説明

ボールジョイント

【課題】ホルダを樹脂製とした場合であっても十分な強度と耐久性を確保することができるボールジョイントを提供すること。
【解決手段】リンクロッド10の先端に設けられた球状のボール部2と、該ボール部2が挿入可能な開口部3aを有する球状凹部3Aを備える樹脂製のホルダ3とで構成され、ホルダ3の球状凹部3Aにボール部2を摺動可能に装着することによってリンクロッド10とリンクプレート20とを回動可能に連結するボールジョイント1において、ホルダ3の球状凹部3Aの開口部3aから屈曲部3bによって開口部3aの開口方向とは反対側に折り返されて延設された円筒状の弾性腕部3Bを球状凹部3Aの外周側に設け、該弾性腕部3Bにリンクプレート10への嵌合溝(固定部)3cを形成するとともに、球状凹部3Aの外周面と弾性腕部3Bの内周面との間に球状凹部3Aの撓みを許容する間隙δを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンク機構のリンクロッドとリンクプレートとを回動可能に連結するためのボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両のワイパー装置や車高検出装置等に設けられるリンク機構には軸受機構としてボールジョイントが使用されており、このボールジョイントによってリンクロッドとリンクプレートとが回動可能に連結されている。具体的には、ボールジョイントは、リンクロッドの先端に設けられた球状のボール部と、リンクプレートに取り付けられたホルダとで構成されており、ホルダの球状凹部にボール部を摺動可能に装着することによってリンクロッドとリンクプレートとが回動可能に連結される。
【0003】
ところで、従来のボールジョイントには、ボール部を鉄球で構成し、この鉄球をホルダに組み付けた後に抜け止め加工するもの、ホルダをダイカストによって一体鋳造し、このホルダをリンクプレートにナットで固定するための取付ネジ部を溶接するもの等がある。
【0004】
他方、車両のワイパー装置等の比較的軽量なワイパーアーム等を駆動する装置のリンク機構に使用されるボールジョイントに関して、特許文献1には、ピボットブッシュ(ホルダ)を樹脂で構成し、該ピボットブッシュの球形ピボットを組み付ける凹球面の上部球面に複数のスリットを形成することによって複数の弾性薄片を形成し、これらの弾性薄片によって球形ピボットを押圧してこれを保持する構成が議案されている。
【0005】
しかしながら、上記構成によれば、弾性薄片を形成するために樹脂製のピボットブッシュの凹球面に複数のスリットを形成する必要があるため、該ピボットブッシュが取り付けられたリンクプレートの揺動によって負荷が掛かる箇所のスリットに応力集中による亀裂(クラック)が発生し易く、ピボットブッシュの耐久性が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献2には、ボールリテーナ(ホルダ)の弾性薄片のうち、大きな負荷が掛かる弾性薄片の厚さを厚くしてその強度を他の弾性薄片よりも大きくする構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭63−095965号公報
【特許文献2】特開平7−117629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2において提案された構成においても、ボールリテーナ(ホルダ)への複数のスリットの形成は不可欠であるため、ボールリテーナに十分な耐久性を得ることができないという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、ホルダを樹脂製とした場合であっても十分な強度と耐久性を確保することができるボールジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
リンクロッドの先端に設けられた球状のボール部と、
リンクプレートに取り付けられ、前記ボール部が挿入可能な開口部を有する球状凹部を備える樹脂製のホルダと、
で構成され、前記ホルダの球状凹部に前記ボール部を摺動可能に装着することによって前記リンクロッドと前記リンクプレートとを回動可能に連結するボールジョイントにおいて、
前記ホルダの球状凹部の開口部から屈曲部によって開口部の開口方向とは反対側に折り返されて延設された円筒状の弾性腕部を前記球状凹部の外周側に設け、該弾性腕部に前記リンクプレートへの固定部を形成するとともに、前記球状凹部の外周面と前記弾性腕部の内周面との間に前記球状凹部の撓みを許容する間隙を形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ホルダの球状凹部の開口部を前記ボール部の外径よりも小径とするとともに、該開口部の周囲に、前記ボール部の挿入方向に向かって縮径するよう傾斜した挿入ガイド面を有する膨出部を形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ホルダの球状凹部の外周面に、前記弾性腕部の屈曲部に連接する平面部を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ホルダの弾性腕部にスリットを形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、ホルダの球状凹部とその外側に設けられた弾性腕部とを屈曲部によって連接し、両者間に球状凹部の撓みを許容する空隙を形成したため、ホルダの球状凹部の開口部からリンクロッドのボール部を挿入することによって、ホルダの球状凹部が広がる方向に撓んでボール部の挿入が許容され、該ボール部のホルダへの組み付けを容易に行うことができる。このように、ホルダにスリットを形成することなくボール部をホルダの球状凹部に挿入することができるため、スリットの応力集中によるホルダの破損等の問題が発生せず、該ホルダの強度が高められて当該ボールジョイントの耐久性が高められる。そして、リンクロッドのボール部がホルダの球状凹部に挿入されると、球状凹部がその弾性によって元の形状に復元してボール部を確実に保持するとともに、ボール部の動きが該ボール部を保持するホルダの球状凹部の空隙内での移動(撓み)によって吸収されるため、ホルダに大きな負荷が作用することがなく、ボール部のホルダの球状凹部からの抜けが確実に防がれる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、リンクロッドのボール部をホルダの球状凹部に挿入する際、該ボール部をホルダの挿入ガイド面に沿って球状凹部の開口部まで案内することができるため、専用の治具を用いることなく、ボール部のホルダの球状凹部への挿入を容易に且つ作業性良く行うことができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、ホルダの球状凹部の外周面に形成された平面部によって球状凹部と弾性腕部との間に比較的大きな空隙を形成することができるため、ボール部を保持したホルダの球状凹部の空隙内で許容される撓み量(動き量)が大きくなってボール部の球状凹部への挿入が一層容易化するとともに、該ボール部の球状凹部からの抜けが一層確実に防がれる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、ホルダの弾性腕部に形成されたスリットによって該弾性腕部が弾性変形し易くなるため、この弾性腕部に形成された固定部によるホルダのリンクプレートへの固定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リンクロッドとリンクプレートとの本発明の実施の形態1に係るボールジョイントによる連結構造を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るボールジョイントにおけるボール部のホルダへの組付要領を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るボールジョイントのホルダの正面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るボールジョイントのホルダの平面図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るボールジョイントのホルダの底面図である。
【図7】図5のB−B線断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るボールジョイントのホルダの正面図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
<実施の形態1>
図1はリンクロッドとリンクプレートとの本発明の実施の形態1に係るボールジョイントによる連結構造を示す平面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は本発明の実施の形態1に係るボールジョイントにおけるボール部のホルダへの組付要領を示す断面図、図4はホルダの正面図、図5は同ホルダの平面図、図6は同ホルダの底面図、図7は図5のB−B線断面図である。
【0021】
本実施の形態に係るボールジョイント1は、車両の車高検出装置に設けられたリンク機構においてリンクロッド10とリンクプレート20とを回動可能に連結するものであって、図2に示すように、金属製のリンクロッド10のL字状に屈曲する先端に一体に設けられた球状のボール部2と、金属製のリンクプレート20の一端に取り付けられた樹脂製のホルダ3とで構成されている。ここで、ホルダ3の構成の詳細を図4〜図7に基づいて以下に説明する。
【0022】
ホルダ3の中心部には、前記ボール部2が上方から挿入可能な開口部3aを有する球状凹部3Aが設けられており、この球状凹部3Aの外周側には下方が開口する円筒状の弾性腕部3Bが屈曲部3bによって連設された状態で同心状に設けられている。より詳細には、弾性腕部3Bは、球状凹部3Aから屈曲部3bによって開口部3aの開口方向(図7の上方)とは反対側(図7の下方)に断面逆U字状に折り返されて延設されることによって球状凹部3Aの外周側に同心状に形成されている。
【0023】
そして、ホルダ3の弾性腕部3Bの外周には、前記リンクプレート20への固定部としての嵌合溝3cが全周に亘って形成されており、この嵌合溝3cがリンクプレート20の端部に形成された円孔20aに嵌合することによってホルダ3がリンクプレート20の一端に固定されている。尚、ホルダ3をその嵌合溝3cがリンクプレート20の円孔20aに嵌合するよう樹脂によってアウトサート成形しても良い。
【0024】
又、図6及び図7に示すように、ホルダ3の球状凹部3Aの外周面は弾性腕部3Bの屈曲部3bに連接する平面部3dを形成しており、この平面部3dと弾性腕部3Bの内周面との間には円環状の空隙δが形成されており、この空隙δによって球状凹部3Aの撓みが許容されるよう構成されている。
【0025】
ところで、図7に示すように、ホルダ3の球状凹部3Aの開口部3aはリンクロッド10のボール部2の外径よりも小径に設定されており、該開口部3aの周囲には、ボール部2の挿入方向(図7の下方)に向かって縮径する(開口部3aから上方に向かって漏斗状に広がる)よう傾斜したテーパ状の挿入ガイド面3eを有する膨出部3Cが形成されている。
【0026】
以上のように構成されたホルダ3の球状凹部3Aの開口部3aからリンクロッド10のボール部2を図3に示すように上方から挿入して該ボール部2をホルダ3の球状凹部3Aに装着することによって、リンクロッド10とリンクプレート20とがボールジョイント1によって図2に鎖線にて示す範囲を図示矢印方向に回動可能に連結される。
【0027】
而して、本発明に係るボールジョイント1においては、ボール部2のホルダ3の球状凹部3Aへの挿入に際して、ホルダ3の球状凹部3Aとその外側に設けられた弾性腕部3Bとを屈曲部3bによって連接し、両者間に球状凹部3Aの撓みを許容する空隙δを形成したため、図3に示すようにホルダ3の球状凹部3Aの開口部か3aらリンクロッド10のボール部2を挿入することによって、ホルダ3の膨出部3Cが径方向外方に押圧されて球状凹部3Aが広がる方向(図3の矢印方向(径方向外方))に撓むため、ボール部2の挿入が許容され、該ボール部2のホルダ3への組み付けが容易になされる。このように、ホルダ3にスリットを形成することなくボール部2をホルダ3の球状凹部3Aに挿入することができるため、スリットの応力集中によるホルダ3の破損等の問題が発生せず、該ホルダ3の強度が高められて当該ボールジョイント1の耐久性が高められる。特に、本実施の形態では、ホルダ3の開口部3aの周囲に挿入ガイド面3eを形成したため、リンクロッド10のボール部2をホルダ3の球状凹部3Aに挿入する際、該ボール部2をホルダ3の挿入ガイド面3eに沿って球状凹部3Aの開口部3aまで案内することができ、専用の治具を用いることなく、ボール部2のホルダ3の球状凹部3Aへの挿入を容易に且つ作業性良く行うことができる。
【0028】
そして、リンクロッド10のボール部2がホルダ3の球状凹部3Aに挿入されると、球状凹部3Aがその弾性によって元の形状に復元してボール部2を確実に保持するとともに、ボール部2の動きが該ボール部2を保持するホルダ3の球状凹部3Aの空隙δ内での移動(撓み)によって吸収されてホルダ3に大きな負荷が作用することがないため、ボール部2のホルダ3の球状凹部3Aからの抜けが確実に防がれる。特に、本実施の形態では、ホルダ3の球状凹部3Aの外周面に形成された平面部3dによって球状凹部3Aと弾性腕部3Bとの間に比較的大きな空隙δを形成することができるため、ボール部2を保持したホルダ3の球状凹部3Aの空隙δ内で許容される撓み量(動き量)が大きくなってボール部2の球状凹部3Aへの挿入が一層容易化するとともに、該ボール部2の球状凹部3Aからの抜けが一層確実に防がれる。
【0029】
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2を図8及び図9に基づいて以下に説明する。
【0030】
図8は本発明の実施の形態2に係るボールジョイントのホルダの平面図、図9は図8のC−C線断面図であり、これら図においては図5及び図7において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0031】
本実施の形態は、図9に示すようにホルダ3の弾性腕部3Bに屈曲部3bから嵌合溝3cに至るスリット3fを図8に示すように周方向に3つ、等角度ピッチ(120°ピッチ)で形成したことを特徴としており、ホルダ3の他の構成は前記実施の形態1のそれと同じである。尚、3つのスリット3fを周方向に不等ピッチで形成しても良い。又、本実施の形態では、ホルダ3の弾性腕部3Bに3つのスリット3fを形成したが、スリット3fの数は任意であり、1つでも複数でも良い。
【0032】
而して、上述のようにホルダ3の弾性腕部3Bに3つのスリット3fを形成することによって該弾性腕部の剛性が下がるため、弾性腕部3Bが弾性変形し易くなる、このため、ホルダ3をリンクプレート20(図2参照)に取り付ける際、弾性腕部3Bの外周に形成された嵌合溝3cをリンクプレート20の円孔20aに嵌め込み易くなり、ホルダ3のリンクプレート20への固定を容易に行うことができる。そして、本実施の形態に係るホルダ3の他の構成は前記実施の形態1のそれと同じであるため、本実施の形態においても前記実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0033】
尚、本実施の形態では、弾性腕部3Bにスリット3fを設けているが、ボール部2が収容される球状凹部3Aに至らないようにスリット3fを形成することによって、ボール部2が揺動するときの負荷は屈曲部3bによって吸収されるため、スリット3fに負荷が及ぶことはない。従って、リンクロッド10又はリンクプレート20が作動するときに生じる負荷によってボール部2がホルダ3の球状凹部3Aから抜けることはない。又、ホルダ3の弾性腕部3Bは円筒状に形成されているため、これにスリット3fを形成しても、リンクロッド10又はリンクプレート20が作動するときに生じる負荷によってリンクプレート20からホルダ3が外れることはない。
【0034】
ところで、以上の実施の形態では、リンクロッド10とその先端に設けられたボール部2及びリンクプレート20を金属製としたが、これらを樹脂で構成しても良く、ホルダ3とリンクプレート20とを樹脂にて一体的に形成しても良い。又、以上は本発明を車両の車高検出装置のリンク機構に用いられるボールジョイントに対して適用した形態について説明したが、本発明は、車両のワイパー装置の他、任意の装置のリンク機構に用いられるボールジョイントに対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1 ボールジョイント
2 ボール部
3 ホルダ
3A ホルダの球状凹部
3B ホルダの弾性腕部
3C ホルダの膨出部
3a 球状凹部の開口部
3b 弾性腕部の屈曲部
3c 弾性腕部の嵌合溝(固定部)
3d 球状凹部の平面部
3e 膨出部の挿入ガイド面
3f 弾性腕部のスリット
10 リンクロッド
20 リンクプレート
20a リンクプレートの円孔
δ 空隙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクロッドの先端に設けられた球状のボール部と、
リンクプレートに取り付けられ、前記ボール部が挿入可能な開口部を有する球状凹部を備える樹脂製のホルダと、
で構成され、前記ホルダの球状凹部に前記ボール部を摺動可能に装着することによって前記リンクロッドと前記リンクプレートとを回動可能に連結するボールジョイントにおいて、
前記ホルダの球状凹部の開口部から屈曲部によって開口部の開口方向とは反対側に折り返されて延設された円筒状の弾性腕部を前記球状凹部の外周側に設け、該弾性腕部に前記リンクプレートへの固定部を形成するとともに、前記球状凹部の外周面と前記弾性腕部の内周面との間に前記球状凹部の撓みを許容する間隙を形成したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
前記ホルダの球状凹部の開口部を前記ボール部の外径よりも小径とするとともに、該開口部の周囲に、前記ボール部の挿入方向に向かって縮径するよう傾斜した挿入ガイド面を有する膨出部を形成したことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記ホルダの球状凹部の外周面に、前記弾性腕部の屈曲部に連接する平面部を形成したことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項4】
前記ホルダの弾性腕部にスリットを形成したことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167769(P2012−167769A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30472(P2011−30472)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000138462)株式会社ユーシン (241)
【Fターム(参考)】