説明

ボールペンレフィル

【課題】本発明の課題は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座などのチップ本体が摩耗し難く、筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定しているボールペンレフィルを提供することである。
【解決手段】本発明は、インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも芳香環を有する酸性化合物を含有し、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンレフィルに関し、さらに詳細としては、インキ収容筒の先端部に、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着してなるボールペンレフィルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインキ収容筒の先端部に、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着してなるボールペンレフィルはよく知られて、特開2001−301378号公報「ボールペンチップ」等に開示されている。尚、ステンレス鋼材は、耐摩耗性が良好であるため、ボールペンチップとして好適に用いられている材料である。
【0003】
しかし、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを用いたボールペンレフィルであっても、筆記によるボールの回転によって、ボール座等のチップ本体が摩耗する問題があった。ボール座が摩耗すると、チップ内でのボールの軸方向での移動量、いわゆるクリアランスが大きくなる。
【0004】
前述のように、筆記によるボールの回転によってチップ本体の摩耗が進行して、クリアランスが大きくなると、インキ垂れ下がり、チップ内が乾燥し易くなることにより書き出し性の悪化等の様々な問題が生じる。
【0005】
こうした摩耗を抑制するには、特開平6−248217号公報「ボールペン用インキ組成物」、特開平9−151354号公報「油性ボールペン用インキ組成物」等に開示されているように、インキ収容筒に充填するボールペン用インキに、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤等、様々な界面活性剤を用いることで、潤滑性を高め、ボールとチップ本体との回転抵抗を低減することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】「特開2001−301378号公報」
【特許文献2】「特開平6−248217号公報」
【特許文献3】「特開平9−151354号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2、3のような各種の界面活性剤を用いた場合、ある程度書き味を向上することが可能であるが、ボール座及びチップの摩耗を抑制する効果としては、十分満足できなかった。
【0008】
また、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sのインキを用いた場合には、摩耗によって、前述した垂れ下がりのみならず、インキ消費量も大きく増加してしまう問題がある。インキ消費量が増大すると、筆跡の耐擦過性等が劣化して紙面を汚すなどの、あらたな課題が発生する。
【0009】
本発明の目的は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座などのチップ本体が摩耗し難く、筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定しているボールペンレフィルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも芳香環を有する酸性化合物を含有し、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80を満足することを特徴とするボールペンレフィル。
2.前記ボールの軸方向の移動量が、3〜15μmであることを特徴とする第1項に記載のボールペンレフィル。
3.前記芳香環を有する酸性化合物の分子量が、200以上であることを特徴とする第1項または第2項に記載のボールペンレフィル。
4.前記芳香環を有する酸性化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
5.前記芳香環を有する酸性化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
6.前記油性ボールペン用インキのpHが4〜10であることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保ち、ボール座などのチップ本体が摩耗し難く、筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量が安定しているボールペンレフィルを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明におけるボールペンレフィルの縦断面図である。
【図2】図1における、一部省略した要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の特徴は、インキ収容筒の先端部に、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを具備してなるボールペンレフィルにおいて、油性ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有することである。
【0014】
ステンレス鋼材は、真鍮等の銅合金に比べ耐摩耗性が良好であるが、ボールペン用インキの潤滑性を高め、さらにボール座などのチップ本体摩耗を低減することが重要となる。そのため、本発明では、油性ボールペン用インキに芳香環を有する酸性化合物を含有することが重要である。
【0015】
本発明に用いる芳香環を有する酸性化合物とは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などを有する酸性化合物である。本発明者は、潤滑性について鋭意研究した結果、油性ボールペン用インキ組成物中に芳香環を有する酸性化合物を含有することで、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗を抑制することが可能となることが解った。これは、芳香環を有する酸性化合物が、金属に吸着し易い潤滑膜を形成することで、ボールとチップ本体間の金属接触を抑制する効果があり、潤滑性を向上して、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗を抑制するものと推測する。さらに、前記芳香環を有する酸性化合物によって形成された潤滑膜は、ステンレス鋼材の表面の酸化皮膜を覆うことで保護し、酸化皮膜の劣化を抑制することで、ボールペンチップの耐食性等、経時安定性をも向上させる効果が得られると推測する。
【0016】
本発明の第2の特徴は、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80とすることである。
【0017】
これは、筆記開始からインキ終了時まで安定した筆記性能を得ることも、ボールペンレフィルの重要な課題であるためである。本発明に用いる油性ボールペン用インキのインキ粘度は、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10〜5000mPa・sと従来の油性ボールペン用インキ、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が約10000〜20000mPa・sよりも低い粘度とし、芳香環を有する酸性化合物を含有することで、さらなる潤滑性を高め、書き味を向上するものである。しかし、低粘度であるが故に、Y1/Y2>1.20では、耐擦過性の劣化及び総筆記距離が短縮し、Y1/Y2<0.80では、筆跡濃度および書き味などの筆記性能が低下するため、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80とし、筆記開始からインキ終了時まで、インキ消費量を前記した範囲に維持することが重要であり、より筆記性能の影響を考慮すれば、1.15≧Y1/Y2≧0.90とすることが好ましい。
【0018】
ところで、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80とするには、チップ本体の摩耗を抑制することが最も重要な要因である。但し、単にチップ本体の摩耗を抑制しただけでは、筆記開始からインキ終了時まで安定した筆記性能を得ることはできない。本願発明は、前述のように、芳香環を有する酸性化合物を含有することで、ボールとチップ本体間の潤滑性を向上してチップ本体の摩耗を抑制し、且つ酸化皮膜の劣化を抑制することで、ボールペンチップの耐食性等、チップ本体内の経時安定性を向上するため、筆記開始からインキ終了時まで、インキの流れをスムーズに維持することで、インキ消費量及び筆記性能を安定することができるものである。
【0019】
尚、本発明の油性ボールペン用インキのインキ粘度は、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、筆跡に滲みやインキ垂れ下がりの影響が出やすく、また、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が5000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向がある。そのため、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度を、10〜5000mPa・sが好ましい。より好ましくは、50〜3、000mPa・sであり、最も好ましくは、100〜1500mPa・sである。
【0020】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの軸方向の移動量が、3μm〜15μmである方が好ましい。3μm未満であると、インキ消費量が少なくなり易いため、筆跡カスレなど筆跡不良の原因となり、15μmを越えると、インキ消費量が安定して供給しづらくなり、1.20≧Y1/Y2≧0.80を満足できなくなる。
【0021】
本発明に用いる芳香環を有する酸性化合物とは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有する酸性化合物であるが、前記芳香環を有する酸性化合物は、ベンゼン環などの芳香環を多数有する方が、潤滑性をより向上し易いため、分子量が200以上のものが好ましい。
【0022】
芳香環を有する酸性化合物の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸などが挙げられる。また、書き味を考慮すれば、金属面への吸着性の高い硫黄系化合物を含む方が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸(R-C H- SO、R;アルキル基)が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルジフェニルオキシドスルホン酸などが挙げられる。
【0023】
芳香環を有する酸性化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られないおそれがあり、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、0.5〜10.0質量%であり、最も好ましくは、2.0〜8.0質量%である。
【0024】
また、こうした芳香環を有する酸性化合物には、陰イオン又は陽イオン界面活性剤などがあるが、界面活性剤は、水溶性の性質を有するものもあり、油性インキ中に溶解しづらい傾向があり、インキ経時安定性に不安が残る。そのため、芳香環を有する酸性化合物を塩基性化合物と中和反応させた造塩体とすることが好ましい。こうして得た造塩体は、イオン結合力が強く、長期間のインキ経時安定性が著しく向上するため好ましい。さらに、潤滑性を考慮すれば、酸性化合物と塩基性化合物それぞれに、芳香環を有する方が好ましく、より好ましくは、芳香環を有する化合物が、硫黄原子を有する官能基(S、 SO、 SO、SOなど)を含むと、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成するため、潤滑性が向上すると考えられるため、好ましい。
【0025】
また、前記造塩体にエチレンオキサイド (CH2CH2O)を有する有機アミンと併用すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、有機アミンとして、エチレンオキサイド(CH2CH2O)を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いる方が好ましい。これ等は、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
ところで、油性ボールペン用インキに、芳香環を有する酸性化合物を含有し、インキ経時安定性やチップ本体の耐食性を保つには、pH4.0〜10.0が好ましく、pH5.0〜9.0とすることが最も好ましい。pH値が3.9以下だと、チップ本体内の金属イオンが溶出し易いため、金属塩析出物が発生し易くなり、pH値が10.1以上だと、着色剤の良好な色調や分散安定性が得られなくなってしまうため、pH値が4.0〜10.0の中間領域とすることで、インキ経時安定性が良好となるとともに、チップ本体の耐食性への影響を低減できる。
【0027】
さらに、前記造塩体の安定性を考慮すれば、pH値が3.9以下の強酸性領域、pH値が10.1以上の強アルカリ領域だと、造塩体のイオン結合が離れやすくなるため、pH4.0〜10.0の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)の方が、経時安定性が良いため最も好ましい。
【0028】
また、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキの測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0029】
本発明に用いる着色剤については、染料、顔料があるが、染料については、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、直接染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等が採用可能である。顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられる。これらの染料および顔料は、2種以上組み合わせて使用することが可能である。特に、顔料は、ボールとチップ本体の間で回転阻害による書き味の劣化の可能性があるため、染料を用いる方が好ましい。
【0030】
油性染料については、具体的には、バリファーストブラック1802、同ブラック1805、同1701、同ブルー1601、同ブルー1621、同レッド1320、同レッド1360、同イエロー1101、同イエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、同RO6G−B、同VPB−B、同VB−B、同MVB−3、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、同バイオレット C−RH、同ブルー GNH、同ブルー C−RH、同レッド C−GH、同レッド C−BH、同イエロー C−GNH、同イエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、同ブルーGLSH−スペシヤル、同レッド533、同オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー510、同イエロー530、S.R.C−BH等が挙げられる。
水性染料については、具体的には、ダイレクトブラック17、同19、同22、同154、同195、アシッドブラック1、同2、同24、ダイレクトエロー4、同26、ダイレクトレッド1、同23、同31、ダイレクトブルー1、同41、同71、同119、ダイレクトオレンジ6等、アシッドブラック1、同2、同24、同26、アシッドオレンジ56、アシッドエロー3、同17、同42、同61、アシッドレッド8、同9、同51、同73、アシッドブルー1、同7、同62、同90、アシッドグリーン3、同9、同16、アシッドバイオレット15、同17、C.I.ベ−シックエロ−1、同2、同21、C.I.ベ−シックオレンジ2、同14、C.I.ベ−シックレッド1、同2、同9、C.I.ベ−シックバイオレット1、同3、同10、C.I.ベ−シックブル−3、同7、同26、ベ−シックグリ−ン4、C.I.ベ−シックブラウン12、C.I.ベ−シックブラック2、メチルバイオレット、ビクトリアブルーFB、マラカイトグリーン、ローダミンのシリーズ等が挙げられる。
【0031】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これらの染料および顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜50.0質量%が好ましい。
【0032】
本発明に用いる溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3―メトキシブタノール、3―メトキシー3―メチルブタノール等のグリコールエーテル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール類、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類等、ボールペン用インキとして一般的に用いられる溶剤が例示でき、これらを1種又は2種以上用いることができる。有機溶剤の含有量は、着色剤の溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、5.0〜50.0質量%が好ましい。
【0033】
また、その他として、着色剤の経時安定性や潤滑性を向上させるために、有機アミンや界面活性剤として、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、脂肪酸等を、顔料分散剤として、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂等を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン等の樹脂や脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油、セルロース誘導体などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水、防錆剤、防菌剤などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0034】
次に図面を参照しながら、本発明のボールペンの実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
図1、図2に示す実施例1のボールペンレフィル1は、インキ収容筒2の先端に、ボール径がφ0.7mmのボール3を回転自在に抱時したボールペンチップ4を装着するとともに、インキ収容筒2内に、インキ配合1の油性ボールペン用インキ11(0.4g)を及びインキ追従体12を直に収容してボールペンレフィル1を得ている。また、ボールペンチップ4内には、ボールの後端に、ボール3をチップ先端縁5aの内壁に常に押圧するコイルスプリング10を配設してある。
【0036】
ボールペンチップ4はボール抱持室6にインキ流通孔7と、放射状に延びたインキ流通溝8を有し、ボール抱持室6の底壁に設けた筆記用ボールと略同形のボール座9に、ボール3を載置し、チップ先端部5のチップ先端縁5aを内側にかしめることにより、ボール3の一部がチップ先端縁5aより突出するように回転自在に抱持している。
【0037】
油性ボールペン用インキは、着色剤として、染料、有機溶剤として、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、芳香環を有する酸性化合物(アルキルベンゼンスルホン酸)と塩基性化合物(ベンゾキソニウム化合物)との造塩体(造塩配合1、分子量600〜700)、有機酸としてオレイン酸、樹脂としてポリビニルピロリドン(PVP K−90:アイエスピー・ジャパン株式会社製)、ケトン樹脂(ハイラック110H:日立化成株式会社製)を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させ、油性ボールペン用インキを得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製40 mm2°ローター)を用いて、20℃の環境下で、剪断速度500sec−1にてインキ粘度を測定したところ、180mPa・sであった。
【0038】
インキ配合1
染料(スピロンブラック−GMH−S) 15.0質量%
染料(バリーファ−スト バイオレット1701) 15.0質量%
溶剤(ベンジルアルコール) 60.7質量%
芳香環を有する酸性化合物と塩基性化合物との造塩体(配合例1で作製したもの) 5.0質量%
安定剤(オレイン酸) 1.0質量%
安定剤(ポリオキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.3質量%
樹脂(ケトン樹脂) 2.0質量%
【0039】
造塩配合例1
まず、ビーカーに水を100g、アルキルベンゼンスルホン酸 Naを30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾオキソニウム化合物19.5gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、造塩体を得た。
【0040】
配合例2〜5
表1に示すように、各成分を変更した以外は、配合例1と同様な方法で配合例2〜5の造塩体を作成した。
【表1】

【0041】
実施例2〜5
表2に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜5の油性ボールペン用インキを得た。表2に測定、評価結果を示す。
【表2】

【0042】
比較例1〜4
表3に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜4の油性ボールペン用インキを得た。表3に測定、評価結果を示す。
【表3】

【0043】
試験及び評価
実施例1〜5及び比較例1〜4で作製した油性ボールペン用インキを、実施例1のボールペンレフィルに充填し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0044】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
滑らかで良好なもの ・・・◎
やや劣るもの ・・・○
重く劣るもの ・・・×
【0045】
耐摩耗試験:荷重200 gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が2μm未満であり、筆記可能なもの ・・・◎
ボール座の摩耗が2μm以上、5μm未満であり、筆記可能なもの ・・・○
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であり、筆記不良になってしまうもの ・・・△
ボール座の摩耗が10μm以上であり、筆記不能になってしまうもの ・・・×
【0046】
インキ消費量試験:温度20℃、湿度65%RTの環境下、荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験を行い、0〜100m(Y1)及び筆記終了前100mのインキ消費量(Y2)を測定した。
1.15≧Y1/Y2≧0.90のもの ・・・◎
1.20≧Y1/Y2>1.15、または、0.90>Y1/Y20≧0.80のもの ・・・○
Y1/Y2>1.20、またはY1/Y2<0.80のもの ・・・×
【0047】
実施例1〜5では、書き味、耐摩耗試験、インキ消費量試験ともに良好であり、筆記性能が良好であった。
【0048】
比較例1では、芳香環を持たない化合物を用いているため、書き味が重く、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどかった。また、インキ消費量試験において、インキ消費量の減少が見られ、筆跡が薄くなりカスレが発生した。
【0049】
比較例2では、芳香環を持たない化合物を用いているため、書き味が劣り、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどかった。また、インキ消費量試験において、インキ消費量の増加が見られ、耐擦過性などの筆記性能が悪かった。
【0050】
比較例3では、インキ粘度が高すぎて、書き味が重く、耐摩耗試験において、ボール座の摩耗が劣ってしまった。
【0051】
比較例4では、芳香環を持たない化合物であるシリコン系界面活性剤を用いため、書き味が重く、耐摩耗試験において、すべてボール座の摩耗がひどく、筆記不良または筆記不能になった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては、インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも芳香環を有する酸性化合物を含有し、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80を満足することを特徴とするボールペンレフィルを用いることで、書き味が良好で、かつ、潤滑性を保つ良好な油性ボールペン用インキ組成物を提供することができる。そのため、キャップ式、ノック式等、ボールペンとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ボールペンレフィル
2 インキ収容筒
3 ボール
4 ボールペンチップ
5 チップ先端部
5a チップ先端縁
6 ボール抱持室
7 インキ流通孔
8 放射状溝
9 ボール座
10 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持した、ステンレス鋼材からなるボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒の内部に少なくとも芳香環を有する酸性化合物を含有し、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sである油性ボールペン用インキを直接、収容してなるボールペンレフィルであって、0〜100m時点のインキ消費量Y1mgと、インキ終了前、100mのインキ消費量Y2mgとしたとき、1.20≧Y1/Y2≧0.80を満足することを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項2】
前記ボールの軸方向の移動量が、3〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記芳香環を有する酸性化合物の分子量が、200以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
前記芳香環を有する酸性化合物の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項5】
前記芳香環を有する酸性化合物が、アルキルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項6】
前記油性ボールペン用インキのpHが4〜10であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−86374(P2012−86374A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232277(P2010−232277)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】