ボールバルブ
【課題】安定したシール性が得られ、シートリングの飛び出しや損傷を防止できるボールバルブを提供する。
【解決手段】流路13を開閉する貫通孔14aが形成されたボール14と、ボール14における流体の流入側・流出側に設けられ、ボール14の外周面に圧接するシートリング17と、シートリング17を環状のシートリング保持溝20aに嵌め込んでこれを保持するシートリテーナ20とを有している。シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで、シートリテーナ20とシートリング17との間をシールするシール部S2と、このシール部S2の外径側に位置して外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31とが形成されており、シール部S2を支点にして第1の空間31が変形してシートリング17の押圧変形が吸収される。
【解決手段】流路13を開閉する貫通孔14aが形成されたボール14と、ボール14における流体の流入側・流出側に設けられ、ボール14の外周面に圧接するシートリング17と、シートリング17を環状のシートリング保持溝20aに嵌め込んでこれを保持するシートリテーナ20とを有している。シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで、シートリテーナ20とシートリング17との間をシールするシール部S2と、このシール部S2の外径側に位置して外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31とが形成されており、シール部S2を支点にして第1の空間31が変形してシートリング17の押圧変形が吸収される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールバルブに関し、特にボールとボディーとの間をシールするシートリングのシート構造に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管を流れる流体(液体、気体)を制御するためのバルブの一つとして、90度開閉型のボールバルブがある。
【0003】
ここで、従来のボールバルブとして、例えば特許文献1(特許第3053170号)や特許文献2(特許第2681155号)に記載されたものが知られている。
【0004】
以下、特許文献1および特許文献2に記載されたボールバルブについて説明する。
【0005】
特許文献1に記載のボールバルブは、フローティング型ボールバルブの一次側シート構造に関するもので、図11に示すように、ゴム等の弾性を有するシートリング101と、樹脂等の非金属材料で作成されたアウターリング102と、環状溝105の形成されたボディー104とを有している。シートリング101の底面101aとこれに接する環状溝105の底面105aとは外径になるほどボール103側に傾くように形成されており、さらにシートリング101の底面101aと環状溝105の底面105aとの間には外径になるほど隙間が小さくなる空室106が設けられている。そして、上流側の流体圧でシートリング101の内周面と環状溝105の内側面との間が加圧されることによりシートリング101が外方に押されてシートリング101をボール103に圧接シールされるとともに、空室106を通って流れるアウターリング102側への裏漏れも防止され、かつ、シートリング101の底面101aと環状溝105の底面105aとの間の面圧も高くなってシートリング101がさらにボール103側に押され密封シールされる。
【0006】
このボールバルブでは、シートリング101は組み立て時(無負荷時)にシートリング101の底面101aとボディー104の環状溝105の底面105aとが接触し、シートリング101に若干の潰しが発生することにより背面シール性が得られるようになっている。そして、さらに圧力が加わった場合には、シートリング101は外径方向に変形させられ、外径になるほどボール103に傾く傾斜面によりシートリング101が空室106を塞ぐように変形し、さらに背面圧が高まるとともにシートリング101がボール103の方向へ移動しようとして、ボール103とのシール面圧も高まる。このとき、アウターリング102もボール103の方向に移動しようとし、ボール103に接触する場合もあるが、アウターリング102が樹脂等でできているためボール103を損傷させることがない。また、二次側の圧力が上がり、ボール103が反対側から押された場合には、ボディー104の金属接触面104aにボール103が当接し、シートリング101とアウターリング102が一定量以上押されて潰れないように保護される。
【0007】
なお、特許文献2に記載のボールバルブもまた、ゴム等の弾性を有するシートリングと、樹脂等の非金属材料で作成されたアウターリングと、環状溝の形成されたボディーとを有している。そして、シートリングの底面と環状溝の底部とが内径になるほどボール側に傾くように形成されており、ボディー内が同圧でボールがステムの中心に位置するときに、シートリングの底面と環状溝の底部との間にシートリングがボールによって押圧されて変形するための環状の空室が設けられており、ボールと弁座部との間のボールの移動方向の隙間を、シートリングとの間、アウターリングとの間並びに弁座部との間の順序で大きくなるように構成している。
【0008】
ここで、特許文献3(実公平3−29646号公報)には、ボルトによりシートリテーナに固定された環状のリテーナリングが記載されている。そして、リテーナリングがシートリングを押圧することにより、シートリングとシートリテーナとの間をシールするとともに、シートリングがシートリテーナから脱落することを防止している。
【特許文献1】特許第3053170号公報
【特許文献2】特許第2681155号公報
【特許文献3】実公平3−29646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2に記載の技術では、シートリングを、ゴム等の弾性を有する材料で構成することを前提にしており、腐食性流体や高温・低温流体でバルブを使用するために、シートリングを樹脂など(つまり、ゴムよりも弾性が低い材料)で構成すると、シートリングが外径側へ変形しにくくなり、圧力による面圧が得られにくくなることが考えられる。
【0010】
また、環状溝の底面とシートリングの底面とによるシール位置はシートリングのほぼ最外径となる。そして、高圧条件下において、樹脂などのようにゴムよりも弾性の低い材料で構成したリートリングが環状溝の内周とシートリングの間の圧力により変形させられた場合、シール位置は限りなく最外径に近づくとともに隙間(空室106)には圧力が入る。すると、バルブを開けた際にキャビティと隙間とに圧力差が生まれ、シートリングをキャビティ側へ押し出す力が働き、シートリングが飛び出しやすくなる。また、樹脂などのようにゴムよりも弾性の低い材料を用いた場合には、隙間が埋まらないため、隙間に入った圧力でシートリングの底面と環状溝の底面とを引き離す力が働き、両者の接触面圧が低下してシール性が低下することになる。
【0011】
さらに、アウターリングが固定されていないので、バルブ開閉操作の過程において上記圧力によってアウターリングが局所的に変形してキャビティ側へ飛び出す可能性がある。
【0012】
そして、当該構造をトラニオン型のボールバルブに適用しようとすると、ボディーにアウターリング用の深い溝加工をしなければならいため、生産性がよくない。
【0013】
ここで、特許文献1、2に記載の技術に特許文献3に記載の技術を適用してリテーナリングでシートリングを押圧するようにすればシートリングの飛び出しや変形といった損傷は防止できる可能性がある。
【0014】
しかし、特許文献3によれば、リテーナリングはボルトによりシートリテーナに固定されているため、シートリングに対する押圧力が不安定にならないようにするためには、ボルトを環状に多数配置しなければならず、部品点数や組立工数が増加してしまう。
【0015】
また、リテーナリングはシートリングの外径を押えているため、上記ボルトによる過度の押圧力が加えられると、シートリングの外径側底面の方が内径側底面よりも面圧が高くなってシール点が不安定となり、背面に圧力が入る可能性がある。
【0016】
さらに、シートリングの反力や圧力によりシートリングが飛び出そうとする荷重をシートリテーナを貫通して配置されているボルトで受けなければならず、常にボルトを引っ張る荷重が加わるので、振動やリテーナリングの動きによってボルトが緩んだり、破損することのないよう、高強度のボルトを用いる必要がある。
【0017】
そして、ボルトの先端がボールに近接している場合には、シートリングが摩耗すると、ボルトがボールと干渉してシール性能の悪化や作動不良の原因となるおそれもあるため、ボディーを大きくして、アウターリングとボールとの隙間を広く確保する必要がある。
【0018】
そこで、本発明は、安定したシール性が得られるとともに、シートリングの飛び出しや損傷を防止できるボールバルブを提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、組立工数が増加することなく、取付強度およびシートリング保持機能としての信頼性に優れ、ボールとの干渉のおそれのないリテーナリングの取付構造を有するボールバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のボールバルブは、ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、外径になるほど前記ボール側に傾斜する底面を備えた環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段とを有し、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とで、これらの底面同士が接して前記シート保持手段と前記シートリングとの間をシールするシール部と、当該シール部の外径側に位置して前記シートリング保持溝の底面の外周端と前記シートリングの底面の外周端とが非接触となった第1の空間とが形成され、前記シール部を支点にして前記第1の空間内に前記シートリングの押圧変形が吸収されることを特徴とする。
【0021】
請求項2に記載の本発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記シートリングの外周面には、前記第1の空間とキャビティとを連通する連通溝が形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記シール部の内径側には、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とにより第2の空間が形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の本発明のボールバルブは、ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段と、C字形または複数に分割形成されて隙間部を備え、前記シートリングが当接して当該シートリングの前記シートリング保持溝からの脱落を阻止するリテーナリングと、前記シート保持手段に形成され、前記リテーナリングの外径側が嵌め込まれて当該リテーナリングを保持するリテーナリング保持溝と、前記リテーナリングの前記隙間部に嵌め込まれるようにして前記シート保持手段に取り付けられ、前記リテーナリングの縮径および回転を阻止するスペーサとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、シートリング保持溝の底面とシートリングの底面とが接してシート保持手段とシートリングとの間をシールするシール部と、このシール部の外径側に位置して外径になるほどボール側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間とが形成されており、シール部を支点にして第1の空間内にシートリングの押圧変形が吸収されるので、シール部の位置が変わることなく安定したシール性が得られるとともに、シートリングの飛び出しや損傷を防止できるボールバルブを得ることが可能になる。
【0026】
また、本発明によれば、リテーナリング保持溝にリテーナリングの外径側を嵌め込み、スペーサをリテーナリングの隙間部に嵌め込んでリテーナリングの縮径および回転を阻止しているので、部品点数が少なくなって組立工数が低減されるとともに、取付強度およびシートリング保持機能としての信頼性に優れ、ボールとの干渉のおそれのないリテーナリングの取付構造を有するボールバルブを得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しつつさらに具体的に説明する。ここで、添付図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。なお、ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は本発明の一実施の形態におけるボールバルブを示す断面図、図2は図1のボールバルブの要部を示す断面図、図3は図1のボールバルブの要部を拡大して示す断面図、図4は図1のボールバルブに用いられたリテーナリングを示す説明図、図5は図4のリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図、図6は図4のリテーナリングの取付構造を示す断面図、図7は変形例としてのリテーナリングを示す説明図、図8は本発明者が検討対象としたリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図、図9は本発明者が検討対象としたリテーナリングの取付構造を示す断面図、図10は本発明の他の実施の形態におけるボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【0029】
先ず、本発明の一実施の形態におけるボールバルブの構成について説明する。
【0030】
図1に示す本実施の形態のボールバルブにおいて、ハウジング12はボディー12aとボディーキャップ12bとで構成されており、内部に円筒状の流路13が形成された構造となっている。なお、ハウジングの構造は、流路方向(横方向)に分割されて、ボールが挿入されるサイドエントリ形や、縦方向に分割されてボールが挿入されるトップエントリ形などの構造が適宜選択される。
【0031】
ハウジング12の内部には、流路13と連通する円筒状の貫通孔14aが形成されたボール14が流路13上に配置されている。このボール14は流路13と直交する方向に配置された一対のステム15a,15bに支持されており、ステム15a,15bを回動支点として貫通孔14aにより流路13を開閉する方向に回動自在に装着されている。ここで、ボール14は金属製または樹脂製であり、金属製の場合には、たとえばステンレス鋼、炭素鋼、ダクタイル鉄、鉄、青銅、黄銅、あるいはこれらの金属からなる芯体をステライトやメッキによって表面処理されたものが、樹脂製の場合には、たとえばフッ素樹脂やナイロン樹脂やプラスチック、あるは金属の芯体をそれらで被ったものなどが用いられる。
【0032】
なお、ステム15a,15bの周辺には、ハウジング12とボール14とで囲まれた空間であるキャビティ16が形成されている。
【0033】
図2に示すように、流路13とキャビティ16との間をシール部S1でシールして、流体が流路13からキャビティ16へ漏出するのを防止するため、環状のシートリング17が、ボール14の外周面に圧接していて、これらはボール14における流体の流入側と流出側(ボディー12aとボディーキャップ12b側)とに設けられている。したがって、ボール14はこのシートリング17と摺動しながら回動する。
【0034】
なお、シートリング17の材料には、PCTFF、PTFE、変性PTFE(PFA+PTFE)、充填材入りPTFE、ポリエーテル系、ナイロン系などの樹脂を適用することができる。つまり、シートリング17は、フッ素、ナイロン、エーテルなどを含む樹脂材料により構成することができる。
【0035】
ここで、PCTFFは、低温での寸法安定性が良く、機械的強度が高いことから、主に超低温での使用に適している。また、PTFEは、汎用性があり摩耗に強く、またシートの磨耗などによって発生する、着色した異物を嫌う超純水、薬品、ケミカルの使用に適している。変性PTFE(PFA+PTFE)は、PTFEと同じ用途で、より耐クリープ性や高温(最高230℃程度)での使用が求められる場合に適しており、低温についても−100℃程度までは使用できる。充填材入りPTFEは、流体との耐食性などによって充填材にはグラスファイバやカーボンファイバなどが使い分けられ、強度および耐磨耗性に優れており、−100〜230℃程度の使用に適している。ポリエーテル系樹脂は、高圧・高温(最高270℃程度)での使用に適しており、強度・高温特性に優れている。そして、ナイロン系樹脂は、主に高圧での使用に適している。
【0036】
但し、シートリング17の材料はこれらの限定されるものではなく、これら以外の様々な材料(ゴム製品単体を除く様々な樹脂や金属など)を用いることができる。
【0037】
シートリング17は環状のシートリテーナ(シート保持手段)20に保持されている。すなわち、シートリテーナ20には環状のシートリング保持溝20aが流路13の軸方向に開口して形成されており、シートリング17はこのシートリング保持溝20aに嵌め込まれてシートリテーナ20に保持されている。
【0038】
さらに、シートリテーナ20には環状のリテーナリング保持溝20dがシートリング保持溝20aの外径側直交方向に形成され、リテーナリング19が嵌め込まれている。すなわち、リテーナリング保持溝20dにはリテーナリング19の外径側が嵌め込まれ、シートリング17はリテーナリング19の内径側に当接している。これにより、シートリング17のシートリング保持溝20aからの脱落が阻止されている。なお、リテーナリング19の詳細については後述する。
【0039】
シートリテーナ20は流路13の軸方向に変位可能に設けられており、シートリテーナ20のボール14と反対側には、複数のスプリング保持穴20bが形成されている。このスプリング保持穴20bには、ハウジング12に圧接してシートリテーナ20をボール14の方向に変位させるための付勢力を与えるスプリング21が装着されている。これにより、特に低圧時において、スプリング21により積極的にシートリテーナ20がボール14側へ移動され、シートリング17がボール14へ圧接される。なお、スプリング21はコイルばねを用いているが、板ばねや皿ばね等を用いてもよい。
【0040】
また、シートリテーナ20の外周には、環状のシール保持溝20cが形成されている。そして、シール保持溝20cには、ハウジング12とシートリテーナ20との間をシールするOリング18が嵌め込まれている。これにより、流体圧がシートリテーナ20とハウジング12との間からキャビティ16へ漏れるのが防止されるとともに、シートリテーナ20に対してボール14側へ変位する力が付与される。
【0041】
そして、本願の第1の発明に係る実施の形態では、図3に詳しく示すように、シートリング保持溝20aの底面20a−1およびシートリング17の底面17−1は外径になるほどボール14側に傾斜しており、シートリング17の底面17−1の方が大きくボール14側に傾斜している。具体的には、本実施の形態において、シートリング保持溝20aの底面20a−1の傾斜角θ1が50°、シートリング17の底面17−1の傾斜角θ2が45°となっている。但し、傾斜角θ1,θ2は自由に設定することができ、本実施の形態に示す角度に限定されるものではない。
【0042】
そして、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで、これらの底面20a−1,17−1が相互に接してシートリテーナ20とシートリング17との間をシールするシール部S2が形成されている。
【0043】
また、このようなシートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1との構造により、シール部S2の外径側には、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31が形成され、内径側には、シートリング保持溝20aの径方向断面の鋭角部分とシートリング17の径方向断面の鋭角部分とで囲まれた第2の空間32が形成されている。
【0044】
シートリング17の外周面には、第1の空間31とキャビティ16とを連通する連通溝17aが所定間隔をあけて複数形成されており、第1の空間31はキャビティ16と同圧になっている。但し、連通溝17aは複数ではなく、1つだけでもよい。
【0045】
なお、シートリング保持溝20aの底面20a−1およびシートリング17の底面17−1は外径になるほどボール14側に傾斜しており、シートリング17の底面17−1の傾斜角の方が大きくなっていることから、第1の空間31は、径方向断面がシール部S2を頂点とした略三角形の形状となっている。
【0046】
また、シートリング保持溝20aの鋭角部分の形状とシートリング17の鋭角部分の形状とを同じにして、第2の空間32をなくすようにしてもよい。但し、本実施の形態のように第2の空間32を形成すれば、当該空間がない場合に比べて環状のシール部S2の幅が狭くなる。これにより、シートリング17がボール14に押されて変形してシール部S2の位置が奥へ移動した場合でも、シール部S2の面積が増加する余地が少なくなり、つまりシール部S2の断面が幅広の平面となりにくくなり、シール面圧の低下が防止されるので望ましい。
【0047】
ここで、本願の第2の発明に係る実施の形態では、シートリテーナ20に形成された環状のリテーナリング保持溝20dに嵌め込まれたリテーナリング19は、図4に示すように、C字形に形成されて隙間部19aを備えている。このリテーナリング19は金属製であり、嵌め込み時に縮径しても復元可能な可撓性を有している。そして、リテーナリング保持溝20dに嵌め込まれた状態では、この隙間部19aに嵌め込まれるようにしてボルト(スペーサ)25がシートリテーナ20に取り付けられている。すなわち、リテーナリング保持溝20dにはボルト取付穴(図示せず)が形成されており、組み付け時には、隙間部19aの間隔を狭めるようにリテーナリング19を縮径させてリテーナリング保持溝20dに嵌め込む。そして、隙間部19aがボルト取付穴の位置になるようにして、当該ボルト取付穴を露出させる。その後、ボルト25をボルト取付穴に取り付けると、隙間部19aが塞がれてリテーナリング19の縮径および回転が阻止されて脱落することがなく(図5参照)、これにより、リテーナリング19がリテーナリング保持溝20dに固定される。
【0048】
なお、本実施の形態では、スペーサとしてボルト25が用いられているが、リテーナリング19の隙間部19aを塞ぐことができればよく、例えばワンタッチで嵌め込むことが可能なピンなどを用いることもできる。
【0049】
次に、本発明の一実施の形態におけるボールバルブの作用を説明する。
【0050】
上記構造を有するボールバルブにおいて、ステム15a,15bによりボール14を回動して貫通孔14aを流路13と非連通として、流路13を閉塞する。
【0051】
このとき、本願の第1の発明に係る実施の形態において、ボールバルブに流入側の流体圧がかかっていない状態、あるいは流入側の圧力がキャビティ16内の圧力と同圧となっている状態では、図2に示すように、スプリング21の弾発力で発生した荷重によってシートリテーナ20がボール14に向けて軸方向に押圧され、これによりシートリング17のシール部S1がボール14に圧接される。また、流入側の流体圧がかかっている状態では、シートリテーナ20はさらに流体圧による荷重をOリング18のシール外径とシール部S1とのシール径との間に受け、シートリング17のシール部S1がより強くボール14に圧接される。
【0052】
このとき、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで形成されるシール部S2により、シートリテーナ20とシートリング17との間がシールされる。
【0053】
ここで、流体圧によりシートリング17をキャビティ16側に押し出す力はシール部S2のシール径とシール部S1のシール径の差に依存し、シール径の差が小さくなればなるほど、押し出す力は小さくなる。そして、本実施の形態では、シール部S2の外径側には、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31が形成されているので、必然的にシール部S2はシートリング17の内径に近い側となり、シートリング17とボール14とのシール部S1とのシール径の差が小さくなる。これにより、シートリング17をキャビティ16側に押し出す力が抑制されるので、シートリング17の飛び出しやこれに伴う損傷が未然に防止される。
【0054】
また、このようにシール部S2の外径側には、図3に示すように、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなり、内径になるほど隙間が狭くなる第1の空間31が形成されてシートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触となり、さらに、シートリング17はシール部S1からの反力Fを受け、この反力Fはボール14のシール部S1を通る接線の垂直方向に働く。
【0055】
そこで、反力Fはシール部S2方向である軸方向分力Fα、およびシートリング17の外周とシートリテーナ20との接触部方向である径方向分力Fβとに分けて考える。シートリング17に加わった軸方向分力Fαについては、シートリング保持溝20aの底面20a−1の傾斜によるくさび作用によりシートリング17は軸方向への移動が規制されるとともにシール部S2のシール面圧が上がる。
【0056】
径方向分力Fβについては、シートリング17を外周方向に変形させるように作用するが、シール部S1から軸方向に遠い底面17−1の近傍はシール部S2の押圧によって外周方向への変形が規制され、シール部S2の面圧が上がる。
【0057】
さらに、高圧になるほどシートリング17とボール14とが接触する加重(つまり、シール部S1の面圧)が増加し、シートリング17はより外周方向に変形しようとする。しかし、外周方向の変形は前述のシール部S2での規制に加え、シートリテーナ20により阻止されるため、シートリング17はシール部S2を支点として第1の空間31を埋めるようにシートリング保持溝20aの底面20a−1側に倒れる。
【0058】
ここで、第1の空間31はシートリング17の変形量以上に確保されているので、シートリング17の押圧変形は第1の空間31内に吸収されるとともに、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1との間に常に一定にクリアランスが保たれることになる。
【0059】
したがって、シール部S2の幅が拡大して面圧を低下させたり、シール部S2が外周方向に移動することによりシール部S1とのシール径の差が拡大するようなことがなく、常に一定のシール部S2が保たれ、圧力や温度に関わらず確実に面圧が加わることになり、安定したシール性が得られる。
【0060】
なお、このようにシートリング保持溝20aの底面20a−1が傾斜していなければ、つまり傾斜角θ1が90°であれば、上述したくさび作用は働かないので、シートリング17の底面17−1近傍の径方向への移動が規制されなくなり、シール部S2のシール面圧は上がらない。つまり、安定したシール性が得られない。
【0061】
なお、第2の空間32はシートリング保持溝20aの内径に接し、シール部S2は移動しないので、この第2の空間32が大きくなることはない。よって、シートリング17を押し出す力は軸方向に働き、飛び出しやすいボール14との接線垂直方向への力は防がれている。
【0062】
ここで、前述のように、シートリング17の外周面には連通溝17aが形成されて第1の空間31はキャビティ16と同圧になっているので、第1の空間31に圧力が入ることによるシートリング17をシートリング保持溝20aから押し出す力は発生しない。
【0063】
さて、ボールバルブを閉から開にする過程で、シートリング17とボール14の間に発生する負圧や第2の空間32に溜まった圧力により、瞬間的にシートリング17をキャビティ16へ押し出す力が働く。このとき、本実施の形態では、シートリング17が環状のリテーナリング19に当接することによって飛び出しが防止されている。
【0064】
そして、本願の第2の発明に係る実施の形態において、このリテーナリング19は、ボルト25により隙間部19aが塞がれてリテーナリング19の縮径および回転が阻止された状態でリテーナリング保持溝20dに嵌め込まれているので、図6に示すように、ボール14との間には十分なクリアランスLが確保される。これに対して、図8および図9に示すように、リテーナリング19の上からボルト25で固定した場合には、ボルト25の先端が突出するために、ボール14との間には必要なクリアランスLが確保されにくくなる。したがって、本願では、ボルト25とボール14との干渉、およびこれに伴うシール性能の悪化や作動不良のおそれはない。よって、必要なクリアランスを得るためにリテーナリングおよびシートリテーナの寸法を外径側に大きくしなくてもよい。
【0065】
また、リテーナリングの上からボルト固定した場合には、ボルトを環状に多数配置することにより、シートリング17が飛び出そうとする力に対して、それを保持する強度が必要となるが、本実施の形態では、リテーナリング19をリテーナリング保持溝20dに嵌め込んでおり、さらに、上述のようにシール部S1からの反力によってシール部S2に積極的に面圧が加わるので、シートリング17に対する初期の押圧力が必要なく、ボルトを多数配置する必要もないため、部品点数が少なくなって組立工数が増加することがない。
【0066】
さらに、リテーナリングの上からボルト固定した場合には、ボルトには所定の強度が必要になるのみならず、振動やリテーナリングの動きによってボルトが緩むおそれがあるが、本実施の形態では、ボルト25をリテーナリング19の隙間部19aに嵌め込んでいるので、ボルト25は両側からのせん断荷重しか受けないため、ボルト25の引っ張り強度不足や緩みがなくなる。そして、せん断荷重はリテーナリング19が回転しようとする力のみであるので、ボルト25をせん断するまでの大きな応力は加わることがないので、取付強度が向上するとともに、ボール14とシートリテーナ20とをシールするシートリング19の保持機能としてのリテーナリング19の信頼性が向上する。
【0067】
なお、図7に示すように、リテーナリング19を複数に分割(ここでは3分割)して形成し、隙間部19aにボルト25を取り付けるようにしてもよい。このような構造にすれば、同一の円弧状部品を複数用いればよいことから、材料費が安くなり、しかも可撓性が低くてもよいことから、剛性の高いリングが容易に組み立て・分解できるようになる。
【0068】
なお、前述のように、ボルト25以外であっても、リテーナリング19の隙間部19aを塞ぐことができる部材であればよい。しかしながら、ボルト25を用いれば、再利用が可能であり、しかも取り付けや取り外しが容易でメンテナンス性に優れる。
【0069】
以上の説明において、第1の空間31は、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなっているが(図3参照)、シートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触となっていれば足り、外径になるほど隙間が広くなっていなくてもよい。つまり、図10に示すように、シートリング17の底面17−1が凹状に湾曲した断面形状であっても、あるいは段差形状であっても、その他種々の形状であっても、シートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本実施の形態では、本発明をトラニオン型のボールバルブに適用した場合が示されているが、フローティング型など、種々の構造のボールバルブに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施の形態におけるボールバルブを示す断面図である。
【図2】図1のボールバルブの要部を示す断面図である。
【図3】図1のボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1のボールバルブに用いられたリテーナリングを示す説明図である。
【図5】図4のリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図である。
【図6】図4のリテーナリングの取付構造を示す断面図である。
【図7】変形例としてのリテーナリングを示す説明図である。
【図8】本発明者が検討対象としたリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図である。
【図9】本発明者が検討対象としたリテーナリングの取付構造を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態におけるボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【図11】特許文献1に記載のボールバルブを示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
12 ハウジング
12a ボディー
12b ボディーキャップ
13 流路
14 ボール
14a 貫通孔
15a,15b ステム
16 キャビティ
17 シートリング
17−1 底面
17a 連通溝
18 リング
19 リテーナリング
19a 隙間部
20 シートリテーナ(シート保持手段)
20a シートリング保持溝
20a−1 底面
20b スプリング保持穴
20c シール保持溝
20d リテーナリング保持溝
21 スプリング
25 ボルト(スペーサ)
31 第1の空間
32 第2の空間
S1 シール部
S2 シール部
【技術分野】
【0001】
本発明はボールバルブに関し、特にボールとボディーとの間をシールするシートリングのシート構造に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管を流れる流体(液体、気体)を制御するためのバルブの一つとして、90度開閉型のボールバルブがある。
【0003】
ここで、従来のボールバルブとして、例えば特許文献1(特許第3053170号)や特許文献2(特許第2681155号)に記載されたものが知られている。
【0004】
以下、特許文献1および特許文献2に記載されたボールバルブについて説明する。
【0005】
特許文献1に記載のボールバルブは、フローティング型ボールバルブの一次側シート構造に関するもので、図11に示すように、ゴム等の弾性を有するシートリング101と、樹脂等の非金属材料で作成されたアウターリング102と、環状溝105の形成されたボディー104とを有している。シートリング101の底面101aとこれに接する環状溝105の底面105aとは外径になるほどボール103側に傾くように形成されており、さらにシートリング101の底面101aと環状溝105の底面105aとの間には外径になるほど隙間が小さくなる空室106が設けられている。そして、上流側の流体圧でシートリング101の内周面と環状溝105の内側面との間が加圧されることによりシートリング101が外方に押されてシートリング101をボール103に圧接シールされるとともに、空室106を通って流れるアウターリング102側への裏漏れも防止され、かつ、シートリング101の底面101aと環状溝105の底面105aとの間の面圧も高くなってシートリング101がさらにボール103側に押され密封シールされる。
【0006】
このボールバルブでは、シートリング101は組み立て時(無負荷時)にシートリング101の底面101aとボディー104の環状溝105の底面105aとが接触し、シートリング101に若干の潰しが発生することにより背面シール性が得られるようになっている。そして、さらに圧力が加わった場合には、シートリング101は外径方向に変形させられ、外径になるほどボール103に傾く傾斜面によりシートリング101が空室106を塞ぐように変形し、さらに背面圧が高まるとともにシートリング101がボール103の方向へ移動しようとして、ボール103とのシール面圧も高まる。このとき、アウターリング102もボール103の方向に移動しようとし、ボール103に接触する場合もあるが、アウターリング102が樹脂等でできているためボール103を損傷させることがない。また、二次側の圧力が上がり、ボール103が反対側から押された場合には、ボディー104の金属接触面104aにボール103が当接し、シートリング101とアウターリング102が一定量以上押されて潰れないように保護される。
【0007】
なお、特許文献2に記載のボールバルブもまた、ゴム等の弾性を有するシートリングと、樹脂等の非金属材料で作成されたアウターリングと、環状溝の形成されたボディーとを有している。そして、シートリングの底面と環状溝の底部とが内径になるほどボール側に傾くように形成されており、ボディー内が同圧でボールがステムの中心に位置するときに、シートリングの底面と環状溝の底部との間にシートリングがボールによって押圧されて変形するための環状の空室が設けられており、ボールと弁座部との間のボールの移動方向の隙間を、シートリングとの間、アウターリングとの間並びに弁座部との間の順序で大きくなるように構成している。
【0008】
ここで、特許文献3(実公平3−29646号公報)には、ボルトによりシートリテーナに固定された環状のリテーナリングが記載されている。そして、リテーナリングがシートリングを押圧することにより、シートリングとシートリテーナとの間をシールするとともに、シートリングがシートリテーナから脱落することを防止している。
【特許文献1】特許第3053170号公報
【特許文献2】特許第2681155号公報
【特許文献3】実公平3−29646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2に記載の技術では、シートリングを、ゴム等の弾性を有する材料で構成することを前提にしており、腐食性流体や高温・低温流体でバルブを使用するために、シートリングを樹脂など(つまり、ゴムよりも弾性が低い材料)で構成すると、シートリングが外径側へ変形しにくくなり、圧力による面圧が得られにくくなることが考えられる。
【0010】
また、環状溝の底面とシートリングの底面とによるシール位置はシートリングのほぼ最外径となる。そして、高圧条件下において、樹脂などのようにゴムよりも弾性の低い材料で構成したリートリングが環状溝の内周とシートリングの間の圧力により変形させられた場合、シール位置は限りなく最外径に近づくとともに隙間(空室106)には圧力が入る。すると、バルブを開けた際にキャビティと隙間とに圧力差が生まれ、シートリングをキャビティ側へ押し出す力が働き、シートリングが飛び出しやすくなる。また、樹脂などのようにゴムよりも弾性の低い材料を用いた場合には、隙間が埋まらないため、隙間に入った圧力でシートリングの底面と環状溝の底面とを引き離す力が働き、両者の接触面圧が低下してシール性が低下することになる。
【0011】
さらに、アウターリングが固定されていないので、バルブ開閉操作の過程において上記圧力によってアウターリングが局所的に変形してキャビティ側へ飛び出す可能性がある。
【0012】
そして、当該構造をトラニオン型のボールバルブに適用しようとすると、ボディーにアウターリング用の深い溝加工をしなければならいため、生産性がよくない。
【0013】
ここで、特許文献1、2に記載の技術に特許文献3に記載の技術を適用してリテーナリングでシートリングを押圧するようにすればシートリングの飛び出しや変形といった損傷は防止できる可能性がある。
【0014】
しかし、特許文献3によれば、リテーナリングはボルトによりシートリテーナに固定されているため、シートリングに対する押圧力が不安定にならないようにするためには、ボルトを環状に多数配置しなければならず、部品点数や組立工数が増加してしまう。
【0015】
また、リテーナリングはシートリングの外径を押えているため、上記ボルトによる過度の押圧力が加えられると、シートリングの外径側底面の方が内径側底面よりも面圧が高くなってシール点が不安定となり、背面に圧力が入る可能性がある。
【0016】
さらに、シートリングの反力や圧力によりシートリングが飛び出そうとする荷重をシートリテーナを貫通して配置されているボルトで受けなければならず、常にボルトを引っ張る荷重が加わるので、振動やリテーナリングの動きによってボルトが緩んだり、破損することのないよう、高強度のボルトを用いる必要がある。
【0017】
そして、ボルトの先端がボールに近接している場合には、シートリングが摩耗すると、ボルトがボールと干渉してシール性能の悪化や作動不良の原因となるおそれもあるため、ボディーを大きくして、アウターリングとボールとの隙間を広く確保する必要がある。
【0018】
そこで、本発明は、安定したシール性が得られるとともに、シートリングの飛び出しや損傷を防止できるボールバルブを提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、組立工数が増加することなく、取付強度およびシートリング保持機能としての信頼性に優れ、ボールとの干渉のおそれのないリテーナリングの取付構造を有するボールバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のボールバルブは、ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、外径になるほど前記ボール側に傾斜する底面を備えた環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段とを有し、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とで、これらの底面同士が接して前記シート保持手段と前記シートリングとの間をシールするシール部と、当該シール部の外径側に位置して前記シートリング保持溝の底面の外周端と前記シートリングの底面の外周端とが非接触となった第1の空間とが形成され、前記シール部を支点にして前記第1の空間内に前記シートリングの押圧変形が吸収されることを特徴とする。
【0021】
請求項2に記載の本発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記シートリングの外周面には、前記第1の空間とキャビティとを連通する連通溝が形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記シール部の内径側には、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とにより第2の空間が形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の本発明のボールバルブは、ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段と、C字形または複数に分割形成されて隙間部を備え、前記シートリングが当接して当該シートリングの前記シートリング保持溝からの脱落を阻止するリテーナリングと、前記シート保持手段に形成され、前記リテーナリングの外径側が嵌め込まれて当該リテーナリングを保持するリテーナリング保持溝と、前記リテーナリングの前記隙間部に嵌め込まれるようにして前記シート保持手段に取り付けられ、前記リテーナリングの縮径および回転を阻止するスペーサとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、シートリング保持溝の底面とシートリングの底面とが接してシート保持手段とシートリングとの間をシールするシール部と、このシール部の外径側に位置して外径になるほどボール側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間とが形成されており、シール部を支点にして第1の空間内にシートリングの押圧変形が吸収されるので、シール部の位置が変わることなく安定したシール性が得られるとともに、シートリングの飛び出しや損傷を防止できるボールバルブを得ることが可能になる。
【0026】
また、本発明によれば、リテーナリング保持溝にリテーナリングの外径側を嵌め込み、スペーサをリテーナリングの隙間部に嵌め込んでリテーナリングの縮径および回転を阻止しているので、部品点数が少なくなって組立工数が低減されるとともに、取付強度およびシートリング保持機能としての信頼性に優れ、ボールとの干渉のおそれのないリテーナリングの取付構造を有するボールバルブを得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しつつさらに具体的に説明する。ここで、添付図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。なお、ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は本発明の一実施の形態におけるボールバルブを示す断面図、図2は図1のボールバルブの要部を示す断面図、図3は図1のボールバルブの要部を拡大して示す断面図、図4は図1のボールバルブに用いられたリテーナリングを示す説明図、図5は図4のリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図、図6は図4のリテーナリングの取付構造を示す断面図、図7は変形例としてのリテーナリングを示す説明図、図8は本発明者が検討対象としたリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図、図9は本発明者が検討対象としたリテーナリングの取付構造を示す断面図、図10は本発明の他の実施の形態におけるボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【0029】
先ず、本発明の一実施の形態におけるボールバルブの構成について説明する。
【0030】
図1に示す本実施の形態のボールバルブにおいて、ハウジング12はボディー12aとボディーキャップ12bとで構成されており、内部に円筒状の流路13が形成された構造となっている。なお、ハウジングの構造は、流路方向(横方向)に分割されて、ボールが挿入されるサイドエントリ形や、縦方向に分割されてボールが挿入されるトップエントリ形などの構造が適宜選択される。
【0031】
ハウジング12の内部には、流路13と連通する円筒状の貫通孔14aが形成されたボール14が流路13上に配置されている。このボール14は流路13と直交する方向に配置された一対のステム15a,15bに支持されており、ステム15a,15bを回動支点として貫通孔14aにより流路13を開閉する方向に回動自在に装着されている。ここで、ボール14は金属製または樹脂製であり、金属製の場合には、たとえばステンレス鋼、炭素鋼、ダクタイル鉄、鉄、青銅、黄銅、あるいはこれらの金属からなる芯体をステライトやメッキによって表面処理されたものが、樹脂製の場合には、たとえばフッ素樹脂やナイロン樹脂やプラスチック、あるは金属の芯体をそれらで被ったものなどが用いられる。
【0032】
なお、ステム15a,15bの周辺には、ハウジング12とボール14とで囲まれた空間であるキャビティ16が形成されている。
【0033】
図2に示すように、流路13とキャビティ16との間をシール部S1でシールして、流体が流路13からキャビティ16へ漏出するのを防止するため、環状のシートリング17が、ボール14の外周面に圧接していて、これらはボール14における流体の流入側と流出側(ボディー12aとボディーキャップ12b側)とに設けられている。したがって、ボール14はこのシートリング17と摺動しながら回動する。
【0034】
なお、シートリング17の材料には、PCTFF、PTFE、変性PTFE(PFA+PTFE)、充填材入りPTFE、ポリエーテル系、ナイロン系などの樹脂を適用することができる。つまり、シートリング17は、フッ素、ナイロン、エーテルなどを含む樹脂材料により構成することができる。
【0035】
ここで、PCTFFは、低温での寸法安定性が良く、機械的強度が高いことから、主に超低温での使用に適している。また、PTFEは、汎用性があり摩耗に強く、またシートの磨耗などによって発生する、着色した異物を嫌う超純水、薬品、ケミカルの使用に適している。変性PTFE(PFA+PTFE)は、PTFEと同じ用途で、より耐クリープ性や高温(最高230℃程度)での使用が求められる場合に適しており、低温についても−100℃程度までは使用できる。充填材入りPTFEは、流体との耐食性などによって充填材にはグラスファイバやカーボンファイバなどが使い分けられ、強度および耐磨耗性に優れており、−100〜230℃程度の使用に適している。ポリエーテル系樹脂は、高圧・高温(最高270℃程度)での使用に適しており、強度・高温特性に優れている。そして、ナイロン系樹脂は、主に高圧での使用に適している。
【0036】
但し、シートリング17の材料はこれらの限定されるものではなく、これら以外の様々な材料(ゴム製品単体を除く様々な樹脂や金属など)を用いることができる。
【0037】
シートリング17は環状のシートリテーナ(シート保持手段)20に保持されている。すなわち、シートリテーナ20には環状のシートリング保持溝20aが流路13の軸方向に開口して形成されており、シートリング17はこのシートリング保持溝20aに嵌め込まれてシートリテーナ20に保持されている。
【0038】
さらに、シートリテーナ20には環状のリテーナリング保持溝20dがシートリング保持溝20aの外径側直交方向に形成され、リテーナリング19が嵌め込まれている。すなわち、リテーナリング保持溝20dにはリテーナリング19の外径側が嵌め込まれ、シートリング17はリテーナリング19の内径側に当接している。これにより、シートリング17のシートリング保持溝20aからの脱落が阻止されている。なお、リテーナリング19の詳細については後述する。
【0039】
シートリテーナ20は流路13の軸方向に変位可能に設けられており、シートリテーナ20のボール14と反対側には、複数のスプリング保持穴20bが形成されている。このスプリング保持穴20bには、ハウジング12に圧接してシートリテーナ20をボール14の方向に変位させるための付勢力を与えるスプリング21が装着されている。これにより、特に低圧時において、スプリング21により積極的にシートリテーナ20がボール14側へ移動され、シートリング17がボール14へ圧接される。なお、スプリング21はコイルばねを用いているが、板ばねや皿ばね等を用いてもよい。
【0040】
また、シートリテーナ20の外周には、環状のシール保持溝20cが形成されている。そして、シール保持溝20cには、ハウジング12とシートリテーナ20との間をシールするOリング18が嵌め込まれている。これにより、流体圧がシートリテーナ20とハウジング12との間からキャビティ16へ漏れるのが防止されるとともに、シートリテーナ20に対してボール14側へ変位する力が付与される。
【0041】
そして、本願の第1の発明に係る実施の形態では、図3に詳しく示すように、シートリング保持溝20aの底面20a−1およびシートリング17の底面17−1は外径になるほどボール14側に傾斜しており、シートリング17の底面17−1の方が大きくボール14側に傾斜している。具体的には、本実施の形態において、シートリング保持溝20aの底面20a−1の傾斜角θ1が50°、シートリング17の底面17−1の傾斜角θ2が45°となっている。但し、傾斜角θ1,θ2は自由に設定することができ、本実施の形態に示す角度に限定されるものではない。
【0042】
そして、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで、これらの底面20a−1,17−1が相互に接してシートリテーナ20とシートリング17との間をシールするシール部S2が形成されている。
【0043】
また、このようなシートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1との構造により、シール部S2の外径側には、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31が形成され、内径側には、シートリング保持溝20aの径方向断面の鋭角部分とシートリング17の径方向断面の鋭角部分とで囲まれた第2の空間32が形成されている。
【0044】
シートリング17の外周面には、第1の空間31とキャビティ16とを連通する連通溝17aが所定間隔をあけて複数形成されており、第1の空間31はキャビティ16と同圧になっている。但し、連通溝17aは複数ではなく、1つだけでもよい。
【0045】
なお、シートリング保持溝20aの底面20a−1およびシートリング17の底面17−1は外径になるほどボール14側に傾斜しており、シートリング17の底面17−1の傾斜角の方が大きくなっていることから、第1の空間31は、径方向断面がシール部S2を頂点とした略三角形の形状となっている。
【0046】
また、シートリング保持溝20aの鋭角部分の形状とシートリング17の鋭角部分の形状とを同じにして、第2の空間32をなくすようにしてもよい。但し、本実施の形態のように第2の空間32を形成すれば、当該空間がない場合に比べて環状のシール部S2の幅が狭くなる。これにより、シートリング17がボール14に押されて変形してシール部S2の位置が奥へ移動した場合でも、シール部S2の面積が増加する余地が少なくなり、つまりシール部S2の断面が幅広の平面となりにくくなり、シール面圧の低下が防止されるので望ましい。
【0047】
ここで、本願の第2の発明に係る実施の形態では、シートリテーナ20に形成された環状のリテーナリング保持溝20dに嵌め込まれたリテーナリング19は、図4に示すように、C字形に形成されて隙間部19aを備えている。このリテーナリング19は金属製であり、嵌め込み時に縮径しても復元可能な可撓性を有している。そして、リテーナリング保持溝20dに嵌め込まれた状態では、この隙間部19aに嵌め込まれるようにしてボルト(スペーサ)25がシートリテーナ20に取り付けられている。すなわち、リテーナリング保持溝20dにはボルト取付穴(図示せず)が形成されており、組み付け時には、隙間部19aの間隔を狭めるようにリテーナリング19を縮径させてリテーナリング保持溝20dに嵌め込む。そして、隙間部19aがボルト取付穴の位置になるようにして、当該ボルト取付穴を露出させる。その後、ボルト25をボルト取付穴に取り付けると、隙間部19aが塞がれてリテーナリング19の縮径および回転が阻止されて脱落することがなく(図5参照)、これにより、リテーナリング19がリテーナリング保持溝20dに固定される。
【0048】
なお、本実施の形態では、スペーサとしてボルト25が用いられているが、リテーナリング19の隙間部19aを塞ぐことができればよく、例えばワンタッチで嵌め込むことが可能なピンなどを用いることもできる。
【0049】
次に、本発明の一実施の形態におけるボールバルブの作用を説明する。
【0050】
上記構造を有するボールバルブにおいて、ステム15a,15bによりボール14を回動して貫通孔14aを流路13と非連通として、流路13を閉塞する。
【0051】
このとき、本願の第1の発明に係る実施の形態において、ボールバルブに流入側の流体圧がかかっていない状態、あるいは流入側の圧力がキャビティ16内の圧力と同圧となっている状態では、図2に示すように、スプリング21の弾発力で発生した荷重によってシートリテーナ20がボール14に向けて軸方向に押圧され、これによりシートリング17のシール部S1がボール14に圧接される。また、流入側の流体圧がかかっている状態では、シートリテーナ20はさらに流体圧による荷重をOリング18のシール外径とシール部S1とのシール径との間に受け、シートリング17のシール部S1がより強くボール14に圧接される。
【0052】
このとき、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1とで形成されるシール部S2により、シートリテーナ20とシートリング17との間がシールされる。
【0053】
ここで、流体圧によりシートリング17をキャビティ16側に押し出す力はシール部S2のシール径とシール部S1のシール径の差に依存し、シール径の差が小さくなればなるほど、押し出す力は小さくなる。そして、本実施の形態では、シール部S2の外径側には、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなる第1の空間31が形成されているので、必然的にシール部S2はシートリング17の内径に近い側となり、シートリング17とボール14とのシール部S1とのシール径の差が小さくなる。これにより、シートリング17をキャビティ16側に押し出す力が抑制されるので、シートリング17の飛び出しやこれに伴う損傷が未然に防止される。
【0054】
また、このようにシール部S2の外径側には、図3に示すように、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなり、内径になるほど隙間が狭くなる第1の空間31が形成されてシートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触となり、さらに、シートリング17はシール部S1からの反力Fを受け、この反力Fはボール14のシール部S1を通る接線の垂直方向に働く。
【0055】
そこで、反力Fはシール部S2方向である軸方向分力Fα、およびシートリング17の外周とシートリテーナ20との接触部方向である径方向分力Fβとに分けて考える。シートリング17に加わった軸方向分力Fαについては、シートリング保持溝20aの底面20a−1の傾斜によるくさび作用によりシートリング17は軸方向への移動が規制されるとともにシール部S2のシール面圧が上がる。
【0056】
径方向分力Fβについては、シートリング17を外周方向に変形させるように作用するが、シール部S1から軸方向に遠い底面17−1の近傍はシール部S2の押圧によって外周方向への変形が規制され、シール部S2の面圧が上がる。
【0057】
さらに、高圧になるほどシートリング17とボール14とが接触する加重(つまり、シール部S1の面圧)が増加し、シートリング17はより外周方向に変形しようとする。しかし、外周方向の変形は前述のシール部S2での規制に加え、シートリテーナ20により阻止されるため、シートリング17はシール部S2を支点として第1の空間31を埋めるようにシートリング保持溝20aの底面20a−1側に倒れる。
【0058】
ここで、第1の空間31はシートリング17の変形量以上に確保されているので、シートリング17の押圧変形は第1の空間31内に吸収されるとともに、シートリング保持溝20aの底面20a−1とシートリング17の底面17−1との間に常に一定にクリアランスが保たれることになる。
【0059】
したがって、シール部S2の幅が拡大して面圧を低下させたり、シール部S2が外周方向に移動することによりシール部S1とのシール径の差が拡大するようなことがなく、常に一定のシール部S2が保たれ、圧力や温度に関わらず確実に面圧が加わることになり、安定したシール性が得られる。
【0060】
なお、このようにシートリング保持溝20aの底面20a−1が傾斜していなければ、つまり傾斜角θ1が90°であれば、上述したくさび作用は働かないので、シートリング17の底面17−1近傍の径方向への移動が規制されなくなり、シール部S2のシール面圧は上がらない。つまり、安定したシール性が得られない。
【0061】
なお、第2の空間32はシートリング保持溝20aの内径に接し、シール部S2は移動しないので、この第2の空間32が大きくなることはない。よって、シートリング17を押し出す力は軸方向に働き、飛び出しやすいボール14との接線垂直方向への力は防がれている。
【0062】
ここで、前述のように、シートリング17の外周面には連通溝17aが形成されて第1の空間31はキャビティ16と同圧になっているので、第1の空間31に圧力が入ることによるシートリング17をシートリング保持溝20aから押し出す力は発生しない。
【0063】
さて、ボールバルブを閉から開にする過程で、シートリング17とボール14の間に発生する負圧や第2の空間32に溜まった圧力により、瞬間的にシートリング17をキャビティ16へ押し出す力が働く。このとき、本実施の形態では、シートリング17が環状のリテーナリング19に当接することによって飛び出しが防止されている。
【0064】
そして、本願の第2の発明に係る実施の形態において、このリテーナリング19は、ボルト25により隙間部19aが塞がれてリテーナリング19の縮径および回転が阻止された状態でリテーナリング保持溝20dに嵌め込まれているので、図6に示すように、ボール14との間には十分なクリアランスLが確保される。これに対して、図8および図9に示すように、リテーナリング19の上からボルト25で固定した場合には、ボルト25の先端が突出するために、ボール14との間には必要なクリアランスLが確保されにくくなる。したがって、本願では、ボルト25とボール14との干渉、およびこれに伴うシール性能の悪化や作動不良のおそれはない。よって、必要なクリアランスを得るためにリテーナリングおよびシートリテーナの寸法を外径側に大きくしなくてもよい。
【0065】
また、リテーナリングの上からボルト固定した場合には、ボルトを環状に多数配置することにより、シートリング17が飛び出そうとする力に対して、それを保持する強度が必要となるが、本実施の形態では、リテーナリング19をリテーナリング保持溝20dに嵌め込んでおり、さらに、上述のようにシール部S1からの反力によってシール部S2に積極的に面圧が加わるので、シートリング17に対する初期の押圧力が必要なく、ボルトを多数配置する必要もないため、部品点数が少なくなって組立工数が増加することがない。
【0066】
さらに、リテーナリングの上からボルト固定した場合には、ボルトには所定の強度が必要になるのみならず、振動やリテーナリングの動きによってボルトが緩むおそれがあるが、本実施の形態では、ボルト25をリテーナリング19の隙間部19aに嵌め込んでいるので、ボルト25は両側からのせん断荷重しか受けないため、ボルト25の引っ張り強度不足や緩みがなくなる。そして、せん断荷重はリテーナリング19が回転しようとする力のみであるので、ボルト25をせん断するまでの大きな応力は加わることがないので、取付強度が向上するとともに、ボール14とシートリテーナ20とをシールするシートリング19の保持機能としてのリテーナリング19の信頼性が向上する。
【0067】
なお、図7に示すように、リテーナリング19を複数に分割(ここでは3分割)して形成し、隙間部19aにボルト25を取り付けるようにしてもよい。このような構造にすれば、同一の円弧状部品を複数用いればよいことから、材料費が安くなり、しかも可撓性が低くてもよいことから、剛性の高いリングが容易に組み立て・分解できるようになる。
【0068】
なお、前述のように、ボルト25以外であっても、リテーナリング19の隙間部19aを塞ぐことができる部材であればよい。しかしながら、ボルト25を用いれば、再利用が可能であり、しかも取り付けや取り外しが容易でメンテナンス性に優れる。
【0069】
以上の説明において、第1の空間31は、外径になるほどボール14側に傾斜しながら隙間が広くなっているが(図3参照)、シートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触となっていれば足り、外径になるほど隙間が広くなっていなくてもよい。つまり、図10に示すように、シートリング17の底面17−1が凹状に湾曲した断面形状であっても、あるいは段差形状であっても、その他種々の形状であっても、シートリング保持溝20aの底面20a−1の外周端とシートリング17の底面17−1の外周端とが非接触であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本実施の形態では、本発明をトラニオン型のボールバルブに適用した場合が示されているが、フローティング型など、種々の構造のボールバルブに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施の形態におけるボールバルブを示す断面図である。
【図2】図1のボールバルブの要部を示す断面図である。
【図3】図1のボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1のボールバルブに用いられたリテーナリングを示す説明図である。
【図5】図4のリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図である。
【図6】図4のリテーナリングの取付構造を示す断面図である。
【図7】変形例としてのリテーナリングを示す説明図である。
【図8】本発明者が検討対象としたリテーナリングとボルトとの関係を示す説明図である。
【図9】本発明者が検討対象としたリテーナリングの取付構造を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態におけるボールバルブの要部を拡大して示す断面図である。
【図11】特許文献1に記載のボールバルブを示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
12 ハウジング
12a ボディー
12b ボディーキャップ
13 流路
14 ボール
14a 貫通孔
15a,15b ステム
16 キャビティ
17 シートリング
17−1 底面
17a 連通溝
18 リング
19 リテーナリング
19a 隙間部
20 シートリテーナ(シート保持手段)
20a シートリング保持溝
20a−1 底面
20b スプリング保持穴
20c シール保持溝
20d リテーナリング保持溝
21 スプリング
25 ボルト(スペーサ)
31 第1の空間
32 第2の空間
S1 シール部
S2 シール部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、
前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、
外径になるほど前記ボール側に傾斜する底面を備えた環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段とを有し、
前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とで、これらの底面同士が接して前記シート保持手段と前記シートリングとの間をシールするシール部と、当該シール部の外径側に位置して前記シートリング保持溝の底面の外周端と前記シートリングの底面の外周端とが非接触となった第1の空間とが形成され、
前記シール部を支点にして前記第1の空間内に前記シートリングの押圧変形が吸収される、
ことを特徴とするボールバルブ。
【請求項2】
前記シートリングの外周面には、前記第1の空間とキャビティとを連通する連通溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載のボールバルブ。
【請求項3】
前記シール部の内径側には、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とにより第2の空間が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のボールバルブ。
【請求項4】
ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、
前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、
環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段と、
C字形または複数に分割形成されて隙間部を備え、前記シートリングが当接して当該シートリングの前記シートリング保持溝からの脱落を阻止するリテーナリングと、
前記シート保持手段に形成され、前記リテーナリングの外径側が嵌め込まれて当該リテーナリングを保持するリテーナリング保持溝と、
前記リテーナリングの前記隙間部に嵌め込まれるようにして前記シート保持手段に取り付けられ、前記リテーナリングの縮径および回転を阻止するスペーサと
を有することを特徴とするボールバルブ。
【請求項1】
ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、
前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、
外径になるほど前記ボール側に傾斜する底面を備えた環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段とを有し、
前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とで、これらの底面同士が接して前記シート保持手段と前記シートリングとの間をシールするシール部と、当該シール部の外径側に位置して前記シートリング保持溝の底面の外周端と前記シートリングの底面の外周端とが非接触となった第1の空間とが形成され、
前記シール部を支点にして前記第1の空間内に前記シートリングの押圧変形が吸収される、
ことを特徴とするボールバルブ。
【請求項2】
前記シートリングの外周面には、前記第1の空間とキャビティとを連通する連通溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載のボールバルブ。
【請求項3】
前記シール部の内径側には、前記シートリング保持溝の底面と前記シートリングの底面とにより第2の空間が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のボールバルブ。
【請求項4】
ハウジング内に形成された流路上に回動自在に配置され、前記流路と連通する貫通孔が形成されて当該貫通孔により前記流路を開閉するボールと、
前記ボールにおける流体の少なくとも流入側または流出側に設けられ、前記ボールの外周面に圧接するシートリングと、
環状のシートリング保持溝が形成され、前記シートリングを前記シートリング保持溝に嵌め込んでこれを保持するシート保持手段と、
C字形または複数に分割形成されて隙間部を備え、前記シートリングが当接して当該シートリングの前記シートリング保持溝からの脱落を阻止するリテーナリングと、
前記シート保持手段に形成され、前記リテーナリングの外径側が嵌め込まれて当該リテーナリングを保持するリテーナリング保持溝と、
前記リテーナリングの前記隙間部に嵌め込まれるようにして前記シート保持手段に取り付けられ、前記リテーナリングの縮径および回転を阻止するスペーサと
を有することを特徴とするボールバルブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−232019(P2007−232019A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52655(P2006−52655)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】
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