説明

ボールジョイント

【課題】ダストカバーの膜部が強く引っ張られてもボールスタッドに対するダストカバーの適正な組み付け状態を維持して良好なシール性を発揮でき、また、ボールスタッドの揺動可能範囲を維持したままダストカバーのシール性を向上できるボールジョイントを提供する。
【解決手段】球頭部を有するボールスタッド12と、球頭部を回動可能に収容し一方に開口部を有するソケットと、ダストカバー36とを備えるボールジョイントに於いて、ボールスタッド12は、第1軸部20、外径が第1軸部20より大きい鍔部22、外径が鍔部22より小さい第2軸部24を設け、ダストカバー36は、第1軸20に嵌合する内周部44、第2軸部24に密着するリップ部48を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用リンク機構の連結装置として使用されるボールジョイントに係り、特に、ダストカバーのシール性が低下しないボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンション機構やステアリング機構に使用されるボールジョイントとしては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
図8は、特許文献1に記載された従来のボールジョイントを示す説明図である。図8において、ボールジョイント100は、ゴム等の弾性材よりなるダストカバー106の小径開口部110の端部110aに、ボールスタッド102のフランジ部104の外周面104bの全周にわたり弾性で密着するリップ部(円環状突起)112を設け、ダストカバー106の弾性による付勢力で小径開口部110の端部110aをボールスタッド102のフランジ部端面104aに密着させる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−139119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダストカバー106の弾性力は、熱劣化等の経時変化で低下し、また低温環境下にあっては、ゴム等の弾性材が硬化して弾性力は常温環境下に比べて著しく低下する。そのため、このような従来のボールジョイント100では、ダストカバー106の弾性力の低下に伴い、ボールスタッド102が揺動した際のダストカバー106の伸張側張力と圧縮側押力が増加し、リップ部112とフランジ部外周面104bとの密着性を維持することができなくなる。
【0006】
特に、低温環境下でボールスタッド102が揺動すると、図9に示すように、ダストカバー106の膜部(ベローズ部)108が伸びる側、すなわちダストカバー106が装着されているソケット114の外周面114aとボールスタッド102のフランジ部104の距離が長くなる伸張側108aは、硬化した膜部108によってダストカバー106の小径開口部110がソケット114側の方向に強く引っ張られ、ボールスタッド102に対する適正な組み付け状態を維持できなくなり、ダストカバー106のシール性が低下する。
【0007】
また、ダストカバー106の膜部108が縮む側、すなわちダストカバー106が装着されているソケット外周面114aとボールスタッド102のフランジ部104の距離が短くなる圧縮側108bは、硬化した膜部108によってダストカバー106の小径開口部110がフランジ部104の外側方向に強く押し出されることがあり、この場合も、ボールスタッド102に対する適正な組み付け状態を維持できなくなり、ダストカバー106のシール性が低下する。
【0008】
このようにダストカバー106のシール性が低下する場合に、小径開口部110の適正な組み付け状態を維持してシール性の低下を防止するには、リップ部112の肉厚を増やして、ボールスタッド102のフランジ部外周面104bへの弾性による密着力を増加させる必要がある。
【0009】
しかし、リップ部112の径方向の肉厚を増やすと、ダストカバー106をボールスタッド102に装着した状態でのリップ部112の外径が増大し、リップ部112と膜部108が干渉し始めるボールスタッド102の揺動角が小さくなってしまう。また、リップ部112と膜部108との干渉部分108cに磨耗等の劣化が進行して破れが生じると、ダストカバー106のシール性が失われてしまう。
【0010】
従って、特許文献1に記載されたような従来のボールジョイントでは、ボールスタッドの揺動可能範囲を維持したまま、ダストカバーのシール性を向上させることができないという問題がある。
【0011】
本発明は、ダストカバーの膜部が強く引っ張られてもボールスタッドに対するダストカバーの適正な組み付け状態を維持して良好なシール性を発揮でき、また、ボールスタッドの揺動可能範囲を維持したままダストカバーのシール性を向上できるボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。まず本発明は、スタッド部の一端に球頭部を設け他端に柄部を形成するボールスタッドと、球頭部を回動可能に収容し一方にスタッド部が突出する開口部を設けたソケットと、スタッド部に装着する小径開口部とソケットに装着する大径開口部を設け弾性を有したダストカバーとを備えるボールジョイントを対象とする。
【0013】
このようなボールジョイントに於いて、ボールスタッドは、スタッド部に球頭部側から順に、第1軸部と、外径が第1軸部より大きい鍔部と、柄部側端部の外径が鍔部より小さい第2軸部とを設け、ダストカバーは、小径開口部に、第1軸部に弾性により嵌合する内周部と、第2軸部に弾性により嵌合するリップ部とを設けたことを特徴とする。
【0014】
ここで、ボールスタッドの第2軸部は、球頭部側端部から柄部側端部まで外径が略一定であり、その場合、鍔部は、柄部側端部が球頭部側から柄部側に向けて外径が漸次減少してもよい。
【0015】
あるいは、ボールスタッドの第2軸部は、球頭部側端部から柄部側端部に向けて外径が漸次減少する。
【0016】
あるいは、ボールスタッドは、鍔部の球頭部側端部から第2軸部の柄部側端部に向けて外径が漸次減少する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボールスタッドに、ダストカバー小径開口部の内周部が嵌合する第1軸部と第1軸部より大径の鍔部と鍔部より小径の円柱状又は円錐状の第2軸部を設け、ダストカバー小径開口部のリップ部を第2軸部に嵌合させることで、リップ部のソケット側方向への移動が抑制される。
【0018】
これにより、ボールスタッドに対するダストカバーの適正な組み付け状態を維持することができるため、ボールジョイントが使用される全環境において、ダストカバーの良好なシール性を発揮できる。
【0019】
また、ダストカバーをボールスタッドに装着した状態で、リップ部外径を大きくせずにリップ部の肉厚を増やすことができるため、ボールスタッドの揺動可能範囲を維持したままダストカバーのシール性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るボールジョイントの実施形態を示す説明図
【図2】図1のダストカバーとボールスタッドを示す説明図
【図3】図1のボールスタッドとダストカバーの嵌合部を拡大して示す説明図
【図4】図1のリップ部と従来のボールジョイントのリップ部との対比を示す説明図
【図5】本発明に係るボールジョイントの他の実施形態を示す説明図
【図6】本発明に係るボールジョイントの他の実施形態を示す説明図
【図7】本発明に係るボールジョイントの他の実施形態を示す説明図
【図8】従来のボールジョイントを示す説明図
【図9】図8のボールスタッドが揺動した場合のダストカバーの状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明のボールジョイントの実施形態を示す説明図である。図1において、ボールジョイント10は、ボールスタッド12、ボールシート30、ソケット32、ダストカバー36で構成される。
【0022】
ボールジョイント10は、ボールスタッド12の一端に形成した球頭部16を、ボールシート30を介してソケット32に組み込み、ソケット32の開口部34をカシメ成形してボールスタッド12を揺動及び回動自在に支持している。ボールスタッド12とソケット32の間には、開口部34から内部に水や埃が侵入するのを防止するダストカバー36を装着している。
【0023】
図2は、図1のダストカバー36とボールスタッド12の各々を示す説明図であり、図2(A)はダストカバー36の断面、図2(B)はボールスタッド12を示している。図2(A)において、ダストカバー36はゴム等の弾性材で形成され、膜部38の一端に小径開口部40、他端には大径開口部50を有し、大径開口部50には金属の補強環52を埋込んだ周縁部54が形成され、補強環52によって剛性を確保してソケット32に固定される。
【0024】
本実施形態において、大径開口部50に補強環52を埋め込んでいるが、大径開口部50のソケット32への固定は他の形態でも構わない。また、膜部38の形状も図2(A)に示す形状に限定されるものではなく、他の形状でも構わない。
【0025】
図2(B)において、ボールスタッド12は、スタッド部14の一端に球頭部16を設け、スタッド部14は球頭部16側から順に頚部18、第1軸部20、鍔部22、第2軸部24、係止部26、柄部28を設けている。
【0026】
頸部18、第1軸部20及び第2軸部24は、各々外径が略一定の円柱状であるが、外径の値は異なっている。また、鍔部22の外径は第1軸部20より大径であり、第2軸部24の外径は鍔部22より小径になっている。
【0027】
本実施形態において、円柱状の頸部18と第1軸部20の外周部には段差があるが、これは設計的事項であり、ボールジョイントに要求される仕様によっては、頸部18と第1軸部20の外周部に段差を設けずに、頸部18と第1軸部20を一体的に円錐台状(テーパ状)に形成しても構わない。
【0028】
また本実施形態においては、柄部28の外周にはネジを形成すると共に係止部26を設け、柄部28を組み付け対象の部品、例えばサスペンションアーム等にナットで固定するが、係止部26及び柄部28の配置や形状は、ボールジョイント10の取り付け方法によって任意である。
【0029】
図3は、図1のボールスタッド12とダストカバー36の嵌合部を拡大して示す説明図であり、図2(A)に示すダストカバー36を、大径開口部50側から図2(B)に示すボールスタッド12の柄部28側に挿入し、小径開口部40が係止部26を越えてスタッド部14の所定位置に嵌合された状態である。
【0030】
図3において、ダストカバー36は、端面42が鍔部22の第1軸部側端面22aに当接すると共に、内周部44が弾性によりボールスタッド12の第1軸部20に嵌合し、内周部44の内周面44aと第1軸部20の外周面20aが密着することで、シール性を確保している。
【0031】
なお、ダストカバー36の端面42の形状は、図3に示す形状に限定されるものではなく、鍔部22の第1軸部側端面22aに当接できる形状であれば他の形状でも構わない。
【0032】
また、リップ部48が弾性により第2軸部24の外周面24aに密着し、これによって膜部38が引っ張られた際の小径開口部40のシール性を補強している。この状態で、リップ部48と内周部44の内側隅部には隙間46が形成され、リップ部48の弾性変形の自由度が確保されることで、リップ部48の外周面24aへの密着を確実なものとしている。
【0033】
そのため、ボールスタッド12が揺動して、ダストカバー36の小径開口部40が膜部38に引っ張られても、ボールスタッド12の鍔部22により、ダストカバー36のリップ部48のソケット32側方向への移動が抑制され、ボールスタッド12に対するダストカバー36の小径開口部40の適正な組み付け状態を維持することができる。
【0034】
なお、ダストカバー36のリップ部48は、第2軸部24の外周面24aに密着する際に、外周面24aとの密着性を損なわない限り、鍔部22に当接しても構わない。
【0035】
図4は、リップ部について、本発明と従来例との対比を示す説明図であり、図4(A)は、図1に示す本発明によるダストカバー36のリップ部48を示し、図4(B)は、図8に示す従来例のダストカバー106のリップ部112示している。
【0036】
図4(A)に示すリップ部48の外径D1と、図4(B)に示すリップ部112の外径D2が等しい場合、リップ部48の厚さW1はリップ部112の厚さW2より大きく構成することができる。
【0037】
すなわち、第2軸部24の外径を鍔部22の外径より小さくすることで、ダストカバー36の端面42が当接する鍔部22の第1軸部側端面22aの大きさを確保しつつ、リップ部48の肉厚W1を第2軸部24の内径方向に増やすことができ、ダストカバーのシール性を向上させることができる。
【0038】
また、リップ部48の肉厚W1をリップ部112の肉厚W2に対して増加させても、リップ部48の外径D1がリップ部112の外径D2と同じであるため、ボールスタッド12の最大揺動角をボールスタッド102の最大揺動角に維持することができる。
【0039】
図5〜7は、本発明に係るボールジョイントの他の実施形態を示す説明図であり、ボールスタッド12とダストカバー36の嵌合部を示している。
【0040】
図5においては、ボールスタッド12の鍔部22と第2軸部24との段差部22cが、図3の段差部22bの形状と異なっている。段差部22c、すなわち、鍔部22の第2軸部側端部は、第1軸部20側から第2軸部24側(球頭部16側から柄部28側)に向けて外径が漸次減少する形状となっている。
【0041】
ダストカバー36は、リップ部48が弾性により第2軸部24の外周面24aに密着しており、ボールスタッド12が揺動して、ダストカバー36の小径開口部40が膜部38に引っ張られても、ボールスタッド12の鍔部22の段差により、ダストカバー36のリップ部48のソケット32側方向への移動が抑制され、ボールスタッド12に対するダストカバー36の小径開口部40の適正な組み付け状態を維持することができる。
【0042】
図6においては、ボールスタッド12の第2軸部24が鍔部22に繋がる傾斜部24bの形状が図3とは異なる。傾斜部24b、すなわち、第2軸部24の鍔部側は、鍔部22側端部から係止部26側端部(球頭部16側端部から柄部28側端部)に向けて外径が漸次減少する形状となっている。
【0043】
ダストカバー36は、リップ部48が弾性により第2軸部24の傾斜部24bに密着しており、ボールスタッド12が揺動して、ダストカバー36の小径開口部40が膜部38に引っ張られても、傾斜部24bの傾きにより、ダストカバー36のリップ部48のソケット32側方向への移動が抑制され、ボールスタッド12に対するダストカバー36の小径開口部40の適正な組み付け状態を維持することができる。
【0044】
図7においては、ボールスタッド12の鍔部22と第2軸部24の形状が図3とは異なる。すなわち、鍔部22と第2軸部24とを区切る段差がなく、鍔部22の第1軸部側端部22aから係止部26端部(鍔部22の球頭部16側端部から第2軸部24の柄部28側端部)に向けて外径が漸次減少する形状のテーパ部24cとなっている。
【0045】
ダストカバー36は、リップ部48が弾性によりテーパ部24cに密着しており、ボールスタッド12が揺動して、ダストカバー36の小径開口部40が膜部38に引っ張られても、テーパ部24cの傾きにより、ダストカバー36のリップ部48のソケット32側方向への移動が抑制され、ボールスタッド12に対するダストカバー36の小径開口部40の適正な組み付け状態を維持することができる。
【0046】
本発明は、車両用リンク機構の連結装置として用いられるボールジョイントに限らず、ダストカバーを備えたあらゆるボールジョイントに適用可能であり、また上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含む。
【符号の説明】
【0047】
10:ボールジョイント
12:ボールスタッド
14:スタッド部
16:球頭部
18:頚部
20:第1軸部
22:鍔部
24:第2軸部
26:係止部
28:柄部
30:ボールシート
32:ソケット
34:開口部
36:ダストカバー
38:膜部
40:小径開口部
42:端面
44:内周部
46:隙間
48:リップ部
50:大径開口部
52:補強環
54:周縁部
100:ボールジョイント
102:ボールスタッド
104:フランジ部
106:ダストカバー
108:膜部
110:小径開口部
112:リップ部
114:ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド部の一端に球頭部を設け他端に柄部を形成するボールスタッドと、前記球頭部を回動可能に収容し一方に前記スタッド部が突出する開口部を設けたソケットと、前記スタッド部に装着する小径開口部と前記ソケットに装着する大径開口部を設け弾性を有したダストカバーとを備えるボールジョイントに於いて、
前記ボールスタッドは、前記スタッド部に球頭部側から順に、
第1軸部と、
外径が前記第1軸部より大きい鍔部と、
柄部側端部の外径が前記鍔部より小さい第2軸部と、
を設け、
前記ダストカバーは、前記小径開口部に、
前記第1軸部に弾性により嵌合する内周部と、
前記第2軸部に弾性により嵌合するリップ部と、
を設けたことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1記載のボールジョイントに於いて、前記ボールスタッドの第2軸部は、
球頭部側端部から柄部側端部まで外径が略一定であることを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項2記載のボールジョイントに於いて、前記ボールスタッドの鍔部は、
柄部側端部が球頭部側から柄部側に向けて外径が漸次減少することを特徴とするボールジョイント。
【請求項4】
請求項1記載のボールジョイントに於いて、前記ボールスタッドの第2軸部は、
球頭部側端部から柄部側端部に向けて外径が漸次減少することを特徴とするボールジョイント。
【請求項5】
請求項1記載のボールジョイントに於いて、前記ボールスタッドは、
前記鍔部の球頭部側端部から前記第2軸部の柄部側端部に向けて外径が漸次減少することを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21600(P2012−21600A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160494(P2010−160494)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000115784)THKリズム株式会社 (15)
【Fターム(参考)】