説明

ポリアセタール樹脂成形体の製造方法

【課題】ポリアセタール樹脂の押出加工時及び成形加工時の溶融安定性を改善した、機械的強度の低下しない、金型への付着物の発生しない、シルバーストリークやボイドなどの成形不良が発生しない熱分解性の改善されたポリアセタール樹脂成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱溶融して押出加工し、成形加工過程での熱分解を抑制する。該不活性ガスの導入方法は、ポリアセタール樹脂が可塑化装置に供給される際に、同伴空気を不活性ガスに置換する方法であればその形式にとらわれない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂の分解を抑制した、熱安定性に優れたポリアセタール樹脂成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的性質、耐疲労性、耐摩擦・摩耗性、耐薬品性及び成形性に優れているため、自動車部品、電気・電子機器部品、その他の精密機械部品、建材・配管部材、生活・化粧用部品、医用部品などの分野において広く利用されている。しかし、用途の拡大及び多様化に伴って、より優れた品質を有するポリアセタール樹脂が求められている。
【0003】
ポリアセタール樹脂に要求される特性としては、押出又は成形工程などの加工工程における機械的強度が低下しないこと、金型への付着物(モールドデポジット)が発生しないこと、長期加熱条件下(ヒートエージング)における機械的物性が低下しないこと、成形品のシルバーストリークやボイドなどの成形不良が生じないことなどが挙げられる。これらの強度や物性の低下、及び成形不良をもたらす重要因子の1つとして、加熱時のポリマーの分解が挙げられる。特に、ポリアセタール樹脂は、その化学構造から本質的に、加熱酸化雰囲気下、酸性やアルカリ性条件下では容易に分解されやすい。そのため、ポリアセタール樹脂の本質的な課題として、熱安定性が高く、成形加工過程での熱分解を抑制することが挙げられる。
実用的には安定剤(酸化防止剤、その他の安定剤など)の添加が必須とされている。
【0004】
しかし、安定剤を配合しても、ポリアセタール樹脂の分解を完全に抑制することは困難であり、実際には組成物を調製するための押出や成形工程での溶融加工の際、押出機や成形機のシリンダー内で熱や酸素の作用を受け、主鎖の分解が生じる。
【0005】
米国特許第3152101号公報(特許文献1)には、ポリアセタールコポリマーとジカルボン酸ジヒドラジド(炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸ジヒドラジドなど)とを含む組成物が開示されている。しかし、このような脂肪族カルボン酸ヒドラジドを用いると、ある程度は、熱安定性が向上し、ホルムアルデヒドの発生を抑制できるものの、成形性が低く、モールドデポジットが発生したり、成形品から脂肪族カルボン酸ヒドラジドの染み出しが発生するという問題が有った。
【特許文献1】米国特許第3152101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、ポリアセタール樹脂の押出加工時及び成形加工時の溶融安定性を改善した、ポリアセタール樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、前記課題を達成するため、ポリアセタール樹脂の加工方法に関し検討を行なった結果、ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱溶融し、押出加工すると、成形加工過程での熱分解を抑制出来ることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ポリアセタール樹脂の押出加工時及び成形加工時の溶融安定性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱溶融し、押出加工するものであるが、該不活性ガスの導入方法は、ポリアセタール樹脂が可塑化装置に供給される際に、同伴する空気を不活性ガスに置換する方法であれば形式にはとらわれない。代表的な例を図1に示す。材料ホッパー(1)に供給された樹脂はスクリューの回転に伴い加熱筒内に導入され、加熱される。その際、不活性ガス供給口(a)〜(c)の少なくとも1箇所以上の供給口から、不活性ガスを材料ホッパーに供給することにより、加熱筒(3)に流入するペレットに同伴する空気中の酸素を排除する事が出来る。不活性ガス供給口(a)は、可塑化直前の材料ホッパー下部から不活性ガスを導入する方法である。不活性ガス供給口(b)は、材料ホッパー全体を不活性ガスで充填する方法であり、材料供給口を兼用することも出来る。即ち、材料を不活性ガスと共に材料ホッパーに供給することも可能である。不活性ガス供給口(c)は、スクリュー後部から不活性ガスを導入する方法であり、不活性ガスが材料ホッパーに流入しやすいように、スクリュー後端部は密閉構造とする必要がある。また、どのような不活性ガス供給口を用いた場合でも、材料ホッパー内が、完全密閉構造にならないように材料ホッパー上部にガス逃げ部を設けることが必要である。場合によっては、不活性ガスの供給および排出側に、材料ホッパー内の圧力を微加圧状態にコントロールする設備を設けることも有利な方法である。
【0010】
不活性ガスとしては、窒素ガスを用いることが経済的に好ましい。もちろん、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いることも出来る。
【0011】
不活性ガスとして用いられる窒素ガス中の酸素濃度は、100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm以下、更に好ましくは5ppm以下である。窒素ガス供給源は、一般市販の窒素ガスボンベ、工業的に入手できる工業用窒素、更には分離膜方式もしくはPSA方式の窒素ガス発生装置等が上げられる。場合によっては、材料ホッパーから流出する不活性ガスから、酸素を除去して再利用することも可能である。
【0012】
不活性ガスの流量は、少なすぎると酸素除去効果が小さく、多すぎると非経済的である。成形機もしくは押出機のスクリュー径、スクリュー回転数、材料の供給速度、不活性ガスの供給方式にも拠るが、0.001〜1000L/minの範囲で供給することが好ましい。より好ましくは、0.01〜100L/minである。さらに好ましくは0.1〜10L/minである。
【0013】
本発明におけるポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(−OCH2−)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、実質的にオキシメチレン単位の繰返しのみからなるポリアセタールホモポリマー又はポリオキシメチレン、オキシメチレン単位以外に、他のコモノマー単位を少なくとも一種含有するポリアセタールコポリマーなどが代表的な樹脂である。さらに、ポリアセタール樹脂には、慣用のポリアセタール樹脂、例えば、分岐形成成分や架橋形成成分を共重合することにより分岐構造や架橋構造が導入された共重合体、更には、オキシメチレン基の繰返しを構成単位として有するブロック共重合体やグラフト共重合体なども含まれる。これらのポリアセタール樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0014】
本発明では、ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン単位を有するポリアセタール樹脂であれば特に限定されないが、特に、熱安定性に劣る下記一般式(1)で表されるオキシアルキレン有する他のコモノマー単位が、0.3〜5.0重量%であるポリアセタールコポリマー対して効果的である。
【化1】

(式中、R0,R0‘ は各々、水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、フェニル基またはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す。)
【0015】
本発明の製造方法により、高強度、高弾性率のポリアセタール樹脂繊維を製造することができる。例えば、ポリアセタール樹脂を溶融紡糸して、ポリアセタール樹脂を製造するにあたり、ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱溶融し、溶融紡糸する。
【0016】
より詳細に説明すると、ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下、190〜240℃で溶融紡糸してポリアセタール樹脂繊維を製造するにあたり、溶融紡糸装置の吐出ノズルから吐出される繊維状物をノズル直下に設置した加熱筒にて室温〜300℃の雰囲気中を通過させ、空気中で冷却固化しながら引取ることにより製造する。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中で示された評価試験は、以下の方法で行った。
【0018】
〈実施例1〜3、比較例1,2〉
二つの円が一部重なった内断面を有し、内断面の長径が20cmであり、周囲にジャケットを有する、長いケース内に1対のシャフトを備え、それぞれのシャフトには互いにかみ合う擬三角形板が多数はめ込まれ、擬三角形板の先端でケース内面および相手の擬三角形板の表面をクリーニングできる連続混合機を重合装置として2台、更には、シャフトには互いにかみ合う擬三角形板の代わりにスクリュー様の羽根が多数はめ込まれた構造を有し、供給口部分から停止剤溶液を注入し、連続的に重合体と混合せしめる停止剤混合機を直列に接続したものを使用し、オキシメチレン共重合体の製造を実施した。第1段目の重合機の入口に、80kg/hr(889kmol/hr)のトリオキサンおよび表1に示した量の1,3−ジオキソランと、触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートのベンゼン溶液を用い、モノマー合計量に対して三フッ化ホウ素として20ppmになるように連続的に供給した。また分子量調節剤としてメチラールを、極限粘度1.1〜1.5dl/gに調節するのに必要な量を連続的に供給した。ベンゼンの合計使用量はトリオキサンに対して1重量%以下であった。また、停止剤混合機の入口より、使用した触媒量の2倍モルのトリフェニルホスフィンをベンゼン溶液で連続的に供給して重合を停止し、出口より粗共重合体を収得した。なお、連続重合機は、各々シャフト回転数を約40rpmとし、また第1段目ジャケット温度を65℃、第2段目および停止剤混合機ジャケット温度を各々40℃に設定して重合運転を行った。また、得られた粗共重合体100重量部に、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバガイギー社製、商品名イルガノックス245)0.3重量部、メラミン0.025重量部を添加、混合した後、ベント付同方向回転型二軸押出し機に導入し、粗共重合体を溶融させ、二軸攪拌翼型重合機に重合機内での滞在時間が25分となるように連続的に供給し、20kPaの減圧下200℃で減圧脱揮をおこないながら、ポリオキシメチレン共重合体を連続的にギアポンプで抜き出し水中下で冷却してペレット化した。得られたペレットを120℃、24時間熱風乾燥機で乾燥して最終サンプルとした。
このようにして得られたポリアセタール樹脂(共重合体)を、表1に記載の温度条件で、溶融混練装置、ギヤポンプ、吐出ノズル(φ0.6mm径)で構成される紡糸装置を用いて溶融紡糸した。紡糸状況は、目視で確認した。
【0019】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に使用する成形機の代表的な構成図である。
【符号の説明】
【0021】
1材料ホッパー 2スクリュー 3加熱筒 4スクリュー後部と加熱筒後部 5スクリュー駆動装置 6芳香族ー脂肪族ポリカーボネート樹脂供給部 7不活性ガス供給口 8不活性ガス供給口 9不活性ガス供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂を不活性ガス雰囲気下で加熱溶融し、押出加工することを特徴とするポリアセタール樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン繰り返し単位の中に、下記一般式(1)で示されるオキシアルキレン繰り返し単位を含むものである請求項1記載のポリアセタール樹脂成形体の製造方法。
【化1】

(式中、R0,R0‘ は各々、水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、フェニル基またはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す。)
【請求項3】
一般式(1)で示されるオキシアルキレン繰り返し単位の割合が、オキシメチレン繰り返し単位とオキシアルキレン繰り返し単位との合計の繰り返し単位の、0.3〜5.0重量%である請求項1記載のポリアセタール樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−248441(P2009−248441A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98961(P2008−98961)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】