31を、樹脂シート30を介して、上記球頭部39を支点として、中心軸線L1まわりに回転可能で、かつ中心Cを中心として揺動可能に支持するものである。ハウジング29は、一端(図3では下端)が封止され他端が開口された略筒状の収容室32を含む。収容室32は、連結軸25の先端部に一体的に形成されている。収容室32と連結軸25は、例えば鋼等の金属製の単一の部材を用いた一体成形品である(図2参照)。
【0028】
収容室32は、球頭部39を取り囲む内周面44が筒状とされた周壁42と、周壁42の軸方向の一端に連なって筒の一端を封止して底を構成する底壁43とを含んでいる。収容室32の底は、底壁43の一側面(内底面)45と、この内底面45側から周壁42の他端(先端)側へ向けて開口径が大きくなる略円錐状とされたテーパー面46とを含み、テーパー面46が内底面45および内周面44と連なって、これら内底面45、テーパー面46および内周面44によって、球頭部39および樹脂シート30を収容する収容空間が区画されている。内底面45、テーパー面46および内周面44は、球頭部39の表面に対向している。
【0029】
内底面45は、ハウジング29の中心軸線L2と直交方向の形状が、前記中心軸線L2を中心とする円形に形成されている。内底面45、テーパー面46および内周面44は、前記中心軸線L2を中心とする同心に形成されている。
周壁42の他端(図3では上端)は開口されており、前記開口を通して球頭部39および樹脂シート30が収容室32内に収容されている。開口にはロッド40が挿通されている。開口は、中心軸線L2と直交方向の形状が、前記中心軸線L2を中心とする円形に形成されている。開口付近は、内周面44よりも内径の大きい円形の拡径部47とされ、前記拡径部47に、その内径が球頭部39の外径より小さい円形のリング38がかしめられて、開口径が球頭部39より小径とされ、前記球頭部39および樹脂シート30が抜け止めされている。
【0030】
すなわち拡径部47と内周面44との間には環状の段部48が設けられている。拡径部47、段部48は内周面44と同心に形成されている。拡径部47の内径は、リング38の外径と一致している。拡径部47の、中心軸線L2方向の幅は、リング38の厚みより大きく設定されている。
アウターボールジョイント13の組み立てに際しては、まずボールスタッド31の球頭部39と、前記球頭部39を覆う樹脂シート30とを、リング38をかしめる前の上端の開口を通して収容室32内に挿入する。次いで、前記樹脂シート30をリング38によって収容室32の内底面45の方向に押圧しながら、前記収容室32の上端の拡径部47にリング38を挿入して段部48に当接させた後、前記拡径部47の口縁49をかしめてリング38を固定する。これにより収容室32の開口径が球頭部39より小径とされて、前記球頭部39および樹脂シート30が抜け止めされる。また樹脂シート30が、前記リング38と収容室32の底との間で与圧された状態で保持される。
【0031】
樹脂シート30は、外周が収容室32の内周面44に沿う筒状とされた周壁部36の一端に、前記収容室32の底に対向する底部37が設けられ、他端が、ロッド40が挿通される開口とされたカップ状にワンピース形成されている。底部37は、収容室32の底のうちテーパー面46に沿うテーパー状に形成されている。
樹脂シート30のうち底部37の内面は、球頭部39の表面(球面)に沿う略半球状に形成されている。また周壁部36の内面は、先に説明したようにリング38をかしめて固定する際に、前記球頭部39の球面に沿う凹面に弾性変形される。そのため、前記樹脂シート30がハウジング29によって保持されると共に、球頭部39が、前記樹脂シート30によって摺動可能に支持される。
【0032】
樹脂シート30の底部37の中心には通孔51が形成されている。通孔51は、樹脂シート30の中心軸L3と同心に形成されている。通孔51が設けられていることにより、球頭部39から樹脂シート30に力が作用したときにその変形を促して衝撃を緩和することができる。
収容室32の内底面45の中心には円錐状の凹部52が形成されている。凹部52は、ハウジング29の中心軸線L2と同心に形成されている。前記中心軸線L2が、樹脂シート30の中心軸線L3と一致している図3の状態、すなわち収容室32の収容空間に樹脂シート30を収容した状態において、前記凹部52は、樹脂シート30の通孔51と連通される。連通した通孔51および凹部52はグリース溜まりとして機能させることができる。
【0033】
ハウジング29およびボールスタッド31には、筒状のブーツカバー41が取り付けられている。ブーツカバー41の一端(図3では下端)は、収容室32の上端側の端部外集に設けた環状の凹溝53に外嵌され、その外側に外嵌された固定のためのバンド54によって当該端部に固定されている。またブーツカバー41の他端(図3では上端)は厚肉で、かつその内径がボールスタッド31のロッド40の外径よりも小径のシールリップ33とされ、前記シールリップ33を、ブーツカバー41を形成するゴム自体の弾性によってロッド40の外周に圧接させて取り付けられている。このブーツカバー41によって、水や埃などの異物が、アウターボールジョイント13の収容室32内に侵入することが防止されている。
【0034】
ブーツカバー41の筒の内面には高分子吸水材層55が被覆されている。これにより、例えばボールスタッド31の回転や揺動等が繰り返されてシールリップ33が摩耗したり亀裂を生じたりした際に、水がブーツカバー41の筒の内部に侵入したとしても、侵入した水を前記高分子吸水材層55によって吸水して保持させることができ、前記水が球頭部39と樹脂シート30との摺動面にまで達して、前記摺動面を構成する球頭部39の表面等を錆びさせるのを防止できる。
【0035】
高分子吸水材層55は、例えばポリアクリル酸、デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の、分子内に親水性基を有する高分子を任意の割合で架橋させた高分子吸水材(いわゆる高吸水性高分子)によって形成される。前記高分子吸水材からなる高分子吸水材層55をブーツカバー41の筒の内面に被覆するためには、例えば架橋前の前記高分子をブーツカバー41の筒の内面に被覆したのち架橋させたり、あらかじめ架橋させた高分子吸水材の粒子を任意のバインダ樹脂と混合した混合物をブーツカバー41の筒の内面に被覆したりすればよい。
【0036】
本発明では、前記高分子吸水材層55に代えて、あるいは高分子吸水材層55とともに、収容室32に充填されるグリースに吸水材を含有させてもよい。これにより、先に説明したようにシールリップ33が摩耗したり亀裂を生じたりした際に、水がブーツカバー41の筒の内部に侵入したとしても、侵入した水をグリースに含有させた吸水材によって吸水して保持させることができ、前記水が球頭部39と樹脂シート30との摺動面にまで達して、前記摺動面を構成する球頭部39の表面等を錆びさせるのを防止できる。
【0037】
前記吸水材としては、例えばシリカゲル等の無機系の吸水材や多孔質体等も使用可能であるが、特に先に説明した高分子吸水材が好ましい。前記高分子吸水材は、その他の吸水材に比べて単位重量あたりの吸水量が大きいため、ブーツカバーの筒内に侵入した水を効率的に吸水、保持させることができる。そのため前記水が前記摺動面にまで達して球頭部39の表面等を錆びさせるのを、さらに確実に防止できる。
【0038】
前記高分子吸水材等の吸水材は、例えば粒子状、粉末状としたものを、樹脂シート30および球頭部39を収容しグリースを充填した収容室32の開口にあとから撒布することにより、前記収容室32の開口近傍のグリースに主として含有させるのが好ましい。これにより、ブーツカバー41の筒内に侵入した水を、収容室32の開口近傍のグリースに集中的に含有させた吸水材によって効率的に吸水、保持させることができる。そのため前記水が前記摺動面にまで達して球頭部39の表面等を錆びさせるのを、さらに確実に防止できる。
【0039】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。また本発明のボールジョイントは、タイロッドとナックルアームとを連結する用途以外の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイントを備えるステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】インナーボールジョイントおよびアウターボールジョイントを含むステアリング装置の一部の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかるアウターボールジョイントの概略構成を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0041】
13:ボールジョイント(アウターボールジョイント)、29:ハウジング、30:樹脂シート、31:ボールスタッド、32:収容室、39:球頭部、41:ブーツカバー、55:高分子吸水材層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に球頭部を有するボールスタッドと、
前記球頭部を覆う樹脂シートと、
前記樹脂シートおよび球頭部を収容しグリースが充填される、一端が封止され他端が開口された収容室を有するハウジングとを備え、
前記収容室の開口は、前記ハウジングの外周およびボールスタッドの外周にそれぞれ一端および他端が取り付けられた筒状のブーツカバーによって覆われており、
(1) 前記ブーツカバーの筒の内面に高分子吸水材層を被覆する、および
(2) 前記グリースに吸水材を含有させる、
のうち少なくとも一方の処理がされていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
樹脂シートおよび球頭部を収容しグリースを充填した収容室の開口に、あとから吸水材を撒布することにより、前記吸水材を、前記収容室の開口近傍のグリースに主として含有させている請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
グリースに含有させる吸水材が高分子吸水材である請求項1または2に記載のボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121767(P2010−121767A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298334(P2008−298334)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】